『ひとつの愛』のキャスト紹介*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月30日 10:20
現在スペインで最も注目されている女優ライア・コスタ

(ライア・コスタとホヴィク・ケウチケリアン、映画から)
★主役ナット(ナタリア)を演じるのがライア・コスタ(バルセロナ1985)、女優、製作者、カタルーニャ語、スペイン語のほかフランス語、英語が堪能。女優志望ではなかったのでバルセロナのラモンリュル大学ではコミュニケーション国際関係学部で広告とマーケティングを専攻、学位を取得している。卒業後マーケティングの会社に就職、働きながら演劇の勉強を始め、最終的にはフランク・スティエン・スタジオでの演技コースを8年間受講している。遅い長編デビューの理由である。国際的な小売企業のCEOダビ・ロペスと結婚して子供もいるが、一般人なので私生活は公表しないということです。現在2人目を妊娠中です。ジェンダー平等や気候温暖化などのテーマについて発信している。
★短編、TVシリーズ出演が続いたのち、2012年フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「Tengo ganas de ti」(『その愛を走れ』)の小さな役で映画デビュー、2015年にも同監督の『ヤシの木に降る雪』に起用された。スペインではなかなか開花しなかったが、ドイツのゼバスティアン・シッパーが全編140分をワンカットで悪夢を描いた『ヴィクトリア』出演で俄然注目を集めた。コスタはドイツ映画賞2015の女優賞を受賞、これはスペイン女優としては初めてだった。さらにサンジョルディ賞2016の外国映画部門女優賞、ガウディ賞2016主演女優賞も受賞した。東京国際映画祭でもワールド・フォーカス部門で上映され話題を呼んだ映画でした。

(ドイツ映画女優賞のトロフィーを手にしたコスタと夫君、2015年6月19日授賞式)
★『ヴィクトリア』の成功後も、アルベルト・ロドリゲスの短編「Las pequeñas cosas」出演、バルセロナ派のラウラ・ジョウの短編「No me quites」(14分)がマラガ映画祭2016やメディナ映画祭に出品され、主役のコスタは短編部門の女優賞を受賞したがスペインでの認知度を高めるには至らなかった。マルティン・オダラの『黒い雪』(17、アルゼンチンとの合作)、アメリカ映画ドレイク・ドレマスの『私とあなたのオープンな関係』(Newness 17)、ニコラス・ペッシェの『ピアッシング』(18)、ミゲル・アルテタの『24時間ずっとラブ』(Duck Butter 18)、ダン・フォーゲルマンの『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』(Life Itself 18)、ハリー・ウートリフのデビュー作「Only You」(18)など海外での出演が主であった。
★転機は2019年、コイシェ監督との出会いだった。TVミニシリーズ「Foodie Love」(8話)の出演がアナウンスされスペイン映画に戻ってきた。本作出演で第7回フェロス賞2020 TVシリーズ部門の主演女優賞にノミネートされた。2022年、コスタはアラウダ・ルイス・デ・アスアのデビュー作「Cinco lobitos」(Lullaby)でベルリンFFパノラマ部門に戻ってきた。初めての子育てで産後鬱になった若い母親役でしたが、脚本を手渡されたときには、自身も第1子を妊娠しており、クランクイン前の2020年には既に母親になっていたということです。本作はマラガ映画祭2022にも正式出品され、母親を演じたスシ・サンチェスと揃って銀のビスナガ女優賞を受賞した。続いて2022年から前倒しの12月開催に変更された第28回ホセ・マリア・フォルケ賞も受賞、翌年のゴヤ賞2023、フェロス賞、イベロアメリカプラチナ賞の主演女優賞などスペインの重要な映画賞のすべてを制覇、盆と正月が同時にやってきた感がありました。

(左から、母親役のスシ・サンチェス、アラウダ・ルイス・デ・アスア監督、
ライア・コスタ、マラガ映画祭2022、フォトコールから)

(産後鬱の若い母親アマイア役のコスタ、「Cinco lobitos」から)

(主演女優賞のトロフィーを手にしたコスタ、ゴヤ賞2023、2月11日授賞式)
★2023年、エレナ・トラぺの「Els encantats / The Enchsnted」(カタルーニャ語)がマラガ映画祭2023コンペティション部門にノミネート、コスタは受賞を逃したが、トラペ監督とミゲル・イバニェス・モンロイが脚本賞を受賞した。本作については作品紹介をしています。コイシェと再びタッグを組んだ『ひとつの愛』を挟んで、TVシリーズ出演が多いが、パトリシア・フォントの「El mestre que va prometre el mar」に主演、バジャドリード映画祭で上映されたばかりです。真価が問われるのはこれからです。
*「Els encantats / The Enchsnted」の紹介記事は、コチラ⇒2023年06月21日

(「Els encantats」撮影中のエレナ・トラぺとライア・コスタ)
異色の俳優、レバノン生れのホヴィク・ケウチケリアン
★アンドレアスを演じたホヴィク・ケウチケリアン(Hovik Keuchkerian カナ表記はTIFFによる)は、1972年、レバノンのベイルート生れ、父親はアルメニア人、母親はナバラ出身のスペイン人、3歳のときいわゆる〈第5次中東戦争〉とも呼ばれるレバノン内戦(1975~90)が勃発、家族とともにスペインに移住した。スペインではマドリード共同体に属するアルペドレテ市(エル・エスコリアル修道院がある)で育ち、20歳でマドリードに上京するまで父親が経営するレバノン料理店でボーイとして働いていた。1995年自身のジムを開き、1998年ヘビー級のプロボクサーとしてデビュー、2004年に引退するまで16戦中15戦KO勝ちという驚異的な記録保持者、ヘビー級のチャンピオンタイトルを持っている。元プロボクサー、俳優、ボードビリアン、著作4冊を上梓している作家と幾つもの顔をもつ。

(今ではおなかポッコリのケウチケリアン、SSIFF 2023、9月26日フォトコール)
★エリートのアスリートであるにもかかわらず、スタンドアップコメディアンを目指し演技を学び、友人のマジシャン、ホルヘ・ブラスの薦めで一人芝居に挑戦、舞台俳優デビューを果たす。映画デビューは2010年、アルベルト・ドラドの短編「Perdido」のONUの兵士役、ホルヘ・ドラドの「El otro」でアルカラ・デ・エナレス短編FF 2012で男優賞、パレンシアFF 2014で俳優賞を受賞している。長編映画にはアレックス・ゴンサレス扮するボクサーのトレーナー役で「Alacrán enamorado」(13)に出演、本作はカルロス・バルデムの同名小説をサンティアゴ・A・サンノウが映画化したもので『スコーピオン・反逆のボクサー』の邦題でDVD化された。ゴヤ賞2014の新人男優賞ノミネート、スペイン俳優組合新人賞受賞などで認知度を上げた。
★字幕入りで見られるキケ・マイジョの「Toro」(15、『ザ・レイジ 果てしない怒り』)では、端役でマリオ・カサスやルイス・トサールと共演している。日本のサイトで紹介されるのが『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)やダビ・スーザ・モローの『リベリオン・ライズ』(17)のような劇場未公開作品が多いが、かなりの本数に出演している。
*「Alacrán enamorado」の作品紹介とケウチケリアンの紹介記事は、
*「Toro」の作品紹介は、コチラ⇒2016年04月14日

(『スコーピオン・反逆のボクサー』撮影中のケウチケリアン)
★ロドリゴ・ソロゴジェンが手掛けたTVミニシリーズ「Antidisturbios」(8話)出演では、ホセ・マリア・フォルケ賞2021男優賞、フェロス賞主演男優賞、アルメリア映画祭男優賞を受賞して、映画館には出掛けないお茶の間ファンを増やした。長寿TVシリーズ『ペイパー・ハウス』(17~21)に2019年からボゴタ役で参加した。映画に戻るとパコ・レオンの「Rainbow」(22)に出演、『レインボー』の邦題でネットフリックスが配信している。ドラ・ポスティゴが主演のうえ共演者がカルメン・マウラやカルメン・マチ、ルイス・ベルメホなど強烈ですが楽しめる作品です。撮影が終了したTVシリーズ「Reina Roja」に出演している。フアン・ゴメス=フラードの同名小説(2018年刊)の映画化、プライムビデオが配信予定。
*『レインボー』の紹介記事は、コチラ⇒2022年10月04日

(中央がホヴィク・ケウチケリアン、TVミニシリーズ「Antidisturbios」から)

(ホセ・マリア・フォルケ賞2021授賞式)
★同2022年にマイケル・グールジャンが監督主演したアルメニア映画「Amerikatsi」(アルメニア語、ロシア語・英語)に出演するなど活躍の場を広げている。本作は国際映画祭で受賞歴を重ね、オスカー賞2024年のアルメニア映画代表作品に選ばれている。父親のルーツがアルメニアなのでアルメニア語ができるのでしょうか。予告編からの感想ですが、ネットでいいから是非見たいと興味を覚えました。
★イングリッド・ガルシア=ヨンソンのキャリア紹介は、纏まってのアップはありません。スウェーデン出身ですが、幼少時にはセビーリャで育ったのでスペイン語が堪能。後にスペインに戻って、2006年に舞台女優としてデビュー、2011年映画デビューした。以下に紹介しています。
*イングリッド・ガルシア=ヨンソン紹介は、

(イングリッド・ガルシア=ヨンソン、SSIFF 2023、9月26日フォトコール)
★ベテラン演技派ルイス・ベルメホ(マドリード1969)は、俳優、舞台演出家、ピエロ。クリスティナ・ロタの俳優学校で演技を学び、1992年から舞台にたち、自身の劇団も設立している。カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』で少女の父親を演じてゴヤ賞2015主演男優賞にノミネートされたが受賞には至らなかった。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』の主役、エステバン・ロエル&フアンフェル・アンドレスが共同監督した『トガリネズミの巣穴』などに出演しているウーゴ・シルバ、ホナス・トゥルエバの青春映画『再会』などの常連さんフランセスコ・カリルの男性陣は、作品紹介の折に簡単に紹介しているだけですが、今回は割愛後日に回します。

(ファンサービスをゆめ怠らないルイス・ベルメホ、同上)

(女性に人気のウーゴ・シルバ、レッドカーペット)

(イケメンを意識しているフランセスコ・カリル、フォトコール)
イサベル・コイシェの『ひとつの愛』*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月27日 15:44
スペインで最も精力的な監督がイサベル・コイシェ

★イサベル・コイシェ(Isabel Coixet 1960)の『ひとつの愛』(「Un amor」)は、第71回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2023のコンペティション部門ノミネート作品、コイシェ監督がフェロス・シネマルディア賞、ホヴィク・ケウチケリアンが助演俳優賞(銀貝賞)を受賞したばかりです。時間切れで作品紹介が中途半端でしたが、今回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門のラテンビートFF共催作品に選ばれたのを機に情報も増えましたので、内容的に一部ダブりますが追加いたします。

★TIFFでは、バルセロナ出身ということかイザベル・コイシェとカタルーニャ語表記になっています。以前はラテンビートもスペイン語表記のイサベルでしたが今回はカタルーニャ語を使用しています。確かにコイシェはカタルーニャ語読みですから変だったわけです。当ブログも変更すべきか迷いましたが、当初からスペイン語読みのうえ紹介頻度が一番多く修正も厄介なので、今回は一応イサベルを踏襲します。主なフィルモグラフィー紹介は、『マイ・ブックショップ』(17)までですが、以下にアップしています。
*コイシェ監督のフィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年01月07日

(コイシェ監督、SSIFF2023、9月26日レッドカーペットにて)
『ひとつの愛』(原題「Un amor」)
製作:Buena Pinta Media / Crea SGR / Perdición Films / Monte Glauco / ICEC / ICAA / RTVE / TV3 / Movister+ 他
監督:イサベル・コイシェ
脚本:イサベル・コイシェ、ラウラ・フェレロ、原作サラ・メサの ”Un amor”
撮影:ベト・ローリッヒ
編集:ジョルディ・アサテギ
キャスティング:カルロス・ラサロ、ソフィア・シベロニ
衣装デザイン:スエビア・サンペラヨ
メイクアップ:アイノア・エスキサベル、Izaskun Makua
プロダクション・マネージメント:エバ・タボアダ、クリス・ラフロント
製作者:サンドラ・エルミダ、マリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、(エグゼクティブ)ベレン・アティエンサ、クリスティナ・レラ・ガルシア
データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語、ドラマ、129分、配給BTeam Pictures(スペイン)、公開スペイン11月10日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2023セクション・オフィシアル、フェロス・シネマルディア賞(イサベル・コイシェ)、助演俳優賞(ホヴィク・ケウチケリアン)受賞、レインダンス映画祭コンペティション部門、監督賞、俳優賞(ライア・コスタ)ノミネート、東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門正式出品など
キャスト:ライア・コスタ(ナット/ナタリア)、ホヴィク・ケウチケリアン(アンドレアス)、ルイス・ベルメホ、ウーゴ・シルバ(ヒッピーのPíterピーテル)、イングリッド・ガルシア≂ヨンソン(ララ)、フランセスコ・カリル(カルロス)、タマラ・ベルベス(美容師)、ビオレタ・ロドリゲス、他多数
ストーリー:経験の浅い駆け出しの翻訳家であるナットは、都会での息苦しい生活を逃れ、スペイン奥地に典型的な小さな村ラ・エスカパに避難所を見つけます。壁に亀裂や雨漏りのする廃屋で彼女は人生を立て直そうと決意しています。家主から飼いならしていない犬を歓迎のしるしとしてプレゼントされるが、彼が本性をあらわすのに時間はかからないだろう。やがて家主との対立、村民の不信感に直面する。隣人ドイツ人のアンドレアスの不穏な性的提案を受け入れることで、ナットは自分自身を驚かせることになる。この奇妙で矛盾をはらんだ出会いから、貪欲で強迫的な情熱が彼女に芽生えてくる。今まで彼女が自分だと思っていた女性は、本当に自分なのだろうか、実存への疑念と破壊的な性的役割を探求することになる。

(現地入りした「Un amor」のチーム、SSIFF 2023、9月26日フォトコール)
サラ・メサのベストセラー小説の映画化
★新作はサラ・メサ(マドリード1976)の同名小説の映画化、勿論小説と映画はジャンルも異なり別物ですが、簡単に紹介しておきます。マドリード生れですが幼少時からセビーリャで育ち、現在もセビーリャ在住です。スペイン文献学を学んでいる。詩人としてスタートをきり、2007年、詩集”Este jilguero agenda”でミゲル・エルナンデス文化財団の詩歌国民賞を受賞しましたが、作家として活躍するようになる。2017年、小説”Cicatriz”でフアン・デ・サンクレメンテ文学賞など受賞歴も多い。ベストセラーとなった”Un amor”(2020年刊)は2021年の日本でいう本屋大賞を受賞している。作品は米国、イタリア、オランダ、フランス、ドイツ、ギリシャ、ポルトガル、デンマーク、ノルウェーで翻訳出版されているが、日本での翻訳書はないようです。


★原作の解説を読むと3つのパートに分かれているが、タイトルが示すように物語は〈愛〉がテーマの中心で、多くのファンタズマに溢れている。コイシェがどのパートを選んだかは未見なので想像するしかないのだが、その特徴はナット(ライア・コスタ)を筆頭に〈ドイツ人〉と呼ばれているが実際はドイツ人でないアンドレアス(ホヴィク・ケウチケリアン)、ヒッピー役(ウーゴ・シルバ)など、いわゆる村に流れついた異邦人がストーリーの推進役になっていることです。ナットとアンドレアスに焦点を当てているようですが、小説はぞんざいな応対でナットを不安にさせる土地の人である家主(ルイス・ベルメホ)の人格造形が重要視されているようです。

(ライア・コスタとコイシェ監督、SSIFF2023、9月26日フォトコール)
★ナットにお近づきの印として犬を進呈するなど最初は友好的に見えるが、いずれ本性をあらわすのに時間はかからない。この躾けされていない犬が一つの原因で、ナットの人生は思いもかけない方向に転がり始める。夜中に煩く吠えるので、ヒロインは〈嫌なやつ〉という意味のシエソと命名する。このシエソも重要な登場人物のようです。20年前の映画ですが、ラース・フォン・トリアーのデンマーク映画『ドッグヴィル』(03)を思い起こした批評家の記事を目にしました。確かに共同体VS侵入者の構図もよく似ている。共同体を代表する家主は、侵入者のドイツ人より興味深い人物のように読めます。

(ルイス・ベルメホ、9月26日、プレス会見にて)
★舞台となる地名、La Escapaラ・エスカパは架空の村でしょうが、かつてアラゴン州ウエスカに同名の村が存在していたので検索してみたら、現在は廃村となって誰も住んでいないとありました。映画に出てくるような朽ちかけた建物が残っている。スペイン語のescaparは、逃れる・脱出するという意味なので、作家がそれと関係づけて付けたのかもしれない。どこにでもあるようなありきたりのEl Glauco 山(緑の山)の麓の村という設定になっています。実際の撮影はアラゴンの隣州、ワインで有名なリオハの何ヵ所かで行われた。
★都会でぼろぼろになった30歳代の独身女性の逃避行など平凡すぎていただけませんが、サラ・メサの手にかかるとベストセラーになる。語り口は辛辣で、嫉妬、暴力、悲劇、拒否または放棄、誘導、タブーが複雑にミックスされている。先入観を捨て事柄を安易に裁くことなく注意を向けることが、読者、あるいは観客に求められているようです。ナットが借りることになった雨漏りのする家がそもそも曰く付きの家で、かつて近親相姦の関係にあった兄妹が住んでいて、村民によって追い出されたため空き家になっていたことが知らされる。ナットは格安だったので借りたのだが、なんだかギリシャ悲劇を連想させるではないか。
★ナットとアンドレアスの一風変わった交換条件による性的関係は、ポール・ヴァーホーヴェンのスリラー『エル ELLE』(16)の潜在的な欲望や衝動に突き動かされていくヒロインを連想させる。また2022年のノーベル文学賞を受賞した、フランスのオートフィクション作家のアニー・エルナー(1940~)の『シンプルな情熱』(91)も類似点がありそうです。年下の不倫相手との関係をあるがままに描き、自身の内面を掘り下げ、一体自分は何者かと冷静に自問している。階級社会のフランスで彼女のようなノルマンディー生れの労働者階級の女性が遭遇するジェンダー差別、疎外感、失望を飾らない文体で描き、多くの読者の共感を得ている。著作の多くが翻訳、文庫化されている。原作と映画の楽しみ方は別物であるが、作家と監督は意気投合したという報道なので公開を待ちたい。

(サラ・メサとイサベル・コイシェ)
★主役の二人、ナット役のライア・コスタとアンドレアス役のホヴィク・ケウチケリアンの纏まったキャリア紹介はしていないので次回にアップしたい。特にケウチケリアンは、スペインでも特異な経歴の持ち主、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)だけでない活躍を紹介したい。
メイド・イン・スペイン部門19作*サンセバスチャン映画祭2023 ⑭ ― 2023年09月11日 17:53
ワールドプレミアが5作、クラウディア・ピントのドキュメンタリー

★8月29日、今年1年の話題作が一挙に鑑賞できるのが「メイド・イン・スペイン」(MS)です。マラガ映画祭ノミネート、または受賞作などで当ブログでご紹介済みの作品が目につくのもこのセクションです。今年は19作、うち5作がワールドプレミアです。新型コロナ以前のラテンビート映画祭(LBFF)の上映作品の多くが、このセクションから選ばれていました。
★マラガ映画祭関連では、ヘラルド・エレーロの「Bajo terapia / Under Therapy」(審査員特別賞受賞)、フアン・ゴンサレス&フェルナンド・マルティネスの「El fantástico caso del Golem / The Fantastic Golem Affairs」(95分)、エレナ・トラぺの「Els encantats / Los encantados」(カタルーニャ語、108分、脚本賞受賞)、アルバロ・ガゴの「Matria」(99分、マリア・バスケスが女優賞受賞)、カルラ・スビラナの「Sica」、アレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケスの「Upon Entry / La llegada」(74分、アルベルト・アンマンが銀のビスナガ男優賞受賞)、エレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」は、カンヌ映画祭と併催の「監督週間」にノミネートされ、最優秀ヨーロッパ映画賞を受賞しています。各作品紹介と監督キャリアなど長短ありますが既にアップしております。

(アルベルト・アンマンが男優賞を受賞した「Upon Entry / La llegada」ポスター)
クラウディア・ピント監督と女優カルメ・エリアスの共同作品
★ワールドプレミア5作のうち、ぜひご紹介したかったのが、クラウディア・ピント・エンペラドールのドキュメンタリー「Mientras seas tú / While You’re Still You」(仮題「あなたが未だあなたでいるうちに」)です。監督は1977年ベネズエラのカラカス生れですが、スペインで映画製作をしている、いわゆる才能流出組の一人です。アルツハイマー病の診断を受けた後の女優カルメ・エリアスの「ここ、今」を4年前から追っているドキュメンタリー。カルメ・エリアス(バルセロナ1951)と言えば、ハビエル・フェセルの『カミーノ』の頑迷なオプス・デイ信者の母親役(ゴヤ賞2009主演女優賞受賞)が有名ですが、クラウディア・ピントのデビュー作「La distancia más larga」(13)のヒロインだったことも記憶に残っています。数多の国際映画祭を駆け巡り、二人に大きな賞を多数もたらした作品でもありました。


(クラウディア・ピントの新作「Mientras seas tú / While You’re Still You」)
★他にピントの第2作「Las consecuencias」は、マラガ映画祭2021の批評家審査員特別賞受賞作ですが、主役フアナ・アコスタの母親役で出演しています。2021年というのはカルメがガウディ栄誉賞を受賞した年でもあり、当時はまったく知りませんでしたが、既にアルツハイマー病の診断を受けていたことになり、本当に驚きを隠せません。

(カルメ・エリアス、第13回ガウディ栄誉賞2021の授賞式から)
★「Mientras seas tú / While You’re Still You」は、クラウディア・ピントとカルメ・エリアス、二人の親密な共同作品として、アルツハイマー病の診断の無気力と闘う方法として4年前に始まりました。寛大で勇気があり、活力に富んだ証言である。アルツハイマー病についての教育を意図しておらず、良心の喪失に圧倒的な明快さで直面する女優の旅に同行することを目的としている。「私の最後の意識的な旅」とカルメ。進行中のユニークな作品であるため、サンセバスチャン映画祭で見られる作品と、いずれ公開される作品とは同じものではないということです。カルメが追求する「ここ、今」は、愛と友情、映画と演技を前提としており、不確実性への創造的な旅、ネットのない空虚への飛躍です。
★舞台演出家フアン・カルロス・コラッサが最後のリハーサルに同行する。女優を手放すことを拒否する映画監督クラウディア・ピント、自身の痕跡を残すことを熱望する女優。ピントは「映画のメイキングは映画の一部であり、カルメ同様、私たちも絶対的な現在に生きています。創造的なプロセスでの疑問、適切な判断、または誤りを節度を超えて共有しています」と語っている。現在を生きるための説得力のある招待となっている。

(ゴヤの胸像を手に、ゴヤ賞2009主演女優賞のガラにて)
★また監督は、「今まで作ったなかで最も難しい映画です。今回はフィクションという逃げ場がありません。カルメはキャラクターを演じているわけではありません。私たちを現実から切り離すアクッションもカットもありません」と製作の困難さを語っている。予告編を鑑賞できますが、これがドラマだったらと思わずにいられません、少し辛いですね。ジュリアン・ムーアにアカデミー主演女優賞以下、数えきれないほどのトロフィーをもたらした『アリスのままで』(14)に、いま思いを馳せています。

(クラウディア・ピント監督、マラガ映画祭2021)
*カルメ・エリアスの第13回ガウディ栄誉賞受賞の記事、キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2021年03月29日
*クラウディア・ピントの「Las consecuencias」の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2021年07月01日
ニューディレクターズ部門11作発表*サンセバスチャン映画祭2023 ⑦ ― 2023年08月09日 11:03
ニューディレクターズ部門11作品ノミネート発表

★去る7月27日、サンセバスチャン映画祭総指揮者ホセ・ルイス・レボルディノス、後援者クチャバンク・ギブスコア・ネットワーク代表のマルタ・マディナベイティア出席のもと、ニューディレクターズ部門11作品が発表になりました。このセクションは2作目までが対象で、作品賞はクチャバンク・ニューディレクターズ賞、副賞として50.000ユーロとスペイン国内での公開が約束されます。他に18歳から25歳までの学生150人が審査員であるユースTCM賞があります。
★オープニング作品は中国のリャン・ミンLiang Mingの「Xiao yao you / Carefree Days」、既に報道されているように日本からは、村瀬大智の『霧の淵』がクロージングに選ばれました。彼は1997年滋賀県信楽生れ、今年の最年少候補者となりました。スペイン語映画はスペインとコロンビアから、他にイラン、インド、カザフスタン、ロシア、シンガポール、カナダ、スウェーデン、各1作ずつです。全作ご紹介する余裕はなく、スペインとコロンビアのスペイン語映画2作だけアップいたします。
1)La estrella azul / The Blue Star
監督:ハビエル・マシペ・コスタ(テルエル1987)は、監督、脚本家、フィルム編集者。長編2作目、サラゴサ出身のミュージシャンで詩人のマウリシオ・アスナルの人生にインスピレーションを受けて製作されたフィクション。詩人は2000年、わずか36歳という若さで生涯を閉じました。マシペの長編デビュー作は「Los inconvenientes de no ser Dios」(14)、サラゴサ映画祭の監督第1作賞を受賞した。ほか短編数編を発表しており、うち2014年のポルトガル語で撮った「Os meninos de rio」(14分)は、ゴヤ賞2016にノミネートされたほか、CinEuphoria 2016 短編賞、シモン賞2015、パベス賞2015、モンテレイFF審査員メンション、サラゴサFF、ウエルバFFゴールデン・コロン賞など作品賞を含む、監督賞、脚本賞を多数受賞した。2019年のコメディ「Gastos incluidos」(21分)もゴヤ賞2021ではノミネートに終わったが、シモン賞2020短編賞を受賞した。ドキュメンタリー「Vivir sin agua」(08)を撮っている。

(長編デビュー作「Los inconvenientes de no ser Dios」のポスター)

(短編「Gastos incluidos」でシモン賞のトロフィーを手にしたハビエル・マシぺ)
キャスト:ペペ・ロレンテ(マウリシオ・アスナル)、クティ・カラバハル(ドン・カルロス)、ブルーナ・クシ、マルク・ロドリゲス、マリエラ・カラバハル、ノエリア・ベレニセ・ディアス、パブロ・アルバレス(青年マウリシオ)、カテリナ・ソペラナ、マヌエル・チャコン(マネージャー)
ストーリー:90年代、スペインのロックンロール・ミュージシャン、マウリシオは自分の天職を再発見するためにアルゼンチンへ旅立ちます。そこで彼は高齢のマエストロ、最も著名なフォークロアソングの作者であるにもかかわらず生活に困窮しているドン・カルロスと予期せぬ出会いをする。カルロスは旅人を歓迎し、実に贅沢で風変わりなデュオが誕生する。

(クティ・カラバハル扮するドン・カルロスとペペ・ロレンテ扮するマウリシオ)
データ:製作国スペイン=アルゼンチン、2023年、スペイン語、ドラマ、127分、撮影2020年3月クランクインしたがパンデミックのため中断、コロナ以後に再開して2023年2月に終了した。主な撮影地はマドリード、アルゼンチンのサンティアゴ・デル・エステロ。スペイン配給はワンダビジョン、国際販売はフィルム・ファクトリー。モビスター+、アラゴンTV、ICAA、INCAAからの資金提供を受け、アラゴン州政府と州議会、サラゴサ市議会、サンティアゴ・デル・エステロ政府ほかの支援を受けている。

(バンド、ゴールデン・ジッパーズの4人)
製作:Mod Producciones / El Pez Amarillo / Cimarrón / La Charito Films / Prisma
製作者:シモン・デ・サンティアゴ、エルナン・ムサルッピ、アメリア・エルナンデス、他
音楽:ペテコ・カラバハル、アリシア・モロテ
撮影:アルバロ・メディナ、ルイ・ポサス
解説:1981年サラゴサで、アスナル・マウリシオを中心に結成されたバンド、ゴールデン・ジッパーGolden Zippers は、スペインにおける国民的ロカビリーのパイオニア的な存在の一つ。1984年、サラゴサで開催された大イベントの直後解散、マウリシオはベーシストのミゲル・マタと Más Birras を結成、ドラマーのマノロ・レアル(愛称ロロ)は Los Dynamos へ、エレキギターのロビーは、カントリー・ミュージックに根ざした「Rodeo」 を結成している。

(撮影中のクティ・カラバハルとペペ・ロレンテ)
★クティ・カラバハル(1947)は、アルゼンチンのフォルクローレの伝統をもつ音楽家一家カラバハル家の12人いる兄弟姉妹の末っ子。映画に登場するカルロス・カラバハル(1929~2006)は5番目にあたり、歌手、作曲家、チャカレラの父として知られ、2006年1月に開催されたチャカレラ国立フェスティバルでの公演を最後に、脳卒中で死去している。弟にあたるクティ・カラバハルが演じている。
★次回はコロンビアのフアン・セバスティアン・ケブラダの「El otro lado / The Other Side」のアップを予定しています。
ベロドロモにシリーズ2作がプレミア*サンセバスチャン映画祭2023 ⑥ ― 2023年07月24日 16:34
アーティストC. Tanganaの創作プロセスを探求する4年間の旅

★賞には絡まないベロドロモ部門は、約3000人の観客が収容できる競輪場を会場にしています。例年人気のエンターテインメントが上映されます。今年は3部構成のシリーズ「Esta ambición desmedida / This Excessive Ambition」(135分)とTVミニシリーズのホラー「El otro lado / The Other Side」(6話)の2作がプレミアされるようです。前者の監督は、サントス・バカナ、クリスティナ・トレナス、ロヘリオ・ゴンサレスの3監督、後者はハビエル・ルイス・カルデラとアルベルト・デ・トロの2監督です。
1)Esta ambición desmedida / This Excessive Ambition(スペイン)
ドキュメンタリー・ドラマ、スペイン語、135分
監督:サントス・バカナ、クリスティナ・トレナス、ロヘリオ・ゴンサレス
*サントス・バカナの本名はアルバロ・サントス(マドリード1991)、バレンシアの地中海に面したリゾート地ベニドルムのプレイモン・バカナから採られた。ミュージック・ビデオの監督、編集者、俳優、制作会社「Little Spain L.A. リトル・スペイン・ロサンゼルス」設立者の一人、ロヘリオ・ゴンサレス監督を通じて、2016年ラテングラミー賞の開催中だったラスベガスで初めてアーティストのC. Tangana(C. タンガナ)に出会った。

(サントス・バカナ)
*アーティストC. タンガナの本名はアントン・アルバレス・アルファロ(マドリード1990)、ラッパー兼ソングライター、愛称〈Puchoプーチョ〉で知られている。サントス・バカナはプーチョのミュージック・ビデオを制作している。2018年のミュージック・ビデオ「C. Tangana & Nino de Elche: Un Veneno」以来、3~4分のビデオを10本ほど撮っおり、うち代表作として「C. Tangana &Alizzz: Para Repartir」(19)、「C. Tangana:Demasiadas Mujeres」(20)などがある。

(C. タンガナ)

(「C. Tangana:Demasiadas Mujeres」から)
*ロヘリオ・ゴンサレス(マドリード1991)は監督、編集者。バカナとラスベガス空港で出会い、数時間後にはC. タンガナの部屋を訪れたという二人は互いに兄弟と思っている。ロスでサントス・バカナを主役にした短編ドキュメンタリー「Santos」(21,9分)を監督している。またC. タンガナが監督したミュージック・ビデオ「C. Tangana feat. Nathy Peluso: Ateo」(21)のフィルム編集を手掛けている。

(「Santos」のポスター)

(サントス・バカナ、ロヘリオ・ゴンサレス、C. タンガナの3人組)
*クリスティナ・トレナス(マドリード1987)は監督、脚本家、製作者、撮影監督。サントス・バカナの協力者の一人。製作者としてC. タンガナのミュージック・ビデオ全作を手掛けている。長編「From 7 to Eleven」(17)ほか、短編多数、2021年、マリア・ルビオとC. タンガナのミュージック・ビデオを監督している。フアン・ピンサスの「New York Shadow」の撮影監督として、ゴヤ賞2014にノミネートされ、撮影監督賞ノミネート最初の女性として話題になった。
解説:「El Madrileño」のレコードの成功を受け、C. タンガナはキャリアのなかで最も野心的なツアーを企画し、ライブのやり方に革命を起こすという挑戦に向き合っている。アーティストを4年以上も追いつづける旅、キューバでのアルバム制作以来、ショーの概念化、対立するビジネス、リハーサル、気づまりな会話、仲間内での賞賛、目まぐるしくスペインとラテンアメリカ全土を渡り歩くコンサートまで、彼の創作プロセスを探求する。3部構成で掘り下げる。

2)El otro lado / The Other Side (スペイン)TVミニシリーズ(6話、各30分)、コメディ・ホラー、Movister+
監督:ハビエル・ルイス・カルデラ(バルセロナ近郊ビラデカンス1976)、アルベルト・デ・トロ(バルセロナ1972)
企画:ベルト・ロメロ(バルセロナ近郊カルドナ1974)
脚本(共同):ラファエル・バルセロ、エンリク・パルド、ベルト・ロメロ
音楽:ハビエル・ロデロ
撮影:セルジ・ビラノバ・クラウディン
編集:オリオル・ペレス・アルカラス

(中央がベルト・ロメロ)
キャスト:ベルト・ロメロ(ナチョ・ニエト)、アンドレウ・ブエナフエンテ(エストラーダ博士)、エバ・ウガルテ、マリア・ボット、ナチョ・ビガロンド、マリア・パスクアル、アルベルト・ガルシア、ウーゴ・モレニーリャ、他
ストーリー:ジャーナリストのナチョ・ニエトは超常現象のスペシャリストである。公私ともに最悪の状態に陥っている。自殺が未遂に終わった後、ナチョは20年以上前に亡くなった、謎の神話的伝道者であり、彼の助言者でもあったエストラーダ博士の幽霊をともなって息を吹き返す。

*Movister+TVシリーズの新企画である本作は、俳優、コメディアン、脚本家として活躍しているベルト・ロメロが企画し、ハビエル・ルイス・カルデラとアルベルト・デ・トロが共同で監督します。ロメロはハビエル・ルイス・カルデラのコメディ「Tres bodas de más」に出演してゴヤ賞2014新人男優賞にノミネート、同監督の『SPY TIMEスパイ・タイム』にも出演しています。人気TVシリーズ、コメディ「Mira lo que has hecho」(2018~20、25分、全18話)の成功以来、久しぶりに主役で戻ってきて、今回初めてホラーのジャンルに挑戦します。シリーズでロメロのパートナー役を演じ数々の受賞歴のあるエバ・ウガルテが共演しています。
*『SPY TIME スパイ・タイム』の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィーの紹介をしています。コチラ⇒2016年02月02日

(エバ・ウガルテとベルト・ロメロを配した「Mira lo que has hecho」のポスター)
*他にエストラーダ博士役に、ゴヤ賞ガラの総合司会を夫人のシルビア・アブリルと2年連続(2019・2020)で成功させた、コメディアンのアンドレウ・ブエナフエンテが扮します。両人はホセ・ルイス・クエルダの遺作となってしまったSFコメディ「Tiempo después」(18)の共演や、お茶の間の人気トークショー「Nadie sabe nada」(2022~23)で二人揃って舌戦を繰り広げています。

(「Nadie sabe nada」のブエナフエンテとロメロ)
*新作は映画データバンクIMDbでは「エピソード8」となっていますが、本祭のメイン紹介記事や各紙誌によって「6話」を採用しています。ベロドロモ部門で何話上映されるかもアップされていません。
アウト・オブ・コンペティション2作*サンセバスチャン映画祭2023 ④ ― 2023年07月19日 17:19
ロス・ハビスのTVシリーズと特別上映のトゥルエバ&マリスカルの新作

(ロス・ハビスのTVシリーズ「La mesías」から)
★コンペ外の2作、ロス・ハビスことハビエル・アンブロッシ(マドリード1984)とハビエル・カルボ(ムルシア1991)のスリラー「La mesías」は7話からなるTVシリーズ、アウト・オブ・コンペティションだが2人がセクション・オフィシアルに参加するのは初めてである。舞台演出家でもあるロス・ハビスは『パキータ・サラス』(16)、「Veneno」(20)、「Caldo」(21)などのTVシリーズを成功させている。長編映画デビュー作「La llamada / Hoiy Camp」(17)は、『ホーリー・キャンプ!』の邦題でラテンビートFFで上映されている。出演者は『ブラック・ブレッド』の好演が記憶に残るロジェール・カザマジョール、アンブロッシ監督の実妹でもある『ブランカニエベス』や『ホーリー・キャンプ!』のマカレナ・ガルシア、『海を飛ぶ夢』のロラ・ドゥエニャス、カメレオン女優のカルメン・マチ、ほかアナ・ルハス、アルベルト・プラ、アマイアなど豪華キャストがクレジットされている。
*『ホーリー・キャンプ!』の作品&監督紹介は、コチラ⇒2017年10月07日

(ハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボ)

★フェルナンド・トゥルエバ(マドリード1955)とハビエル・マリスカル(バレンシア1950)のアニメーション「They Shot the Piano Player」(Dispararon al pianista)もセクション・オフィシアルのコンペ外である特別上映作品です。コンビは音楽アニメーション「Chico & Rita」(10)でタッグを組み、ラテンビート2011で『チコとリタ』として上映された。オスカー賞にノミネートされ、ゴヤ賞2011では長編アニメーション賞を受賞している。マリスカルはバルセロナ・オリンピックのマスコットでも知られているアーティスト。トゥルエバは新作について「この映画は、70年代に軍事クーデタで不当に命を奪われた天才の人生を、15年間にわたって調査したもである」と語っている。

(久々にタッグを組んだ「They Shot the Piano Player」から)

(フェルナンド・トルゥエバとハビエル・マリスカル)
★新作「They Shot the Piano Player」英語、2023
製作:Fernando Trueba Producciones Cinematograficas / Les Films d’Ici / Lola Films / Gao Shan Pictures
配給:ソニー・ピクチャーズ・クラシックス、フランスはSophie Dulac Distribution
製作者:クリスティナ・ウエテ、セルジュ・ラルー、ウンベルト・サンタナ
ナレーション:ジェフ・ゴールドブラム
製作国:スペイン、フランス、オランダ、ペルー、ポルトガル
解説:ブラジルのミュージシャン、ボサノバの音楽運動を推進した天才ピアニスト、テノリオ・ジュニオール(リオデジャネイロ1941~ブエノスアイレス1976、享年34歳)の謎の失踪の背後にある真実を追求しようと旅に出るニューヨークの音楽ジャーナリストの物語。ラテンアメリカ諸国が軍事政権に飲み込まれる直前の60~70年代を背景に、歴史の転換点にあるラテアメリカの創造的自由がはじける束の間の時間をとらえている。1976年、トキーニョとヴィニシウス・デ・モラエスと一緒にブラジルからアルゼンチンに演奏に出掛けたきり姿を消したフランシスコ・テノリオ・ジュニオールの失踪事件にインスパイアされている。

(フランシスコ・テノリオ・ジュニオール)
出演者:ナレーターは俳優でミュージシャンのジェフ・ゴールドブラム(ピッツバーグ1952)、他ブラジルのミュージシャン、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン、パウロ・モウラ、トキーニョ、ヴィニシウス・デ・モラエス、ジョアン・ドナート(2023年7月17日没)、ビル・エヴァンス(米国、1980年没)、ベボ・バルデス(キューバ、2013年没)、など。

(左ジェフ・ゴールドブラム)



スペイン映画14作ノミネート発表*サンセバスチャン映画祭2023 ③ ― 2023年07月17日 16:04
コンペティション部門にイサベル・コイシェの新作がノミネート

(スペイン映画14作が一挙に発表になった)
★7月14日マドリード発、スペイン映画アカデミーはスペイン製作の映画を中心に、セクション・オフィシアル(3作)、アウト・オブ・コンペティション(1作)、特別上映(1作)、ニューディレクターズ(1作)、ベロドロモ(2作)、オリソンテス・ラティノス(2作)、サバルテギ-タバカレラ(4作)の各部門合計14作を発表いたしました。今回はセクション・オフィシアルにノミネートされ金貝賞を競う、イサベル・コイシェ、ハイオネ・カンボルダ、イサベル・エルゲラの3女性監督の新作をアップします。特別上映枠にフェルナンド・トゥルエバ&ハビエル・マリスカルのコンビがアニメーション映画「They Shot The Piano Player」(Dispararon al pianista)で久々に登場します。いずれご紹介したい。
◎第71回SSIFF セクション・オフィシアル② ◎
8)O Corno / The Rye Horn (スペイン=ポルトガル=ベルギー)長編2作目
ガリシア語、ポルトガル語、103分
*イクスミラ・ベリアク 2020
監督:ハイオネ・カンボルダJaione Camborda(サンセバスティアン1983)は監督、脚本家、アートディレクター。映画はプラハとミュンヘンの映画学校で学んだ。長編デビュー作「Arima」は、セビーリャ・ヨーロッパFF2019「新しい波」セクションの監督賞受賞、ほかヒホン映画祭の受賞を経て、SSIFF 2020メイド・イン・スペインで上映されている。2作目でコンペティション部門に選出されるのは幸運です。本作はガリシア語で金貝賞を目指す最初の作品です。イクスミラ・ベリアクのプロジェクトに参加して完成させた。怖ろしい事件に巻き込まれ、島から逃亡せざるをえなかった女性マリアの人生が描かれる。ガリシアのポンテベドラのアロウサで撮影された。撮影監督は『サマ』など国際的に活躍するルイ・ポカスが手掛けている。
キャスト:ジャネット・ノバス(マリア)、シオバンSiobhan・フェルナンデス、カルラ・リバス、ダニエラ・エルナン・マルチャン、マリア・ラド、フリア・ゴメス、ホセ・ナバロ、ヌリア・レステガス、ディエゴ・アニド
ストーリー:1971年アロウサ島、マリアはエビやカニなどの海産物を採って生計を立てている。また他の女性のお産を手助けするなど、島では献身的な女性として知られた存在でした。しかし予期せぬ出来事により島を脱出しなければならなくなり、生き残りを賭けた危険な旅をすることになる。マリアは自由を求めて、ガリシアとポルトガル間の密航ルートに沿って国境を越えようと決心する。ガリシア語で撮られた映画のノミネート1作目となります。
*「Arima」の作品紹介は、コチラ⇒2020年09月12日

9)El sueño de la sultana / Sultana’s Dream(スペイン=ドイツ)SFアニ、85分
監督:イサベル・エルゲラ(サンセバスティアン1961)は、視覚アーティスト、製作者、アニメーションの監督。本作は長編アニメーションのデビュー作、1905年、ベンガル出身のイスラム教徒でフェミニストの作家、社会改革者であったロケヤ・ホセインRokeya Hossain(1880~1932)のSF小説、英語で出版された。当時女性が英語を学ぶことは不適切とされていたが、夫の理解を得て学んだ。女性が統治しているユートピア「レディランド」をベースにしている。短編アニメーション「La gallina ciega」がゴヤ賞2007短編アニメーション部門にノミネートされている。他「Kutxa beltza」(16)、「Amore d'inverno」(15)、「Bajo la almohada」(12)、「Ámár」(10)などを撮っている。
ストーリー:〈スルタン王妃の夢〉は、1905年インドのベンガル地方で書かれたSF小説にインスパイアされて製作された。女性たちがすべてを統治管理しているフェミニストの理想郷レディランドが舞台。男性は隔離されている。ユートピアでは「男性は強くて頭がいい、女性は弱くて愚か」という固定観念が壊れるというジェンダー逆転が生まれている。

10)Un amor(スペイン)スペイン語、ドラマ、140分
監督:イサベル・コイシェ(バルセロナ1960)、セクション・オフィシアル初参加となる本作は、サラ・メサのベストセラー小説 ”Un amor” (2020年刊)の映画化、ライア・コスタが主役ナタリアに扮する。脇を固めるホヴィク・ケウチケリアン、ウーゴ・シルバ、ルイス・ベルメホなど演技派を揃えている。本祭との関りでいうと、1988年ニューディレクターズ部門に「Demaciado viejo para morir joven」がノミネートされている。またドキュメンタリー「El techo amarillo」がセクション・オフィシアルで特別上映され、RTVE「ある視点」賞、ドゥニア・アジャソ賞スペシャル・メンションを受賞している。翌年のゴヤ賞ドキュメンタリー賞にノミネートされた。
キャスト:ライア・コスタ(ナット/ナタリア)、ホヴィク・ケウチケリアン(アンドレアス)、ウーゴ・シルバ、ルイス・ベルメホ、イングリッド・ガルシア≂ヨンソン、フランチェスコ・カリル
ストーリー:都会での息苦しい生活を逃れ、30代のナットはスペインの奥地に典型的な小さな村ラ・エスカパに避難所を見つけます。素朴な廃屋でナットは再び人生を立て直そうと決意します。家主は歓迎のしるしとして、飼いならしていない犬を連れてくる。やがて家主との対立や村民の不信感に直面して、隣人アンドレアスの不穏な性的提案を受け入れて、自分自身を驚かせることになる。この奇妙で矛盾をはらんだ出会いから、貪欲で強迫的な情熱が芽生えてくる。ナットは今まで彼女が自分だと思っていた女性は、本当の自分なのだろうか、実存への疑念と性的役割の破壊力を探求する。
◎本作については、別途作品紹介を予定しています。


(左から、ハイオネ・カンボルダ、イサベル・エルゲラ、イサベル・コイシェ)
フェリックス・ビスカレトの新作「Una vida no tan simple」 ― 2023年07月11日 17:47
人間の複雑さについての繊細で知的、辛辣で的確なシリアスコメディ

(パパ業は思うほどラクな仕事ではありません)
★前回の「Upon Entry / La llegada」と同じ、第26回マラガ映画祭2023でノミネートされたフェリックス・ビスカレトの辛口コメディ「Una vida no tan simple」がスペインで公開されました。各紙誌の評価は軒並みポジティブです。既に若者とは言えない、かといってシニアとも言えない宙ぶらりんの40代男性の悲哀が語られる。マラガでざっと紹介しましたが、日本の40代でも似たような傾向がみられることや贔屓の監督とキャスト陣ということで改めて紹介します。現代のように不確実性のなかで生きていくには、なりたかった自分になれないのは致し方ないのか、軽率に父親になってしまったことが悪かったのか、何処で間違ってしまったのか。こどもを持ってしまった中産階級カップルの繊細な可笑しさを失わない寓話。
*「Una vida no tan simple」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月14日
* 監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年11月11日

(左から、ミキ・エスパルベ、オラヤ・カルデラ、フェリックス・ビスカレト監督、
アレックス・ガルシア、アナ・ポルボロサ、マラガ映画祭2023フォトコール)
「Una vida no tan simple」(仮題「人生はそれほど容易でない」)
製作:Lamia Producciones / A Contracorriente Films / Euskal Irrati Telebista
(EiTB)/ Movistar+ 協賛 Gobierno de Navarra
監督・脚本:フェリックス・ビスカレト
音楽:ミケル・サラス
撮影:オルカル・ドゥラン
編集:ビクトリア・ランメルス
美術:エイデル・ルイス
キャスティング:フロレンシア・イネス・ゴンサレス、チャベ・アチャ
衣装デザイン:イラチェ・サンス
製作者:アドルフォ・ブランコ、イケル・ガヌサ、(エグゼクティブ)マヌエル・モンソン、パス・レコロンス、エレナ・タベルナ
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語、ドラマ、107分、撮影地ビルバオ、期間2021年末、公開スペイン2023年06月23日
映画祭・受賞歴:第26回マラガ映画祭2023セクション・オフィシアル正式出品
キャスト:ミキ・エスパルベ(イサイアス)、アレックス・ガルシア(同僚ニコ)、アナ・ポルボロサ(ソニア)、オラヤ・カルデラ(妻アイノア)、フリアン・ビジャグラン、ラモン・バレア、シャビ・バルカルセル
ストーリー:40歳のイサイアスは受賞歴のある有望な建築家でした。現在、彼は建築スタジオと子供たちが遊ぶ公園の間を行ったり来たりの日々を過ごしていますが、何処にいても自分がいるべき場所にいないと感じています。皆は別の場所にいて誰も自分のことなど覚えていないと感じています。彼の妻アイノアとの関係では月日の経過を感じ良好とはいえません。幼い子供たちが如何に大人を疲れさせるかを痛感しているイサイアスはいつもへとへとになっている。他の子供の賢明な母親であるソニアとの友情を深めますが、彼女は子供を一人前に育てて大人にするのは、それほど簡単ではないことを彼に教えます。誰もが喧嘩をせず友好的になろうとして、慎重かつ賢明な会話が交わされる、中産階級40代カップルの危機を掘り下げる。

(一人ずつ我が子を抱えたイサイアスとアイノア、フレームから)
生きることは簡単な仕事ではない、確実なノウハウもありません
★かつてモラトリアム世代と言えば、20代30代だったものが、現在では40代と期間がどんどん長くなり、世間全体が幼児化してきているように感じます。このままだと子供を大人に教育する世代がいなくなってしまうのではないかと気になりますw。ディテールは未見なので想像の域をでませんが、失意の建築家イサイアスに生命を吹き込むミキ・エスパルベを見ていると、周囲の40代の誰彼の顔を浮かべてしまいます。居場所がないのではなく「ここは自分のいるべき場所ではない」という、居場所のない人からみれば贅沢な悩みなのです。イサイアスにはどうもエネルギーが足りない。
★対話劇のようですが、気まずい沈黙が訪れるとき、物語は動き出す。成功と失敗、屈辱、諦めの渦のなかで、建築家は周囲の期待に応えなければならないが、果たしてうまくいくでしょうか。結末がポジティブとネガティブに割れていますが、建築家を演じたミキ・エスパルベの評価はオール・ポジティブです。当ブログにも何回か登場させていますが、以下に日本語字幕入りで見られる作品を中心にラインナップしておきます。また大学教師の妻アイノアに扮したオラヤ・カルデラの演技をほめる記事が散見されました。イサイアスの同僚アレックス・ガルシア扮するニコとどうも微妙な関係らしいが、この手のドラマではよくある話です。離婚率の高さは万国共通、壁は日に日に低くなってきました。アナ・ポルボロサ扮する賢いソニアの造形も、クラスに一人か二人、見かけるタイプです。

(イサイアスとニコ)

(ソニアとイサイアス)
★ミキ・エスパルベ、1983年カタルーニャのマンレサ生れ、俳優、脚本家、監督(短編2本)、ポンペウ・ファブラ大学、バルセロナのNancy Tuñón’s School で演技を学ぶ。スペイン語とカタルーニャ語の映画に出演している。2016年マルク・クレウエトの「El rei borni」でガウディ賞2017主演男優賞、CEC新人賞にノミネート、2018年舞台をベルリンに移して撮った、エレナ・トラぺの「Les distàncies」で同じく助演男優賞にノミネートされている。フェルナンド・ボネリの短編「[Still] love you」でメディナ映画祭2017男優賞を受賞している。Netflixで配信されている作品も結構あり、字幕入りで鑑賞できる数少ない俳優の一人です。
* 主なフィルモグラフィー
2015「Perdiendo el norte」(「Off Course」『夢と希望のベルリン生活』Netflix)助演
監督ナチョ・G・ベリーリャ
2015「Requisitos para ser una persona normal」コメディ、同レティシア・ドレラ、助演
2016「El rei borni」監督マルク・クレウエト、主演
2017「No sé decir adiós」(『さよならが言えなくて』)監督リノ・エスカレラ、助演
2018「Les distàncies」監督エレナ・トラぺ、助演
2019「Perdiendo el este」(「Off Course to China」)監督パコ・カバジェロ、主演
2020「Malnazidos」(ホラー『マルナシドス~ゾンビの谷』Netflixコロナ禍で2022公開)
監督ハビエル・ルイス・カルデラ、主演
2021「El inocente」(『イノセント』TVシリーズ 6話出演、Netflix)助演
2021「Tres」(「Out of Sync」)監督フアンホ・ヒメネス・ペーニャ、
ガウディ賞助演男優賞ノミネート
2022「Un hombre de acción」(『オンブレ・デ・アクシオン 伝説のアナーキスト』
Netflix)ハビエル・ルイス・カルデラ、助演
2022「Smiley」(ラブコメ『スマイリー』TVシリーズ全8話)企画ギレム・クルア、主演
2023「Una vida no tan simple」割愛

(ガウディ賞主演男優賞ノミネートの「El rei borni」から)
★フェリックス・ビスカレト(パンプローナ1975)は、2007年「Bajo las estrellas」で長編デビューした監督、脚本家、製作者。キャリアは以前の紹介に譲るとして、本作以降の仕事として、目下話題のTVシリーズ「Galgos」(23、全8話)のうち4話を監督します。ベテランのオスカル・マルティネス、パトリシア・ロペス・アルナイス、アドリアナ・オソレス、若手マリア・ペドラサ、マルセル・ボラスなど新旧入り混じっての豪華キャストです。

(「Galgos」撮影中の監督、アドリアナ・オソレス、マルセル・ボラス)

(右、パトリシア・ロペス・アルナイス)

(マリア・ペドロサ)
ストリーミング配信を期待する「Upon Entry」 ― 2023年07月01日 15:06
カラカス出身の若い二人の監督、ロハスとバスケス

★サンセバスチャン映画祭2023のセクション・オフィシアル発表は、多分7月上旬あたりになると予想しています。というわけで前回のエレナ・トラぺの「Els encantats」に続いて、公開は無理としてミニ映画祭、ストリーミング配信などで観たい映画を幾つかアップする予定です。
★3月に開催されたマラガ映画祭2023コンペティション部門にノミネートされたアレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケスの「Upon Entry / La llegada」が、予告通りスペインで公開されました(8月16日)。マラガFF では、主演のアルベルト・アンマンが男優賞(銀のビスナガ)を受賞した作品です。両監督ともベネズエラのカラカス出身ですがバルセロナに在住、本国では映画製作ができない、いわゆる才能流出組です。二人ともHBO(Home Box Office有料ケーブルテレビ放送局、本部ニューヨーク)の仕事をしており、ロハスはNetflix にも携わっています。バスケスが撮影監督をしたカルレス・トラスの「El practicante」(20)は、Netflixで『パラメディック~闇の救急救命士』として配信されている。本作はIMDbによると、松竹が配給元にアップされているので、公開もありかと期待して改めて紹介したい。
*マラガ映画祭2023での監督キャリア&作品紹介は、コチラ⇒2023年03月14日

(左から、フアン・セバスティアン・バスケス、アレハンドロ・ロハス両監督、
製作者カルレス・トラス、タリン・ブラック・ナイツFF 2022)

(フアン・セバスティアン・バスケス、アレハンドロ・ロハス、マラガFF フォトコール)
「Upon Entry / La llegada」(仮題「通関 / 到着」)
製作:Zabriskie Films / Basque Films / Sygnatia 協賛ICEC / TV3
監督:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスティアン・バスケス
脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスティアン・バスケス
撮影:フアン・セバスティアン・バスケス
編集:エマヌエーレ・ティツィアーニ
キャスティング:ジェラルド・オムス
美術:セルソ・デ・グラシア
メイクアップ&ヘアー:ロラ・カニャス(ヘアー)、スシ・ロドリゲス(メイク&ヘアー)
プロダクション・マネージメント:セルヒオ・アドリア、カルラ・ビセンテ
視覚効果:Hover Pinilla
製作者:カルレス・トラス(Zabriskie Films)、カルロス・フアレス、ショセ・サパタ、セルヒオ・アドリア、アルバ・ソトラ
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・カタルーニャ語・英語、心理的スリラー、74分、公開スペイン2023年6月16日
映画祭・受賞歴:第26回タリン・ブラック・ナイツ映画祭2022(エストニア)FIPRESCI賞受賞、コルカタFF 2022ゴールデンベンガル・ロイヤルタイガー賞(インド)、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭2023、マラガFF 2023 銀のビスナガ男優賞(アルベルト・アンマン)、BAFICI 映画祭2023(ブエノスアイレス)コンペティション部門正式出品、D’A バルセロナFF、他多数
キャスト:アルベルト・アンマン(ディエゴ)、ブルーナ・クシ(エレナ)、ベン・テンプル(バレット税関職員)、ラウラ・ゴメス(バスケス税関職員)、ヌリス・ブルー(入国審査官)、デビッド・コムリー(警察官)、ルイス・フェルナンデス・デ・エリベ(ルイス)、コリン・モーガン(警察官)、ジェラルド・オムス(旅客)、他
ストーリー:ベネズエラ出身の都市計画家ディエゴ、バルセロナ出身のコンテンポラリーダンサーのエレナ、二人は新しい生活を始めるため公式に承認された移民許可証を持って米国に到着する。彼らの目的は、プロとしてのキャリアを高め、「チャンスの国」であるマイアミで家族を築くことでした。しかし、ニューヨーク空港の入国審査エリアに入ると、彼らは二次検査室に連れていかれ、カップルが何か隠蔽しているものがあるのではないか、と税関職員による心理的に不快な尋問を受けることになる。移民プロセスの複雑さ、外国人嫌い、少数の登場人物だけで緊張感あふれるドラマが展開する。アメリカン・ドリームと国家が自国の領土の安全を取り締まる権利が描かれる。

(厳しい尋問を受けるディエゴとエレナ、フレームから)
最高の演技と絶賛されたアルベルト・アンマンとブルーナ・クシ
★監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、既にアップしているマラガ映画祭の紹介記事に譲るとして、二人の主役を演じ、今までで恐らく最高のパフォーマンスと絶賛されている、アルベルト・アンマンとブルーナ・クシのキャリアを紹介したい。上述のようにアンマンはマラガ映画祭で最優秀男優賞を受賞している。ブルーナ・クシは、カルラ・シモンのデビュー作『悲しみに、こんにちは』で少女の義理の叔母役の好演でゴヤ賞2018新人女優賞を受賞している。

(銀のビスナガ男優賞受賞のアルベルト・アンマン、マラガ映画祭2023ガラ)
★アルベルト・アンマンは、1978年アルゼンチンのコルドバ生れ、俳優、ミュージシャン。父親はジャーナリスト出身の政治家で作家のルイス・アルベルト・アンマンで後に大統領候補にも選ばれている。アルゼンチン軍事独裁政権(1976~83)を逃れて、一家は彼が生後1ヵ月のときスペインに亡命した。アルゼンチンがフォークランド戦争でイギリスに敗北した1982年に帰国するが、彼は数年後再びスペインに戻って、同じ理由でスペインに亡命してマドリードでアトリエを開き演技指導に当たっていたフアン・カルロス・コラッツァの演技学校で学んでいる。アルゼンチンではコルドバのジョリー・リボワ・シアター学校でも学んでいる。
*2009年、ダニエル・モンソンの「Celda 211」の囚人に間違われた看守役で電撃デビュー、翌年のゴヤ賞新人賞を受賞した。本作は「スペイン映画祭2009」では『第211号監房』として上映されたが、公開時には何故かオリジナル題とかけ離れた『プリズン211』となり、ファンを呆れさせた。翌2010年、16世紀の劇作家ロペ・デ・ベガのビオピック「Lope」に主演、2011年、キケ・マイジョのSF映画「EVA」(『EVA〈エヴァ〉』)、2012年、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』や『ワイルド・ルーザー』(13)、ホルヘ・ドラドのSFミステリー『記憶探偵と鍵のかかった少女』(13)に脇役で出演する。

(ルイス・トサールと共演した『プリズン211』から)
*2013年アルゼンチンに戻り、エルナン・ゴルドフリードのスリラー『ある殺人に関するテーゼ』でリカルド・ダリンと共演するなどした。メキシコのルイス・マンドキの「Presencias」(22)、オリヴィエ・マルシャルのアクション・スリラー『オーバードーズ 破滅の入り口』(22、プライム・ビデオ)など。アルゼンチンのマルティン・デ・サルボの「El silencio del cazador」でマラガ映画祭2020、銀のビスナガ男優賞をパブロ・エチャリと受賞しているほか、サンティアゴ映画祭SANFICで男優賞を受賞した。
★NetflixのTVシリーズ『ナルコス』(15~17、20話)では、カリ・カルテルのボス、パチョ・エレーラを演じる。2019年『ナルコス』でスペイン俳優組合賞を受賞する。ほか『アパッチ』(15~17、12話)、『マーズ 火星移住計画』(16~18、12話)、『ナルコス:メキシコ編1~3』(18~21、9話)とテレビ出演も多い。2022年ショセ・モライス企画の『ザ・ロンゲスト・ナイト』(6話)もNetflixで配信された。

(パチョ・エレーラに扮したアンマン、TVシリーズ『ナルコス』から)
★ブルーナ・クシ、1987年バルセロナ生れ、映画・TV・舞台女優。父親は俳優のエンリク・クシ、バルセロナの演劇学校で学ぶ、その後バルセロナの演劇研究所でアルフレッド・カセス、ロベルト・ロメイの指導を受ける。2010年アルテ・ドラマティコの資格を受ける。アントニオ・ファバと一緒にコメディア・デル・アルテを設立するためイタリアを訪れる。カタルーニャTVシリーズ「Pulseras rojas」(11~13、8話)に出演、主なテレビ出演は、主演「Instinto」(19、8話)、助演「The Alienist」(20、5話)、主演「Los herederos de la tierra」(22、5話)はNetflixで『大地を受け継ぎし者』の邦題で配信されている。アンナ・R・コスタのコメディ「Facil」(22、5話)にナタリア・デ・モリーナやアンナ・カスティーリョと共演している。

(バックは尋問する2人の税関職員、「Upon Entry」から)
*2013年、アグスティ・ビリャロンガと出会い、スペイン内戦をテーマにした「Incerta glôra」(Incerta gloria)で映画のキャリアをスタートさせ、ガウディ賞、サンジョルディ賞にノミネートされた。その後、上述したようにカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』でゴヤ賞2018新人女優賞のほか、ガウディ賞助演女優賞を受賞、フォルケ賞やサンジョルディ賞にもノミネートされた。2019年、フアン・ゴンサレス&ナンド・マルティネスのファンタジー「La reina de los lagartos」に出演、ラファ・デ・ロス・アルコスの短編「Todo el mundo se parece de lejos」(15分)でAguilar de Campoo 短編映画祭2019女優賞、カンス・フェスティバル2020女優賞を受賞した。2004年からガリシア州ポンテペドラの小さな村カンスで開催されるユニークな短編映画祭です。

(ゴヤ賞2018新人女優賞の晴れ舞台から)
*2020年はバイリンガルということも幸いしてテレビや短編も含めて活躍の年になった。リュイス・ダネスのホラー「La vampira de Barcelona」(カタルーニャ語)に出演、ガウディ賞助演女優賞にノミネートされた。他にダビ&アレックス・パストール兄弟の「Hogar」でハビエル・グティエレスと夫婦役を演じている。本作は『その住人たちは』の邦題でNetflix配信された。2021年、ボルハ・デ・ラ・ベガの「Mía y Moi」(スペイン語)に主演、弟モイ役を演じたリカルド・ゴメスは一時期パートナーだった。

(ディオールの刺繍入りドレスが好評だったガウディ賞2021ガラにて)
*「Upon Entry / La llegada」と同じマラガ映画祭2023のコンペティション部門にノミネートされた、フアン・ゴンサレス&ナンド・マルティネスのコメディSF「El fantástico caso del Golem」、マリオ・エルナンデスのロマンティックコメディ「Tregua (s)」に主演するなど、2023年のマラガには出演作が3作もノミネートされるという女優にとって異例の年でした。各映画とも簡単ですが既に作品紹介をしています。今後の活躍が確約されている女優として見守りたい。
◎ブルーナ・クシ関連記事
*『悲しみに、こんにちは』の作品紹介は、コチラ⇒2017年02月22日
*「La vampira de Barcelona」の作品紹介は、コチラ⇒2021年03月24日
*「Tregua (s)」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月12日
*「El fantástico caso del Golem」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月06日
*「La reina de los lagartos」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月06日
*『その住人たちは』の作品紹介は、コチラ⇒2020年03月31日
◎追加情報:邦題未定ですが、2025年9月19日公開がアナウンスされました。
『入国審査』の邦題で2025年8月1日劇場公開されました。
新世代監督エレナ・トラぺの3作目「Els encantats」公開 ― 2023年06月21日 16:11
ゴヤ賞主演女優賞を受賞したライア・コスタが主演

★エレナ・トラぺの3作目「Els encantats / Los encantados」は、ゴヤ賞2023主演女優賞を受賞したライア・コスタをヒロインにしたドラマ。コスタはアラウダ・ルイス・デ・アスアのデビュー作「Cinco lobitos」での演技が評価されての受賞でした。監督自身も新人監督賞を受賞するなど昨年の話題作でした。
★今回ご紹介するトラペの3作目「Els encantats / Los encantados」(仮題「魔法にかけられて」)は、今年のマラガ映画祭コンペティション部門に正式出品されました。監督は銀のビスナガ脚本賞を共同執筆者のミゲル・イバニェス・モンロイと受賞しています。マラガには監督以下、トラペ映画を手掛けるエグゼクティブプロデューサーのマルタ・ラミレス、キャスト陣ではダニエル・ペレス・プラダ、アイナラ・エレハルデなどが現地入りしました。昨今では珍しくもない自分探しがテーマのようにみえますが、脚本賞を受賞しただけに中々一筋縄ではいかない捻りがあるようです。ライア・コスタによる素晴らしいパフォーマンスとも相まって、ときには痛みを伴うが表層的ではないというポジティブな批評が多い。

(エレナ・トラぺ、マラガ映画祭2023フォトコール)

(左から、ダニエル・ペレス・プラダ、3人目がエレナ・トラぺ、マルタ・ラミレスなど)

(ミゲル・イバニェスとエレナ・トラぺ、マラガFF2023授賞式)
★長編2作目「Les distàncies / Las destancias」は、マラガ映画祭2018でプレミアされ、金のビスナガ作品賞、トラペ自身も監督賞を受賞した。その後、釜山、カリ、ナント、トゥールーズなどの映画祭巡りをして、翌年のガウディ作品賞、サンジョルディ撮影賞を受賞するなどした。両作とも人生の岐路に立つ30代後半を登場人物に据えているが、こちらは2008年のリーマンショックで他国への出稼ぎを余儀なくされたミレニアル世代(1981~96年生れ)の幻滅を描いており、新作のように母親になること、離婚などには踏み込んでいない。監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は以下にアップしています。
*「Els encantats」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月06日
*「Les distàncies / Las destancias」の作品&フィルモグラフィー紹介は、

(第2作「Les distàncies」のスペイン語版ポスター)
「Els encantats / Los encantados」(「The Enchanted」)
製作:Coming Soon Films / A Contracorriente Films / RTVE / TVC / ICAA 他
監督:エレナ・トラぺ
脚本:エレナ・トラぺ、ミゲル・イバニェス・モンロイ
音楽:アンナ・アンドリュー
撮影:パウ・カステジョン・ウベダ
美術:イレネ・モントカダ
編集:ソフィア・エスクデ
プロダクションディレクター:エリサ・シルベント
キャスティング:アンナ・ゴンサレス・パスクアル
メイクアップ&ヘアー:ラウラ・ガルシア
衣装デザイン:マルタ・ムリージョ
音響:ナチョ・オルトゥサル、ラウラ・ディエス
製作者:マルタ・ラミレス(エグゼクティブ)、アドルフォ・ブランコ、フェルナンド・リエラ、マヌエル・モンソン、リュイス・ルスカレダ、他
データ:製作国スペイン、2023年、カタルーニャ語、ドラマ、108分、撮影地カタルーニャ州ピレネー山脈沿いのアンティスト(Vall Fosca)、配給A Contracorriente Films 公開スペイン2023年6月2日
映画祭・受賞歴:第26回マラガ映画祭2023コンペティション部門にノミネート、脚本賞受賞。
キャスト:ライア・コスタ(イレネ)、ダニエル・ペレス・プラダ(友人エリック)、ペップ・クルス(祖父アグスティ)、アイナ・クロテット(隣人イングリット)、アイナラ・エレハルデ(隣人ジーナ)、デリア・ブルファウ(マルタ)、カルロス・ディ・ロス(ギジェルモ)、他
ストーリー:離婚手続き中のイレネは、4歳になる娘が父親と数週間過ごすことになり、初めて一人で自分自身に向き合うことになる。この新しい現実に適応できず、実家のあるカタルーニャのピレネー山脈近くの小さな村に出掛けようと思い立つ。長いあいだ失ったと感じていた安定と落着きを取り戻そうと考えたのだ。しかし、記憶のなかでは親しい場所であったのに、次第に自分の人生と同じようにイレネを圧倒するようになり、逃避からは何も得られないことを理解する。岩の割れ目には何かの生き物が住んでおり、夜になると出てくる。あまり近づきすぎると、あなたは彼らを愛するようになり、永遠にここに止まることになるという、カタルーニャの伝説が語られる。場所は魔法のように人を癒すことはできない。

(岩の割れ目を覗くイレネ、フレームから)
★マラガ映画祭の紹介記事と重なりますが、公開されたことで情報が入手しやすくなったので、加筆して再構成しました。フランコ体制が終わった1976年生れの監督はミレニアル世代には属しておりませんが、スペインを壊滅的にした経済危機をもろに受けています。若者の失業率は60~70%を超え、EUのお荷物といわれたスペイン、日本でも若者の非正規雇用が大量に発生、霞が関も大企業も無視続けた結果、経済の二極化が進んだ。「失われた30年」として、原因やその責任を問われぬまま延々と30年も続いている。30年で終止符をうつのか、40年に突入するのか。このミレニアル世代特有の「もう、うんざり」感が表面的には語られないが、奥深くに見え隠れするのではないか。監督は「時間が記憶を美化しただけのような牧歌的な田舎のノスタルジックな映画を打破したい」とコメントしている。

(撮影中の監督とイレネ役のライア・コスタ)
★イレネを怖ろしい苦痛感から逃れさせるために、監督は彼女をピレネー山脈の近くにある村に逃避させます。両親が所有する家があるからです。しかし風光明媚な田舎も単なる場所でしかなく、イレネは最終的には新たな厳しい現実に直面する。場所は魔法のように人を癒すことはできない。初めて離れて暮らす娘の様子を電話で尋ねる、そう、イレネは母親なのだ。村の若い女性ジーナとその友人たちとのコントラスト、監督は世代間の違いを繊細に描いていく。内省的な映画ではあるが、イレネを体現するライア・コスタの自然な演技は注目に値するだろう。因みにジーナを演じたアイナラ・エレハルデ(バルセロナ2001)は、苗字からも分かるようにカラ・エレハルデの娘で本作でデビューした。目下売り出し中、将来が期待される新人です。

(最近のアイナラ・エレハルデ)
★トラペ監督は、公開時にエル・パイスのインタビューに以下のように応えています。カタルーニャ語で行われたようですが、スペイン語に翻訳されたのをつまみ食いしてピックアップします。「へえー、そうなの?」、またはスペイン民主主義移行期の少女たちの興味深い片鱗を窺うこともできる。
Q: 最近のスペイン映画はなぜ田舎かや山へ脱出するのが多いのでしょうか。
A: 私の場合、山は主人公に起こる多くのことを触媒します。主人公は痛みに直面するからです。映画に登場するものはすべて本物で名前を変更せず、ストーリーをここに統合しようとしました。しかし、私はこの村の環境を、都会の人がもっている理想的な美的体験から見ていることを認めます。
Q: 2作目「Les distàncies」のあと、TVシリーズ『エリート』を手掛けていますが、混乱することはありませんか。
A: まったくありません。TVプロジェクトで多くのことを学びました。新作を撮影する方法を見つけたのも「Rapa」や『エリート』を手掛けたおかげです。
*管理人:ハビエル・カマラ主演の犯罪スリラー「Rapa」(12話、22~23)では、2022年3話を監督している。他にも「HIT」(30話、20~21)6話、最新作「Yo, adicto」(23)では6話を手掛けている。
Q: あなたが最も多く観た映画は何でしょうか。
A: 『クレイマー、クレイマー』です。
*管理人:少し意外でしたが、日本でもヒットしました。1979年製作、ロバート・ベントン監督、主演はダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ。
Q: 子供時代を思い出させる映画があるでしょうか。
A: 姉と私が好きだったのは、一つは『何かいいことないか子猫チャン』、もう一つは『掠奪された七人の花嫁』です。
*管理人:前者は1965年製作、クライヴ・ドナー監督、ピーター・オトゥール、ピーター・セラーズ主演のコメディ、ウディ・アレンが脚本と脇役でも出演しています。後者は1954年製作、スタンリー・ドーネン監督のミュージカル映画、海外のクラシック映画が80年代に公開されたのでしょうか、当時スペインは吹き替えが一般的でした。
Q: あなたの映画に出てほしい女優は誰でしょうか。
A: オリヴィア・コールマン。
*管理人:日本でも人気の高いオスカー女優、『女王陛下のお気に入り』でアカデミー主演女優賞、『ファーザー』、TVシリーズのエリザベス2世役でお馴染みです。
Q: ペドロ・アルモドバル、ビクトル・エリセ、ピラール・ミロ、いずれか選択してください。
A: ペドロ・アルモドバル。
Q: J. A. バヨナ、アルベルト・セラ、イサベル・コイシェ、いずれか選択してください。
A: イサベル・コイシェ。
*管理人:これは聞くまでもありません。2004年、トラペはバルセロナ大学付属上級映画学校ESCAC監督科出身でコイシェの薫陶を受けています。J. A. バヨナもESCAC出身。コイシェについてのドキュメンタリー「Palabras, mapas, secretos, otras cosas」(15、58分)は、ロス、ポートランド、ニューヨーク、ベルリン、バルセロナを巡ります。コイシェの映画に出演したティム・ロビン、菊地凛子などが登場します。

(イサベル・コイシェ、フレームから)
Q: 最近あなたを魅了した映画はなんでしょうか。
A: ジェイミー・ダックのデビュー作「Palm Trees and Power Lines」をFilminで観ました。地味ですが繊細で壊滅的な映画だと思いました。俳優が素晴らしくて魅了されました。
*管理人: Filminというのは独立系映画のストリーミングに特化した映画配給会社、バルセロナに本社があり、スペインでは多くの人が加入している。バジャドリード映画祭2022で「Nunca llueve en California」として上映された。
Q: 誰もが賞賛する映画監督はどなたでしょう。
A: アレクサンダー・ペイン。
*管理人:アレクサンダー・ペイン(1961)はアメリカの監督、脚本家。代表作『サイドウェイ』(04)、『ファミリー・ツリー』(11)など。
Q: 映画化したい本がありますか。
A: ニック・ドルナソのグラフィックノベル ”Sabrina” です。
*管理人:ニック・ドルナソは漫画家、イラストレーター。”Sabrina” (2018)はグラフィックノベルとして初めてブッカー賞の候補になった。本邦でも2019年『サブリナ』として翻訳本が刊行されている。
Q: 今、ナイトテーブルにある本は何でしょう。
A: マギー・オファーレルの ”El retrat de matrimoni” です。
*管理人:マギー・オファーレル(北アイルランド1954)の原作 “The Marriage Portrait”(2022刊)は、15歳で政略結婚させられ、16歳で生涯を閉じたルクレツィア・ディ・コジモ・デ・メディチについて語ります。『ルクレツィアの肖像』として翻訳書がまもなく出版されます。(6月29日刊)
Q: いま読みかけている本は何でしょうか?
A: オーシャン・ヴオンの “On Earth We’re Briefly Gorgeous” です。
*管理人:オーシャン・ヴオン(ベトナムのホーチミン1988)はアメリカの作家、詩人。この長編小説は『地上で僕らはつかの間きらめく』(2019年刊)という邦題で翻訳書が出ています。
Q: 尊敬するミュージシャンは?
A: フランコ・バッティアート。
*管理人:イタリアのシンガーソングライター(1945~2021)。
★まだインタビューは続きますが、映画と離れていくのでお開きといたします。
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