ゴヤ賞栄誉賞2021はアンヘラ・モリーナ*ゴヤ賞2021 ④ ― 2021年01月08日 18:02
第35回ゴヤ賞2021の栄誉賞は女優アンヘラ・モリーナの手に

★2020年のマリソル(ペパ・フローレス)に続いて、今年も女性シネアストの手に渡ることになりました。映画に舞台にTVに意欲的なアンヘラ・モリーナ(マドリード1955)については、映画国民賞2016を受賞した折りにキャリア&フィルモグラフィーをご紹介しています。ゴヤ賞受賞はこの栄誉賞が初めてと聞くと驚きますが、主演女優賞3回、助演女優賞2回すべてがノミネーション止まりでした。1987年に始まったゴヤ賞以前に活躍のピークがあったためと思います。第1回授賞式には、当時の国王夫妻(フアン・カルロス国王、ソフィア王妃)が臨席して盛大に行われましたが、出席者したシネアストたちの多くが既に鬼籍入りしています。特に栄誉賞では、賞の性質から顕著です。
*アンヘラ・モリーナのキャリア&フィルモグラフィーの記事は、コチラ⇒2016年07月28日

(映画国民賞の授与式はサンセバスチャン映画祭が恒例、2016年9月16日)
★しかし栄誉賞の受賞者も次第に年齢が若くなったせいか元気な方が多く、以前は栄誉賞をもらうと「引退勧告されているようで嬉しくない」向きもあったようですが、昨今ではバリバリ現役が増えました。特に最近の女性受賞者は、アナ・ベレン(2017)、マリサ・パレデス(2018)など活躍中です。マリサ・パレデスもゴヤ栄誉賞が初のゴヤ賞でした。
★ブニュエル映画に出演した唯一人のスペイン女優がアンヘラ・モリーナでした。『欲望のあいまいな対象』(77)では、コンチータ役をキャロル・ブーケと競演し、俳優で歌手のアントニオ・モリーナの娘という血筋の他に、ルイス・ブニュエルに発見された女優という特権をもつ。ハイメ・チャバリ、ハイメ・デ・アルミリャン、ホセ・ルイス・ボラウ、グティエレス・アラゴン、ビガス・ルナ、ホセフィナ・モリーナ、リカルド・フランコ、アルモドバル、パブロ・ベルヘル、ラモン・サラサールなどのスペイン監督の他、リドリー・スコット、タヴィアーニ兄弟、ジュゼッペ・トルナトーレなど、スペイン語圏以外にも出演している。最近ではTVシリーズの出演が多そうだが、映画では出番は少なくても重要な役柄を担っている。
35回ゴヤ賞ノミネーション発表は1月11日
★最終ノミネーションは、間もなく1月11日(月曜日)に、アナ・ベレンとダニ・ロビラの総合司会で発表になります。アナ・ベレンは2017年の栄誉賞受賞者、ダニ・ロビラは2015年から3年連続でゴヤ賞の総合司会者を務めた。2020年3月にホジキンリンパ腫を告知、以来闘病中だったが無事復帰している。マラガ生れでマラガ親善大使でもあることも選ばれた理由の一つかもしれない。「Ocho apellidos vascos」で出会い2014年からパートナーだったクララ・ラゴとは、2019年5年間の関係を解消していた。闘病中の写真も公開していたが辛くてアップできない。早く元気なダニを見たい。
★ノミネーション発表が1月11日から1週間遅れの1月18日(月)11:00~と変更になっていました。コロナに振り回され続けています。
新年のご挨拶*ゴヤ賞2021のガラはマラガとバレンシアで開催 ③ ― 2021年01月01日 18:21
今年のゴヤ賞は2都市で開催、ベルランガ生誕100周年の<ベルランガ年>

★コロナに振り回された2020年、映画の観方も激変しました。それでも人生は続くわけで細々でも関わっていきたいと思っています。例年ならゴヤ賞ノミネートも終わり候補作品の紹介で出発しておりましたが、2021年は目下のところノミネーション発表もありません。今年に限りオンライン上映作品も対象になるそうです。どのように振り分けるのか分かりませんが、人の移動を抑える作戦なのか、ガラ会場もメインのマラガ市、サブのバレンシア市と2ヵ所に分散、セレモニーはレッド・カーペットを制限した異例の年になりそうです。

(バレンシア副市長サンドラ・ゴメスとスペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)
★昨年12月28日、スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソとバレンシア副市長サンドラ・ゴメス同席にて、以下のことが発表になりました。開催日は以前発表になっていた2月27日(土)から1週間遅れの3月6日に変更になりました。総合司会者はマラガ会場(テアトロ・ソーホー・デ・マラガ)ではマラガ名誉市民でもあるアントニオ・バンデラスとバルセロナ出身のTVアカデミー会長マリア・カサドのご両人と変わらず、少なくともバレンシアとマドリードの2ヵ所に接続して式典を催すようです。

(アントニオ・バンデラスとマリア・カサド)
★映画アカデミーとバレンシア自治政府及び県議会とのコラボは、今年がスペインで最も愛された映画監督と言われるルイス・ガルシア・ベルランガ生誕100周年という <ベルランガ年> によるものです。コロナ禍以前から今年盛大なフィエスタが予定されておりました。トゥリア河口に位置するバレンシア市は、芸術学問の文化都市として知られています。輝かしい功績を残したバレンシアっ子のなかでも、ベルランガは飛びぬけた人気があり郷土の誇りなのです。というわけで映画アカデミーとバレンシア自治政府が2021年と2022年のゴヤ賞をコラボすることになった。ゴメス副市長とバロッソ会長の最初の正式会議がもたれメディアに大枠がアナウンスされた。

(ルイス・ガルシア・ベルランガ)
★バロッソとチームは、イベントを催す会場パラウ・デ・レ・アルテスの設備確認を済ませた由、アカデミーの制作チームとバンデラス側の監督アシスタントが、レイアウトの準備のためオーディトリアムの下見に訪れたことも明らかになった。バロッソ会長はレッド・カーペットは制限されるも、「驚き」を保証した。ゴメス副市長もゴヤ賞2021のガラが「ベルランガ年のスタートの合図になる」と明言、さてどんな授賞式になるのか、寝て待つことにいたします。
★ノミネーション候補作品は発表になっていますが、何しろ数が多すぎます。最終候補の発表も間もなくでしょうから、こちらも待つことにします。当ブログで紹介した作品、特にイベロアメリカ映画賞には、コロンビア代表作品「El olvido que seremos」(フェルナンド・トゥルエバ)、マイテ・アルベルディ『老人スパイ』(チリ)、ハイロ・ブスタマンテ『ラ・ヨローナ伝説』(グアテマラ)、その他、ピラール・パルメロ「Las niñas」、アントニオ・メンデス・エスパルサ『家庭裁判所 第3法廷』、エステバン・クレスポ「Black Beach」、パウラ・コンス「La isla de las mentiras」などが目に付きました。
*ゴヤ賞2021の総合司会者の記事は、コチラ⇒2020年07月03日
*ベルランガ年の記事は、コチラ⇒2020年06月21日
チリから届いた心温まるスパイ映画 『老人スパイ』*ラテンビート2020 ⑤ ― 2020年10月22日 11:55
ジェームズ・ボンドのようにタフではありませんが・・・

★マイテ・アルベルディの長編第4作目『老人スパイ』(「El agente topo」)のご紹介。ある老人ホームに送り込まれた俄か探偵セルヒオの御年は83歳、仕事は入居者たちが適切に介護されているかどうかスパイするのが目的、ドキュメンタリーといってもドラマ性が強い。ジャンル的にはドキュメンタリーとドラマがミックスされたいわゆるドクドラのようです。まだ新型コロナが対岸の火事だった頃のサンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門でプレミアされたが、もともとは2017年サンセバスチャン映画祭SSIFFヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラム作品。というわけで今年のSSIFFペルラス(パール)部門にノミネートされ観客賞を受賞しました。監督紹介は「La Once」でアップしています。
*「La Once」の作品紹介は、コチラ⇒2016年01月25日

(観客賞の証書を手にしたマイテ・アルベルディ、SSIFF2020授賞式、9月26日)
『老人スパイ』(「El agente topo」、「The Mole Agent」)東京国際映画祭共催作品
製作:Micromundo Producciones(チリ)/ Motto Pictures(米)/ Sutor Kolonko / Volya Films
/ Malvalanda
監督・脚本:マイテ・アルベルディ
撮影:パブロ・バルデス(チリ)
音楽:ヴィンセント・フォン・ヴァーメルダム(オランダ)
編集:カロリナ・シラキアン?(Siraqyan、Syraquian、チリ)
製作者:マルセラ・サンティバネス、(エグゼクティブ)ジュリー・ゴールドマン、クリストファー・クレメンツ、キャロリン・ヘップバーン、クリス・ホワイト、他共同製作者多数
データ:製作国チリ=米国=ドイツ=オランダ=スペイン、スペイン語、2020年、ドキュメンタリー、90分、公開オランダ12月10日、カナダはインターネット上映。
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2020(1月25日)、ヨーロッパ・フィルム・マーケット(独)、カルロヴィ・ヴァリ、マイアミ、サンセバスティアン(ペルラス部門観客賞)、チューリッヒ、ワルシャワ、など各映画祭で上映された。SSIFF 2017ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラムのEFADs-CAACI賞受賞。
出演者:セルヒオ・チャミー(スパイ)、ロムロ(A&Aエイトケン探偵事務所所長)、(以下入居者)マルタ・オリバーレス、ベルタ・ウレタ、ソイラ・ゴンサレス、ペトロニタ・アバルカ(ペティータ)、ルビラ・オリバーレス、他
ストーリー:A&Aエイトケン探偵事務所に、サンティアゴの或る老人ホームに入居している母親が適切な介護を受けているかどうか調査して欲しいという娘からの依頼が舞い込んだ。元犯罪捜査官だった所長ロムロは、ホームに潜入してスパイする80歳から90歳までの求人広告を新聞にうつ。スパイとは知らずに応募して臨時雇用されたのが、最近妻に先立たれて元気のなかった御年83歳という好奇心旺盛なセルヒオ・チャミーだった。ロムロはスパイ経験ゼロのセルヒオに探偵のイロハを特訓する。隠しカメラを装備したペンや眼鏡の扱い方、しかし二人を悩ませたのが現代のオモチャ、スマートフォン。その要点の理解に時間がかかるが、ミッションを成功させるには使いこなすことが欠かせない。老人はジェームズ・ボンドのようにはいかないが、誠実さや責任感の強さでは引けを取らない。3ヵ月の契約でホームに送り込まれた俄かスパイは、どんな報告書を書くのだろうか。一方、撮影スタッフは表面上はホームの伝統的なドキュメンタリーを撮るという名目でセルヒオの後を追うことになる。

(ロムロ所長からスパイの特訓を受けるセルヒオ・チャミー)
フィクションとノンフィクションの垣根はありません、あるのは映画だけ
★ジャンルは一応ドキュメンタリーに区分けされていますが、マイテ・アルベルディによれば「あるのは映画だけ」ということです。上記のように第2作「La Once」(14)でキャリア紹介をしておりますが、以後の活躍も追加して紹介すると、1983年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、作家。チリのカトリック大学で社会情報学を専攻、オーディオビジュアルと美学を学ぶ。現在複数の大学で教鞭をとっている。共著だが ”Teorias del cine documental en Chile 1957-1973” という著書がある。長編ドキュメンタリー第1作「El salvavidas」は、チリのバルディビアFF観客賞賞、グアダラハラFF審査員特別賞、バルセロナ・ドキュメンタリーFF新人賞他を受賞している。主な作品は以下の通りです。
2007年「Las peluqueras」(短編ドラマ)監督、脚本
2011年「El salvavidas」(長編ドキュメンタリー、デビュー作)監督、脚本
2014年「La Once」(長編ドキュメンタリー、第2作)監督、脚本
2014年「Propaganda」(長編ドキュメンタリー)脚本
2016年「Yo no soy de aquí」(短編ドキュメンタリー)
2016年「The Grown-Ups」(チリ「Los niños」長編ドキュメンタリー、第3作)監督、脚本
2020年「El agente topo」(長編ドキュメンタリー)本作
★長編第3作「The Grown-Ups」は、アムステルダム映画祭を皮切りに国際映画祭巡りをした。子供時代を一緒に過ごし仲間、今は中年になったダウン症のグループの愛と友情が語られる。興味本位でない彼らの可能性を探るドキュメンタリー。グラマド映画祭特別審査員賞、マイアミ映画祭Zeno Mountain賞、オスロ・フィルム・サウスフェスティバルDOC:サウス賞など受賞歴多数。


(「The Grown-Ups」のスペイン語版ポスター)
★セルヒオが選ばれたのは好奇心は強いがおよそスパイには見えないその無邪気さだったか。先ずはクライアントの母親ソニア・ぺレスを探しあて親しくならねばならない。このカトリック系のホームは入居者の9割40名ほどが女性だから結構大変です。セルヒオのように誠実で魅力的な男性は歓迎され、彼に恋する女性も現れる。一方ロムロはセルヒオの娘の心配も和らげなくてはならない、なにしろ父親はスパイなんだから。そしてセルヒオを追いかけてカメラを回したのが、パブロ・バルデス撮影監督、「La Once」と「The Grown-Ups」を手掛けている。完成して公けになれば潜入がバレてしまうわけだから、介護施設とはどういう取り決めをしていたのだろうか。

(学習に専念するセルヒオ)

(情報入手に入居者と親しくなるのもスパイの仕事です)
★セルヒオは目指す女性を突き止めるが、果たしてミッションは成功したのでしょうか。老人の孤独、やがて訪れるだろう死、セルヒオから送られてくる報告書はアルベルディ監督を内省的な方向に導いていく。現実に即しているとはいえドキュメンタリーというジャンルでは括れない。
★スタッフに女性シネアストが目立つが、エグゼクティブ・プロデューサーの一人ジュリー・ゴールドマンは、ニューヨーク出身のドキュメンタリーやTVシリーズを手掛けているプロデューサー兼エグゼクティブ・プロデューサー。2009年Motto Pictures を設立、オスカー賞ノミネート2回ほかエミー賞を受賞するなど受賞歴多数のベテラン、手掛けたドキュメンタリーもサンダンスFFで複数回受賞している。もう一人のエグゼクティブ・プロデューサーのキャロリン・ヘップバーンとの共同作品が多い。

(エグゼクティブ・プロデューサーのジュリー・ゴールドマン)
★成功の秘密の一つが製作者マルセラ・サンティバネスとの息の合った進行が挙げられる。監督とは初めてタッグを組んだのだが、マルセラは「マイテとはまるでパートナーになったようだった」とインタビューに応えている。またスマートフォンの特訓が大変だったとも。チリのカトリック大学視聴覚ディレクターのコミュニケーションを専攻(2003~10)。2012年9月から2年間UCLAの修士課程で映画製作を学んだ。ということで母国語の他英語が堪能。サンダンスFFにも監督と参加した。ラテンビート関連ではアンドレ・ウッドの『ヴィオレータ、天国へ』(11)のアシスタント・プロデューサーを務めている。制作会社 Micromundo Producciones 所属。

(監督と製作者マルセラ・サンティバネス、サンダンス映画祭2020)
F・トゥルエバの新作はコロンビア映画*サンセバスチャン映画祭2020 ⑱ ― 2020年10月10日 10:25
クロージングに選ばれたコロンビア映画「El olvido que seremos」

★カンヌ映画祭2020のコンペティション部門にノミネートされた作品「El olvido que seremos」は、コロンビアの医師で人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスの伝記映画、1987年8月25日、メデジンの中心街でパラミリタールの凶弾に倒れた。アバド・ゴメスの息子エクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化。カンヌFFはパンデミックのせいで開催できなかった。その時点でサンセバスチャン映画祭上映が視野に入っていたのだが、結果は予想通りになった。既に本国で公開されていたことも考慮されたのかアウト・オブ・コンペティションながらクロージング作品に選ばれた。コロンビア映画なのに監督も主役も脚本もスペイン人になった経緯は、カンヌFFの紹介記事で既にアップしています。他に小説家アバド・ファシオリンセのキャリア、ボルヘスのソネットから採られたという原題の経緯なども紹介しています。部分的に重なりますが、ラテンビート一押しの作品として再度アップすることにしました。フェルナンド・トゥルエバ監督もハビエル・カマラも、ラテンビートが縁で来日したシネアストですから脈があるかもしれない。
*「El olvido que seremos」の作品紹介は、コチラ⇒2020年06月14日

(エクトル・アバド・ファシオリンセ)
「El olvido que seremos」(「Forgotten We'll Be」)2020
製作:Dago García Producciones / Caracol Televisión
監督:フェルナンド・トゥルエバ
脚本:エクトル・アバド・ファシオリンセ(原作)、ダビ・トゥルエバ
撮影:セルヒオ・イバン・カスターニョ
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
編集:マルタ・ベラスコ・ディアス
美術:カルロ・オスピナ
衣装デザイン:アナ・マリア・ウレア
メイクアップ:ラウラ・コポ
プロダクション・マネジメント:マルコ・ミラニ(イタリア)
助監督:ロレナ・エルナンデス・トゥデラ(マドリード)
録音:ヌリア・アスカニオ
視覚効果:ブライアン・リナレス
スタント:ミゲル・アレギ、ジョン・モラレス
製作者:マリア・イサベル・パラモ(エグゼクティブ)、ダゴ・ガルシア、クリスティナ・ウエテ
データ:製作国コロンビア、スペイン語、2020年、136分、カラー&モノクロ、伝記、撮影地メデジン、ボゴタ、マドリード、トリノ。公開コロンビア2020年8月22日、スペイン2021年3月予定
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2020コンペティション部門正式出品(パンデミックで上映なし)、サンセバスチャン映画祭2020クロージング作品(9月26日)
キャスト:ハビエル・カマラ(エクトル・アバド・ゴメス)、パトリシア・タマヨ(妻セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス)、フアン・パブロ・ウレゴ(長男エクトル・アバド・ファシオリンセ)、セバスティアン・ヒラルド(アルフォンソ・ベルナル)、ダニエラ・アバド、アイダ・モラレス、ホイット・スティルマン(ドクター・リチャード・サンダース)、他多数
ストーリー:1987年8月25日メデジンの中心街、医師でカリスマ的な人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスは、二人組のパラミリタールのシカリオの凶弾に倒れた。アバドが撃たれた日は、子供たちが最愛の父親を、妻が善き夫であり優れた同志を奪われた日でもあった。1980年代、暴力が吹き荒れたメデジンで、アバドは医師として家族の長として、また大学教授として後進を育てていた。我が子たちは教育を受け寛容と愛に包まれていたが、恵まれない階級の子供たちのことが常に心に重くのしかかっていた。悲劇が顔を覗かせていた。

(ハビエル・カマラ扮する父と息子、映画から)
カラーとモノクロで描く暗殺された父に捧げる永遠の愛
★原作はベストセラーだったが、映画化までの道のりは長かった。一つには複雑なコロンビアの社会状況と無縁ではなく、およそ3年前、コロンビアのカラコルTV社長ゴンサロ・コルドバ(2012~)の発案で映画化が企画され、オスカー監督フェルナンド・トゥルエバに白羽の矢が立った。交渉に当たったのは副社長ダゴ・ガルシアで、長い紆余曲折の後、本格的に始動したのは2019年だった。紆余曲折については、後ほど監督に語ってもらいます。本作では女優として出演しているダニエラ・アバドは、主人公の孫娘、つまり作家エクトル・アバドの娘です。彼女は映画監督として祖父暗殺をめぐるアバド家の証言集「Carta a una sombra」(15)というドキュメンタリーを撮っています。

(エクトル・アバド・ゴメスと娘たち)
★予告編から推測するに、本作は作家アバド・ファシオリンセ(メデジン1958)がまだ少年だった1970年代前半はカラーで、成人した80年代はモノクロで撮るという2部構成になっているようです。下の家族写真によれば、作家は6人姉弟の第5子にあたる。

(父親役のハビエル、一人置いて母親セシリア役のパトリシア・タマヨ)

(就寝前に父親に絵本を読んでもらうエクトルと妹)

(80年代の父とフアン・パブロ・ウレゴ扮する息子)

(息子とその恋人か)
★エクトル・アバド・ファシオリンセの小説「El olvido que seremos」が上梓されたのは2005年11月、年内に3版したというベストセラー、スペインでの発売は2006年だった。サンセバスチャン映画祭上映に合わせて現地入りしたトゥルエバ監督と主人公アバドを演じたハビエル・カマラにインタビューしたエルパイス紙の記事によると、「何年ものあいだ、私はこの本に敬意を表してきた。私の人生に贈られてきたと思っていた」、しかし「ハビエル・カマラを主人公にした映画化の依頼には最初は断りました」と監督。依頼を受けて監督するという経験はなく、「私は個人的な映画をつくるだけで、というのも映画は第三者を介しないのが一番いいからです。もし外部から提案がきた場合、内面化できるなら引き受けるだけです。小説については視覚化できると感じていました」と説明する。

(監督とハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル、9月26日)
★「小説は私的な絆が感じられるアングルを多く持っている。例えば家族物語、父と息子の関係などが語られている。私にとってこの映画は、幸福について、愛について、素晴らしいあわだちについて語っており、そして現実がいかにしてフィエスタを台無しにしてしまうかを伝えている。更に5人の姉妹や母親、メイドやシスターなど女性ばかりに囲まれて育つ男の子エクトルの魅力の虜になった。私が好きな映画や本をいくつも思い出させた」。にもかかわらずコロンビアのプロデューサーの提案をできるだけかわそうとした。それは「映画館に連れ出すのは難しそうに思えたからです。私の母が人生で再読した2冊のうちの1冊だったのですが」と苦笑する。幾度となく会合がもたれたが、ありがたいことだがその都度お断りした。

(撮影中の監督とカマラ)
★彼の背中を押したのは製作者の妻クリスティナ・ウエテだった。彼女はたった一日で再読してしまうと、同意してしまった。それで彼も受け入れることにした。「不可能もここで受け入れるなら可能になるかもしれない。クリスティナはいつも不意を衝く」と思ったそうです。コロンビア行きが決定した。斯くのごとくこのカップルは夫唱婦随ならぬ婦唱夫随なのでした。クリスティナ・ウエテについては、本作の脚色を手掛けた義弟ダビ・トゥルエバが、ゴヤ賞2014を総なめにした「『ぼくの戦争』を探して」でご紹介しています。主役のハビエル・カマラと監督が宿願のゴヤの胸像を初めて手にした映画です。ウエテはスペインの女性プロデューサーの草分け的存在であり牽引役を担っている。
*「『ぼくの戦争』を探して」の主な紹介記事は、コチラ⇒2014年01月30日/同11月21日
*クリスティナ・ウエテについては、コチラ⇒2014年01月12日

(監督とカマラ、サンセバスチャンFFフォトコール、9月26日)

(上映後のプレス会見、同上)
★実話を題材にするということはデリケートさが求められる。「二人(監督とカマラ)にとって資料集めをするのは興味あることだったが、私は映画を撮るためにここに来て、現実は既に滑走路で待機していた」と監督。「最初に私が考えた心配の種は、カマラがコロンビア人でないことでした。そのとき作家アバドから監督を引き受けてくれた感謝と、父親そっくりの俳優ハビエル・カマラは理想的だというメールが届いた」。父親を演じる俳優はコロンビア人から探すのが理想だと返事した。カマラはコロンビア訛りも分からないしメデジンもよく知らない。それだけでなくエクトル・アバド・ゴメスとは違いが大きすぎる。しかしハビエルは多くの好条件を兼ね備えていた。例えば非常に優秀な役者であることに加えて、アバド・ゴメスのように人生を愛し、生きることを謳歌している。これは上手く化けられるかもしれない。
★当のカマラはアバドの人格を「アメリカ人がよく口にする、実際より大きい」と定義した。また「ほとんど捉えどころのない」驚きの人だったとも。資料集めの段階でコロンビアにはアバドも載っていた脅威のリストというのがあるのを知った。このリストに載っている人は急いでコロンビアから出ていった。このリストに載っていたある人物から、例えばもしシンボリックな存在で親切で良心的な人なら残ってはいけなかった、とカマラは聞かされた。「そのとき、現実のアバドという人間の重みを感じ、撮影からは切り離そうと思った」。「とても興味深いのは、それぞれがエクトルに親切にしてもらったとか、娘たちは娘たちで父は優しいパパだったとか口にした。どうも彼は感動を演出する才に長けていたようだ」とカマラ。

(現地入りしたハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル玄関前、9月23日)
★作家が脚本を辞退したのは「小説を書いていたときの苦しみを二度と味わいたくなかった」からだと監督。それに脚本執筆の経験がなかったからとも語っているが、作家は娘ダニエラのドキュメンタリーの脚本を手掛けていた。撮影が始まると邪魔をしたくないと、ヨーロッパへ旅立ってしまった。「しかし最終的にはお会いできた」とカマラ。「3年前に監督に頂いた小説にサインしてもらいたかった。そして彼は彼で姉妹たちに渡したい私の写真を撮った。私が彼に映画は見たかと尋ねると、『いや、あなたが私のお父さんと同じだと思ったら興奮してしまうだろうね』と返事した。これ以上の褒め言葉はなかったでしょう」とカマラは述懐した。
マジックリアリズムが今でも浮遊するコロンビア
★撮影中は実際のドクター・アバドの逸話が溢れていたとご両人。「脇役の俳優が背広を着てやってくると、私はアバド先生に2度お会いしています。2度目のときこの背広を着ていました。もし映画で着ることができたらと思ってと話した。ある女優さんは私の夫はアバド先生に命を助けてもらいました」など。カマラは「こういうことが次々に起こったのです」と強調する。通りで行き会う人々は、彼があたかも実際のドクターであるかのように接した。「マジックリアリズムはここコロンビアでは実際に存在しています。本の中だけでなく人々の中に存在し、彼らの視線を通してそれに気づかされます」。同じように憎しみも感じます。例えば埋葬のシーンを撮るための建物が必要だったが、教会はどこも拒絶したのです。
★トゥルエバ監督は「コロンビアはまだ闘いが終わっていないのです」と力をこめる。「アバドと妻セシリアが最後の会話をするシーンを撮ろうとした日、いくつかの道路が通行止めになった。そのニュースをラジオで聞いた未亡人セシリアは、直ぐタクシーで現場に駆けつけ、警察のバリアの前に立っていた。彼らに『どこに行くつもりだ』と尋問されると、『うるさいわね、通しなさい、私が主人公よ!』」ww。おそらく90歳はとうに過ぎていると思うが、かつての闘士の面目躍如。

(セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス、息子とのツーショット、2017年11月)
ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑩ ― 2020年09月14日 10:33
メイド・イン・スペイン部門――ヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」

★9月12日に閉幕したベネチア映画祭で黒沢清の『スパイの妻』が監督賞(銀獅子賞)を受賞しました。本作はサンセバスチャン映画祭SSIFFでもペルラス部門のオープニング作品に選ばれています。その昔、ホラー映画『回路』がカンヌ映画祭2001「ある視点」で国際批評家連盟賞を受賞したときには、黒澤明監督の縁戚関係者と間違われたが、もうそんな誤解は昔話になりました。クラスターが起きたのか起きなかったのか、とにかくベネチアは閉幕しました。
★メイド・イン・スペイン部門の中から、気になる映画を時間が許す限りアップする予定ですが、先ずヌリア・ヒメネスの「My Mexican Bretzel」が邦題『メキシカン・プレッツェル』で、なら国際映画祭2020(9月18日~22日)のコンペティション部門にノミネートされておりますので、本作からスタートします。また本映画祭では「カタラン・フォーカス」として、IRLインスティテュート・ラモン・リュイスとの共催でカタルーニャの女性監督作品6作が上映されます。その中には当ブログSSIFF 2019でご紹介した、ルシア・アレマニーのデビュー作「La inocencia」(19『イノセンス』)とベレン・フネスの「La hija de un ladrón」(19『泥棒の娘~サラの選択~』)が含まれており、嬉しいサプライズです。後者は主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞(銀貝賞)を受賞、翌年のゴヤ賞2020ではベレン・フネスが新人監督賞を受賞している力作です。奈良県はコロナウイリス感染者も落ち着いているようなので無事終了することを願っています。
「My Mexican Bretzel」(『メキシカン・プレッツェル』)スペイン、2019
製作:BRETZEL & TEQUILA FILM PRODUCTIONS(ヌリア・ヒメネス)/
AVALON PRODUCTORA CINEMATOGRAFICA(マリア・サモラ、ステファン・シュミッツ)
監督・脚本:ヌリア・ヒメネス・ロラング
撮影:フランク・A・ロラング、イルセ・G・ロラング
編集:クリストバル・フェルナンデス、ヌリア・ヒメネス
音楽:NO HAY NO HAY
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019、ドキュメンタリー・ドラマ、74分
映画祭・受賞歴:ヒホン映画祭2019スペイン映画部門の作品・監督・脚本賞受賞、ロッテルダム映画祭2020ワールドプレミア、Found Footage賞、D'Aバルセロナ映画祭2020観客賞を受賞、サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門上映、なら国際映画祭2020コンペティション部門ノミネート、ほか
解説:映画はインテリ階級の裕福な女性ビビアン・バレットの日記と、夫のレオン・バレットが前世紀の40年代から60年代にかけて、スーパー8ミリと16ミリで妻を撮影したアーカイブ資料を結び付けている。YouTubeで流れるフィルムは撮影されたばかりのように鮮明で美しく、どのように保存されていたのか完成度の高い映像に驚かされる。無声の部分と後から追加した飛行機、車、列車、風の音で構成され、ナレーションの代わりにビビアンのエッセイ風の日記で構成されている。

*監督キャリア&フィルモグラフィー*
ヌリア・ヒメネス・ロラング(バルセロナ1976)は、監督、脚本家、製作者。ジャーナリズム、国際関係、ドキュメンタリー映画の制作を学んだ後、セミナー参加、イサキ・ラクエスタ、ビルヒニア・ガルシア・デル・ピノ、パトリシオ・グスマン、フレデリック・ワイズマンのようなシネアストが指導するクラスで知識を蓄積している。2017年短編ドキュメンタリー「Kafeneio」でデビュー、ドキュメンタリー・マドリードやMIDBOで上映された。本作『メキシカン・プレッツェル』が長編第1作。

(ヌリア・ヒメネス)
★1分程度の予告編で驚くのは、ビビアンの夫レオンが撮影したというそのヴィンテージ映像です。多くの批評家が「ダグラス・サークの映画に典型的なテクニカラーで撮られている」と口を揃える。ドイツ出身の監督だが、妻がユダヤ人だったことでアメリカに亡命、1950年代に撮ったハリウッド映画は、本邦でも何作も公開されている。当時を知るオールドファンにはロック・ハドソン、ローレン・バコールなど出演俳優の名前からして懐かしい。世界の都市、ニューヨーク、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、バルセロナ、ベネチア、リヨンなどを訪れ、いみじくも古いヨーロッパやアメリカへのロマンティックな旅に観客を誘っている。観客賞受賞の所以です。

(ビビアンとレオン・バレット)
★映画は「嘘は真実を語るためのもう一つの方法に過ぎない」というParavadin Kanvar Kharjappali(パラバディン・カンバール・カージャッパリ?)という作家の言葉で始まるようです。ビビアンの伯父の家にあった赤表紙の本から引用したというが、グーグルで検索しても見つかりません、架空の作家のようですから。勿論ビビアンの声も聞くことができません。こういう作品は見るに限るのですが、ドキュメンタリー映画と簡単に括れない、現実とフィクションが交じり合った偽りのドキュメンタリーとでも言うしかない。海の中央にいる女性とお菓子のプレッツェルというタイトルを組み合わせたポスターも謎めいている。



金貝賞を競うスペイン映画は2作*サンセバスチャン映画祭2020 ④ ― 2020年08月02日 12:49
セクション・オフィシアルにパブロ・アグエロとアントニオ・メンデス・エスパルサ

(セクション・オフィシアルのポスター)
★7月30日、コンペティション部門、コンペティション外ほか、ニューディレクターズ部門、サバルテギ-タバカレラ部門などがアナウンスされました。スペイン映画はコンペにパブロ・アグエロの「Akelarre」とアントニオ・メンデス・エスパルサの「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)の2作が金貝賞を競うことになりました。他にアウト・コンペティションには、ロドリゴ・ソロゴジェンのTVシリーズ「Antidisturbios」(全6話のうち2話)、特別上映作品としてアイトル・ガビロンドの「Patria」がエントリーされた。コンペ外のウディ・アレンの新作「Rifkin's Festival」はオープニング作品です(アップ済み)。
◎セクション・オフィシアル◎

①「Akelarre」 (スペイン=フランス=アルゼンチン)2020
製作:Sorgin Films / Kowalski Films / Lamia Producciones
監督:パブロ・アグエロ
脚本:パブロ・アグエロ、Katall Guillou
撮影:ハビエル・アギーレ
音楽:マイテ・アロタハウレギ、アランサス・カジェハ
編集:テレサ・フォント
録音:ウルコ・ガライ、ホセフィナ・ロドリゲス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、アナ・ルビオ、他
製作者:フレド・プレメル、グアダルーペ・バラゲル・Trellez、(エグゼクティブ)コルド・スアスア、他
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル
*パブロ・アグエロ(メンドサ1977)は、本映画祭2009ニューディレクターズ部門に「77 Doronship」で登場、同2015セクション・オフィシアルに「Eva no duerme」、当ブログではノミネート紹介だけでしたが、ガエル・ガルシア・ベルナルやイマノル・アリアスなどが出演していて、今回の「Akelarre」と同じくアルゼンチン西仏合作でした。アルゼンチンのメンドサ出身だがスペインやフランスとの合作が多く、バスクに軸足をおいている監督です。今回のノミネート作品も17世紀のバスクを舞台にした魔術による裁判のプロセスに着想を得た歴史ドラマで、長編第5作めになる。

(パブロ・アグエロ監督)
キャスト:アレックス・ブレンデミュール(ロステギ裁判官)、アマイア・アベラスツリ(アナ)、ホネ・ラスピウル(マイデル)、ガラシ・ウルコラ、ダニエル・ファネゴ、ダニエル・チャモロ、他多数
ストーリー:1609年バスク、この地方の男たちは海に出かけてしまっている。アナは村の娘たちと一緒に森で行われるフィエスタに出かけていく。この地方にはびこる魔術による裁判を浄化するよう国王フェリペ3世に依頼された裁判官ロステギは、彼女たちを逮捕して魔術を告発する。彼は魔術の儀式アケラーレについて知る必要があるだろうと決心、おそらく悪魔が操っているにちがいないと調査に着手する。17世紀初頭の為政者による、一つの考え方、一つの言語、一つの宗教を強制することを願った魔女狩り裁判、地方文化の否定が語られる。 (文責:管理人)

(撮影中の魅力的な魔女たち)
★ペドロ・オレアが1984年に撮った同名の映画「Akelarre」の舞台は、バスク州の隣りナバラ州でした。ナバラもアケラーレが行われていた。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』(13)の舞台もナバラ州の小村スガラムルディ、親子三代にわたる魔女軍団の物語。
*『スガラムルディの魔女』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月12日
★アントニオ・メンデス・エスパルサの「Courtroom 3H」(「Sala del Juzgado 3H」)は次回にします。
ヴィゴ・モーテンセンにドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2020 ② ― 2020年07月08日 16:57
ヴィゴ・モーテンセンにドノスティア栄誉賞の発表

★去る6月22日、第68回サンセバスチャン映画祭2020(9月18日~26日)の栄誉賞ドノスティア賞の発表がありました。開催自体を危惧してアップしないでおきましたが、どうやら動き出しました。栄誉賞受書者は、最近では複数(2人か3人)が多いので、もう一人くらい選ばれるのではないでしょうか。アメリカの俳優ヴィゴ・モーテンセンは、ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(01~03)のアラゴルン役で多くのファンを獲得しました。アメリカ映画は日本語版ウイキペディアに詳しいので紹介要りませんので、スペイン語映画を中心にアップいたします。当ブログではリサンドロ・アロンソの『約束の地』(14)の劇場公開に合わせて作品&キャリアを紹介しております。
*『約束の地』の記事は、コチラ⇒2015年07月01日

(リサンドロ・アロンソの『約束の地』の原題「Jauja」から)
★本映画祭で初監督作品「Falling」(カナダ=イギリス合作)が上映されます。サンダンス映画祭2020のクロージング作品、カンヌ映画祭2020のコンペティションにも選ばれました。ベテランのランス・ヘンリクセンと彼自身が親子を演じたほか、脚本も自ら執筆した。父と息子の確執、受け入れ、許しが語られるようです。10月2日スペイン公開も予定されています。


(監督デビュー作「Falling」で親子を演じた、ランス・ヘンリクセンとヴィゴ)
★ヴィゴ・モーテンセン、1958年ニューヨークのマンハッタン生れ、俳優、脚本家、詩人、写真家、画家、ミュージシャン、出版社パーシヴァル・プレス(Perseval Presse2002年設立)経営者、今年「Falling」で監督デビューも果たした。父親はデンマーク人の農業経営者、母親は米国人(ヴィゴ11歳のとき離婚、共同親権)、父親の仕事の関係で特に幼少年期にはベネズエラ、アルゼンチンで育ったことからスペイン語が堪能、父親の母語デンマーク語、加えて母親がノルウェー語ができたのでノルウェー語、ほかスウェーデン語、フランス語、イタリア語もできる。

★1985年、ピーター・ウィアーの『刑事ジョン・ブック/目撃者』のアーミッシュ役でスクリーンに本格デビューした。米アカデミー賞主演男優賞ノミネート3回、デヴィッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』(07)、マット・ロスの『はじまりへの旅』(16)、ピーター・ファレリーの『グリーンブック』(18)がある。クローネンバーグとは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)や『危険なメソッド』(11)でもタッグを組んでいる。

(クローネンバーグの『イースタン・プロミス』から)
★スペイン語映画ではアグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』(06)のディエゴ・アラトリステ役、アルゼンチン映画では、双子の兄弟を演じたアナ・ピターバーグの『偽りの人生』(12)、上記のリサンドロ・アロンソの『約束の地』(14、アルゼンチン、デンマーク合作)のグンナー・ディネセン大尉役など。


(ディエゴ・アラトリステ役のヴィゴ・モーテンセン)
★他にショーン・ペーンの初監督作品『インディアン・ランナー』(91)、ブライアン・デ・パルマ『カリートの道』(93)、ジェーン・カンピオン『ある貴婦人の肖像』(96)、リドリー・スコットの『G.I. ジェーン』(97)、エド・ハリスの監督2作目となるウエスタン『アパルーサの決闘』(08)、コーマック・マッカーシーのベストセラー小説をジョン・ヒルコートが映画化した『ザ・ロード』(09)、ブラジル仏合作のウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』(12)、アルベール・カミュの短編の映画化、監督のダヴィド・オロファンが、ヴィゴを念頭において台本を執筆したという『涙するまで、生きる』(14)などなど数えきれない。モーテンセンのような経歴の持主はそうザラにはいないのではないか。

(フランス映画『涙するまで、生きる』のポスター)
★私生活では、12年前から『アラトリステ』で共演したアリアドナ・ヒルとマドリードのダウンタウンに在住している。現在のパートナーに映画同様永遠の愛を捧げているとか。お互い再婚同士、当時アリアドナはダビ・トゥルエバと結婚しており2人の子供もいた。ヴィゴの一人息子ヘンリーはドキュメンタリー作家。またサッカー・ファンでもあり、『約束の地』の脚本家で詩人のファビアン・カサスとクラブチーム「サンロレンソ・デ・アルマグロ」の熱狂的なサポーターである。カサスの詩集を自分が経営するパーシヴァル・プレスから出版したのが縁ということです。

(ヴィゴの息子ヘンリー、ヴィゴ・モーテンセン、アリアドナ・ヒル、
『グリーンブック』で主演男優賞にノミネートされた米アカデミー賞2019の授賞式)
ゴヤ賞2021はマラガ開催*司会者にアントニオ・バンデラス ② ― 2020年07月03日 16:21
ゴヤ賞2021授賞式は、マラガ2月27日に決定

(総合司会者のアントニオ・バンデラスとマリア・カサド)
★第35回ゴヤ賞授賞式の日取り2月27日(土)だけが発表になっておりました。今回開催地は昨年と同じマラガですが、昨年のスポーツ・センターから Soho CaixBank 劇場に変わります。総合司会者も入れ替えになり、マラガ名誉市民、俳優、監督、製作者のアントニオ・バンデラス、カタルーニャ出身のジャーナリストでテレビ・アカデミー会長のマリア・カサドに決定とスペイン映画アカデミーが発表しました。コロナ感染拡大で決定が大幅に遅れましたが、昨年より1ヵ月遅れの開催です。例年なら米アカデミーが行われる時期ですが、オスカーも8週間遅れの4月25日と大幅にずれ込んでいます。あくまで予定ですから、先のことは分かりません。なお新型コロナウイルスのせいで劇場公開できなかった映画も、第35回に限ってオンライン上映も対象作品になります。
★総合司会者のうちアントニオ・バンデラスについての紹介は割愛しますが、ガラ開催のSoho CaixBank 劇場は、2019年11月15日開館したばかりの新しい劇場、出資者は大手銀行カイシャバンク CaixBank、マラガ市、個人出資者がアントニオ・バンデラスのポケットマネーというから驚きです。彼はシネアストの顔以外に辣腕ともいわれる投資家としても有名で、現在のパートナーであるニコール・ケンプルさんはドイツのシュツットガルト出身の投資銀行家です。劇場は今後マラガ市のみならずアンダルシアの文化発信地となります。今年1月にはバンデラス出演の『コーラスライン』も上演されています。バンデラスは「名誉で光栄に思います。スペイン映画界の一大イベントのお役に立ちたい」とコメント。カンヌ映画祭2019で最優秀男優賞を受賞した『ペイン・アンド・グローリー』もル・シネマで公開が始まっています。
*バンデラスの主な紹介記事は、コチラ⇒2017年09月28日/2015年02月15日

★マリア・カサドはバルセロナ生れ(1978)、バルセロナ自治大学卒、2006~12年までテレデアリオ会長を務め、2018年11月よりTV芸術科学アカデミーの会長に選ばれた。しかし2020年5月に退任して、9月からは朝のプログラムを降板するというニュースが伝わってきた。バンデラスはこのニュースを知ると、さっそくソーホー劇場とつながりのある、ソーホーTV の新しいプロデューサー職を打診をしたようです。いずれマラガに移住してくることになる。今回の総合司会役を務めることについては、「大きな挑戦だが、すべてのレベルで歴史的な授賞式になるよう大きな期待を寄せている」と抱負を語っている。
★2021年の2月以降は、映画賞ラッシュになる。ゴヤ賞ガラの翌日には、ゴールデン・グローブ賞、イギリス・アカデミーのバフタ賞4月11日、米アカデミー授賞式4月24日、12月14日開館予定だったハリウッド・アカデミー博物館は、4月30日になります。
第35回ゴヤ賞2021の授賞式の行方*オンライン上映も選考対象作品 ① ― 2020年06月21日 18:11
第35回ゴヤ賞2021授賞式の延期とルール変更

★2021年2月上旬に開催予定だった第35回ゴヤ賞授賞式の延期が視野に入ってきました。スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソによると、6月23日(火)にアカデミーの執行部会議を開催して決定するそうです。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2021年の各国アカデミー賞ガラは、従来のかたちでの開催の変更を余儀なくされています。第93回目となる米アカデミー授賞式は、2月下旬の最終日曜日2月28日から8週間遅れの4月25日に変更、上映期間に関するエントリー条件も、12月末日から2月末日まで延長することで合意したということです。続いてイギリス映画アカデミー賞 Bafta バフタは、2月14日を4月11日(日)に延期すると発表、これからドミノ現象が起きる可能性も否定できません。出席者が会場に集まれるのかどうかも疑問です。

(マリアノ・バロッソ会長、ゴヤ賞2020のガラにて)
★従来ですと、選考対象作品はネットフリックスやアマゾンプライムでのプレミア上映は基本的には対象外ですが、2021年に限り動画配信も選考対象に含むそうです。しかしコロナ感染拡大のため「オンラインでの公開を余儀なくされた作品限定」です。オスカー賞を例にとると、黒人として初のカンヌ映画祭審査委員長を務めることになっていた、スパイク・リー監督の『ザ・ファイブ・ブラッズ』(Netflix配信)は選考対象になります。少々長尺で詰め込み過ぎですが、巷ではかなりの好感度でオスカー受賞の呼び声も高そうです。
★秋のスペイン関連の主要映画祭、ベネチア、トロント、サンセバスチャン、バジャドリード、シッチェス、セビーリャなどの映画祭で何が起こるか誰も分からないわけですから、「オンライン」でのリリースを受け入れざるを得ないということでしょう。目下進行中の第1波の収束が覚束ない状態では、必ず来るという第2波、第3波を考えると想像するだに怖ろしい。どんな小規模の映画祭でも1000人以下というのはあり得ません。春開催の予定だったマラガ映画祭は8月下旬(21日から30日まで)開催がアナウンスされておりますが、果たしてできるのかどうか。
2021年はベルランガ年の構想、ゴヤ賞の開催地もバレンシア?
★2021年が生誕100年になるルイス・ガルシア・ベルランガの <ベルランガ年> の始動も変更を余儀なくされています。スペイン人が最も愛したと言われる『ようこそマーシャルさん』「プラシド」「カラブッチ」「死刑執行人」の監督を祝う行事は、スペイン映画アカデミー、フィルモテカ、文化省、生れ故郷のバレンシア市議会、バレンシア自治州の後援という大掛かりなイベントです。バレンシアでゴヤ賞という可能性もありそうです。バレンシア市はベルランガ年をゴヤ賞と合流して祝う準備ができていると発表、盛んに目配せしている。5月、コロナウイリスが誘発した経済危機を緩和するための一連の経済対策の中に、ホセ・マヌエル・ロドリゲス・ウリベス文化スポーツ大臣は、ベルランガ年を公共の関心の高い別格のイベントであると述べている。開催場所と日付の決定は、紆余曲折はあるにせよ時間的に待ったなしでしょう。
★前回のアカデミー理事会でグリーン・シール(Sello Verde)の作成が決まりました。環境に対する感受性の高い長編映画やTVシリーズ作品に授与されるそうです。映画アカデミーも環境を尊重する活動に社会的責任があるということです。
*関連記事・管理人覚え*
*『ようこそマーシャルさん』の紹介記事は、コチラ⇒2020年05月22日
*「カラブッチ」の紹介記事は、コチラ⇒2020年06月03日
*「死刑執行人」の紹介記事は、コチラ⇒2020年06月09日&06月10日
ダビ・イルンダインの第2作目「Uno para todos」*マラガ映画祭2020 ⑨ ― 2020年04月16日 18:26
文化や世代を超えて許しの必要性と希望が語られる

★ダビ・イルンダインの第2作目「Uno para todos」は、セクション・オフィシアルにノミネートされた作品。イルンダインは2015年の裁判ドラマ「B, la pelicula」で長編デビュー、喝采を博した。本作は主人公ルイス・バルセナスの名前を入れた「B de Bárcenas」、単に「B」など幾つかのタイトルで紹介されています。国民党アスナル政権下(1996~2004)に起きたスペイン最大級の汚職事件の裁判ドラマです。元国民党会計責任者ルイス・バルセナスをめぐる裁判を描いている。撮影当時はまだ裁判は結審していなかった。ジョルディ・カサノバの脚本をイルンダインが脚色してゴヤ賞2016脚色賞にノミネートされた。

(ダビ・イルンダイン監督)
★第2作目はデビュー作の裁判ドラマとは打って変わって、小さな町を舞台に代用教員に採用されたアレックスが文化の違いを乗り越えて奮闘する姿を描いている。アレックスにカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』のダビ・ベルダゲルが扮して、文化や世代の枠を超えた許しの必要性が語られるようです。観客の「どうして、何のために闘ったり学んだりするのか」の問いには明確な回答は得られませんが、目的は達成することができるという希望が得られる、それが監督の目的のようです。脇を支える女優陣にパトリシア・ロペス・アナイス、クララ・セグラなどがクレジットされている。プロデューサーに『悲しみに、こんにちは』のバレリー・デルピエール、撮影監督にサンセバスチャン映画祭2018年のコンペティション部門の審査員をしたベト・ローリッヒなど女性スタッフが目立つ。
「Uno para todos」
製作:Inicia Films / Fasten Films / Bolo Audiovisual / A Contracorriente Films /
Uno Para Todos La Pelicula AIE / Amalur AIE 協賛ナバラ政府、ICAA、RTVE、Movistar+
監督:ダビ・イルンダイン
脚本:バレンティナ・ビソ、コラル・クルス
撮影:ベト(エリザベス)・ローリッヒRourich
編集:エレナ・ルイス、アナ・チャルテ
音楽:ゼルティア・モンテス
美術:シェニア・ベソラ
キャスティング:イレネ・ロケ
衣装デザイン:イランツ・カンポス、オルガ・ロダル
メイク&ヘアー:(メイク)ジュディJudith・インベルノン、(ヘアー)ベンハミン・ぺレス
製作者:バレリー・デルピエール、アドリア・モネス、カロリナ・ゴンサレス、アドルフォ・ブランコ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、94分、撮影地バルセロナ県アレニス・デ・ムントArenys de Munt、アラゴン州サラゴサ県のカスぺ、期間2019年7月4日から6週間。配給A Contracorriente Films、販売Film Factory
映画祭・受賞歴:マラガ映画祭2020セクション・オフィシアル出品作品、延期のためスクリーン上映はなかった。マイアミ映画祭出品作品。
キャスト:ダビ・ベルダゲル(アレックス)、パトリシア・ロペス・アルナイス、クララ・セグラ、ベッツィ・トゥルネス、アナ・ラボルデタ、ホルヘ・ポベス、バレリア・エンドリノ(バレリア)、他オーディションで選ばれたサラゴサ県カスぺの子供たち。

(オーディションに集まったカスぺの子供たち)
ストーリー:34歳になる代用教員アレックスの物語。彼は今までまったく知らなかった小さな町の小学校に代用教員として赴任してきた。6年生の担任になるが、間もなくこのクラスに病気をもった一人の生徒を復学させねばならないことがわかった。クラスメイトは誰も彼が戻ってくることを望まなかった。それにはそれなりの理由があったのだが・・・。監督が新聞で読んだ美しい記事がベースになって映画化された。困難の克服、希望、文化や世代を超えた許しの必要性が語られるであろう。

(友達から復学を歓迎されない病気の生徒に扮した子役)
★ダビ・イルンダイン(パンプローナ1975)は、監督、脚本家。ナバラ大学でオーディオビジュアル・コミュニケーションを専攻、その後キューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの国際映画テレビ学校EICTVで映画を学ぶ。短編「Flores」(02)、「En el frigo」(04)、「Ejecución」(13)、「Acción-reacción」(13、17分)ではルス・ディアスやマカレナ・ゴメスを起用した。

(短編「Acción-reacción」のポスター)
★長編デビュー作が前述した「B, la pelicula」で、ゴヤ賞2016脚色賞ノミネーション、フェロス賞特別賞、2016ディアス・デ・シネ賞他を受賞した。国民党アスナル政権下で起きたスペイン最大級の汚職事件「グルテル事件」の裁判が描かれた。国民党の元会計責任者ルイス・バルセナスにペドロ・カサブランク、裁判官パブロ・ルスにマノロ・ソロを配し、二人はASECAN2016男優賞を揃って受賞した。企画当時は裁判中であったこと(結審2018年5月)や政治絡みであることから、テレビ局から資金提供が受けられず、クラウドファンディングで597人から集めた55,000ユーロを元手に製作された。2013年7月15日、バルセナスが収監されていた刑務所から法廷に移送されたところからドラマは始まる。

(バルセナス本人に酷似したペドロ・カサブランクを配したポスター)
★代用教員役のダビ・ベルダゲル(ジローナ1983)は、前述したようにカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』で孤児になってしまった姪の養父役を好演、2018年のゴヤ賞とフェロス賞の助演男優賞を受賞した。当ブログ初登場はダビの親友であるカルロス・マルケス=マルセの「10.000Km」でガウディ賞2015の主演男優賞を受賞、ゴヤ新人賞にノミネートされた。SXSW映画祭2014では、共演のナタリア・テナと特別審査員賞を受賞している。同監督の「Els dies que vindran」は、昨年のマラガ映画祭2019に出品、ベルダゲル自身は無冠だったが、実際の妻で劇中で夫婦を演じた舞台女優マリア・ロドリゲス・ソトが女優賞(銀賞)を受賞、カルロス・マルケス=マルセが作品賞「金のビスナガ賞」、監督賞(銀賞)に輝いた。彼は若くして今年の「マラガ才能賞」を受賞しているが、新型コロナウイルスのせいで授賞式はどうなるのか。最近ではパストール兄弟の『その住人たちは』(Netflix)で生意気なCM会社の幹部になった。
*ダビ・ベルダゲル紹介記事は、コチラ⇒2014年04月11日/2019年04月11日

(『悲しみに、こんにちは』のポスター)

(代用教員アレックス役のダビ・ベルダゲル、映画から)
★クララ・セグラ(バルセロナ1974)は、アメナバルの『海を飛ぶ夢』(04)で尊厳死協会員で主人公ラモンの相談にのるジェネ役を生き生きと演じていた女優。他にギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)、最近ではオリオル・パウロの『嵐の中で』(18、Netflix)に出演しており、夫とその愛人に殺されてしまう役柄だった。本作では復学してくる病気の生徒の母親役らしいが、作品の詳細がまだよく分からないので不確かです。少年の病気は小児がんのようで、他の生徒たちが復学を望まないのは、どうやら病気で休む前はいじめっ子だったからのようです。監督が読んだ新聞の記事がベースになっているということです。

(クララ・セグラ、子供と一緒に登校してくるシーンから)

(クララ・セグラと共演者のアルベルト・ヒメネス、『海を飛ぶ夢』から)
★パトリシア・ロペス・アルナイス(ビトリア1981)は、アメナバルの『戦争のさなかで』にミゲル・デ・ウナムノの次女マリア役で出演した。同郷バスク出身の監督フリオ・メデムの『ファミリー・ツリー 血族の秘密』(17、Netflix)や、人気TVシリーズ出演で知名度を上げている。
*『戦争のさなかで』の作品、ロペス・アルナイスのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年11月26日

(パトリシア・ロペス・アルナイス、『戦争のさなかで』から)
★ベッツィ・トゥルネス(バルセロナ)は映画と舞台女優、公表されている生年は20世紀。カタルーニャ語のTVシリーズ出演が多く映画では脇役が多い。代表作はマラガ映画祭2016のコンペティション部門にノミネートされたマルク・クレウエトのブラック・コメディ「El rey tuerto」でしょうか。主役の一人を演じてガウディ賞にノミネートされた。他にはNetflix配信のコメディ『やるなら今しかない』、『オチョ・アペリードス・カタラナス』、ミニ映画祭で公開されたオリオル・パウロの密室殺人劇『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(17)、TVシリーズ「パキータ・サラス」に出演している。
*「El rey tuerto」の作品とベッツィ・トゥルネス紹介記事は、コチラ⇒2016年05月05日

(ベッツィ・トゥルネス、「El rey tuerto」から)
★スタッフ陣も女性が多く、先ず脚本のバレンティナ・ビソ(マル・コルの『家族との3日間』、ネリー・レゲラの『マリアとその家族』)とコラル・クルス(パコ・クルスの『エクリプス』、「Els dies que vindran」)が共同執筆している。製作の中核を担うバレリー・デルピエールはモナコ出身、『悲しみに、こんにちは』、今年のマラガのコンペティション上映の予定だったピラール・パロメロの「Las niñas」、イルンダイン監督のデビュー作「B, la pelicula」を、本作と同様にカロリナ・ゴンサレスと共同製作している。
★撮影監督ベト・ローリッヒBet Rourichは、ベルリン出身だがカタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACで映画を学んでいる。スペインのみならずイギリス、ドイツ、デンマーク、フランスとヨーロッパを駆け回っている。第66回サンセバスチャン映画祭2018のセクション・オフィシアル審査員の一人でもあった。音楽、編集、キャスティング、美術など、裏方の多くが女性ばかりというのも珍しいケースです。

(撮影中のベト・ローリッヒ)
★新型コロナウイリスは想像以上に悪賢い。今のような状態が何時終息するのか年単位になってきた。本作に限らず、映画をスクリーンで見られる可能性はしぼむばかりです。
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