ホライズンズ・ラティノ部門落ち穂拾い*サンセバスチャン映画祭2016 ⑫2016年09月09日 16:37

         二人の女性監督、アルゼンチンとエクアドルから

 

「ラテンビート2016の日程と上映5作品がアップされています。全体像はまだ見えておりませんが、サンセバスチャン映画祭2016のコンペティション部門の目玉としてご紹介したアルベルト・ロドリゲスの新作El hombre de las mil carasが、嬉しいことにエントリーされておりました。公開も決定しているようなので先行上映となります。他の作品も既にご紹介していますが、改めて「ラテンビート2016」としてまとめていきます。その前に「ホライズンズ・ラティノ」部門の落ち穂拾いとして、二人の女性監督作品を簡単にアップしておきます。

 

9La idea de un lago(“The Idea ob a Lake”“Air Pocket”)ミラグロス・ムメンタレル 

データ:製作国アルゼンチン=スイス=カタール、2016年、82分、撮影地アルゼンチンのネウケン州ビジャ・ラ・アンゴストゥラ。グアダルーペ・ガオナの写真入りの詩集“Pozo de Aire”の映画化(ワーキング・タイトル)、2013年スイスで行われた「ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作」の公開討論会を通じて具体化した作品。ロッテルダム映画祭のヒューバート・バルス基金、INCAAの後援を受けた。

製作Alina Film / Radio Television (RTS) / Rudo Cine

スタッフ:監督・脚本ミラグロス・ムメンタレル、撮影ガブリエル・サンドルゥ

キャストカルラ・クレスポ(イネス)、ロサリオ・ブレファリ(イネスの母)、フアン・グレッピ(トマス)、マレナ・モイロン(少女時代のイネス)、フアン・バルベニリ、ホアキン・ポック、ほか

 

解説:イネスは35歳のプロのカメラマン、初めての子供が生まれる前に写真と詩で綴る個人的なアルバムを完成させたいと考えている。数カ月前に夫とは別れているが、生まれてくる子どもの養育は共有したいと思っている。記憶や思い出を辿るこのアルバムの仕事は、アルゼンチン南部にある彼女の生家に我々を度々誘っていく。ここでの数年間が今のイネスの性格や人格を作り上げたからなのだ。イネスが2歳だった頃、父と一緒に写っているたった1枚の写真もこの同じ場所なのだ。その数カ月後に父は軍事政権の犠牲となり行方不明者デサパレシードになった。過去についての、母親や兄弟、不在だった父親との関係について語るアルバムとなるだろう。過去が未だに過去になっていない女性カメラマンのルーツを探る物語。

 

 

        (イネス役のカルラ・クレスポ、映画から) 

          

 

  

                    (少女時代のイネス、マレナ・モイロン、映画から)

 

監督&フィルモグラフィー紹介1977年アルゼンチンのコルドバ生れ、監督、脚本家。生後3カ月のとき、独裁政権の弾圧を怖れた両親とスイスに亡命、スイスで生育した。19世紀末に曽祖父がスイスからアルゼンチンに移住してきた。独裁政権(197684)が倒れた後も両親と兄弟はスイスに留まり、監督だけが17歳のときアルゼンチンに戻ってきた。家庭での会話はスペイン語を使用していたから流暢、スイスで開催されるロカルノ映画祭はいわば古巣のようなものです。

 

★長編デビュー作Abrir puertas y ventanas2011)が、ロカルノ映画祭を皮切りに次々と国際的映画祭のノミネーションを受け、特にロカルノでは「金豹賞」を含む5(国際批評家連盟賞・エキュメニカル審査員賞&ヤング審査員スペシャル・メンション、女優賞)を受賞した。その他、ハバナ、マル・デル・プラタ(以上2011)、グアダラハラ、ミュンヘン(以上2012)、各映画祭での受賞、サンセバスチャン映画祭にもエントリーされた。

 

     

      (金豹賞のトロフィーを手にした監督、ロカルノ映画祭授賞式、2011年)

 

★第2作に当たるLa idea de un lagoも下馬評では上位につけていたが無冠に終わった。偶然グアダルーペ・ガオナの写真入りの詩集“Pozo de Aire”に出会ったことが製作の動機、ガオナと自分の境遇がよく似ていることに触発された由。従って映画の中の父親と自身の父親の二人をダブらせている。イネスの生家を湖の辺りにしたのは、以前、気に入って撮りダメしていた映像を使用したとロカルノで語っていますした。ああ

 

    

     (イネスの母役ロサリオ・ブレファリと監督、ロカルノ映画祭2016にて)

 

 

10Alba アナ・クリスティナ・バランガン 

データ:製作国エクアドル=メキシコ=ギリシャ、201698分、第1回監督作品、ロッテルダム映画祭2016 Lions賞受賞作品(本映画祭は第2作までが対象)、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭2016国際批評家連盟賞受賞、撮影地エクアドル、公開オランダ2月、フランス3月、ドイツ4

製作Caleidoscopio Cine (製作者ラミロ・ルイス、イサベラ・パラ

スタッフ:監督・脚本アナ・クリスティナ・バランガン、撮影シモン・Brauer、音楽N/A、美術オスカル・テルジョ

キャストマカレナ・アリアス(アルバ)、パブロ・アギーレ・アンドラーデ(父イゴール)、アマイア・メリノ(母親)、マリア・パレハマイサ・エレーライサベル・ボルへ、他

 

  

 

解説:アルバは大きな目をした11歳の少女、小さな動物が好きな恥ずかしがりやだ。病気のママを世話していたがとうとう入院することになってしまった。3歳のとき別れて以来会ったことのない父イゴールと暮らすことになる。イゴールは家族と別れた後、小さな家に引きこもって一人で暮らしている。アルバと一緒に暮らすことはとても耐えがたいことだった。アルバへのハグも、学校でのイジメの対処も手にあまる。お互いに近づくすべを見つけられないでいるが、やがてイゴールの優しさ、思春期を迎えたアルバ自身の成長が、二人をゆっくり結びつけていく。

 

     

   (アルバ役のマカレナ・アリアス、映画から)

 

   

                       (父イゴールとアルバ、映画から)

 

監督&フィルモグラフィー紹介1987年エクアドル生れ、監督、脚本家。2008年“Despierta”(8分)で短編デビュー。2010年第2作“Domingo violeta”(18分)、第3作“Anima”(20分)、2016年本作で長編デビュー。

 

   

       (アナ・クリスティナ・バランガン監督、ロッテルダム映画祭にて)

 

「エクアドルのスピールバーグ」*世界に飛び出したマイノリティ2016年03月12日 15:45

           「プルワのスピールバーグ」ウィリアム・レオン

 

★三大映画祭(ベルリン、カンヌ、ベネチア)やサンセバスチャン映画祭などを検索しても、なかなか引っかかってこない南米エクアドル映画のご紹介。当ブログでは若いフアン・カルロス・ドノソのデビュー作Saudade2013)を記事にしただけという寂しさです。その秋に立教大学ラテンアメリカ研究所主催の「エクアドル映画週間」が池袋キャンパスで開催され、タニア・エルミダの“En el nombre de la hija”(2011『娘の御名の下に』)やセバスチャン・コルデロの第5作“Pescador”(2011『釣師、ペスカドール』)などが上映された。日程の後半がラテンビートと重なるなどの不運もあり、新宿バルト9と池袋キャンパスを往復した方もおられたのではないでしょうか(12月にセルバンテス文化センターで、うち3作品が再上映されました)。

フアン・カルロス・ドノソのSaudade”の記事は、コチラ⇒201443

 

★劇場公開された映画は、もしかしてセバスチャン・コルデロのサスペンス『タブロイド』2004、公開2006、メキシコ合作)1作だけでしょうか。十年一昔、大分前のことになります。本作の成功はサンダンスやカンヌ映画祭(ある視点部門)に出品されたことが大きかったと思います。東京国際映画祭で上映された“Ravia”(2009『激情』)はスペインとコロンビアの合作、正確にはエクアドル映画ではありません。コルデロは『釣師』のあと撮った“Europa Report”(2013)も好評でしたが、当ブログ開設前でしたので記事にできませんでした。今年半ばに長編第6Sin muertos no hay carnavalが公開される予定です。こちらはエクアドルのアンドレス・クレスポ(『釣師』の主役)を再び起用、メキシコのエランド・ゴンサレス、ディエゴ・カタニョなどの演技派を主軸に展開する「ロミオとジュリエット」エクアドル版、メキシコ、ドイツ合作のエクアドル映画です。既に昨年撮影も終了して、多分カンヌを目指しているのではないでしょうか。カンヌ2016の応募も34日に締め切られ、4月半ばに順次正式ノミネーションが発表になります。それを待ってエクアドルの他監督も交えてエクアドル特集を組もうと考えています。

 

           

              (“Sin muertos no hay carnaval”)

 

 「エクアドルのスピールバーグ」と呼ばれるのは嬉しくない?

 

★エクアドルは南米のなかでもウルグアイと同様に小国、おのずから市場も狭いので海外に打って出るしかありません。遅ればせながら35ミリからデジタルへの移行が始まって、資金の少ない若い監督にも門戸が開かれるようになりました。エクアドルはアマゾン、シエラ、太平洋岸と大きく三つの地域に分かれていますが、ウィリアム・レオンはシエラ地域チンボラソ県(県都リオバンバ)のカチャ生れの32歳という若い監督です。先住民Puruháプルワ(またはプルハ)出身、キチュア語とスペイン語のバイリンガル、10年ほど前からマイノリティの旗手として短編映画を製作しています。

キチュア語:kichwa (quichua) はケチュア語の流れをくむ言語、ペルー、エクアドル、コロンビアの3カ国で約250万人の話者が存在しており、公用語とともに使用されています。

 

「エクアドルのスピールバーグ」とか 「プルワのスピールバーグ」とか決めつけられるのは、必ずしも彼自身は歓迎していないようです。「拍手で迎えられてドキドキしてしまいましたが、それは私の作品がキチュア語だからです」。物珍しいからではなく作品の質で評価されたいのでしょう。「マーケティングを学んでいたことが、映画のアイディアを理解してもらうことに役立った」と監督。2009Sinchi Samayという若い先住民たちのグループを首都キトで立ち上げ、第一歩を踏み出した。グループ名の意味はキチュア語で「強い精神力、または物や富に執着しない強さ」だそうです。村を出て初めて都会へ出てきた先住民のカルチャーショックは想像できますね。

 

        

        (民族衣装姿のポンチョをまとったウィリアム・レオン監督)

 

★最初の短編は母親から借りたビデオカメラで、先住民たちが語りたかったシーンを入れて撮った。それを編集して完成させたのがNostalgia de María、その後続けてキチュア語で2作撮った。彼の作品を多くの国民が見ていたが、それは監督の許可無しに製造された海賊版が出回ったおかげでした(!)。監督が彼らに儲けを請求したら受け取ることができ、「有名にしてくれてありがとう」と監督。La Navidad de Pollitoがもっとも人気のあった作品だが興行成績はよろしくなかった。つまり映画館で見た人が少なかったというわけです。父親はアルコール中毒症に苦しんでおり、祖母の世話をしなければならない少年の物語。彼の唯一の願いはクリスマスにサッカー・ボールが届くことだ。この映画は米国、スペイン、イタリアなどに出稼ぎに行っているエクアドル移民のサークルで歓迎されたという。

2004Nostalgia de María 短編デビュー作

2004Antun aya”(“Cuentos de Terror”)3分割になるがYouTube で鑑賞できる。

2004La Navidad de Pollito”長編デビュー作

 

★妻や子供を失った寡夫の物語Llakilla Kushicuy o Triste Felicidadや、最新短編Pillallawは、聖なる山 Chuyug に稲妻が落ちて、子供を食べてしまうというモンスターが目をさましてしまうという先住民の雷神伝説をテーマにした作品。エクアドルのInput映画祭受賞作品、国境を越えてドイツやフィンランドの映画祭に招待され受賞している。「フィンランドでは私が先住民であるかどうかに重きをおかず、重要なのは作品そのものだった」とレオン監督、これは彼に自信を与えたし、物差しの違いを認識させたと思います。

2011Llakilla Kushicuy o Triste Felicidad

2013Pillallaw”(35分)

 

       

                (Pillallaw”から

 

★映画製作で大切なのはカメラ機材やテクニックではないが、資金面と技術面の制限が常に立ちはだかると語る監督。先住民のアンチ・ヒーロー「キタクイ」(Kitacuy)を登場させたテレビ・コメディを手掛けることでその解消を図っている。現在はキトに本拠を置き、長編映画を準備中。先住民抵抗運動のリーダー〈フェルナンド・ダキレマ〉の闘いと人生を語るFernado Daquilema19世紀末に十分の一税や大農場主の搾取に抵抗した実在の人物とのこと。8月にクランクインだそうです。

  

新世代が描くエクアドル映画あれこれ2014年04月03日 15:46

★エクアドルの映画と聞いて思い浮かぶのは、セバスチャン・コルデロの『タブロイド』(2004、公開2006)ぐらいでしょうか。「東京国際映画祭2009」で上映されたコルデロの『激情』(Rabia)は、監督こそエクアドルでしたが、製作はスペイン=コロンビア=メキシコでした。エクアドルには今年で13回を数える「クエンカ国際映画祭」というのがありますが、ラテンアメリカ諸国の中でもとりわけ発達途上国の一つです。クエンカは植民地時代の建造物や街並みの保存状態がよく、歴史地区として世界遺産に登録されている都市です。

 

★ご紹介するのは30歳になったばかりのフアン・カルロス・ドノソのデビュー作Saudade2013)です。映画の舞台は、ハイスクールに通う17歳のミゲルの目を通して描いた≪エクアドル1999年≫、経済危機に陥って銀行閉鎖になったエクアドル、経済だけでなく政治的にも激震が走った時代です。エクアドルの監督が第1作に選ぶテーマは自伝的な要素が色濃いと言われていますが、多分ミゲルには監督本人が投影されているのではないでしょうか。脚本や製作に携わっているのも処女作の特徴と言えます。

(写真はSaudadeのポスター、ミゲル役のパンチョ・バケリソ・ラシネス)



フアン・カルロス・ドノソ
Juan Carlos Donoso Gomez 1983年グアヤキル生れ、エクアドルの首都はキトですが、グアヤキルが最大の都市です。2007年キトのサン・フランシスコ大学で映画&テレビ科、副専攻として哲学を卒業。同大学は映画製作に関わる優れた人材を輩出することで定評があり、新人発掘の宝庫といわれています。彼は政治的には左翼的、芸術的な雰囲気の家庭環境で育ち、これは本作を撮る動機付けになっている。現在お気に入りのアーティストはメキシコのガブリエル・オロスコ、「もし彼のアートが政治的でないなら、すごく退屈だ」と、ある地方紙のインタビューに答えている。日本でも天才アーティストとして若い層にファンが多そうですが、彼のアートを政治的と捉えているかどうかは分かりません。(写真はドノソ監督)

 


アルゼンチンのルクレシア・マルテル監督のワークショップに参加した。マルテルは『沼地という名の町』『ラ・ニーニャ・サンタ』『頭のない女』、いわゆるサルタ三部作といわれる作品が紹介されております。さらにメキシコのダミアン・アルカーサルのワークショップにも参加、アルカーサルは上記の『タブロイド』やアンドレス・バイスの『ある殺人者の記録』の主役を演じた俳優として日本でも知名度が高い。チリのパトリシオ・グスマン監督のドキュメンタリーの授業、ブラジルの脚本家メラニエ・ディマンタスの教えを受けるなどの経験を積んだ。

クエンカ出身のタニア・エルミダの第2En el nombre de la hija2011)の編集に参加、ドノソの師でもあるイバン・モラ・マンサノのSin otoño, sin primavera2012)のプロジェクトにも参加している(IMDbにはアップされていない)。前者はローマ映画祭2011でアリス・イン・ザ・シティを受賞、ハバナ映画祭などにも出品された。後者はサンパウロ映画祭やワルシャワ映画祭にノミネートされた評価の高い作品。

ドノソは2012年にカンヌ映画祭のフィルム・マーケットに参加できたことがチャンスだったと語っています。またエクアドルでも35ミリからデジタルへの移行が始まって、資金の少ない若い監督にも門戸が開かれた。「この変化がなければSaudade の製作は不可能だった」とも語っています。脚本の草稿は9回書き直し、推敲に6年間を費やしたとか。Saudade国立映画審議会(長編部門)のプロダクション賞受賞とラテンアメリカ、スペイン、ポルトガルのシネアストに与えられるイベルメディアからの9万ドルの資金をもとにして製作された。37日に国内で公開され観客の人気を呼んでいる。8ヵ国の映画祭に招待され、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭でも上映された。(写真は映画のワンシーンから、一番右がミゲル)

 


★もう1作品が観客の期待を集めていたセサル・イスリエタの空想科学映画Quito 20232013)。しかし館内は失望と落胆に満たされたようです。ドノソの舞台は1999年と過去、こちらは2023年と未来を描いたはずが、まるで1970年代か80年代の軍事独裁時代のキトだった。22万ドルの資金をかけて製作されたのに、観客動員数が封切り3週目でたったの1万人と憂慮すべき結果に終わった。軍事独裁を終わらせようと反乱を起こしたグループの物語、二転三転したフアン・フェルナンド・モスコソの脚本に問題があったのかもしれません。映画は何よりも≪ホン≫が大事なのです。

(写真はQuito 2023撮影現場から)

 


★まだ半年後の企画ですが、立教大学ラテンアメリカ研究所主催の「エクアドル映画週間」の開催がアナウンスされました。

日時:2014106日(月)~10日(金)、18302000

場所:池袋キャンパス7号館17102教室

肝心の上映作品は未定です。字幕も予定しているとのこと。

 

カミロ・ルスリアガのLa Tigra1989)、セバスチャン・コルデロのデビュー作Ratas, ratones, rateros1999)か『タブロイド』、タニア・エルミダのデビュー作“Que tan lejos2006)かEn el nombre de la hija、イバン・モラ・マンサノのSin otoño, sin primavera、勿論フアン・カルロス・ドノソの本作も期待したいところです。