ガルシア=マルケスのドキュメンタリー*”Gabo:la creación de Gabriel García Márquez”2016年03月27日 15:08

                    マコンドの黄色い列車に乗って

 

Gabola creación de Gabriel García Marquezは、イギリスの監督ジャスティン・ウエブスタードキュメンタリーですが、言語はスペイン語です。監督はスペイン語が流暢、前作I will Be Murdered2013Seré asesinado”)もグアテマラの弁護士暗殺事件をテーマにしたドキュメンタリー、各地の国際映画祭で受賞しています。“Gabo”はガウディ賞2016にノミネーションされましたが受賞ならず記事を見送りました。しかし毎年誕生月の3月になると何かしら記事が目につき、今年の命日(417日)は、日本流に言うと3回忌にあたるのでご紹介することに。作家本人の登場は少ないようですが、監督によると「今まで彼のドキュメンタリーはなかった。それはインタビュー嫌いだったからだ」そうです2014年の死去に際しては当ブログでも「ガボと映画」に関する記事を中心に幾つかアップしております。

 

皆無というわけではなく、「本格的な」ドキュメンタリー映画という意味に解釈したい。作家の80歳の誕生を祝して製作された、ルイス・フェルナンドのBuscando a Gabo2007、コロンビアTV52分)が、翌2008年に『ガボを探し求めて』の邦題で上映されました(セルバンテス文化センター)。他にも『百年の孤独』に関連したシュテファン・シェヴィーテルトの“El Acordeón del Diablo”(2001、スイス=コロンビア=ドイツ合作)が『惡魔のアコーディオン』の邦題でテレビ放映されている。シェヴィーテルトは音楽ドキュメンタリー『キング・オブ・クレズマー』が公開されている監督。

「ガボと映画」に関する記事は、コチラ⇒2014123日・427日・429

 

    

 

 

  Gabola creación de Gabriel García Márquez 2015

(“GaboThe Creation of Gabriel García Márquez”、Gabola magia de lo real”他

製作:JWProductions / CanalEspaña / Caracol(コロンビアTV)他

監督・脚本:ジャスティン・ウエブスター

データ:製作国西=英=コロンビア=仏=米、スペイン語、2015年、ドキュメンタリー、伝記、90分、公開コロンビア20153月、スペイン2015417日(1周忌)、マドリード限定(TV放映)423日、バルセロナ1219日、米国独立系の映画館で20163月、ドイツ、フランス、イタリアではテレビ放映予定、他

映画祭・ノミネーション:カルタヘナ・デ・インディアス映画祭2015313日、ニューヨークのコロンビア映画祭、シカゴのラテン映画祭、ガウディ賞2016ドキュメンタリー部門ノミネーション、他

 

キャスト:フアン・ガブリエル・バスケス(作家)、アイーダ(妹1930生れ)、ハイメ(弟1941生れ)、ヘラルド・マルティン(ガボの伝記作家)、プリニオ・アプレヨ=メンドサ(親友のジャーナリスト)、セサル・ガビリア・トルヒーリョ(元コロンビア大統領)、ビル・クリントン(元合衆国大統領)、ジョン・リー・アンダーソン(ジャーナリスト)、タチア・キンタナル(元恋人)、他

 

  

                    (『百年の孤独』を頭にのせた有名なフォト)

 

       複雑に錯綜するポリフォニックな声をどこまで拾えたか?

 

「メキシコに行くつもりだよ」と親友プリニオ・アプレヨ=メンドサ**に語って、まだノーベル賞作家ではなかった1961年に妻メルセデスと長男ロドリゴを伴ってコロンビアを去った。到着したメキシコのメディアは、ノーベル賞作家ヘミングウェイのショットガン自殺(72日)を盛んに報じていたという。出演してくれた彼の妹弟が兄への愛を語るのは当然だが、「有名な作家だから賞賛しなければならないと考えた人々には出会わなかった」と監督。妹アイーダ弟ハイメの二人は、大変な読書好きだった母親について語っている。しかし作家が大きな影響を受けたのは彼の幼少期に母親代りだった母方の祖母、つまり『大佐に手紙は来ない』に出てくる大佐夫人だった。アイーダとハイメは『予告された殺人の記録』に実名で登場している。

 

     

            (マルケス一家、妻メルセデス、ガボ、次男ゴンサロ、長男ロドリゴ)

 

**プリニオ・アプレヨ=メンドサは、1957年に共産諸国(ポーランド、チェコスロバキア、ソ連、東ドイツ、ハンガリー)を巡る旅を一緒にしたコロンビア人のジャーナリスト。しかし1971年の「パディーリャ事件」での意見の相違から袂を分かつ。彼についてはアンヘル・エステバン&ステファニー・パニヂェリのGabo y Fidel2004『絆と権力 ガルシア=マルケスとカストロ』新潮社、2010、野谷文昭訳)に詳しい。ウィキペディアからは見えてこない作家の一面が分かる推薦図書の一つ。あくまでもIMDbによる情報ですが、残念ながら二人の著者はキャスト欄にクレジットされていない。複雑に錯綜するポリフォニックな声をどこまで拾えたかが本作の評価を左右すると思います。       

 

  

   (前列左から2人目ブニュエル、一人おいた眼鏡がガボ、1965年アカプルコにて)

 

本作の語り手にコロンビアの作家フアン・ガブリエル・バスケス1973ボゴタ)を起用している。ロサリオ大学で法学を専攻、1996年フランスに渡り、1999年パリ大学ソルボンヌでラテンアメリカ文学の博士号取得、1年ほどベルギーに滞在した。その後バルセロナに移り2012年まで在住、現在はボゴタに戻っている。彼のEl ruido de las cosas al caer2011)が最近『物が落ちる音』(松籟社、20161月、柳原孝敦訳)の邦題で刊行されたばかり、推薦図書として合わせてご紹介しておきます。コロンビアと米国の麻薬戦争を巡るドキュメンタリー風の小説、2011年のアルファグエラ賞受賞作品。

 

 

            (アルファグエラ賞授賞式でスピーチをするバスケス、2011

 

タチア・キンタナル(本名コンセプシオン・キンタナル)は、1929年バスク自治州ギプスコア生れの女優、詩人(タチアTachiaは渾名、コンセプシオンの愛称コンチータCon­-chi-taのシラブルを入れ替えたもの)。フランコ独裁政権下では仕事ができず1953年フランスに亡命、1956年パリでガルシア=マルケスと知り合う。二人とも厳しい経済的困窮を抱えていた時代、あたかも後に書かれることになる『大佐に手紙は来ない』の大佐夫婦のような生活だったらしい(彼女は82歳になった2010年師走にアラカタカを初訪問している)。二人の熱烈な関係は1年とも数年とも言われている。作家がメルセデス・バルチャと結婚するのは1958年です。キンタナルも1950年に出会ったビルバオの詩人ブラス・デ・オテロ(191679)と親密な恋人関係を詩人の死まで維持していた。詩人はタチアの名付け親でもある。

 

  
     (「アディオス、ガボ」と作家の好きな黄色い花束を手にしたタチア・キンタナル)

 

★キンタナルには左耳の聴覚障害があり、映画化もされた『コレラの時代の愛』のヒロイン、フェルミーナ・ダーサを同じ聴覚障害者にしたのは、作家の元恋人への目配せだというわけです。この小説のモデルは作家の両親というのが通説ですが(本人が述べているようだ)、「私の両親は結婚しています。この小説は、アカプルコで毎年逢瀬を愉しんでいた80代のカップルを、あるとき船頭がオールで殴り殺してしまった結果事件となり、二人の秘密が白日の下になってしまった。二人はそれぞれ別の人と結婚していたからだ、という新聞記事にインスピレーションを得て書かれた」とも語っています。キンタナルも結婚してミュージシャンの息子がいる。両親は主人公フロレンティーノ・アリーサのように「519ヶ月と4日」も待たなかったというわけです。ウソとマコトを織り交ぜて話すのが大好きな作家の言うことですから、信じる信じないはご自由です。

 

ジャスティン・ウエブスターのキャリア&フィルモグラフィー

★イギリス出身の監督、脚本家、製作者、ノンフィクション・ライター、ジャーナリスト。ケンブリッジ大学で古典文学を専攻、1990年代はロンドンでジャーナリストとして働いた後、バルセロナに移り写真術を学びながらフリーランサーのレポーターの仕事をする。1996年製作会社JWProductionsを設立、現在はバルセロナを拠点にして映画製作に携わっている。本作の企画は「ほぼ10年前から温めていたが、具体的に始動したのは作家が死去する数ヶ月前のことで、亡くなったことで危機が訪れた」と監督。作家の熱烈なファンであったウエブスターにとって『百年の孤独』の作家の人生を語ることは難しく、結局予定より1年半遅れて完成。しかし、この映画を作ることで「今までと違った作家像にも出会った。例えば意外に内気で、若い頃に暮らしていたバルセロナ時代は無口で、親しい友人たちの付き合いを好んでいた」とも語っている。反面ノーベル賞受賞には執念をもやし、推薦者への根回しを怠らなかったいう話は有名です。

 

      

                        (最近のジャスティン・ウエブスター監督

 

ウエブスターが国際舞台に躍り出たのは、冒頭で触れたドキュメンタリー第1I Will Be Murdered2013Seré asesinado”、デンマーク、英、西、グアテマラ合作)だった。グアテマラの政財界に激震を走らせた「ロドリゴ・ローゼンバーグ暗殺事件」をテーマにしたドキュメンタリー、各地の映画祭に招かれそれぞれ受賞も果たした***ローゼンバーグはグアテマラのエリート弁護士、2009510の日曜の朝、サイクリング途中に或る者から差し向けられたヒットマンによって暗殺された(享年48歳の若さだった)。グアテマラ内戦(196096)の平和条約の調印がなされた後も和平合意は実現されておらず、当時の殺人件数6000人以上、誘拐件数400人以上というグアテマラでも大事件だった。それに拍車をかけるように弁護士が2日前に撮ったというビデオテープが公開されたことから国家の危機を引き起こす暗殺事件に発展した。

 

 

            

                  (政権を告発するロドリゴ・ローゼンバーグと殺害現場)

 

★ロドリゴ・ローゼンバーグの死後2日後に公開されたビデオは、「自分が殺害された場合の首謀者は、アルバロ・コロン大統領私設秘書官グスタボ・アレホスであり、大統領夫妻も私の殺害を了承していた」という衝撃的な内容だった。ローゼンバーグは国家資金を運用しているグアテマラ農村開発銀行の執行委員を務めていた企業家とその娘の殺害事件の調査に関与していた。彼は起業家が違法取引の隠蔽工作の協力を断ったために殺害されたと政権を告発した。 

 

 

         (高い評価を受けた“I will Be Murdered”のポスター)

 

***受賞歴:サンパウロ映画祭2013ドキュメンタリー部門審査員賞・栄誉メンション、ウィチタ映画祭2013ベスト・フューチャー・ドキュメンタリー賞、ハバナ映画祭2013ラテンアメリカ以外の監督部門サンゴ賞、グアナファト映画祭作品賞、カルタヘナ映画祭2014監督賞、バルセロナPro-Docs2014ベスト・ドキュメンタリー賞、その他、シカゴ映画祭2013正式出品、ガウディ賞2015ノミネーションなど多数。



エミリー・ワトソン、ドノスティア賞受賞*サンセバスチャン映画祭2015 ⑦2015年09月07日 12:28

         今年の受賞者はエミリー・ワトソン一人だけ?

 

★第63回サンセバスチャン映画祭のドノスティア賞エミリー・ワトソンとアナウンスされました(94日)。授賞式は映画祭のメイン会場クルサール・ホールで925日になる模様。2012年は第60回という記念すべき年だったので5名と大盤振る舞い、2013年はカルメン・マウラヒュー・ジャックマン2人、2014年もベニチオ・デル・トロデンゼル・ワシントン2人でした。これから追加もあるかもしれませんが、どうやら2015年はワトソン一人でしょうか。

 

★エミリー・ワトソンは、1967年ロンドン生れの英国女優、話題作は公開されているからご紹介は不要でしょうか。どんな役をやっても頭の良さが前面に出てきてしまう女優さん、それもそのはずブリストル大学で英文学を専攻している。卒業後仕事をしながらドラマ・スタジオ・ロンドンで演劇を学び、チェーホフの『三人姉妹』やイプセンの『海の夫人』に出演している。1992年ロイヤル・シェクスピア・カンパニーに所属、映画はラース・フォン・トリアーの『奇跡の海』1996)、無垢で宗教心の厚い女性を演じて、ヨーロッパ映画賞女優賞、全米映画批評家協会賞ほかを受賞、アカデミー賞女優賞にもノミネーションされ、幸運なデビューを果たした。

 


             (エミリー・ワトソン、『奇跡の海』より)

 

★その後、ダニエル・デイ≂ルイスと共演した『ボクサー』(97)、『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』98)が再びアカデミー賞女優賞にノミネーションされた。ほか話題作としてアラン・パーカーの『アンジェラの灰』(99)、『ゴスフォード・パーク』(01)、『レッド・ドラゴン』(02)、ピーター・セラーズの最初の妻になった『ライフ・イズ・コメディ!ピーター・セラーズの愛し方』(04)、『孤独な嘘』(05DVD)、『ミス・ポター』(06)、『ウォーター・ホース』(07)、『戦火の馬』(11)、『オレンジと太陽』(12)、最近ではホーキング博士の伝記映画『博士と彼女のセオリー』(14)で最初の妻になるジェーンの母親役で顔を出していた。最新作は、日本でも11月に公開が決定しているバルタザール・コルマウクルの3D『エベレスト』(15)、ベネチア映画祭のオープニングに選ばれたので、スタッフもともども現地入りしている。

 

       (現地入りしているエミリー・ワトソン、ベネチア映画祭、94日)

 

2002年から舞台に復帰、シェークスピアの『真夏の夜の夢』やチェーホフの『ワーニャ伯父さん』に出演、後者でイギリスでもっとも権威のある演劇賞「ローレンス・オリヴィエ賞」にノミネーションを受けた。映画に舞台にテレビにと、二足も三足も草鞋を履いて活躍中。


フアン・アントニオ・バヨナの『怪物はささやく』*イギリスでの撮影終了2014年12月13日 20:46

★以前フアン・アントニオ・バヨナの新作のご案内をしたときは(コチラ⇒2014317)、まだキャスト陣が決まってない段階でしたが、11月に3週間かけてイギリスでの撮影が終了、現在はバルセロナ近郊のテラッサでの撮影が始まりました。予定は3カ月、公開は再来年2016年秋と大分先になります。ベストセラー作家パトリック・ネスの小説“A Monster Calls”(“Un monstruo viene a verme”)の映画化。癌で夭折したシヴォーン・ダウドの原案をパトリック・ネスとイラストレーターのジム・ケイが完成させたもの。原作は既に2011『怪物はささやく』として翻訳が刊行されています。 


    A Monster Calls(“Un monstruo viene a verme”)

製作Apaches Entertainment / La trini / Participant Media / River Road Entertainment

監督:フアン・アントニオ・バヨナ

脚本:パトリック・ネス

撮影:オスカル・ファウラ(前2作と同じ)

音楽:フェルナンド・ベラスケス(前2作と同じ)

プロダクション・デザイン:エウヘニオ・カバジェロ

製作者:ベレン・アティエンサ(アパッチ・エンターテインメント)、サンドラ・エルミダ、
    ジョナサン・キング、他

配給会社:フォーカス・ヒューチャーズ/ライオンズゲイト(米国)、
     ユニバーサル・ピクチャー(スペイン)など。

 

データ:米国=スペイン、英語、製作費2500万ユーロ、2016年秋公開(米国1014日)

キャスト:ルイス・マクドゥーガル(コナー)、リーアム・ニーソン(イチイのモンスター)、フェリシティ・ジョーンズ(母)、シガニー・ウィーバー(祖母)、トビー・ケベル(父)、ジェラルディン・チャップリン、他

 

ストーリー イチイの大木の怪物と13歳のコナー少年のファンタジー・ドラマ。両親は離婚して父親はアメリカで新しい家族と暮らしている。少年は癌と闘っている母親と一緒に暮らしており、学校ではイジメにあって孤立している。禁欲的で厳しい祖母がコナーの面倒をみるため到着した。ある夜、怪物が少年の家にやってきて、「私が先に三つの物語を語ります。それが終わったら君が四つめを語りなさい。その物語は君が心に閉じ込めている真実の物語でなければなりません。なぜなら君はそれを語るために私を呼んだのだから」と。

 

   (最後列ニーソン、脚本家パトリック・ネス、ウィーバー、前列マクドゥーガル)

 

★キャストの顔ぶれを見れば、予告通り、大物俳優起用が頷けます。コナー少年はオーデションを受けた1000人ぐらいの中から選ばれたとか。本作より先に『パン』(ピーターパン)で来年夏以降に登場することになるでしょう。

 

         (2015年夏アメリカ公開の『パン』のポスター)


 

★祖母役は初めてというシガニー・ウィーバーはオファーがあったとき、監督の過去の作品から判断して、脚本を読まずにオーケーした由。読んでからこれは挑戦的なプロジェクトになると思ったそうです。「こんな才能豊かな独特の視点をもった監督の映画に参加できるとはなんと幸運なのと思った。いちいちどこがと列挙するのは難しいけど」と監督の傍らで褒めちぎった。撮影の大部分が水の中、顔は傷だらけという汚れ役に、恐る恐るオファーをかけたら一発でOKしてくれた『インポッシブル』のナオミ・ワッツの例を思い出しました。バヨナもスペインを代表する監督の仲間入りということですか。

 

★母親役のフェリシティ・ジョーンズ(1983バーミンガム生れ)は、『アメジング・スパイダーマンⅡ』に出ています。リーアム・ニーソン(1952北アイルランド生れ)は有名すぎて説明いりませんね。ニーソン演じるモンスター、不吉な墓場に立っているイチイの大樹は12メートル、この撮影が大変らしい。『インポッシブル』では打ちつける大波の撮影が難しかったそうですが。技術的にはジェームズ・キャメロンの『アバター』や、ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』などを応用することになるそうです。ギジェルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』でオスカー賞(美術賞)を受賞したエウヘニオ・カバジェロが担当、鉄製の足場を組んだようです。

 

★「母子三部作」というのは、第1作『永遠のこどもたち』07)と『インポッシブル』(12)のことで、本作が第3作になります。これで母子三部作は終りにするつもりだとも語っています。「この映画は、現実と虚構の間を描きますが、ジャンル的には第2作に近く、テーマ的には第1作に近い。というのもより現実的な家族を描きますが、領域的には死が身近にあり、エモーショナルな激しさを共有しているから」と監督。あるシーンを撮り終えたとき、スタジオにいた俳優やスタッフが、製作会社メディアセットの代表者のパオロ・ヴァシレまで不覚にも感動の涙を流してしまったそうです()

 

『インポッシブル』も本作も、ハリウッドの「ブラック・リスト」に載っていた。つまり多額の資金供給を探している脚本のリストです。「ハリウッドのプロデューサーたちも最近は保守的になっていてリスクをとりたがらない。スーパーヒーローが出演するとか、大企業が業務委託してくれるものが優先される」と監督。賭けを望まないのがホンネのようです。本作の製作費も2500万ユーロとハンパじゃない。2作の実績があったればこそです。米国の配給会社フォーカス・ヒューチャーズほか、上記の製作会社が出資している。

 

               (本作撮影中のバヨナ監督

★「この小説を読んだとき、映画にしてくれ、と本が自分を呼んでいるように感じた」と監督。また自分にとって『怪物はささやく』は、現実世界に立ち向かうのにファンタジーは必要だと教えてくれたエモーショナルな物語でもあると。翻訳書に倣って『怪物はささやく』と一応しておきますが、日本公開時の邦題がこの通りになるかどうかは分かりません。言語は残念ながら英語ですから、当ブログには該当しませんが、バヨナということで割り込ませています。

 

イシアル・ボリャイン*ドキュメンタリーに初挑戦2014年12月04日 16:24

★“Katmandu, un espejo en el cielo”(2011)以来、イシアル・ボリャインのニュースが届きませんでしたが、ドキュメンタリーに初挑戦していたようです。サンセバスチャン映画祭2014で特別上映された作品。マドリード(111日)に続いて、1週遅れでバルセロナでも公開されました。長引く経済危機のせいでスペインでは暮らせない、つまり就職できない「挫折世代」と言われる若者たちがチャンスを求めて国を後にしています。スーツケース一つに全てを詰め込んで向かう先はスコットランドのエディンバラ市です。移民たちの証言と社会学者などの分析で構成されている。

 


     En tierra extraña

製作:TVE / Tormenta Films / Turanga Films

監督・脚本・製作者:イシアル・ボリャイン

共同製作者:リナ・バデネス、クリスティナ・スマラパ

データ:スペイン、スペイン語、2014、ドキュメンタリー、72

キャスト:アルベルト・サン・フアン

主な証言者:

グローリア:美術学校卒、32歳、エディンバラでのデザイン教師採用試験に合格して移住したが、不定期雇用で、2年前から商店の店員をしている。スペインの家族とはスカイプを利用している。金融危機が始まった初期からの移民者。「la acción de los guantesの活動をしている。

ソニア:清掃員として働いている37歳、「私が二十歳なら外国で働く冒険も悪くはないが、スペインには4歳の娘を残してきている」、37歳という年齢は厳しい。

マリビ:もう若くはない50歳、商人、失業中。「移民せざるを得なかったからしたのだが、これが良かったのかどうか」と嘆く。

マリア・ホセ:化学技術者、30歳、エディンバラではホテルの清掃員として働く。「私たちの両親は私たちを育てるために物凄く頑張った。しかし、いまは・・・スペインで化学技術者として働くより、ここの清掃員のほうが給料が高い」。親が頑張ったのは、子供に高い教育を受けさせるためだったが、子供が学んだキャリアは何の役にも立っていない。

ミリアン26歳、心理学の学士号をもっている。ここでは清掃員、ウエートレス。

フラン:26歳、政治学の学士号をもっている。ソーシャルワーカー。かつて「スペインにやってきた移民たちの姿を映し出している」と分析している。




la acción de los guantes (手袋の活動)というのは、スペインの挫折世代と言われる若い移民たちが‘Ni perdidos, ni callados’というスローガンで始めた抗議運動。手袋は団結のメタファーと思われる。エディンバラの街路の柵に置かれ(写真下)、いずれ柵は手袋で埋め尽くされる。最終的には集められエディンバラのスペイン大使館の前に置かれることになる。今ではこの活動はエディンバラで働く2万人が参加している。また、20134月からマドリードで始まったアルベルト・サン・フアンのコミック独り芝居“Autorretrato de un joven capitalista espanol”(スペインの若い資本主義者の自画像という意味)でも触れている。現在もロングランを続けている。ドキュメンタリーに唯一名前がクレジットされているのは、この独り芝居がドキュメンタリーに挿入されているから。 


★監督がこのドキュメンタリーを撮ろうと決心したのは、エディンバラに滞在していたとき、多くのスペイン人移住者の失望、望郷、悲嘆に出会ったからだという。取材を始めて思いあたったのは、1960年代に大挙して豊かなドイツ、スイス、フランスを目指して出稼ぎに出掛けた、両親や祖父母の世代との類似性だった。あの時代よりずっと情報もあり準備をして移住を決意したはずなのに、味わう失望、フラストレーションはむしろ今のほうが大きい。若者も年とともに既に若者とはいえなくなっている。多くが大学や専門学校を卒業しているのに、そのキャリアを活かせるチャンスは故国でもエディンバラにもない。まず、自分の未来が描けないということに苦しんでいる。学士号をもちながら、多くはホテルの清掃員、商店の店員、ベビーシッターなどに従事している。

 

       
              (イシアル・ボリャイン監督、サンセバスチャン映画祭にて)

CSIC Consejo Superior de Investigaciones Cientificas 科学研究評議会の報告によると、海外への労働移民は、225,000人であるが、実際には、2013年の調査で約70万人に増加しているという。人口が約4600万の国で現在の失業者が540万人、失業率は史上初めて25%を超えた(若年失業率は55%)という。それにもかかわらず、なんら有効な手が打てないでいる政府に対する抗議活動が続くが、明りは見えない。

 

★『テイク・マイ・アイズ』、『花嫁の来た村』や『ザ・ウォーター・ウォー』の監督として、社会に静かに質問を投げかけ、日本でも多くのファンをもっている。彼女の複眼的な視点は、当事者を決して糾弾しないところが魅力だ。観客を引きつけるのは、遠くに住んでいて一緒に行動できなくても、このドキュメンタリーを見たり、証言を聞いたりして、一緒に考えたりすることは出来る、と語りかけるからだ。

 

★長引く経済危機のせいで労働市場は不安定、失業者があふれている一方で、「なぜ莫大な利益を得ている銀行家や大企業の経営者が存在しているのか」と監督は問いかけている。「どの政党も大きな失望しか与えていない。両手に札束を抱えた大勢の汚職者にいたっては、ただただ国民を当惑させるだけだ」。現政権(国民党ラホイ政権)も無能だが、もともとこの経済危機を招いたのは、長いこと政権を任されながら財政悪化を先送りした先の政権(社労党サパテロ政権)にも責任がある。

 

★素人考えだが、先進国は第三世界を犠牲にして莫大な利益を得て成長したが、搾取するところがなければ成長できないというのでは、何か資本主義自体に構造的な欠陥があるように思えてならない。スペインは第三世界の仲間入りをしてしまったのだろうか。スペインは経済のパイが大きいから、観光だけで食べていくのは土台無理なのではないだろうか。1960年代に移民した経験をもつグロリアの祖父ホセの「なんて忌々しい国なんだ、子どもたちが食べていけないなんて」という怒りの声が轟く。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  


イサベル・コイシェの新作はサイコ・スリラー”Another Me”2014年07月27日 17:38

★最近「ミス・ワサビ」ことイサベル・コイシェの話題が聞こえないなぁと思っていたら、ホラー映画Another Me2013、英≂西)が、スペイン題Mi otro yo627日公開されました。残念ながら言語は英語です。6月末のことだから、もうニュースじゃないか。その後、立て続けに新作がアナウンスされています。コイシェも1960年生れだから人生の折り返し点に差しかかってきた。 

                      (ソフィー・ターナー、Another Meから

 

★イマイチだった『エレジー』(2008)に続いて『ナイト・トーキョー・デイ』(2009)ではガックリしてしまったのですが、新作は面白そうです。『ナイト・トーキョー・デイ』以来、ガルソン判事のドキュメンタリー、ドラマではAyer no termina nuncaYesterday Never Ends)が「ベルリン映画祭2013」のコンペに出品され、「マラガ映画祭2013」でもエントリーされた。コイシェが銀のジャスミン監督賞、カンデラ・ペーニャが同女優賞、ジョルディ・アサテギが同撮影監督賞・編集賞のダブル受賞をしてマラガでは話題になりましたがヒットしなかった。わが子を失ったことで壊れてしまった夫婦が、5年後にバルセロナで再会するという地味な内容というか、デジャヴュのせいか、経済危機のせいか歓迎されなかったようです。夫婦を演じたのがペーニャとハビエル・カマラと申し分なかったのですが。

 

★さて、前作とがらりとスタイルを変えて登場したAnother Meは、例年11月開催の「ローマ映画祭2013」でプレミアされた。主にイギリスの俳優を起用(言語が英語ですから)、撮影もウェールズの首都カーディフで行われた。オリジナル・タイトルはPanda eyesでしたがAnother Meに改題された。いわゆるドッペルゲンガーもの(英語だとダブルといってる、要するに「もう一人の自分を幻視する」こと)。ホラーというよりコイシェ風に味付けされたサイコ・スリラーの印象です。思えば彼女のデビュー作Demasiado viejo para morir joven1989)はスリラーでした。「コイシェ、激しい妄想に取りつかれるサイコ・スリラーに初めて挑戦」と書かれていますが、「再び」が正しそうです。ホラー大好き日本、既にどこかが配給権取ってるのかな。

 

Another MeMi otro yo

製作Rainy Day Films, Tornasol Films

監督・脚本:イサベル・コイシェ

原作:キャサリン・マクフェイルの同名小説Another Me

撮影:ジャン≂クロード・ラリュー

音楽:マイケル・プライス


データ:英≂西合作 言語:英語 2013 ミステリー 撮影地:ウェールズのカーディフ 86

 

キャスト:ソフィー・ターナー(フェイ)/ジョナサン・リース・マイヤーズ(教師ジョン)/クレア・フォラーニ(フェイの母アン)/リス・エヴァンス(フェイの父ドン)/グレッグ・Sulkin(ドリュー)/ジュラルディン・チャップリン(ブレナン夫人)/イバナ・バケロ(Kaylie)/レオノール・ワトリング他

 

プロット:高校生フェイの人生は完璧のように思われたが、すべてが思いがけないやり方で少しずつ変わり始めていた。ある日のこと、フェイは何者かに付け狙われているような感覚を覚えた。それは彼女そっくりのもう一人の自分、次第にフェイの内面に入りこみ彼女を脅かすようになった。アイデンティティばかりでなく人生そのものが崩壊していくなかで、フェイの過去の秘密が明かされてゆく・・・

 

★日本のホラー映画『リング』(1998)にインスパイアーされたと言われていますが、監督自身によると「リングはそんなに怖くなかったの。より大きい影響を受けた映画は、スウェーデンのヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが2004年に発表したサスペンス小説“Let the Right One in”を映画化したもの」という。いわゆるヴァンパイア映画でスウェーデンのトーマス・アルフレッドソンが監督した。シッチェス映画祭2008で上映され、日本では『ぼくのエリ200歳の少女』の邦題で2010年公開ヒットした。2010年に英語版をマット・リーヴスが舞台をニューメキシコに移してLet Me inとして リメイクした。こちらも『モールス』の邦題で2011年公開された。スペインではどちらのタイトルもDéjame entrarで、題名からだけではどちらを指すか分からない(困ったもんだ)。

 

★以前から自分の好みとは無関係のジャンルで撮りたいと模索していた。若者の世界に引きつけられていて、たまたまそういう時、テレビで故ロバート・マリガンの“The Other1972、スペイン題El otro)を見た。とても怖かったと語っています。日本では『悪を呼ぶ少年』の邦題で公開、じわじわと恐怖が湧きおこるスリラー映画の佳作。マリガン監督はサマセット・モームの『月と六ペンス』を映画化したり、ゲイリー・クーパーを主役にした『アラバマ物語』などでオールド・ファンには懐かしい。

 

★今までの個人的な好みが強く、デリケートで、少しもったいぶったカルト的映画とは違った本作は、広い層に受け入れられているようです。あるコラムニストは、荘子の説話「胡蝶の夢」に言及している。荘子が胡蝶が飛んでいる夢を見て目覚めたが、「果たして自分が夢を見て蝶になったのか、あるいは蝶が夢を見て自分になったのか」と自問する説話です。自分をフェイ、胡蝶を分身に置き換えると分かりやすい。分身がフェイの内面に入りこんできてしまう。

 

★監督はアルゼンチンの作家フリオ・コルタサルの『コーラ看護婦』に触発されて、『あなたになら言える秘密のこと』を撮ったというほどのコルタサル・ファンです。彼の分身ものとは少し違いますが、ドッペルゲンガー、鏡、悪夢、写真、空想と共通項が多い。過去に戻ろうとしても一回りしてくると現実に戻ってくる。メビウスの帯のように無限に繰り返され、逃げ口は閉ざされている。逃げても追いかけてくる怖い話です。 

                                                                                   (右側がジュラルディン・チャップリン)

★主役のソフィー・ターナーは、人気テレドラ・シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のサンサ役でお馴染みですね。1996年生れの17歳と演技は未知数ですが、コイシェによれば、「ワルキューレのようにエネルギーに溢れ、それでいてよく秩序を守り、純粋よ」と高評価、「リス・エヴァンスは雰囲気作りが上手くセット以外でもお父さんのようだった」。他にコイシェがすべてのジャンルを網羅できると信頼しているのがジュラルディン・チャップリン、「そのインテリジェンスとエネルギーには脱帽」とぞっこん。次回作にも出演の予定。友人でカメオ出演しているのがレオノール・ワトリング、「もっと重要な役をやりたかったのに」と監督に文句言ってたらしいけど、「いずれ彼女を主役に撮るつもりだ」とコイシェ。ジュリエット・ビノシェを主役にしたNobody Wants the Night2015予定)の後になるようだ。デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(2006)の美少女イバナ・バケロも大人になって出演しています。

『ゲーム・オブ・スローンズ』については、10,000 KMの主演女優ナタリア・テナのところで触れています(411⇒コチラ)。

 

(監督が手を焼いた、ジョナサン・リース・マイヤーズ)

 

★反対に二度と仕事をしたくないのがジョナサン・リース・マイヤーズ、「勿論イケメンよ、しかし秩序は乱すし、悩みの種だった。可能性を秘めてるけど、コミュニケートするのが難しかった。忍耐に忍耐を重ねて完成させたの。今までこんな経験したことなかった」と不満を吐露した。はっきりものを言うコイシェだが、自作に起用したばかりの俳優について、しかも公開インタビューの席での発言にしては珍しい。ウディ・アレンの『マッチポイント』(2005)の冷酷な殺人犯役が記憶にありますが、扱いにくかったようです。ローマ映画祭にも現れませんでしたね、お互い顔を合わせたくなかったのでしょう。

 

                                      (左から、ワトリング、グレッグ、監督、ソフィー、
                                        クレア・フォラーニか。ローマ映画祭にて)

 

世界を駆け巡るミス・ワサビ

★次回作はLearning to drive、『エレジー』に出演したベン・キングズレーがパトリシア・クラークソンとタッグを組んで、ニューヨークでの撮影も昨年終了した。今年中に完成の予定。クラークソンは『アンタッチャブル』でデビュー、『エデンより彼方に』などが代表作。サラ・ケルノチャンの同名エッセイの映画化。やはり言語は英語です。ケルノチャンはロバート・ゼメキスが監督した『ホワット・ライズ・ビニース』(2000)の原作者、ハリソン・フォードとミシェル・ファイファーが主演したサスペンス・スリラーでした。

 

★現在は先述のNobody Wants the NightNadie quiere la noche)がカナリア諸島で進行中、ジュリエット・ビノシェ、ガブリエル・バーン、『ナイト・トーキョー・デイ』の菊池凛子、脚本はミゲル・バロスと国際色豊か。バロスはマテオ・ヒルが監督した『ブラックソーン』(2011)の脚本家、伝説の無法者ブッチ・キャシディの伝記映画。コイシェは「脚本は何回も満足いくまで書き直す、これも4年前から温めていたプロジェクトです。3年前にアビニョン演劇祭でビノシェに会い、出演が決まった」という。こちらも英語です。

 

★いつも上手くいくとは限らない、例えばロベルト・サビアーノの小説の映画化を企画してイタリア語を勉強していたが実現に至らなかったそうです。サビアーノはベストセラー小説『死都ゴモラ』の著者、2008年に映画化された『ゴモラ』もヒット、ナポリのマフィア組織を糾弾したことで脅迫を受けていた。


カンヌ映画祭2014*コロンビア発の短編がパルムドール2014年05月30日 19:29

★コロンビアのシモン・メサ・ソトのLeidi(コロンビア=英、16分)は本命視されていませんでしたが、短編部門のパルムドールを受賞しました。短編はUPしませんでしたが受賞したことだし、いずれ長編を撮るだろうと期待してアウトラインをご紹介いたします。ベルギー・アニメの父といわれるラウル・セルヴェのようにパルムドール受賞後も中短編しか撮らない監督もおります。しかし日本でも話題を呼んだ『アマロ神父の罪』のカルロス・カレラやジム・ジャームッシュのように過去の受賞者は長編を撮っています。今年の審査委員長アッバス・キアロスタミ(1940年テヘラン生れ)から手渡されていましたが、彼自身の処女作「パンと裏通り」(1970)も10分の短編でした。まだ詳しい情報が少ないのですが、分かった範囲で監督のキャリア、ストーリーなどをご紹介。 

            (写真:授賞式でのシモン・メサ・ソト監督)

 

シモン・メサ・ソトSimón Mesa Soto:コロンビア第二の都市であるアンティオキア県都メデジン生れの28歳、誕生日前なら1985年生れか。アンティオキア大学マルチメディア&視聴覚コミュニケーション科卒、ロンドン・フィルム・スクールの映画監督科マスターコースで学ぶ奨学資金を得て留学、監督コースの他、撮影監督、撮影技師のプロジェクトに参加。中編Back Homeがロンドン・ナショナル・ギャラリーの録画(再放送用フィルム)部門の一部になった。受賞作はロンドン・フィルム・スクールの卒業制作として撮られた。5ヵ月前に完成しており既に何ヵ所かの映画祭で上映されているようです。

 

★今年の短編部門の応募作品は128ヵ国から3450本の中から9本が選ばれました。日本からも佐藤雅彦他の「八芳園」がエントリーされていました。選ばれるだけでも容易ではありませんが受賞となれば快挙でしょうね。映画発展途上国コロンビアのメディアが騒ぐのも当然です。カンヌ本体とは別団体が組織している「批評家週間」にノミネートされていた同世代のフランコ・ロジィのGente de bienが無冠に終わった鬱憤を解消したかたちになりました(本作の紹介はコチラ58)。

 

ストーリー シングルマザーのレイディLeidi は、小さい息子を抱えて母親と一緒にメデジン北部の共同集落で暮らしている。親としての責任を果たそうとしない赤ん坊の父親アレクシスを探しに出掛けるが・・・。レイディはここメデジンではありふれた自分の身の上話を語りはじめる。

 

(写真:息子の父親を探しにいくレイディ)


 
★彼女はここで暮らしている将来が全く描けない多くの若い母親の一人にすぎない。「レイディのようなメデジンで大きくなった女の子ならここでは簡単に出会うことができる。キアロスタミが『レイディが恋人に凭れかかるシーンを見たとき、これはパルムドールに値するシーンだと感じた』と言ってくれた。僕は胸がいっぱいになって・・」とインタビューで語っています。ポスターにもなったシーンでしょう。


★「これは生れ故郷メデジンの話ですが、レイディのような人物はラテンアメリカなら珍しい存在ではありません」。受賞後の記者会見では、「私の国とラテンアメリカの問題が凝縮されており、それを若い女性の視点から描きたかった」と語った。また「受賞は自分のキャリアに大きなインパクトを与えてくれた。しかしこれで有頂天にならず地道に努力していきたい」とも。

 

★本作は、大先輩監督アンティオキア出身のビクトル・ガビリアやイタリア・ネオレアリズモの作風に近く、シンプルで飾らない物語が展開するようです。ビクトル・ガビリアはRodrigo DNo futuro1990)とLa vendedora de rosas1998)がカンヌのオフィシャル部門に選ばれており(2作とも未公開)、前者は国際的な麻薬組織メデジン・カルテルが牛耳っていた時代のメデジンが舞台、20歳を待たずしてこの世を去っていく若者たちの青春残酷物語。麻薬戦争、私設軍隊パラミリタールやFARCに代表されるゲリラによって土地を奪われた国内難民の急増、コロンビア特有の階層社会が背景にあります。

 

★最近のコロンビアは国情が改善されたとはいえ、和平交渉は未だ道半ば、経済の二極化が深刻になっており、国内難民約500万人(50万ではありません)は「世界一」とアフリカ難民の追随を許さない。2003年の「映画法」成立後、ガビリアの次の世代アンドレス・バイス(『暗殺者と呼ばれた男』)、より若いリカルド・ガブリエリ(『ラ・レクトーラ』)などを当ブログでご紹介してきましたが、またより若い監督がカンヌで認められたことは嬉しい。

 

過去の短編部門パルムドール受賞者

○ラウル・セルヴェ:1928年ベルギーのオースティン生れ。1979年にHarpya(「ハーピア」アニメ)が受賞。

○カルロス・カレラ:1962年メキシコ・シティ生れ。1994年にHéroe(アニメ)が受賞。『アマロ神父の罪』(公開2003)の他、『ベンハミンの女』(同1996)、『差出人のない手紙』(同2000)など。

○ジム・ジャームッシュ:1953年オハイオ州生れ。1993年に「コーヒー&シガレッツ/カリフォルニアのどこかで」が受賞。本作を含めて撮りためていた短編11編を2003年にオムニバス映画『コーヒー&シガレッツ』として完成させた(公開2005)。

 

 

第17回マラガ映画祭2014*カルロス・マルケス=マルセ2014年04月11日 13:09

★受賞結果は既にUP済みですが、9月のサンセバスチャン映画祭「メイド・イン・スペイン」やラテンビート上映が期待される作品、気が早いですが2015年のゴヤ賞に絡みそうな作品、個人的に見たいものを拾ってみました。(写真:映画祭でのプレゼンテーション)

 


★まずは作品賞受賞の10.000 KM  から監督、主演女優、プロット、トレビアを交えてご紹介。

(作品賞以外はすべて銀賞)

カルロス・マルケス=マルセが最優秀作品賞金賞)、最優秀監督賞最優秀新人脚本賞(共同執筆者クララ・ロケ)、ナタリア・テナが最優秀女優賞、他にFNACから批評家特別賞を貰った。

 

 
 
(写真:ダビとナタリア)

ストーリーは分かりやすい。アレックスとセルジの二人はバルセロナで恋に落ち一緒に暮らしていたが、今は別々のアパートで一人暮らしだ。写真家のアレックスはロスアンゼルス、セルジはバルセロナ。アレックスがロスの奨学資金を貰って1年間の予定でアメリカに発ってしまったからだ。会話はすべてインターネット越し、果たして10,000キロ離れた愛は上手くいくのでしょうか。

 

★カルロス・マルケス=マルセはバルセロナ生れの30歳、監督、脚本家、製作他。本作が長編第1作だが、かなりの短編を立て続けに発表している。IMDb では2010年のI’ll Be Alone2010)から掲載されておりますが、それ以前から撮っている早熟なシネアストです。アッバス・キアロスタミとビクトル・エリセがコラボで指導しているバルセロナの映画学校に参加、ちょっとハードルの高い学校です。ここの優等生が『シルビアのいる街で』のホセ・ルイス・ゲリン、渋谷のイメージフォーラムで特集が組まれたとき来日しました。

 


スペイン最大手の貯蓄銀行ラ・カイシャLa Caixa 財団の奨学資金を得て、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAの映画&テレビ学部、監督学科のマスター・コースに留学、この時の体験が長編デビュー作に織り込まれているそうですが、あくまでフィクションです。ここで製作した前述のI’ll Be Alone がロスのラテンアメリカ映画祭、その他で上映されました。他にCaraquemada2010、ベネチア)、I Felt Like Love2013、サンダンス)、2012年のThe Yellow Ribbon は各地の映画祭で受賞しています。

 

受賞作の製作にも名を連ねている La Panda のメンバー(動物のパンダではなくグループの意味)。ロスに在住しているスペイン人11名(監督、製作者、脚本家、撮影監督、編集者など)が参加している。このグループとの出会いが刺激となって10.000 KM は誕生したそうです。かつて第2外国語はフランス語かイタリア語だったが、EU加盟後は英語が主流、若い世代はアメリカやイギリスを目指すようになりました。しかし、長編デビュー作は「絶対スペイン語で撮りたかった」と語っております。短編はスペイン語以外に英語、カタルーニャ語で撮っている。

 

監督によると、自身がロスとバルセロナとの二重生活をしたときに覚えた気持ちが織り込まれているという。世界が狭くなり単身赴任、留学などで離れて暮らすカップルや家族は珍しくない。毎年3月テキサス州の州都オースティンで開催される音楽祭、映画祭、インタテクティブ・フェスティバル「サウス・バイ・サウスウエストSXSW」のイベントは日本でも知られておりますが、この映画祭(1994年開始)に本作が出品され、なんと男優賞(ダビ・ベルダゲル)と女優賞のダブル受賞がもたらされました。「オースティンでは感受性の強い観客が共感して大いに笑ってくれた。マラガでは祖母世代が目を潤ませていた」と監督。スペイン独特の冗談もアメリカ人に通じた。アメリカ人はスペイン人とは違う視点で見ている。泣いたり笑ったりで盛り上がり、観客の支持を受けたようです。撮影はロスとバルセロナの両方で行う予定だったが、結局バルセロナだけになった。離れ離れのはずが現実の撮影は同じ場所で同時に行われたから、二人にとって不思議な感覚だったようです。

 

★女優賞をTodos están muertosベアトリス・サンチス)のエレナ・アナヤと分け合ったナタリア・テナは、1984年ロンドン生れのイギリス人、イギリス育ちの女優、歌手だが、両親がスペイン系でスペイン語が堪能。クリス&ポール()・ワイツ兄弟の『アバウト・ア・ボーイ』(2002)で映画デビュー、もう「ハリーポッター」のニンファドーラ・トンクス役で日本でもお馴染みですね。またジョージ・RR・マーティンのファンタジー小説『氷と炎の歌』をテレビドラマ化したシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』にオシャOcha役で出演。これは良くできたテレドラで、日本でもファンは多い。

 


★セルジ役のダビ・ベルダゲルは最初から決まっていたがアレックスが決まらない。プロデューサーがこのテレドラの記事をエル・パイスで知り、見たところエネルギッシュなナタリア・テナがアレックスにぴったり。すぐさまダビとロンドンに飛んでナタリアに出演交渉、OKしてくれたのが成功に結び付いたと監督。まさに「彼女は天からの贈り物」だった。日本の観客にも受け入れられるでしょうか。

バヨナ監督『インポッシブル』の次回作は『怪物はささやく』に決定2014年03月17日 00:24

★フアン・アントニオ・バヨナの次回作は、ベストセラー作家パトリック・ネスの小説A Monster CallsUn monstruo viene a verme)の映画化に決定しました。癌で夭折したシヴォーン・ダウドの原案をパトリック・ネスとイラストレーターのジム・ケイが完成させたもの。原作は既に『怪物はささやく』の邦題で、児童図書出版社から刊行されております(2011あすなろ書房)。まだキャストはアナウンスされておりませんが、今秋にはクランクインということですからいずれ発表されるでしょう。言語は残念ながら英語です。国際派の俳優を起用ということですが、スタッフは以前と同じ仲間で構成、製作者はアパッチ・エンターテインメントのベレン・アティエンサ、まずイギリスで撮影、後にスペインでも撮るということです。2016年秋公開を目指しており、配給会社はスペインではユニバーサル・ピクチャー、アメリカはフォーカスとライオンズゲイトなど。公開が期待できそうですが、邦題がこの通りになるかどうか、一応翻訳書に合わせておきます。

 


原作のストーリー イチイの大木の怪物と13歳のコナー少年のファンタジー・ドラマ。両親は離婚して父親はアメリカで新しい家族と暮らしている。少年は癌と闘っている母親と一緒に暮らしており、学校ではイジメに合って孤立している。ある夜、怪物が少年の家にやってきて、「私が先に三つの物語を語ります。それが終わったら君が四つめを語りなさい。その物語は君が心に閉じ込めている真実の物語でなければならない。なぜなら君は語るために私を呼んだのだから」と。

 

  

★辛い現実から逃避して心を閉ざしている少年が、真実の物語を語ることができるのか。バヨナがこのファンタジーをどのように映画化するのか大変興味があります。「この小説を読んだとき、映画にしてくれ、と本が自分を呼んでいるように感じた」と監督。また自分にとって『怪物はささやく』は、現実世界に立ち向かうのにファンタジーは必要だと教えてくれたエモーショナルな物語でもあると。第1作『永遠のこどもたち』、第2作『インポッシブル』、ともに母と子をテーマにしており、これで「母子三部作」は終りにするつもりだとも語っています。

 

(写真:『インポッシブル』 撮影中のバヨナ監督)

★第2作『インポッシブル』は歴史に残る興行成績を上げ、危機に瀕しているスペイン映画界の救世主となりました。キャストにナオミ・ワッツやユアン・マクレガーなど大物ハリウッド・スターを起用できたことも成功の一つだった。今回も国際派の俳優から選ばれる可能性が高く、まもなく発表されるようです。イメージ的には、スパイク・ジョーンズが2009年に実写で撮った『かいじゅうたちのいるところ』(日本公開2010)に近いのだろうか。最近亡くなったモーリス・センダックのベストセラー絵本Where the wild things areの映画化、1963年の刊行以来、全世界でトータル2000万部以上、日本でも神宮輝夫の名訳でミリオンセラーですね。読んだときに大人になっていた人、子供のときに大人に読んでもらった人、みんなドキドキワクワクした絵本です。

 

★バヨナは、ブラッド・ピットが主演したゾンビ映画『ワールド・ウォー Z』(Guerra mundial Z)の続編を撮ることが決まっておりましたが(既に二人は顔合わせをしている)、これは第4作にまわるようです。日本でも昨年6月に劇場公開された第1作は、ブラビの数多くのヒット作の中でも最大だったとか。悪口も聞こえてきた割には興行収入が何百億円とか信じられない数字、桁が違うのではないかと思ってしまいます。『怪物はささやく』も製作費2500万ユーロをつぎ込むそうで、失敗は許されないか。若くして映画部門での「国民賞」を戴き順風満帆です。「へえ、あの人スペイン人だったの」などと、スペイン人は海外で仕事をする人の足を引っ張りがち、度量を大きく持ちたいものです。