パトリシア・ロペス・アルナイス主演の「Ane」*ゴヤ賞2021 ⑦ ― 2021年01月27日 20:37
ダビ・ペレス・サニュドの「Ane」はバスク語映画
(英題「Ane is Missing」のポスター)
★ゴヤ賞の作品賞以下5カテゴリーにノミネートされたダビ・ペレス・サニュドの「Ane」は、昨年のサンセバスチャン映画祭2020のバスク映画イリサル賞受賞作品です。主演のパトリシア・ロペス・アルナイスが、第26回フォルケ賞2021の女優賞を受賞したばかりです。さらに2月8日に発表される第8回フェロス賞(ドラマ部門)では、作品賞、脚本賞、女優賞にノミネートされています。パトリシアは脇役やTV 出演が多かったので紹介が遅れていましたが、気になる女優の一人でした。アメナバルの『戦争のさなかで』(19)でウナムノの次女マリア役で既に登場しているほか、Netflix配信では結構目にします。バスク自治州ビトリアの出身ということもあってバスク語ができる。本作でアネの母親リデに抜擢されて初めて主役を演じています。先ずは映画のアウトラインからスタートします。
(ミケル・ロサダ、パトリシア・ロペス・アルナイス、ペレス・サニュド監督)
「Ane」(英題「Ane is Missing」)
製作:Amania Films / EiTB Euskal Irrati Telebista / 協賛バスク自治州政府、ICAA、他
監督:ダビ・ペレス・サニュド(新人監督賞)
脚本:ダビ・ペレス・サニュド、マリナ・パレス(脚本賞)
撮影:ビクトル・ベナビデス
音楽:ホルヘ・グランダ(作曲)
編集:リュイス・ムルア
美術:イサスクン・ウルキホ
キャスティング:チャベ・アチャ
衣装デザイン:エリサベト・ヌニェス
メイクアップ:エステル・ビリャル
プロダクション・マネージメント:ケビン・イグレシアス
製作者:アグスティン・デルガド、ダビ・ペレス・サニュド、(エグゼクティブ)カティシャ・シルバ、他
データ:製作国スペイン、バスク語、2020年、ドラマ、100分、撮影地アラバ県ビトリア他、公開スペイン2020年10月16日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020「ニューディレクターズ」部門ノミネーション、バスク映画イリサル賞・脚本賞受賞、ワルシャワ映画祭コンペティション部門10月9日上映。フォルケ賞2021女優賞受賞(パトリシア・ロペス・アルナイス)、第8回フェロス賞作品・脚本・女優賞ノミネーション、第35回ゴヤ賞は省略。
キャスト:パトリシア・ロペス・アルナイス(リデ)、ジョネ・ラスピウルJone Laspiur(リデの娘アネ)、ミケル・ロサダ(リデの元夫フェルナンド)、フェルナンド・アルビス(校長)、ナゴレ・アランブル(イサベル)、ルイス・カジェホ(エネコ)、アイア・クルセ(レイレ)、アネ・ピカサ(ミレン)、ダビ・ブランカ(ペイオ)他多数
(*ゴチック体がゴヤ賞ノミネート)
ストーリー:2009年ビトリア、リデは高速列車の工事現場のガードマンとして働いている。17歳のときから育てている年頃の娘アネと暮らしている。仕事から帰宅すると二人分の朝食の準備をする。しかしその日はアネの姿がなかった。翌朝になっても帰ってこなかった。リデは平静を保とうとするが、前日にした激しい口論のせいかもしれないと不安を募らせる。別れた夫フェルナンドとアネの居場所を尋ねまわるが、二人は娘の世界を何も知らなかったことに気づくのだった。娘の失踪によって親子関係の希薄さ、無頓着さ、配慮のなさを突きつけられる。折しもETAに所属しているらしい二人の若者の逮捕が報じられる。 (文責:管理人)
(娘を尋ね歩くリデ、映画「Ane」から)
バスクの対立を背景に親子の断絶と和解が語られる
★ダビ・ペレス・サニュド(ビルバオ1987)は、2010年プロデューサーとしてスタート、10本以上の短編を手掛け、その多くが国際短編映画祭で受賞している。2012年制作会社「Amania Films」をパートナーのルイス・エスピナソと設立、メイン・プロデューサーはエスピナソ。ビルバオとマドリードを拠点にしている。本作がバスク語で撮った長編デビュー作となる。バスクの対立とか労働者階級の闘いなどは、背景の一つであって真のテーマではない。あくまでもコミュニケーションがとれていない親子の断絶と開いた傷口の縫合が語られるようです。英題ポスターに見られるように同じ方向に向かっているが、上下に別れた道路を歩いているので出会えない。
(長編デビュー作のポスターを背にした監督)
★2013年短編第2作目となる「Agur」が評価され、その後「Malas vibraciones」(14、共同)、「Artifitial」(15)、「De-mente」(16)と立て続けに発表、サンセバスチャン映画祭に出品されたミステリー・コメディ「Aprieta pero raramente ahoga」(15分、17)が、ヒホン映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した。他にも国内外の映画祭の受賞歴の持ち主である。他に2018年「Ane」という短編を撮っている。ここではアネはETAメンバーのようで、長編の下敷きになっているようです。2018年からはTVシリーズも手掛けており、仕事の幅を広げている。今年のゴヤ新人監督賞は激戦区の一つ、ライバルは「Las ninas」のピラール・パロメロ、『メキシカン・プレッツェル』のヌリア・ヒメネスなど受賞歴を誇る粒揃い、侮れない相手です。
(評価された短編「Aprieta pero raramente ahoga」のポスター)
(イリサル賞受賞のペレス・サニュド監督、SSIFF2020授賞式にて)
(ペイオ役のダビ・ブランカ、製作者カティシャ・デ・シルバ、監督)
「リデはチャンスを求めて闘っている戦士で闘士」とパトリシア
★主演女優賞ノミネートのパトリシア・ロペス・アルナイス(ビトリア1981)は、アラバ県の県都ビトリアの小さな村で幼少期を過ごし、後にマドリードにフリオ・メデムの『ファミリー・ツリー血族の秘密』(17)やフェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「バスタン渓谷三部作」の第1部『パサジャウンの影』(17)がNetflixで配信されている。後者は第2部、第3部も日本語字幕はないが、スペイン語、英語なら視聴できます。脇役で出番も限られるので日本の観客には馴染みがない。長寿TVシリーズ「La otra mirada」(18~19、全21話)のテレサ役が評価され、オンダス賞2018とACE賞2019の女優賞を受賞している。TVシリーズでは「La peste」にも出演、スペインでは知名度が高い。
(テレサに扮したパトリシア・ロペス・アルナイス、TVシリーズ「La otra mirada」から)
★上述したようにアメナバルの『戦争のさなかで』でスクリーンに登場していますが、映画デビューは、2010年のホセ・マリ・ゴエナガ&ジョン・ガラーニョ共同監督のバスク語映画「80 egunean」(For 80 Days)でした。当時は必ずしも女優を目指していなかったと語っている。ダビ・ベルダゲルが主演男優賞にノミネートされているダビ・イルンダインの「Uno para todos」にも出演、本作と「Ane」でディアス・デ・シネ2021の女優賞を既に受賞している。最近の2年間で人生に革命が起きたと述懐しているように女優としての転機を迎えている。
(フォルケ賞2021最優秀女優賞のトロフィーを抱きしめるパトリシア、2021年1月16日)
★本作が生れ故郷のビトリアでクランクインしたことも幸いした。また「労働者階級に属しているリデは、チャンスを求めて闘っている戦士で闘士である」ともインタビューに応えている。自身と重なる部分があるということでしょうか。ライバルはイシアル・ボリャインの「La boda de Rosa」のカンデラ・ペーニャ、ゴヤの胸像は既に主演1個(06)、助演2個(04、13)をゲットしているが、そろそろ欲しいところです。
*「Uno para todos」の作品紹介は、コチラ⇒2020年04月16日
*「80 egunean」の作品紹介は、コチラ⇒2015年09月09日
(人生に革命が起きたと語るパトリシア、映画の1シーンから)
新人女優賞にノミネートされた個性派女優ホネ・ラスピウル
★新人女優賞ノミネートのジョネ・ラスピウル(Jone Laspiur サンセバスチャン1995)は、バスク大学で美術を専攻したという変り種、マドリードのコンプルテンセ大学やマセオ・ソシアル・アルヘンティノ大学でも学んでいる。子供のときからピアノを学び、合唱団に所属していた。ミュージック・グループNogenを経て、現在はコバンKobanの合唱団員として舞台に立っている。25歳デビューは遅いほうか。
★映画界入りは、パブロ・アグエロの「Akelarre」の音楽を担当していたミュージシャンのMursego(マイテ・アロタハウレギ)の目にとまりスカウトされた。歌えて踊れる若い女性を探していた。サンセバスチャン映画祭2020オフィシャル・セレクションに正式出品された本作は、ゴヤ賞主演女優賞(アマイア・アベラスツリ)を含めて9カテゴリーにノミネートされている。彼女は魔女アケラーレの一人マイデルに抜擢された。
*「Akelarre」の作品紹介は、コチラ⇒2020年08月02日
(「Akelarre」の魔女アケラーレの一人を演じた、映画から)
(サンセバスチャン映画祭2020のフォトコールにて)
★まだ「Akelarre」と「Ane」の他、バスクTVミニシリーズ「Alardea」(4話)に出演しただけだが、ゴヤの話題作2作に出演している旬の個性派女優として地元のメディアに追いかけられている。日本でも話題になったホセ・マリ・ゴエナガ&ジョン・ガラーニョの『フラワーズ』や『アルツォの巨人』のようなバスク語映画を見ることで新しい道が開けているとインタビューに応えている。第62回ビルバオ・ドキュメンタリー&短編映画祭ZINEBI 2020(1959年設立)のバスク作品賞と脚本賞を受賞したエスティバリス・ウレソラの短編「Polvo Somos」が公開されるほか、コロナ禍の影響でどうなるか分からないが、新しいプロジェクトの撮影も2月クランクインの予定。
フェルナンド・アルビスを筆頭にベテラン勢が脇を固めている
★リデの別れた夫フェルナンドを演じたミケル・ロサダ(ビスカヤ県エルムア1978)は、本作と同じようにパトリシア・ロペス・アルナイスと夫婦役を演じた『パサジャウンの影』のフレディ役、バスク語映画の代表作はアルバル・ゴルデフエラ&ハビエル・レボーリョの「Alaba Zintzoa」(「La buena hija」)、アナ・ムルガレンの「Tres mentiras」や、当ブログ紹介の「La higuera de los bastardos」、同じくルイス・マリアスの「Fuego」など。
*「La higuera de los bastardos」の作品紹介は、コチラ⇒2017年12月03日
*「Fuego」の作品紹介は、コチラ⇒2014年12月11日
(インタビューを受けるパトリシアとミケル・ロサダ)
(リデとフェルナンド、映画から)
★校長役のフェルナンド・アルビス(ビトリア1963)は、ダビ・ペレス・サニュド監督の短編「Agur」出演以来、「Aprieta pero raramente ahoga」や短編「Ane」他に出演している。他にたっぷりした体形を活かしたダニエル・サンチェス・アレバロの『デブたち』で、スペイン俳優ユニオン2010助演男優賞を受賞している。イサベル役のナゴレ・アランブルは、『フラワーズ』で匿名の贈り主から花束を受け取る中年女性役を演じた女優、レイレ役のアイア・クルセは短編「Ane」で主役アネを演じている。
(校長役のフェルナンド・アルビス、映画から)
サルバドール・カルボの 「Adú」*ゴヤ賞2021 ⑥ ― 2021年01月24日 13:26
3本の軸が交差するサルバドール・カルボのスリラー「Adú」
(少年アドゥを配したポスター)
★ゴヤ賞2021のノミネーション発表では、サルバドール・カルボ(マドリード1970)の「Adú」が最多の13カテゴリーとなりました。Netflix 配信という強みを活かしてアカデミー会員の心を掴むことができるでしょうか。本作はデビュー作『1898:スペイン領フィリピン最後の日』(16)に続く第2作目になります。Netflixで日本語字幕入りで配信され幸運な滑り出しでしたが、第2作目は残念ながら日本語字幕はありません。第1作より時代背景も舞台も今日的ですが、アフリカ大陸、特に舞台となるカメルーンやモーリタニア、モロッコの位置関係に暗いと、登場人物がそれぞれ移動する都市に振り回される。安全な日本で暮らしていると、やはりアフリカは遠い世界と実感しました。監督キャリア&フィルモグラフィーはデビュー作でアップ済みです。
*『1898:スペイン領フィリピン最後の日』の作品紹介は、コチラ⇒2017年01月05日
(左から、アナ・カスティーリョ、アダム・ヌルー、監督、ルイス・トサール、1月18日)
★アンダルシア人権協会APDHAの調査によると、2018年、国境を越えてスペインへ到着した違法移民は、陸路海路を含めて64,120人に上る。翌2019年は33,261人と減少したが、子供の数は7,053から8,066人と反対に増加した。不法移民の約30%はモロッコの若者と子供であったという。これが監督の製作の意図の一つとしてあったようです。エンディングに2018年の難民7千万人のテロップが流れる。この数は移民できずに国内に止まっている難民を含めている。スペイン語、ほかに元の宗主国であるフランスやイギリスの言語が飛び交う複雑さが、現代のアフリカを象徴している。第2作目とはいえ、20年前からTVシリーズを手掛けているベテランです。主人公はルイス・トサールではなく、アドゥ少年を演じた当時6歳だったムスタファ・ウマル君と思いました。
「Adú」(2020)
製作:Ikiru Films / Telecinco Cinema / La Terraza Films / Un Mundo Prohibido / Mediaset España
協賛 ICAA / Netlix
監督:サルバドール・カルボ
脚本:アレハンドロ・エルナンデス
音楽:ロケ・バニョス、Cherif Badua
撮影:セルジ・ビラノバ
美術:セサル・マカロン
編集:ハイメ・コリス
録音:エドゥアルド・エスキデ、ハマイカ・ルイス・ガルシア、他
プロダクション:アナ・パラ、ルイス・フェルナンデス・ラゴ
メイクアップ:エレナ・クエバス、マラ・コリャソ、セルヒオ・ロペス
衣装デザイン:パトリシア・モネ
キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ
編集者:アルバロ・アウグスティン、ジスラン・バロウ(Ghislain Barrois)、エドモン・ロシュ、ハビエル・ウガルテ、他多数
データ:製作国スペイン、言語スペイン語・フランス語・英語、2020年、ドラマ、119分、撮影地ムルシア、ベナン共和国、モロッコ他、公開スペイン1月31日、インターネット配信6月30日(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、イギリス、イタリア、他)、スペイン映画2020年の興行成績第2位。
映画祭・受賞歴:ホセ・マリア・フォルケ賞2021作品賞とCine en Educación y Valores賞、2ノミネーション、フェロス賞2021オリジナル音楽賞(ロケ・バニョス)ノミネーション、ゴヤ賞省略。
キャスト:ルイス・トサール(環境活動家ゴンサロ)、アルバロ・セルバンテス(治安警備隊員マテオ)、アンナ・カスティーリョ(ゴンサロの娘サンドラ)、ムスタファ・ウマル(アドゥ6歳)、ミケル・フェルナンデス(マテオの同僚ミゲル)、ヘスス・カロサ(マテオの同僚ハビ)、アダム・ヌルー(マサール)、Zayiddiya Dissou(アドゥの姉アリカ)、アナ・ワヘネル(パロマ)、ノラ・ナバス(カルメン)、イサカ・サワドゴ(ケビラ)、ヨセアン・ベンゴエチェア(治安警備隊指揮官)、エリアン・シャーガス(Leke)、ベレン・ロペス(国連職員)、マルタ・カルボ(マテオの弁護士)、Koffi Gahou(マフィアのネコ)バボー・チャム(カメルーンの青年)、カンデラ・クルス(NGO職員)、ほか多数
*ゴチック体はゴヤ賞にノミネートされたシネアスト。
ストーリー:アリカとアドゥの姉弟は自転車で散歩中に象の密猟の現場を偶然に目撃してしまう。現場に置き忘れた自転車がもとで二人は地元ボスから追われることになり、故郷を後にする。飛行機の貨物室に忍びこんでカメルーンからヨーロッパに脱出しようと、滑走路の傍にうずくまっている。ここからそう遠くないジャー自然保護区では環境保護活動家のゴンサロが、密猟者に牙を抜かれた痛ましい象の死骸と向き合っている。間もなくスペインからやって来る娘サンドラとの問題も抱えている。北へ数千マイル先のメリリャでは治安警備隊員マテオのグループが、国境線のフェンスを攀じ登ってくるサハラ以南の群衆を押しとどめる準備をしていた。彼らは交差する運命であることを未だ知らないが、元の自分に戻れないことを知ることになる。国境を越えてヨーロッパに押し寄せるサハラ以南の難民問題を軸に、3本の糸が絡みあう群像劇。 (文責:管理人)
アフリカの現実を照らしだす3本の軸
A: 日本では評価がイマイチだったデビュー作『1898:スペイン領フィリピン最後の日』よりテーマが今日的なこと、認知度のあるルイス・トサールやアナ・カスティーリョの出演もあって受け入れやすいと思っていましたが、目下Netflix配信はオリジナル作品ながら日本語字幕はありません。
B: スペイン人にとって1898年という年は、キューバ独立に続くフィリピン、プエルトリコという最後の植民地を喪失する忘れられない屈辱の年でした。経済的よりスペインの没落を象徴する精神的な打撃のほうが大きかったから、海外の視聴者の受け止め方とは事情が異なっていました。
A: 第2作は貧困や民族対立を抱えるサハラ以南からヨーロッパに押し寄せる爆発的な難民や違法移民の流入、地元マフィアが支配する動物密猟などが背景にあります。スペインはアフリカに最も近い国ですから、難民の受入れ窓口になっているという事情があります。
B: 姉アリカとアドゥ少年が暮らしていたのは、カメルーン人民共和国のムブーマMboumaでカメルーン唯一の世界遺産に登録されているジャー自然動物保護区に隣接している。この少年を軸に物語は進行する。
A: この保護区で絶滅の危機にある象の保護活動をしているのがルイス・トサール扮するゴンサロです。彼には常に不在な父親を理解できないアンナ・カスティーリョ扮する娘サンドラがいて、間もなくカメルーンに到着することになっている。これが2本目の軸。
(平生は疎遠な父娘に隙間風が吹く、ルイス・トサールとアンナ・カスティーリョ)
B: 3本目がアフリカ大陸にあるスペインの飛地の一つメリリャで治安警備隊員として国境を守る任務についているマテオ、ミゲル、ハビのグループ、この3本の軸が最後にメリリャとモロッコの国境に集結することになる。
A: 主任らしいマテオを演じるアルバロ・セルバンテスが助演男優賞にノミネートされている。身体を張って危険な任務についているのに、6メートルの金属フェンスを攀じ登ってくる越境者の事故死が原因でグループは訴訟を起こされてしまう。セルバンテスは裁判に勝訴するまでの複雑な心の動きを表現できたことが評価された。米国とメキシコの国境の壁には及びませんが、二重に張り巡らされた金属フェンスの高さがアフリカとヨーロッパの現実を語っています。
(マテオ役のアルバロ・セルバンテス)
(左から、訴訟を起こされた治安警備隊員マテオ、ハビ、ミゲル)
B: トサールもそうですが、彼もカルボ監督のデビュー作に兵士の一人として出演しているほか、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「バスタン渓谷三部作」の2部と3部に医師役で出演している。他にTVシリーズ出演が多いのでお茶の間の認知度は高い。
アリカとアドゥの出演料は16歳までの教育資金援助
A: アドゥが移動する都市名の位置関係が先ず描けない。あっという間に字幕が変わるから1回目は字幕を無視してストーリーを掴み、2度目に気になった個所をおさえることにした。分からなくても楽しめるが、分かったほうがメッセージがより届きやすい。
B: カメルーンの首都はヤウンデYaunde、姉弟はムブーマに住んでいる。しかしカメルーンでは撮影していないから、多分二人の出身国ベナン人民共和国でしょうか。
A: 撮影当時6歳だったアドゥ役のムスタファ・ウマルはカメルーン人ではない。監督談によると、キャスティング監督がベナン北部、首都ポルトノボから遠く離れた町の街路で出会った少年だそうで、何か惹きつけられてスカウトした。勿論まだ読み書きはできないし、象など見たこともなかった。
B: 映画出演料は姉アリカ役のZayiddiya Dissouを含めて、16歳までの教育費援助を条件に契約した。これは素晴らしい。
(7歳になったムスタファ・ウマル少年と監督)
A: 恐ろしい密猟を目撃してしまったことで自転車を置いたまま逃げ帰る。それが災いして地元のボスから脅される。母親を殺された二人は行き場を失い親戚を頼って故郷を出る。アドゥが密猟者の顔を見てしまっている。密猟者は外部からやってくるのではなく地元の人なのだ。二人は父親がいるというヨーロッパを目指すことになる。
B: しかしカメルーンから何千キロ先のヨーロッパに如何にして二人を脱出させるか。脚本家アレハンドロ・エルナンデスは、飛行機での密航というとんでもないことを思いついた(笑)。ちょっとあり得ないストーリー展開でした。
(象の密猟を偶然に目撃してしまうアリカとアドゥ)
A: エルナンデスはカルボ監督のデビュー作を手掛けたほか、当ブログでは度々登場させています。キューバ出身、2000年にスペインに亡命以来、ベニト・サンブラノの『ハバナ・ブルース』(05)以外は故国とは関係ない作品を手掛けています。ゴヤ賞ノミネートは本作が5回目、2014年にはマリアノ・バロッソの「Todas las mujeres」で共同執筆した監督と受賞、もっぱらマヌエル・マルティン・クエンカとタッグを組んでいる他、アメナバルの『戦争のさなかで』(19)に起用されノミネートされた。
B: 最近は映画よりTVシリーズに専念している。
A: 映画に戻ると、公式サイトのストーリー紹介文では、どうして子供二人が飛行機の貨物室に忍び込んでヨーロッパを目指すのか分からなかった。また実際は貨物室ではなく、驚いたことに車輪格納庫だった。神のご加護があっても99パーセント生き延びられない設定です。
B: 生存は上空の極寒と低酸素状態で不可能ではないかと思いますが、皆無ではないそうです。専門家によると生存者の多くは仮死状態だったという。姉アリカは到着時には凍死しており、着陸のため開いた車輪格納庫から転落してしまう。このシーンは前半の見せ場の一つでした。
違法移民を企てるマサールとの出会い――セネガルの首都ダカール
A: 到着したのはパリでもマドリードでもなく、なんとセネガルの首都ダカール空港、一気にメリリャに近づいた。保護された警察でアダム・ヌルー扮するマサールと出会い、姉を失ったアドゥは彼と二人三脚でメリリャを目指すことになる。青年は時々軽い咳をしているので、観客は結核かエイズを疑いながら不安に駆られて見ることになる。
B: 途中から予測つきますが、エイズ問題も重いテーマです。未だコロナがアジアの他人事であった当時では一番厄介な病気でした。新人男優賞にノミネートされているが、いつもながら新人枠は予測不可能ですね。
(いつも腹ペコのアドゥとマサール、映画から)
A: ダカールから陸路を北上、泥棒をしながらモーリタニアの首都ヌアクショットに、さらにトラックを乗り継いで、遂にモロッコの北岸モンテ・グルグーの難民キャンプに到着する。メリリャの灯りが見える小高い岬、マサールはここで医師の診察を受ける。
B: 国境なき医師団のマークとは違うようでしたが、欧米ではこういうボランティア活動が当たり前に行われている。マサールの病状は進行していて検査入院を勧められるが時間の余裕がない。目指すメリリャは目の前なのだ。
(メリリャの灯りを見つめながら絶望の涙にくれるサマール)
A: この難民キャンプには金網フェンス越えに失敗した死者、怪我人が運び込まれてくる。子供連れのフェンス越えを断念したマサールは、古タイヤを体に巻きつけて海を泳いで渡る決心をする。脚本家エルナンデスは、再びとんでもないことを思いつきました。
B: その昔、キューバ人のなかには筏でマイアミに渡った人々がいたのを思い出しました。二人は離れ離れになりながらも対岸に辿りつく。治安警備隊員マテオのグループが乗った巡視艇が二人を発見して救助する。ここで初めてアドゥとマテオが交錯する。アドゥを抱きかかえたマテオは、もう以前のマテオではない。
「パパはわたしの友達ではなく、父親」とサンドラ、和解のときが訪れる
A: サンドラは長いことスペインに帰国しない父親にわだかまりをもっている。ゴンサロは「私たちは今までも友達同士として上手くやってきたではないか」と言う。しかし娘が求めているのは友達ではなく父親の存在、「パパはわたしの友達ではなく、父親よ」とサンドラ。
B: もう大人だと思っていた娘が親の愛に飢えていたとは気づかなかった。しかし娘には別の仕方で愛を注いでいたのだ。それを最後に娘は気づいて大粒の涙を流すことになる。愛とは難しい。
(父娘を演じたカステーリョとトサール、公開イベントにて)
A: ゴンサロは愛情こまやかタイプではなく、絶滅の危機にある象の保護で頭がいっぱい。いま手を打たないと明日では手遅れになる。「カメルーンに来て2ヵ月しか経たないが、4頭の象が殺害された」と嘆く。
B: しかし地元の人々はそうは考えていない。欧米の価値観をストレートに持ち込んでも理解されない。お金になる密猟はやめられないし、象の保護など白人のお節介。かつての支配者への不信は何代にもわたって続く。
A: 互いの乖離は埋めがたい。活動家は常に身の危険と背中合わせですね。次の派遣地がアフリカ南部、インド洋に面したモザンビークというのも驚きです。
B: メリリャの検問所までサンドラを送ってきたゴンサロは、少年センターに送られる途中のアドゥとすれ違う。登場人物全てがここメリリャに集合したことになる。
A: サンドラが押している自転車は姉弟が密猟現場に残してきた自転車、常に2本の軸は知らずに繋がっていたのでした。ゴンサロは以前カメルーンでヒッチハイクをする姉弟とすれ違っていた。本作では父娘の和解以外、何も解決していない。しかし観客は何かを学んだはずです。ニュースと映画の違いかもしれません。
B: アナ・ワヘネルとノラ・ナバスは特別出演、出番こそ少ないが二人の演技派女優が映画に重みをもたせている。両人とも監督たちの信頼は厚い。受賞に関係ないと思いますが、ナバスは映画アカデミーの副会長です。
A: 監督によると、1月公開作品はゴヤ賞では不利にはたらく。というのも1年前の映画など皆忘れてしまうからです。しかし昨年は3月からは映画館も閉鎖、公開できただけでも幸運だったと言う。収束の目途が立たない現状で一番恐れているのは、映画館が消滅してしまうことだという。それは映画製作者というより観客としてだそうです。
B: TVと映画は本質的に異なるというのが持論、TV界出身なのだから映画館が減っても困らないだろうというのは間違いだと。コロナは経済や医療を直撃していますが、文化も破壊している。2020年に撮影が始まった作品は少ないから、今年はともかく来年のゴヤ賞はどうなるのか。
第35回ゴヤ賞ノミネーション発表*ゴヤ賞2021 ⑤ ― 2021年01月21日 10:24
予定通り28部門のノミネーション発表がありました
★去る1月18日、第35回ゴヤ賞2021ノミネーション発表がスペイン映画アカデミー本部でありました。マリアノ・バロッソ会長の挨拶に続いて、司会のアナ・ベレンとダニ・ロビラが登場、カテゴリー28部門を代わるがわる淡々と候補者を読み上げ、拍手は最後だけという静かなものでした。全員マスクは勿論のこと、机上に置いてある消毒液で手を消毒してから読み上げていました。
(左から、スペイン映画アカデミー書記長フェデリコ・ガラヤルデ・ニーニョ、
ダニ・ロビラ、アナ・ベレン、スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)
★多くの予想を覆したのが、作品賞以下13回も読み上げられたサルバドール・カルボの「Adú」でした。フォルケ賞はノミネーションに終わり、フェロス賞(2月8日発表)にいたってはノミネートさえありません。しかし公開されたことやNetflixで配信されていることなどが有利に働いたのかもしれません(日本語字幕はなく、スペイン語や英語などで鑑賞できます)。昨年の興行成績が桁外れのナンバーワンだったサンチャゴ・セグラの「Padre no hay más que uno 2」は、ついに最後まで一度も読み上げられることはありませんでした。長編アニメーションのノミネートは1作だけなので、ガラを待たずに受賞が決定、今までになかったのではないか。
★司会者のダニ・ロビラは、難しい癌を克服して初めて公衆の前に姿を現しました。元気そうでしたが不安を抱えての再出発ではないでしょうか。アナ・ベレンは抑制力のある声でしたが、いつもの笑顔は最後だけでした。ノミネーションの数については初出に挿入しています。本番のガラ会場はメインがマラガ、サブがバレンシアで、総合司会者はアントニオ・バンデラスとマリア・カサド、3月6日開催の予定、現在のコロナ時代ではあくまで予定です。
*第35回ゴヤ賞2021ノミネーション*
◎作品賞(5作ノミネーション)
Adú (ノミネーション13個) *
Ane (ノミネーション5個) *
La boda de Rosa (ノミネーション8個) *
Las niñas (ノミネーション9個) *
Sentimental (ノミネーション5個) *
◎監督賞
サルバドール・カルボ (Adú)
フアンマ・バホ・ウジョア (Baby) 2個 *
イシアル・ボリャイン (La boda de Rosa)
イサベル・コイシェ (Nieva en Benidorm) 2個 *
◎新人監督賞
ダビ・ペレス・サニュド (Adú)
ベルナベ・リコ (El inconveniente) 3個
ピラール・パロメロ (Las niñas)
ヌリア・ヒメネス(My Mexican Bretzel)『メキシカン・プレッツェル』なら国際FF、2個 *
◎オリジナル脚本賞
アレハンドロ・エルナンデス (Adú)
クラロ・ガルシア&ハビエル・フェセル(Historias lamentables)監督ハビエル・フェセル、3個
アリシア・ルナ&イシアル・ボリャイン (La boda de Rosa)
ピラール・パロメロ (Las niñas)
◎脚色賞
ダビ・ペレス・サニュド&マリナ・パレス (Ane)
ベルナルド・サンチェス&マルタ・リベルタ・カスティーリョ (Los europeos)
監督ビクトル・ガルシア・レオン 3個
ダビ・ガラン・ガリンド&フェルナンド・ナバロ(Origenes secretos)
監督ダビ・ガラン・ガリンド、『秘密の起源』Netflix 3個
セスク・ゲイ (Sentimental)
◎オリジナル作曲賞
ロケ・バニョス (Adú)
アランサス・カジェハ&マイテ・アロイタハウレギ(Akelarre)監督パブロ・アグエロ、9個 *
Bingen Mendizabal &コルド・ウリアルテ (Baby)
フェデリコ・フシド (El verano que vivimos) 監督カリオス・セデス、 3個
◎オリジナル歌曲賞
ロケ・バニョス& Cherif Badua (Adú)
アレハンドロ・サンス&アルフォンソ・ぺレス・アリアス (El verano que vivimos)
マリア・ロサレン (La boda de Rosa)
カルロス・ナヤ (Las niñas)
◎主演男優賞
マリオ・カサス (No matarás) 監督ダビ・ビクトリ、3個 *
ハビエル・カマラ (Sentimental)
エルネスト・アルテリオ (Un mundo noemal) 監督アチェロ・マニャス、1個 *
ダビ・ベルダゲル (Uno para todos) 監督ダビ・イルンダイン、1個 *
◎主演女優賞
アマイア・アベラスツリ (Akelarre)
パトリシア・ロペス・アルナイス (Ane)
キティ・マンベール (El inconveniente)
カンデラ・ペーニャ (La boda de Rosa)
◎助演男優賞
アルバロ・セルバンテス (Adú)
セルジ・ロペス (La boda de Rosa)
フアン・ディエゴ・ボトー (Los europeos)
アルベルト・サン・フアン (Sentimental)
◎助演女優賞
フアナ・アコスタ (El inconveniente)
ベロニカ・エチェギ (Explota explota) 監督ナチョ・アルバレス、 3個
ナタリエ・ポサ (La boda de Rosa)
ナタリア・デ・モリーナ (Las niñas)
◎新人男優賞
アダム・ヌルー (Adú)
チェマ・デル・バルコ (El plan) 監督ポロ・メナルゲス、2個 *
マティアス・ジャニックJanick (Historias lamentables)
フェルナンド・バルディビエルソ (No matarás)
◎新人女優賞
ホネ・ラスピウル (Ane)
パウラ・ウセロ (La boda de Rosa)
ミレナ・スミット (No matarás)
グリセルダ・シチリアニ (Sentimental)
◎ドキュメンタリー賞
Anatomía de un dandy (監督アルベルト・オルテガ&チャーリー・アルナイス) 1個
Cartas mojadas (監督パウラ・パラシオス) 1個
El año del descubrimiento (監督ルイス・ロペス・カラスコ) 2個
My Mexican Bretzel
◎プロダクション賞
アナ・パラ&ルイス・フェルナンデス・ラゴ (Adú)
グアダルーペ・バラゲル・トレリェスTrellez (Akelarre)
カルメン・マルティネス・ムニョス (Black Beach) 監督エステバン・クレスポ、6個 *
トニ・ノベリャ (Nieva en Benidorm)
◎撮影賞
セルジ・ビラノバ (Adú)
ハビエル・アギーレ (Akelarre)
アンヘル・アモロス (Black Beach)
ダニエラ・カヒアス (Las niñas)
◎編集賞
ハイメ・コリス (Adú)
フェルナンド・フランコ&ミゲル・ドブラド (Black Beach)
セルジ・ヒメネス (El año del descubrimiento)
ソフィ・エスクデ (Las niñas)
◎美術賞
セサル・マカロン(Adú)
ミケル・セラーノ (Akelarre)
モンセ・サンス (Black Beach)
モニカ・ベルヌイ (Las niñas)
◎衣装デザイン賞
ネレア・トリホスTorrijos (Akelarre)
クリスティナ・ロドリゲス (Explota explota)
アランチャ・エスケロ (Las niñas)
レナ・モッスム/モスンMossum (Los europeos)
◎メイク&ヘアー賞
エレナ・クエバス、マラ・コリャソ、セルヒオ・ロペス (Adú)
Beata Wotjowicz、リカルド・モリーナ (Akelarre)
ミル・カブレル、ベンハミン・ぺレス (Explota explota)
パウラ・クルス、ヘスス・ゲーラ、ナチョ・ディアス (Origenes secretos)
◎録音賞
エドゥアルド・エスキデ、ハマイカ・ルイス・ガルシア、他 (Adú)
ウルコ・ガライ、ホセフィナ・ロドリゲス、他 (Akelarre)
コケ・ラエラ、ナチョ・ロヨ=ビリャノバ、他 (Black Beach)
マル・ゴンサレス、フランセスコ・ルカレリィ、他 (El plan)
◎特殊効果賞
マリアノ・ガルシア・マルティ、アナ・ルビオ (Akelarre)
ラウル・ロマニリョス、ジャン=ルイ・ビリヤード (Black Beach)
ラウル・ロマニリョス、ミリアム・ピケル (Historias lamentables)
リュイス・リベラ・ホベ、ヘルムス・バーナートHelmuth Barnert (Origenes secretos)
◎アニメーション賞(異例の1作のみ)
La gallinas Túruleca (監督ビクトル・モニゴテ、Brown Films / Groriamundi Producciones他) *
◎イベロアメリカ映画賞
El agente topo(チリ)『老人スパイ』 監督マイテ・アルベルディ *
El olvido que seremos (コロンビア) 監督フェルナンド・トゥルエバ *
La llorona (グアテマラ)『ラ・ヨローナ伝説』 監督ハイロ・ブスタマンテ *
Ya no estoy aquí (メキシコ)2019、監督フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パラ
『そして俺は、ここにいない』「I'm no longer here」で Netflix 配信 *
◎ヨーロッパ映画賞
Corpus Christi (原題「Boze Cialo」ポーランド) 監督ヤン・コマサ
El oficial y el espia (原題「J'accuse」フランス=イタリア) 監督ロマン・ポランスキー
El padre (The Father)(イギリス=フランス) 監督フローリアン・ゼレール
Falling (カナダ=イギリス) 監督ヴィゴ・モーテンセン *
◎短編映画賞
16 de decembro 監督アルバロ・ガゴ
A la cara 監督ハビエル・マルコ・リコ
Beef 監督イングリデ・サントス
Gastos incluidos 監督ハビエル・マシぺ
Lo efímero 監督ホルヘ・ムリ得る
◎短編ドキュメンタリー賞
Biografía del cadáver de una mujer 監督マベル・ロサノ
Paraíso en llamas 監督ホセ・アントニオ・エルゲタ
Paraíso 監督マテオ・カベサ
Sólo son peces 監督アナ・セルナ&パウラ・オラツ
◎短編アニメーション賞
Blue & Malone: Casos imposibles 監督アブラハム・ロペス・ゲレーロ
Homeless Home 監督アルベルト・バスケス
Metamorphosis 監督かリア・ペレイラ&フアンフラン・ハシント
Vuela 監督カリオス・ゴメス=ミラ・サグラド
(以上28部門、*は当ブログ紹介作品)
★ノミネーションの多寡では予想できないのが映画賞、例年なら2作品ぐらいに絞れるのですが、今回の作品賞は全く分かりません。投票権のある会員に若いシネアストが増えたこともあって予想が難しい。なかで主演女優賞はフォルケ賞を受賞した「Ane」のパトリシア・ロペス・アルナイス、または「La boda de Rosa」のカンデラ・ペーニャ、主演男優賞は同じく「Sentimental」のハビエル・カマラ、または「No matarás」のマリオ・カサスのどちらかを予想しています。長編ドキュメンタリーは、ルイス・ロペス・カラスコの「El año del descubrimiento」か、ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」のどちらか、後者はなら国際映画祭2020で『メキシカン・プレッツェル』の邦題で上映されました。
★サンチャゴ・セグラの新作コメディが無視されたほかに、グラシア・ケレヘタのコメディ「Invisibles」がノミネートされなかったことを意外に思う人がいたようです。主演のエンマ・スアレスとナタリエ・ポサはケレヘタとは初タッグ、もう一人のアドリアナ・オソレスという豪華キャスト、恋に見放され、美貌の衰えに不安を抱く3人の熟女がセリフの面白さで勝負している。他にペドロ・カサブランクやブランカ・ポルティールオもカメオ出演している。コロナ禍の初期3月公開は不利にはたらいたかもしれない。エル・ムンド紙の2020年ベスト20の第1位は「El año del descubrimiento」、意外や「Adú」は選外でしたが、選考母体によって評価は分かれます。
ゴヤ賞栄誉賞2021はアンヘラ・モリーナ*ゴヤ賞2021 ④ ― 2021年01月08日 18:02
第35回ゴヤ賞2021の栄誉賞は女優アンヘラ・モリーナの手に
★2020年のマリソル(ペパ・フローレス)に続いて、今年も女性シネアストの手に渡ることになりました。映画に舞台にTVに意欲的なアンヘラ・モリーナ(マドリード1955)については、映画国民賞2016を受賞した折りにキャリア&フィルモグラフィーをご紹介しています。ゴヤ賞受賞はこの栄誉賞が初めてと聞くと驚きますが、主演女優賞3回、助演女優賞2回すべてがノミネーション止まりでした。1987年に始まったゴヤ賞以前に活躍のピークがあったためと思います。第1回授賞式には、当時の国王夫妻(フアン・カルロス国王、ソフィア王妃)が臨席して盛大に行われましたが、出席者したシネアストたちの多くが既に鬼籍入りしています。特に栄誉賞では、賞の性質から顕著です。
*アンヘラ・モリーナのキャリア&フィルモグラフィーの記事は、コチラ⇒2016年07月28日
(映画国民賞の授与式はサンセバスチャン映画祭が恒例、2016年9月16日)
★しかし栄誉賞の受賞者も次第に年齢が若くなったせいか元気な方が多く、以前は栄誉賞をもらうと「引退勧告されているようで嬉しくない」向きもあったようですが、昨今ではバリバリ現役が増えました。特に最近の女性受賞者は、アナ・ベレン(2017)、マリサ・パレデス(2018)など活躍中です。マリサ・パレデスもゴヤ栄誉賞が初のゴヤ賞でした。
★ブニュエル映画に出演した唯一人のスペイン女優がアンヘラ・モリーナでした。『欲望のあいまいな対象』(77)では、コンチータ役をキャロル・ブーケと競演し、俳優で歌手のアントニオ・モリーナの娘という血筋の他に、ルイス・ブニュエルに発見された女優という特権をもつ。ハイメ・チャバリ、ハイメ・デ・アルミリャン、ホセ・ルイス・ボラウ、グティエレス・アラゴン、ビガス・ルナ、ホセフィナ・モリーナ、リカルド・フランコ、アルモドバル、パブロ・ベルヘル、ラモン・サラサールなどのスペイン監督の他、リドリー・スコット、タヴィアーニ兄弟、ジュゼッペ・トルナトーレなど、スペイン語圏以外にも出演している。最近ではTVシリーズの出演が多そうだが、映画では出番は少なくても重要な役柄を担っている。
35回ゴヤ賞ノミネーション発表は1月11日
★最終ノミネーションは、間もなく1月11日(月曜日)に、アナ・ベレンとダニ・ロビラの総合司会で発表になります。アナ・ベレンは2017年の栄誉賞受賞者、ダニ・ロビラは2015年から3年連続でゴヤ賞の総合司会者を務めた。2020年3月にホジキンリンパ腫を告知、以来闘病中だったが無事復帰している。マラガ生れでマラガ親善大使でもあることも選ばれた理由の一つかもしれない。「Ocho apellidos vascos」で出会い2014年からパートナーだったクララ・ラゴとは、2019年5年間の関係を解消していた。闘病中の写真も公開していたが辛くてアップできない。早く元気なダニを見たい。
★ノミネーション発表が1月11日から1週間遅れの1月18日(月)11:00~と変更になっていました。コロナに振り回され続けています。
新年のご挨拶*ゴヤ賞2021のガラはマラガとバレンシアで開催 ③ ― 2021年01月01日 18:21
今年のゴヤ賞は2都市で開催、ベルランガ生誕100周年の<ベルランガ年>
★コロナに振り回された2020年、映画の観方も激変しました。それでも人生は続くわけで細々でも関わっていきたいと思っています。例年ならゴヤ賞ノミネートも終わり候補作品の紹介で出発しておりましたが、2021年は目下のところノミネーション発表もありません。今年に限りオンライン上映作品も対象になるそうです。どのように振り分けるのか分かりませんが、人の移動を抑える作戦なのか、ガラ会場もメインのマラガ市、サブのバレンシア市と2ヵ所に分散、セレモニーはレッド・カーペットを制限した異例の年になりそうです。
(バレンシア副市長サンドラ・ゴメスとスペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)
★昨年12月28日、スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソとバレンシア副市長サンドラ・ゴメス同席にて、以下のことが発表になりました。開催日は以前発表になっていた2月27日(土)から1週間遅れの3月6日に変更になりました。総合司会者はマラガ会場(テアトロ・ソーホー・デ・マラガ)ではマラガ名誉市民でもあるアントニオ・バンデラスとバルセロナ出身のTVアカデミー会長マリア・カサドのご両人と変わらず、少なくともバレンシアとマドリードの2ヵ所に接続して式典を催すようです。
(アントニオ・バンデラスとマリア・カサド)
★映画アカデミーとバレンシア自治政府及び県議会とのコラボは、今年がスペインで最も愛された映画監督と言われるルイス・ガルシア・ベルランガ生誕100周年という <ベルランガ年> によるものです。コロナ禍以前から今年盛大なフィエスタが予定されておりました。トゥリア河口に位置するバレンシア市は、芸術学問の文化都市として知られています。輝かしい功績を残したバレンシアっ子のなかでも、ベルランガは飛びぬけた人気があり郷土の誇りなのです。というわけで映画アカデミーとバレンシア自治政府が2021年と2022年のゴヤ賞をコラボすることになった。ゴメス副市長とバロッソ会長の最初の正式会議がもたれメディアに大枠がアナウンスされた。
(ルイス・ガルシア・ベルランガ)
★バロッソとチームは、イベントを催す会場パラウ・デ・レ・アルテスの設備確認を済ませた由、アカデミーの制作チームとバンデラス側の監督アシスタントが、レイアウトの準備のためオーディトリアムの下見に訪れたことも明らかになった。バロッソ会長はレッド・カーペットは制限されるも、「驚き」を保証した。ゴメス副市長もゴヤ賞2021のガラが「ベルランガ年のスタートの合図になる」と明言、さてどんな授賞式になるのか、寝て待つことにいたします。
★ノミネーション候補作品は発表になっていますが、何しろ数が多すぎます。最終候補の発表も間もなくでしょうから、こちらも待つことにします。当ブログで紹介した作品、特にイベロアメリカ映画賞には、コロンビア代表作品「El olvido que seremos」(フェルナンド・トゥルエバ)、マイテ・アルベルディ『老人スパイ』(チリ)、ハイロ・ブスタマンテ『ラ・ヨローナ伝説』(グアテマラ)、その他、ピラール・パルメロ「Las niñas」、アントニオ・メンデス・エスパルサ『家庭裁判所 第3法廷』、エステバン・クレスポ「Black Beach」、パウラ・コンス「La isla de las mentiras」などが目に付きました。
*ゴヤ賞2021の総合司会者の記事は、コチラ⇒2020年07月03日
*ベルランガ年の記事は、コチラ⇒2020年06月21日
チリから届いた心温まるスパイ映画 『老人スパイ』*ラテンビート2020 ⑤ ― 2020年10月22日 11:55
ジェームズ・ボンドのようにタフではありませんが・・・
★マイテ・アルベルディの長編第4作目『老人スパイ』(「El agente topo」)のご紹介。ある老人ホームに送り込まれた俄か探偵セルヒオの御年は83歳、仕事は入居者たちが適切に介護されているかどうかスパイするのが目的、ドキュメンタリーといってもドラマ性が強い。ジャンル的にはドキュメンタリーとドラマがミックスされたいわゆるドクドラのようです。まだ新型コロナが対岸の火事だった頃のサンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門でプレミアされたが、もともとは2017年サンセバスチャン映画祭SSIFFヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラム作品。というわけで今年のSSIFFペルラス(パール)部門にノミネートされ観客賞を受賞しました。監督紹介は「La Once」でアップしています。
*「La Once」の作品紹介は、コチラ⇒2016年01月25日
(観客賞の証書を手にしたマイテ・アルベルディ、SSIFF2020授賞式、9月26日)
『老人スパイ』(「El agente topo」、「The Mole Agent」)東京国際映画祭共催作品
製作:Micromundo Producciones(チリ)/ Motto Pictures(米)/ Sutor Kolonko / Volya Films
/ Malvalanda
監督・脚本:マイテ・アルベルディ
撮影:パブロ・バルデス(チリ)
音楽:ヴィンセント・フォン・ヴァーメルダム(オランダ)
編集:カロリナ・シラキアン?(Siraqyan、Syraquian、チリ)
製作者:マルセラ・サンティバネス、(エグゼクティブ)ジュリー・ゴールドマン、クリストファー・クレメンツ、キャロリン・ヘップバーン、クリス・ホワイト、他共同製作者多数
データ:製作国チリ=米国=ドイツ=オランダ=スペイン、スペイン語、2020年、ドキュメンタリー、90分、公開オランダ12月10日、カナダはインターネット上映。
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2020(1月25日)、ヨーロッパ・フィルム・マーケット(独)、カルロヴィ・ヴァリ、マイアミ、サンセバスティアン(ペルラス部門観客賞)、チューリッヒ、ワルシャワ、など各映画祭で上映された。SSIFF 2017ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラムのEFADs-CAACI賞受賞。
出演者:セルヒオ・チャミー(スパイ)、ロムロ(A&Aエイトケン探偵事務所所長)、(以下入居者)マルタ・オリバーレス、ベルタ・ウレタ、ソイラ・ゴンサレス、ペトロニタ・アバルカ(ペティータ)、ルビラ・オリバーレス、他
ストーリー:A&Aエイトケン探偵事務所に、サンティアゴの或る老人ホームに入居している母親が適切な介護を受けているかどうか調査して欲しいという娘からの依頼が舞い込んだ。元犯罪捜査官だった所長ロムロは、ホームに潜入してスパイする80歳から90歳までの求人広告を新聞にうつ。スパイとは知らずに応募して臨時雇用されたのが、最近妻に先立たれて元気のなかった御年83歳という好奇心旺盛なセルヒオ・チャミーだった。ロムロはスパイ経験ゼロのセルヒオに探偵のイロハを特訓する。隠しカメラを装備したペンや眼鏡の扱い方、しかし二人を悩ませたのが現代のオモチャ、スマートフォン。その要点の理解に時間がかかるが、ミッションを成功させるには使いこなすことが欠かせない。老人はジェームズ・ボンドのようにはいかないが、誠実さや責任感の強さでは引けを取らない。3ヵ月の契約でホームに送り込まれた俄かスパイは、どんな報告書を書くのだろうか。一方、撮影スタッフは表面上はホームの伝統的なドキュメンタリーを撮るという名目でセルヒオの後を追うことになる。
(ロムロ所長からスパイの特訓を受けるセルヒオ・チャミー)
フィクションとノンフィクションの垣根はありません、あるのは映画だけ
★ジャンルは一応ドキュメンタリーに区分けされていますが、マイテ・アルベルディによれば「あるのは映画だけ」ということです。上記のように第2作「La Once」(14)でキャリア紹介をしておりますが、以後の活躍も追加して紹介すると、1983年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、作家。チリのカトリック大学で社会情報学を専攻、オーディオビジュアルと美学を学ぶ。現在複数の大学で教鞭をとっている。共著だが ”Teorias del cine documental en Chile 1957-1973” という著書がある。長編ドキュメンタリー第1作「El salvavidas」は、チリのバルディビアFF観客賞賞、グアダラハラFF審査員特別賞、バルセロナ・ドキュメンタリーFF新人賞他を受賞している。主な作品は以下の通りです。
2007年「Las peluqueras」(短編ドラマ)監督、脚本
2011年「El salvavidas」(長編ドキュメンタリー、デビュー作)監督、脚本
2014年「La Once」(長編ドキュメンタリー、第2作)監督、脚本
2014年「Propaganda」(長編ドキュメンタリー)脚本
2016年「Yo no soy de aquí」(短編ドキュメンタリー)
2016年「The Grown-Ups」(チリ「Los niños」長編ドキュメンタリー、第3作)監督、脚本
2020年「El agente topo」(長編ドキュメンタリー)本作
★長編第3作「The Grown-Ups」は、アムステルダム映画祭を皮切りに国際映画祭巡りをした。子供時代を一緒に過ごし仲間、今は中年になったダウン症のグループの愛と友情が語られる。興味本位でない彼らの可能性を探るドキュメンタリー。グラマド映画祭特別審査員賞、マイアミ映画祭Zeno Mountain賞、オスロ・フィルム・サウスフェスティバルDOC:サウス賞など受賞歴多数。
(「The Grown-Ups」のスペイン語版ポスター)
★セルヒオが選ばれたのは好奇心は強いがおよそスパイには見えないその無邪気さだったか。先ずはクライアントの母親ソニア・ぺレスを探しあて親しくならねばならない。このカトリック系のホームは入居者の9割40名ほどが女性だから結構大変です。セルヒオのように誠実で魅力的な男性は歓迎され、彼に恋する女性も現れる。一方ロムロはセルヒオの娘の心配も和らげなくてはならない、なにしろ父親はスパイなんだから。そしてセルヒオを追いかけてカメラを回したのが、パブロ・バルデス撮影監督、「La Once」と「The Grown-Ups」を手掛けている。完成して公けになれば潜入がバレてしまうわけだから、介護施設とはどういう取り決めをしていたのだろうか。
(学習に専念するセルヒオ)
(情報入手に入居者と親しくなるのもスパイの仕事です)
★セルヒオは目指す女性を突き止めるが、果たしてミッションは成功したのでしょうか。老人の孤独、やがて訪れるだろう死、セルヒオから送られてくる報告書はアルベルディ監督を内省的な方向に導いていく。現実に即しているとはいえドキュメンタリーというジャンルでは括れない。
★スタッフに女性シネアストが目立つが、エグゼクティブ・プロデューサーの一人ジュリー・ゴールドマンは、ニューヨーク出身のドキュメンタリーやTVシリーズを手掛けているプロデューサー兼エグゼクティブ・プロデューサー。2009年Motto Pictures を設立、オスカー賞ノミネート2回ほかエミー賞を受賞するなど受賞歴多数のベテラン、手掛けたドキュメンタリーもサンダンスFFで複数回受賞している。もう一人のエグゼクティブ・プロデューサーのキャロリン・ヘップバーンとの共同作品が多い。
(エグゼクティブ・プロデューサーのジュリー・ゴールドマン)
★成功の秘密の一つが製作者マルセラ・サンティバネスとの息の合った進行が挙げられる。監督とは初めてタッグを組んだのだが、マルセラは「マイテとはまるでパートナーになったようだった」とインタビューに応えている。またスマートフォンの特訓が大変だったとも。チリのカトリック大学視聴覚ディレクターのコミュニケーションを専攻(2003~10)。2012年9月から2年間UCLAの修士課程で映画製作を学んだ。ということで母国語の他英語が堪能。サンダンスFFにも監督と参加した。ラテンビート関連ではアンドレ・ウッドの『ヴィオレータ、天国へ』(11)のアシスタント・プロデューサーを務めている。制作会社 Micromundo Producciones 所属。
(監督と製作者マルセラ・サンティバネス、サンダンス映画祭2020)
F・トゥルエバの新作はコロンビア映画*サンセバスチャン映画祭2020 ⑱ ― 2020年10月10日 10:25
クロージングに選ばれたコロンビア映画「El olvido que seremos」
★カンヌ映画祭2020のコンペティション部門にノミネートされた作品「El olvido que seremos」は、コロンビアの医師で人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスの伝記映画、1987年8月25日、メデジンの中心街でパラミリタールの凶弾に倒れた。アバド・ゴメスの息子エクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化。カンヌFFはパンデミックのせいで開催できなかった。その時点でサンセバスチャン映画祭上映が視野に入っていたのだが、結果は予想通りになった。既に本国で公開されていたことも考慮されたのかアウト・オブ・コンペティションながらクロージング作品に選ばれた。コロンビア映画なのに監督も主役も脚本もスペイン人になった経緯は、カンヌFFの紹介記事で既にアップしています。他に小説家アバド・ファシオリンセのキャリア、ボルヘスのソネットから採られたという原題の経緯なども紹介しています。部分的に重なりますが、ラテンビート一押しの作品として再度アップすることにしました。フェルナンド・トゥルエバ監督もハビエル・カマラも、ラテンビートが縁で来日したシネアストですから脈があるかもしれない。
*「El olvido que seremos」の作品紹介は、コチラ⇒2020年06月14日
(エクトル・アバド・ファシオリンセ)
「El olvido que seremos」(「Forgotten We'll Be」)2020
製作:Dago García Producciones / Caracol Televisión
監督:フェルナンド・トゥルエバ
脚本:エクトル・アバド・ファシオリンセ(原作)、ダビ・トゥルエバ
撮影:セルヒオ・イバン・カスターニョ
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
編集:マルタ・ベラスコ・ディアス
美術:カルロ・オスピナ
衣装デザイン:アナ・マリア・ウレア
メイクアップ:ラウラ・コポ
プロダクション・マネジメント:マルコ・ミラニ(イタリア)
助監督:ロレナ・エルナンデス・トゥデラ(マドリード)
録音:ヌリア・アスカニオ
視覚効果:ブライアン・リナレス
スタント:ミゲル・アレギ、ジョン・モラレス
製作者:マリア・イサベル・パラモ(エグゼクティブ)、ダゴ・ガルシア、クリスティナ・ウエテ
データ:製作国コロンビア、スペイン語、2020年、136分、カラー&モノクロ、伝記、撮影地メデジン、ボゴタ、マドリード、トリノ。公開コロンビア2020年8月22日、スペイン2021年3月予定
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2020コンペティション部門正式出品(パンデミックで上映なし)、サンセバスチャン映画祭2020クロージング作品(9月26日)
キャスト:ハビエル・カマラ(エクトル・アバド・ゴメス)、パトリシア・タマヨ(妻セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス)、フアン・パブロ・ウレゴ(長男エクトル・アバド・ファシオリンセ)、セバスティアン・ヒラルド(アルフォンソ・ベルナル)、ダニエラ・アバド、アイダ・モラレス、ホイット・スティルマン(ドクター・リチャード・サンダース)、他多数
ストーリー:1987年8月25日メデジンの中心街、医師でカリスマ的な人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスは、二人組のパラミリタールのシカリオの凶弾に倒れた。アバドが撃たれた日は、子供たちが最愛の父親を、妻が善き夫であり優れた同志を奪われた日でもあった。1980年代、暴力が吹き荒れたメデジンで、アバドは医師として家族の長として、また大学教授として後進を育てていた。我が子たちは教育を受け寛容と愛に包まれていたが、恵まれない階級の子供たちのことが常に心に重くのしかかっていた。悲劇が顔を覗かせていた。
(ハビエル・カマラ扮する父と息子、映画から)
カラーとモノクロで描く暗殺された父に捧げる永遠の愛
★原作はベストセラーだったが、映画化までの道のりは長かった。一つには複雑なコロンビアの社会状況と無縁ではなく、およそ3年前、コロンビアのカラコルTV社長ゴンサロ・コルドバ(2012~)の発案で映画化が企画され、オスカー監督フェルナンド・トゥルエバに白羽の矢が立った。交渉に当たったのは副社長ダゴ・ガルシアで、長い紆余曲折の後、本格的に始動したのは2019年だった。紆余曲折については、後ほど監督に語ってもらいます。本作では女優として出演しているダニエラ・アバドは、主人公の孫娘、つまり作家エクトル・アバドの娘です。彼女は映画監督として祖父暗殺をめぐるアバド家の証言集「Carta a una sombra」(15)というドキュメンタリーを撮っています。
(エクトル・アバド・ゴメスと娘たち)
★予告編から推測するに、本作は作家アバド・ファシオリンセ(メデジン1958)がまだ少年だった1970年代前半はカラーで、成人した80年代はモノクロで撮るという2部構成になっているようです。下の家族写真によれば、作家は6人姉弟の第5子にあたる。
(父親役のハビエル、一人置いて母親セシリア役のパトリシア・タマヨ)
(就寝前に父親に絵本を読んでもらうエクトルと妹)
(80年代の父とフアン・パブロ・ウレゴ扮する息子)
(息子とその恋人か)
★エクトル・アバド・ファシオリンセの小説「El olvido que seremos」が上梓されたのは2005年11月、年内に3版したというベストセラー、スペインでの発売は2006年だった。サンセバスチャン映画祭上映に合わせて現地入りしたトゥルエバ監督と主人公アバドを演じたハビエル・カマラにインタビューしたエルパイス紙の記事によると、「何年ものあいだ、私はこの本に敬意を表してきた。私の人生に贈られてきたと思っていた」、しかし「ハビエル・カマラを主人公にした映画化の依頼には最初は断りました」と監督。依頼を受けて監督するという経験はなく、「私は個人的な映画をつくるだけで、というのも映画は第三者を介しないのが一番いいからです。もし外部から提案がきた場合、内面化できるなら引き受けるだけです。小説については視覚化できると感じていました」と説明する。
(監督とハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル、9月26日)
★「小説は私的な絆が感じられるアングルを多く持っている。例えば家族物語、父と息子の関係などが語られている。私にとってこの映画は、幸福について、愛について、素晴らしいあわだちについて語っており、そして現実がいかにしてフィエスタを台無しにしてしまうかを伝えている。更に5人の姉妹や母親、メイドやシスターなど女性ばかりに囲まれて育つ男の子エクトルの魅力の虜になった。私が好きな映画や本をいくつも思い出させた」。にもかかわらずコロンビアのプロデューサーの提案をできるだけかわそうとした。それは「映画館に連れ出すのは難しそうに思えたからです。私の母が人生で再読した2冊のうちの1冊だったのですが」と苦笑する。幾度となく会合がもたれたが、ありがたいことだがその都度お断りした。
(撮影中の監督とカマラ)
★彼の背中を押したのは製作者の妻クリスティナ・ウエテだった。彼女はたった一日で再読してしまうと、同意してしまった。それで彼も受け入れることにした。「不可能もここで受け入れるなら可能になるかもしれない。クリスティナはいつも不意を衝く」と思ったそうです。コロンビア行きが決定した。斯くのごとくこのカップルは夫唱婦随ならぬ婦唱夫随なのでした。クリスティナ・ウエテについては、本作の脚色を手掛けた義弟ダビ・トゥルエバが、ゴヤ賞2014を総なめにした「『ぼくの戦争』を探して」でご紹介しています。主役のハビエル・カマラと監督が宿願のゴヤの胸像を初めて手にした映画です。ウエテはスペインの女性プロデューサーの草分け的存在であり牽引役を担っている。
*「『ぼくの戦争』を探して」の主な紹介記事は、コチラ⇒2014年01月30日/同11月21日
*クリスティナ・ウエテについては、コチラ⇒2014年01月12日
(監督とカマラ、サンセバスチャンFFフォトコール、9月26日)
(上映後のプレス会見、同上)
★実話を題材にするということはデリケートさが求められる。「二人(監督とカマラ)にとって資料集めをするのは興味あることだったが、私は映画を撮るためにここに来て、現実は既に滑走路で待機していた」と監督。「最初に私が考えた心配の種は、カマラがコロンビア人でないことでした。そのとき作家アバドから監督を引き受けてくれた感謝と、父親そっくりの俳優ハビエル・カマラは理想的だというメールが届いた」。父親を演じる俳優はコロンビア人から探すのが理想だと返事した。カマラはコロンビア訛りも分からないしメデジンもよく知らない。それだけでなくエクトル・アバド・ゴメスとは違いが大きすぎる。しかしハビエルは多くの好条件を兼ね備えていた。例えば非常に優秀な役者であることに加えて、アバド・ゴメスのように人生を愛し、生きることを謳歌している。これは上手く化けられるかもしれない。
★当のカマラはアバドの人格を「アメリカ人がよく口にする、実際より大きい」と定義した。また「ほとんど捉えどころのない」驚きの人だったとも。資料集めの段階でコロンビアにはアバドも載っていた脅威のリストというのがあるのを知った。このリストに載っている人は急いでコロンビアから出ていった。このリストに載っていたある人物から、例えばもしシンボリックな存在で親切で良心的な人なら残ってはいけなかった、とカマラは聞かされた。「そのとき、現実のアバドという人間の重みを感じ、撮影からは切り離そうと思った」。「とても興味深いのは、それぞれがエクトルに親切にしてもらったとか、娘たちは娘たちで父は優しいパパだったとか口にした。どうも彼は感動を演出する才に長けていたようだ」とカマラ。
(現地入りしたハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル玄関前、9月23日)
★作家が脚本を辞退したのは「小説を書いていたときの苦しみを二度と味わいたくなかった」からだと監督。それに脚本執筆の経験がなかったからとも語っているが、作家は娘ダニエラのドキュメンタリーの脚本を手掛けていた。撮影が始まると邪魔をしたくないと、ヨーロッパへ旅立ってしまった。「しかし最終的にはお会いできた」とカマラ。「3年前に監督に頂いた小説にサインしてもらいたかった。そして彼は彼で姉妹たちに渡したい私の写真を撮った。私が彼に映画は見たかと尋ねると、『いや、あなたが私のお父さんと同じだと思ったら興奮してしまうだろうね』と返事した。これ以上の褒め言葉はなかったでしょう」とカマラは述懐した。
マジックリアリズムが今でも浮遊するコロンビア
★撮影中は実際のドクター・アバドの逸話が溢れていたとご両人。「脇役の俳優が背広を着てやってくると、私はアバド先生に2度お会いしています。2度目のときこの背広を着ていました。もし映画で着ることができたらと思ってと話した。ある女優さんは私の夫はアバド先生に命を助けてもらいました」など。カマラは「こういうことが次々に起こったのです」と強調する。通りで行き会う人々は、彼があたかも実際のドクターであるかのように接した。「マジックリアリズムはここコロンビアでは実際に存在しています。本の中だけでなく人々の中に存在し、彼らの視線を通してそれに気づかされます」。同じように憎しみも感じます。例えば埋葬のシーンを撮るための建物が必要だったが、教会はどこも拒絶したのです。
★トゥルエバ監督は「コロンビアはまだ闘いが終わっていないのです」と力をこめる。「アバドと妻セシリアが最後の会話をするシーンを撮ろうとした日、いくつかの道路が通行止めになった。そのニュースをラジオで聞いたセシリアは、直ぐタクシーで現場に駆けつけ、警察のバリアの前に立っていた。彼らから『どこに行くつもりだ』と尋問されると、『うるさいわね、通しなさい、私が主人公よ!』」ww。おそらく90歳はとうに過ぎていると思うが、かつての闘士の面目躍如。
(セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス、息子とのツーショット、2017年11月)
ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑩ ― 2020年09月14日 10:33
メイド・イン・スペイン部門――ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」
★9月12日に閉幕したベネチア映画祭で黒沢清の『スパイの妻』が監督賞(銀獅子賞)を受賞しました。本作はサンセバスチャン映画祭SSIFFでもペルラス部門のオープニング作品に選ばれています。その昔、ホラー映画『回路』がカンヌ映画祭2001「ある視点」で国際批評家連盟賞を受賞したときには、黒澤明監督の縁戚関係者と間違われたが、もうそんな誤解は昔話になりました。クラスターが起きたのか起きなかったのか、とにかくベネチアは閉幕しました。
★メイド・イン・スペイン部門の中から、気になる映画を時間が許す限りアップする予定ですが、先ずヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」が邦題『メキシカン・プレッツェル』で、なら国際映画祭2020(9月18日~22日)のコンペティション部門にノミネートされておりますので、本作からスタートします。また本映画祭では「カタラン・フォーカス」として、IRLインスティテュート・ラモン・リュイスとの共催でカタルーニャの女性監督作品6作が上映されます。その中には当ブログSSIFF 2019でご紹介した、ルシア・アレマニーのデビュー作「La inocencia」(19『イノセンス』)とベレン・フネスの「La hija de un ladrón」(19『泥棒の娘~サラの選択~』)が含まれており、嬉しいサプライズです。後者は主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞(銀貝賞)を受賞、翌年のゴヤ賞2020ではベレン・フネスが新人監督賞を受賞している力作です。奈良県はコロナウイリス感染者も落ち着いているようなので無事終了することを願っています。
「My Mexican Bretzel」(『メキシカン・プレッツェル』)スペイン、2019
製作:BRETZEL & TEQUILA FILM PRODUCTIONS(ヌリア・ヒメネス)/
AVALON PRODUCTORA CINEMATOGRAFICA(マリア・サモラ、ステファン・シュミッツ)
監督・脚本:ヌリア・ヒメネス・ロラング
撮影:フランク・A・ロラング、イルセ・G・ロラング
編集:クリストバル・フェルナンデス、ヌリア・ヒメネス
音楽:NO HAY NO HAY
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019、ドキュメンタリー・ドラマ、74分
映画祭・受賞歴:ヒホン映画祭2019スペイン映画部門の作品・監督・脚本賞受賞、ロッテルダム映画祭2020ワールドプレミア、Found Footage賞、D'Aバルセロナ映画祭2020観客賞を受賞、サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門上映、なら国際映画祭2020コンペティション部門ノミネート、ほか
解説:映画はインテリ階級の裕福な女性ビビアン・バレットの日記と、夫のレオン・バレットが前世紀の40年代から60年代にかけて、スーパー8ミリと16ミリで妻を撮影したアーカイブ資料を結び付けている。YouTubeで流れるフィルムは撮影されたばかりのように鮮明で美しく、どのように保存されていたのか完成度の高い映像に驚かされる。無声の部分と後から追加した飛行機、車、列車、風の音で構成され、ナレーションの代わりにビビアンのエッセイ風の日記で構成されている。
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
ヌリア・ヒメネス・ロラング(バルセロナ1976)は、監督、脚本家、製作者。ジャーナリズム、国際関係、ドキュメンタリー映画の制作を学んだ後、セミナー参加、イサキ・ラクエスタ、ビルヒニア・ガルシア・デル・ピノ、パトリシオ・グスマン、フレデリック・ワイズマンのようなシネアストが指導するクラスで知識を蓄積している。2017年短編ドキュメンタリー「Kafeneio」でデビュー、ドキュメンタリー・マドリードやMIDBOで上映された。本作『メキシカン・プレッツェル』が長編第1作。
(ヌリア・ヒメネス)
★1分程度の予告編で驚くのは、ビビアンの夫レオンが撮影したというそのヴィンテージ映像です。多くの批評家が「ダグラス・サークの映画に典型的なテクニカラーで撮られている」と口を揃える。ドイツ出身の監督だが、妻がユダヤ人だったことでアメリカに亡命、1950年代に撮ったハリウッド映画は、本邦でも何作も公開されている。当時を知るオールドファンにはロック・ハドソン、ローレン・バコールなど出演俳優の名前からして懐かしい。世界の都市、ニューヨーク、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、バルセロナ、ベネチア、リヨンなどを訪れ、いみじくも古いヨーロッパやアメリカへのロマンティックな旅に観客を誘っている。観客賞受賞の所以です。
(ビビアンとレオン・バレット)
★映画は「嘘は真実を語るためのもう一つの方法に過ぎない」というParavadin Kanvar Kharjappali(パラバディン・カンバール・カージャッパリ?)という作家の言葉で始まるようです。ビビアンの伯父の家にあった赤表紙の本から引用したというが、グーグルで検索しても見つかりません、架空の作家のようですから。勿論ビビアンの声も聞くことができません。こういう作品は見るに限るのですが、ドキュメンタリー映画と簡単に括れない、現実とフィクションが交じり合った偽りのドキュメンタリーとでも言うしかない。海の中央にいる女性とお菓子のプレッツェルというタイトルを組み合わせたポスターも謎めいている。
金貝賞を競うスペイン映画は2作*サンセバスチャン映画祭2020 ④ ― 2020年08月02日 12:49
セクション・オフィシアルにパブロ・アグエロ
(セクション・オフィシアルのポスター)
★7月30日、コンペティション部門、コンペティション外ほか、ニューディレクターズ部門、サバルテギ-タバカレラ部門などがアナウンスされました。スペイン映画はコンペにパブロ・アグエロの「Akelarre」とアントニオ・メンデス・エスパルサの「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)の2作が金貝賞を競うことになりました。他にアウト・コンペティションには、ロドリゴ・ソロゴジェンのTVシリーズ「Antidisturbios」(全6話のうち2話)、特別上映作品としてアイトル・ガビロンドの「Patria」がエントリーされた。コンペ外のウディ・アレンの新作「Rifkin's Festival」はオープニング作品です(アップ済み)。
◎セクション・オフィシアル◎
①「Akelarre」 (スペイン=フランス=アルゼンチン)2020
製作:Sorgin Films / Kowalski Films / Lamia Producciones
監督:パブロ・アグエロ
脚本:パブロ・アグエロ、Katall Guillou
撮影:ハビエル・アギーレ
音楽:マイテ・アロタハウレギ、アランサス・カジェハ
編集:テレサ・フォント
録音:ウルコ・ガライ、ホセフィナ・ロドリゲス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、アナ・ルビオ、他
製作者:フレド・プレメル、グアダルーペ・バラゲル・Trellez、(エグゼクティブ)コルド・スアスア、他
データ:製作国スペイン、フランス、アルゼンチン、言語スペイン語・バスク語、2020年、スリラー・ドラマ、90分、撮影地ナバラ州レサカ、公開予定スペイン10月2日、フランス2021年3月24日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル
*パブロ・アグエロ(メンドサ1977)は、本映画祭2009ニューディレクターズ部門に「77 Doronship」で登場、同2015セクション・オフィシアルに「Eva no duerme」、当ブログではノミネート紹介だけでしたが、ガエル・ガルシア・ベルナルやイマノル・アリアスなどが出演していて、今回の「Akelarre」と同じくアルゼンチン西仏合作でした。アルゼンチンのメンドサ出身だがスペインやフランスとの合作が多く、バスクに軸足をおいている監督です。今回のノミネート作品も17世紀のバスクを舞台にした魔術による裁判のプロセスに着想を得た歴史ドラマで、長編第5作めになる。
(パブロ・アグエロ監督)
キャスト:アレックス・ブレンデミュール(ロステギ裁判官)、アマイア・アベラスツリ(アナ)、ジョネ・ラスピウル(マイデル)、ガラシ・ウルコラ、ダニエル・ファネゴ、ダニエル・チャモロ、他多数
ストーリー:1609年バスク、この地方の男たちは海に出かけてしまっている。アナは村の娘たちと一緒に森で行われるフィエスタに出かけていく。この地方にはびこる魔術による裁判を浄化するよう国王フェリペ3世に依頼された裁判官ロステギは、彼女たちを逮捕して魔術を告発する。彼は魔術の儀式アケラーレについて知る必要があるだろうと決心、おそらく悪魔が操っているにちがいないと調査に着手する。17世紀初頭の為政者による、一つの考え方、一つの言語、一つの宗教を強制することを願った魔女狩り裁判、地方文化の否定が語られる。
(撮影中の魅力的な魔女たち)
★ペドロ・オレアが1984年に撮った同名の映画「Akelarre」の舞台は、バスク州の隣りナバラ州でした。ナバラもアケラーレが行われていた。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』(13)の舞台もナバラ州の小村スガラムルディ、親子三代にわたる魔女軍団の物語。
*『スガラムルディの魔女』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月12日
★アントニオ・メンデス・エスパルサの「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)は次回にします。
ヴィゴ・モーテンセンにドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2020 ② ― 2020年07月08日 16:57
ヴィゴ・モーテンセンにドノスティア栄誉賞の発表
★去る6月22日、第68回サンセバスチャン映画祭2020(9月18日~26日)の栄誉賞ドノスティア賞の発表がありました。開催自体を危惧してアップしないでおきましたが、どうやら動き出しました。栄誉賞受書者は、最近では複数(2人か3人)が多いので、もう一人くらい選ばれるのではないでしょうか。アメリカの俳優ヴィゴ・モーテンセンは、ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(01~03)のアラゴルン役で多くのファンを獲得しました。アメリカ映画は日本語版ウイキペディアに詳しいので紹介要りませんので、スペイン語映画を中心にアップいたします。当ブログではリサンドロ・アロンソの『約束の地』(14)の劇場公開に合わせて作品&キャリアを紹介しております。
*『約束の地』の記事は、コチラ⇒2015年07月01日
(リサンドロ・アロンソの『約束の地』の原題「Jauja」から)
★本映画祭で初監督作品「Falling」(カナダ=イギリス合作)が上映されます。サンダンス映画祭2020のクロージング作品、カンヌ映画祭2020のコンペティションにも選ばれました。ベテランのランス・ヘンリクセンと彼自身が親子を演じたほか、脚本も自ら執筆した。父と息子の確執、受け入れ、許しが語られるようです。10月2日スペイン公開も予定されています。
(監督デビュー作「Falling」で親子を演じた、ランス・ヘンリクセンとヴィゴ)
★ヴィゴ・モーテンセン、1958年ニューヨークのマンハッタン生れ、俳優、脚本家、詩人、写真家、画家、ミュージシャン、出版社パーシヴァル・プレス(Perseval Presse2002年設立)経営者、今年「Falling」で監督デビューも果たした。父親はデンマーク人の農業経営者、母親は米国人(ヴィゴ11歳のとき離婚、共同親権)、父親の仕事の関係で特に幼少年期にはベネズエラ、アルゼンチンで育ったことからスペイン語が堪能、父親の母語デンマーク語、加えて母親がノルウェー語ができたのでノルウェー語、ほかスウェーデン語、フランス語、イタリア語もできる。
★1985年、ピーター・ウィアーの『刑事ジョン・ブック/目撃者』のアーミッシュ役でスクリーンに本格デビューした。米アカデミー賞主演男優賞ノミネート3回、デヴィッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』(07)、マット・ロスの『はじまりへの旅』(16)、ピーター・ファレリーの『グリーンブック』(18)がある。クローネンバーグとは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)や『危険なメソッド』(11)でもタッグを組んでいる。
(クローネンバーグの『イースタン・プロミス』から)
★スペイン語映画ではアグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)のディエゴ・アラトリステ役、アルゼンチン映画では、双子の兄弟を演じたアナ・ピターバーグの『偽りの人生』(12)、上記のリサンドロ・アロンソの『約束の地』(14、アルゼンチン、デンマーク合作)のグンナー・ディネセン大尉役など。
(ディエゴ・アラトリステ役のヴィゴ・モーテンセン)
★他にショーン・ペーンの初監督作品『インディアン・ランナー』(91)、ブライアン・デ・パルマ『カリートの道』(93)、ジェーン・カンピオン『ある貴婦人の肖像』(96)、リドリー・スコットの『G.I. ジェーン』(97)、エド・ハリスの監督2作目となるウエスタン『アパルーサの決闘』(08)、コーマック・マッカーシーのベストセラー小説をジョン・ヒルコートが映画化した『ザ・ロード』(09)、ブラジル仏合作のウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』(12)、アルベール・カミュの短編の映画化、監督のダヴィド・オールホッフェンが、ヴィゴを念頭において台本を執筆したという『涙するまで、生きる』(14)などなど数えきれない。モーテンセンのような経歴の持主はそうザラにはいないのではないか。
(フランス映画『涙するまで、生きる』のポスター)
★私生活では、12年前から『アラトリステ』で共演したアリアドナ・ヒルとマドリードのダウンタウンに在住している。現在のパートナーに映画同様永遠の愛を捧げているとか。お互い再婚同士、当時アリアドナはダビ・トゥルエバと結婚しており2人の子供もいた。ヴィゴの一人息子ヘンリーはドキュメンタリー作家。またサッカー・ファンでもあり、『約束の地』の脚本家で詩人のファビアン・カサスとクラブチーム「サンロレンソ・デ・アルマグロ」の熱狂的なサポーターである。カサスの詩集を自分が経営するパーシヴァル・プレスから出版したのが縁ということです。
(ヴィゴの息子ヘンリー、ヴィゴ・モーテンセン、アリアドナ・ヒル、
『グリーンブック』で主演男優賞にノミネートされた米アカデミー賞2019の授賞式)
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