スペイン語映画はコンペにゼロ*カンヌ映画祭2015 ①2015年05月16日 12:44

        何とも寂しいスペイン語映画「開店休業」

 

★何回見直してもスペイン語映画はコンペに見当たらない()。メキシコの監督マイケル・フランコの第3作“Chronic”は、残念ながら言語は英語です。第2作『父の秘密』が劇場公開され、当ブログでもアップしたが20131120)、今回はどうしたものか思案中。スペインのメディアも「カンヌのカルティエが武装した4人の強盗団に襲われる。損害額は1750万ユーロ」などと映画祭とは直接関係のないニュースを伝えている。円に換算するといくらになるか考えるのも面倒だと八つ当たり。 


★今年は513日から24日まで。第68回カンヌ映画祭のポスターは、2015年生誕100周年を迎えるイングリッド・バーグマンに捧げられている。撮影はポーランド生れ、米国籍の写真家デヴィッド・シーモア(ダヴィド・シミン191156)が撮ったもの。第二次中東戦争(スエズ危機のほうが通りがよいか)の取材中スエズ運河で銃弾に倒れた戦場の写真家。バーグマンとは親しい友人関係、管理人の記憶が正しければ恋人同士だった。彼女がロッセリーニの元に走ったあとも一家のポートレートを専属に撮っていた。かつての銀幕の女王と戦場に散った写真家へのオマージュが込められているのだろうか。シンプルで近年にない出色の出来栄えじゃないか。「ある視点」部門の審査員長を務める娘イザベラ・ロッセリーニは「大女優のママと一緒に赤絨毯を歩いて感無量」と語っている。つまり会場と言わず通りと言わずママのポスターだらけだからです。

 

       (審査委員長のコーエン兄弟、左が兄ジョエル、弟イーサン)

 

★スペイン語映画はゼロでも審査員にはギジェルモ・デル・トロ監督、女優のロッシ・デ・パルマの名前があった。デル・トロは背広を新調しなければならなかった。「どうしてかって? 減量に失敗して前のが着られなかったからさ」と。ロッシ・デ・パルマは来年にはアルモドバル監督と一緒に来カンヌかな。新作“Silencio”に出演、こちらはクランクイン前から2016318日公開が決定している。因縁めくがバーグマンの孫娘とは大学で知り合ったという。凄い美人だったが映画には興味がなかったようです。

 

         (左から、ギレンホール、デル・トロ、イーサン・コーエン)

 

★審査員長はジョエル&イーサン・コーエン兄弟、2007年からカンヌの総指揮をしているティエリー・フレモーから打診があったとき、「一度にまとめて世界の良作が見られるなんて、何とラッキーなんだ、と兄弟一致して引き受けた」と兄。二人は審査員を二つのグループに分けて議論する予定だそうです。まだ先の話ですが、ジョエル・コーエンの奥さんというか、『ファーゴ』の妊娠8カ月のガンダーソン署長役フランシス・マクドーマンドが、サンセバスチャン映画祭の審査員として来西するようです。

 

★二つに分けられる審査員には他に、俳優のシエラ・ミラーソフィー・マルソー、ジェイク・ギレンホール、作曲家のロキア・トラオル(マリ共和国出身、パリ在住)、監督枠としてグザヴィエ・ドランの名前もあったのには(!)。以上で分かるように何とも異質な船頭さんの審査員団、デル・トロとドランだなんて「船頭多くして舟、山に登」らなければいいけど。ジェイク・ギレンホールの父親はバーグマンと同じスウェーデン出身、「彼女とウチの家族が何か繋がりがあればよかったのにぃ」だそうです。

 

           (ロッシ・デ・パルマ、ソフィー・マルソー)

 

アルモドバル新作“Silencio”の記事はコチラ⇒2015315日/45

 

★カンヌは映画を見るのではなくビジネスが目的でやってくる世界最大の映画マーケット。スペイン語映画はなくても、自作の売り込み、新作のプロモーションと大賑わい。スペインからはナチョ・ビガロンドが次回作のColossalの宣伝に馳せつけている。ヒロインはアン・ハサウェイ、ということは『ブラック・ハッカー』同様、主要言語は英語かな。

 


★次はパブロ・ラライン、ベルリン映画祭の審査員賞グランプリを受賞したEl Clubのプロモーションと、次回作Nerudaの売り込みにやってきている。前者はベルリン映画祭2015で紹介済み2015222)、新作はチリのノーベル賞詩人パブロ・ネルーダの1946年から1948年の間に焦点を絞った伝記映画。キャストはネルーダにルイス・グネッコ1962年サンチャゴ生れ)、ネルーダを追いまわす刑事にガエル・ガルシア・ベルナル、二人ともNOに出演している。撮影は6月の予定。他にフェルナンド・レオンも現地入りしておりますが、「監督賞間」で触れます。(写真上はネルーダ)

イサベル・コイシェの新作*ベルリン映画祭2015 ③2015年03月01日 18:50

         オープニング作品だったコイシェの新作

★昨年のような目玉作品がなかったせいか、金熊賞のジャファル・パナピの“Taxi”が頭ひとつ出ていただけでチャンスは誰にもあった。テレンス・マリックの“Knight of Cups”の前評判はイマイチだったらしく、それでも主催者からオープニングを打診されたとき「とても名誉なことだけれど、しかし・・・」と、コイシェ監督は躊躇したそうです。結局主催者はマリックを選ばなかった。ベルリナーレのディレクター、ディータ・コスリックDieter/Kossilick は、「極限状況におかれた二人の女性の迫力ある直観的な物語」が気に入ったようです。

 


Nobody Wants the Night(西語題“Nadie quiere la noche2015、西≂仏≂ブルガリア、118分、撮影地ブルガリア、ノルウェー、カナリア諸島のテネリフェ)は、結果的には無冠に終わりましたが、コイシェ監督はここ毎年新作を発表している。言語は英語だがAnother Me2013、“Mi otro yo”)、昨年のトロント映画祭出品のLearning to drive2014、資金難に喘ぐスペインの監督としては珍しいことです。やはりバルセロナを離れてニューヨークに居を定めたことが、人的交流にも恵まれ創作意欲も刺激しているようです。残念ながら新作もイヌイット語を含む英語映画です。1909年、初めて北極点に到達したと言われるアメリカの探検家ロバート・ピアリーの妻ジョゼフィーンにジュリエット・ビノシュ、イヌイット女性アラカに菊池凛子、ロバートにガブリエル・バーンが扮する。監督によると「実在した人物が主人公ですが、物語はフィクション、文明とは何か、野蛮とは何かが語られる」、ということは極めて今日的なテーマとも言えます。

    

      

        (イサベル・コイシェとジュリエット・ビノシュ、ベルリン映画祭にて)

 

★初の極点到達を目指している夫ロバート・ピアリーを追って、アメリカからグリーンランドへ旅立ったジョゼフィーンの物語。ロバートは妻と娘をワシントンに残して極点到達の探検に出掛けた。留守がちの夫の帰りを待つだけの暮らしにウンザリしていたジョゼフィーンは、初到達を夫と共有しようとグリーンランドを目指すことにする。イヌイットの女性アラカの助けを借りて夫の後を追う。

 

★ロバート・ピアリーはイヌイット女性との間に二人の子供があり、この女性の導きで極点に向かったと言われている。裕福なブルジョア階級に属し、教養の高い女性だったジョゼフィーンは、食べるのがやっとの一般庶民が夫の探検を軽蔑していると感じていた。しかし極点初到達は、現在では真偽のほどが疑問視されている、いや否定されているようだが、本作においてはあまり関係ないようだ。何故なら彼らにとって重要なことは栄光、初到達はどうでもよいことだったからだ。

 

          

                 (ジョゼフィーン・ディウベッツチ・ピアリー 18631955

 

コイシェ監督談4年前にミゲル・バロスから脚本を受け取り、とても興奮した。アメリカの多くの女優に声を掛けたが「素晴らしい役柄で気に入ったわ、だけど撮影条件に対応するのは難しい」と次々に断られた。結局「ジュリエットのようなぶっ飛んだ女優でないとやれないと分かったの」と監督。「テント小屋の暖房は灯油ストーブでも文句を言わない、プラスチックの袋に用を足せる強靭さがないと務まらない。更にある種の高揚感や本質を見抜ける力がある女優でなければ」というわけです。

 

★広大な北極で迷ってしまったジョゼフィーンをロバートは救出に行かなかった。彼にとって気がかりなのは極点に早く到達すること、そしてその偉業を喧伝することだった。後に妻は見せかけの人生を送ることになるのだが、ワシントンに戻ってから夫がどんな人間だったかを思い知る。「そのとき本当の北極の夜が始まった。悲しいけれどこれが現実」と監督。つまりタイトルに繋がる。名声と栄光を求めるだけの偽りの芸術家夫婦は、周りにたくさんいるとも。

 

                

                           (ジョゼフィーンと夫ロバート)

 

★ジョゼフィーンと冬を過ごすアラカについて、「その無垢さ、しなやかなインテリジェンス、高貴さに打たれる。若いけれど無知ではない」。グリーンランドで撮影中、イヌイットの素晴らしい女性と大いに語り合った。その識者の高祖母(ひいお祖母さんの母)がアラカの姉妹の一人だったという。スクリーンの最後に出てくるようです。キャストについてはジュリエットは言うまでもなく大いに満足している由、新婚ほやほやの凛子さん、良かったですね。

 

            

          (ジョゼフィーン役のビノシュとアラカ役の菊池凛子)

 

ジュリエット・ビノシュ談:凍てつくようなノルウェーでの撮影を思い出して、「実際のところ、撮影の3日間は凍えそうだった。残りは6月のテネリフェのスタジオで、毛皮にくるまって撮影した」。6月のテネリフェは暑いから相当過酷な仕事だったことが想像できます。「演技とは感覚的なもので知的な仕事ではない」、頭脳労働じゃない。「この映画は七面鳥であることを止めて犬に変身しようとした女性の物語」だそうです()

 

★コイシェ監督近況、現在3本の脚本を抱えている。その一つが英国のペネロペ・フィッツジェラルドのブッカー賞受賞作“The Bookshop”(1978、“La libreria”)の映画化。ニューヨーク市ブルックリン区のマンションに戻って執筆中。他にダーウィンの玄孫を主人公にした脚本をマシュー・チャップマンと執筆している。ニューヨークも寒いが「鼻がもげそうなほど寒かった」ノルウェーに比べればなんてことはないですね。「どこに住んでいようが、気分がいいときも悪いときもある・・・不安定な綱渡りのロープに立っていると感じることもあるが、必要があればウズベキスタンでもモンゴルでも行きます」、「ハイ、スタート、カット」と言いながら死にたい。

 

共同脚本家マシュー・チャップマン1950年ケンブリッジ生れ、監督・脚本家・製作者。1980年代にアメリカに渡り、ロスに10年余り暮らした後ニューヨークへ。『殺しに熱いテキーラを』(1986脚本)、『ニューオーリンズ・トライアル』(2003共同脚本)、話題となった心理サスペンス『ザ・レッジ 12時の死刑台』(2011監督・脚本・製作)など。

 

*関連記事:管理人覚え

◎“Another Me”(英西、英語)については2014727

◎トロント映画祭2014「スペシャル・プレゼンテーション」部門“Learning to drive
 (
米国、英語2014813 


『ロス・ホンゴス』*東京国際映画祭2014 ③2014年11月16日 22:59

★スペイン語映画の3本目は、最近紹介されることの多くなったコロンビア映画、邦題「ロス・ホンゴス」についての文句は後回しにして、麻薬密売物ではないもう一つのコロンビアが描かれていた。コンペティション部門で3回上映という破格の扱い、ルイス・ナビア監督と製作者ゲルリー・ポランコ・ウリベさんとのQ&Aを織り混ぜております(司会者:プログラミング・ディレクター矢田部吉彦氏、鑑賞日1025日)。

 


     『ロス・ホンゴス』“Los hongos

製作: Contravia Films / Burning Blue / Arizona Films

監督・脚本:オスカル・ルイス・ナビア

共同脚本:セサル・アウグスト・アセベド 他

撮影:ソフィア・オッジョーニ・ハティ

美術:ダニエル・シュナイダー/アレハンドロ・フランコ

音楽:Zalama Crew / La Llegada del Dios Rata / セバスティアン・エスコフェ

編集:フェリペ・ゲレーロ

プロデューサー:ゲルリー・ポランコ・ウリベ

グラフィティ・アーティスト:Fuzil--Arma Gráfica / Mario Wize / La Pulpa / Repso / Mesek

データコロンビア≂仏≂独≂アルゼンチン合作、スペイン語、 2014103分、アジアン・プレミア

ベルリンFFのワールド・シネマ基金、ロッテルダムFFのヒューバート・バルズ基金、イタリアのトリノフィルム・ラボ、ブエノスアイレス・ラボ、カンヌFFのシネ・フォンダシオン・レジデンスの支援を受けて製作された。

受賞歴:ロカルノ映画祭2014(スイス)特別審査員賞受賞&金の豹賞ノミネート

    ロッテルダム映画祭2014  ヒューバート・バルズ基金ライオンズ・フィルム賞(Hubert Bals Fund Lions Film)受賞/TIFF 2014コンペティション出品

トロント、サンセバスチャン、トリノ、カイロ、セビーリャ・ヨーロッパ、各映画祭2014に正式出品。 


キャスト:ジョバン・アレックシス・マルキネス(RAS)、カルビン・ブエナベントゥーラ・タスコン(カルビン)、アタラ・エストラーダ(カルビンの祖母)、グスタボ・ルイス・モントーヤ(カルビンの父グスタボ)、マリア・エルビラ・ソリス(RASの母マリア)、ドミニク・トネリエ(カルビンのガールフレンド)、アンヘラ・ガルシア(パンク・バンドのリーダー)、他

 

ストーリーRASは建設現場の仕事を終えると、毎晩、近所の壁に落書き(グラフィティ)をしている。RASと母親のマリアはパシフィック・ジャングルからカリ東部の町へ移住してきた。RASは眠れない日々が続き白昼夢を見始める。そんな息子を見てマリアは、息子が何かに憑りつかれ、そのうち正気を失うのではないかと心配する。ある日、RASは職を失う。現場からペンキの缶を盗み、家の隣の壁に巨大な絵を描いていたからだ。彼はもうひとりの若いグラフィティ・アーティスト、カルヴィンを探しにいく。ふたりは目的もなく町をさまよう。さながら、道に迷って戻れなくなることを望むかのように。              TIFF公式プログラムより引用)                                      

 

★監督キャリア紹介

オスカル・ルイス・ナビアOscar Ruiz Navia1982年カリ生れ、監督、脚本家、プロデューサー他。コロンビア国立大学の映画学校で学んだあと、バジェ大学の社会情報科を卒業。アントニオ・ドラド・スニェガの“El Rey”(2004)に撮影アシスタントとして参加(これはフィクションであるがカリの麻薬密売王をモデルにした映画)、カルロス・モレノの話題作“Perro come perro”(08)では助監督になった。2006年、バジェ大学の社会情報科の卒業生が設立したContravia Filmsに参加、長編デビュー作El vuelco del cangrejo2009 英題Crab Trap)の製作会社、ベルリン映画祭2010「フォーラム」部門に出品され、批評家連盟賞を受賞したほか、数々の国際映画祭で高評価を得た。また2012年には、ウイリアム・ベガのデビュー作“La sirga”(英題“The Towrope”)をプロデュースした。カンヌ映画祭2012「監督週間」に出品されたほか、トロント、サンセバスチャン、ロンドン、ハバナなど各映画祭に出品された。

主なフィルモグラフィー

2006Al vacio 1,2,3”(短編)

2008En la barra hay un Cerebro”(短編ドキュメンタリー)

2009El vuelco del cangrejo”ベルリンFFの他、ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ2010「特別メンション」、フライブルク映画祭2010、ハバナ映画祭2009、ラス・パルマス映画祭2010などで受賞している他、ノミネーション多数。

2013Solecito”(短編)オーバーハウゼン国際短編映画祭2014「特別メンション」を受賞、他

2014Los hongos”邦題『ロス・ホンゴス』(上記)


     この映画の真髄は「生」である

 

A:: Q&Aは監督が英語、プロデューサーがスペイン語というわけで通訳者二人、やはりこれが難物、時間が掛かりすぎてヤキモキするね。日本の印象、礼儀正しいとか食事が美味しいとかは省略しよう。

B: 何故生れ故郷カリに戻って映画を撮ろうとしたか。カリにいなかったようですね。

A: お祖母さんがガンに罹って看病のために戻った、結局亡くなってしまったのだが、このことがきっかけでカリを舞台にバックグラウンドの違う二人の青年を軸にした「死から生」への物語を撮ろうと考えた。祖母の死というかなり個人的な「痛み」が構想の出発点だったようです。コロンビアのプレス会見では、亡くなったのは5年前と語っていたから、だいぶ前から温めていたようです。

 

B: 監督によれば、「みんなキノコというタイトルだと聞くと、ドラッグとか快楽とか幻覚的なイメージをもつかもしれませんが、このタイトルのメタファーは、腐敗とか死が充満しているなかに突然現れてくる生と希望のシンボルとしてのキノコなんです」と。こう要約してよかったでしょうか。

A: サイケデリックとは全く反対ということですね。キノコは光が届かないジメジメした場所で葉緑素なしで生きていけるし、腐敗したものに生える寄生生物だから「生」とはかけ離れた印象があるけど、腐敗=死から新しい命=生が現れるのも事実です。腐敗した世の中で生きている青年二人に新しい生が訪れる映画です。

 

     沈黙しないよう学ぶための実践マニュアル映画

 

B: サンティアゴ・デ・カリは、太平洋に面したコロンビア南西部に位置するバジェ・デル・カウカ県の県都です。首都ボゴタ(700万)、メデジン(230万)につづいて三番目に人口の多い大都市です(220万)。麻薬密売、バイオレンス、殺人、誘拐、汚職、ゲリラなど、コロンビアのイメージは日本人にはあまり芳しくない。

A:: ラテンビート上映の『デリリオ―歓喜のサルサ―』でも触れましたが、負の遺産が多すぎる。社会の中に道徳や公正さが失われ腐敗があることは否定できない。コロンビアで政治と無縁の映画を撮ることは出来ないが、しかし、そこに新しい血液を注ぎ込むことは出来る、と監督の世代のシネアストたちは考えているようです。

 

B: RASとカルビンは、まだ自分のしたいことが分からないが、グラフィティ・アーティストとして自分たちの考えを壁に描くことで表現しようとする。しかし他人の家の壁に描くわけだから許されないわけですね。

A: 本作に出てくるグラフィティ・アーティストたちは、全員ホンモノで有名人だそうです。彼らの協力を得られたことも成功の理由の一つ。社会の不合理に沈黙しないことがテーマでもあるね。別のセクターに育った二人の若者の友情と都市文化を融合させるにはどうしたらいいか、それが難しかった。グラフィティに辿りついて構想が固まっていった。

 

     お祖母さん役は私の本当の大叔母です!

 

B: 本作は群衆劇ですが、スペイン語では「合唱劇」といわれる。こちらのほうがぴったりする。

A:: 最初は無関係だった登場人物がやがて自然に調和してハーモニーを奏でていくからね。

B: Q&Aの最初の質問者がお祖母さんの生き方や演技を褒めたら、観客から期せずして温かい拍手が沸いた。毎年滋賀県から見に来る有名人らしい()

A: 主催者にとって、こういう観客は貴重な存在だね。監督が「実は私の本当の大叔母です。あのクレージーな父親も私の父親なんです」と答えて、これまた会場は爆笑に包まれた。

 

     (発声練習をするクレージーなお父さん、グスタボ・ルイス・モントーヤ)

 

B: 二人の青年がアマチュアなのは直ぐ分かりましたが、全員が映画初出演ということでしたか、ちょっとはっきり聞きとれなかった。

A:: 全くのアマチュアだけというわけでもないようですが、最初に浮かんだアイディアは登場人物は現実にそれをやってる人に、アーティストの役はカリのマリオ・ワイズを筆頭に実際のアーティストに出てもらう、ミュージシャンも同じようにということだった。一番難しかったのは、RASとカルビンの二人の主人公、それはまるで「藁小屋で落とした針を探す」ようなものだった。

B: 全エストラートの教育センターを巡って約700人ぐらいの若者にインタビューした。

 

A:: カルビン・ブエナベントゥーラ・タスコンが演じたカルビンは、アントニオ・ホセ・カマチョ学校で見つかった。まだ大人になりきっていない体つきと優しい顔つきがぴったりだった。タトゥとピアスをして、両親が離婚したので癌治療中のお祖母さんと暮らしているという設定だった。

B: RASは絵を描くことが好きなアフロ系の青年、そのうえスケボーができることが条件だったのでジョバン・アレックシス・マルキネスは願ったり叶ったりだったとか。

 

A:: 宗教的にはラスタファリズムというアフリカ回帰のジャマイカの宗教を信じていて、そういう宗教的なグラフィティを描く。昼間は建設現場で働くということにした。

B: カルビンの父親と祖母は監督が述べた通りですね。楽しんで演じていたのが伝わってきた。

A:: RASの母マリアに扮したマリア・エルビラ・ソリスはパシフィックの歌手、役柄もパシフィック・ジャングルからカリに移ってきた母子という設定だった。デビュー作El vuelco del cangrejoの舞台がそこで、太平洋に面したブエナベントゥーラ市の近くです。マリアのように白人と黒人の混血ムラートやメスティーソ、黒人が住んでいる地域です。

B: カルビンのガールフレンドのドミニク・トネリエは、パリで演技を学んでいたから全くのアマチュアではない。名前から判断するにフランス系の人ですね。

A: 女性のパンク・バンドのリーダーになったアンヘラ・ガルシアはモデルをしている。この二人の女性からはRASもカルビンもそこそこに遊ばれて、結局はぐらかされてしまう()。二人はまだコドモです。 

               (卵料理を食べるRASと母マリア)

 

A:: お父さんも相当ユニークだが、お祖母さん役のアタラ・エストラーダの演技してない演技が光った映画でした。家族アルバムを説明するシーンで使われたのもホンモノだということでした。ここでコロンビアの歴史の一端を語らせる巧みな演出に感心しました。

B: お祖母さんは癌の放射線治療を受けているのか、髪をスカーフで包んでいる。痒くて眠れないと言うと、孫のカルビンが寝入るまで優しく頭皮を揉んでやる。

A:: このシーンね、デビュー作にも出てくる。主人公が絶望で死にそうになっているとき、女の子が優しく頭を揉んでやる。ああ、これは監督が実際にやってやったり、してもらったりしているんだな、と感動したんです。

B: グラフィティも音楽も素晴らしかったが、こういう一見何でもないシーンが観客を惹きつけるんですね。 

        (ポスターをバックにお祖母さんになったアタラ・エストラーダ)

 

     ロス・ホンゴスかロス・オンゴスか、どっちでもいい?

 

B: タイトル「Los hongos」のスペイン語の意味は、カタログ解説にあるように特別「マッシュルーム」を指しているわけではなく、「キノコ・菌類」のこと、スペイン語はHを発音しないから「オンゴス」にして欲しかった。

A:: 困った題名の一つかな、クレームつけてるブログがあった。個人的には上映してくれるだけで満足すべきと諦めているから「どっちでもいい派」なんです。しかし1年前、最初のタイトル「ブランカニーヴス」にクレームがついたことで、公開時には『ブランカニエベス』に訂正されたことがあった。文句言った人の知名度が物を言ったのかも()

 

B: 誰が見ても聞いても意味不明だから、作品がイメージできない。英語のカタカナ起しは長いと幾度目にしても記憶できないが、もう市民権を得ましたね。

A:: 本作はデビュー作のように英題がまだ決まってないらしく、映画祭でのプレミアは仕方なかったのでしょう。最後のシーンで二人が登る大木は、サマネア・サマンといって中南米に主に生息する。葉っぱから垂れ下がっている白いものがオンゴスです。大木に寄生しながら「死から生」へ向かう、未来を二人が確信するシーンです。

B: 記憶に残る美しいシーンでしたが、ちょっとあり得ない展開でした。最後にきて飛躍が起こった印象でした。 

           (サマネア・サマンの木の下のRASとカルビン)

 

A: このブログはまだ1年ちょっとしか経っていませんが、アンドレス・バイス、フランコ・ロジィ、リカルド・ガブリエリなど、既にコロンビア映画を10本ほど記事にしています。テーマも切り口も多様、最近の躍進ぶりは5年ほど前のチリ映画を思い起こさせます。オスカー賞2015のコロンビア代表作品に選ばれたのは、マリア・ガンボアのデビュー作Mateoと、これまた新星現るで、裾野が広がってきたことは間違いありません。

 


エストラートestrato1993年に創設された「社会プログラム受益者選定システム」のこと。各家庭の経済状態を「1から6」までの階層に格付けしたもの。各家族が国家に納めるべき税金の額によって社会階層が決まってくる。もっとも社会経済状態が低いのが「階層122.3%)で、「階層241.2%)が多数を占める。「階層3」は中の下の階層、都会に住む大多数の家族が「23」である。「階層4」は中流階級に入り、プロフェッショナルな職業についている人や商人である。階層5」(1.9%)は中流の上、「階層6」(1.2%)は、邸宅や豪華マンションに住み数台の車を所有し、持てるすべてのものを持つエリートである。証明書が発行され、それによって公共料金の額(階層1は免除)とか、大学授業料が決まる仕組みRASの家庭は「階層1」、カルビンの家は「23」でしょうか。コロンビアが階層によって分断された社会であることが、監督の「政治抜きに映画は作れない」という発言になっていると思います。

 

カンヌ映画祭2014*「監督週間」 ディエゴ・レルマン2014年05月11日 16:11

★今年46回目を迎える「監督週間」も「批評家週間」同様カンヌ本体とは別組織が運営しているセクションです。1月に開催されるサンダンス映画祭に上映された作品もありますが、だいたいがワールドプレミアです。今年は長編19作、中短編11作がエントリーされています。

 


★今年Refugiado が選ばれたディエゴ・レルマンは、第3『隠れた瞳』(アルゼンチン==西)が2010年にエントリーされています。東京国際映画祭2010で上映され、『ある日、突然。』を見て度肝を抜かれたファンを喜ばせました。昨年は御年85歳というアレハンドロ・ホドロフスキーが23年振りに撮った La danza de la realidad(チリ=仏)が登場、『エル・トポ』(1970)で世界を驚かせた監督ですね。今夏7月に『リアリティのダンス』の邦題で公開されます。これはもうお薦めです。

 

他にスペイン語の映画では、パブロ・ララインのNO2012、チリ=米国=メキシコ)、主たる言語は英語でしたが、チリのセバスチャン・シルバの『マジック・マジック』2013、米国=チリ)などがあります。『NO』は東京国際2012とラテンビート2013で上映され、前者ではラライン兄弟は次回作撮影のため来日できず、ロス在住のアメリカ側の製作者ダニエル・マルク・ドレフュスがQ&Aに来日、撮影秘話を披露、関連記事はコチラ(ラテンビート2013①、921UP)。GG・ベルナルがお目当てのファンのなかには、お父さん役だったのでがっかりした人もいたでしょうか。一方『マジック・マジック』がラテンビートで上映されたときには監督と女優のカタリーナ・サンディノ・モレノが来日、スペイン語でQ&Aに臨んだときの様子はコチラ(ラテンビート2013927UP)です。 


ディエゴ・レルマン Diego Lerman 1976324日、ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者、舞台監督。産声を上げた日が軍事クーデタの勃発した運命の日、これ以後7年間という長きに及ぶ軍事独裁時代の幕が揚がった日でした。彼の幼年時代はまさに軍事独裁時代とぴったり重なります。体制側に与し恩恵を満喫してダメージを受けなかった家族も少なからずいたでしょうが、レルマンの家族はそうではなかった。そのことが彼の映画に顕著に現れているのが『隠れた瞳』です。


ブエノスアイレス大学の映像音響デザイン科に入学、市立演劇芸術学校でドラマツルギーを学ぶ。またキューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バーニョスの映画TV学校で編集技術を学んだ。

 

      長編フィルモグラフィー

2002 Tan de repente (アルゼンチン)『ある日、突然。』監督・脚本・プロデューサー 
      モノクロ

2006 Mientras tanto(アルゼンチン)英題 Meanwhile 監督・脚本

2010 La mirada invisibleアルゼンチン==西『隠れた瞳』監督・脚本・プロデューサー

2014  Refugiado (アルゼンチン=ポーランド=コロンビア=仏)監督・脚本・プロデューサー

他に短編、TVドキュメンタリーを撮っている。

 

*第1Tan de repente 「鮮烈デビュー」が大袈裟でなかった証拠にレイトショーとはいえ日本でも公開されました(笑)。国内賞だけでなくロカルノ映画祭銀豹賞、ハバナ映画祭金の珊瑚賞、ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭銀のコロン賞、2003年にはニューヨーク・レズ&ゲイ映画祭でも受賞するなど多くの国際舞台で評価されました。まだ20代半ばでしたから、計算されたプロットにはちょっとアメナバルがデビューした頃のことを思い出してしまいました。ユーロに換算すると4万ユーロという低予算で製作された。カンヌにはエントリーされなかったのに、カンヌ映画祭財団が基金を与え寄宿舎で脚本を書く機会を提供するなど好調な滑り出しでした。

 


*プロット:ランジェリー・ショップで働く田舎出の太めのマルシアは、ある日突然、パンクなレズビアンの二人組マオとレーニンに拉致される。マオがマルシアに一目惚れしたからだという(公式サイトあり)。

  

2Mientras tanto :アルゼンチン映画批評家協会賞にValeria Bertuccelli が主演女優賞(銀のコンドル賞)、クラリン・エンターテインメント賞(映画部門)にもBertuccelli が女優賞、ルイス・シエンブロスキーが助演男優賞を受賞しましたが、レルマン自身はベネチア映画祭のベネチア作家賞にノミネートされただけでした。「アルゼンチンの『アモーレス・ペロス』版」と言われた作品(管理人は未見)。『僕と未来とブエノスアイレス』(2004、公開2006)のダニエル・ブルマンがプロデューサーの一人。新作 El misterio de la felicidad2014)がなかなか好いという評判が聞こえてきてますが、彼の映画は公開が難しい。

 

3La mirada invisible :「また瞳なの、瞳じゃないでしょ」と溜息をついた『隠れた瞳』は、上記したように東京国際映画祭で上映、監督と主演女優フリエタ・シルベルベルクが来日いたしました。マルティン・コーハンのベストセラー小説Ciencias Morales2007エライデ賞受賞)にインスパイアーされての映画化だから、タイトルも違うし小説の登場人物や内容、特に終わり方が違います。軍事独裁制末期1982年のブエノスアイレス、エリート養成の高等学校が舞台でしたが、国家主義的な熱狂、行方不明者、勿論フォークランド戦争は出てこない。しかしこの学校がアルゼンチン社会のアナロジーと考えると、その「見えない視線」に監視されていた社会の恐怖が伝わってくる。 

                                   (写真:東京国際映画祭Q&Aに登場した監督とフリエタ)

 

この映画の一つの主役はカメラ、校内中庭を鳥瞰撮影した幾何学的な美しさ、教師と生徒が靴音を響かせて廊下を歩く遠景描写は軍隊行進のメタファーと感じさせる。ヒロインの突然のクローズアップの多用、構図がくっきりしていて気持ちがいい。それにしてもトイレのシーンが何回となく繰り返し現れるのは、何のメタファーなのだろう。心の中の汚物を吐きだす場所、人に隠れて秘密をもつ場所か。実際ある三つの高等学校で撮影したそうで、かつてブエノスアイレスが「南米のパリ」と言われた頃に建築された建物は、それ自体が絵になっています。撮影監督のアルバロ・グティエレスはスペイン人、数多くの短編映画、なかでHombres de paja2005)がストラスブール映画祭2007のベスト撮影監督賞を受賞、長編では、フェリックス・ビスカレットのBajo las estrellas2007)がゴヤ賞2008撮影監督賞にノミネートされ、エンマ・スアレス(主演女優賞ノミネート)やアルベルト・サン・フアンが出演したことで映画も話題になりました。

 

            (写真では美しさがよく分からないが、舞台となった高等学校の校舎)

 

フリエタ・シルベルベルクは『ニーニャ・サンタ』(2004、ラテンビート2004上映)以来の登場、真面目で繊細、故にアンバランスになっている女教師役にぴったりです。今年のカンヌのコンペに残ったダミアンSzifron オムニバス映画Relatos salvajes にも出演しています。校長役のオスマル・ヌニェス、忘れられないのが祖母役のマルタ・ルボスの老練さでした。

 

(写真:フリエタの後方が校長のヌニェス)

 

★第4 Refugiado3月半ばに撮影が終了したという出来たてほやほやの作品、勿論ワールドプレミアです。まずプロットは、7歳のマティアスと母ラウラに起こったことがマティアスの無垢な驚きの目を通して語られる。父ファビアンのドメスティック・バイオレンスDVを逃れて、身ごもった母とティトを連れた子は安全な避難場所を求めて都会を彷徨い歩く、都会をぐるぐる廻るスリラー仕立てのロード・ムービー。

 

ティトとはマティアスのプラスチック製の恐竜玩具ディノザウルスのこと。夫婦関係についての、暴力の本質についての映画だが、傷つくことのない関係の不可能性や無力さが語られている。だから道徳的に裁いたりしないのだ。第1『ある日、突然。』同様、社会的文化的なありようとしてのジェンダーの話であり、単なる遁走でなく、前に進むための彷徨なのでしょう。エモーショナルななかにもユーモアのセンスが光る、スリラーの要素が込められた都会を巡る一種のロード・ムービー。

 

アルゼンチンは他のラテンアメリカ諸国より、夫やパートナーによる家庭内暴力死亡事例が高く、年々増加の傾向にある。子供たちはそういう両親の葛藤と対立の中に置かれている。マティアスの場合は幼くて自分たちの彷徨の意味をよく理解しているわけではない。身体的なDV だけでなく精神的なものも含むから、その複雑さは理解できなくて当然です。

 

キャスト陣:ラウラにフリエタ・ディアスJulieta Diaz)、マティアスにセバスチャン・モリナロSebastian Molinaro)、他いわゆる駆け込み寺に暮らす女性たちが出演する。マルタ・ルボス、シルビア・パロミノ、サンドラ・ビジャニ、パウラ・イトゥリサ、カルロスWeberほか。撮影はマティアス役の年齢(当時8歳)を考えて最長6時間に限り、ブエノスアイレスと近郊都市で7週間、ティグレTigre2週間半かけてクランク・アップした。

 

              (写真:本当の母と子のように似ているディアスとセバスチャン)

 

話題になっているのが撮影監督のヴォイテク・スタロンWojtek(Wojciech) Staron です。1973年生れのポーランド人ですが、国際的に活躍している主にドキュメンタリーを撮っている監督です(ヴォイテクは男子名ボイチェフの愛称)。なかでパウラ・マルコヴィッチの El premio61回ベルリン映画祭2011にエントリーされ、彼は銀熊賞(芸術貢献賞の撮影賞)を受賞しました。これはアルゼンチンの脚本家パウラ・マルコビッチの長編デビュー作で自伝的要素の強い映画です。フェルナンド・エインビッケの『レイク・タホ』や『ダック・シーズン』の脚本を監督と共同執筆して、もっぱらメキシコで仕事をしているのでメキシコ人と思われていますが、アルゼンチン人です。監督の生れ育ったサン・クレメンテ・デル・トゥジュという湯治場を舞台に軍事独裁時代を女の子の目線から撮った映画、製作国は主にメキシコですが、仏=ポーランド=独の合作です。アリエル賞も貰いましたね。

 

(写真:銀熊賞のトロフィーを手にした監督とスタロン)

 

イギリスとポーランド合作のドキュメンタリー Wojtek : The Bear That Went to War2011)がNHK教育テレビの「地球ドラマチック」において『戦争に行ったクマ~ヴォイテクとポーランド兵たちの物語』として放映されました(2012811日)。これを撮影した監督です。

 

プロダクションは、アルゼンチン(CAMPO CINERioRoja他)、ポーランド(Staron Films)、コロンビア(Burning Blue)、フランス(Bellota Films)。アルゼンチン9月公開が決定している。今後の賞の行方によって変わるかもしれない。

 

カンヌ映画祭2014*「批評家週間」コロンビア映画2014年05月08日 16:01

★「批評家週間」というセクションは公式プログラムではなく、映画祭と同時期に開催されますが、カンヌ本体とは別組織が運営しています。1962年から始まり今年で53回目です。監督デビュー作か2作目ぐらいが対象です。ここで見出されたあとパルムドールを受賞した監督もおり、外郭団体とはいえ目が離せません。ベルナルド・ベルトリッチ、ケン・ローチ、ウォン・カーウァイ、フランソワ・オゾン、ギジェルモ・デル・トロ・・・ああ、数えきれないや。今年は11作品がエントリーされていますが、カメラドールを競うのは7作品、オープニング、クロージング、特別上映作品はコンペ外です。

 

スペイン語映画では、アントニオ・メンデス・エスパルサの『ヒア・アンド・ゼア』(2012Aquí y allá 西=米国=メキシコ、東京国際映画祭上映)があります。スペインの監督ですが映画はアメリカで学び、そのとき知り合ったメキシコの友人夫婦を主人公にメキシコを舞台にした映画で、カンヌの後サンセバスチャンでも会場に勝手連が押し寄せて満席だった映画。他にアルゼンチンのアレハンドロ・ファデルの『獣たち』(2012Loa salvajes アルゼンチン、ラテンビート2012上映)など。概ねワールドプレミアが多く、これからご紹介するフランコ・ロジィのデビュー作 Gente de bien(コロンビア=仏)もワールドプレミアです。

 

★ラテンアメリカで最近存在感を増してきているのがコロンビア、56年前のチリの躍進を思い出させます。「ラテンビート2013」でご紹介したアンドレス・バイス(『暗殺者と呼ばれた男』他)の次の世代です。コロンビア革命軍(FARC)を中心としたゲリラ組織と政府との和平交渉は道半ばですが、以前のような戦争状態からは脱しています。欧米で映画の勉強をしていた若手が帰国して新しい波が寄せてきているのかもしれません。これからご紹介するフランコ・ロジィもその一人です。

 

(写真:フランコ・ロジィ)

*フランコ・ロジィ Franco Lolli 1983年ボゴタ生れ。映画はフランスの映画学校で学ぶ。最初はポール・ヴァレリー大学や新ソルボンヌ大学(Sorbonne Nouvelle)で学んだ後、映画学校 La Fémis Paris の監督学科を専攻、そこでの卒業制作として撮った短編 Como todo el mundo2007)が、サンセバスチャン、ロスアンゼルス、グアダラハラなど50以上の映画祭に出品され26個の賞を受賞しました。なかでフランスのアンジェ・ヨーロッパ・ファースト・フィルム映画祭、ブリュッセル短編映画祭、フランスの古都クレルモン=フェラン短編映画祭、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭などで受賞。 


短編第2 Rodri 2012)が、カンヌの「監督週間」にエントリーされた。カルタヘナ映画祭スペシャル・メンション、クレルモン=フェラン短編映画祭ACSE賞他を受賞しています。RodriRodorigoのことでロドリーゴ・ゴメスが演じた。またカンボジアに渡って、Rithy Panh とのコラボでドキュメンタリー Memoria e imágenes, una experiencia camboyano を撮っている。長編第1作はカンヌ映画祭財団の基金を貰って、パリにある Résidence学生寮で脚本を書いたようです。現在はボゴタとパリで生活しており、ボゴタでは2個所の映画学校で教えている。

 

                                      (写真:父アリエルと息子エリック)

ストーリー:少年エリックと父親アリエルの物語。母親に見棄てられた10歳のエリックは、離れて暮らしていた貧しい父親と暮らすことになる。ブルジョア階級のマリア・イサベルの家で大工として働いていたアリエルは、突然現れた息子とどう接していいか分からない。心を痛めていたマリア・イザベルはクリスマスを自分の別荘で過ごすよう父子を招待する。それがどのような波紋を起こすか彼女には思い及ばなかった。貧富の二極化が進む社会を同時に体験するエリックの心は微妙に揺れ動く。

 

(写真:Gente de bien から)

★「批評家週間」を総括するシャルル・テソンによると、エリックはブルジョア家族の子供たちと遊ぶが、同時に自分がその階層に属していないことを感じることになる。「この映画には胸を打たれた。小津安二郎の Los chicos de Tokio を思い出す」とコメントしている。これは自信はないが内容からして多分サイレントの『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(1932)じゃなかろうか。いずれにしても好い感触なのが嬉しい。

 

★短・中編セクションにスペインの大物プロデューサーとして有名なヘラルド・エレーロの Safari2013)がエントリーされています。16分の短編、言語は英語です。

 

★審査委員長はイギリスのアンドレア・アーノルド監督(『嵐が丘』『フィッシュタンク』など)、スペインのフェルナンド・ガンソ(雑誌「リュミエールLumiere」の共同編集者)、メキシコのダニエラ・ミチュレ(映画批評家)その他審査員にはジャーナリスト、批評家が多い。

第17回マラガ映画祭2014*パコ・レオン&落ち穂拾い2014年04月13日 17:12

★マラガ映画祭2012年でデビュー作Carmina o revienta が審査員特別賞と観客賞を受賞したパコ・レオン、カルミナ第2弾 Carmina y amén で再びマラガにやって来ました。前作と同じ母カルミナ・バリオス、妹マリア・レオンの親子三人が中心になって作ったコメディ。待っていたカルミナ・ファンも多かったことでしょう。

 

パコ・レオンが最優秀脚本賞銀賞)、ヨランダ・ラモス最優秀助演女優賞銀賞)を受賞しました。デビュー作での予告タイトルはCarmina でしたが変更したようです。また前作で女優賞を受賞したカルミナ・バリオスは今回は無冠でした。親子三人については、20138月にUPしたゴヤ賞2013予想と結果で紹介済みです。付け加えるとすると、レオン監督はホアキン・オリストレルの『地中海式 人生のレシピ』(20092013年公開、DVD発売)に不動産業者トニ役で出演、俳優としてテレビ、映画で活躍している。

 

*ストーリー、夫の突然の死に遭遇したカルミナは、死亡通知を2日間遅らせることを娘マリアに納得させる。そうすれば夫の未払い給料が倍額で受け取ることができるからだ。秘かに遺体と一緒に2日間を過ごすことになったカルミナとマリア母子は・・・セビリャの庶民的な慎ましいバリオの日常を描くコメディ。(写真:夫の棺の前で悲嘆にくれるカルミナとマリア)

 


前作と本作の大きな違いは製作費、第1作がたったの5万ユーロ(4万というのもあり)だったのに、今回はテレシンコ・シネマTelecinco Cinema から65万ユーロの資金を得て製作されたこと。二つ目は第1作が親子3人と殆どが隣り近所のアマチュアだけだったが、今回は家族に加えてプロも出演していること。プロ&アマ半々、助演女優賞受賞のヨランダ・ラモスほか、マノロ・ソロ(『第211号監房』)、ホセ・ルイス・ガルシア・ペレス、前作にも出演していたパキ・モントーヤ、カルミナの夫役でデビューしたパコ・カサウスもプロの仲間入りですね。今回のプロットは、私的な逸話が脚本のベースになってはいるが、第1作よりフィクション性が高い。死とコメディをめぐるドラマの中に遊びを入れている。

(写真:Carmina y amén 撮影中のパコ・レオン)

 


前作 Carmina o revienta は、DVD発売や型破りのインターネット配信(有料)で映画館が空っぽになったといわれた。今回は430日封切りだが、同時にオンラインで配信したいと。これは通常の仕来たりを壊すもので批判もあることです。彼に言わせると公開後4か月経たないとDVDが発売できないのは理不尽である(以前は6カ月後だったが数年前改正された)、それでも海賊版の横行であまりに長すぎる。消費税税増税でますます映画館から観客の足が遠のいている現実からもおかしい。さらに均一料金も納得できない。莫大な資金をかけた『ホビット』のような大作と自作のような映画とが同じなのはヘンというわけ。アメリカ製<モンスター>に太刀打ちするには工夫が必要、一理ありますよね。「自分は映画を当てて金儲けしようと考えている監督じゃない。新作もチケットは5ユーロで販売したいが、裁判所はノーと言っているが、闘いは止めない」と監督。

トールキンの『ホビットの冒険』を映画化したピーター・ジャクソンの三部作。

 

映画以上に怒りは盛り上がっているが、新人監督の作品は配給元が見つからず公開のチャンスが少ない。いわゆる<映画祭映画>で終わってしまうから、彼の意見に賛同する人は多いのではありませんか。

 

◎その他いろいろ落ち穂拾い

★『マデイヌサ』や『悲しみのミルク』のクラウディア・リョサの第3No llores, vuela(原題Aloft)の撮影監督ニコラス・ボルデュクNicolas Bolduc最優秀撮影賞銀賞)を受賞しました。監督こそペルーですが、米西仏合作、言語は英語ですから当ブログの範疇外かな。ただしベルリン映画祭にも出品され、キャスト陣も有名どころが起用されている。前2作のテーマは母と娘だったが、本作は母と小さいときに生き別れになった息子の話。またチャーリー・チャップリンの孫、ジュラルディン・チャップリンの娘、つまりユージン・オニールの曾孫ウーナ・チャップリンOona Castilla Chaplin1986、マドリード生れ)が出演している。話題性があり、映画祭上映に止まらず公開も期待できそう。

 

ウーナ・チャップリンは本映画祭でデビューしたPau Teixidor監督のPurgatorio の主役マルタにも抜擢されてマラガ入りしていました。彼女は日本に既に登場しています。『007慰めの報酬』(2008)にホテルの受付役で出演、テレドラ・シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』**のタリサ・マイギアに扮しました。母親似のほっそりした体形、170センチと長身です。父親は当時ジュラルディンのパートナーだったチリの撮影監督パトリシオ・カスティリャ、両親が正式に結婚したのは2006年です。

**このテレドラについては、最優秀女優賞受賞のナタリア・テナ(10.000 KM)でご紹介しています(4月11日)。

 

★デビュー作が元気だった今回のマラガ映画祭でしたが、Purgatorioは、評価が分かれたようで受賞には絡みませんでした。スリーラー仕立てのホラー映画、息子を失うという重いトラウマを抱えた若い母親マルタは、新しい隣人の男の子を世話している。「製作者も男性、脚本家も男性、監督も男性・・・息子を亡くしたばかりの女性について語ったものですが、そういう苦しみを共有するのは難しかった」とウーナ。

脚本はテレドラのシリーズを手掛けているルイス・モレノと、『インポッシブル』や『永遠のこどもたち』の脚本を書いたセルヒオ・G・サンチェスです。スペイン映画のホラー好きがナニするかもしれない。(写真:Purgatorio のウーナ・チャップリン)

 


★受賞に近いと見られていたホルヘ・トレグロサの第2作、コメディ La vida inesperada も無冠に終わりました。撮影がニューヨークだったり、エルビラ・リンド(『めがねのマノリート』の原作者)が脚本を手掛けたということで話題になっていたのですが。ハビエル・カマラとラウル・アレバロの息の合った上手すぎる演技が、マラガではちょっと食傷気味だったかもしれない。面白さと受賞は必ずしも一致しないから字幕入りで・・・と期待。

(写真:左からラウル、ハビエル、トレグロサ監督)

 

第64回ベルリン映画祭*ベンハミン・ナイシュタット2014年02月24日 15:15

★ラテンアメリカ諸国と違って、スペインではベルリンに焦点を合わせてくる監督は少数派。そういうわけか今年も出品はゼロでした。スペイン語映画はアルゼンチンから次の2作がコンペに残りました。

 

La tercera orilla 2014 The Third Side of the River)セリナ・ムルガの第3作、アルゼンチン=独=オランダ、20143月アルゼンチン公開、 製作費概算150万ドル

 

Historia del miedo2014 History of Fear)ベンハミン・ナイシュタット、アルゼンチン= ウルグアイ= 独仏、79分、カラー、アルゼンチン公開日時未定

 

クラウディア・リョサAloft2014、西・カナダ・仏)は、言語が英語、出演者もペルーとは関係ない。800万ドルの資金を投じての大作だからいずれ公開されると思う。クラウディア・リョサはベルリンと相性がよく下馬評では賞に絡むということでしたが素通りしました。今度は母娘の物語ではなく、かつて小さい息子を捨ててしまった母親の物語です。

 

セリナ・ムルガは前作Una semana solos2008A Week Aloneアルゼンチン)が、ヒホン、リオデジャネイロ、ミュンヘンなどの国際映画祭で受賞しています。サンセバスチャン映画祭2012のレトロスペクティブ「ラテンアメリカ映画の10年」にも選ばれ再上映されました。マーティン・スコセッシが感銘を受けたということで話題にもなりました。

 

 


ベンハミン・ナイシュタットHistoria del miedoはデビュー作ということと、27歳という若さに惹かれてご案内いたします。プロットを入れますが、読んでも雰囲気しか分からない映画です()

プロット:現代社会が抱える恐怖についての物語。暑い夏、ムシムシした気候、息苦しい雰囲気の中、町から離れた郊外の私有地に閉じこもったまま中産階級の人々が暮らしている。外部の人々をインベーダーのように怖れている。停電によって闇が支配する町、不確かな火花を散らして押し寄せる集団的悪夢はカオスと化す。

 

アルゼンチン社会に根源的にあるファンタズマにX線を通して、他階級への偏見、嫌悪感、社会的脅迫観念に取り組んでいるらしい。恐怖というのは抽象的で不合理なものだから、音、光、闇を使って描写している。だからと言って、これは厳密な意味では「社会派」ドラマではない。もっと感覚的な恐怖についての物語のようです。

 

「映画はジャンルを問わない、1970年、80年代のホラー映画が好き、ジョン・ハワード・カーペンターには限りなく魅せられている。彼の世代ではかなり政治的な監督の一人、アルゼンチンではルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』(2001)、映画の構成を考えるとき役に立つ」と。これはマルテルの「サルタ三部作」の最初の作品、二部『ラ・ニーニャ・サンタ』(2004)と三部『頭のない女』(2008)はラテンビートで上映された。リアリズムとファンタジーとアレゴリーが同時に存在していて、好き嫌いがはっきり分かれる監督。さらに「メキシコのカルロス・レイガーダスの詩的なところ、ミハエル・ハネケ的雰囲気も気に入っている。クラウディア・ピニェイロの小説Las viudas de los juevesやロドリーゴ・プラのLa zonaの影響を受けている」ということで、だいたい彼の目指している映画の枠組みが見えてきます。La zonaについては、かなり多くのインタビュアーが指摘しています。

 


クラウディア・ピニェイロの小説は、中産階級の人々が「閉じ込められた空間」に住んでいる、という点でそっくりだが、彼らは自分たち用の堅牢な要塞を建てて外部をシャットアウトして安全を保っている。この小説は2005年のクラリン賞(小説部門)を受賞したベストセラー、2009年にマルセロ・ピニェイロが映画化している。

(写真は左から、主人公役ジョナサン・ダ・ローザとナイシュタット監督)

 

     監督のキャリア紹介

ベンハミン・ナイシュタット Benjamin Naishtat1986年ブエノスアイレス生れ、監督・脚本家・編集者・製作者。2008年、FUCFormado en la Universidad del Cine)で学んだ後、フランスの「ル・フレノワ国立現代アートスタジオ」の奨学金を得て留学。短編Estamos bien2008)、Juegos2010)がカンヌ映画祭やロッテルダム映画祭で評価された。彼によれば、このJuegos3作目Historia del mal2011)は実験映画ということです。特に前者は自分も気に入り、長編デビュー作の資金作りに役立ったという。フレノワは映画だけでなく現代アートについて学べたことが、美学的なセンスを磨くのに役立った、とも語っている。

 

★アルゼンチンから2作コンペに選ぶについては議論もあった由(セリナ・ムルガが先に決定していた)、製作国にドイツも絡んでいたことが幸いしたのだろうか。


ナタリア・ベルベケ来日*トーク編2013年12月13日 10:20

★『屋根裏部屋のマリアたち』上映後、ただちにナタリアさん登場、セルバンテス文化センター所長さんの御挨拶並びにナタリアさんとインタビュアーのカレロ氏の紹介で始まりました。ナタリアさんのキャリアについては、所長さんカレロ氏ともコチラとほぼ同じ内容なので割愛致します。

 

★『屋根裏部屋のマリアたち』の受賞歴について両氏が触れましたので追加いたします。

2010年:サルラ映画祭(Festival de Cine Sarla 2010)、ナタリア・ベルベケ「金のサラマンダー女優賞」受賞。(サルラはフランスのアキテーヌ地域圏ドルドーニュ県にある観光地。管理人)

2011年:セザール賞助演女優賞をカルメン・マウラが受賞。他に美術賞・衣装デザイン賞がノミネートされた。(セザール賞はフランスのアカデミー賞に当たる。管理人)

2011年ベルリン国際映画祭にコンペティション外で上映。

 

★フランス映画ということで監督紹介もまだでした。1956年パリ生れ、国立映画学校卒。1989年長編デビュー作を含めて未公開、今回6本目となる『屋根裏部屋のマリアたち』が初めて公開された。最新作はコメディAlceste a bicycletteCycling with Moliere2013)、キャストは本作と同じファブリス・ルキーニとランベール・ウィルソン。

 

 ★ル・ゲー監督によると、自分の子供時代の思い出が根底にあるが、ブルジョワ階級の出身でスペイン人のメイドがいたこと、父親が株の仲買人だったこと以外フィクションだそうです。メイドのゴットマザー的なコンセプシオン役カルメン・マウラにはオファーをかけたが、他の出演者はオーディションで決めた。

 

★以下メモランダムに纏めて列挙します(若干メモに混乱があるので間違いがあるかもしれない)

アルベルト・カレロAC:スペイン側からカルメン・マウラ以下ロラ・ドゥエニャス、ベルタ・オヘアなど個性豊かな女優陣が参加しています。先ほど伺ったところではル・ゲー監督はスペイン映画をかなり見ていたということでした。ラテンビートで上映したかった映画でしたが既にフランス映画祭上映が決定していて叶いませんでした。

ナタリアベルベケNV:まず、日本の方にこの映画を見ていただけて嬉しい。監督はスペイン映画をよくご覧になっていました。彼はブルジョワ階級の出身で、家系を遡ると貴族だったということです。自分の家にもスペインのメイドがおり、とても気に入っていた経験が下地にあったそうです。それで最初のバージョンは15歳の少年がスペインのメイドに恋をするというものだった。しかし少年役にぴったりの子役が見つからずお流れになった。だからジャン=ルイには15歳の少年のまま大人になったという側面があるんです。

 

AC:特別に好きなシーンなどありますか。

NV:それはもう、マリアがシャワー浴びてるシーンよ、あっはっは! それに生きるということに一所懸命だったスペイン女性へのオマージュも知ってもらえたらと思う。(かなり豪快な笑い声)

AC:撮影中、困ったことがあったでしょうか。

NV:これには監督の個人的な考えが色濃くあって、「そんなことスペインでは考えられない」と異を唱えても、「いいや、これはフランス人が抱いていたスペイン観なんだから」と押し切られた。1960年代当時、ブルジョワ階級の人が家族を捨ててメイドの故郷に行くなんて結末は驚きね。あっはっは! 彼の個人的な思い入れが関係していると思います。

 

AC:社会的政治的なメッセージも発信されているようだが。

NV:上流階級の父親というものが抱いていた存在の軽さからくる孤独感があります。屋根裏部屋の住人がウエで階下の御主人がシタみたいな精神的な逆転が描かれている。ジャン=ルイは家族を大事にしたいが、自身は孤独で自由ではなかったということです。

 

AC:フランスで撮るのとスペインで撮るのとで違いはありますか。

NV:セリフの言語が(スペイン語と)違うほうが自由を感じます。別の場所で仕事をすると別の発見もありますから、とても楽しかった。

AC:映画を選ぶ基準はどんなことですか。

NV:まずシナリオ、台本が重要です。ストーリーが気に入るか、自分がやる人物はどれか、ほかの共演者はどんな人かも考えて決めます。

 

 ★他に撮影中のケータリングは美味しかったこと、カルメン・マウラが2国の違いは、製作費とプロモーションの規模の違いと話していたこと(あやふやです)、スペインとフランスの関係は良いこと、10月に公開されたフランソワ・オゾンの評判になっている『危険なプロット』(2012Dans la maison、英題In the House”)にファブリス・ルキーニが出演していたことで話題に上りました。(スペイン題はEn la casa、第60回サンセバスチャン映画祭2012の「金貝賞」受賞作品)。またナタリアさんの初期の作品は紹介されましたが、最近の作品についてはTVシリーズDoctor Mateo以外、残念ながら言及がありませんでした。

 


 ★スペインでは20126Las chicas de la sexta plantaのタイトルで公開された。全体的な受けとめ方としては「ピレネーの向こうはアフリカというようなスペインに対する偏見は払拭されているが、相変わらずフランスとスペインにある文化の壁は乗り越えられていない」というどちらかというとネガティブなものが多かった。スペインに好意的なカリカチュアでも「それはいくらなんでもあり得ない」というシーンが多々あったというわけですね。どこにも存在しないユートピアを描いたものと考えればいいので、リアリズムを追求した映画ではないのだから個人的には酷な評価と思います。それでフランスの上流階級の人々(特に御婦人たち)の描き方もスペインのメイドたちの描き方も当時のステレオタイプにしたのでしょう。サンドリーヌ・キベルランが演じた妻シュザンヌもパリジェンヌではなく田舎育ち、背伸びしてどこか居心地が悪そうで幸せではなかった。おあいこですね。

 

 ★写真は管理人が気に入ったシーン、訪ねてきたジャン=ルイをマリアが半ば呆れて嬉しそうに微笑む最後のシーン。洗濯バサミが木製とゲイが細かい。

 

ナタリア・ベルベケ来日『屋根裏部屋のマリアたち』上映とトーク2013年12月08日 11:55

★ナタリア・ベルベケさん来日につき、セルバンテス文化センターで映画上映とトークがあります。既に予約受付終了となっております。映画上映後「ラテンビート」プログラミング・ディレクターのアルベルト・カレロ氏とのトーク・セッションが予定されています(12111800~)

 

★フランス映画祭2011で『6階のマリアたち』の邦題で上映されたラブ・コメディ。20127月、『屋根裏部屋のマリアたち』と改題されて劇場公開されました。スペインではLas chicas de la sexta planta20126月に公開。

監督:フィリップ・ル・ゲー 

キャストファブリス・ルキーニ(ジャン=ルイ/サンドリーヌ・キベルラン(妻シュザンヌ)/ナタリア・ベルベケ(マリア)/カルメン・マウラ(マリアの叔母コンセプシオン)/ローラ・ドゥエニャス、他

製作:フランス、2010年、106分 

言語:フランス語・スペイン語

 

(写真:マリアとジャン=ルイ)

プロット1960年代初頭のパリ。株式ブローカーのジャン=ルイは、妻や子供たちと堅実だが退屈な日々を送っていた。しかし同じマンション6階の屋根裏部屋に、スペインから出稼ぎにきた6人のメイドが引っ越してきたことで一変する。ジャン=ルイは開放的なスペイン女性たち、とりわけメイドとして雇ったマリアのユーモアと賢さに魅了されていく。妻から顧客との不倫を疑われ追い出されたジャン=ルイは、屋根裏部屋の≪新住人≫として自由を手に入れる。自分が幸せでいられる場所はどこでしょうか。(文責:管理人)

 

★ル・ゲー監督は子供の頃に過ごしたスペイン人メイドの思い出がこの映画のもとになっていると語っている。それは当時を忠実に再現した美術や衣装に反映されており、エリック・ロメールの『しあわせの雨傘』、ロラン・ティラールの大ヒット作『モリエール:恋こそ喜劇』でお馴染みの名優ファブリス・ルキーニが、若いマリアに翻弄される悩めるオジサンをコミカルに演じている。スペインの大女優カルメン・マウラがマリアの叔母役、「ラテンビート2013で先行上映されたアルモドバルの最新コメディ『アイム・ソー・エキサイテッド!』に出演のローラ・ドゥエニャスもメイドの一人として出演、演技に定評のあるスペイン女優たちが活躍、本国フランスで大ヒットしたフレンチ・コメディ。

 

ナタリア・ベルベケNatalia Carolina Verbeke Leiva1975年ブエノスアイレス生れ。1986年、11歳のとき家族と共に父親の政治的理由でマドリードに移住、スペインに帰化したアルゼンチン出身の女優、ベルベケはベルギー系の苗字。高校卒業後、Real Escuela Superior de Arte Dramáticoで学び、またEscuela Guindaleraではフアン・パストールに師事する。更にジョン・ストラスバーグ・スタジオでプロとしての演技を磨いた。コンテンポラリー・ダンス、バレエ・フラメンコはビクトル・ウリャテに師事した。イギリスの「ユース・シアター」でシェイクスピア劇『真夏の夜の夢』の舞台経験もある。

 

    主な出演映画

1998Un buen novioヘスス・・デルガド、スペイン、西語、コメディ・スリラー

1999Nadie conoce a nadieNobodey Knows Anybodyマテオ・ヒル、スペイン、西語。邦題『パズル』で20016月公開

2001El hijo de la noviaSon of the Bride)フアン・ホセ・カンパネラ、アルゼンチン=スペイン、西語。2002年トゥリア賞スペシャル賞受賞

2002El otro lado de la camaThe Other Side of the Bed)エミリオ・マルティネス・ラサロ、スペイン、西語、コメディ。2002Ondas Awardeベスト女優賞受賞

2003Días de fútbolSoccer Days”)ダビ・セラーノ、スペイン、西語・英語、コメディ

2003El punto sobre la IDot the I)マシュー・パークヒルのデビュー作。イギリス=スペイン=アメリカ、英語、スリラー・ドラマ。『ドット・ジ・アイ』の邦題で20047月公開

2005Tempestaティム・デズニー、ルクセンブルグ=スペイン=イギリス他、英語、スリラー。邦題『ヴェネツィア・コード』(2006DVD発売)

2005El métodoThe Method)マルセロ・ピニェイロ、アルゼンチン=スペイン=イタリア、西語・英語・仏語

2006GAL”ミゲル・コルトワ、スペイン、西語・仏語

2007Arritmia”(Guantanamero)ビセンテ・ペニャロチャ、イギリス=スペイン、西語・アラビア語・英語、ミステリー・ドラマ。『悪魔のリズム』の邦題で200811月公開

2010Les Femmes du 6e étageフィリップ・ル・ゲー、『屋根裏部屋のマリアたち』(上記)

 

(写真:『ドット・ジ・アイ』でのナタリアとG.G.ガエル)

Un buen novioで映画デビュー、スリラー・コメディとしての作品評価は低かったが、無名の新人ナタリア・ベルベケの演技が評判になった。マテオ・ヒルの『パズル』は、第13回東京国際映画祭に『ノーバディ・ノウズ・エニバディ』の邦題で上映され公開時に改題された。当映画祭には監督や人気絶頂のエドゥアルド・ノリエガも来日、女性ファンが押しかけた。話は逸れるが、この2000年はアレハンドロ・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』が話題を攫った年でもあった。来日こそしなかったがガエル・ガルシア・ベルナルがカンヌで巻き起こした旋風からグランプリ受賞は最初から決まっていた。ナタリア・ベルベケは、『ドット・ジ・アイ』でG.G.ベルナルと共演している。「ラテン・アメリカ映画」の小特集も組まれ、ダニエル・ブルマンの『エスペランド・アル・メシアス』以下5作品が上映された。椿事も幾多あったが、とにかくスペイン、ラテンアメリカ映画がかためて見られた年でした。

(写真:”GAL”のワンシーン、共演者ホセ・ガルシアと)

★ナタリア・ベルベケはコメディを得意としていますが、マルセロ・ピニェイロ
El métodoのコケティッシュだが実はやり手の秘書役、スペイン現代史(1980年半ば)の負の部分を描いた、ミゲル・コルトワGAL”のジャーナリスト役などで好演している。コルトワはフランスの監督ですがスペイン語映画もGAL”を含めて3作撮っており、いずれも現代社会にメスを入れた問題作です。El métodoはセルバンテス文化センター土曜映画会(20135月)で英語字幕で上映されました。

 

★恋多き女性らしく最初のパートナーは故ピラール・ミロー監督の子息ゴンサロ・ミロー、次の闘牛士ミゲル・アベジャンとはかなり長かったが、現恋人はゴンサロ・デ・カストロ、人気TVドラマ・シリーズDoctor Mateo200911)の共演者。ナタリアはアドリアナ・ポスエロ役で53話に出演、2010年にテレビ・アワードを受賞している。最近はテレドラの出演が多く日本のファンとしては新作映画が待たれます。


『エンプティ・アワーズ』アーロン・フェルナンデス*TIFF20132013年11月07日 09:25

★今年の東京国際映画祭TIFFのスペイン語映画はコンペティション上映の本作と、アマ・エスカランテの『エリ』(ワールド・フォーカス部門)だけでした。ラテンビート共催上映の『エリ』は、2014年アカデミー・メキシコ代表作品に選ばれましたが、最終候補に残れるでしょうか。(以下の記事には1017日上映後のQ&Aの内容が含まれています。)

 


★アーロン・フェルナンデスの長編第2Las horas muertas2013The Empty Hours)が、今年の最優秀芸術貢献賞に選ばれました。最終日26日に発表になるや朗報はあっという間にメキシコに届きました(まだメキシコは25日でしたけど)。副賞5000$が多いか少ないか分かりませんが、資金難に苦しむ若い監督には励みにはなります。デビュー作Partes usadas2007)から数えると約6年かかったのも資金難が大きな原因だったそうです。カンヌ映画財団のレジデンスに3カ月滞在して脚本を執筆後、2012年サンセバスチャン映画祭SIFFの「Cine en Construcciónに参加できたり、カナナ・プロの援助で完成したということです。何はともあれフェルナンデス監督は主演のクリスティアン・フェレールと来日した甲斐がありました(モレリア国際映画祭**出席のため帰国、授賞式には欠席)。

 

(写真:舞台となった実在のモーテル)

プロット:荒れ果てたベラクルスの海岸、17歳のセバスティアンは、叔父が所有する小さな時間貸しモーテルの管理を任され、そこでミランダに出会う。恋人と会うためにモーテルを訪れるが、いつも待たされてばかりのミランダ。彼女が待つ間にふたりは知り合い、束の間の誘惑ゲームが始まる。

TIFF公式サイトより内容の良かった「公式プログラム」からの引用)

 

★ストーリーはいたってシンプル、劇的な展開を期待する観客向きではない。何が起ころうが動じない雄大な自然、これに人間の感情など対抗できない。ゆったり流れる時間、長回しのカメラワークから時が止まり映像はまるで写真のような錯覚を起こさせます。二人とも愛の終りを最初から意識している。「束の間の誘惑ゲームが始まる」かどうかは、見る人によって意見が異なるだろう。

 

   キャスト紹介

クリスティアン・フェレールKristyan Ferrer(セバスティアン)

アドリアナ・パスAdriana Paz(ミランダ)

セルヒオ・ラスゴンSergio Lasgón (マリオ、ミランダの恋人)

フェルミン・マルティネスFermin Martinez(セバスティアンの叔父)


 

(写真:『闇の列車、光の旅』のクリスティアン・フェレール)

クリスティアン・フェレールKristyan Ferrer1995年メキシコ・シティ生れ。2001年テレビの子役として出発。しかし俳優として彼の名を世間に認知させたのは、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』2009、原題Sin nombre)でしょう。撮影当時は13歳、役柄的にはもう少し下でしたか。主人公のウィリーこと“エル・カスぺル”を撃ち殺してしまう少年“エル・スマイリー”役、≪マラ・サルバトゥルチャ≫の有力メンバーになりたくて、かつての兄貴分のウィリーをアメリカ国境まで追いつめて射殺する。この成功は良くも悪くも彼について回ることになり、TIFFQ&Aでも語っていたように「俳優としての転機を求めてオーデションを受けた」という発言に繋がるようです。上映作品では17歳の役でしたが、小柄なせいか少々子供ぽかった印象、これ以上身長は期待できそうにないから今後の役選びは難しいかもしれない。他にルイス・エストラダのEl infierno2010、カルロス・キュアロンのBesos de azúcar2013)など。

 
(写真:アドリアナ・パス、後方はマリオ役のセルヒオ・ラスゴン)

アドリアナ・パスAdriana Paz1980年メキシコ・シティ生れ。16歳で舞台デビュー、メキシコ自治大学文学哲学部で劇作法と演劇を学ぶ。映画修業のため一時期スペイン、ポルトガルに滞

在、メキシコに帰国後、キューバのロス・バニョス映画学校で脚本を学んでいる。女優ではなく監督、脚本家志望だったらしい。在学中よりセミプロとして舞台に立つ。映画デビューはセサル・アリオシャのTodos los besos2007)、これはメキシコ・シティ国際現代映画祭、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭にも出品された。カルロス・キュアロンの『ルドとクルシ』(2009)にトーニャ役(ディエゴ・ルナの妻役)で出演、翌年のアリエル賞共演女優賞にノミネートされた。そのほか代表作に2010年のアリエル賞を総なめにしたカルロス・カレラのコメディEl traspatio2009)、アントニオ・セラーノのMorelos2012)、アンドレス・クラリオンドのデビュー作Hilda2012)など。役柄によって≪美しさ≫が変化する女優として定評があり、理論派、演技派の女優であることは、上映作を見ただけでも分かる。

 

   監督紹介

1972年チワワ(メキシコ北部のチワワ州都)生れ。パリ=ソルボンヌ大学で映画撮影技法学を専攻、マスター号取得後、脚本家、監督、プロデューサー、エディターとして映画、テレビ界で活躍。プロダクション「サンタ・ルシア・シネ」を設立、現在は主にブラジルとメキシコで仕事をしている。

 

(写真:アーロン・フェルナンデス監督)

   長編フィルモグラフィーと受賞歴

2007Partes usadas監督・脚本・製作。メキシコ、フランス。長編デビュー作、2007年モントリオール映画祭のラテンアメリカ映画に贈られる最高賞「グラウベル・ローシャ賞」、同年ハバナ映画祭のデビュー作に贈られる「グランド珊瑚賞」、同年グアダラハラ映画祭第1作に贈られる国民賞など受賞した。2008年のアリエル賞はノミネートに終わった。40を超える映画祭に招待され、第1作で国際舞台で評価された作品。

2013Las horas muertas『エンプティ・アワーズ』監督・脚本・製作。メキシコ、フランス、スペイン。アジアン・プレミアム。上記以外に9月下旬に開催されるロカルノ国際映画祭のベスト・ヒューチャー・フィルム賞にノミネートされた。モレリア映画祭でアドリアナ・パスが主演城優勝受賞。評価はこれからです。

 

Cine en Construcción」というのは、SIFF2002年にラテンアメリカ諸国の映画振興と若い監督の資金援助を目的に設立されました。フランスのRencontres Cinémas d’Amérique Latine de Toulouse「トゥールーズ・ラテンアメリカ映画フォーラム」(例年SIFFより少し後の9月下旬開催)とのタイアップです。これに参加できた作品は、翌年か翌々年のSIFF公式コンペティションかホライズンズ・ラティーノスに選ばれることが多い。この中にはLBFFで上映され好評だったトリスタン・バウエルの『火に照らされて』(2006、アルゼンチン)やセバスティアン・シルバの『家政婦ラケルの反乱』、フランシスコ・バルガスの『バイオリン』(2006、メキシコ)、エンリケ・フェルナンデスの『法王のトイレ』(2007、ウルグアイ)などSIFFに止まらずカンヌでの受賞作品もあります。TIFFではアマ・エスカランテの『サングレ』(2005、メキシコ)、劇場公開作品にはナタリア・スミノフの『幸せパズル』(2010、アルゼンチン)やフェデリコ・ベイロフの『にきび』(2007、チリ)、セバスティアン・レリオの『グロリア』も来年公開されます

 

**正式にはモレリア国際映画祭Festival Internacional de Cine de Morelia (FICM1018日~27日開催、モレリアはミチョアカン州の州都)。『エンプティ・アワーズ』は25日に上映、首都の隣州ということもあってスタッフ、キャスト総出でプレス会見に臨んだ。息子を出産したばかりの主役ミランダ役アドリアナ・パスはメッセージだけの参加でした。

  

 トレビア

FICMのプレス会見の模様は、TIFFQ&Aにおける監督談話とだいたい同じです。映画のアイディアは「ベラクルスのエメラルド海岸を車で走っていると、たくさんのモーテルが点在していることに気がついた。絵のように美しい詩情的な風景の場所にまるで打ち捨てられたようなモーテル、その中で繰り広げられるパッションと情欲を組み合わせたらどうなるかに興味が湧いた」ということです。「いつも遅れてくる愛人のせいで無駄な時間(horas muertasでなくtiempos muertosを使っていた)を過ごさねばならない女と17歳の若者が惹かれあう」というように膨らませていったようです。カンヌ映画財団の援助で3カ月間レジデンスに宿泊して脚本を書いたこと、少年と年上の女性とのキャスティングが重要なうえ難しかったこと、キャスティングがまずいと何事も上手く運ばないことなどもTIFFで語っていましたね。

 

TIFFでキャスティングはどうやって決めたかという質問に、監督は「セバスティアン役はオーデションで決めた。カメラテスト、スクリーンテストと長いプロセスがあった」と答えていましたが、クリスティアン・フェレールによると「ミランダ役の女優を選ぶときには何人もの女性とリハーサルを繰り返した。その中にアドリアナ・パスがいた。二人のセックスシーンでは何回も疑問をぶつけた。最終的には監督が信頼できる雰囲気をつくってくれた」と。いわゆる婚期を逸したかなり年上の女性と17歳の少年という設定ですから、監督も気を使ったことでしょう()

 

FICMにはエグゼクティブ・プロデューサーのエルサ・レジェスも出席していたせいか、「あのモーテルを見つけてきてくれたのはエルサ、何度も何度も足を運んだからモーテルの人たちとも知り合いになってしまった。撮影は2012年で4週間で撮った」ということです。このモーテルは実在しています。

 

★監督談FICM:自分は病的なほど陳腐で暴力的なメキシコを描きたいとは思わない。そういう映画でなく逆のリリシズムのほうを選んでしまった。この映画は私の視点から、私のフィルターを通してみたフィクションです。日常的な事を描く映画が好きなんです。映画の中に現実に起こっているプロセスを入れて描くのが好きなんです。映画のテーマは、退屈とは違う≪時間の経過≫です。他にはミランダによるセバスティアンの≪感情教育≫もその一つ、ロマンスをどう組み立てるかの物語です。

 

 (写真:『孤独のかけら』のワンシーン)

TIFFQ&Aでも、スクリーン・フレームの使い方や小道具の位置、音や音楽に苦心したこと、そういうことに気づいてくれた観客には気に入ってもらえたと思う、みたいな発言がありました。実際構図の切り方は独特で(写真参照)、例えばハイメ・ロサーレスの『孤独のかけら』20072008年ゴヤ作品賞・監督賞受賞他La soledad)とか、ロベール・ブレッソン映画を想起させました。壁に掛った時計、途中で壊れてしまった扇風機の向き、主人公二人の立ち位置、雨の音など、「ああ、なるほど計算しているね」という印象を受けました。ゆったりと流れる時間のなかで、表面的には何も起こらないが実は内面では変化が起こっている。観客それぞれが二人の心の動きを想像しながら楽しめる≪時間≫が用意されていました。

 

★来年の3月頃には公開できるそうで、一番観て欲しかったというメキシコの観客にも届けられます。「映画祭だけの映画」でなかったようで嬉しいニュースです。