「ロス・カボス」映画祭2016*メヒコ・プリメロのグランプリは”X500”2016年11月19日 10:33

         コロンビアのフアン・アンドレス・アランゴの“X500

 

      

 

★第5ロス・カボス映画祭119日~13日)の結果発表があり、フアン・アンドレス・アランゴX500が受賞しました。まだ5回と歴史も浅く知名度も高くありませんが、将来的には重要な映画祭になるのではないかと思います。開催地はバハ・カリフォルニア・スール州のリゾート地カボ・サン・ルーカス。メキシコの映画祭といえば、老舗のグアダラハラ、若いシネアストたちの信望が厚いモレリアは何度かご紹介していますが、本映画祭は初めてのご紹介です。正式名は「Festival Internacional del Cine de los Cabos」(英語略語CIFF)です。

 

★この映画祭の趣旨は、メキシコ、米国、カナダの架け橋となるような映画に贈られる賞、国境に壁ではなく橋を架けることを目的にした映画祭のようです。大きく分けるとメヒコ・プリメロ部門とワールド部門になります。今年のメヒコ・プリメロには、次の6作が選ばれました。サンセバスチャン映画祭でご紹介した“X500”が受賞したこと、今後イベロアメリカ映画の台風の目になるだろうことを予想してアップいたします。副賞としてグランプリには20万ドル、以下他の各賞にもそれぞれ賞金が授与される。

  

 

*メヒコ・プリメロMéxico Primero

1X500(メキシコ=カナダ=コロンビア)監督:フアン・アンドレス・アランゴ

  (コロンビア) 最優秀作品賞受賞、副賞20万ドル

2)“Los Paisajes”(2015フランス=メキシコ=イギリス)同:ロドリゴ・セルバンテス

3Tamara y la Catarina(メキシコ=スペイン)同:ルシア・カレラス

  アート・キングダム賞、FIPRESCI賞を受賞

4)“Carroña”(メキシコ)同:セバスティアン・イリアルト(メキシコ)

5Bellas de noche ドキュメンタリー(メキシコ)同:マリア・ホセ・クエバス 審査員賞

6)“La región salvaje”(メキシコ=デンマーク)同:アマ・エスカランテ(メキシコ)

 

   

       (第5回ロス・カボス映画祭2016の受賞者たち、20161113日)

 

2カ国以上の合作を選考基準にしているようですが、上記からも分かるように必ずしもそうなっていないが、メキシコ以外の製作者がタッチしているケースが多い。昨今では合作が多く、1国単独での映画製作は難しくなっている。Carroñaのセバスティアン・イリアルトは、“A tiro de piedra”(10)で長編デビュー、アリエル賞の作品賞と第1作監督賞を受賞している。“Carroña”をプロデュースしたベレン・カストロなど女性の躍進が珍しくなくなっている。

 

★今年はアメリカ大統領選挙投票日の翌日に開催、「国境に壁を作る」を選挙キャンペーンの一つにしたトランプ氏がまさかまさかの次期アメリカ大統領になり、メキシコに激震が走りました。「豊かな北」を目指すラテンアメリカ諸国民にとっては厳しい冬になりそうです。“La región salvaje”は、今年のベネチア映画祭に初ノミネートされたアマ・エスカランテが監督賞を受賞した作品です。

X500”の作品紹介記事は、コチラ⇒201692

La región salvaje”ベネチア映画祭監督賞受賞の記事は、コチラ⇒2016917

 

   

                     (フアン・アンドレス・アランゴの“X500”)

 

★セクション・オフィシャルのグランプリは、イギリスのアンドレア・アーノルドAmerican Honey16,英=米)が射止めました(副賞20万ドル)。カンヌ映画祭2016の審査員賞&エキュメニカル特別メンション賞受賞作品、カンヌではお馴染みの監督。長編デビュー“Red Road”(06)と第2作『フィッシュ・タンク』(09)がカンヌ映画祭の審査員賞をそれぞれ受賞している。後者はテレビ放映もされたのでご覧になっている方も多いと思います。今年の受賞者で目立つのが女性の活躍でしょうか。

 

    

 (アンドレア・アーノルドの“American Honey”)

 

★生涯功労賞にイタリアの女優モニカ・ベルッチが選ばれ、華を添えました。栄誉賞はメキシコの撮影監督ロドリゴ・プリエト、代表作品はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』(99)以降、『ビューティフル』(10)など多くの作品を手掛けている。アルモドバルが呼び寄せて撮らせた『抱擁のかけら』(09)、スコセッシの『ウォール・ストリート』(13)、アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』(05)、『ラスト、コーション』(08)など公開作品も多く、監督からの信頼も高い。

 

   

                     (受賞のスピーチをするモニカ・ベルッチ)

 

   

   (受賞のスピーチをするロドリゴ・プリエト)

 

チロ・ゲーラがアカデミー賞2016外国語映画賞5作品にノミネーション2016年01月17日 21:19

    ラテンアメリカ映画が昨年につづいて最終候補に残った

★カンヌ映画祭2015以来、コロンビアの監督チロ・ゲーラEl abrazo de la serpiente(英題“Embrace of the Serpente”)をご紹介し続けていますが、嬉しいことにノミネーション5作品に踏みとどまりました。先日、第7回京都ヒストリカ国際映画祭で『大河の抱擁』の邦題で上映されていたことを記事にしたばかりです。昨年はアルゼンチンのダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』とラテンアメリカはとにかく元気です。ただし受賞はハンガリーの『サウルの息子』に決定だそうです(笑)。ノミネーションされることが名誉だそうですから、まあ、いいでしょう。一般公開されることを祈ります。

カンヌ映画祭2015「監督週間」の記事は、コチラ⇒2015524

 

   

                 (オリジナル版のポスター)

 

★昨年のゴヤ賞名誉賞を貰ったアントニオ・バンデラス主演のAutómata2014)が、『オートマタ』の邦題で、35日公開予定です。サンセバスチャン映画祭2014に正式出品されたガベ・イバニェスの近未来SFスリラー、時は2044年、人工頭脳搭載のロボット「オートマタ」が自ら修理改造を始める・・・離婚前のメラニー・グリフィスが共演している。だいぶ公開までに時間が掛かりました。

サンセバスチャン映画祭2014での関連記事は、コチラ⇒2014916

 

    

           (アントニオ・バンデラスとオートマタ、映画から)

 

★ゴヤ賞2015の作品賞・監督賞以下10カテゴリーを独占したアルベルト・ロドリゲスのLa isla mínimaが、『マーシュランド』(英題“Marshland”)の邦題で、昨年102週間限定で公開されていました。昨年のラテンビート上映を期待して詳細な記事をアップしておりましたのに、不覚にも公開情報をキャッチできませんでした。DVD発売を待つしかありません。

La isla mínima”(2014)の主な関連記事は、コチラ⇒2015124

 

  

         (ラウル・アレバロとハビエル・グティエレス、映画から)

 

チロ・ゲーラ最優秀作品賞を受賞*カンヌ映画祭2015 ⑦2015年05月24日 17:28

           このような瞬間を夢見ていた!

 

★午前中チロ・ゲーラの“El abrazo de la serpienteの記事をアップしたばかりですが、「監督週間」の最優秀作品賞受賞のニュースが飛び込んできました。日本は「ある視点」部門の黒沢清の『岸辺の旅』が監督賞受賞で沸いていますが(沸いていない?)、コロンビアでは「批評家週間」の“La tierra y la sombra”に続いての受賞、それも作品賞受賞に沸いています。上映後のプレス会見、マイクを持って話しているのが老カラマカテ役のドン・アントニオ、右が監督(写真下)。

 


★上映後のオベーションが「10分」という記事に、「もしかしたら」が本当になりました。一週間前からカンヌ入りしていた監督以下出演者ともども、夢みたいでしょうね。既にヨーロッパ、米国、アフリカ、ラテンアメリカなど、関連映画館3000館の配給が決まったようです。個人的にも今年のカンヌ上映作品で一番見たい作品がコレ、秋の映画祭でどこかが拾ってくれないかしら。

 

                 

               (アマゾン川で撮影中のスタッフ)

 

★「主人公カラマカテの役を演れるのは、この二人以外に考えられなかった」とニルビオ・トーレスとアントニオ・ボリバルを讃える監督。壮年期のカラマカテを演じたドン・アントニオは、現在生き残っている最後の先住民の一つといわれるオカリナ族ということです。

 

      

    (素晴らしい演技をしたというアントニオ・ボリバル、ポスターから)

   

★前回も書いたことですが、「コロンビアの国土の半分はアマゾン川地域、しかし私たちはアマゾンに背を向けてその存在を無視してきた。彼らの考え、彼らの文化や歴史を何も知らないのです」と繰り返しています。コロンビアでもすでに公開されていますが、現代のコロンビア人は何を感じるのでしょうか。

 

「監督週間」ラテンアメリカから2作*カンヌ映画祭2015 ⑥2015年05月24日 11:27

           チロ・ゲーラの第3作目“El abrazo de la serpiente


★「監督週間」ではスペインからはフェルナンド・レオン・デ・アラノアの“A Perfect Day1作だけということで、言語が英語にもかかわらず簡単に紹介しています。今年はコロンビア映画が意気盛ん、裾野の広がりを実感しています。これからご紹介するチロ・ゲーラ2009年の第2Los viajes del vientoがカンヌ本体の「ある視点」に選ばれ、「ローマ市賞」を受賞しています。今回は2度目のカンヌ、主人公の老若2人のシャーマン、カラマカテKaramakateとプロデューサーのクリスティナ・ガジェゴたちと一緒にカンヌ入りしています。

 

    

  (左から、ゲーラ監督、ニルビオ・トーレス、ドン・アントニオ、クリスティナ・ガジェゴ、

アントワーヌ・セビレ在仏コロンビア大使)

 

El abrazo de la serpiente2015Embrace of the Serpent”)

製作:Buffalo Producciones / Caracol Televisión / Ciudad Lunar Producciones 他 

監督・脚本:チロ・ゲーラ

脚本(共同):ジャック・トゥールモンド・ビダル

撮影:ダビ・ガジェゴ

音楽:ナスクイ・リナレス

編集:エチエンヌ・ブサック

データ:コロンビア≂ベネズエラ≂アルゼンチン、スペイン語他、アドベンチャー・ミステリー、モノクロ、125分、撮影地バウペスVaupésの密林ほか、コロンビア521日公開

 

キャストニルビオ・トーレス(青年カラマカテ)、アントニオ・ボリバル(老年期のカラマカテ)、ヤン・バイヴート、ブリオンヌ・デイビス(エヴァンズ)、ヤウエンク・ミゲ(マンドゥカ)、ミゲル・ディオニシオ、ニコラス・カンシノ(救世主・アニゼット)、ルイジ・スシアマンナ(ガスパー)、ほか

 

    

   (青年カラマカテ役のニルビオ・トーレスとドイツ人民族学者役のヤン・バイヴート)

 

プロット:アマゾン川流液に暮らすシャーマンのカラマカテと、聖なる薬草を求めて40年の時を隔てて訪れてきた二人の科学者との遭遇、友好、誠実、意見の食い違い、背信などが語られる叙事詩。カラマカテは自分自身の文明からも離れて一人ジャングルの奥深く隠棲して数年が経った。自然と調和して無の存在「チュジャチャキ」になろうとしていた彼の人生は、幻覚を誘発する聖なる樹木「ヤクルナ」を探しにやってきたアメリカ人植物学者エヴァンズの到着で一変する。悠久の大河アマゾン、文明と野蛮、聖と俗、シンクレティスモ、異文化ショック、ラテンアメリカに特徴的な<移動>も語られるであろう。

 

*監督キャリア・フィルモグラフィー*

チロ・ゲーラCiro Guerraは、1981年セサル州リオ・デ・オロ生れ、監督・脚本家。コロンビア国立大学の映画テレビを専攻する。長編デビュー作“La sombra del caminante”(2004)は、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭2005で観客賞を受賞。第2作“Los viajes del viento”(2009)がカンヌ映画祭での高評価をうけ、多くの国際映画祭で上映された。ボゴタ映画祭2009監督賞、カルタヘナ映画祭2010作品賞・監督賞及びサンセバスチャン映画祭2010スペイン語映画賞などを受賞。(写真下“Los viajes del viento”から



 

*解説・トレビア*

★「本作のアイデアは、20世紀初頭コロンビアのアマゾン川流液を踏査したドイツの民族学者テオドール・コッホ≂グリュンベルクとアメリカの生物学者リチャード・エヴァンズ・シュルテスについての新聞記事に触発されて生れた」とゲーラ監督。「二人が残してくれた記録があったからこそできた映画、そういう意味で先人たちへのオマージュが込められている。コロンビアの国土の半分はアメゾン川流域、しかし現代のコロンビア人の多くは、そこがどういうところか、どんな文化があるのか、どういう人が住んでいるのか、何にも知らない」とも。

 

★先に訪れたドイツ人コッホ≂グリュンベルクを造形した役にはベルギー(アントワープ)出身のヤン・バイヴートが扮する。ちょっと雰囲気が本人に似ている。東京国際映画祭2013で上映されたアレックス・ファン・ヴァーメルダムの『ボーグマン』で主役になった俳優。なんとも人を食った神経がザワザワする映画でした。40年後にやってくるエヴァンズには米国の俳優ブリオンヌ・デービスが扮した。リチャード・エヴァンズ・シュルテス**を造形しているようだ。

 

     

       (左から、マンドゥカ、テオドール、青年カラマカテ映画から)

 

テオドール・コッホ≂グリュンベルクTheodor Koch-Grünberg18721924)は、ドイツの グリュンベルクに生れ、20世紀の初め南米熱帯低地を踏査した民族学者。第1回目(190305)がアマゾン川流域北西部のベネズエラと国境を接するジャプラYapuraとネグロ川上流域の探検をおこない、地理、先住民の言語などを収集、報告書としてまとめた。第2回目は(191113)ブラジルとベネズエラの国境近くブランコ川、オリノコ川上流域、ベネズエラのロライマ山まで踏査し、先住民の言語、宗教、神話や伝説を詳細に調査し写真も持ち帰った。ドイツに帰国して「ロライマからオリノコへ」を1917年に上梓した。1924年、アメリカのハミルトン・ライス他と研究調査団を組みブラジルのブランコ川中流域を踏査中マラリアに罹り死去。 


      

**リチャード・エヴァンズ・シュルテスRichard Evans Schultes19152001)は、マサチューセッツ州ボストン生れ、ハーバード大学卒の米国の生物学・民族植物学者。ハーバード大学卒、1941年にアマゾン川高地を踏査している。著書『図説快楽植物大全』が2007年に東洋書林から出版されている。多分聖なる樹木ヤクルナyakrunaも載っているのではないか。

 

「チュジャチャキchullachaqui」という語は一種の分身らしく、語源はケチュア語で感情や記憶をなくした空っぽの無の存在になることのようです。言語は予告編からはスペイン語以外のカラマカテのセリフはちんぷんかんぷん、先住民の言語でしょう。当然ドイツ語、英語も混じっているはずです。二人のカラマカテはネイティブ・アメリカンです。


       (監督とプロデューサーのクリスティナ・ガジェゴ、カンヌにて)

 

            ***   ***   ***

★この「監督週間」には、チリのマルシア・タンブッチ・アジェンデのドキュメンタリーAllende, mi abuelo Allendeも選ばれていますが、これは今春「我が祖父、アジェンデ」の仮題でアップしたばかりなので割愛いたします。「もう一つの911といわれるチリの軍事クーデタ」で自ら生を絶ったサルバドール・アジェンデ大統領の遺族のその後を辿ったドキュメンタリー。監督は大統領の孫娘です。作品紹介並びに監督紹介もしております。写真下は祖父アジェンデに抱かれた監督(左)と従姉マヤ、アジェンデ夫人。

 

Allende, mi abuelo Allende”(2014)の記事はコチラ⇒201539

 

「批評家週間」のグランプリは”Paulina”*カンヌ映画祭2015 ⑤2015年05月23日 11:43

       La tierra y la sombra”も新人賞を受賞

★ラテンアメリカ勢が大賞を独り占めするなんて。カンヌ本体と並行して開催される映画祭だが、ノミネーションが7作と少ないせいか21日の夜に早々と受賞作品が発表になりました(本体は24日)。アルゼンチンのサンティアゴ・ミトレのPaulinaLa patotaがグランプリ、コロンビアのセサル・アウグスト・アセベドのLa tierra y la sombraが作品賞とSACDを受賞、今年はスペイン語映画が気を吐きました。

SACDLa Société des Auteurs et Compositeurs Dramatiques 優れた映画・演劇・音楽・舞踊などに与えられる賞のようです。2012年にスペインのアントニオ・メンデス・エスパルサの“Aqui y alla”が受賞しています。同年のサンセバスチャン映画祭で上映、さらに東京国際映画祭2012ワールド・シネマ部門で『ヒア・アンド・ゼア』(西≂米≂メキシコ合作)の邦題で上映されました。 


★「受賞を誇らしく思い本当に幸せにひたっています。(ディレクターの)シャルル・テッソンや審査員の方々すべてに感謝の気持ちでいっぱいです。私たちの映画にこんな大きな賞を与えてくれて、私やこの映画に携わった一同にとって今日は重要な日になりました。また観客と一緒に自分たちの映画を見ることができ、映画がもたらす観客のリアクション、エモーションを共有できました。・・・映画を作ることは信念がなければできません。この映画のテーマはそのことを語ったものです。パウリーナのような特殊な女性を通じて、信念について、公平について、政治について語ったものです」(ミトレ監督談話の要約)

 


★第1作『エストゥディアンテ』(2011)は政治的な寓話でした。本作のテーマは信念、自分の行くべき道は自分で決めるという選択権についてでした。1960年版の“La patota”と時代は違いますがテーマは同じということです。

 

「批評家週間」のディレクターのシャルル・テッソンがノミネーションの段階でサンティアゴ・ミトレの映画を褒めていたので、もしかしたら何かの賞に絡むかと期待していましたが、まさかグランプリを取るとは思いませんでした。監督の喜びの第一声がテッソンや審査員への感謝の言葉だったことがそれを象徴しています。(写真下サンティアゴ・ミトレ監督)
 

                                          

★今年の審査委員長はイスラエルの女優&監督のRonit Elkabetz だったことも幸いしたかもしれません。「主人公が多くのリスクにも拘わらず、体を張って自分の意志を貫こうとする姿に強い印象を受けた」と授賞の理由を語っています。

 

                       (La tierra y la sombra

Paulina”(La patotaの記事はコチラ2015521

La tierra y la sombraの記事はコチラ2015519

「批評家週間」にラテンアメリカから2作*カンヌ映画祭2015 ③2015年05月19日 13:35

 


         秀作の予感がする“La tierra y la sombra

 

★今年54回を迎える「批評家週間」のオフィシャルは7本、うちラテンアメリカから選ばれたのが、コロンビアのセサル・アウグスト・アセベドのデビュー作La tierra y la sombra2015)とアルゼンチンのサンティアゴ・ミトレLa patota2015、“Paulina”のタイトルで上映)の2本です。デビュー作または2作目ぐらいから選ばれるから知名度は低い。しかし新人とはいえ侮れない。ここから出発してパルムドールに到着した監督が結構いますから。まずコロンビアの新人セサル・アウグスト・アセベドの作品から、予告編から漂ってくるのは心をザワザワと揺さぶる荒廃と静寂さだ。

 


★地元コロンビアでは「1100作品の中から選ばれたんだって」と、このビッグ・ニュースに沸いている。初めて目にする監督だしキャストも、マルレイダ・ソト以外はオール新人のようですが、地元メディアも「この高いレベルをもった映画が、我が国の映画館で早く鑑賞できるよう期待している」とエールを送っている。Burning Blueが主たる製作会社なのも要チェックです。ここでは簡単に紹介しておきますが、後できちんとアップしたい映画であり監督です。

 

La tierra y la sombra(“Land and Shade”)

製作Burning Blue(コロンビア)、 Cine-Sud Promotion(仏)、Tocapi Films(蘭)、

Rampante Films(チリ)、Preta Porte Films(ブラジル)

監督・脚本セサル・アウグスト・アセベド

製作国コロンビア、仏、オランダ、チリ、ブラジル

データ2015年、言語スペイン語、97分、撮影地コロンビアのバジェ・デル・カウカ、製作費約57万ユーロ、ワールド・プレミアはカンヌ映画祭2015「批評家週間」

 


受賞歴・援助金:カルタヘナ映画祭2014で監督賞。2009年コロンビア映画振興より5000ドル、2013年「ヒューバート・バルス・ファンド」より脚本・製作費として9000ユーロなど

Hubert Bais FundHBF’(1989設立):オランダのロッテルダム映画祭によって「発展途上国の有能で革新的な映画製作をする人に送られる基金」、ラテンアメリカ、アジア、アフリカの諸国が対象。当ブログでアップしたコロンビアの監督では、昨年東京国際映画祭で上映された『ロス・ホンゴス』オスカル・ルイス・ナビアが貰っている。
本作の記事はコチラ
20141116

 

キャスト:ハイマー・レアルHaimer Leal(アルフォンソ)、イルダ・ルイスHilda Ruiz(妻アリシア)、エディソン・ライゴサEdison Raigosa(息子ヘラルド)、マルレイダ・ソトMarleyda Soto(嫁エスペランサ)、フェリペ・カルデナスFelipe Cardenas(孫マヌエル)他

 

         (17年ぶりに帰郷した祖父アルフォンソと孫のマヌエル)

 

プロット:サトウキビを栽培する農民一家の三世代にわたる物語。アルフォンソは17年前、妻と一人息子を捨てて故郷を後にした。老いて戻ったきた故郷は自分の知らない土地に変わり果てていることに気づく。アリシアは土地を手放すことを拒んで家族を守ろうと懸命に働いている。重病のヘラルドは母親を助ける力がない。気丈なエスペランサは姑と共に闘っている。小さなマヌエルは荒廃の真っただ中で成長していた。家族は目に見えない脅威にさらされ家族は崩壊寸前だった。アルフォンソは愛する家族のためにも過去の誤りに直面しなければならなかった。粗末な家と荒々しいサトウキビ畑に取り囲まれた1本の樹、ミクロな視点でマクロな世界を照射する。

 

           (サトウキビ畑で働くエスペランサとアリシア)

 

解説:背景に前世紀から続いているコロンビア内戦が透けて見える。長い年月をかけて温めてきたテーマを静謐に描いているようだ。脚本執筆中に母親を失い、その中でゴーストのようになった父親、「この映画のテーマは個人的な悲しみから生れた」と監督。そういえば『ロス・ホンゴス』のルイス・ナビアも同じようなことを東京国際映画祭のQ&Aで語っていた。揺るがぬ大地のような女性たち、危機のなかで影のように彷徨う男性たち、平和を知らないで育つ子供たち、ここにはコロンビア内戦の爪痕が色濃く漂っている。ラテンアメリカ諸国でもコロンビアは極端な階層社会、貧富の二極化が進んでいる。二極化といっても富裕層はたったの2パーセントにも満たない。世界一の国内難民約500万人を抱えている国。社会のどの階層を切り取るかで全く違ったコロンビアが見えてくる。

 

トレビア:製作は5カ国に及ぶ乗り合いバスだが、ラテンアメリカの若い世代に資金提供をしているのが、コロンビアのBurning Blueだ。上述した『ロス・ホンゴス』の他、コロンビアではウイリアム・ベガの La Sirga”(2012)、フアン・アンドレス・アランゴ“La Playa D.C.”(2012)など、カンヌ映画祭に並行して開催される「監督週間」や「批評家週間」に正式出品されているほか世界の映画祭に招待上映されている。ホルヘ・フォレロの“Violence”はベルリン映画祭2015の「フォーラム」部門で上映、それぞれデビュー作です。アルゼンチンのディエゴ・レルマン4作目Refugiado2014)にも参画、本作は2014年の「監督週間」で監督キャリア紹介も含めて記事をアップしています(2014511)。

 

セサル・アウグスト・アセベドCésar Augusto Acevedoはコロンビアのカリ生れ、監督、脚本家。『ロス・ホンゴス』の助監督&脚本を共同執筆する。短編“La campana”(2012)はコロンビア映画振興基金をもとに製作した。

 

エスペランサ役のマルレイダ・ソトMarleyda Sotoは、カルロス・モレノの力作“Perro come perro”(2008)の脇役で映画デビュー、同じ年トム・シュライバーの“Dr. Alemán”では主役を演じた。麻薬戦争中のカリ市の病院に医師としてドイツから派遣されてきたマルクと市場で雑貨店を営む女性ワンダとの愛を織りまぜて、暴力、麻薬取引などコロンビア社会の闇を描く。本作の製作国はドイツ、言語は独語・西語・英語と入り混じっている。カルロヴィヴァリ、ワルシャワ、ベルリン、バジャドリーなど国際映画祭で上映された。本作も撮影地はLa tierra y la sombra”と同じバジェ・デル・カウカでした。

 

第1回ガルシア・マルケス短編小説賞にギジェルモ・マルティネス2014年11月24日 18:17

★新しい文学賞「ガルシア・マルケス短編小説賞」の第1回受賞者が、アルゼンチンの小説家で数学者のギジェルモ・マルティネスの“Una felicidad repulsiva”(2013、プラネタ社、アルゼンチン)に決定、去る1121日、コロンビアの首都ボゴタで授賞式がありました。コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領よりトロフィーが手渡されました。ガルシア・マルケスのコロンビアでの国葬に拘った少々目立ちたがり屋の大統領ですね。

Premio Hispanoamericano de Cuento Gabriel Garcia Marquezが正式名称、今年417日にメキシコ市の自宅で亡くなった『百年の孤独』の著者、コロンビアのノーベル賞作家に因んだ文学賞。ラテンアメリカ諸国とスペインで出版された短編小説に与えられる。コロンビア文化省・国立図書館、及びスペインのセルバンテス協会が主催、賞金は10万ドル(8万ユーロ)。

 

    (フアン・マヌエル・サントス大統領と受賞者ギジェルモ・マルティネス)

 

★ガルシア・マルケスは1947年の“La tercera resignación”の出版以来、40作以上の短編を書いていたそうで、短編というのは「日常生活での飾らない人間の本質に手を加えずに描くことができるジャンル」と語っていた由。短編は重要だと分かっていても売れないから、出版社はどうしても敬遠する。その短編に光を当てた賞がやっと登場しました。選考委員は、委員長にスペインの作家クリスティナ・フェルナンデス・クバス、コロンビアの風刺作家でジャーナリストのアントニオ・カバジェロ、エルサルバドルのオラシオ・カステジャノス・モヤ、アルゼンチンのメンポ・ジアルディネッリ、メキシコのイグナシオ・パディジャの5人。

 

★最終選考5作品に残った作家と作品:

カロリーナ・ブルック(アルゼンチン)“Las otras

エクトル・マンハレス(メキシコ)“Anoch dormí en la montaña

オスカル・シパン(西)“Quisiera tener la voz de Leonard Cohen para pedirte que te marcharas

アレハンドロ・サンブラ(チリ)“Mis documentos

ギジェルモ・マルティネス 省略

以上は、ラテンアメリカ諸国、スペインで刊行された123作品から選ばれた5作品。

 

受賞作Una felicidad repulsiva”は、23ページの短いものから50ページを越える11作で構成されている。審査委員によると、「思慮の錯乱、偶然がなせる不遇、悪夢を引き離して、繊細なスタイルに溢れている」。また「確固として繊細、そして調和がとれていて、このジャンルを見事に手中にしている」短編集、「日常生活から端を発した不条理なもの、恐怖や幻想性、予期しないものに完璧な手さばきで特殊な視点を反映させた作品」ということです。

ギジェルモ・マルティネスによると、10年間に書きためていた作品で、共通しているのはサスペンスものが多い。「日常生活を描いた物語ですが、ある瞬間に忍びよる不運、悪夢、狂気、ふっと過ぎっていく恐怖」が描かれていると語っている。短編集には、トロツキーの最後の一日について書いたものや、光に当てないで息子を育てている過保護な母親の話、などが入っている。

 


★ギジェルモ・マルティネス Guillermo Martínez1962年、ブエノスアイレス州バイア・ブランカ生れ、作家、数学者、文芸評論家。14歳のときから書きはじめたという早熟な少年だが、「私の最初の文学の師は、最近亡くなった父親です。私たち兄弟に本を読むことの大切さや楽しさを教えてくれたから」とインタビューに答えています。

1984年、国立スール大学数学科卒、1992年、ブエノスアイレス大学で数理論理学の博士号取得、国立学術技術研究審議会の奨学金を得て、オックスフォード大学大学院に留学した。2002年、アイオワ大学の国際作家プログラムに参加した。アルゼンチンの最優秀小説家5人の1人に選ばれている(200407年)。 


  *主な小説と短編集

1989Infielno grande”短編集(レガサ社、アルゼンチン/2001、デスティノ社、西)

1993Acerca de Roderer (プラネタ社、アルゼンチン/1996、デスティノ社、西)

1998La mujer del maestro”(プラネタ社、アルゼンチン/1999、デスティノ社、西)

2003Crímenes imperceptibles”(プラネタ社、アルゼンチン2004デスティノ社、西

Los crímenes de Oxford”に改題)

2007La muerte lenta de Luciana B”(プラネタ社、アルゼンチン/同、デスティノ社、西)

  『ルシアナ・Bの緩慢なる死』(2006、扶桑社、和泉圭亮訳

2011Yo también tuve una novia bisexual”(プラネタ社、アルゼンチン)

2013Una felicidad repulsiva 短編集(プラネタ社、アルゼンチン)

他に文芸評論“Borges y la matematica”(2003)、他

 

アレックス・デ・ラ・イグレシア『オックスフォード連続殺人』08)を見た人でも、オリジナル・タイトルがギジェルモ・マルティネスの“Crímenes imperceptibles”だというのは、推理小説ファン以外は御存じないかもしれない。上記したように2004年にスペインのデスティノDestino社から出版されたとき“Los crímenes de Oxford”と改題され、映画もこちらを採用、日本で翻訳されたときの邦題も『オックスフォード連続殺人』(06、扶桑社、和泉圭亮訳)で出版されました。本作は現在37の言語に翻訳されている本格的なミステリー小説。
(写真下は映画のポスターから)

 

  

   (イライジャ・ウッド、レオノル・ワトリング、ジュリー・コックス、ジョン・ハート)

『ロス・ホンゴス』*東京国際映画祭2014 ③2014年11月16日 22:59

★スペイン語映画の3本目は、最近紹介されることの多くなったコロンビア映画、邦題「ロス・ホンゴス」についての文句は後回しにして、麻薬密売物ではないもう一つのコロンビアが描かれていた。コンペティション部門で3回上映という破格の扱い、ルイス・ナビア監督と製作者ゲルリー・ポランコ・ウリベさんとのQ&Aを織り混ぜております(司会者:プログラミング・ディレクター矢田部吉彦氏、鑑賞日1025日)。

 


     『ロス・ホンゴス』“Los hongos

製作: Contravia Films / Burning Blue / Arizona Films

監督・脚本:オスカル・ルイス・ナビア

共同脚本:セサル・アウグスト・アセベド 他

撮影:ソフィア・オッジョーニ・ハティ

美術:ダニエル・シュナイダー/アレハンドロ・フランコ

音楽:Zalama Crew / La Llegada del Dios Rata / セバスティアン・エスコフェ

編集:フェリペ・ゲレーロ

プロデューサー:ゲルリー・ポランコ・ウリベ

グラフィティ・アーティスト:Fuzil--Arma Gráfica / Mario Wize / La Pulpa / Repso / Mesek

データコロンビア≂仏≂独≂アルゼンチン合作、スペイン語、 2014103分、アジアン・プレミア

ベルリンFFのワールド・シネマ基金、ロッテルダムFFのヒューバート・バルズ基金、イタリアのトリノフィルム・ラボ、ブエノスアイレス・ラボ、カンヌFFのシネ・フォンダシオン・レジデンスの支援を受けて製作された。

受賞歴:ロカルノ映画祭2014(スイス)特別審査員賞受賞&金の豹賞ノミネート

    ロッテルダム映画祭2014  ヒューバート・バルズ基金ライオンズ・フィルム賞(Hubert Bals Fund Lions Film)受賞/TIFF 2014コンペティション出品

トロント、サンセバスチャン、トリノ、カイロ、セビーリャ・ヨーロッパ、各映画祭2014に正式出品。 


キャスト:ジョバン・アレックシス・マルキネス(RAS)、カルビン・ブエナベントゥーラ・タスコン(カルビン)、アタラ・エストラーダ(カルビンの祖母)、グスタボ・ルイス・モントーヤ(カルビンの父グスタボ)、マリア・エルビラ・ソリス(RASの母マリア)、ドミニク・トネリエ(カルビンのガールフレンド)、アンヘラ・ガルシア(パンク・バンドのリーダー)、他

 

ストーリーRASは建設現場の仕事を終えると、毎晩、近所の壁に落書き(グラフィティ)をしている。RASと母親のマリアはパシフィック・ジャングルからカリ東部の町へ移住してきた。RASは眠れない日々が続き白昼夢を見始める。そんな息子を見てマリアは、息子が何かに憑りつかれ、そのうち正気を失うのではないかと心配する。ある日、RASは職を失う。現場からペンキの缶を盗み、家の隣の壁に巨大な絵を描いていたからだ。彼はもうひとりの若いグラフィティ・アーティスト、カルヴィンを探しにいく。ふたりは目的もなく町をさまよう。さながら、道に迷って戻れなくなることを望むかのように。              TIFF公式プログラムより引用)                                      

 

★監督キャリア紹介

オスカル・ルイス・ナビアOscar Ruiz Navia1982年カリ生れ、監督、脚本家、プロデューサー他。コロンビア国立大学の映画学校で学んだあと、バジェ大学の社会情報科を卒業。アントニオ・ドラド・スニェガの“El Rey”(2004)に撮影アシスタントとして参加(これはフィクションであるがカリの麻薬密売王をモデルにした映画)、カルロス・モレノの話題作“Perro come perro”(08)では助監督になった。2006年、バジェ大学の社会情報科の卒業生が設立したContravia Filmsに参加、長編デビュー作El vuelco del cangrejo2009 英題Crab Trap)の製作会社、ベルリン映画祭2010「フォーラム」部門に出品され、批評家連盟賞を受賞したほか、数々の国際映画祭で高評価を得た。また2012年には、ウイリアム・ベガのデビュー作“La sirga”(英題“The Towrope”)をプロデュースした。カンヌ映画祭2012「監督週間」に出品されたほか、トロント、サンセバスチャン、ロンドン、ハバナなど各映画祭に出品された。

主なフィルモグラフィー

2006Al vacio 1,2,3”(短編)

2008En la barra hay un Cerebro”(短編ドキュメンタリー)

2009El vuelco del cangrejo”ベルリンFFの他、ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ2010「特別メンション」、フライブルク映画祭2010、ハバナ映画祭2009、ラス・パルマス映画祭2010などで受賞している他、ノミネーション多数。

2013Solecito”(短編)オーバーハウゼン国際短編映画祭2014「特別メンション」を受賞、他

2014Los hongos”邦題『ロス・ホンゴス』(上記)


     この映画の真髄は「生」である

 

A:: Q&Aは監督が英語、プロデューサーがスペイン語というわけで通訳者二人、やはりこれが難物、時間が掛かりすぎてヤキモキするね。日本の印象、礼儀正しいとか食事が美味しいとかは省略しよう。

B: 何故生れ故郷カリに戻って映画を撮ろうとしたか。カリにいなかったようですね。

A: お祖母さんがガンに罹って看病のために戻った、結局亡くなってしまったのだが、このことがきっかけでカリを舞台にバックグラウンドの違う二人の青年を軸にした「死から生」への物語を撮ろうと考えた。祖母の死というかなり個人的な「痛み」が構想の出発点だったようです。コロンビアのプレス会見では、亡くなったのは5年前と語っていたから、だいぶ前から温めていたようです。

 

B: 監督によれば、「みんなキノコというタイトルだと聞くと、ドラッグとか快楽とか幻覚的なイメージをもつかもしれませんが、このタイトルのメタファーは、腐敗とか死が充満しているなかに突然現れてくる生と希望のシンボルとしてのキノコなんです」と。こう要約してよかったでしょうか。

A: サイケデリックとは全く反対ということですね。キノコは光が届かないジメジメした場所で葉緑素なしで生きていけるし、腐敗したものに生える寄生生物だから「生」とはかけ離れた印象があるけど、腐敗=死から新しい命=生が現れるのも事実です。腐敗した世の中で生きている青年二人に新しい生が訪れる映画です。

 

     沈黙しないよう学ぶための実践マニュアル映画

 

B: サンティアゴ・デ・カリは、太平洋に面したコロンビア南西部に位置するバジェ・デル・カウカ県の県都です。首都ボゴタ(700万)、メデジン(230万)につづいて三番目に人口の多い大都市です(220万)。麻薬密売、バイオレンス、殺人、誘拐、汚職、ゲリラなど、コロンビアのイメージは日本人にはあまり芳しくない。

A:: ラテンビート上映の『デリリオ―歓喜のサルサ―』でも触れましたが、負の遺産が多すぎる。社会の中に道徳や公正さが失われ腐敗があることは否定できない。コロンビアで政治と無縁の映画を撮ることは出来ないが、しかし、そこに新しい血液を注ぎ込むことは出来る、と監督の世代のシネアストたちは考えているようです。

 

B: RASとカルビンは、まだ自分のしたいことが分からないが、グラフィティ・アーティストとして自分たちの考えを壁に描くことで表現しようとする。しかし他人の家の壁に描くわけだから許されないわけですね。

A: 本作に出てくるグラフィティ・アーティストたちは、全員ホンモノで有名人だそうです。彼らの協力を得られたことも成功の理由の一つ。社会の不合理に沈黙しないことがテーマでもあるね。別のセクターに育った二人の若者の友情と都市文化を融合させるにはどうしたらいいか、それが難しかった。グラフィティに辿りついて構想が固まっていった。

 

     お祖母さん役は私の本当の大叔母です!

 

B: 本作は群衆劇ですが、スペイン語では「合唱劇」といわれる。こちらのほうがぴったりする。

A:: 最初は無関係だった登場人物がやがて自然に調和してハーモニーを奏でていくからね。

B: Q&Aの最初の質問者がお祖母さんの生き方や演技を褒めたら、観客から期せずして温かい拍手が沸いた。毎年滋賀県から見に来る有名人らしい()

A: 主催者にとって、こういう観客は貴重な存在だね。監督が「実は私の本当の大叔母です。あのクレージーな父親も私の父親なんです」と答えて、これまた会場は爆笑に包まれた。

 

     (発声練習をするクレージーなお父さん、グスタボ・ルイス・モントーヤ)

 

B: 二人の青年がアマチュアなのは直ぐ分かりましたが、全員が映画初出演ということでしたか、ちょっとはっきり聞きとれなかった。

A:: 全くのアマチュアだけというわけでもないようですが、最初に浮かんだアイディアは登場人物は現実にそれをやってる人に、アーティストの役はカリのマリオ・ワイズを筆頭に実際のアーティストに出てもらう、ミュージシャンも同じようにということだった。一番難しかったのは、RASとカルビンの二人の主人公、それはまるで「藁小屋で落とした針を探す」ようなものだった。

B: 全エストラートの教育センターを巡って約700人ぐらいの若者にインタビューした。

 

A:: カルビン・ブエナベントゥーラ・タスコンが演じたカルビンは、アントニオ・ホセ・カマチョ学校で見つかった。まだ大人になりきっていない体つきと優しい顔つきがぴったりだった。タトゥとピアスをして、両親が離婚したので癌治療中のお祖母さんと暮らしているという設定だった。

B: RASは絵を描くことが好きなアフロ系の青年、そのうえスケボーができることが条件だったのでジョバン・アレックシス・マルキネスは願ったり叶ったりだったとか。

 

A:: 宗教的にはラスタファリズムというアフリカ回帰のジャマイカの宗教を信じていて、そういう宗教的なグラフィティを描く。昼間は建設現場で働くということにした。

B: カルビンの父親と祖母は監督が述べた通りですね。楽しんで演じていたのが伝わってきた。

A:: RASの母マリアに扮したマリア・エルビラ・ソリスはパシフィックの歌手、役柄もパシフィック・ジャングルからカリに移ってきた母子という設定だった。デビュー作El vuelco del cangrejoの舞台がそこで、太平洋に面したブエナベントゥーラ市の近くです。マリアのように白人と黒人の混血ムラートやメスティーソ、黒人が住んでいる地域です。

B: カルビンのガールフレンドのドミニク・トネリエは、パリで演技を学んでいたから全くのアマチュアではない。名前から判断するにフランス系の人ですね。

A: 女性のパンク・バンドのリーダーになったアンヘラ・ガルシアはモデルをしている。この二人の女性からはRASもカルビンもそこそこに遊ばれて、結局はぐらかされてしまう()。二人はまだコドモです。 

               (卵料理を食べるRASと母マリア)

 

A:: お父さんも相当ユニークだが、お祖母さん役のアタラ・エストラーダの演技してない演技が光った映画でした。家族アルバムを説明するシーンで使われたのもホンモノだということでした。ここでコロンビアの歴史の一端を語らせる巧みな演出に感心しました。

B: お祖母さんは癌の放射線治療を受けているのか、髪をスカーフで包んでいる。痒くて眠れないと言うと、孫のカルビンが寝入るまで優しく頭皮を揉んでやる。

A:: このシーンね、デビュー作にも出てくる。主人公が絶望で死にそうになっているとき、女の子が優しく頭を揉んでやる。ああ、これは監督が実際にやってやったり、してもらったりしているんだな、と感動したんです。

B: グラフィティも音楽も素晴らしかったが、こういう一見何でもないシーンが観客を惹きつけるんですね。 

        (ポスターをバックにお祖母さんになったアタラ・エストラーダ)

 

     ロス・ホンゴスかロス・オンゴスか、どっちでもいい?

 

B: タイトル「Los hongos」のスペイン語の意味は、カタログ解説にあるように特別「マッシュルーム」を指しているわけではなく、「キノコ・菌類」のこと、スペイン語はHを発音しないから「オンゴス」にして欲しかった。

A:: 困った題名の一つかな、クレームつけてるブログがあった。個人的には上映してくれるだけで満足すべきと諦めているから「どっちでもいい派」なんです。しかし1年前、最初のタイトル「ブランカニーヴス」にクレームがついたことで、公開時には『ブランカニエベス』に訂正されたことがあった。文句言った人の知名度が物を言ったのかも()

 

B: 誰が見ても聞いても意味不明だから、作品がイメージできない。英語のカタカナ起しは長いと幾度目にしても記憶できないが、もう市民権を得ましたね。

A:: 本作はデビュー作のように英題がまだ決まってないらしく、映画祭でのプレミアは仕方なかったのでしょう。最後のシーンで二人が登る大木は、サマネア・サマンといって中南米に主に生息する。葉っぱから垂れ下がっている白いものがオンゴスです。大木に寄生しながら「死から生」へ向かう、未来を二人が確信するシーンです。

B: 記憶に残る美しいシーンでしたが、ちょっとあり得ない展開でした。最後にきて飛躍が起こった印象でした。 

           (サマネア・サマンの木の下のRASとカルビン)

 

A: このブログはまだ1年ちょっとしか経っていませんが、アンドレス・バイス、フランコ・ロジィ、リカルド・ガブリエリなど、既にコロンビア映画を10本ほど記事にしています。テーマも切り口も多様、最近の躍進ぶりは5年ほど前のチリ映画を思い起こさせます。オスカー賞2015のコロンビア代表作品に選ばれたのは、マリア・ガンボアのデビュー作Mateoと、これまた新星現るで、裾野が広がってきたことは間違いありません。

 


エストラートestrato1993年に創設された「社会プログラム受益者選定システム」のこと。各家庭の経済状態を「1から6」までの階層に格付けしたもの。各家族が国家に納めるべき税金の額によって社会階層が決まってくる。もっとも社会経済状態が低いのが「階層122.3%)で、「階層241.2%)が多数を占める。「階層3」は中の下の階層、都会に住む大多数の家族が「23」である。「階層4」は中流階級に入り、プロフェッショナルな職業についている人や商人である。階層5」(1.9%)は中流の上、「階層6」(1.2%)は、邸宅や豪華マンションに住み数台の車を所有し、持てるすべてのものを持つエリートである。証明書が発行され、それによって公共料金の額(階層1は免除)とか、大学授業料が決まる仕組みRASの家庭は「階層1」、カルビンの家は「23」でしょうか。コロンビアが階層によって分断された社会であることが、監督の「政治抜きに映画は作れない」という発言になっていると思います。

 

『デリリオ 歓喜のサルサ』 *ラテンビート2014 ④2014年09月25日 15:07

★コロンビア映画ならカンヌ映画祭「批評家週間」ノミネーションのフランコ・ロジィの長編デビュー作Gente de bien”と予想していましたが外れてしまいました(⇒201458に記事UP)。昨年はアンドレス・バイスの『暗殺者と呼ばれた男』『ある殺人者の記録』と2本上映されました。また以前セルバンテス文化センターで特別上映された(213日)リカルド・ガブリエリの『ラ・レクトーラ/読者』が、10月の土曜映画上映会で再上映されます(日本語字幕付)。前回も日本語字幕がアナウンスされていましたが結果は英語でしたので要確認です(⇒2014219に記事UP)。では、サルサ・ショーのメッカ<デリリオ>へ、「ウノ・ドス・トレス・・・」、私たちも「シンコ・セイス・シエテ・・・」と、バモス・ア・バイラール。

 

    Ciudad Delirio

 

製作B4-A Films / Film Fatasl / TVE

監督:チュス・グティエレス

脚本:エレナ・マンリケ/チュス・グティエレス

音楽:タオ・グティエレス

撮影:ディエゴ・ヒメネス 


キャスト:カロリーナ・ラミレス(アンジー)、フリアン・ビリャグラン(ハビエル)、イングリッド・ルビオ(パロマ)、ホルヘ・エレーラ(バソ・デ・レイチェ)、ジョン・アレックス・カステリ、ミゲル・ラミロ、他

 

データ:コロンビア≂スペイン、スペイン語、コメディ、2014100分、

撮影地:カリ/バジェ・デル・カウカ、公開:コロンビア411日、スペイン95

モントリオール映画祭2014822日上映)、釜山映画祭2014104日上映)、他

 

解説:スペイン人の医師ハビエルは、仕事で訪れたコロンビアのカリでサルサスクールのオーナーであるアンジーに心奪われる。彼女は世界で最も有名なサルサショー「デリリオ」のオーディションに挑むべく生徒たちと日夜練習に励んでいた。決して交わることのなかった二つの人生が再び交差したとき、誰もが踊る街が愛と情熱に染まる!振付は明和電機とのコラボ「ROBOT!」等、世界的に活躍するスペイン人コレオグラファー、ブランカ・リーが手掛けた。  (ラテンビート公式サイトからの引用)

 

★コロンビアと言ったらパブロ・エスコバル率いる麻薬密売組織メデジン・カルテル、首領亡き後壊滅したメデジンにとって代わって台頭したカリ・カルテルをイメージするでしょうか。それはひと昔ふた昔のハナシ、今ではサルサ・ショーのメッカはサンチャゴ・デ・カリだと言うではありませんか。でもテロリストに土地を奪われコロンビアじゅうを放浪しつづけている国内難民500万人(ONUデータ、ケタ間違っていません)、更に裁判報告書によれば、2013年コロンビアで殺害された人は14000人に上ると聞けば、依然、暴力によって簡単に命を失う危険な国の一つであることに変わりありません。

 

★コロンビアは「エストラート」と言われる階級社会で、納めた税金の額でエストラート「1から6」までの階層がある。その数字は表向きで、実際は「10以上」に分断されているという。つまり「1」にも含まれない「0」があり、お金と権力を持つ一握りの「56」も、5-、5+、6-、6+と分かれていると言うわけです。サルサ・ショー観覧には「56」階層は以前ならバカにして行かなかったが、今では特別席を設えて見に来るという。「3以下0」はいわゆる平土間で見る。コロンビアで封切られた初日には、多くの観客が鑑賞を断念したという。「もう大騒ぎだったのよ、夜のチケットをゲットするのに昼間から行列しなければならなかったんだから」、過熱していることは本当のようです。

 

★本作は昨年のコロンビアへの旅から始まったとグティエレス監督、入念なリサーチをもとに物語は構成されている(2013824日クランクイン)。内気で口数の少ないスペイン人医師ハビエルとサルサのダンサー兼振付師のコロンビア女性アンジーのロマンティック・コメディ(内気で口数の少ないスペイン男性もいるんですね)。しかしバックボーンには異なった二つの文化や価値観の違いを描くアカデミックな物語でもあるようです。それが監督の持ち味、以下の経歴をみれば頷けるはずです。 


★監督紹介

*チュス・グティエレスChus Gutiérrez (本名María Jesús Gutiérrez):1962年グラナダ生れ、監督、脚本家、女優。本名よりチュス・グティエレスで親しまれている。8歳のとき家族でマドリードに移転、197917歳のときロンドンに英語留学、帰国後映像の世界で働いていたが、1983年本格的に映画を学ぶためにニューヨークへ留学し、グローバル・ビレッジ研究センターの授業に出席、フレッド・バーニー・タイラーの指導のもと、スーパー8ミリで短編を撮る(“Porro on the Roof1984、他2篇)、1985年、シティ・カレッジに入学、1986年、最初の16ミリ短編“Mery Go Roundo”を撮る。ニューヨク滞在中にはブランカ・リー、クリスティナ・エルナンデス、同じニューヨークでパーカッション、電子音楽、作曲を学んでいた弟タオ・グティエレスと一緒に音楽グループ“Xoxonees”を立ち上げるなどした。2007年には、CIMAAsociacion de Mujeres de Cine y Medios Audiovisuales)の設立に尽力した。これは映画産業に携わる女性シネアストたちの平等と多様性を求める連合、現在300名以上の会員が参加している。

  


1987年帰国、長編デビュー作となるSublet1991)を撮る。まだ女優だけだったイシアル・ボリャインを主人公に、製作は昨年初来日したフェルナンド・トゥルエバ夫人のクリスティナ・ウエテが手掛けた。『ベルエポック』『チコとリタ』『ふたりのアトリエ』ほか、今年梅田会場から上映される義弟ダビ・トゥルエバの『Living Is Easy with Eyes Closed』も当然製作しているベテラン・プロデューサー。カディスのアルカンセス映画祭1992金賞、バレンシア映画祭1993作品賞、1993シネマ・ライターズ・サークル賞(スペイン)、ゴヤ賞1993では新人監督賞にノミネートされた。イシアル・ボリャインもムルシア・スペイン・シネマ1993が、ベスト女優賞になる「フランシスコ・ラバル賞」を受賞した。

 

2作“Alma gitana”(1996)は、プロのダンサーになるのが夢の若者がヒターノの女性と恋におちるストーリー、新作『デリリオ』と同じような二つの文化の衝突あるいは相違がテーマとして流れている。他に代表作としてEl Calentito2005)も高い評価を受けた。ベロニカ・サンチェスを主役にしたコメディ、モンテカルロ・コメディ映画祭2005で作品賞他受賞、マラガ映画祭2005ジャスミン賞ノミネート、トゥールーズ映画祭でタオ・グティエレスが作曲賞を受賞した。なお彼は姉の全作品にわたって音楽を担当している。


(グティエレス姉弟)

 

 
最も高い評価を受けたのが7作目となるRetorno a Hansala(“Return to Hansala2008)、当時、実際に起きていた事件に着想を得て作られた。海が大荒れだった翌日、カディスのロタ海岸にはモロッコからの若者11名の遺体が流れ着いた。服装からサハラのハンサラ村の出身であることが分かる。既に移民していたリデアはその一人が弟のラシッドであることを知る。リデアは葬儀社のオーナーと遺体を埋葬するため故郷に向かう。これは異なった二つの社会、価値観、言語の違いを超えて理解は可能か、また若者を送りだしてしまうイスラム共同体の誇りについての映画でもある。

バジャドリード映画祭審査員特別賞/カイロ映画祭2008作品賞「ゴールデン・ピラミッド賞」・国際批評家連盟賞を受賞/トゥールーズ映画祭脚本賞を受賞/グアダラハラ映画祭監督・脚本賞など受賞。ゴヤ賞2009ではオリジナル脚本賞にノミネートされた。

 


カロリーナ・ラミレス Carolina Ramirez1983年サンチャゴ・デ・カリ生れの31歳。最初舞踊家を志していたが、その才能にも拘わらず舞踊家としての必要条件不足で演技者に転向した。テレビ初出演は土曜日曜午前ちゅう放映の子供番組にレギュラー出演、テレノベラ“La hija del mariachi”(2006~08)の成功で、テレノベラのヒロインになる。2010年、歴史上の殉教者Policarpa Salavarrieta愛称ラ・ポーラに題材を取った“La Pola”が大成功、コロンビアで最も愛されるスターとなった。映画デビューは、“Soñar no cuesta nada”(2006)、本作が第2作目、主役のアンジー役を射止めた。他に演劇にも出演と幅広く活躍中。

 
アンジーには、コロンビアではもう伝説的なコレオグラファーになっているビビアナ・バルガスが投影されているようです。2005年ラスベガスで開催された「サルサ世界チャンピオン大会」や「ワールド・ラテン・ダンス・カップ」の優勝者、サルサ学校「Stilo y Sabor」のオーナー兼振付師です。『デリリオ』で描かれたようなレッスン風景は、ここがモデルの一つとか。街のクラブで踊られるサルサと違って、人生を変える目的でサルサを習いに来る、サルサ・ショー出演のためのダンス学校です。

(アンジーとハビエル)

                                 

 

フリアン・ビリャグランFulian Villagran1973年カディス生れの41歳。ラテンビート2006上映のアルベルト・ロドリゲスの『7人のバージン』、同2007年のダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』で既にラテンビートに登場していますが、脇役なので印象に残らなかったかも。1997年のフランセスク・ベトリウの“La Duquesa Roja”で映画デビュー、チキ・カラバンテの“Carlos contra el mundo”(2002)で初の主役、ムルシア映画祭2003で金賞の「フランシスコ・ラバル賞」を受賞、本作はほかに監督賞など受賞している。最近では、アルベルト・ロドリゲスの“Grupo 7”(2012)でゴヤ賞2013助演男優賞受賞、シネマ・ライターズ・サークル賞2013(スペイン)助演男優賞、スペイン俳優連盟賞2013助演男優賞を受賞している。他にフェリックス・ビスカレットの“Bajo las estrellas”(2007)でゴヤ賞2008助演男優賞、シネマ・ライターズ・サークル賞2008(スペイン)助演男優賞、スペイン俳優連盟賞にノミネートされている。

 

★内気で控えめな医師ハビエルは、医学会議に出向いたカリで、偶然出会ったアンジーと魅惑の一夜を過ごす。マドリードに戻ったが彼女が頭から離れず仕事が手につかない。カリで医師として働いている親友パロマを頼って、一定期間カリで仕事をしようと決心する。このパロマ役がイングリッド・ルビオ1975年バルセロナ生れ)です。テレビで活躍中、その演技力、歌唱力、モダンバレエの実力がカルロス・サウラの目にとまり『タクシー』(1996)で長編デビューしました。「スペイン映画祭1997」で来日しています。脇役だから簡単に紹介すると、他にマヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』(2006、翌年公開)にも彼の妹役で出演しています。フランコ末期、最後のガローテ刑で処刑された実在のアナーキスト、プッチ・アンティックの伝記映画。その残酷性ゆえにバチカンからも非難声明が出されたという。

 

      

           (左から、フリアン・ビリャグラン、監督、イングリッド・ルビオ)

 

ラテンビート2014(新宿バルト9上映日時:101118301321002回)


カンヌ映画祭2014*コロンビア発の短編がパルムドール2014年05月30日 19:29

★コロンビアのシモン・メサ・ソトのLeidi(コロンビア=英、16分)は本命視されていませんでしたが、短編部門のパルムドールを受賞しました。短編はUPしませんでしたが受賞したことだし、いずれ長編を撮るだろうと期待してアウトラインをご紹介いたします。ベルギー・アニメの父といわれるラウル・セルヴェのようにパルムドール受賞後も中短編しか撮らない監督もおります。しかし日本でも話題を呼んだ『アマロ神父の罪』のカルロス・カレラやジム・ジャームッシュのように過去の受賞者は長編を撮っています。今年の審査委員長アッバス・キアロスタミ(1940年テヘラン生れ)から手渡されていましたが、彼自身の処女作「パンと裏通り」(1970)も10分の短編でした。まだ詳しい情報が少ないのですが、分かった範囲で監督のキャリア、ストーリーなどをご紹介。 

            (写真:授賞式でのシモン・メサ・ソト監督)

 

シモン・メサ・ソトSimón Mesa Soto:コロンビア第二の都市であるアンティオキア県都メデジン生れの28歳、誕生日前なら1985年生れか。アンティオキア大学マルチメディア&視聴覚コミュニケーション科卒、ロンドン・フィルム・スクールの映画監督科マスターコースで学ぶ奨学資金を得て留学、監督コースの他、撮影監督、撮影技師のプロジェクトに参加。中編Back Homeがロンドン・ナショナル・ギャラリーの録画(再放送用フィルム)部門の一部になった。受賞作はロンドン・フィルム・スクールの卒業制作として撮られた。5ヵ月前に完成しており既に何ヵ所かの映画祭で上映されているようです。

 

★今年の短編部門の応募作品は128ヵ国から3450本の中から9本が選ばれました。日本からも佐藤雅彦他の「八芳園」がエントリーされていました。選ばれるだけでも容易ではありませんが受賞となれば快挙でしょうね。映画発展途上国コロンビアのメディアが騒ぐのも当然です。カンヌ本体とは別団体が組織している「批評家週間」にノミネートされていた同世代のフランコ・ロジィのGente de bienが無冠に終わった鬱憤を解消したかたちになりました(本作の紹介はコチラ58)。

 

ストーリー シングルマザーのレイディLeidi は、小さい息子を抱えて母親と一緒にメデジン北部の共同集落で暮らしている。親としての責任を果たそうとしない赤ん坊の父親アレクシスを探しに出掛けるが・・・。レイディはここメデジンではありふれた自分の身の上話を語りはじめる。

 

(写真:息子の父親を探しにいくレイディ)


 
★彼女はここで暮らしている将来が全く描けない多くの若い母親の一人にすぎない。「レイディのようなメデジンで大きくなった女の子ならここでは簡単に出会うことができる。キアロスタミが『レイディが恋人に凭れかかるシーンを見たとき、これはパルムドールに値するシーンだと感じた』と言ってくれた。僕は胸がいっぱいになって・・」とインタビューで語っています。ポスターにもなったシーンでしょう。


★「これは生れ故郷メデジンの話ですが、レイディのような人物はラテンアメリカなら珍しい存在ではありません」。受賞後の記者会見では、「私の国とラテンアメリカの問題が凝縮されており、それを若い女性の視点から描きたかった」と語った。また「受賞は自分のキャリアに大きなインパクトを与えてくれた。しかしこれで有頂天にならず地道に努力していきたい」とも。

 

★本作は、大先輩監督アンティオキア出身のビクトル・ガビリアやイタリア・ネオレアリズモの作風に近く、シンプルで飾らない物語が展開するようです。ビクトル・ガビリアはRodrigo DNo futuro1990)とLa vendedora de rosas1998)がカンヌのオフィシャル部門に選ばれており(2作とも未公開)、前者は国際的な麻薬組織メデジン・カルテルが牛耳っていた時代のメデジンが舞台、20歳を待たずしてこの世を去っていく若者たちの青春残酷物語。麻薬戦争、私設軍隊パラミリタールやFARCに代表されるゲリラによって土地を奪われた国内難民の急増、コロンビア特有の階層社会が背景にあります。

 

★最近のコロンビアは国情が改善されたとはいえ、和平交渉は未だ道半ば、経済の二極化が深刻になっており、国内難民約500万人(50万ではありません)は「世界一」とアフリカ難民の追随を許さない。2003年の「映画法」成立後、ガビリアの次の世代アンドレス・バイス(『暗殺者と呼ばれた男』)、より若いリカルド・ガブリエリ(『ラ・レクトーラ』)などを当ブログでご紹介してきましたが、またより若い監督がカンヌで認められたことは嬉しい。

 

過去の短編部門パルムドール受賞者

○ラウル・セルヴェ:1928年ベルギーのオースティン生れ。1979年にHarpya(「ハーピア」アニメ)が受賞。

○カルロス・カレラ:1962年メキシコ・シティ生れ。1994年にHéroe(アニメ)が受賞。『アマロ神父の罪』(公開2003)の他、『ベンハミンの女』(同1996)、『差出人のない手紙』(同2000)など。

○ジム・ジャームッシュ:1953年オハイオ州生れ。1993年に「コーヒー&シガレッツ/カリフォルニアのどこかで」が受賞。本作を含めて撮りためていた短編11編を2003年にオムニバス映画『コーヒー&シガレッツ』として完成させた(公開2005)。