第28回ゴヤ賞2014ノミネーション⑥ ― 2014年01月19日 20:56
続・ゴヤ賞2014の落ち穂拾い
★長編ドキュメンタリー賞
*“Món petit”(Mundo
pequeño)監督:マルセル・バレナ 2012、スペイン
昨年のゴヤ賞にノミネートがなかったので「残念だなぁ」と思っていましたが、スペイン公開が3月と遅かったので今年になったようです。若いアルベール・カザルス(Albert Casals)は、恋人と一緒に世界一周の旅に出ようと決心する。ただしお金もなく手作りの車椅子でなのだ。お金とか荷物、細々した計画など冒険の魅力には必要ない。生れ故郷のバルセロナを出発してニュージーランドに到着するまでの彼の人生哲学が語られる。道中で起こる問題の数々をどうやって克服したか、冒険旅行はそのまま彼自身の力強い生き方を示すことになる。子供のときの白血病が原因で下半身麻痺になり車椅子生活になったようです。
*マルセル・バレナ Marcel Barrena は、1981年バルセロナ生れ、監督・脚本家・俳優・プロデューサー他。“Cuatro estaciones”(2010)でガウディ賞1911(テレビ映画部門)受賞、“Món petit”でアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2013「DOC U!」賞受賞、観客賞3位。ボルダー国際映画祭(米コロラド州)2013ベスト・ヒューチャー・ドキュメンタリー賞を受賞しています。(写真上はアルベール・カザルス、下はマルセル・バレナ監督)
*“Futbolín(Metegol)”監督: フアン・ホセ・カンパネラ 2013、3D、
アルゼンチン=スペイン
原題はアルゼンチンのMetegol、ゴヤ賞なのでスペイン題のFutbolínになっています。カンパネラ監督といえば、アカデミー賞外国映画賞受賞の『瞳の奥の秘密』(2009)ですね。受賞したお蔭で公開されました。主演のリカルド・ダリンが多くの女性ファンを獲得した映画でもありました。カンパネラ監督が大のサッカー・ファンなのは周知のこと、「瞳」でもサッカー場の特撮とか、ダリンの相棒ギジェルモ・フランセージャに蘊蓄を語らせていました。新しいことも大好きでロドリーゴ・S・トマッソのサッカー場の特撮技術はアルゼンチンでは初めてと話題になりました。でも3Dアニメを撮るとは想像しませんでした。もっともフェルナンド・トゥルエバもアニメ『チコとリタ』を撮りましたが。
*昨年暮れ授賞式があったアルゼンチン・アカデミー賞≪スール賞Premio Sur≫では、脚色賞(原作は、ロベルト・フォンタナロッサの短編“Memorias de un wing derecho”)・撮影賞・作曲賞・録音賞を受賞しています。作品賞はルシア・プエンソの『ワコルダ』が受賞した。本賞は第1回が2006年と新しく、アルゼンチンでは1943年創設の≪銀のコンドル賞≫のほうが高い権威をもっています。『瞳の奥の秘密』が作品賞・監督賞など大賞を取った賞ですね。
*アニメは子供にせがまれて映画館にしぶしぶ出掛けるものではなく、大人だけで楽しめるまでに成長したということでしょうか。7月18日公開、最初の3日間だけで観客動員数が418,000人、オスカー受賞作品の約2倍ということがそれを証明しています。劇場公開が待たれる作品。
★短編アニメーション賞
*“Via tango” 監督:アドリアナ・ナバロ・アルバレス 2012 スペイン 3分17秒
企画、デッサン、イラスト、プロモーションなど何から何まで一人でこなしてゴヤ賞に辿りついたと話題なのが本作です。アドリアナ・ナバロ・アルバレス Adriana Navarro Alvarez は、1985年バスク州ビスカヤ生れの28歳のアニメーター、まだバレンシア工科大学のアニメーション修士コースで学ぶ学生。デザイン科のマリア・デル・カルメン・ポベダ教授の指導のもとで作られた。アドリアナの個人的な体験が盛り込まれているとインタビューで語っています。テーマはミュージカルの振り付けをとおして語られるロマンスのようです。
第28回ゴヤ賞2014ノミネーション⑤ ― 2014年01月18日 16:55
★ガラ本番数日前に行われる栄誉賞授賞式のニュースが洩れていました。数年前から諸般の事情、例えば時間の制約(どうしても長くなる)、高齢の受賞者のガラ出席が困難などの理由で先に祝われるようになりました。短く編集されたビデオを本番で流すわけです。病床にあるため自宅手渡しのケースもありましたが、昨年のコンチャ・ベラスコのようにピンシャン現役受賞者は両方に出席して、結局≪コンチャ・ショー≫になってしまい、時間短縮は雲散霧消に。
*今年のハイメ・デ・アルミニャンは、来週月曜日20日に手渡されるようです。90歳目前ながら現役であるアルミニャン、厳しい検閲時代を生き抜いて撮りつづけた不屈の人が、どんな挨拶の言葉を述べるか楽しみです。
*落ち穂拾い*
★アルモドバルの『アイム・ソー・エキサイテッド』が「衣装デザイン賞」1部門だけというのも寂しい限りです。若干解消されたとはいえスペイン映画アカデミーと監督のギクシャクは依然残っていて、海外の映画祭とくに5月開催のカンヌに照準を合わせて、「2年ごと3月公開」がずっと続いています。ノミネートされたタティアナ・エルナンデスTatiana Hernandezは既にロぺ・デ・ベガの伝記映画“Lope”(2010)で2011年ゴヤ賞を受賞しています。これはガウディ賞にもノミネートされた作品です。他に劇場公開された作品ではハビエル・フェッセルの『モルタデロ&フィレモン』(2003)がノミネートされています。未公開ながらラテンビート2009上映の『カミーノ』も担当しています。
*長編デビューはフアン・カルロス・フレスナディリョの『10億分の1の男』(2001)、本作は主演のレオナルド・スバラグリアを筆頭に数多くのゴヤ賞を獲得した映画でした。アルモドバル兄弟の「エル・デセオ」プロダクション作品イサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』(2005)、オスカル・サントスの『命の相続人』(2010ラテンビート)、ダニエル・サンチェス・アレバロの『デブたち』(2009)、今年の話題作“La gran familia española”も手掛けていますね。
*「衣装デザイン賞」部門は、他にダビ・トゥルエバの“Vivir es fácil con los ojos
cerrados”のララ・ウエテLala Huete、アレックス・デ・ラ・イグレシアの“Las brujas de Zugarramurdi”のパコ・デルガードなど混線が予想されます。ララ・ウエテがトゥルエバ兄弟の義姉妹なのは既に作品賞ノミネートでご紹介済み、兄トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(2012)でノミネートされています。写真はギジェルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』で2007年英国アカデミー賞「バフタ賞」を受賞したときのもの。
*パコ・デルガド Paco Delgadoは、昨年『ブランカニエベス』で受賞、これはヨーロッパ映画賞とのダブル受賞でした。『レ・ミゼラブル』でオスカー賞にノミネートされた実績の持主、アレックスとの出会いは『13 みんなのしあわせ』、その後『800発の銃弾』、『オックスフォード連続殺人』『気狂いピエロの決闘』など監督の信頼も厚い。他にアルモドバルの『バッド・エデュケーション』や『私が、生きる肌』も担当している。連続受賞はないと思うので、今年は女性対決かな。
★エミリオ・アラゴンEmilio Aragonは、1959年ハバナ生れ。監督にして作曲家、ボードビリアン、プロデューサーと多才。長編第2作となる“A Night in Old Mexico”でオリジナル作曲賞の他、フリエタ・ベネガスJulieta Venegasnoの“Aqui sigo”がオリジナル歌曲賞にノミネートされています。デビュー作『ペーパーバード』がラテンビート2010で上映されたときカルメン・マチと来日、彼はとにかくナイスガイです。勿論、彼女も頭の回転の速いユーモアに富んだ役者、ゴヤ賞の総合司会の経験者です。主演のミゲル少年こそ監督の実父ピエロのミリキ‘Miliki’この映画は市民戦争をバックにした≪アラゴン家のサガ≫のようなものでした。スペインで一番愛されたピエロと言われたミリキも2012年11月鬼籍入りしました。アラゴンは本作で新人監督賞、オリジナル歌曲賞“No se puede vivir con un franco”にノミネートされています。
第28回ゴヤ賞2014*栄誉賞ハイメ・デ・アルミニャン ― 2014年01月17日 11:54
*栄誉賞*
★最初にご紹介すべきセクションでした。受賞の知らせを受けたハイメ・デ・アルミニャン、「もう映画撮ってないから栄誉賞をあげようと思ったんだね」とジョークを飛ばしたとか。「シネアストに引退なんて言葉はないんだ」が口癖、現在も日刊紙「エル・ムンド」や「ABC」の寄稿家、執筆中のコメディがほぼ完成しているそうです。
★Jaime de Armiñan Oliver :1927年3月9日マドリード生れの86歳、作家、戯曲家、映画とテレビの監督・脚本家。父方の祖父は戯曲家・彫刻家、父はジャーナリストで政治家、祖母と母は女優という一家に生れた。1927年生れということは≪内戦時代の子供≫、サンセバスチャンで過ごした。マドリードのコンプルテンセ大学法学部卒、最初は“Fotos”や“Digame”のような出版物のコラムニストとして出発、同時に演劇の脚本を執筆している。1956年エレナ・サントンハと結婚、長男アルベルト、次男エドゥアルドもTVと映画の監督・脚本家として活躍している。(写真上:アルベルトとのツーショット)
★1959年に脚本家としてテレビ界へ、ブランクはあるが引き続きTVにも携わっている。映画デビューも脚本家としてホセ・マリア・フォルケ監督の“El secreto de Mónica”(1961)を執筆、彼とのタッグは7作に及ぶ(フォルケ賞は監督の功績を讃えて設けられた賞です)。監督第1作が“Carola de día, Carola de noche”(1961)、2008年の“14, Fabian Road”で17作を撮っている。“Mi querida señorita”(1972、ホセ・ルイス・ボラウとの共同執筆で、1973年ハリウッドのオスカー賞にノミネート)、『エル・ニド』(1980)でも再度ノミネートされた。“14, Fabian
Road”はアンヘラ・モリーナ、アナ・トレント、アルゼンチンのフリエタ・カルディナリを起用、マラガ映画祭で次男エドゥアルドと共同執筆した脚本が銀賞を受賞、興行的にも成功している。老いても現役です。
★一番知られているのが『エル・ニド』、モントリオール映画祭で女優賞受賞(アナ・トレント)、翌年のオスカー賞ノミネート。日本でも「第1回スペイン映画祭1984」に『巣』の邦題で上映、1987年の公開時に『エル・ニド』と改題されたもの(この映画祭は画期的なものでエリセの『エル・スール』やマリオ・カムスの『無垢なる聖者』などスペイン映画史に残る名作が上映され、後に一般公開された)。写真は『エル・ニド』のワンシーンから、アルゼンチン映画の『オフィシャル・ストーリー』(1985ルイス・プエンソ)で馴染みのあるエクトル・アルテリオと。
*上記以外の代表作*
1974年“El amor del capitán Brando”:監督・脚本、ベルリン映画祭1974でヒューチャー賞にあたるモルゲンポスト賞を受賞、フェルナンド・フェルナン・ゴメスが主役を演じた。
1984年“Stico”: 監督・脚本、フェルナン・ゴメスが脚本と主演。
1987年“Mi general”:監督・脚本、フェルナン・ゴメスやフェルナンド・レイが出演。モントリオール映画祭「審査員特別賞」受賞。
1994年“Al otro lado del túnel”:監督・脚本、次男エドゥアルドが初めて脚本を共同執筆。フェルナンド・レイの遺作となり、他にマリベル・ベルドゥ出演。ベルリン映画祭コンペ出品作品。
1995年“El Palomo cojo”:監督・脚本、ゴヤ脚色賞ノミネート、サンセバスチャン金貝賞ノミネート。マリア・バランコ、カルメン・マウラ、パコ・ラバル出演。
★テレビ・シリーズ“Juncal”(1989)は、パコ・ラバルを主役にした人気ドラマ。1990年ベスト・シリーズ賞、オンダス賞を受賞している。当時はまだビデオテープ時代だったが、ボックス版が発売
第28回ゴヤ賞2014ノミネーション④ ― 2014年01月15日 14:09
★脚本賞・脚本賞・編集賞ノミネート映画は作品賞・監督賞にほぼ重なるので、授賞式までに作品紹介をする予定のもの・ご紹介済みのもの(ゴチック体)を除くと、編集賞の“Las brujas de Zugarramurdi”1作となります。
*脚本賞*
パブロ・アレン/Breixo Corralコラル “3
bodas de más”
ダニエル・サンチェス・アレバロ“La
gran familia española”
フェルナンド・フランコ・ガルシア/エンリク・ルハス “La herida”
ダビ・トゥルエバ “Vivir
es fácil con los ojos cerrados”
*脚色賞*
サンティアゴ・A・サンノウ/カルロス・バルデム “Alacrán enamorado”
マヌエル・マルティン・クエンカ/アレハンドロ・エルナンデス“Caníbal”
アレハンドロ・エルナンデス/マリアノ・バロソ“Todas las
mujeres”
ホルヘ・A・ララ/フランシスコ・ロンカル “Zipi y Zape y el Club de
la Canica”
*編集賞*
アルベルト・デ・トロ“3 bodas de más”
パブロ・ブランコ“Las brujas
de Zugarramurdi”
ナチョ・ルイス・カピリャス“La gran
familia española”
ダビ・ピニリョス “La herida”
★ノミネート10個と数の多さでは2番目なのに助演女優賞以外一向に出てこないのが“Las brujas
de Zugarramurdi”です。アレックス・デ・ラ・イグレシアの長編第10作目、ほぼ全作が公開かDVD化されるという人気監督、今年公開の次回作も完成してるようです。『みんなのしあわせ』(2000)、『気狂いピエロの決闘』(2010)など主要な作品賞に絡んだ年もありましたが、今回は撮影・特殊効果・録音など技術部門に集中しています。
*編集賞のパブロ・ブランコPablo Blancoは、アレックスのデビュー作『ハイル・ミュタンテ!電撃XX作戦』という邦題になった“Acción mutante”でゴヤ賞1993にノミネートされています。エンリケ・ウルビスの『悪人に平穏なし』(2011)でゲット、ハイメ・チャバリの『カマロン』(2005)、バジョ・ウジョアの“Airbag”(1997)でも受賞しており、未公開作品を含めると他にも優れた仕事をしています。このセクションは逸材揃いで混線模様です。
*撮影監督賞のキコ・デ・ラ・リカKiko de la Ricaは、1965年ビルバオ生れ、監督と同年同郷です。最初にタッグを組んだのが『みんなのしあわせ』です。この頃からメキメキ実力をつけ大作を手掛けるようになりました。『オックスフォード殺人事件』(2008)、『気狂いピエロの決闘』、フリオ・メデムの『ルシアとセックス』(2001)、昨年パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』でゲットしました。ベルヘルの第1作“Torremolinos
73”(2003)以来の信頼関係、連続受賞はないでしょう。今年は“Caníbal”のパウ・エステベ・ビルバPau Esteve Birbaと予想します。
*ウーゴ・シルバ、マリオ・カサス、ペポン・ニエトの若手、最近のアレックス映画には顔を出すカロリーナ・バング、助演女優賞でノミネートのベテラン、テレレ・パベスの他、カルメン・マウラ、マリア・ブランコなど熟女総出演。
*イベロアメリカ映画賞*
“Azul
y no tan rosa” ベネズエラ=西、ミゲル・フェラーリ監督
“El
médico alemán. Wakolda”『ワコルダ』 アルゼンチン=仏=西=ノルウェー、ルシア・プエンソ監督
“Gloria”『グロリアの青春』 チリ=西、セバスティアン・レリオ監督
“La jaula de oro” メキシコ= 西、ディエゴ・ケマダ・ディエス監督
★昨年、大外れだったセクションなので予想は止めますが、『ワコルダ』が一番近いのでしょうか。こちらはラテンビート2013の作品紹介を参照してください。『グロリアの青春』は公開が決まっており、ラテンビートでは仮題の『グロリア』で上映されました。これもアップ済みです。
*“Azul y no tan rosa”は、2012年11月ベネズエラ公開ですが、スペインは2013年なので今年になったようです。個人的にはこれが台風の目になる予感がします。ベネズエラは1990年代にはノミネートされることが多かったのですが、今世紀になってからはプッツリ、本作が15年振りのノミネーションだそうで当地は盛り上がっています。ファッション界のカメラマンとして活躍するゲイであるディエゴの物語。スペインに暮らす彼の10代の息子アルマンドはホモセクシュアルな父に反発する。テーマの一つが同性愛に対する社会の不寛容と差別、性転換や父と子の葛藤などもテーマなのでしょう。ベネズエラではややタブー視されているテーマに切り込んだ映画として評価され、観客動員数も封切り9週目223,000人、33週連続上映で50万人を突破したそうです。映像が素晴らしくスクリーンで観たい映画ですね。
*ミゲル・フェラーリは俳優・脚本家、今回監督としてデビューしました。タイトルのazul(青)は異性愛、 rosa(ピンク)は同性愛を象徴しており、キューバの名作『苺とチョコレート』のベネズエラ版とか。物語の舞台がベネズエラとマドリードなのも有利に働くかもしれない。『ワコルダ』と『グロリアの青春』は、昨年のラテンビートで鑑賞済み、本作が受賞すれば今年のラテンビートは決まりだね(個人的すぎる!)。
*“La jaula de oro”は、カンヌ映画祭「ある視点」、リマ映画祭(8月)、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティーノ部門」出品の他、昨年12月のハバナ映画祭にもコンペ外で上映されました。ディエゴ・ケマダ・ディエス監督デビュー作。キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』のテーマに似ている。タイトルは「金の無蓋貨車」の意味、無賃乗車で豊かな「北」、アメリカを目指すグアテマラの少年たちの物語。
写真は2013年5月のカンヌ映画祭にて、監督と出演の3人。
★次回は栄誉賞、落ち穂拾い。その後順次主要な作品紹介を致します。
第28回ゴヤ賞2014ノミネーション発表③ ― 2014年01月14日 16:30
*新人監督賞*
フェルナンド・フランコ Fernando Franco García “La herida”
ネウス・バリュス Neus Ballús “La plaga”
ホルヘ・ドラド Jorge
Dorado “Mindscape”
ロドリーゴ・ソロゴイェン Rodrigo
Sorogoyen “Stockholm”
★トレビア:
*どれも予告編しか見てないのにフェルナンド・フランコを予想するのはどうかと思うが、下馬評から浮かび上がるのはやはり彼ですね。見ていて辛い映画のようですが、“La herida”は他に作品賞・主演女優・編集・録音と5部門にノミネートされています。サンセバスチャン映画祭正式出品作品、主演女優賞のマリアン・アルバレスを含めて既に記事を紹介しております。
*ネウス・バリュスの“La
plaga”は、ガウディ賞(カタルーニャ語部門)の作品賞候補ですが弱いかな。スペイン・アカデミー会員の多くはスペイン語話者だから不利かもしれない。ノミネートもこれ一つです。
*ロドリーゴ・ソロゴイェンの“Stockholm”は、他にアウラ・ガリードが主演女優賞、ハビエル・ペレイラが新人男優賞と3部門にノミネート、ガリードはフォルケ賞の女優賞候補にも選ばれています。
*ホルヘ・ドラドの“Mindscape”は、これ一つだけのノミネートです。
*新人女優賞*
ベレン・ロペス Belén López “15
años y un día” 監督:ガルシア・ケレヘタ
オリンピア・メリンテ Olimpia Melinte
“Caníbal” 同マヌエル・マルティン・クエンカ
マリア・モラレス María Morales “Todas las mujeres” 同マリアノ・バロソ
ナタリア・デ・モリナ Natalia de
Molina “Vivir
es fácil con los ojos cerrados”
同ダビ・トゥルエバ
★トレビア:助演以上に予想はむずかしいか。
*ベレン・ロペス、ナタリア・デ・モリーナの二人は作品紹介で、オリンピア・メリンテはトロント国際映画祭出品作としてご紹介した“Caníbal”にワープして下さい。
*マリア・モラレスが新人枠というのも若干違和感がありますね。TVシリーズで既にお茶の間に浸透していますし、以前に出演したサンチェス・アレバロの『デブたち』では、これ以上は太れないほど頑張ったのでした。アルモドバルの『アイム・ソー・エキサイテッド』は客室乗務員というチョイ役でしたが。1975年コルドバ生れ、テレビ界出身です。実は本作は2010年のTVミニ・シリーズ(6エピソード)の映画化です。監督もキャストも同じメンバー、彼女は主人公ナチョ(エドゥアルド・フェルナンデスが主演男優にノミネート)をめぐる女性の一人マルガに扮します。複雑な人格をもつナチョの物語ですが、彼をとり囲む女性たちlas mujeres(愛人、母、女性精神科医、元恋人、義妹など)の物語でもあります。出番はそれほど多くないそうですが、下馬評ではいい感触です。男性票をどれだけ集められるかによると思いますが、本作は他に脚色賞・助演女優と重要セクション4つに絡んでいます。
(写真下はマリア・モラレス、“Todas las mujeres”から)
*新人男優賞*
ベルト・ロメロ Berto Romero “3 bodas de más” 監督:ハビエル・ルイス・カルデラ
Hovik Keuchkerian “Alacrán
enamorado” 同サンティアゴ・サンノウ
パトリック・クリアド Patrick Criado “La gran familia española”
同ダニエル・サンチェス・アレバロ
ハビエル・ペレイラ Javier Pereira “Stockholm” 同ロドリーゴ・ソロゴイェン
★トレビア:誰がゲットするか楽しみなセクションです。
*Hovik Keuchkerian はなんて発音するのでしょうか(ホビック・コイヒケリアン?)。1972年レバノン共和国の首都ベイルート生れ。父親はドイツ人、母親がナバラのスペイン人、3歳からマドリードの北西に位置するアルペドレテ(エル・エスコリアルがあるところ)で育つ。元ヘビー級チャンピオンのボクサー、KO勝ち15回という凄い記録をもっている。2004年引退後は詩人(数冊出版アマゾンで入手できる)、コメディアン、俳優として活躍している異色の人物。本作はボクサー物語ですが、本物のボクサーは「僕一人」と言ってます。
(写真下は“Alacrán enamorado” から)
*“3
bodas de más”のベルト・ロメロが本命らしい。1974年バルセロナ生れ、TVシリーズ“Buenas noches y Buenafuente”の監督でもある。彼が“新人”というのも意外ですが、ハビエル・ルイス・カルデラ監督の“Epanish Movie”(2009)が映画デビューだから確かに新人です。写真は“3 bodas de más”のワンシーンから。『ブリジッド・ジョーンズの日記』スペイン版ということでインマ・クエスタの熱演も話題になっています。
*パトリック・クリアドは作品紹介で。
★フォルケ賞2014発表
*作品賞は、“La
herida” (フェルナンド・フランコ監督)。
*女優賞は、“La
herida”出演のマリアン・アルバレス
*男優賞は、“Todas
las mujeres”出演のエドゥアルド・フェルナンデス
作品賞・女優賞は予想どおりでしたが、ハビエル・カマラは涙を飲みました。ゴヤ賞でリベンジして下さい(笑)。トレビアは後ほど別枠でアップ致します。
第28回ゴヤ賞2014ノミネーション発表② ― 2014年01月13日 16:57
*最優秀主演女優賞*
インマ・クエスタ Inma Cuesta “3
bodas de más” 監督:ハビエル・ルイス・カルデラ
マリアン・アルバレス Marian Alvarez “La herida” 同フェルナンド・フランコ
アウラ・ガリード Aura
Garrido “Stockholm” 同ロドリーゴ・ソロゴイェン
ノラ・ナバス Nora
Navas “Tots
volem el millor per a ella”(“Todos queremos lo mejor para ella”) 同マル・コル
★トレビア:インマ・クエスタ以外の3人は、フォルケ賞(1月13日発表)、ガウディ賞(2月2日発表)にノミネートされています。マリアン・アルバレスとノラ・ナバスは両賞に、アウラ・ガリードはフォルケ賞にノミネート、こちらは日本時間だと明日には判明します。マリアン・アルバレスは本作でサンセバスチャン映画祭の銀貝女優賞を受賞、ノラ・ナバスはアグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』で2011年に女優賞を受賞しております。今回は本作のノミネーションはこの部門だけと寂しい(というわけでジャケ写をアップしました)。インマ・クエスタはサンチェス・アレバロの『マルティナの住む街』で映画デビュー、ベニト・サンブラノの“La voz dormida (2012ゴヤ主演女優賞候補)、『ブランカニエベス』の母親役と、映画にテレビに快進撃は止まらない。ただマリアン・アルバレスが最も賞に近いかな。
*最優秀主演男優賞*
ティト・バルベルデ Tito Valverde“15
años y un día” 監督:ガルシア・ケレヘタ
アントニオ・デ・ラ・トーレ Antonio
de la torre “Caníbal”同マヌエル・マルティン・クエンカ
エドゥアルド・フェルナンデス Eduard Fernández“Todas las mujeres”同マリアノ・バロソ
ハビエル・カマラ Javier Cámara“Vivir es fácil con los ojos cerrados” 同ダビ・トゥルエバ
★トレビア:ティト・バルベルデ以外の3候補者は、フォルケ賞、ガウディ賞などにノミネートされています。この3人は演技派というか実力は実証済みですが、対抗馬の巡り合わせが悪かったり、器用貧乏なところがあって(カメレオン俳優というのかな)賞には恵まれていない。特にアントニオ・デ・ラ・トーレは昨年に続いて主演・助演ノミネートだが悪い予感がする。エドゥアルド・フェルナンデスはゴヤ賞がらみだと2002年フェルナンド・レオンの“Fausto 5.0”で主演、2004年セスク・ガイの“En la ciudad”で助演男優賞を受賞している。ハビエル・カマラにいたってはノミネートのオンパレード、ゴヤには嫌われている。希望的観測になりますが、アントニオ・デ・ラ・トーレかハビエル・カマラのどちらかを予想します。
*最優秀助演女優賞*
スシ・サンチェス Susi Sánchez
“10.000
noches en ninguna parte”
監督:ラモン・サラサール
マリベル・ベルドゥ Maribel Verdú “15
años y un día” 同ガルシア・ケレヘタ
テレレ・パベス
Terele Pávez “Las
brujas de Zugarramurdi”
同アレックス・デ・ラ・イグレシア
ナタリエ・ポサ
Nathalie Poza “Todos
las mujeres” 同マリアノ・バロソ
★トレビア:このセクションは皆目予想できない。
*『靴に恋して』のラモン・サラサールの名前を見て「やあ、お久しぶり」の感が深い。ゴヤ賞2003年新人監督賞ノミネート作品、日本でもファンが出来たのに何しろ寡作で、本作が長編3作目です。肝心のスシ・サンチェスは1955年バレンシア生れ、ビセンテ・アランダの『女王フアナ』(2001)でイサベラ女王に扮した他、ペルーのクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』、“15
años y un día”にも出演してますが、なんとゴヤ賞ノミネーションは初めてのようです。
*ナタリエ・ポサは1972年マドリード生れ、テレビ界で活躍の後、“El otro lado de la cama”(2002)で映画デビュー。ゴヤ賞はダビ・セラーノの“Días de fútbol”(2003)で助演女優賞、マヌエル・マルティン・クエンカの“Malas temporadas”(2005)で主演女優賞にノミネートされています。
*最優秀助演男優賞*
カルロス・バルデム Carlos Bardem “Alacrán enamorado” 監督:サンティアゴ・サンノウ
フアン・ディエゴ・ボット Juan Diego Botto “Ismael” 同マルセロ・ピニェイロ
アントニオ・デ・ラ・トーレ “La gran familia española”
同ダニエル・サンチェス・アレバロ
ロベルト・アラモ Roberto Alamo “La gran
familia española”
★トレビア:助演というのは予想が難しい。他のセクションとの兼ね合いもあって当たらない。
*カルロス・バルデムは役者と小説家の二足の草鞋を履いている特異な存在、弟ハビエルが国際的には有名だが、『第211号監房』のアパッチ役は忘れがたい。本作には弟も出演している。サンノウ監督と脚本を共同執筆、より興味深いのは監督のほう。人気ヒップホップ・グループ「ラ・エセプシオン」のリーダー、エル・ランギを起用して撮った『クアホ、逆手のトリック』(2008)は2009年ゴヤ賞ガラの話題を攫い、新人監督賞・新人男優賞・オリジナル歌曲賞を受賞しています。本作は長編第2作目、他に脚色賞・新人男優賞・美術賞の4部門にノミネート、今年ぜひ観たい映画の1本、最後の作品紹介で魅力をお知らせ出来ればと思っています。
*フアン・ディエゴ・ボットは1972年ブエノスアイレス生れ、アルゼンチン=スペインの二重国籍をもっている。その甘いマスクとはマッチしない骨太作品が多いのは、軍事独裁時代に父親が行方不明者になった経歴が背景にあるようです。ゴヤ賞は今回で5回目、すべてノミネートで終わっています。ピニェイロ監督については“El método”(2005)を参照してください。
*サンチェス・アレバロ組の2人は作品紹介で。
★次回は新人監督賞・男優・女優賞など。
第28回ゴヤ賞2014ノミネーション発表① ― 2014年01月12日 22:37
★1月7日にゴヤ賞(27部門)ノミネーションの発表がありました。取りあえず主要部門の作品名、監督名を列挙しておきます。フォルケ賞やガウディ賞のノミネーションなどで既にご紹介の映画も多く、そちらにワープ出来るようにしました(ゴチック体)。授賞式は2月9日、ガラ会場は前回と同じマドリードのホテル・オーディトリアム、総合司会はエバ・アチェに代わってジャーナリストでショーマンのマネル・フエンテスManel Fuentesになりました。例年通り栄誉賞は昨年中にハイメ・デ・アルミニャンに贈られることが決定しております。
*最優秀作品賞*
15 años y un día トマソル・フィルム(ヘラルド・エレーロ)他 ≪7ノミネート≫
Caníbal ラ・ロマ・ブランカ P.C. S.L.(マヌエル・マルティン・クエンカ)他
≪8≫
La gran
familia española アトレスメディア・シネ(ミケル・レハルサ)他 ≪11≫
La herida コワルスキ・フィルム S.L.(コルド・スアスア)他
≪6≫
Vivir es fácil con los ojos
cerrados F.トゥルエバ P.C. S.A.(クリスティナ・ウエテ他)≪7≫
*最優秀監督賞*
マヌエル・マルティン・クエンカ Caníbal
グラシア・ケレヘタ 15 años
y un día
ダニエル・サンチェス・アレバロ La gran
familia española
ダビ・トゥルエバ Vivir
es fácil con los ojos cerrados
★例年候補作品、候補者は4つに絞られるが今年は作品賞のみ5作品になっています。主要2部門は重なることが常ですが、今年も例年通りとなりました。“La herida”はフェルナンド・フランコ・ガルシア監督デビュー作品ということで新人監督賞のほうに廻りました。“La gran
familia española”の11個が最多となっており、ここいら辺がまず常識の範囲かと思います。昨年のような『ブランカニエベス』の18部門ノミネート10部門制覇、『ふたりのアトリエ』13部門ノミネート無冠にはちょっと白けましたからね。今年は一極集中はなさそうですが予想は難しい。
★グラシア・ケレヘタの“15 años y un
día”は2014年オスカー賞のスペイン代表作品に選ばれましたが最終候補に残れませんでした。4月のマラガ映画祭グランプリ作品ですから、かなり前になるのでアカデミー会員の記憶が薄れて不利かもしれない。昨年6月鬼籍入りした大物プロデューサー、エリアス・ケレヘタの一人娘、本作と同じマリベル・ベルドゥを起用した“Siete
mesas de billar frances”(2007)がゴヤ賞2008で監督賞・作品賞ノミネーション、マリベルが主演女優賞を手にしたのでした。父エリアス・ケレヘタについては、いずれきちんとご紹介したい。エリセの『ミツバチのささやき』、サウラの『カラスの飼育』グティエレス・アラゴンの『激しい』、フェルナンド・レオンの『月曜日にひなたぼっこ』など、彼なしでスペイン映画史を語ることはできないと考えるからです。
★ダビ・トゥルエバの“Vivir es fácil
con los ojos cerrados”の製作者クリスティナ・ウエテは、フェルナンド・トゥルエバ夫人、監督と二人三脚で彼のほぼ全作品を支えてきたプロデューサー。夫唱婦随でなく婦唱夫随が正しいと評判のようです。従ってダビ・トゥルエバ監督には義理のお姉さんになるわけです。衣装デザイン賞ノミネートのララ・ウエテは姉妹、未だにスペイン映画界は家内工業的です(笑)。ゴヤ賞がらみでは『美しき虜』(1998)で作品賞、『チコとリタ』(2010)でベスト・アニメーションを受賞しています。プロデューサーは陰の実力者で表に出てこないので写真が少ないのですが、掲載写真は第20回カセレス・スペイン映画祭(2013年3月)「サン・パンクラシオ栄誉賞」を受賞したときのもの。
★作品紹介は最後に纏め、次回は最優秀女優賞・男優賞の予定です。
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