「ある視点」にメキシコのミシェル・フランコ*カンヌ映画祭 ⑥2017年05月08日 12:12

       Las hijas de Abril」で4度目のカンヌに戻ってきました!

 

   

★今年の「ある視点」部門には、メキシコのミシェル・フランコLas hijas de Abrilとアルゼンチンの二人の女性監督セシリア・アタン&バレリア・ピバトが撮ったデビュー作La novia del desierto2作品、さらに追加作品として一縷の望みをかけていたアルゼンチンのサンティアゴ・ミトレの最新作La Cordilleraがノミネートされました。順番通りにご紹介していきます。ミシェル・フランコは当ブログでは何度か登場させています。『ある終焉』英語映画でしたが、今度はスペイン語で撮りました。エンマ・スアレス(『ジュリエッタ』)過去のフランコ映画出演したエルナン・メンドサ(『父の秘密』)モニカ・デル・カルメン(「A los ojos」)若いアナ・バレリアホアンナ・ラレキエンリケ・アリソンを絡ませました。

 

デビュー作Daniel & Ana09)がカンヌ映画祭と併行して開催される「監督週間」、第2『父の秘密』12Después de Lucía)がカンヌ映画祭「ある視点」のグランプリ、そして『ある終焉』15Chronicがコンペティション部門でまさかの脚本賞受賞、そして新作Las hijas de Abril「ある視点」に戻ってきました。このセクションはコンペティションより面白く、ベテランと新人が入り乱れ、今回はどうも賞に絡むのは難しいと予想します。過去の作品紹介、監督フィルモグラフィーに関連する記事は、下記にアップしております。

『父の秘密』の内容紹介記事は、コチラ20131120

『ある終焉』の物語と監督フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ201661518

 

 

    (アナ・バレリアと監督、2016年12月12日、プエルト・バジャルタでの記者会見

      

   

  (左から、エンリケ・アリソン、アナ・バレリア、監督、スアレス、ホアンナ・ラレキ)

      

   Las hijas de Abril(「April's Daughter」)2017

製作:LUCIA FILMS 協賛EFICINE PRODUCCION

監督・脚本・編集・製作者:ミシェル・フランコ

撮影:イヴ・カープ

編集():ホルヘ・ワイズ

録音():マヌエル・ダノイ、フェデリコ・ゴンサレス・ホルダン(ジョルダン)

メイクアップ:ベロニカ・セフード

衣装デザイン:イヴァンリー・ロブレス

サウンドデザイン:アレハンドロ・デ・イカサ

製作者:ロドルフォ・コバ、ダビ・ソナナ、ガブリエル・リプステイン(以上エグゼクティブ)

    ロレンソ・ビガス、モイセス・ソナナ

 

データ:製作国メキシコ、スペイン語、2017年、ドラマ、93分、撮影201617、撮影地プエルト・バジャルタ、グアダラハラ、メキシコシティ。カンヌ映画祭2017「ある視点」正式出品、メキシコ公開予定6月、配給元Videocineビテオシネ

 

キャスト:エンマ・スアレス(アブリル)、アナ・バレリア・べセリル(バレリア)、ホアンナ・ラレキ(クララ)、エルナン・メンドサ(グレゴリオ)、エンリケ・アリソン(マテオ)、イバン・コルテス(ホルヘ)、モニカ・デル・カルメン、他

 

プロット17歳になるバレリアは妊娠7ヵ月、異父姉妹のクララとプエルト・バジャルタで暮らしている。バレリアは離れて暮らしている母親アブリルに長らく会っていない。自分の妊娠を知られたくなかったのだが、クララはこれからの経済的負担や生まれてくる赤ん坊の育児という責任感の重さから母に知らせようと決心する。アブリルは娘たちの力になりたいとやってくるが、どうしてバレリアが母親と距離をおきたかったのか、観客はすぐに理解することになるだろう。

 

 

          (左から、監督、エンマ・スアレス、撮影監督イヴ・カープ)

 

     重要なことは世界に作品を発信して新しい観客に届くよう論議を呼ぶこと

 

★英語題はAbrilを名前でなく4月の意味に解釈したらしくAprilになっていますが、深い意味でもあるのでしょうか。さてフランコ監督への電話インタビュー(Grupo Milenio)によれば、主催者からの一報は「素晴らしいニュースでした。カンヌに行けるのは私にとって重要なことなのです。4回目になりますが、初めてのときに感じたと同じ高揚感と感動を覚えています。本作は私の過去の映画、例えば『ある終焉』や『Daniel & Anaとは違ったエネルギッシュな物語なのです。重要なことは賞を取るだけではなく、世界に向けて作品を発信して、新しい観客に届くよう論議を呼ぶことなのです」とコメントしています。果たして論議を呼ぶことができるでしょうか。映画を作ることが難しくなっている現状で、カンヌに出品できるような高レベルを維持していくのは易しいことではないとも語っており、「多くの監督が1度か2度はカンヌに来られるが、その後戻っては来られない」と、カンヌが狭き門であることを強調しています。メキシコの若手監督が2009年から2017年の間に4回は確かに異例です。先輩監督カルロス・レイガダスをおいて他にはおりません。

2002年『ハポン』カメラドールのスペシャル・メンション、2005年『天国のバトル』正式出品、2007年『静かな光』審査員賞、2012年『闇のあとの光』監督賞受賞。

 

★プロデューサーの一人として、ベネズエラのロレンソ・ビガスが参画していることが話題になっています。デビュー作『彼方から』がベネチア映画祭2015の金獅子賞を受賞した監督。フランコ監督の設立したLUCIA FILMSが同作に出資している。他にもベネズエラのロドルフォ・コバ(「Azul y no tanto rosa」)や『600マイルズ』のガブリエル・リプステインが両方に参画しています。ラテンアメリカ映画もかなり認知度が高くなりましたが、まだ足の引っ張り合いを始めるには早すぎることを肝に銘じて、国境を越えて協力していくことが必要ということでしょうか。イヴ・カープは『ある終焉』の撮影監督も手掛けている。

        

          エンマ・スアレスは2年連続でカンヌ入り

 

エンマ・スアレス1964、マドリード)は、昨年のカンヌにはアルモドバルの『ジュリエッタ』で、今年はメキシコ映画でと、大西洋を挟んでの活躍が目覚ましい。両作とも娘とうまくいかない母親役、最近活躍が目立つのは、アルモドバルのお蔭か、あるいは年齢的に吹っ切れたせいかもしれない。1990年代にフリオ・メデムの『バカス』『赤いリス』、続いて『ティエラ―地―』、今は亡きピラール・ミロの史劇『愛の虜』(映画祭タイトル『愛は奪った)などの初々しさを知っているファンには隔世の感があるでしょうか。『バカス』で思春期の少女に扮したとき、既に20代後半だった。『愛の虜』『ジュリエッタ』でゴヤ賞主演女優賞199720172011年のフォルケ賞主演女優賞をLa mosquiteraで受賞しているほか、受賞歴

エンマ・スアレスのキャリア紹介は、コチラ⇒2015年4月5日

           

       

        (母親役のエンマ・スアレスと娘バレリア役のアナ・バレリア)

 

エルナン・メンドサは、フランコ監督の『父の秘密』で父親役を演じた俳優、テレドラ出演が多い役者ですが、最近53日にノミネーションが発表になったアリエル賞最多の「La 4a compañia」に準主役で出演、13年ぶりに復活したという<Actor de cuadro>賞にノミネートされています。賞の性格がよく分かりませんが、英語では<Table of Actor>とありました。同作はアミル・ガルバン・セルベラAmir Galván Cerveraミッチ・バネッサ・アレオラMitzi Vanessa Arreolaという二人の新人監督作品、作品賞を含む20カテゴリーにノミネートされています。ここでは深入りしませんが刑務所内で結成されたアメリカン・フットボール・チームの名前がタイトルになっています。一般観客向けの面白いストーリー展開なので公開が期待できそうですが、予告編からメンドサを見つけ出すのはなかなか大変です。

 

 

   (背番号79がエルナン・メンドサ、10番が主人公のアドリアン・ラドロン)

 

『ノー・エスケープ 自由への国境』*ホナス:キュアロン2017年04月23日 14:46

            トランプのお蔭で公開されることになりました?

 

★トロント映画祭2015の折に原題Desiertoとしてご紹介していた少し古い映画ですが、トランプの壁のお蔭か公開がアナウンスされました。ホナス・キュアロンの長編第2『ノー・エスケープ自由への国境』、キュアロン一家が総出で製作しました。トロント映画祭「スペシャル・プレゼンテーション」部門で国際批評家連盟賞を受賞したこともあって話題になっていた作品。これから公開されること、スリラーであることなどから、比較的詳しい公式サイトから外れないように注意してアップしたいと思います。なかでもキャスト紹介は主役の二人、ガエル・ガルシア・ベルナルとジェフリー・ディーン・モーガンしか紹介されておりませんので若干フォローしておきます。

 

    

                (オリジナル・ポスター)

 

 『ノー・エスケープ 自由への国境』(原題Desierto英題「Border Sniper」)2015

製作:Esperanto Kino / Itaca Films / CG Cinema

監督・脚本・編集・製作者:ホナス・キュアロン

脚本(共):マテオ・ガルシア

音楽:Woodkid、ヨアン・ルモワンヌ

撮影:ダミアン・ガルシア(『グエロス』)

プロダクション・デザイン:アレハンドロ・ガルシア

衣装デザイン:アンドレア・マヌエル

キャスティング:ベヌス・カナニ、他

メイクアップ・ヘアー:ヒメナ・キュアロン(メイク)、エマ・アンヘリカ・カンチョラ(ヘアー)他

製作者:ニコラス・セリス、サンティアゴ・ガルシア・ガルバン、ダビ・リンデ、ガエル・ガルシア・ベルナル(以上エグゼクティブ)、アルフォンソ・キュアロン、カルロス・キュアロン、アレックス・ガルシア、エイリアン・ハーパー、他多数

 

データ:製作国メキシコ=フランス、言語スペイン語・英語、2015年、スリラー・ドラマ、94分(日本88分)、撮影地バハ・カリフォルニア、映倫G12IMD5.9

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2015国際批評家連盟賞受賞(スペシャル・プレゼンテーション部門)、ロンドン映画祭201510月)正式出品、(仏)ヴィルールバンヌ・イベロアメリカ映画祭20163月)正式出品、イベロアメリカ・フェニックス賞2016録音賞ノミネーション、以下2016年、ロスアンジェルス(6月)、シッチェス(10月)、オースティン(10月)、ダブリン、リマ(8月)、ハバナ(12月)他、各映画祭正式出品、第89回アカデミー賞メキシコ代表作品(落選)

公開:メキシコ20164月、フランス同4月、米国限定同10月、スペイン限定20171月、香港同1月、ハンガリー同4月、日本同5月、他多数

 

キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル(モイセス)、ジェフリー・ディーン・モーガン(サム)、アロンドラ・イダルゴ(アデラ)、ディエゴ・カタニョ(メチャス)、マルコ・ぺレス(ロボ)、ダビ・ペラルタ・アレオラ(ウリセス)、オスカル・フロレス・ゲレーロ(ラミロ)、エリク・バスケス(コヨーテ)、リュー・テンプル(国境パトロール)、他多数

 

プロット:正規の身分証明書を持たない、武器を持たない、ただリュック一つを携えたモイセスを含む15人のグループが、メキシコとアメリカを隔てる砂漠の国境を徒歩で越えようとしていた。それぞれ愛する家族との再会と新しいチャンスを求めていた。しかし、不運なことに越境者を消すことに生きがいを感じている錯乱した人種差別主義の<監視員>サムに発見されてしまった。不毛の砂漠の中で残忍な狩人の餌食となるのか。星条旗をはためかせたトラックに凶暴な犬トラッカーを乗せたサムは、祖国への侵略者モイセスたちを執拗に追い詰めていく。砂漠は武器を持つ者と持たざる者の戦場と化す。生への執着、生き残るための知恵、意志の強さ、人間としての誇りが、ダミアン・ガルシアの映像美、ヨアン・ルモワンヌの音楽をバックに語られる。  (文責:管理人)

 

            監督は何を語りたかったのか?

 

A: 監督が何を語りたかったのかは、観ていただくしかないが、まず製作のきっかけは10年ほど前に異母弟と一緒にアリゾナを旅行したことだったという。アリゾナ州Tucsonツーソン(トゥーソン)にあるメキシコ領事館に招待され、移民たちに起きている悲劇を生の声で聞いたことが契機だったという。

B: アリゾナ州の人口の37パーセントがヒスパニック系、もともと米墨戦争に負けるまでメキシコ領だった。そのアリゾナ体験から脚本が生まれたわけですね。

 

A: しかし、どう物語っていけばいいのか、なかなか構想がまとまらなかった。既に同じテーマでたくさんの映画が撮られていた。例えばキャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』09Sin nombre」)、ディエゴ・ケマダ=ディエスの『金の鳥籠』13La jaula de oro」)など、それぞれ評価が高かった。しかし、それらとは違った切り口で、もっと根深い何かを描きたかった。

B: 辿りついたのが子供の頃から大好きだった1970年代のハリウッド映画のホラーやスリラーだった。セリフを抑えたカー・アクションの不条理な追跡劇、スピルバーグの『激突!』71)や、リチャード・C・サラフィアンの『バニシング・ポイント』71)を帰国するなり見直した。

 

A: それにアンドレイ・コンチャロフスキーの『暴走機関車』85)も挙げていた。人間狩りというショッピングなテーマを描いた、アーヴィング・ピチェルの『猟奇島』32)、コーネル・ワイルドの『裸のジャングル』66)も無視できなかったと語っている。ダイヤローグを抑えるということでは、ロベール・ブレッソンの『抵抗(レジスタンス)~死刑囚の手記より』56)も参考にしたという。

B: 死刑囚の強い意志は、モイセスの強さに重なります。

 

          ネットにあふれた人種差別主義者のコメントに恐怖する!

 

A: 構想から10年、間には父親の『ゼロ・グラビティ』の脚本を共同執筆、撮影でも一緒だったからいろいろ相談に乗ってもらった。同業の有名人を父に持つのは大変です。「父の存在は重く、時には鬱陶しいこともある」と笑っています。

B: しかし「すごく力になってくれるし、叔父のカルロスも同じだが、私にとって大きなマエストロです」とも。アカデミー賞メキシコ代表作品に選ばれると、500以上のコピーを作りアメリカでの上映を可能にした。最初の16作に残れたのも、このコピーの多さのお蔭です。

 

 

(父アルフォンソ・キュアロンと、『ゼロ・グラビティ』が上映されたサンセバスチャン映画祭)

 

A: それでも「この映画の扉を開けてくれたのはガエル、彼が脚本を気に入ってくれたことだ」ときっぱり語っている。彼への信頼は揺るがない。ワールド・プレミアしたトロント映画祭にも駆けつけてくれ、素晴らしいスピーチをしてくれた。

 

  

  (スピーチをする監督とガエル・ガルシア・ベルナル、第40回トロント映画祭にて)

 

B: トロントでの批評家の反応は正直言ってさまざまだったが、それぞれ主観的なものが多かった。しかし、観客の反応は違った。

A: 苦しそうに椅子にしがみついて一心にスクリーンを観ていた。他人事ではないからね。これはリマでもハバナでも同じだった。しかしYouTubeで予告編が見られるようになると、メキシコから押し寄せる移民に反対する人種差別主義者のコメントで飽和状態になった。「何が言いたいんだよ」など大人しいほうで、なかには「みんな殺っちまえ!」とかあり、「楽天家の私でも、父親になっているのでビビりました」と監督はインタビューで語っていた。

B: トランプにとっては、本作は悪夢なんでしょうか。

 

A: しかし数日経つと、そんな雰囲気は下火になり、自然と収束していったという、当然ですよね。アメリカ公開の20161014日は、大統領選挙3週間前で両陣営とも一触即発だったから、何か起こってもおかしくない状況だった。

B: 星条旗、トラック、ライフル銃、獰猛に訓練された犬、国境沿いで起こる祖国を守るための人間狩り、お膳立てはできていた。

  

 

   (星条旗をはためかせて疾走するトラック、御主人に服従するトラッカー)

 

A: 狙撃者サム役にジェフリー・ディーン・モーガンを選んだ理由は、「彼がもっている強力な外観がパーフェクトだったから。映画の中ではサムの動機の多くを語らせなかったが、彼を念頭に置いて脚本を書いた。あのような人格にしたのが適切かどうかは別にしてね。あとはジェフリーがそれを組み立ててくれたんだ」と監督。

B: 完璧に具現化してくれたわけですね。

 

       

            (サバイバル・ゲームでモイセスを見失うサム)

 

A: 公開前なので後は映画館に足を運んでください。付録としてスタッフ&キャスト紹介を付しておきます。

 

 スタッフ紹介

ホナス・キュアロンJonás Cuarónは、19811128日メキシコシティ生れ、監督、脚本家、編集者・製作者。父親アルフォンソは『ゼロ・グラビティ』(13)のオスカー監督、叔父カルロスも監督、脚本家(『ルドandクルシ』)、製作者エイリアン・ハーパーは監督夫人。家族は神が授けるものだから選べません、というわけで「親の七光り」組です。友人は自分で選ぶ、それで主役にガエル・ガルシア・ベルナルを選びました。長編監督デビュー作Año uña(「Year of the Nail」メキシコ=英=西79分、スペイン語・英語)は、グアダラハラ映画祭2007で上映され高評価だった。父親と脚本を共同執筆した『ゼロ・グラビティ』のスピンオフムービーAningaaq13、米、7分、グリーンランド語、英語)、アニンガーはイヌイットの漁師の名前、サンドラ・ブロックが同じライアン・ストーン博士役でボイス出演している。他短編ドキュメンタリーがある。次回作Z(「El Zorro」)が進行中、ガエル・ガルシア・ベルナルが怪傑ゼロに扮します。 

  

               (本作撮影中のキュアロン監督とガエル・ガルシア・ベルナル)

 

   

(次回作Z」のポスターと主役のガエル・ガルシア・ベルナル) 

 

ダミアン・ガルシアは、1979年メキシコシティ生れ、撮影監督。メキシコシティの映画研修センターとバルセロナのESCACで撮影を学ぶ。2003年広告や多数の短編を手掛け、長編デビューは2006年、アンドレス・レオン・ベッカー&ハビエル・ソラルのMás que a nada en el mundo、アリエル賞の撮影賞にノミネートされた。アルフォンソ・ピネダ・ウジョアのViolanchelo08)、フェリペ・カサレスのChicogrande10)では、再びアリエル賞ノミネート、ハバナやリマでは撮影賞を受賞した。アリエル賞を独り占めした感のあったルイス・エストラーダの『メキシコ地獄の抗争』10、「El infierno」未公開、DVD)ではノミネートに終わった。ルイス・マンドキのLa vida precoz y breve de Sabina Rivas12)もアリエル賞を逃した。モノクロで撮影したアロンソ・ルイスパラシオスのコメディ『グエロス』14、「Güeros」ラテンビート上映)でアリエル賞の他、トライベッカ映画祭の審査員賞を受賞している。最新作にディエゴ・ルナのSr. Pig16)がある。本作上記。オスカー賞を3個も持っているエマニュエル・ルベツキ、ギジェルモ・ナバロ(『パンズ・ラビリンス』)、ロドリゴ・プリエト(『バベル』)の次の世代を代表する撮影監督である。現在はメキシコシティとバルセロナの両市に本拠地をおき、大西洋を行き来して仕事をしている。

バルセロナ大学に1994年付設されたカタルーニャ上級映画学校Escola Superior de Cinema i Audiovisuals de Catalunya の頭文字、バルセロナ派の若手シネアストを輩出している。

 

 

『グエロス』でアリエル賞撮影監督賞(銀賞)のトロフィーを手にしたダミアン・ガルシア

 

 

            (撮影中のダミアン・ガルシア)

 

 キャスト紹介

★出演者のうち、公式サイトに詳しいキャリア紹介のある、ガエル・ガルシア・ベルナル、アメリカ側のスナイパー役ジェフリー・ディーン・モーガンは割愛しますが、悪役サムがしっかり機能していたことが本作の成功の一因だったといえそうです。またスクリーンに少しだけ現れた国境パトロール隊員のリュー・テンプルは、1967年ルイジアナ州生れの俳優。犬のトラッカーは俳優犬ではなく警備の訓練を受けた犬だった由、トラッカーが出てくるとアドレナリンがドクドクの名演技でした。もう一つが2年間にわたって探し回ったという乾いた砂漠の過酷さと美しさだった。主な不法移民役のメキシコ人俳優をご紹介すると、

 

      

            (サムにショットガンを構えるモイセス)

    

ディエゴ・カタニョは、1990年クエルナバカ生れ、フェルナンド・エインビッケのデビュー作『ダック・シーズン』04)や『レイク・タホ』08、東京国際映画祭2008)に出演、ホナス・キュアロンの長編デビュー作Año uña07Year of the Nail」)では、アメリカから休暇でやってきた年上の女性モリーに淡い恋心を抱くティーンエイジャーを演じた。モリーを演じたのがエイリアン・ハーパー2007年、監督と結婚して1児の母。第2作ではプロデューサーとして参加している。他にロドリゴ・プラの話題作「Desierto adentro08)にも出演している。

 

   

                    (ディエゴ・カタニョ、『レイク・タホ』から

  

 

  (エイリアン・ハーパー、Año uña」から

 

マルコ・ぺレスは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』99)、マルコ・クロイツパイントナーのTrade07)、クリスチャン・ケラーのグローリア・トレビのビオピックGloria14)では、グロリアのマネジャーに扮した。最後までモイセスと運命を共にするアデラ役のアロンドラ・イダルゴは、本作が長編映画デビュー、テレビドラマに出演している。

 

                    

                  (ケラー監督とマルコ・ぺレス、「Gloria」から)

 

   

(モイセスに助けられながら追跡を逃れるアデラ)

 

   関連記事・管理人覚え

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アロンソ・ルイスパラシオス『グエロス』の紹介記事は、コチラ2014103

ディエゴ・ケマダ=ディエス『金の鳥籠』の紹介記事はコチラ201465

キャリー・フクナガ『闇の列車、光の旅』の紹介記事は、コチラ20131110



第32回グアダラハラ映画祭2017*結果発表2017年04月01日 17:30

      エベラルド・ゴンサレス、作品賞とドキュメンタリー賞のダブル受賞

 

    

★グアダラハラ映画祭 FICG については、作品賞を受賞しても公開されるチャンスがないこともあり、目についた受賞作品をピックアップするだけです。昨年は作品賞を受賞したコロンビアのフェリペ・ゲレーロOscuro animalをご紹介しました。コロンビアにはびこる暴力について、コロンビア内戦の犠牲者3人の女性に語らせました。今年のメキシコ映画部門は、エベラルド・ゴンサレスLa libertad del DiabloDevils Freedom)が最優秀作品賞とドキュメンタリー賞の2冠に輝き、マリア・セッコが撮影賞を受賞しました。フィクション部門とドキュメンタリー部門の両方にノミネーションされていたなど気づきませんでした。プレゼンターは今回栄誉賞受賞のメキシコの大女優オフェリア・メディナ、これは最高のプレゼンターだったでしょう。

 

  

     (オフェリア・メディナからトロフィーを手渡されるエベラルド・ゴンサレス)

 

 

★ベルリン映画祭2017「ベルリナーレ・スペシャル」部門で、アムネスティ・インターナショナル映画賞を受賞した折に少しご紹介いたしました。こちらはメキシコのいとも簡単に振るわれる「メキシコの暴力の現在」について、犠牲者、殺し屋、警察官、軍人などに語らせています。各自報復を避けるため覆面を被って登場しています。衝撃を受けたベルリンの観客は固まって身動きできなかったと報じられたドキュメンタリーです。おそらく公開は期待できないでしょう。

 

    

     (覆面を着用した証言者、映画から)

 

Oscuro animal」の紹介記事は、コチラ2016319

La libertad del Diablo」の紹介記事は、コチラ2017222

 

     イベロアメリカ作品賞はカルロス・レチュガの「Santa y Andrés」が受賞

 

カルロス・レチュガSanta y Andrésは、サンセバスチャン映画祭2016「ホライズンズ・ラティノ」部門に正式出品されたキューバ、コロンビア、フランスの合作。他に脚本賞とサンタ役のローラ・アモーレスが女優賞を受賞。1983年のキューバが舞台、体制に疑問をもち、山間に隠棲しているゲイ作家のアンドレス、彼を見張るために体制側から送り込まれた農婦のサンタ、いつしか二人の間に微妙な変化が起きてくる。本作の物語並びに監督紹介、当時のキューバについての記事をアップしています。このカテゴリーには、同じキューバのフェルナンド・ぺレスの「Ultimos días en La Habana」やアルゼンチンの『名誉市民』、スペインからはアレックス・デ・ラ・イグレシアの『クローズド・バル』もノミネートされておりました。

 

 

★女優賞のローラ・アモーレスはシンデレラ・ガール、本作のため監督が街中でスカウトした。必要な時にはいつも留守の神様も、時として運命的な出会いを用意しています。人生は捨てたものではありません。本作のような体制批判の映画は、ラウル・カストロ体制下のキューバ映画芸術産業庁ICAICでは歓迎されないが、サンセバスチャンやグアダラハラ映画祭は評価した。この落差をどう受け取るかがキューバ映画の今後を占うと思います。

 

 

            (サンタとアンドレス、映画から)

 

Santa y Andrés」の作品紹介記事は、コチラ2016827

 

★早くもカンヌの季節が巡ってきました。第70回カンヌ映画祭2017の正式ポスターが発表され、今年のカンヌの顔はイタリアの往年の大スターCCことクラウディア・カルディナーレ、コンペティション審査委員長はペドロ・アルモドバル、期間は517日~26日です。

 

    

   (踊って笑って生き生きしたフェリーニのミューズ、クラウディア・カルディナーレ)


ベルリン映画祭2017*結果発表2017年02月22日 21:35

         セバスティアン・レリオの新作、銀熊脚本賞を受賞

 

★この映画祭はやたらカテゴリーが多くて(コンペ、パノラマ、フォーラム、ゼネレーション、他)、イベロアメリカ映画だけに絞っているのに漏れが避けられない。コンペティション部門は、セバスティアン・レリオUna mujer fantástica(チリ独米西)だけだったから、さすがに漏れは避けられた。下馬評が高得点だったので何かの賞に絡んで欲しいと思っていた。思いが通じたか監督とゴンサロ・マサが共同執筆した「銀熊脚本賞」とエキュメニカル審査員賞スペシャルメンション、テディ賞を受賞した。

 

  

    (左から、主役のダニエラ・ベガ、監督、共同執筆者ゴンサロ・マサ)

 

 

        (テディ賞のトロフィーを手にしたダニエラ・ベガ)

 

★前作『グロリアの青春』13)ではグロリアに扮したパウリナ・ガルシアが女優賞を受賞、監督にとってベルリン映画祭は相性がいい。ラテンビート上映後公開される幸運に恵まれました。本作もラテンビートあるいは2016年から「レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」と名称が変わった映画祭などを期待していいでしょう。ダニエラ・ベガが扮するマリナ・ビダル性転換して女性に生れ変わった男性、テーマとしては、もう抵抗ないですね。現在27歳になるベガ自身も偏見の根強いチリにもかかわらず、両親や祖父母の理解のもと10代の半ばから時間をかけてゆっくり性転換している。

 

     

      (プレス会見に臨んだセバスティアン・レリオ、ベルリン映画祭より)

 

    カルラ・シモンのデビュー作、第1回作品賞オペラ・プリマ賞を受賞

 

★スペインからはジェネレーション部門出品のカルラ・シモンVerano 1993(原題「Estiu 1993」、「Summer 1993」)が、第1回監督作品賞、観客賞を受賞した。母親の死にあって養女に出される6歳の少女フリーダの物語。新しい家族となった養父母と一緒に最初の夏を過ごし、新しい世界に溶け込むことを学んでいく。監督の子供時代がもとになっている由。フリーダをライア・アルティガス、養母をブルナ・クシ、養父をダビ・ベルダゲルが演じる。各紙誌ともこぞってポジティブ評価で、今年のスペイン映画の目玉になりそうです。田園の美しい映像、情感豊かで細やかな描写は予告編を見るだけで伝わってきます。子役とアニマルが出る映画には勝てないと言われるが、どうやらハンカチが必需品のようだ。

 

    

 (映画の一部を取り込んだVerano 1993」のポスター)

 

   

                          (養母に抱かれたフリーダ)

 

★カルラ・シモンは、1986年バルセロナ生れの監督、脚本家。2009年バルセロナ自治大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科を卒業、その後カリフォルニア大学で脚本と監督演出を学び、試験的な短編「Women」と「Lovers」を制作する。2011年、ロンドン・フィルム学校に入り、ドキュメンタリーやドラマを撮っている。アルベルト・ロドリゲス監督の強い後押しのお蔭で製作できたと語っている。いずれ詳細をご紹介したい作品です。

 

           

   (カルラ・シモン、ベルリン映画祭にて)

 

     エベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリー、アムネスティ映画賞を受賞

 

★ベルリナーレ・スペシャル部門のアムネスティ国際映画賞受賞作品は、メキシコのエベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリーLa libertad del diablo(「Devil's Freedom」)。ベルリンの観客を身動きできなくさせたと報道された暴力と悪事が主人公のドキュメンタリー。現在のメキシコで起きている地獄の暴力が描かれており、同情は皆無、犠牲者、殺し屋、警察官、軍人などの証言で綴られている。

 

 

★昨年のモレリア映画祭の受賞作品、ベルリンがワールド・プレミア。「残虐な行為はいとも簡単に行われる」とゴンサレス監督。

 

     

 (エベラルド・ゴンサレス監督、ベルリン映画祭にて)

 

★今年の金熊賞はハンガリーのIldiko Enyediイルディコ・エニェディOn Body and Soulが受賞した。他に国際批評家連盟賞FIPRESCIもゲット、寡作ですがカンヌやベネチアでも受賞しているベテラン、1955年ハンガリーのブダペスト生れの監督、脚本家。監督賞に甘んじたフィンランドのアキ・カウリスマキを推す審査員もいたのではないでしょうか。グランプリ審査員賞はセネガル、アルフレッド・バウアー賞はポーランド、男優賞はドイツ、女優賞は韓国など、受賞者がばらけて閉幕しました。

 

   

         (大賞を射止め満面に笑みのイルディコ・エニェディ監督)

   

「ロス・カボス」映画祭2016*メヒコ・プリメロのグランプリは”X500”2016年11月19日 10:33

         コロンビアのフアン・アンドレス・アランゴの“X500

 

      

 

★第5ロス・カボス映画祭119日~13日)の結果発表があり、フアン・アンドレス・アランゴX500が受賞しました。まだ5回と歴史も浅く知名度も高くありませんが、将来的には重要な映画祭になるのではないかと思います。開催地はバハ・カリフォルニア・スール州のリゾート地カボ・サン・ルーカス。メキシコの映画祭といえば、老舗のグアダラハラ、若いシネアストたちの信望が厚いモレリアは何度かご紹介していますが、本映画祭は初めてのご紹介です。正式名は「Festival Internacional del Cine de los Cabos」(英語略語CIFF)です。

 

★この映画祭の趣旨は、メキシコ、米国、カナダの架け橋となるような映画に贈られる賞、国境に壁ではなく橋を架けることを目的にした映画祭のようです。大きく分けるとメヒコ・プリメロ部門とワールド部門になります。今年のメヒコ・プリメロには、次の6作が選ばれました。サンセバスチャン映画祭でご紹介した“X500”が受賞したこと、今後イベロアメリカ映画の台風の目になるだろうことを予想してアップいたします。副賞としてグランプリには20万ドル、以下他の各賞にもそれぞれ賞金が授与される。

  

 

*メヒコ・プリメロMéxico Primero

1X500(メキシコ=カナダ=コロンビア)監督:フアン・アンドレス・アランゴ

  (コロンビア) 最優秀作品賞受賞、副賞20万ドル

2)“Los Paisajes”(2015フランス=メキシコ=イギリス)同:ロドリゴ・セルバンテス

3Tamara y la Catarina(メキシコ=スペイン)同:ルシア・カレラス

  アート・キングダム賞、FIPRESCI賞を受賞

4)“Carroña”(メキシコ)同:セバスティアン・イリアルト(メキシコ)

5Bella de noche ドキュメンタリー(メキシコ)同:マリア・ホセ・クエバス 審査員賞

6)“La región salvaje”(メキシコ=デンマーク)同:アマ・エスカランテ(メキシコ)

 

   

       (第5回ロス・カボス映画祭2016の受賞者たち、20161113日)

 

2カ国以上の合作を選考基準にしているようですが、上記からも分かるように必ずしもそうなっていないが、メキシコ以外の製作者がタッチしているケースが多い。昨今では合作が多く、1国単独での映画製作は難しくなっている。Carroñaのセバスティアン・イリアルトは、“A tiro de piedra”(10)で長編デビュー、アリエル賞の作品賞と第1作監督賞を受賞している。“Carroña”をプロデュースしたベレン・カストロなど女性の躍進が珍しくなくなっている。

 

★今年はアメリカ大統領選挙投票日の翌日に開催、「国境に壁を作る」を選挙キャンペーンの一つにしたトランプ氏がまさかまさかの次期アメリカ大統領になり、メキシコに激震が走りました。「豊かな北」を目指すラテンアメリカ諸国民にとっては厳しい冬になりそうです。“La región salvaje”は、今年のベネチア映画祭に初ノミネートされたアマ・エスカランテが監督賞を受賞した作品です。

X500”の作品紹介記事は、コチラ⇒201692

La región salvaje”ベネチア映画祭監督賞受賞の記事は、コチラ⇒2016917

 

   

                     (フアン・アンドレス・アランゴの“X500”)

 

★セクション・オフィシャルのグランプリは、イギリスのアンドレア・アーノルドAmerican Honey16,英=米)が射止めました(副賞20万ドル)。カンヌ映画祭2016の審査員賞&エキュメニカル特別メンション賞受賞作品、カンヌではお馴染みの監督。長編デビュー“Red Road”(06)と第2作『フィッシュ・タンク』(09)がカンヌ映画祭の審査員賞をそれぞれ受賞している。後者はテレビ放映もされたのでご覧になっている方も多いと思います。今年の受賞者で目立つのが女性の活躍でしょうか。

 

    

 (アンドレア・アーノルドの“American Honey”)

 

★生涯功労賞にイタリアの女優モニカ・ベルッチが選ばれ、華を添えました。栄誉賞はメキシコの撮影監督ロドリゴ・プリエト、代表作品はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』(99)以降、『ビューティフル』(10)など多くの作品を手掛けている。アルモドバルが呼び寄せて撮らせた『抱擁のかけら』(09)、スコセッシの『ウォール・ストリート』(13)、アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』(05)、『ラスト、コーション』(08)など公開作品も多く、監督からの信頼も高い。

 

   

                     (受賞のスピーチをするモニカ・ベルッチ)

 

   

   (受賞のスピーチをするロドリゴ・プリエト)

 

G.G.ベルナル「ジャガー・ルクルト賞」*サンセバスチャン映画祭2016 ⑭2016年09月16日 11:09

     新設されたラテン・シネマ「ジャガー・ルクルト賞」にG.G.ガエル

 

★正式名は「Premio JaegerLeCoultre al Cine Latino」、2007年からベネチア映画祭で始まった「Premio JaegerLeCoultre Glory to the Filmmaker」と同じジャガー・ルクルト社が与える賞。第64回ベネチア映画祭特別招待作品の北野武の『監督・ばんざい!』(2007)が第1回の受賞者。題名からベネチアでは「監督・ばんざい賞」と呼ばれているので、それを採用してもいいでしょうか。ベネチアと似ていますが、こちらは「10年以上のキャリアがあり、かつ将来的にも活躍が期待できるラテンアメリカのシネアスト」に贈られます。ジャガー・ルクルト社は1933年創業のスイスの高級時計マニュファクチュール、サンセバスチャン映画祭のパトロンの一つです。

 

  

 

★第1回の受賞者となったガエル・ガルシア・ベルナルは、パールズ部門上映のパブロ・ラライン「Nerudaネルーダ」に出演、脚本の共同執筆者でもあることが評価された。1978年メキシコのグアダラハラ生れ、子役で出発、俳優のほか監督、脚本家、製作者(制作会社カナナ)。詳しいキャリアは割愛しますが、日本登場はカンヌに旋風を巻き起こしたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』00)、カトリック教会の横槍でメキシコでは上映中止となった『アマロ神父の罪』02)、チェ・ゲバラの青年時代を演じた『モーターサイクル・ダイアリーズ』04、ウォルター・サレス)、妖艶な女装が話題を呼んだ『バッド・エデュケーション』04、アルモドバル)、イニャリトゥのハリウッド進出を決定づけた『バベル』06)、力みすぎて空回りしてしまった監督デビュー作『太陽のかけら』07)など、殆どが公開されています。舞台にも立ち、ハリウッド映画からもオファーを受け、今やメキシコを代表するシネアスト。

 

    

 (鮮烈デビューした頃のG.G.ベルナル、『アモーレス・ペロス』)

 

 

         (ネルーダを追跡する刑事オスカルのG.G.ベルナル、「ネルーダ」)

 

★最近の出演作Me estás matando, Susana(ロベルト・スネイデル)では、ボヘミアンのマッチョなメキシコ男性に扮した。メキシコでの長編劇映画の撮影は、なんと2008年のカルロス・キュアロンの『ルドandクルシ』以来とか。スネイデル監督は、「私だけでなく他の監督も語っていることだが、ガエルの上手さには驚いている。単に求められたことを満たすだけでは満足せず、役柄を可能な限り深く掘り下げている」と感心している。堪能な英語のほかフランス語、ポルトガル語もまあまあできるから海外からのオファーが多くなっている。当ブログ紹介の『ザ・タイガー救世主伝説』(“Ardor”パブロ・ヘンドリック)はアルゼンチン映画、ミシオネス州の熱帯雨林が撮影地だった。 

    

           (『ザ・タイガー救世主伝説』のシャーマン役)

 

★米国のTVコメディ・シリーズMozart in the Jungle出演でゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞したばかり、このほど第3弾の12月公開がアナウンスされました。他にトロント映画祭2015FIPRESCIを受賞したホナス・キュアロンのDesierto15)も落とせない。父親は『天国の口、最後の楽園』01)の監督アルフォンソ・キャアロン、これで親子二代の映画に出演したことになる。監督としては6本の短編があり、最新作Madly15分)がトライベッカ映画祭に正式出品された。 

   

     (共演者のベロニカ・エチェギと、“Me estás matando, Susana”から)

 

★サンセバスチャン映画祭へは、サバルテギ部門上映の『アモーレス・ペロス』、翌2001年には『ブエノスアイレスの夜』が同じサバルテギのコンペティションに選ばれ、フィト・パエスが新人監督賞を受賞した。今回が3度めのサンセバスチャン入りになります。来西はなかったもののパールズ部門にパブロ・ララインのNO12)、『モーターサイクル・ダイアリーズ』、メイド・イン・スペイン部門に『バッド・エデュケーション』、『バベル』、ホライズンズ・ラティノ部門にドキュメンタリー『ダヤニ・クリスタルの謎』(13、マーク・シルバー)などが上映されている。本映画祭は今日がオープニングですが、授賞式は917日にジャガー・ルクルト社のLaurent Vinay氏からベルナルに手渡される予定。

 

パブロ・ラライン「ネルーダ」の記事は、コチラ⇒2016516

AG・イニャリトゥ『アモーレス・ペロス』の記事は、コチラ⇒201536

パブロ・ヘンドリック『ザ・タイガー救世主伝説』の記事は、コチラ⇒20151218

ロベルト・スネイデル“Me estás matando, Susana の記事は、コチラ⇒2016322

ホナス・キュアロン“Desierto の記事は、コチラ⇒2015925


ホライズンズ・ラティノ部門第5弾*サンセバスチャン映画祭2016 ⑩2016年09月02日 12:15

     躍進目覚ましいコロンビア映画界の若手JA・アランゴの新作

★今回はボゴタ出身、カナダの奨学金を得てバンクーバーの高校卒業後、コロンビア大学で映画とテレビを学んだという異色の若手監督フアン・アンドレス・アランゴの第2作となる“XQuinientosを取り上げます。デビュー作La Playa DC2012)がカンヌ映画祭「ある視点」にノミネートされ、国際舞台に躍りでた。続いてシカゴ映画祭「新人監督作品」部門、リマ・ラテンアメリカ映画祭「第1回監督作品」部門などでも上映された。ロッテルダム映画祭の映画製作支援資金「ヒューバート・バルス基金」を得て製作された作品です。新作はトロント映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門で先にワールド・プレミアされます。

 

  

 

7“X QuinientosX-500   

製作:Séptima Films(コロンビア)/ Peripheria Productions(カナダ)/

MACHETE PRODUCCIONES(メキシコ)

監督・脚本:フアン・アンドレス・アランゴ

製作者:ホルヘ・アンドレス・ボテロ(Séptima Films)、ヤニック・レトルネアウLetorneauPeripheria Productions)、Edher・カンポス(MACHETE PRODUCCIONES

 

データ:製作国カナダ=コロンビア=メキシコ、2016年、108分、言語スペイン語・フランス語・英語・タガログ語・マサワ(Mazahua)語、撮影地:モントリオール(カナダ)、ブエナベントゥラ(コロンビア西部バジェ・デ・カウカ州)、メキシコ・シティ、ミチョアカン州シタクアロ(メキシコ)、マニラ(フィリピン)。公開コロンビア2017年前半期予定

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2016コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門、サンセバスチャン映画祭2016ホライズンズ・ラティノ部門、共に正式出品作品

 

キャスト:ジョナサン・ディアス・アングロ(アレックス)、 ベルナルド・ガルニか・クルス(ダビ)、Jembi・アルマサン(マリア)、他

 

解説:コロンビア、メキシコ、そしてカナダ、それぞれ愛する家族の死という共通の経験をした3人の若者の物語。環境の異なる土地で暮らす彼らの哀しみは決して交錯することはないが、深い哀しみを乗り越えるための心と体の変容を迫られるというテーマは共鳴しあう。アレックスはアフリカ系コロンビア人のティーンエージャー、コロンビアで最も危険な港湾都市といわれるブエナベントゥラで漁師として暮らしている。しかしアレックスには兄とその仲間の死を無駄にしないためにも、再び米国への密入国を果たさなければならない。ダビは先住民マサワ族の若者、父の死を受け入れられず村を出てメキシコ・シティに移ってきた。しかし首都での先住民差別に直面して自分の居場所を見つけることができない。戦士ダビは自らのアイデンティティを守るため、パンクファッションで武装して新しい人生に立ち向かう。マリアは母親の死を契機にフィリピンのマニラから、祖母アウロラを頼ってカナダに移住してきた。祖母は35年間もモントリオールで暮らしている。マリアはこの新しい北の国での激変を受け入れ耐えねばならない。それは闘いの日々でもあった。

 

    

              (左から、マリア、ダビ、アレックス)

 

★解説に述べたように、ラテンアメリカ映画に特徴的なテーマ〈移動〉を軸に、ブエナベントゥラ、メキシコ・シティ、モントリオールと、異なった言語が入り乱れる三つの空間で、三人の若者の哀しみと自立が語られる。ブエナベントゥラは麻薬都市として有名なカリ市に近い太平洋に面した港湾都市、2012年には犯罪組織同士の抗争が激化、暴力を恐れた住民が国内難民となって故郷を離れている。コロンビアは徹底した階層社会、国内難民の数でも世界の上位にランクされており、最近合意されたという政権vsゲリラ間の和解も調印に漕ぎつけるかどうか。

 

   

        (アレックス役のジョナサン・ディアス・アングロ、映画から)

 

★コロンビア映画の躍進には、長引いた内戦によるさまざまな問題を抱えながらも、「映画振興基金FDC」を設立した現政権の英断がある。カンヌやベルリンなどの国際映画祭の受賞歴を見れば一目瞭然である。言うまでもなく毀誉褒貶のある政権ではあるが評価したい。文化を軽んじた国家がやがて衰退するのは歴史が証明している。

 

フアン・アンドレス・アランゴJuan Andrés Arango Garcia監督は、コロンビアのボゴタ生れ、監督、脚本家、撮影監督。コロンビアの高校在学中、カナダの奨学金を得てバンクーバーの高校に留学、卒業後コロンビア大学で映画とテレビを学んだ。2010TVのドキュメンタリー・シリーズに撮影監督としてデビュー、ドキュメンタリーEsperanza P.Q.12)、TVムービーTop 5Canadá12)を手がけている。2012年長編映画La Playa D.C.で監督デビュー、カンヌ映画祭2012「ある視点」部門にノミネートされたことが、その後の躍進の足掛かりになった。

 

(デビュー作“La Playa D.C.”)

    

 ★トロント映画祭にノミネーションされたことについて、「“XQuinientos”は、特に汎アメリカ的な映画です。ラテンアメリカ映画の一つとして本映画祭で上映されることは、私にとってとても重要な事です」とアランゴ監督。プロデューサーのホルヘ・ボテロも「トロントで上映されることは素晴らしいこと。この映画のテーマは、移民や変革について語ったもので、世界のあらゆる地域で共有できる視点を持つよう心がけました」。やはりカナダでもトロントは英語圏、米国と直結していますからサンセバスチャンより有利かもしれません。ホルヘ・ボテロは、メキシコでは有力な製作者、他にマイケル・ロウの『うるう年の秘め事』(10、ラテンビート2011)、ディエゴ・ケマダ=ディエスの『金の鳥籠』(2014アリエル賞受賞作品、難民映画祭)を手がけている。

 

(フアン・アンドレス・アランゴ監督)

  

       

★上記のプロダクションの協力の他に、数年前に新設されたコロンビアの「映画振興基金FDC」、メキシコ映画協会などの資金支援、カナダ・テレフィルム、Sodec基金の後援を受けて製作された。

『或る終焉』 ミシェル・フランコ ②2016年06月18日 16:43

             『父の秘密』を受け継ぐ喪失感と孤独

 

   

                DVDのジャケット)

 

A: メキシコとアメリカと舞台背景はまったく異なりますが、『父の秘密』のテーマを引き継いでいる印象でした。喪失感とか孤独感などは普遍的なものですから受け入れやすいテーマです。

B: なかでこれはメキシコではあり得ない、例えばセクハラ訴訟のことですが、訴訟社会のアメリカだから可能だったと思います。本作は監督の個人的体験から出発しているようですが、終末期医療は映画の入れ物にすぎない。

 

A: 個人的体験を出発点にするのは少なからずどの監督にも言えることですが、特にフランコの場合は第1作からともいえます。本作に入る前に、第4作目 A los ojosに触れますと、製作は2013年と本作より前、モレリア映画祭2013でお披露目している。しかし一般公開は20165月と結果的には反対になりました。これについてはスペイン語版ウィキペディアとIMDbとに異同があり、こういう事例は他にも結構あります。

B: ストーリーも『父の秘密』を撮った後のインタビューで語っていた通りでした。いわゆるドキュメンタリー・ドラマ、メキシコの今が語られています。

A: キャストは、モニカ・デル・カルメンが臓器移植の必要な眼病を患う息子オマールの母親になり、その母子にメキシコ・シティの路上生活者、ストリート・チルドレンのベンハミンを絡ませています。言語はスペイン語なのでいずれご紹介したい。

 

   

       (“A los ojos”の共同監督ビクトリア&ミシェル・フランコ兄妹)

 

B: さて本作『或る終焉』ですが、重いテーマのせいか上映後、椅子から立ち上がるのに一呼吸おく観客が多かった(笑)。サスペンス調で始まる冒頭部分、淡々と進む看護師の日常、そしてフィナーレに予想もしないサプライズが待っていた。

A: プレタイトルの冒頭部分は「おいおいこれじゃパクリだよ」と、思わずマヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』(13)を思い出してしまいました。あちらは車中の男の正体は分からないまま事件が起きる。こちらは車のフロントグラス越しに若い娘を追っている男は直ぐ判明しますが、若い娘が誰かは捨ておかれる。男の目線に導かれてスクリーンに入っていった観客は突然梯子を外される。

B: 続いて男はフェイスブックで「Nadia Wilson」なる若い女性を検索している。若い娘がナディア・ウィルソンらしきことを暗示したまま、これまたスクリーンから姿を消してしまう。ストーカー男か、はたまた雇われ殺人者かと不安にさせたまま観客を宙吊りにする。この娘が再びスクリーンに登場するのは後半に入ってから。そこから次第にダヴィッドの過去が明かされ、本当のドラマが始まっていく。

 

  

     (疎遠だった父親から突然声を掛けられて戸惑う娘ナディア、映画から)

 

A: この冒頭部分が大きな伏線になっています。デヴィッドが元の町に戻ってきたのは、セクハラ訴訟で失職した後ではなく、時おり密かに訪れていたことや、この町で起こったことが彼の喪失感の原点であることを観客は知ることになる。エイズ患者のサラや半身不随になった建築家ジョンまでをフラッシュバックとすることも可能ですが、やはり同時進行が自然でしょう。

B: フランコは『父の秘密』でもフラッシュバックは使用しなかったと思います。

 

            互いに求め合う患者と看護師の共犯関係

 

A: 非常に興味深かったのは、デヴィッドは患者との関係はうまくいくのに、患者以外の身近な人、妻や娘も含めての自身の家族、患者の家族とは距離をおいている。サラの告別式に出席したとき、サラの姪から「叔母のことを聞きたい」と話しかけられても避けてしまう。

B: 避けるというより逃げる印象、彼は病める人としか心を通いあえない一種の患者なのですね。バーで隣り合った見ず知らずの他人とは、嘘と真をないまぜにして、談笑しながら自然体で接することができるのに。

A: 患者が看護師を求めるように看護師も患者を求めている。患者と看護師のあいだに親密な共犯関係が成立している。だからメキシコ版のタイトル“El último pacienteChronicは意味深なのです。 

  

          (見ず知らずの他人と談笑するデヴィッド、映画から)

 

B: 「最後の患者」は誰なのか。スペイン語の冠詞は基本的には英語と同じと考えていいのでしょうが、英語より使用した人の気持が反映されるように感じます。定冠詞「el」か、不定冠詞「un」かで微妙に意味が変化する。

A: 邦題の『或る終焉』については目下のところ沈黙しますが、「或る」が何を指すかです。また原題の“Chronic”はギリシャ語起源の「永続する時間を意味するchronikós」から取られている。悪い状態や病気が「慢性の、または長期に渡る」ときに使用される。

B: 監督インタビューでも、しばしば看護師を襲う「chronic depression慢性的な鬱病」について語っています。

 

A: 『父の秘密』で突然妻に死なれた父親が罹っていたのが、この「慢性的な鬱病」です。テーマを受け継いでいると前述したのも、これが頭にあったから。「秘密」を抱えていたのは父ではなく娘です。映画には現れませんが娘は母の死の原因に何か関係があることが暗示されていた。だから学校でのイジメを父親には知らせずに健気にも耐えたのですね。

B: 両作とも、監督がさり気なく散りばめたメタファーをどう読み取るかで評価も印象も異なってくるはずです。

 

         ドラッグのように頭を空っぽにするジョギング

 

A: デヴィッドは看護師という職業柄、ジムで体を鍛えて健康維持に努めている。しかし、それは表層的な見方であり、その一心不乱の表情からは別のことが読み取れる。

B: スポーツにはドラッグのような陶酔感、辛い現実からの逃避があり、更に達成感も得られるから、人によってはのめり込む。本作でも場面転換で有効に使われていた。

 

A 深い喪失感を癒やすには、ただただ走ること、頭を空っぽにすることで、自分が壊れるのを防いでいる。失職してからは安い給料ではジムに通えなくなったという設定か、監督はデヴィッドに歩道を走らせている。彼は何も考えない、何も彼の目には入らない、ただ一心に走るだけ。このジムから歩道への移行もまた、大きな伏線の一つになっている。

B: 『父の秘密』でも娘が現実逃避からか唯一人、プールでひたすら泳ぐ。光と水の美しいシーンであったが、最後にこれが伏線の一つだったことに観客は驚く。

 

A: デヴィッドの看護の内容は、これといって特別新しい視点はなかったように思える。例えばマーサの自殺幇助に手を貸すストーリー、マーサは癌治療の副作用と転移に生きる意味や価値、根拠を見いだせなくなっていた。合法非合法を含めて既に映画のテーマになっている。

B: ステファヌ・ブリゼの『母の見終い』(12)のほうが、テーマの掘下げがより優れていた。

A: スイスで2005年に認められた医師による安楽死が背景にあるが、こちらも安楽死は道具、愛し合いながらもぶつかり合ってしまう母と息子の和解が真のテーマだった。息子役ヴァンサン・ランドンの演技も忘れがたい。 

        

                    (髪をカットしてもらうマーサ、見守るデヴィッド)

 

B: ポール・トーマス・アンダーソンの群像劇『マグノリア』(99)の自宅看護師フィリップ・シーモア・ホフマンの演技、ミヒャエル・ハネケが連続でパルムドールを受賞した『愛、アムール』(12)の妻を看護する夫ジャン=ルイ・トランティニャンなどを思い起こす人もいたでしょうか。

A: 看護ではないが孤独死を扱った、ウベルト・パゾリーニの『おみおくりの作法』(13)などもありますね。ティム・ロスが6ヶ月ほど看護の仕事を体験して、そこで得た情報や体験が脚本に流れ込んでいるそうですが、本作の終末期医療はやはり入れ物の感が拭えません。

 

             主人公と監督の親密な共犯関係

 

B: 「脚本はティム・ロスとの共同執筆のようなもの」と、監督はティム・ロスに花を持たせています。こんなに親密な主人公と監督の関係は珍しいのではないか。

A: 例年10月下旬に開催されるモレリア映画祭FICMがメキシコ・プレミアでしたが、ロスも栄誉招待を受けて赤絨毯を踏んだ。フランコは「この映画祭にティムを迎えることができたのはとても名誉なことです。彼の監督作品『素肌の涙』を見れば、彼の感性が私たちメキシコの映画とまったく異なっていないことに気づくでしょう」と挨拶した。父と娘の近親相姦、息子の父殺しというタブーに挑戦した映画。

 

B: 1999年に撮った“The War Zone”のことですね。なんとも陳腐としか言いようのない邦題です。彼はこれ1作しか監督していない。

A: 閉ざされた空間で起こる権力闘争の側面をもつアレキサンダー・スチュアートの同名小説の映画化、ベルリン映画祭パノラマ部門CICAE賞、英国インディペンデント映画賞、バジャドリード銀の穂賞、ヨーロッパ映画ディスカバリー賞ほかを受賞した。ロスがこのタブーに挑戦したのには自身が過去に受けた傷に関係があるようです。

 

B: 「どのようにストーリーを物語るかというミシェルのスタイルが重要です。ある一人の看護師の物語ですが、それだけではない。彼の映画の主人公を演じられたことを誇りに思いますが、それがすべてではありません」とロス。

A: ティムがメキシコで監督する可能性をフランコの製作会社「ルシア・フィルム」が模索中とか。ロスの第2作がメキシコで具体化するかもしれません。

B: ロスもモレリア映画祭を通じて2ヶ月近く滞在、多くのメキシコの映画人と接触したようです。 

    

  (左から、モイセス・ソナナ、ロス、監督、ガブリエル・リプステイン、FICM 2015

 

A: 二人の親密ぶりはカンヌ以降、わんさとネットに登場しています。フランコが「舞台はメキシコ・シティ、言語はスペイン語」という最初の脚本にアディオスする決心をしたのは、フランコに「もし看護師を女性から男性へ、場所をアメリカにすることが可能なら、私に看護師を演らせて欲しい」というロスの一言だった。

B: 既に女性看護師役も内々に決まっていたとか。でも国際的大スターに迫られて、夢心地にならない駆出し監督はいませんよ。熟慮のすえ変更を決意した。

 

A: ロス自身もBBCのシリーズTVドラマに出演していたが、「君と一緒に仕事ができるなら素晴らしい。カンヌで『父の秘密』にグランプリを与えたとき私のほうから頼んだのだ」と快諾、こうして舞台をロスアンゼルスにして始まった。監督によると戸外での撮影には安全を期して市当局にパトロールを申請しなくてはいけないのだが、それをしなかった。

B: じゃ、デヴィッドが歩道をジョギングするシーンも無許可だったの?

A: 大袈裟になるし高くつくしで「ティムと私のスタッフはパトロールなしを決意した。勿論、罰金を科されないように慎重に誰にも気づかれないように撮影したのは当然だよ」とフランコ。

 

B: 審査委員長だったコーエン兄弟が本作に脚本賞を与えたのは見事なフィナーレのせいだったとか。受賞を意外だと評する向きもありましたが。

A: 誰が受賞しても文句が出るのが映画祭。審査員は批評家でないから、どうしても両者の評価には隔たりが出る。2015年のパルムドール、ジャック・オディアールの『ディーパンの闘い』のフィナーレなんかに比べれば、数段良かったですよ。

B: あれは蛇足でした、でもブーイングするほど悪くなかったです。『キャロル』ファンはおさまらなかったでしょうが。トッド・ヘインズ監督も先にルーニー・マーラが女優賞に呼ばれた時点で、さぞかしがっかりしたことでしょう。

A: それも人生、これも人生です。


『或る終焉』ミシェル・フランコ*患者と共に死に向き合う ①2016年06月15日 17:30

癒やされない喪失感と孤独、そして愛についての物語

    

ミシェル・フランコ『或る終焉』という邦題で公開中のChronicは、カンヌ映画祭2015の脚本賞受賞作品、当時、本作の受賞を予想した人はそう多くはなかったでしょう。そうそうパルムドールがブーイングという年でしたね。デビュー作Daniel & Ana09)がカンヌ映画祭と併行して開催される「監督週間」、第2『父の秘密』12Después de Lucía”)がカンヌ映画祭「ある視点」のグランプリ、そして本作がコンペティション部門の脚本賞と順調に11段、階段を上っている。カンヌ以降、多数の国際映画祭に招待されたが、受賞はカルタヘナ映画祭2015での「Gemas賞」1個にとどまった。当ブログで第3作目としてご紹介したA los ojos2013、“In Your Eyes”、妹ビクトリアと共同監督)は、第11回モレリア映画祭2013で上映されていますが、公開は順序が逆になり今年520日にメキシコで限定上映されました。

 

医学の進歩とともに終末医療は、以前とは比較にならないほど引き伸ばされ、死が生の一部であることを感じさせるようになりました。時には自分の最期を自ら選ばなくてはならなくなってもいる。それにつれて別の世界に入ろうとしている人の命と向き合いながら自宅でケアし、最後には看取るという孤独な新しい職業が成立した。細心の注意をはらって患者の恐怖心を和らげることが求められる厳しい職業です。終末医療の看護師とは、医療技術は勿論のこと、忍耐と心の平静、冷静な判断が求められる。以前当ブログで、「『父の秘密』同様、フィナーレに衝撃が待っている」と書きましたが、確かに見事な幕切れが待っていました。ネタバレさせずに書くのは容易ではありません。 

 

 (20155月、カンヌ入りした監督以下主な出演者、左からサラ・サザーランド、監督、

  ティム・ロス、ロビン・バートレット、ナイレア・ノルビンド。

  他に製作者のガブリエル・リプステイン、モイセス・ソナナなども参加した

 

 

『或る終焉』 (原題“Chronic”) 2015

製作:Stromboli Films / Vamonos Films

監督・脚本・編集()・製作() :ミシェル・フランコ、

撮影:イヴ・カープ

編集():フリオ・ペレス4

衣装デザイン:ディアス

プロダクション・デザイン:マット・ルエム

音響デザイン:フランク・ガエタ

製作者:ガブリエル・リプスティン、モイセス・ソナナ、ジーナ・クォン、製作総指揮ティム・ロス、ベルナルド・ゴメス、フェルナンド・ペレス・カビラン、エミリオ・アスカラガ・ヘアン

データ:製作国メキシコ=フランス、言語英語、93分、撮影地ロスアンゼルス、メキシコ公開201648日(メキシコ・タイトル“El último pacienteChronic”)

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2015脚本賞、カルタヘナ映画祭2015Gemas賞」受賞。メルボルン、サラエボ、サンセバスチャン(ホライズンズ・ラティノ部門)、ヘルシンキ、釜山、バンクーバー、ロンドン、シカゴ、テッサロニキなど国際映画祭で上映、メキシコでは例年10月下旬に開催されるモレリア映画祭で上映された。

 

キャスト:ティム・ロス(介護師デヴィッド)、ロビン・バートレット(マーサ)、マイケル・クリストファー(ジョン)、レイチェル・ピックアップ(サラ)、サラ・サザーランド(デヴィッドの娘ナディア)、ナイレア・ノルビンド(デヴィッドの元妻ローラ)、ビッツィー・トゥロック(ジョンの娘リディア)、デヴィッド・ダストマルチャン(レナード)、メアリーベス・モンロー(サラの姪)、カリ・コールマン(サラの妹)、ジョー・サントス、他

 

解説:終末期の患者をケアする看護師デヴィッドの物語。息子ダンの死をきっかけに妻とは別れ、別の土地で看護師の仕事をしている。サラを見送ったあと受け持ったジョンとの信頼関係は築かれていたが、家族から思いもかけないセクハラ告訴をえて失職する。長く疎遠だった妻と娘が暮らす町に戻ったデヴィッドは、医学を学ぶ娘ナディアと一度は再婚したが今は一人の元妻ローラと、共に悲しみを共有した家族が再会する。やがて新しい患者マーサと出会うが、彼はある難しい決断を求められる。終末期の患者とその家族との関係性が淡々と語られるが、それがテーマではない。ドラマの背後で進行するデヴィッドの深い喪失感と孤独からくる長く深くつづく憂鬱が真のテーマであろう。                               (文責:管理人)

 

   

      (メキシコのタイトル“El último pacienteChronic”のポスター)

 

監督紹介ミシェル・フランコ Michel Franco1979年メキシコ・シティ生れ、監督、脚本家、製作者。イベロアメリカ大学でコミュニケーションを専攻、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのスタッフとして仕事をした後、ニューヨークの映画アカデミーで監督・演出を学ぶ。短編、TVコマーシャル、音楽ビデオの制作、ルシア・フィルムを設立した。 

 

 *主なフィルモグラフィー*(最近の短編は除く)

2001Cuando seas GURANDE

2003Entre dos”短編 ウエスカ映画祭グランプリ、ドレスデン映画祭短編賞受賞

2009Daniel & Ana 監督、脚本、製作 長編デビュー作

  カンヌ映画祭2009監督週間正式出品、サンセバスチャン、シカゴほか国際映画祭で上映、フランス、メキシコ、米国ほかで公開

2012 Después de Lucía”『父の秘密』監督、脚本、製作、編集

  カンヌ映画祭2012「ある視点」グランプリ、シカゴ映画祭審査員特別賞、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ作品賞、ハバナ映画祭監督賞

作品紹介ほか関連記事は、コチラ⇒20131120

2013A los ojos”ビクトリア・フランコとの共同監督、脚本、製作、編集

  第11回モレリア映画祭2013上映、公開は20165月限定上映

2015Chronic”『或る終焉』省略

2015Desde allá”製作 (監督ロレンソ・ビガス、製作国ベネズエラ==メキシコ)

ベネチア映画祭2015金獅子賞受賞作品

作品紹介ほか関連記事は、コチラ⇒201588日、921日、108

2015600 millas”製作 (監督ガブリエル・リプスティン、製作国メキシコ)

  ベルリン映画祭2016パノラマ部門初監督作品賞、アリエル賞2016初監督作品賞受賞作品

作品紹介ほか関連記事は、コチラ⇒201661

 

2001年の“Cuando seas GURANDE ”は短編ではなく、「汚職撲滅運動」のキャンペーンの一環として製作された映画の一部を監督したもののようで、メキシコの500館で上映された(スペイン語版ウィキペディア)。

 

  

   (フランコ兄妹に挟まれたモニカ・デル・カルメン、“A los ojos”のプレス会見から)


アリエル賞2016結果発表*『選ばれし少女たち』が大賞を独占!2016年06月01日 19:16

           ダビ・パブロス監督、両手にトロフィー

 

★今年58回目を迎えたアリエル賞、『選ばれし少女たち』の5個、“Gloria”の同5個、技術部門を制した“El más buscado”の4個という具合に3作に集中して幕を閉じました。なかで作品賞を含めて大賞を独り占めした『選ばれし少女たち』は、作品賞(カナナのパブロ・クルス)のほか監督賞・オリジナル脚本賞(ダビ・パブロス)・撮影賞(カロリーナ・コスタ)・新人女優賞(ナンシー・タラマンテス)、パブロスが両手にしているのは監督賞と脚本賞です。

 

           

            (両手にトロフィー、喜びのダビ・パブロス)

 

★本作はホルヘ・ボルピの同名小説“Las elegidas”に着想を得ている。原作は1970年代以降売春、人身売買の忌まわしい慣習の町として悪名高いトラスカラ州テナンシンゴの「ファミリー」に着想を得て書かれた小説。カナナのパブロ・クルスが映画化権を取り監督を探していた。若いダビ・パブロスに白羽の矢が立ち、しかし原文が難解なことから脚本をボルピに委ねた。ところが作家と監督の話合いの結果、場所をテナンシンゴから監督が育ったティフアナに移すとか、どんどん原作から離れてしまった。しかし原作と脚本に相違があるのはどの映画にも言えることで個人的にはノミネーションの段階からオリジナル脚本賞が妥当かどうか疑問に思っていました。ホルヘ・ボルピは今年の3月に来日して講演したのですが、後に監督も一緒だったと知りましたが、後の祭りでした。

 

★製作会社カナナについてはガエル・ガルシア・ベルナルディエゴ・ルナしか日本では紹介されていませんが、二人は俳優・監督と忙しく、実際にカナナを総括しているのはパブロ・クルスです。トロフィーも製作会社を代表して彼の手に渡りました。作品賞は製作者がもらう賞です。パブロ・クルスと監督のキャリア紹介は、カンヌ映画祭2015「ある視点」を参照してください。

 

       

      (トロフィーを高く掲げているのがパブロ・クルス、右後方に監督)

 

★カロリーナ・コスタの撮影賞受賞は嬉しい。カンヌ映画祭「ある視点」やラテンビートの紹介記事でも、彼女の画面構成、照明の当て方などを褒めたように記憶しています。ナンシー・タラマンテスはシンデレラ娘、まだ子供といってもいい15歳、キャリアはこれからです。

関連記事:カンヌ映画祭2015「ある視点」の記事は、コチラ⇒2015531

ラテンビート2015の記事は、コチラ⇒20151021

 

        文句なしのソフィア・エスピノサの女優賞受賞

 

★もう一つの5個受賞はクリスティアン・KellerGloria、女優賞(ソフィア・エスピノサ)・男優賞(マルコ・ペレス)・編集賞(アドリアナ・マルティネスパトリシア・ロメル)、メイクアップ賞(ダビ・ガメロス)・録音賞(マティアス・バルベロ他)の5賞です。

 

★女優賞は下馬評通りでした。他にジェラルディン・チャップリン(“Dolares de arena”)やハナ(ジャナ)・ラルイ(『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』)など、既にご紹介した映画のヒロインもおりましたが、ソフィア・エスピノサの迫力には及びませんでした。メキシカン・ポップやロック界のアイコン、現在も活躍中のグロリア・トレビの栄光と転落を素材にしたビオピックだから強い。ノミネーション以来、アカデミー会員の信頼を事実上得たも同然だったし、自身も受賞を確信していたでしょう。プロデューサーのセルヒオ・アンドラーデ役のマルコ・ペレスも男優賞を受賞した。アルフォンソ・キュアロンの『アモーレス・ペロス』で長編デビュー、今回、特殊効果賞以下4賞を受賞した“El más buscado”、キュアロンの息子ホナス・キュアロン(クアロン)の第2作目“Desierto”などに出演している。

 

    

                          (ソフィア・エスピノサ)

 

    

 (ガラの写真が入手できないマルコ・ペレス、映画から)

 

         実在の銀行強盗を描いたミステリアスな人生

 

★タイトルが二転三転したホセ・マヌエル・クラビオトのEl más buscado、特殊効果賞(アレハンドロ・バスケス他)、視覚効果賞(エドガルド・メヒア他)、衣装賞(ヒルダ・ナバロ)、美術賞(バルバラ・エンリケス)の4賞。脱獄を繰り返している実在の銀行強盗アルフレッド・リオス・ガレアナを素材にしている。2006年に撮った短編El charro misteriosoを土台にして出来たのが長編El más buscado”である。IMDbはこちらを採用しているが、最近タイトルをMexican Gangsterに変更した。多分アメリカでの公開を意識しているのかもしれない。『選ばれし少女たち』は実際のテナンシンゴの「ファミリー」に着想を得ているし、Gloria”は実在のモデルがいる。「事実は小説よりも奇なり」と、今後ビオピックが映画界を席巻するのではないかと危惧してしまいます。

 

      

              (“El más buscado”のポスター)

 

600 millas2賞は、助演男優賞(ノエ・エルナンデス)とガブリエル・リプステイン(リプスタイン)の初監督作品賞です。ベルリン映画祭2015「パノラマ」部門の初監督作品賞受賞作品、サンセバスチャン映画祭2015「ホライズンズ・ラティノ」部門ほか、国際映画祭で上映されていた。ノミネーションも14カテゴリーと多く、アカデミー賞メキシコ代表作品でもあったから、もう少し賞に絡むかと思っていましたが残念でした。批評家の評価は高かったのですが、メキシコ公開では期待を裏切る興行成績、両者の乖離が明白になった印象です。メキシコ監督としては『夜の女王』や『大佐に手紙は来ない』など、カンヌ映画祭の常連だったアルトゥーロ・リプステインの息子。プロデューサー、脚本家。『大佐に手紙は来ない』の製作者の一人として映画界入りした。父親も現役ですからライバルです。

 

    

          (トロフィーを手にしたガブリエル・リプステイン)

 

★残念ついでに、ロドリゴ・プラの『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』の脚色賞1個は如何にも寂しい。監督夫人のラウラ・サントゥリョの同名小説の映画化、脚本も彼女が手がけた。ということでオリジナル脚本賞にノミネーションされると考えていました。昨年の東京国際映画祭で上映され、監督とプロデューサーが来日して、Q&Aに出席した。

東京国際FF『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』の記事は、コチラ⇒2015113

 

★栄誉賞にあたる「金のアリエル賞」は、ロシータ・キンテロポール・ルデュク、共にメキシコ映画黄金期のシネアスト二人が受賞した。

 

   

          (体調崩して車椅子で登壇したロシータ・キンタナ)

 

★イベロアメリカ映画賞は、パブロ・トラペロの“El Clan”(アルゼンチン)、セスク・ゲイの“Truman”(スペイン)などを制して、コロンビアのチロ・ゲーラ『大河の抱擁』でした。誰が受賞しても納得のいくノミネーションでした。3作とも既に紹介記事をアップしております。