ベロドロモ部門にアニメとコメディ*サンセバスチャン映画祭2019 ⑥2019年08月04日 18:05

         映画祭の一番人気は巨大スクリーンで楽しむベロドロモ部門!

 

400㎡の巨大スクリーンで上映されるベロドロモ部門は、観客数3000人が一度に楽しめるセクション。プレミア作品より一度はどこかの映画祭でエントリーされたもの、老若男女問わず楽しめる前評判の高いアニメーションなどが選ばれることが多い。第67回サンセバスチャン映画祭SSIFFでは、目下レティシア・ドレラの自作自演、TVシリーズのコメディVida perfecta25分、8話)と、ビクトル・モニゴテエドゥアルド・ゴンデルのアニメーションLa gallena turuleca(スペイン=アルゼンチン合作)がアナウンスされている。

 

★フランスで2018年から始まったTVシリーズドラマのフェスティバル、第2回カンヌ国際シリーズ・フェスティバルCannesSeries45日~10日)に出品され、作品賞に当たるシリーズ賞主演賞(演技賞)の2 冠を制したVida perfectaからご紹介します。主演賞には監督自身を含む3人の女優、レティシア・ドレラアイシャ・ビリャグランセリア・フレイジェイロが揃って受賞した。

 

     

     (シリーズ賞と主演賞のトロフィーを手に、左からアイシャ、レティシア、セリアの3人)

 

    

       

Vida perfecta(「Déjate llevar」、インターナショナル題「Perfect Life」)2019

製作:Corte y Confección de películas / Movistar

監督:レティシア・ドレラ、エレナ・マルティン、ジネスタ・ギンダルGinesta Guindal

脚本:レティシア・ドレラ、マヌエル・ブルケ

撮影:マルク・ゴメス・デル・モラル

データ:製作国スペイン、コメディドラマ、全8話、各25分のシリーズ、撮影バルセロナ。CannesSeries 正式出品(シリーズ賞・演技賞)受賞作品。20191018日より配信開始

 

キャスト:レティシア・ドレラ(マリア)、アイシャ・ビリャグラン(エステル)、セリア・フレイジェイロ(クリスティナ)、フォント・ガルシア(パブロ)、マヌエル・ブルケ(ホセ)、カルメン・マチ(マリアの母)、フェルナンド・コロモ(マリアの父)、ダビ・ベルダゲル(グスタボ)、ペドロ・カサブランク(リカルド)、ジャスミン・ロルダン(ジミー)、イツァル・カストロ、他

 

ストーリー:マリア、エステル、クリスティナ、30代の3人は人生でも最も重要で複雑と思われる危機に直面している。彼女たちは、人生がかつて期待していた幸福とはほど遠いものであったことに気づく。別の選択肢を求めて行動を起こす時である。共に社会が女性たちに伝統的に求めている生き方から離れる決心をするだろう。人生が如何に自分とは無関係な義務を圧しつけていたことに気づくことになる。人生最大の危機に見舞われた3人の女性の動機はそれぞれ異なっているが、30歳を過ぎた女性の支柱がふらつき始めたらどんな混乱が起こるか、私たちは目にすることになる。

  

    

                  (左から、マリア、エステル、クリスティナ、映画から)

 

★ストーリーだけでは特別新鮮さは感じられないが、監督のレティシア・ドレラ(バルセロナ1981)は、マリアをヒロインに、今までもスペイン女性に強制されている<ノーマルな>生き方に疑問を投げかけてきたシネアスト、本作はその延線上にあるようです。第18回マラガ映画祭2015に出品されたRequisitos para ser una persona normal2015)で長編デビュー、監督・脚本・主演と才媛ぶりを発揮して、最優秀新人脚本賞を受賞、翌年のゴヤ賞にもノミネーションされました。フェミニストとして有名ですが、今作ではクリスティナ役を演じるはずだったAina Clotetを妊娠を理由に降板させたことで、両者間のバトルがネット上でも激しく応酬され物議を醸したのでした。ここでは深入りしませんが、上記でスペイン語題を2つ載せたのは、最初のタイトルが「Déjate llevar」だったからです。

 

★ホラー映画が初めてゴヤ賞2018の作品賞にノミネートされたことで話題になった、『エクリプス』の監督パコ・プラサと結婚している。女優として出演したプラサ監督の [REC]3サンジョルディ賞トゥリア賞の女優賞を受賞している。ほかTVシリーズ出演も多く、スペインでも女優のほうが有名かもしれません。

  

   

     (主演女優3人と Movistar+のフィクション部門の長ドミンゴ・コラル、719日)

 

★マリアの母親役にベテランのカルメン・マチ、父親役にベテラン監督のフェルナンド・コロモ、『悲しみに、こんにちは』のダビ・ベルダゲル、デビュー作にも出演したマヌエル・ブルケを布陣するなど、豪華キャストでお茶の間に登場します。

 

ネリー・レゲラの『マリアとその家族』 *スペイン映画祭2019 ④2019年07月10日 15:56

                    バルバラ・レニーがシリアス・コメディに挑戦

   

     

★監督名より出演者のほうが認知度のある作品紹介が最近多くなってきました。今回のネリー・レゲラ『マリアとその家族』も、主役のバルバラ・レニーのほうが日本では有名、何しろ『マジカル・ガール』、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』、『家族のように』、『日曜日の憂鬱』、『誰もがそれを知っている』、劇場公開が始まった『ペトラは静かに対峙する』など、今やペネロペ・クルス級の人気があります。傾向的にはシリアス・ドラマ出演が主ですが、未公開ながら最初の恋人ホナス・トゥルエバイサキ・ラクエスタのコメディにも出演しているから、今回がコメディ初挑戦というわけではありません。

 バルバラ・レニーの紹介記事は、コチラ2015032720180621

 

『マリアとその家族』(María (y los demás)は、サンセバスチャン映画祭2016「ニューディレクターズ」部門に出品された作品。翌年のゴヤ賞新人監督賞にネリー・レゲラ、主演女優賞にバルバラ・レニーがノミネート、レニーはフェロス賞主演女優賞を受賞した。既に簡単な作品紹介をしておりますが、今回字幕入り鑑賞ができましたので改めてアップいたします。

María (y los demás)」の作品・監督紹介記事は、コチラ20160814

    

           

        (監督とバルバラ・レニー、サンセバスチャン映画祭2016にて)

 

 

『マリアとその家族』María (y los demás)」スペイン語、2016年、コメディ、96

製作:Frida Films / Avalon P.C. 協賛ガリシア・テレビTVG

監督:ネリー・レゲラ

脚本:ネリー・レゲラ、バレンティナ・ビソ、エドゥアルド・ソラ、ロゲル・ソゲス、ディエゴ・アメイシェイラス Ameixeiras

音楽:ニコ・カサル

撮影:アイトル・エチェベリア

製作者:セルヒオ・フラデ・フラガ、ルイサ・ロメオ(以上エグゼクティブ)、ステファン・シュミッツ、マリア・サモラ(以上共同プロデューサー)

 

キャスト:バルバラ・レニー(マリア)、ホセ・アンヘル・エヒド(父アントニオ)、パブロ・デルキ(兄ホルヘ)、ビト・サンス(弟トニ)、マリナ・スケル(父の婚約者)、フリアン・ビジャグラン(マリアの恋人ダニ)、アレクサンドラ・ピニェイロ(アン)、ロシオ・レオン(フリア)、アイシャ・ビジャグラン(ベア)、マリア・バスケス(ソフィア)、ミゲル・デ・リラ(セルヒオ)、ルイサ・メレラス(ロサリオ)、他多数

 

ストーリー:マリアは30代半ば、小さな出版社で働きながら小説家を目指している。訳あり恋人とは結婚したいと思っているがままならない。15歳のとき母親が亡くなって以来というもの父親と二人の兄弟を支えてきた。マリアは一家の大黒柱だったのだ。ここ2年ほど深刻な病に伏していた父親の介護もしてきた。ところが病の癒えた父親が65歳の誕生日に介護士のカチータと再婚するとバクダン宣言、突然のことにただただ唖然とするマリア。彼女の人生設計は崩れ去ろうとしている。我が物顔に乗り込んできたカチータと火花を散らすが・・・人生の岐路に立たされたマリアがした決心とは。                                                        

 

      ガリシア版家族ドラマとシリアス・コメディのミックス

 

A: 本作の舞台はガリシアですが、ネリー・レゲラはバルセロナ生れ(1978)の40歳、優れた女性監督を輩出している「カタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCAC」で学んでいる。しかし彼女の家族がガリシアに住んでいることやこの土地が気に入っていることもあって決めた。主にア・コルーニャのクジュレードやカルバージョで撮影された。

B:: 物語はガリシアで展開されますが、ここでなくても起こりうることです。でもどこにセットを組むかは、出演者の心理状態にも影響する。バルバラは料理が美味しくて感激していたということです。サンセバスチャン同様魚介類の美味しいところです。

 

A: 監督は「ガリシアには何かエモーショナルなものがあるが、前もってそれを計算に入れていたわけではない。テーマに即して自分のガリシアの家族と自分の体験を関連づけている」と、公開前のインタビューで語っていた。自分がどのくらいマリアに投影されているかははっきり言えないが、周りに振り回されているマリアが、自分のことをやりたいようにやれるようにする必要があった。

B:: つまり、結末を何回も書き直している小説を完成させることですね。監督も脚本を完成させることが必要だった。本質的なことではないが、脚本が執筆していた場所の風土や環境に左右されるのは不思議ではありません。

 

          

                           (小説の結末に呻吟するマリア)

 

A: 北スペインは雨が多いせいか緑と光には独特なものがあり、アンダルシアでは見られない。結局完成した作品を見て、ここで撮ってよかったと思ったそうです。撮影監督のアイトル・エチェベリアは、バルセロナ生れ(1977)の脚本家、自身も短編も撮っている。レゲラ監督と同じESCACで学んでおり、彼女の短編Pabloの撮影も手掛け、新人監督の登竜門アルカラ・デ・エナレス短編映画祭では撮影賞を受賞している。

  

        

                      (撮影中の監督とアイトル・エチェベリア)

 

B:: ESCACの学生時代から温めてきたスクリプトだそうですが、誰にも読んでもらえなかった。

A: 大体デビュー作はそういうものじゃないですか。プレミアされたサンセバスチャン映画祭SSIFFでは、家族ドラマとコメディの間のバランスのとれたトーンが観客に受け入れられた。

B:: ガリシア語も公用語の一つですが、言語はスペイン語でした。

 

         並外れた女優、バルバラ・レニーとのタッグ

 

A: まずマリアと二人の兄弟ホルヘとトニの上下関係ですが、一応上記のようにしておきました。日本のように兄弟姉妹の上下関係は気にしません。時にはきちんと区別する例もありますが、たいていは全体の雰囲気から推測するしかありません。

B:: ホルヘとトニはそれぞれ結婚しているが子供はいない。マリアは長年の家族の世話で出遅れているという設定だと解釈しました。

 

A: 家族の犠牲者というほどではないが、自分を二の次にして家族に尽くし、結果貧乏くじを引くという子供がいるものです。なまじっか能力があるため頑張りすぎ、責任感が強いことが却って裏目になる。

B:: 家族は感謝しながらもそれがフツウに感じてしまうが、本当はフツウじゃない。現在では結婚適齢期という言葉は死語になってますが、ホセ・アンヘル・エヒド(ポンテべドラ1951)演ずる父親の無神経ぶりには、いまだに独身でいる娘への配慮や尊敬が欠けている。

 

     

                        (父アントニオ、婚約者カチータ)

 

A: 深刻な病を得たことで残り時間を意識したせいでもあるが、病の克服にはマリアの献身的な支えがあったからです。兄ホルヘパブロ・デルキ(バルセロナ1977)、弟トニビト・サンス(ウエスカ1982)の二人はマリアには優しいが、本質的には自分本位。エヒドとデルキは監督の短編第2作目Pabloに出演しています。Pabloに出演したデルキはアルカラ・デ・エナレス短編FFで男優賞を受賞した。他に『サルバドールの朝』や『ネルーダ』に出ている。

  

       

                       (マリアとトニ役のビト・サンス)

 

B:: ベテランのエヒドもPablo」でバダホス短編FFで男優賞をとっている。1997年の『オープン・ユア・アイズ』にチョイ役で出ていましたが、フェルナンド・レオン・デ・アラノア『月曜日にひなたぼっこ』02)が本格的な登場でした。

A: ガリシアのある倒産造船所が舞台でした。他に『命の相続人』や『ペーパー・バード幸せの翼にのって』、最近では『誰もがそれを知っている』にも退職した元警官役で出ていた。年齢より若く見えるビト・サンスは当ブログではマテオ・ヒル『熱力学の法則』他で紹介しています。

B:: それぞれTVシリーズにコンスタントに出演しているから、お茶の間では知られた顔です。

『熱力学の法則』の作品紹介は、コチラ⇒2018年04月02日

 

A: いちばん損な役を振られたのが、マリアの訳あり恋人ダニのフリアン・ビジャグラン(カディス1973)です。妻と二人の娘と別居しているせいか、セックス・パートナーに事欠いているという設定でした。彼は『7人のバージン』『漆黒のような深い青』『アブラカダブラ』とラテンビートの常連だが脇役が多いので記憶に残りにくいかもしれない。

B:: こちらも脇役だがカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』にバーの客として出ていた。

 

A: フェリックス・ビスカレットの「Bajo las estrella」でゴヤ賞2007アルベルト・ロドリゲスの『グループ7』でゴヤ賞2013、共に助演男優賞を受賞している。ラテンビート2014ではチュス・グティエレスの『デリリオ 歓喜のサルサ』で登場した。その際キャリアをフリアン・ビリャグランで紹介している。

『デリリオ 歓喜のサルサ』の紹介記事は、コチラ20140925

 

B:: 自分勝手な役柄だったが、ダニのような男は結構多いか。頭の切れるマリアがこんなクズ男の底意を見抜けないのに引っかかったが、マリアの人物造形は明確でした。

A: ダニの思いもよらない一言でマリアはいっぺんで目が覚め、自分自身のために生きる決心をするわけです。監督によると、脚本はバルバラを念頭に執筆していたそうです。その後、彼女と話し合って変更したた部分もあったが、変更できない部分もあった。「しかし並外れた女優のことだから、絶えず提案してくれ、一緒にキャラクター作りをしたが、最終的には彼女の解釈に従って演じてもらった」と。

 

         

          (ダニの本心に触れて絶句するマリア、背を向けているのがダニ)

 

B:: 周りに囚われて生きるのは、結果的には周りの人をダメにもしてしまうことがある。父親の婚約者マリナ・スケル扮するカチータの楽天的な人物造形は、マリアの対極にある。

A: マリアが警戒するのも当然です。恣意的か天然ネアカなのか分からないが、こういう人も結構見かける。泳げないのに荒れた海に入って高波に攫われそうになる。

B:: それに気づいたマリアが、一瞬見せる躊躇の表情、助けるべきかほっとくか。

 

A: コメディとしてはシリアスですね。自分はこうなって欲しい、こうなるべきだという姿を滑り込ませたりして笑わせたが、もう少し笑えると良かったかな。

B:: カチータの花嫁衣裳選びに付き添ったが、なかなか決まらないので暇つぶしに自分もウエディング・ドレスを着て見たり、バルバラの魅力を披露するシーンも挟んでいた。

 

   

                 (貸衣装のウエディング・ドレスを着たマリア)

 

A: 次回作は、あと45年は掛からないで欲しいと思うが、現実は厳しいと語っていました。いま二つ脚本を抱えていますが、スペインで新人監督が映画を撮るのはますます複雑だと悲観的です。配給会社が決まっているとか、大規模のテレビチャンネルの資金援助がないと、台本を読んでもらえない。施しを頼んでいるわけではなく、若い人の文化や才能をもっと大切にするような政治を求めているようです。

 

  監督キャリア&フィルモグラフィー 

リー・レゲラ Nely Reguera については、2年前に検索できたデータで既に紹介しておりますが、主演のマリアには監督自身が投影されているようなので、加筆訂正して再構成しました。1978年バルセロナ生れ、監督、脚本家、女優。短編Ausencias02)でデビュー、同Pablo09が国際短編映画祭で高い評価を受けた。うちヒホン映画祭短編部門のスペシャル・メンション、イベロアメリカ短編コンペティションのベスト短編賞を受賞した他、出演者のパブロ・デルキが男優賞、バダホス短編映画祭ではホセ・アンヘル・エヒドが男優賞を受賞している。

 

            

              (高評価だったPablo」のポスター、主演のパブロ・デルキ

 

助監督としては、マル・コルがゴヤ賞新人監督賞を受賞した『家族との3日間』09Tres dias con la familia)の第1助監督を務めた。本作は東京国際女性映画祭2010のオープニング作品だった。助監督としての長い期間には、ギリェム・モラレスやアルバロ・デ・ラ・エラン、ドイツ出身のトム・ティクヴァのヒット作『パフューム ある人殺しの物語』(06独仏西)のスペイン側の監督アシスタントとして参加した。続く2007年、ギリシャのヤニス・スマラグディスの「El Greco」(ギリシャとスペイン合作)にもアシスタントとして参加、本作はテッサロニキやトロント映画祭で受賞するなどの話題作だった。このエル・グレコの伝記映画にはフアン・ディエゴ・ボトーやライア・マルルも出演した。

 

2016『マリアとその家族』で長編映画デビュー、ゴヤ賞2017新人監督賞にノミネートされた。公開前のインタビューでは「自分はICAAの援助を受けていません。イニシアティブをサポートするテレビ局がなかったので、配給会社をもたずに映画を発表した。・・・資金調達計画の段階を通過しないと、誰も台本に目を通してもらえないのです」と新人の苦境を吐露している。2018年にはカタルーニャTVシリーズBenvinguts a la família4エピソードを監督した。

ハビエル・フェセルの 『チャンピオンズ』*スペイン映画祭2019 ②2019年07月01日 17:16

           スペイン映画祭2019――インスティトゥト・セルバンテス東京主催

    

 

   

インスティトゥト・セルバンテス東京のスペイン映画祭2019625日~72日)が開催され、うち5作を鑑賞しました。期待通りの作品、それほどでもなかった作品などもありましたが、うち年内に公開が予定されているハビエル・フェセル『チャンピオンズ』(原題「Campeones」)はお薦め作品です。当日の上映後には、スカイプでフェセル監督とのインタビューもありました。1年ほど前に公開を期待して作品&監督キャリア紹介をしておりますが、以下にストーリーとキャスト紹介を訂正加筆して再録、改めてその魅力をお伝えしたい。公開前なのでネタバレに気をつけてのご紹介です。

Campeones」の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ20180612

   

       

 『チャンピオンズ』(原題「Campeones」)2018、コメディ、スペイン=メキシコ合作

 

  *キャスト

ハビエル・グティエレス(マルコ・モンテス)マーシュランド

          『オリーブの樹は呼んでいる』『クリミナル・プラン』「El autor

アテネア・マタ(マルコの妻ソニア)『モルタデロとフィレモン』『ビースト 獣の日』

フアン・マルガージョ(ソーシャルセンター責任者フリオ

            『ミツバチのささやき』『孤独のかけら』

ルイサ・ガバサ(マルコの母アンパロ)パウラ・オルティスの「La novia

ラウラ・バルバ(裁判官)『ロスト・アイズ』

ダニエル・フレイレ(カラスコサ)『ルシアとSEX

ルイス・ベルメホ(ソニアの同僚)『となりのテロリスト』『KIKI』『孤独のかけら』

ビセンテ・ジル(ベニトの雇用者)

Yiyo アロンソ(マルコの弁護士)

イツィアル・カストロ(ヘススの母親)『ブランカニエベス』『あなたに触らせて』

チャニ・マルティン(クエンカ行きバスの運転手)

ホルヘ・フアン・ヌニェス(セルヒオの雇用者)

クラウディア・フェセル(ホテルのフロント係)『カミーノ』

ハビエル・フェセル(新聞記者)

以下バスケット・チーム「ロス・アミーゴス」の選手10

ヘスス・ビダル(マリン)、グロリア・ラモス(紅一点コジャンテス)、セルヒオ・オルモ(セルヒオ)、フリオ・フェルナンデス(ファビアン)、ヘスス・ラゴ(ヘスス)、ホセ・デ・ルナ(フアンマ)、フラン・フエンテス(パキート)、ステファン・ロペス(マヌエル)、アルベルト・ニエト・フェランデス(ベニト)、ロベルト・チンチジャ(ラモン)

決勝戦対戦チーム「ロス・エナノス」の選手、ラモン・トーレス、アントニオ・デ・ラ・クルス以下多数

 

ストーリーマルコ・モンテスはスペイン・バスケット・ナショナルリーグのチームABCの副コーチである。マナーが悪く横柄なことから他のコーチとは上手くいってない。プロとしてのキャリアも人間関係にも多くの問題を抱えこんでいる試合中に試合方針の違いからヘッド・コーチと口論になり退場させられる。むしゃくしゃして飲酒運転、あげくの果てにパトカーに追突事故、即刻クビになってしまった。妻ソニアにも言えず実家に転がり込んだマルコに、裁判官からは懲らしめの罰則として2年間の服役か、または90日間の奉仕活動「ロス・アミーゴス」という知的障害者のバスケットボール・チームのコーチのどちらかを選択するよう言い渡された。こんな罰則はマルコの好みではなかったが、しぶしぶコーチを選ぶことにした。しかしマルコは次第にこの奇妙なチームの面々から、自分が学ぶべき事柄の多さに気づかされていく。彼らは障害者のイメージからはほど遠く、率直で独立心に富んだ、肩ひじ張らずに生きてい姿に、我が人生を見つめ直していくことになる                               (文責:管理人)

 

   障害者とは何か、フツウとは何かの定義を迫られるマルコと観客

 

A: ストーリーは公開前なので、結末まで話したくても話せない。ただ自分の障害者観を見直さねばならないと思いました。コメディで「障害者とは何か、フツウとは何か」をこれほど明快に示した映画はそんなに多くないはずです。

B: さらに言えば「幸せとは何か」です。主役のマルコも私たち観客も考え直さねばならない。それが強制されずに自然に素直にできたことがよかった。

 

A: ハビエル・グティエレスの魅力については、度々当ブログで書き散らしているので今更ですが、彼以外に具体的な俳優名を思い浮かばないほど適役でした。実際のグティエレスにとって9人の新人たちは不思議でも何でもない。それは彼自身が障害者の息子の父親だからです。「社会の言われなき攻撃の目に晒されている。それは人々の無知と恐怖と無関係ではない」と語っている。

B: この事実が脚本にも隠されていますね。この映画は皆にとって必要だし、同時に自覚をうながしたり教育のためにもなるから、「学校で見てもらいたい」ともコメントしている。

A: 代表作のうち、アルベルト・ロドリゲス『マーシュランド』のダメ刑事役も捨てがたいが、彼はコメディのほうが生き生きしている。イシアル・ボリャインのコメディ『オリーブの樹は呼んでいる』などのほうが好きですね。

B: 本作でも<チビ>という単語が何回も現れますが、本当に上背がない。しかしそれも個性の一つではないか。

   

       

         (どうしたらいいものやらと、途方に暮れるマルコ)

    

ハビエル・グティエレスのキャリア紹介は、コチラ20150124

『オリーブの樹は呼んでいる』の作品紹介は、コチラ20160719

 

         プロの俳優と知的障害者の見事なコラボレーション

 

A: 昨年の作品紹介で「プロの俳優はマルコ役のハビエル・グティエレス一人」と書きましたが、実際映画を見てみれば、次々に知った顔が現れました。「プロの有名な俳優」が正しいようで。

B: ロス・アミーゴスの選手はすべて初出演ですが、ソーシャル・センターの責任者フリオ役のフアン・マルガージョ、マルコの母親役ルイサ・ガバサ、他ルイス・ベルメホイツィアル・カストロ・・・

 

A: というわけでキャスト欄に主に邦題のある過去の出演映画を追加しました。フアン・マルガージョハイメ・ロサーレス『孤独のかけら』でヒロインの父親になった俳優、共演したもう一人の主役ペトラ・マルティネスと結婚している。マルコが「私の仕事はフツウの選手のコーチ、彼らは選手でもフツウでもない」と断わると、「いいかい、マルコ、ノーマルなのは誰? あんたや私かい?」と諭した。

B: 役柄も素敵だがいい味を出していた。イツィアル・カストロはあの巨体だから一目でわかります。

 

       

  (正真正銘のインテリ役フリオを演じたフアン・マルガージョ、ゴヤ賞2019授賞式)

 

A: ロス・アミーゴスの俳優たちは、本作のメイン・プロデューサーのアルバロ・ロンゴリアが監督したドキュメンタリーNi distintos ni diferentes: Campeones27分)にヘスス・ビダル以外出演しています。同時進行か、あるいはこちらのほうが先だったかもしれません。

B: 『チャンピオンズ』は映画祭を通さずいきなり公開、あっという間に話題を攫い、世界各地をめぐっていますが、ドキュメンタリーはサンセバスチャン映画祭2018で上映されました。

 

        

     (サンセバスチャン映画祭に出品されたドキュメンタリーのポスター)

 

            障害者への友好・多様性・可視化に警鐘を鳴らす

 

A ヘスス・ビダルゴヤ賞2019新人男優賞を受賞しました。スカイプでフェセル監督から彼の受賞スピーチの素晴らしさが伝えられました。「YouTubeで見られるからご覧になってください」ということでしたが、本当に心に沁みる、当夜のハイライトの一つでした。当ブログでもゴヤ賞2019で簡単にご紹介しています。「無名の新人10%の視力しかない視覚障害者の受賞スピーチは、友好・多様性・視覚化という三つの単語で、障害者を特別扱いする社会に警鐘を鳴らした」と

B: フェセル監督は「全盲に近い」「彼らは自分自身を演じていた」と語っていましたが、彼だけは知的障害者ではなく視覚障害者ですね。ほかの出演者は自分自身を演じていたが、彼はマリンという役を演じたわけです。

ゴヤ賞2019授賞式のヘスス・ビダルの記事は、コチラ20190205

 

        

       (受賞スピーチをするヘスス・ビダル、ゴヤ賞2019授賞式にて) 

 

A: いま流行りの言葉で言えば、本作は「障害者の見える化」に貢献している。それが監督のテーマではなかったけれど、私たちがその存在を「できれば知らないでいたい」という風潮に釘を刺した。

 

         観客の予想を裏切ることで観客の考えを変えたい

 

B: 監督から「ロベルト・チンチジャが扮したラモンの造形は、シドニー・パラリンピック2000バスケットボールのスペイン・チームの不祥事がヒントになった」と。

A: スペイン・チームは金メダルだったが、選手12人中10人が健常者、知的障害者はラモン・トーレスともう一人の選手だけだったことが発覚して、金メダルが剥奪されたという不祥事でした。これによりスペイン障害者スポーツ連盟の会長が辞任に追い込まれた。身体障害者と違って知的のほうは外見だけでは判断できないから、それ以降もパラリンピック事務局を悩ませているようです。

 

B: そのラモン・トーレスから名前をとった。だから劇中のラモンはラモン・トーレスの分身、つまり「コーチを信用しない理由」が判明する。

A: 実際のラモン・トーレスも決勝戦対戦チーム、カナリア諸島の「ロス・エナノス」の選手として出演していた。エナノスenanosというのは「背のひどく低い人たち」という意味で、マルコたちは競技場で大きな選手たちを見てびっくりする。

B: 監督は至る所でいたずらっ子ぶりを発揮していた。「最初の脚本は殆ど書き直し、スタートしてから彼らとコラボしながら書き進めていった」とも語っていました。

 

A: オーディションでは300人ぐらいと面接した。異色の登場人物のなかでもコジャンテスを演じたグロリア・ラモスは飛び切り魅力的だった。彼女がスクリーンに現れると何が起こるかとウキウキしてくる。

B: 監督は「知的障害者の女性とはこういうもの」という世間の固定観念を壊したかったと語った。

 

A: 他にも「この映画に出たことで人生が変わった」と語るフアンマ役のホセ・デ・ルナ、パキート役のフラン・フエンテス、ヘスス役のヘスス・ラゴなど、すべてをご紹介できないが、愛すべき人々が登場する。

B: 他人と違うことは個性の一つだと、寛容と多様性の重要さが語られている。

    

     

(ラモンにおんぶされてはしゃぐ紅一点コジャンテスとロス・アミーゴスの選手たち)

 

     

(出演したことで「人生が変わった」と語るフアンマ役のホセ・デ・ルナ)

   

    

(フォルケ賞でのヘスス・ラゴ、グロリア・ラモス、フラン・フエンテス、16日)

   

A: 他にもアテネア・マタ扮するマルコの奥さんソニアの偏見のない人格造形もよかった。マルコや選手たちを縁の下から支える役柄、実際にフェセル監督の信頼も厚かった。ルイサ・ガバサ演じる愛すべきマルコの母親アンパロ、美人裁判官役のラウラ・バルバ、ヘススのママ役のイツィアル・カストロなど、総じて女性が生き生きと描かれていた。ラウラ・バルバは舞台女優にシフトしており、ロンドンほか海外での活躍が多い。TVシリーズ出演の他、自身も短編を撮って監督デビューしている。

       

    

(インタビューを受けるアテネア・マタと監督、201846日)

 

        

              (裁判官役ラウラ・バルバに刑罰の理不尽を訴えるマルコ)

 

B: これから公開だから、フィナーレに触れることはできないが、幸せな気分で映画館を出ることができます。

A: 観客の予想を裏切ることで観客の考えを変えたい部分も含めて、泣いて笑って考えさせられるコメディでした。「コメディは90分以内」がベターと言われるなかで、2時間越えを危惧していたが全くの杞憂だった。

 

B: 次回作が既に始動しているようだが、まだIMDbにはアップされておりません。

A: 監督は12月公開時には来日する予定でいるそうです。実現すれば「ラテンビート09」で上映された『カミーノ』以来のことになる。プロデューサーのルイス・マンソ、絵コンテと出演もしたビクトル・モニゴテ3人で来日、会場でも場外でも観客の質問に気軽に応えていた。マンソは新作でもエグゼクティブ・プロデューサーとして、モニゴテは絵コンテ・アーティストとして参画しているので、気取らないダンゴ三兄弟の来日が期待できるかもしれない。さて、魅力をお伝えすることが出来たでしょうか。

  

マルティネス=ラサロが三度ダニ・ロビラとタッグを組んだ「Miamor perdido」2018年12月14日 15:10

        二人は法的に結婚していませんが「事実上のカップル」です!

 

   

        (ダニ・ロビラとミシェル・ジェンネルを配した「Miamor perdido」)

 

エミリオ・マルティネス=ラサロ(マドリード、1945)の新作Miamor perdidoは、「オチョ・アペリードス・バスコス」『オチョ・アペリードス・カタラネス』と三部作の体裁をとっているようです。監督はステージでダニ・ロビラ(マラガ、1980)の2時間に及ぶ独演会を見てからというものぞっこんで、浮気もせずにひたすらダニを想っている。「私たちは映画では事実上のカップルです。それで(彼を主役に)長編3作をひたすら撮り続けています。つまり彼より私のほうが誠実だということです」。それなのにダニは「僕は、若気の至りというか、ちょっぴり尻軽で、あっちこっちつまみ食いが必要なんです」と自己分析。たくさんの監督からオファーを受けて、エミリオ一筋とはいかないのです(笑)。

 

         

         (ミシェル・ジェンネル、エミリオ・マルティネス=ラサロ、ダニ・ロビラ)

 

★ロビラは Netflix で配信された『オチョ・アペリードス・カタラネス』のあと本作まで5作に出演しています。なかで先月下旬500館で封切られた、スーパーマンのパロディSuperlópez20年ぶりの新バージョン、批評家の評価も高く、興行成績もバツグンとくれば言うことなしです。1973Janによって造形されたコミックの映画化。監督は『SPY TIMEスパイタイム』のハビエル・ルイス・カルデラがメガホンをとりました。ルイス・カルデラもダニ・ロビラにご執心で、「オチョ・アペリードス・バスコス」撮影中から交渉していたと語っています。共演者にアレクサンドラ・ヒメネスフリアン・ロペスマリベル・ベルドゥペドロ・カサブランクなど芸達者が勢揃い、脚本は「オチョ・アペリードス」の二人組ボルハ・コベアガ&ディエゴ・サン・ホセですから、面白くならないはずがありません。

 

           

        (髭を生やしたスーパーロペスことフアン・ロペス役のダニ・ロビラ)

 

★一方Miamor perdido」は、1214日に封切られる。ダニ・ロビラのお相手はアルモドバルの『ジュリエッタ』に出演していたミシェル・ジェンネル(ジェナー)の他、コメディの大ベテランを自負しているアントニオ・レシネス、人気上昇中のビト・サンスアントニオ・デチェントウィル・シェファードハビビ(『アブラカダブラ』)、エトセトラ。ビト・サンスはマテオ・ヒルのロマンティック・コメディLas leyes de la termodinámica(Netflix 邦題『熱力学の法則』)で主役を演じているほか、ダビ・トゥルエバの新作Casi 40にも起用されている。ウィル・シェファードはラ・コルーニャ生れの黒人俳優、大御所フェルナンド・コロモが久々に撮ったコメディLa tribuNetflix『ダンシング・トライブ』)に、パコ・レオンカルメン・マチと共演している。パコの母親にカルメンが扮して両人とも達者なダンスを披露している。 

  

       

                                  (マリオ役のダニとオリビア役のミシェル)

   

      

           (この飼い猫も主役らしい?)

 

ミシェル・ジェンネルMichelle Jenner1986)は、声優の父親がミゲル・アンヘル・ジェナーと表記されていることからジェナーが多く、『ジュリエッタ』の公式カタログではジェネール、バルセロナ出身なのでジェネ(ー)ルかジェンネル、日本語表記は定まっていない。父親同様アニメーション(「タデオ・ジョーンズの冒険」など)の声優として活躍しているほか、「ハリー・ポッター・シリーズ」や『美女と野獣』では、エマ・ワトソンの吹替を担当している。長編映画の主役としては、ダニエル・サンチェス・アレバロ&ボルハ・コベアガSFEn tu cabezaダニ・デ・ラ・トーレのサスペンスLa sombra de la leyではルイス・トサールと共演、アナーキストの活動家として登場している。本作は1920年代のバルセロナの銃社会の裏側を描いている。スペイン公開後直ぐに『ガン・シティ~動乱のバルセロナ~』の邦題で1031日から Netflix 配信されている。シリアス・ドラマもコメディもこなせる女優として、将来が期待されている。

 

       

           (スペイン題La sombra de la ley」のポスター

         

               

            (父ミゲル・アンヘル・ジェナーと、20128月)

 

★「現代社会は誤解からくる怒りや傷つけられたと過度に感じやすくなっている。だからユーモアの限界について語るときにはよく検討しないといけない。・・・何がユーモアで何がそうでないか議論することはできますが、人に余裕がないときは直ぐ限界がきてしまう」と監督。ユーモアの匙加減が難しい時代になってきたようです。音楽はロケ・バニョス、撮影フアン・モリナ、編集は「オチョ・アペリードス」を手掛けたベテランのアンヘル・エルナンデス・ソイド。いよいよスペインで封切られます。


グラシア・ケレヘタ、常軌を逸したコメディに方向転換?2018年10月23日 13:52

             女三人よれば姦しい、笑いと殺し、マリベル・ベルドゥが大奮闘!

 

        

★先日、ハビエル・フェセルのコメディCampeones(アカデミー賞スペイン代表作品)が映画館を涙と笑いでいっぱいにしている記事をご紹介しましたが、今回は笑いと殺しで会場を沸かせているグラシア・ケレヘタ常軌を逸したコメディOla de crímenesのご紹介(255館で上映)。スペインのは失業率は、幾分改善されたとはいえ相変わらずEU域内では高い。そんなこととは無関係なのか、日常に笑いが少ないからせめて映画館でもと考えるのか、よくよくコメディが好きな国民です。

Campeones」の内容紹介は、コチラ20180612

 

★「Campeones」の記録を塗り替えるとは思いませんが、来年のゴヤ賞候補が視野に入ってきました。主演女優の三人は、ケレヘタお気に入りのマリベル・ベルドゥ、最近エルネスト・アルテリオと離婚して自由の身になったフアナ・アコスタホセ・ルイシ・ガルシの常連だったパウラ・エチェバリア。迎え撃つ男性陣はドラマもコメディも何でも来いのベテランアントニオ・レシネスルイス・トサールハビエル・カマララウル・アレバロ、これでは勝ち目がないと、TVシリーズで活躍のラウル・ペーニャ、親の七光りを武器に人気急上昇中のミゲル・ベルナルドー、目下売り出し中のアシエル・リカルテなどの若手を招集、若い女性ファンを取り込もうという魂胆です。バスクの州都ビルバオを舞台に繰り広げられる殺人劇とは?

 

     

   (悪女三人組、左からパウラ・エチェバリア、マリベル・ベルドゥ、フアナ・アコスタ)

 

Ola de crímenes2018

製作:Bowfinger International Pistures / Crimen Zinema / Historias del Tio Luis /  Mediaset Espana / Mogambo / Movistar/ Telecinco Cinema

監督:グラシア・ケレヘタ

脚本:ルイス・マリアス

音楽:フェデリコ・フシド

撮影:アンヘル・アモロス、ダビ・オメデス

編集:レイレ・アロンソ

美術:ギジェルモ・ジャグノ

衣装デザイン:パトリシア・モネー Monné

メイクアップ&ヘアー:ミル・カブレル、トノ・ガルソン、ノエ・モンテス

プロダクション・マネジメント:アシィエル・ぺレス

キャスティング:ロサ・エステベス

製作者:アルバロ・アウグスティン、Ghislain Barroisルイス・マリアス、(以下エグゼクティブ)エドゥアルド・カルネロス、マリア・ルイサ・グティエレス、リカルド・ガルシア・アロッホ、パロマ・モリナ、他

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2018年、ブラックコメディ、スリラー、撮影地ビルバオ、公開スペイン1005日、ポルトガル20190103

 

キャスト:マリベル・ベルドゥ(主婦レイレ)、ルイス・トサール(レイレの元夫コスメ)、パウラ・エチェバリア(コスメの新妻バネサ)、フアナ・アコスタ(弁護士スサナ、バネサの友人)、アントニオ・レシネス(刑事アンドニ)、ラウル・ペーニャ(アンドニの部下フアンチュ)、アシエル・リカルテ(レイレの息子アシエル)、ミゲル・ベルナルドー(アシエルの親友フレン)、ハビエル・カマラ(司祭)、ラウル・アレバロ(タクシードライバー)、ノラ・ナバス(イケルネ)、モンセ・プラ(エベリン)、テレサ・ロサノ(祖母パキ)、その他大勢(印は特別出演)

 

物語:レイレはビルバオ郊外の庭付き一戸建ての家で何不自由なく息子と快適に暮らしていた。ところが年頃になった息子アシエルが、元夫のコスメを鋏で刺し殺すという予想だにしないことで天と地がひっくり返ってしまった。息子を助けたい一心で、犯人は外部から闖入したという偽装工作に着手する。コスメの新しい妻バネサの汚職事件の隠蔽、その友人弁護士スサナの介入、息子の親友がレイレにぞっこんになるなど、バスク州警察の捜査は混乱して、あろうことかレイレに殺害容疑がかかってきて・・・

 

              友人の悪事を知ったら、あなたならどうします?

 

★ざっとこんなお話ですから、コラムニストの性格もあって各紙の評価は真っ二つです。方向転換かと評されるグラシア・ケレヘタ監督、「私にはこんな脚本思いつかない」と苦笑い。脚本を執筆したルイス・マリアスについては、Fuegoを監督した折にご紹介しています。13歳でデビュー、既に35年に及ぶ芸歴のあるマリベル・ベルドゥ(マドリード1970)は、15 años y un diíaやコメディFelices 140などで、監督と常に二人三脚で映画を作ってきている。ケレヘタと言えばベルドゥ、ベルドゥと言えばケレヘタと言われるほどの仲、「撮影中は生傷が絶えなくて、今でも首が左に回らないの」と、ベルドゥは大口開けて笑う。

 

     

(ロエベのケープとパンタロン、シャネルのネックレス、ジョルジオ・アルマーニのブレスレット、ニナ・リッチの帽子、プロモーションのためエルパイス紙のインタビューに応じるベルドゥ)

 

     

(レイレの金持ちの元夫役ルイス・トサール、残した荷物を取りに戻って昇天してしまう)

 

    

             (レイレと尊属殺人犯の息子アシエル役のアシエル・リカルテ)

    

   

        (レイレの聴聞司祭役で特別出演のハビエル・カマラ)

 

   

(女性たちに翻弄されるバスク州警察の刑事役アントニオ・レシネスとラウル・ペーニャ)

   

   

      (レイレに恋する息子の親友フレン役のミゲル・ベルナルドーと)

  

        

    (コスメの現妻バネサ役のパウラ・エチェバリアと友人弁護士スサナ役のフアナ・アコスタ)

     

                

                     (タクシードライバー役のラウル・アレバロと)

 

★女性が主役の映画が曲がり角に来ており、本作はある意味で歴史的な瞬間と語るフアナ・アコスタとパウラ・エチェバリア。品格があるとは思えないセリフも飛び出すらしくハチャメチャなストーリーだが、女性たちは混沌とした男世界で大いに苦しんでいることも事実。最後のオチが観客を納得させられるかどうか。「自由に撮らせてくれた。仕事の本質は変わらないけれど、形式は変わった」とケレヘタ監督。また「自分がTVシリーズを手掛けるなんて考えてもいなかったが挑戦しているのは、自分でも驚きだ」とも。

 

★キャストのなかで当ブログ初登場の一人、親の七光り組と上述したミゲル・ベルナルドーBernardeau1996、カタカナ表記?)、親友の母親レイレが好きになってしまう役。初めての大役だが、Netflixで配信中のTVシリーズ『エリート』(「Elite8話)に既に登場している。長身のイケメン、ドラマでは建設会社社長を父に持つ自信過剰の気障なエリート高校の生徒を演じているが、二十歳過ぎて高校生役はいかにも老けすぎている。母親アナ・ドゥアートは、長寿TVシリーズCuéntame cómo pasóイマノル・アリアスと夫婦役を演じた女優、父親ミゲル・アンヘル・ベルナルドーは、本ドラマの製作者。業界の厳しさを知る両親は息子の俳優志望に躊躇していたようだが、現在はバックアップを惜しまない。ドラマもコメディもこなせそうだが未知数です。

 

  

          (TVドラマ『エリート』出演のミゲル・ベルナルドー)  

 

★プロデューサーの顔ぶれは上述したように豪華版です。アルバロ・アウグスティンGhislain Barroisは、『インポッシブル』『KIKI~愛のトライ&エラー』『怪物はささやく』「Perfectos desconocidos」、マリア・ルイサ・グティエレスは、「トレンテ」シリーズ(345)、『黒い雪』「No dormiras」、リカルド・ガルシア・アロッホは『マーシュランド』と、ブラックコメディ、スリラーを数多く手掛けている製作者たちが参画しています。ケレヘタ監督、脚本家ルイス・マリアスについては以下の関連記事で。

 

           

       (スペイン公開フォトコール、ケレヘタ監督、ベルドゥ他の出演者)

 

 関連記事・管理人覚え

Fuego」監督ルイス・マリアス紹介記事は、コチラ20141211

15 años y un día」の紹介記事は、コチラ20140126

Felices 140」の紹介記事は、コチラ20150107

 フアナ・アコスタ離婚劇については、コチラ20180711

ベルドゥ主演の『アブラカダブラ』(ラテンビート2018上映)は、コチラ20170705


『モルタデロとフィレモン』のハビエル・フェセル*「Campeones」が大ヒット2018年06月12日 16:24

          主人公は知的障害をもつ10人のバスケットボール選手たち

   

     

★『モルタデロとフィレモン』のハビエル・フェセルが、Campeonesで長編コメディに戻ってきました。主人公は初出演の10人の知的障害者と、『マーシュランド』や「El autor」で、ゴヤ賞の主演男優賞を2回受賞したハビエル・グティエレス、本作の演技で3回目の受賞も夢ではない。46日の封切り以来、9週目にして興行成績1600万ユーロ、観客動員数は既に270万人を突破、今なお快進撃を続行中。この記録を超えるのは、2014年公開されたエミリオ・マルティネス=ラサロの大ヒット作「オーチョ・アペジードス・バスコス」だけということで、公開以来トップ3をキープしている。

 

 Campeones(「Champions」)2018

製作:Morena Films / Movistar+ / Pelicula Pendelton/ RTVE / ICO / ICAA (以上スペイン)

      / Realizaciones Sol S.A.(メキシコ)

監督:ハビエル・フェセル

脚本:ダビ・マルケス、ハビエル・フェセル

撮影:チェチュ・グラフ

編集:ロベルト・ボラド、ハビエル・フェセル

音楽:ラファエル・アルナウ、歌曲「Este es el momento」演奏Coque Malla

キャスティング:ホルヘ・ガレオン

美術:ハビエル・フェルナンデス

衣装デザイン:アナ・マルティネス・フェセル

メイクアップ&ヘアー:エリ・アダネス(チーフ)、ペドロ・ラウル・デ・ディエゴ(特殊メイク)、リュイス・ソリアノ(ヘアー)

製作者:ルイス・マンソ、アルバロ・ロンゴリア、ガブリエル・アリアス=サルガド

 

データ:製作国スペイン=メキシコ、スペイン語・不明言語、2018年、コメディ・ドラマ、124分&118分、製作資金約450万ユーロ、撮影地マドリード、ウエルバ、撮影期間;2017年4月10日~7月6日、配給元ユニバーサル・ピクチャー(スペイン)、公開マドリード限定43日、スペイン公開46日、メキシコ518日、フランス66日、ドイツ726日、他

 

キャスト:ハビエル・グティエレス(マルコ・モンテス)、フアン・マルガージョ(フリオ)、アテネア・マタ(マルコの妻ソニア)、ルイサ・ガバサ(マルコの母アンパロ)、ラウラ・バルバ(裁判官)、ダニエル・フレイレ(カラスコサ)、ルイス・ベルメホ(ソニアの同僚)、(他「ロス・アミーゴス」の選手として)セルヒオ・オルモ、フリオ・フェルナンデス、ヘスス・ラゴ、ホセ・デ・ルナ、グロリア・ラモス、フラン・フエンテス、ヘスス・ビダル、ステファン・ロペス、アルベルト・ニエト・フェランデス、ロベルト・チンチジャ、ほか決勝戦対戦チーム「ロス・エナノス」の選手多数、ハビエル・フェセルも新聞記者役で出演している。

    

  

   

物語:マルコ・モンテスはスペイン・バスケット・ナショナルリーグのチームABCの副監督である。マナーが悪く横柄なことから他のコーチとは上手くいってない。プロとしてのキャリアも人間的にも多くの問題を抱えこんでお先真っ暗である。むしゃくしゃして飲酒運転、あげくの果てに事故ってしまい解雇されてしまった。裁判官は懲らしめの罰金として2年間の服役か、または90日間の奉仕活動「ロス・アミーゴス」という知的障害者のバスケットボール・チームの監督のどちらかを選択するよう言い渡した。後者を選んだマルコにとってこんな罰則は好みではなかったが、やがてこの奇妙なチームの面々から、学ぶべき事柄の多さに気づいていく。彼らの病気のイメージからは程遠い、率直で独立心の強い、肩ひじ張らずに生きていく姿に我が人生を見つめ直していく。

 

         「フツウ」の定義、「幸せ」の定義、誰が決めるの?

 

ハビエル・フェセルと言えば『モルタデロとフィレモン』(03)、古くからのファンなら『ミラクル・ぺティント』(98)、あるいは未公開ながらラテンビート上映の『カミーノ』(08)、短編ドキュメンタリー『ビンタと素晴らしきアイディア』(04)が、スペイン新進作家5人のオムニバス映画「En el mundo a cada rato」(邦題『世界でいつも・・・』ユニセフ制作)に採用され上映されました。『カミーノ』はゴヤ賞2009の作品・監督・脚本賞以下6冠制覇の話題作でした。ラテンビート上映時に来日、Q&Aでの飾らない人柄から多くのファンを獲得しました。1985年暮に14歳という短い生涯を閉じたアレクシア・ゴンサレス=バロスの実話にインスピレーションを受けて製作されたフィクションでしたが、家族が敬虔なオプス・デイの信者だったことから、後々訴訟問題に発展、監督は長らく長編から遠ざかっておりました。

 

2014年アニメーションMortadelo y Filemon contra Jimmy el Cachondo以外は、すべて短編(11作)で、うちBienvenidos28分)がアルカラ・デ・エナレス短編映画祭2015の観客賞を受賞、ほか国際映画祭での受賞が相次ぎました。もう長編ドラマは撮らないのかと気になっていたところでした。『カミーノ』から10年の歳月が流れた昨年11月に、監督がTV番組に宣伝を兼ねて出演、「3月公開」をアナウンスしました。ファンが心待ちにしていた結果が、この興行成績にストレートに出ているようです。コメディCampeonesは、上記したように目下快進撃を続けています。映画祭、DVD、あるいは公開を期待しても良さそうです。

 

   

             

        (新作をプレゼンするフェセル監督とグティエレス)

 

★予告編からも充分面白さが伝わってきますが、本作のテーマの一つが、「フツウ」の定義、「幸せ」の定義、障害を大いに楽しもうという視点が観客を虜にしている。エル・パイスによると、成功の秘密は3つあるという。一番目は、スペインで興行成績がよい映画は民放テレビ局がお膳立てした映画が多いが、本作は該当しない。二番目は、知名度のある俳優はマルコ・モンテス役のハビエル・グティエレス唯一人、それ以外は知的障害のあるアマチュアたち、三番目は、テーマの切り取り方、人間的にもコーチとしても、社会的信用が失墜したダメ男マルコが主人公、ハビエル・グティエレスの魅力が大きいようです。7歳以下は保護者同伴だが、なかには子供に分からないジョークもある由、しかし全く問題ではないそうで、子供たちは楽しんでいると家族連れは口を揃える。

 

      

                     (チャンピオンの表彰台に立つ監督&選手一同)

   

      

(ロス・アミーゴスの選手に演技を指示するフェセル監督)

 

★フェセル監督曰く「私たちはキャスト選定の段階で、実際の知的障害者を起用すべきか、あるいは役者に演じてもらうほうがよいか事前に決めていなかった。しかしオーディション初日に、彼らが発する誠実さと信頼性に出会ってしまった」ので彼らに出演依頼をしたようです。「私は根っからの楽観主義者なんだ、それに最初から登場人物たちの能力が観客と繋がっていると信仰のように確信していたんですよ」「私は若者たちのエモーショナルな知性や人生を大いに楽しんじゃおうという考え方に魅了された」「何が何だか分からない感情に満たされ泣いたり笑ったりしているうちに、幸せな2時間が過ぎてしまう」エトセトラ、ということです。笑う門には福来る、つかの間の幸せでも充分ですから浸りたい。

 

    

          (ハビエル・グティエレスと「ロス・アミーゴス」)

 

★まだ先の話ですが、2009年『カミーノ』を上映してくれたラテンビートが今年15周年を迎えるそうです。アグスティン・アルモドバルをゲストに開催された第1回、当初は「ヒスパニックビート」でした。2回目が開催されるかどうか危ぶみましたが、どっこい15年間続いているのでした。ということで今年の目玉に「チャンピオンズ」は打ってつけではないでしょうか。他に2018年興行成績トップ3の一つ、アレックス・デ・ラ・イグレシアのシリアス・コメディPerfectos desconocidosもスクリーンで鑑賞したい。

 

 

 

  *劇場公開映画*

ミシェル・フランコLas hijas de Abril『母という名の女』の邦題でスケジュールが決定しました。劇場は『父の秘密』や『ある終焉』を公開したユーロスペース2018616日(土)~です。カンヌ映画祭2017「ある視点」部門の審査員賞受賞作品。

 

    

カルラ・シモンのデビュー作Verano 1993『悲しみに、こんにちは』の邦題で、同じユーロスペースで7月下旬公開です(日時は未定)。以前ラテンビートで『夏、1993』として上映予定だった映画です。まったくの的外れとまで言わないが、どうしてこんな陳腐な邦題にしたのか理解に苦しむ。ゴヤ賞2018新人監督賞受賞作品。

 

     

Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ20171217

Las hijas de Abril」の紹介記事は、コチラ20170508

El verano 1993」の主な紹介記事は、コチラ20170222

アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作*悲喜劇「Perfectos desconocidos」2017年12月17日 16:22

         パオロ・ジェノベーゼの『おとなの事情』リメイク版

 

★イタリア映画『おとなの事情』(2016、日本公開20173)は、イタリアのアカデミー賞ドナテッロ賞の作品・脚本賞受賞作品、興行成績約20億円をたたき出した話題作(邦題はmierdaというほどではありませんが、テーマとはズレているかも)。各国からリメイク版の要請があった中でアレックス・デ・ラ・イグレシアが権利を獲得、今回アナウンス通り121日にスペインで公開されました。スペイン版は同じ意味のPerfectos desconocidos(仮題「まったくの見知らぬ人」)です。多分こちらも日本公開が期待されますが、どんな邦題になるのでしょうか。今年『クローズド・バル』がスペインと同時に公開され、その折に本作についても簡単な紹介をいたしました。1年に長編2作というのは監督にとっても初めてのことではないか。

Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ2017226

 

    

 

★大体プロットはオリジナル版と同じようですから、詳細は公開時にアップするとして、キャスト陣を含む簡単なデータだけご紹介しておきます。批評家の評価は概ねポジティブで、公開最初の土曜日にはチケット売り場に行列ができたということですから、観客の評判もまずまずなのかもしれません。1213日ノミネーションの発表があった「ゴヤ賞2018」(授賞式23日)には『クローズド・バル』が録音部門に絡んでいるだけのようです。プレス会見では「観に来てください。そうすればその資金でまた次回作が撮れるから」とデ・ラ・イグレシア監督は相変わらず意欲的でした。

 

          

           (行列をする観客たち、122日、マドリードで 

 

  Perfectos desconocidos

製作:Telecinco Cinema / Nadie es perfecto / Pokeepie Films / Mediaset Espana /

    Movistar 協賛:スペイン教育・文化・スポーツ省

監督・脚本:アレックス・デ・ラ・イグレシア

脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア (リメイク:パオロ・ジェノベーゼ、他)

撮影:アンヘル・アモロス

音楽:ビクトル・レイェス

編集:ドミンゴ・ゴンサレス

製作者:エグゼクティブ・プロデューサー(カロリナ・バング、キコ・マルティネス、パロマ・モリナ)、プロデューサー(アルバロ・アウグスティン、Ghislain Barrois

 

データ:スペイン、スペイン語、2017年、96分、ブラックコメディ、20171128日マドリードでプレミア、一般公開121

 

主要キャスト

エドゥアルド・フェルナンデス(アルフォンソ、整形外科医)

ベレン・ルエダ(アルフォンソ妻エバ、臨床心理医)

エルネスト・アルテリオ(アントニオ、弁護士)

フアナ・アコスタ(アントニオ妻アナ、主婦?)

エドゥアルド・ノリエガ(エドゥアルド、タクシードライバー)

ダフネ・フェルナンデス(ブランカ、獣医)

ペポン・ニエト(ペペ、ギムナジウムの中学教師)

 

プロット:夏の月食の晩、お互い相手の人生を分かりあっていると思っている4つのカップルが、夕食を共にすることにした。ホストはアルフォンソとエバ、客人はアントニオ&アナ夫婦、新婚ホヤホヤのエドゥアルド&ブランカ、「新恋人ルシア」の都合がつかなく一人でやってきたペペの5人。宴もたけなわ、各自のスマートフォンをオープンにして遊ぶゲームをブランカが提案する。掛かってきたメールやメッセージは即座に声に出して読み上げねばならないというもの。一瞬しり込みする面々、しかし一人二人とスマホがテーブルに並んでいく。秘密など何もないはずの夫婦や友人間に次々に明らかになっていく知られたくない不都合な事柄、秘密が暴かれ丸裸になると人間どうなるか、プライバシーの喪失はアイデンティティの喪失につながるという怖ろしいオハナシ。ワンシチュエーション・コメディ。

 

   

  (左から、ベレン・ルエダ、エドゥアルド・ノリエガ、フアナ・アコスタ、エルネスト・

  アルテリオ、エドゥアルド・フェルナンデス、ダフネ・フェルナンデス、ペポン・ニエト)

 

         プライバシーの喪失はアイデンティティの喪失を意味する

 

★オリジナル版『おとなの事情』とプロットはあまり変わっていない印象です。便利このうえないスマホもひとたび使い方を誤ると暴虐な武器になり、スマホが独裁者となって人間を支配するという本末転倒が起きる。痛くもない腹をさぐられ、信頼関係は崩れてしまう。プライバシーの喪失はアイデンティティの喪失を意味するがテーマでしょうか。

 

デ・ラ・イグレシア(1965、ビルバオ)は20146月、女優カロリナ・バング1985、テネリフェ)と20歳の年齢差を超えて結婚、約1年前の2016年に女の子フリアの父親となった。来年にはもう一人の女の子が生まれるそうです。カロリナ・バングはまだ4ヵ月とかでウエストを絞ったドレスにハイヒール姿で新作のプレゼンテーションに出席した。今作には出演はなくエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。元ファッションモデルだけあって身長の高さは半端じゃない。ツーショットは常に頭半分ほど違う。女優復帰が待たれる。

 

  

(新作Perfectos desconocidos」のプレゼンに現れた夫妻、1129マドリードにて

 

★脚本は、前作『クローズド・バル』を手掛けたホルヘ・ゲリカエチェバリア、リメイク版がオリジナルを超えることは簡単ではないが、果たして今作は超えられるか、脚本家の料理の腕の見せどころです。現実には『おとなの事情』のように次々と事件が起こるとは思えないが、携帯のなかにデーモンが隠れていることは確かでしょう。掛けてくる相手は、まさかゲームをしているとは思わないから時と場合を選ばない。登場人物も観客も張り詰めた緊迫感でドキドキハラハラする。人の秘密は覗きたいものだが、かなり危険なゲーム、実際こんな悲喜劇にはならないはずだが、大昔から秘密をもつことは罪ではないし、曖昧にしておいたほうがベターなケースもあるでしょう。

 

★ホームパーティのホスト役エドゥアルド・フェルナンデスは、コメディは何本か出演しているがデ・ラ・イグレシア作品は意外や初めて、ホステス役のベレン・ルエダ、イネス・パリスの第4作「La noche que mi madre mató a mi padre」の辛口コメディに初挑戦、かなり話題をよんだ。コメディが気に入ったのか今度はデ・ラ・イグレシア作品に初挑戦した。パリス作品でも両人は夫婦役を演じていた。弁護士夫婦を演じたエルネスト・アルテリオフアナ・アコスタは実際でも夫婦、ペポン・ニエトはデ・ラ・イグレシアの常連の一人、幾つになっても老けないエドゥアルド・ノリエガ、当ブログ初登場のダフネ・フェルナンデス、テレビの紹介番組に出まくって宣伝に努めている旬の女優。芸達者揃いで危なげないが、問題はチームワークでしょうか。

 

   

★ゴヤ賞2018には絡んでいないようですが、コメディはだいたい大賞候補には縁遠いようです。来年にはオリジナル版同様、大笑いさせてもらえるでしょうか。

 

La noche que mi madre mató a mi padre」の紹介記事は、コチラ2016425


スペイン内戦をバスクを舞台にコメディで*「La higuera de los bastardos」2017年12月03日 16:28

           アナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」―小説の映画化

  

    

★今年のサンセバスチャン映画祭で上映された(928日)ボルハ・コベアガFe de etarraは、カンヌで話題になった『オクジャ』と同じネットフリックスのオリジナル作品だったから、さっそく『となりのテロリスト』の邦題で配信されました。エタETA(バスク祖国と自由)の4人のコマンドが、ワールドカップ2010を時代背景にマドリードで繰り広げる悲喜劇。脚本にディエゴ・サン・ホセと、大当たり「オチョ・アペリード」シリーズ・コンビが、今度は人気のハビエル・カマラを主役に迎えて放つ辛口コメディ。いずれアップしたい。

 

★今回アップするアナ・ムルガレンLa higuera de los bastardosは、スペイン内戦後のビスカヤ県ゲチョGetxoが舞台、時代は大分前になるがスペイン人にとって、特にバスクの人にとっては、そんなに遠い昔のことではない。本作はラミロ・ピニーリャ(ビルバオ1923~ゲチョ2014)の小説 La higuera2006)の映画化。ピニーリャはビスカヤについての歴史に残る作品を書き続けたシンボリックな作家、1960年に Las ciegas hormigas でナダル賞、2006年、バスクのような豊かだが複雑な世界についての叙事詩的な「バスク三部作」ほか、彼の全作品に対して文学国民賞が贈られている。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの回想録『ウォールデン 森の生活』(1854刊)から採った自宅「ウォールデンの家」で執筆しながら人生のほとんどを過ごした。

 

    

     (ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を手にしたピニーリャ)

 

★「健康だし未だ頭もはっきりしている。実際のところ私の精神年齢は20歳なんですよ。死は怖くはありませんが、ただ残念に思うだけです。まだそこへ行きたいとは考えていません、何もないのでしょうね。健康が続くかぎり生きていかねばなりません」とインタビューに応えるラミロ・ピニーリャ。若いころは生活のために船員、ガス会社勤務など多くの職業を転々、小説家デビューは1960年と比較的遅かった。以降半世紀以上バスクの物語を書き続けた。インタビューの約1ヵ月後、1023日老衰のため死去、享年91歳でした。

 

  

 (「ウォールデンの家」でインタビューに応じるラミロ・ピニーリャ、2014914日)

 

 

 「La higuera de los bastardosThe Bastards Fig Tree2017

製作:The Fig Tree AIE / Blogmedia 協賛Ana Murugarren PC

監督・脚本・編集:アナ・ムルガレン

原作:ラミロ・ピニーリャ La higuera

撮影:Josu Inchaustegui(ヨス・インチャウステギ?)

録音:セルヒオ・ロペス=エラニャ

音楽:アドリアン・ガルシア・デ・ロス・オホス、アイツォル・サラチャガ

製作者:ホアキン・トリンカダ(Joaquin Trincada

データ:製作国スペイン、スペイン語、2017、コメディ・スリラー、103分、2016年夏ビスカヤ県ゲチョで撮影。11月開催のオランダのフリシンゲン市「Film By The Sea2017に正式出品、スペイン公開1124

 

キャスト:カラ・エレハルデ(ロヘリオ)、エルモ(カルロス・アレセス)、ペパ・アニオルテ(村長の妻シプリアナ)、ジョルディ・サンチェス(村長ベニート)、ミケル・ロサダ(ペドロ・アルベルト)、アンドレス・エレーラ(ルイス)、ラモン・バレア(ドン・エウロヒオ)、イレニア・バグリエットYlenia Bagliettoロレト)、マルコス・バルガニョン・サンタマリア(ガビノ)、キケ・ガゴ(ガビノ父シモン・ガルシア)、エンリケタ・ベガ(ガビノ母)、アレン・ロペス(ガビノ兄アントニオ)、アスセナ・トリンカド(ガビノ姉妹)、イツィアル・アイスプル(隣人)他

 

プロット・解説:市民戦争が終わった。ファランヘ党のロヘリオは、毎晩のこと仲間と連れ立ってアカ狩りに出かけていた。なかにはアカと疑われる人物も含まれていた。ある日のこと、一人のマエストロとその長男を殺害した。下の息子が憎しみを込めた目でロヘリオを睨んでいた。その視線が彼の人生をひっくり返してしまう。少年は父と兄を埋葬し、その墳墓にはイチジクの小さな苗を植えることだろう。やがて大人になれば復讐するにちがいない。ロヘリオは己れを救済するために似非隠者になり、毎朝毎晩イチジクがすくすくと成長するように世話しようと決心する。新しい村長の妻シプリアナは、ロヘリオ似非隠者の名声を利用して、この地を聖地の一大センターに変えようと画策する。そんな折りも折り、家族を捨ててきた告げ口屋の強欲なエルモが現れる。イチジクの木の下に宝物を隠しているにちがいないと確信して、ロヘリオから離れようとしなくなる。10歳の少年ガビノの視点とロヘリオを交錯させながら物語は進んでいく。

 

   

            (マルコス・バルガニョン・サンタマリアが扮するガビノの視線)

 

    

          (父親のキケ・ガゴと兄のアレン・ロペス)

 

(父親と兄を埋葬するガビノ)

  

     寓意を含んだ贖罪の物語、紋切型の市民戦争を避ける

 

★アナ・ムルガレンの長編第2作。作品数こそ少ないがキャリは長い。2006年刊行の原作を読んだとき、二つの映画のシーンが思い浮かんだという。「一つはブニュエル『砂漠のシモン』の中で柱に昇ったままのシモン、もう一つがフェリーニ『アマルコルド』の中で大木に登ったままの狂気の伯父さんのシーンでした。その黒さのなかに思いつかないようなアスコナ流のユーモアのセンスに出会って驚いた」と。「本作で製作を手掛けたトリンカドと私は作家と知り合いになった。ピニーリャ自身が映画化するならと薦めてくれたのが本作でした。多分、この小説は突飛でシニカルなユーモアが共存しているからだと思います。コメディとドラマがミックスされている非常にスペイン的な何かがあるのです」とも。

 

★ステレオタイプ的な市民戦争ではなく、コメディで撮りたかったという監督。コメディを得意とするカラ・エレハルデカルロス・アレセスペパ・アニオルテを主軸に、常連のミケル・ロサダアスセナ・トリンカド、バスク映画に欠かせないラモン・バレアを起用した。資料に忠実すぎて動きが取れなくならないように、演技にはあまり制約をつけなかったようです。

 

   

(ファランヘ党員のロヘリオ、カラ・エレハルデ)

 

(密告屋エルモ、カルロス・アレセス)

   

★「スペインは対立を克服できなかったヨーロッパで唯一の国、それを現在まで引きずっている。そのため今もってイチジクの木の下で眠っている人は浮かばれない」と語るエレハルデ。「カラ・エレハルデのような優れた俳優に演じてもらえた。ロヘリオの人間性に共感してもらえると思います。このファランヘ党員は隠者になったことを悔やんでいない。はじめは恐怖から始まったことだが、次第にイチジクの木を育てることに寛ぎを感じ始めてくる」と監督。当然「粗野なメタファー満載だ」との声もあり、評価は分かれると予想しますが、コメディで描く内戦の悲痛は、深く心に残るのではないか。

 

    

          (ポスターを背に、ロヘリオ役のカラ・エレハルデ)

 

 監督キャリア・フィルモグラフィ

アナ・ムルガレンAna Murugarren1961年ナバラのマルシーリャ生れ、監督、編集者、脚本家。バスク大学の情報科学部卒。198090年代に始まったバスクのヌーベルバーグのメンバーとしてビルバオで編集者としてキャリアを出発させる。メンバーには本作で製作を手掛けたホアキン・トリンカド、ルイス・マリアス、『悪人に平穏なし』のエンリケ・ウルビス、『ブランカニエベス』のパブロ・ベルヘル、日本ではお馴染みになったアレックス・デ・ラ・イグレシアなどがいる。 

 

2005年「Esta no es la vida privada de Javier Krahe」ドキュメンタリー、監督・編集

   (ヨアキン・トリンカドとの共同監) 

2011年「El precio de la libertad」監督・編集(TVミニシリーズ2話)

2012年「La dama guerrera」監督・編集(TV映画)

2014年「Tres mentiras」監督・編集、長編映画デビュー作

2017年 本作割愛

他にエンリケ・ウルビス、パブロ・ベルヘル、ヨアキン・トリンカドの編集を手掛けている。

 

    

         (アナ・ムルガレンとホアキン・トリンカド、20167月)

 

★受賞歴:「Tres mentiras」がフィリピンのワールド・フィルム・フェス2015で「グランド・フェスティバル賞」を受賞、他に主役のノラ・ナバスが女優賞を受賞した。他にサラゴサ映画祭2015作品賞、サモラ県のトゥデラ映画祭20141回監督賞他を受賞している。エンリケ・ウルビスの「Todo por la pasta」でシネマ・ライターズ・サークル賞1991の最優秀編集賞を受賞している。

 

        

             (本作撮影中のアナ・ムルガレン監督)


パブロ・ベルヘルの新作コメディ「アブラカダブラ」*いよいよ今夏公開2017年07月05日 18:37

           大分待たされましたが84日スペイン公開が決定

 

   

『ブランカニエベス』の成功で国際的にも知名度を上げたパブロ・ベルヘルの第3Abracadabra がいよいよ公開されることになりました(84日)。どうやら9月開催のサンセバスチャン映画祭を待たないようです。昨年の初夏にクランクイン以来、なかなかニュースが入ってきませんでしたが、YouTubeに予告編もアップされ笑ってもらえる仕上りです。モノクロ・サイレントの前作は、2012年のトロント映画祭を皮切りにサンセバスチャン、モントリオール、USAスパニッシュ・シネマ、ロンドン・・・と瞬く間に世界の各映画祭を駆け抜けました。サンセバスチャン映画祭では金貝賞こそ逃しましたが、審査員特別賞他を受賞、翌年のゴヤ賞は作品賞の大賞以下10冠を制覇、米アカデミーのスペイン代表作品、アリエル賞などなど受賞歴は枚挙に暇がありません。ということで2013年、はるばる日本にまでやってきてラテンビート上映後、公開に漕ぎつけたのでした。新作は果たして柳の下の二匹目のドジョウとなるのでしょうか。

 

 Abracadabra  2017

製作:Arcadia Motion Pictures / Atresmedia Cine / Persefone Films / Pegaso Pictures / Movistar +  Noodles Production(仏)/ Films Distribution(仏)

監督・脚本・音楽:パブロ・ベルヘル

撮影:キコ・デ・ラ・リカ

音楽:アルフォンソ・デ・ビラジョンガ

編集:ダビ・ガリャルト

衣装デザイン:パコ・デルガド

美術:アンナ・プジョル・Tauler

プロダクション・デザイン:アライン・バイネエAlain Bainee

キャスティング:ロサ・エステベス

メイクアップ&ヘアー:Sylvie Imbert(メイク)、ノエ・モンテス、パコ・ロドリゲス(ヘアー)他

製作者:サンドラ・タピア(エグゼクティブ)、イボン・コルメンサナ、イグナシ・エスタペ、アンヘル・ドゥランデス、ジェローム・ビダル、他

 

データ:スペイン=フランス、スペイン語、2017年、ブラック・コメディ、ファンタジー、サスペンス、カラー。公開:スペイン84日、フランス111日、配給ソニー・ピクチャー

 

キャスト:マリベル・ベルドゥ(カルメン)、アントニオ・デ・ラ・トーレ(カルロス)、ホセ・モタ(カルメンの従兄ペペ)、ジョセップ・マリア・ポウ(ドクター・フメッティ)、キム・グティエレス(ティト)、プリスシリャ・デルガド(トニィ)、ラモン・バレア(タクシー運転手)、サトゥルニノ・ガルシア(マリアノ)、ハビビ(アグスティン)、フリアン・ビジャグラン(ペドロ・ルイス)他

 

プロット:ベテラン主婦のカルメンとクレーン操縦士のカルロス夫婦は、マドリードの下町カラバンチェルで暮らしている。カルロスときたら寝ても覚めても「レアル・マドリード」一筋だ。そんな平凡な日常が姪の結婚式の当日一変する。カルロスが結婚式をぶち壊そうとしたので、アマチュアの催眠術師であるカルメンの従兄ペペが仕返しとして、疑り深いカルロスに催眠術をかけてしまった。翌朝、カルメンは目覚めるなり夫の異変に気付くことになる。霊が乗り移って自分をコントロールできないカルロス、事態は悪いほうへ向かっているようだ。そこで彼を回復させるための超現実主義でハチャメチャな研究が始まった。一方カルメンは、奇妙なことにこの「新」夫もまんざら悪くないなと感じ始めていた。果たしてカルロスは元の夫に戻れるのか、カルメンの愛は回復できるのだろうか。

 

        

             (カルメンとカルロスの夫婦、映画から)

 

★大体こんなお話のようなのだが、監督によれば「新作は『ブランカニエベス』の技術関係のスタッフは変えずに、前作とは全くテイストの違った映画を作ろうと思いました。しかし、二つは違っていても姉妹関係にあるのです。私の全ての映画に言えることですが、中心となる構成要素、エモーション、ユーモア、驚きは共有しているのです」ということです。キコ・デ・ラ・リカパコ・デルガドアルフォンソ・デ・ビラジョンガなどは同じスタッフ、キャストもマリベル・ベルドゥジョセップ・マリア・ポウラモン・バレアなどのベテラン起用は変わらない。『SPY TIMEスパイ・タイム』のイケメンキム・グティエレスの立ち位置がよく分からないが、カルロスに乗りうつった悪霊のようです。監督はそれ以上明らかにしたくないらしい。コッポラの『地獄の黙示録』のカーツ大佐が手引きになると言われても、これでは全く分かりませんが「映画館に足を運んで確かめてください」だと。若手のプリスシリャ・デルガドは、アルモドバルの『ジュリエッタ』でエンマ・スアレスの娘を演じていた女優。

 

  

       (撮影中の左から、ホセ・モタ、マリベル・ベルドゥ、ベルヘル監督)

 

★マリベル・ベルドゥ以下三人の主演者、アントニオ・デ・ラ・トーレ、ホセ・モタの紹介は以下にアップしています。アントニオ・デ・ラ・トーレは、マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』やラウル・アレバロのデビュー作『物静かな男の復讐』で見せた内省的な暗い人格、デ・ラ・イグレシアの『気狂いピエロの決闘』の屈折した暴力男とは全く異なるコミカルな男を演じている。多分ダニエル・サンチェス・アレバロのコメディ『デブたち』のノリのようだ。どんな役でもこなせるカメレオン役者だが、それが難でもあろうか。デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』のホセ・モタについては、「アブラカダブラ」で紹介しております。

 

         

               (ペペ役のホセ・モタ、映画から)

 

「アブラカダブラ」の監督以下スタッフ&キャスト紹介は、コチラ2016529

マリベル・ベルドゥの紹介記事は、コチラ2015824

アントニオ・デ・ラ・トーレの紹介記事は、コチラ201398


*追記『アブラカダブラ』の邦題でラテンビート2018上映が決定しました。

『The Olive Tree』 Q&A*ラテンビート2016 ⑧2016年10月17日 16:32

          イシアル・ボリャイン『The Olive TreeQ&A

 

★「イシアル・ボリャイン監督が、エリセの『エル・スール』に出ていた女優さんに衝撃をうけた」というツイートに衝撃を受けているオールド・シネマニアもいるでしょう。もっとも1985年公開だからリアルタイムで見た人は、そろそろ化石人間入りでしょう。2回め上映の109日で鑑賞しました。Q&Aに登壇した監督、さばさばした飾らない人柄がにじみ出ていて好感度バツグンでした。アイディアの発端、キャスティングの苦労、オリーブの樹はスペインあるいは地中海文化のメタファーなどなど、前日の第1回と大体同じような内容だったでしょうか。「一番お金がかかったのは、〈モンスター〉オリーブの樹のオブジェ製作とその移動だった」には、会場から笑いが上がった。 

     

     (Q&Aに登壇したボリャイン監督と映画祭ディレクターのカレロ氏、109日)

 

        費用が一番かかったのはオリーブの樹のオブジェとドイツへの移動!

 

A こんなプロットはあり得ないと思いながらも、笑いを噛みころして愉しむことができました。ピレネーの向こうはアフリカと言われながらも、EU一人勝ちのドイツに対するスペイン庶民の屈折した感情がわかりやすく描かれていた。ヨーロッパの南北問題、経済の二極化が深層にあるようです。もともとスペイン人は、地道に働くドイツ人が嫌い、それにフランコ時代に出稼ぎに行って辛い仕事をした記憶がトラウマになっている。

B 場内から笑い声が聞こえてこなかったのは難聴のせいかな。これじゃ面白くないのかと誤解されてしまうから、お行儀良いのも良し悪しだね。揶揄されたドイツの観客が大いに笑ってくれたと、監督は嬉しそうに話していたからね。

 

A ドイツ人は余裕があるから寛大なのです。それにしても「費用が一番かかったのはオリーブの樹のオブジェ製作とドイツへの移動」には笑えました。

B: スペイン人のアメリカ嫌いも相当なもの、スペイン人が僻みっぽいのには貧しさと関係があるように思います。豊かな国に憧れながらも大国に翻弄される恨みが染みついている。「自由の女神像」に罪はないのに叩き壊されて気の毒でした。

 

A あんなレプリカを庭に設置していたなんてびっくりものです。バブルとは弾けるまで気がつかない。アルマの父も叔父もバブルの犠牲者だと考えているように描かれていたが、やはり騙されやすいスペイン人気質も一因ですね。

B: 実際には起こりそうもない「オリーブ奪還作戦」も、デュッセルドルフへの珍道中もスペイン気質ならではの展開、アルマ・キホーテに従う二人のサンチョ・パンサ、恋人未満のラファ、叔父アルカチョファの再生劇です。

 

 

     (一番の金食い虫だったモンスター・オリーブのオブジェ)

 

A 作品紹介に書いたことだけれど、アルマは表層的には祖父のために起こした行動に見えますが、実は自分の生き方を変えたかった。ラファはアルマへの愛ゆえに嘘と気づいていたのに付き添わずにいられなかったし、叔父も抱え込んだ借金と妻との人生の立て直しをしたかった。

 

アルマの原点にある男性不信、父と娘の和解

 

B: 特にアルマは境地に陥っていた。二十歳にもなっているのに自分の将来図が描けていない。ラファを好きなのに受け入れられない。それが少女時代に受けた人格者といわれる人からの性的いたずらだった。親にも話せず、勇気を出して打ち明けると、父親からデタラメを言っていると逆に詰られてしまう。 

A: 予告編からは見えてこなかった核心がこのシーンでした。アルマの父親を含めた男性一般に対する不信感でした。父親を許していないことが祖父に肩入れする理由の一つ。父親も今では娘を守ることができなかったことを後悔しているが、謝罪を切り出せない。

 

B: 素直に謝れない苦悩を抱え込んでいる。これが最後の父と娘の和解シーンに繋がっていく。見ていてロバート・ロレンツの『人生の特等席』を思い浮かべてしまいました。

A: クリント・イーストウッドが寡夫の野球スカウトマンになった映画ですね。娘をエイミー・アダムスが演じた。父親は娘が6歳頃にレイプされそうになったことがトラウマになっている。娘は覚えていないが、突然親戚に預けられた理由を父から嫌われたと勘違いして大人になる。

B: 最後に真相が分かって父と娘は和解する話でした。

 

  

         (生き方に行き詰まって混乱しているアルマ、映画から)

 

A: 叔父も最後にやっと顔を出した別居中の妻と手をつなぎ、いずれアルマもラファと結ばれることが暗示されて映画は終わる。

B: 祖父を救うことはできなかったが、観客は幸せな気分で席を立てるというわけです。コメディとしてもヒューマンドラマとしても品良く仕上がっていた。

 

A: 伏線の貼り方も巧みで、例えば8歳のアルマが切り倒されそうなオリーブの樹に登って抵抗するシーンは、エネルギー関連会社に飾られたオブジェに攀じ登るシーンとリンクする。
B
: 祖父が接木の方法をアルマに教えるシーンは、デュッセルドルフから持ち帰ったオリーブの小枝の接木に繋がっていく。ツボを押さえた構成に感心した。

 

 

    (アルマに接木の仕方を教える祖父ラモン、映画から)


A
: ディレクターのカレロ氏による監督キャリア紹介、この映画のアイディアはどこから生れたか、樹齢2000年の「モンスター・オリーブ」の樹をどのようにして見つけたか、祖父のキャスティングはどうやって見つけたか、などが会場で話し合われた。

B: 作品紹介で既に紹介しておりますから、そちらにワープして下さい。

 

A: やはり祖父役探しに苦労したと語っていました。オーディション会場にきてくれる人がいなくて、演ってもらえそうな人に声をかけたが「忙しい」と断られたとか(笑)。

B: トラクターから下りてきた農民のマヌエル・クカラさんに監督とキャスティング担当のミレイア・フアレスが一目惚れ、出演を粘って引き受けてもらえた。

A: 彼のように農作業をしている手をしたプロの俳優さんはいませんからね、現地で見つけるしかない。セリフは少なくてもアマチュア離れしていた。

 

B: セリフが少ないのはラファ役も同じ、却って難しい。ペプ・アンブロスも難しかったと語っていた。却ってアナ・カスティーリョ(アルマ)やハビエル・グティエレス(叔父)のほうが演りやすい。グティエレスはアルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』(14)でゴヤ賞を含めて主演男優賞を総なめしたが、こちらは思慮深い刑事役でした。

A: ロドリゲス監督の『スモーク・アンド・ミラーズ』は、今年のラテンビートの目玉でした。

B 来春、劇場公開が決まったようで、見逃した方で、人生を立て直したい人、幸せになりたい人にお薦めの映画です。

The Olive Tree』(“El olivo”)の作品紹介は、コチラ⇒2016719