『ザ・キング・オブ・ハバナ』*ラテンビート2015 ③2015年09月17日 16:17

        キングもハバナも出てこない『ザ・キング・オブ・ハバナ』

 

★間もなく開催されるサンセバスチャン映画祭正式出品映画です。そちらで少し記事をアップしておりますが(コチラ⇒84)、ラテンビート上映ということなので改めてご紹介いたします。アグスティ・ビリャロンガ監督といえば『ブラック・ブレッド』、これは「ラテンビート2011」の目玉でした。主役のフランセスク・コロメル少年が来日舞台挨拶いたしましたが、まあ子供のことですから何てことありませんでしたが。大成功以後沈黙していた監督がやっと新作を撮りました。実際のキングもハバナも登場しません。舞台背景が「石器時代に逆戻り」と言われた1990年代後半のハバナですから、キューバ・ファンの方には思い出すのも辛い時代かもしれません。キューバ映画芸術産業庁ICAICからハバナでの撮影を拒否され、セントロ・ハバナが舞台なのに撮影地はドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴです

 


El Rey de La Habana ザ・キング・オブ・ハバナ2015

製作CanalEspaña / Esencia Films(ドミニカ共和国)/ Pandora Cinema(スペイン)/ Ibermedia / Tusitara Producciones Cinematográficas(スペイン)

監督・脚本:アグスティ・ビリャロンガ

原作:ペドロ・フアン・グティエレス(同名小説)

撮影:ジョセプ・MCivit

音楽:ジョアン・バレント

編集:ラウル・ロマン

美術:アライン・オルティス

衣装:マリア・ジル

メイクアップ:ルシア・ソラナ(特殊メイク)

製作者:セリネス・トリビオ(エグゼクティブ)、ルイサ・マティエンソ

 

データスペイン=ドミニカ共和国、スペイン語、2015、キューバの作家ペドロ・フアン・グティエレスの同名小説の映画化、撮影地:ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴ、サンセバスチャン映画祭2015コンペがワールド・プレミア(925日)

 

キャスト マイコル・ダビ・トルトロ(レイナルド)、ヨルダンカ・アリオサ(マグダ)、エクトル・メディナ・バルデス(ユニスレイディ)、リェアナ・ウィルソン(フレデスビンダ)、チャネル・テレロ(ジャミレ)、ジャズ・ビラ(ラウル)他

 


                     (マグダとレイナルド、映画から)

 

プロット:少年院から逃亡した若者レイナルドの物語。いまや自由を勝ちえてロンやユーモアを取り戻したレイナルドだが、空腹と悲惨が充満しているハバナの街路を生き残りをかけて彷徨っていた。しかし同じ境遇のマグダに出会うことで、生きる希望と勇気を見出すだろう。愛とセックスと優しさ、そして若者たちに襲いかかる失望、人並みの家族をもちたいというレイナルドの意思と切望に現実のキューバ社会が立ちはだかる。果たして彼は自分を取り巻く貧困とモラルから脱出できるだろうか。(文責:管理人)

 

トレビア

★どういう経緯でハバナでなくドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴで撮影されたのか。理由は至極簡単明瞭、キューバ当局が拒絶したからです。多分ビリャロンガの脚本がお気に召さなかったのではないでしょうか。キューバの作家ペドロ・フアン・グティエレスが1999年に発表した同名小説の映画化です。原作をダイジェスト版で読んだだけ、映画はまだ見ていない段階であれこれ言うのは控えねばなりません。しかし撮影を拒否するほど内容が変わってしまっているとは思えません。ラテンビートで鑑賞後(1012日クロージング作品)再登場させるつもりです。目下は前座としてアップしておきます。

 

★原作者のペドロ・フアン・グティエレス1950年マタンサス生れ、小説家、詩人、ジャーナリスト。世間の「カリブのブコウスキー、ハバナのヘンリー・ミラー」でイメージしにくいなら、「レイナルド・アレナスのようにラディカル、ソエ・バルデス以上に攻撃的」なら、なんとなく作風が想像できるでしょうか。1998年、ハバナ三部作のTrilogia sucia de La HabanaAnclado en tierra de nadieNada que hacerSabor a mi)でデビュー、本作は長編第2作目です。第3Animal tropical2000)がスペインのアルフォンソ・ガルシア≂ラモス小説賞、第5Carne de perro2003)がイタリアの世界スール小説賞を受賞、母国より海外での評価が高い。いずれもテーマはキューバ社会の悲惨を弾劾している。そんな作家がアレナスやバルデスのように亡命することなく、セントロ・ハバナに住みつづけていられるのが不思議に思えます。 


          (自宅の屋根裏部屋からハバナ市を見渡している作家、2014年撮影)

 

★原作は200ページほどだから中編か。第三者の語り手が主人公レイナルドの視点で、サン・レオポルド地区に暮らすムラートの青年の人生を最初から最後まで語っていく。この肉など口にしたことのない若者はとりたてて美男というわけではないが、名をReinaldoまたは Rey、ある理由でEl Rey de La Habanaという渾名で呼ばれている。最下層出身の青年には王冠もなく権力もなく、あるのは空腹のみ、皮肉から付けられたキングである。まだ「ハバナのキング」の片鱗もうかがえない子供時代から物語は始まる。突然家族のすべてを失い、13歳で少年院送りとなる。そこでの大きな勝利はどんな犠牲を払ってでも同性愛者の餌食にならないことだ。命をかけて誓うが行きつく先は愛すべきゴキブリの巣窟、薄暗い独房だ。16歳で逃亡しても荒廃したハバナの街で待っているのは恐ろしい死だ。薄暗く、汚れ、疲弊した、危険な都会、これが1990年代のハバナの姿だと、語り手は章の区別もなく一気に語っていく。

 

★かなり際どいストーリーだが、これはあくまでフィクションであってドキュメンタリーではないことです。セントロ・ハバナにサン・レオポルドというバリオが実際にあるのかどうか。サン・ミゲル、サン・ラファエルなど「サン」のつくバリオは多数あるが、見落としの可能性もあるかもしれないが架空のバリオではないかと思う。レイナルドのように身寄りがなく、誰も助けてくれない、身分証明書もなく、おまけに殆ど読み書きができない若者にとって、少年院もシャバも同じかもしれない。ICAICに撮影申請と共に提出された脚本が「あまりに人種差別的、性差別的、戯画化的、捉え方も表面的で悪すぎる」として拒否されたのは、ドラマとドキュメンタリーとの混同があるように思える。これは鑑賞後に書くべきことだが、異なる文化圏の監督に自国の過去の悲惨をとやかく言われるのは看過できない、という思いがあるのかもしれない。

 

★監督によれば、この映画のアイデアは、プロデューサーのルイサ・マティエンソから「とっても気に入った小説があって映画化できないだろうか。あなたがキューバに大いに関心をもっているのを知ってるので」とコメントを求められたことから始まった。原作を読み、とても興奮したので、デビュー作“Trilogia sucia de La Habana”も読んだ。映画化に向けて作者のペドロ・フアン・グティエレスとも話し合い、脚本は自分一人で書くことに決めた。ハバナでキャスティングも行い、おおまかなロケ地の撮影もしたうえで、舞台は当然セントロ・ハバナなのだからと撮影許可を申請したが通らなかったということです。それでドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴに変更、結果的にはそれが正解だったという。

 

★製作過程はかなり複雑だったようですが、最初はドミニカ共和国での撮影は恐怖だったと語る。何故なら限られた製作費で、比較にならないほど豊かな国ドミニカ共和国の首都で90年代のハバナを再現できるかどうか心配だったのだ。しかし豊かな国でも光と影はつきもので杞憂に過ぎなかったのだが、驚いたのはこの国の若いシネアストたちのレベルの高さだったという。ICAICの意向も分からなくもないが、やはり異国からの「旅人の視線」を忘れないで欲しかったと思う。

 


   (左から、マイコル・ダビ、監督、ヨルダンカ・アリオサ、サント・ドミンゴにて)

 

★ラテンビートで上映される時には、サンセバスチャンの受賞結果が分かっています。今年はスペイン語作品ノミネーションは6作と多いのですが、2年連続でスペイン語映画が金貝賞を受賞しているので微妙です。サンセバスチャン映画祭のワールド・プレミアから間をおかず、こうして日本で上映されるのは本当に珍しいことです。金貝賞以外でも何かの賞に絡めば、『ブラック・ブレッド』同様、公開が期待できるかもしれません。後は鑑賞着に書くことにして、今はこれくらいにしておきます。