ホライズンズ・ラティノ部門第5弾*サンセバスチャン映画祭2016 ⑩2016年09月02日 12:15

     躍進目覚ましいコロンビア映画界の若手JA・アランゴの新作

★今回はボゴタ出身、カナダの奨学金を得てバンクーバーの高校卒業後、コロンビア大学で映画とテレビを学んだという異色の若手監督フアン・アンドレス・アランゴの第2作となる“XQuinientosを取り上げます。デビュー作La Playa DC2012)がカンヌ映画祭「ある視点」にノミネートされ、国際舞台に躍りでた。続いてシカゴ映画祭「新人監督作品」部門、リマ・ラテンアメリカ映画祭「第1回監督作品」部門などでも上映された。ロッテルダム映画祭の映画製作支援資金「ヒューバート・バルス基金」を得て製作された作品です。新作はトロント映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門で先にワールド・プレミアされます。

 

  

 

7“X QuinientosX-500   

製作:Séptima Films(コロンビア)/ Peripheria Productions(カナダ)/

MACHETE PRODUCCIONES(メキシコ)

監督・脚本:フアン・アンドレス・アランゴ

製作者:ホルヘ・アンドレス・ボテロ(Séptima Films)、ヤニック・レトルネアウLetorneauPeripheria Productions)、Edher・カンポス(MACHETE PRODUCCIONES

 

データ:製作国カナダ=コロンビア=メキシコ、2016年、108分、言語スペイン語・フランス語・英語・タガログ語・マサワ(Mazahua)語、撮影地:モントリオール(カナダ)、ブエナベントゥラ(コロンビア西部バジェ・デ・カウカ州)、メキシコ・シティ、ミチョアカン州シタクアロ(メキシコ)、マニラ(フィリピン)。公開コロンビア2017年前半期予定

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2016コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門、サンセバスチャン映画祭2016ホライズンズ・ラティノ部門、共に正式出品作品

 

キャスト:ジョナサン・ディアス・アングロ(アレックス)、 ベルナルド・ガルニか・クルス(ダビ)、Jembi・アルマサン(マリア)、他

 

解説:コロンビア、メキシコ、そしてカナダ、それぞれ愛する家族の死という共通の経験をした3人の若者の物語。環境の異なる土地で暮らす彼らの哀しみは決して交錯することはないが、深い哀しみを乗り越えるための心と体の変容を迫られるというテーマは共鳴しあう。アレックスはアフリカ系コロンビア人のティーンエージャー、コロンビアで最も危険な港湾都市といわれるブエナベントゥラで漁師として暮らしている。しかしアレックスには兄とその仲間の死を無駄にしないためにも、再び米国への密入国を果たさなければならない。ダビは先住民マサワ族の若者、父の死を受け入れられず村を出てメキシコ・シティに移ってきた。しかし首都での先住民差別に直面して自分の居場所を見つけることができない。戦士ダビは自らのアイデンティティを守るため、パンクファッションで武装して新しい人生に立ち向かう。マリアは母親の死を契機にフィリピンのマニラから、祖母アウロラを頼ってカナダに移住してきた。祖母は35年間もモントリオールで暮らしている。マリアはこの新しい北の国での激変を受け入れ耐えねばならない。それは闘いの日々でもあった。

 

    

              (左から、マリア、ダビ、アレックス)

 

★解説に述べたように、ラテンアメリカ映画に特徴的なテーマ〈移動〉を軸に、ブエナベントゥラ、メキシコ・シティ、モントリオールと、異なった言語が入り乱れる三つの空間で、三人の若者の哀しみと自立が語られる。ブエナベントゥラは麻薬都市として有名なカリ市に近い太平洋に面した港湾都市、2012年には犯罪組織同士の抗争が激化、暴力を恐れた住民が国内難民となって故郷を離れている。コロンビアは徹底した階層社会、国内難民の数でも世界の上位にランクされており、最近合意されたという政権vsゲリラ間の和解も調印に漕ぎつけるかどうか。

 

   

        (アレックス役のジョナサン・ディアス・アングロ、映画から)

 

★コロンビア映画の躍進には、長引いた内戦によるさまざまな問題を抱えながらも、「映画振興基金FDC」を設立した現政権の英断がある。カンヌやベルリンなどの国際映画祭の受賞歴を見れば一目瞭然である。言うまでもなく毀誉褒貶のある政権ではあるが評価したい。文化を軽んじた国家がやがて衰退するのは歴史が証明している。

 

フアン・アンドレス・アランゴJuan Andrés Arango Garcia監督は、コロンビアのボゴタ生れ、監督、脚本家、撮影監督。コロンビアの高校在学中、カナダの奨学金を得てバンクーバーの高校に留学、卒業後コロンビア大学で映画とテレビを学んだ。2010TVのドキュメンタリー・シリーズに撮影監督としてデビュー、ドキュメンタリーEsperanza P.Q.12)、TVムービーTop 5Canadá12)を手がけている。2012年長編映画La Playa D.C.で監督デビュー、カンヌ映画祭2012「ある視点」部門にノミネートされたことが、その後の躍進の足掛かりになった。

 

(デビュー作“La Playa D.C.”)

    

 ★トロント映画祭にノミネーションされたことについて、「“XQuinientos”は、特に汎アメリカ的な映画です。ラテンアメリカ映画の一つとして本映画祭で上映されることは、私にとってとても重要な事です」とアランゴ監督。プロデューサーのホルヘ・ボテロも「トロントで上映されることは素晴らしいこと。この映画のテーマは、移民や変革について語ったもので、世界のあらゆる地域で共有できる視点を持つよう心がけました」。やはりカナダでもトロントは英語圏、米国と直結していますからサンセバスチャンより有利かもしれません。ホルヘ・ボテロは、メキシコでは有力な製作者、他にマイケル・ロウの『うるう年の秘め事』(10、ラテンビート2011)、ディエゴ・ケマダ=ディエスの『金の鳥籠』(2014アリエル賞受賞作品、難民映画祭)を手がけている。

 

(フアン・アンドレス・アランゴ監督)

  

       

★上記のプロダクションの協力の他に、数年前に新設されたコロンビアの「映画振興基金FDC」、メキシコ映画協会などの資金支援、カナダ・テレフィルム、Sodec基金の後援を受けて製作された。

トロント映画祭2015*ホナス・キュアロンFIPRESCIを受賞2015年09月25日 22:47

   父親は『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン

 

★年々注目を集めるようになった「トロント映画祭TIFF」も40回を数えた。米国の隣りということで地の利もいいので集客力も凄い。審査員を設定せず、つまり観客賞が最高賞です。ここでの受賞はオスカーにも繋がるから一石二鳥というわけです。2008年以来の受賞作7作のうち6作がノミネートされ、内3作がオスカー像を手にした。例えば、2008年の『スラムドッグ$ミリオネア』、2010年の『英国王のスピーチ』、2013年の『それでも夜は明ける』の3作です。これらのデータから、1994年以来TIFFディレクターとCEOを兼ねるピアーズ・ハンドリングは、「国際映画祭として重要性が増し関心を示してもらえることに誇りに感じています」と。さて今年の受賞作“Room”は果たしてどうでしょうか。

 


          (キュアロン父子、『ゼロ・グラビティ』のころの写真)

 

★スペイン語映画の目ぼしいサプライズは、ホナス・キュアロンの長編第2DesiertoFIPRESCI国際映画批評家連盟賞を受賞したことです。1981年、アルフォンソ・キュアロンを父にメキシコ・シティに生れる。監督、脚本家、プロデューサー、フィルム編集、俳優と何でもこなす。長編デビュー作はAño uña2007)、このときの主演女優Eireann Harperと同じ年に結婚している。『ゼロ・グラビティ』の脚本を父と共同執筆、本作には父も製作者の一人に名を連ねている。親の七光りは大いに利用すべしです。

 


データ:メキシコ=フランス合作、スペイン語・英語、2015年、製作(Esperanto Kino / Itaca Films 他)、94分、トロント映画祭(913日)がワールド・プレミア、ロンドン映画祭(1014日)正式出品が決定している。

 

★物語はメキシコから米国へ徒歩での国境越え、いわゆる不法移民がテーマ、主役にガエル・ガルシア・ベルナルを迎えることができた。不法移民のテーマは過去にもあるし多分未来にも途絶えることなく選ばれると思います。それぞれ切り口は異なっても過去のことではなく、目下進行中のテーマだからです。急遽会場に駆けつけたガエル・ガルシア・ベルナル、「1時間前に到着したばかりで、まだふらふらです。しかしここに来られて最高です。この映画はこれからも息長く記憶に残るだろうと思います。移民問題は熟知してる人、それほどでもない人の違いはあっても、皆が知っている焦眉の急だからです。経済的あるいは治安の悪さと理由はいろいろですが、好き好んで国境越えをしているわけではない」とコメント。「どうか移民たちが生活できますように!」と立ち去り際に叫んでいた由。重いテーマですね。

 


   (当日駆けつけてきたGG・ベルナルと喜びのスピーチをするJ・キュアロン監督)

 

★その他、ベネチア映画祭監督賞受賞作品、パブロ・トラペロの“El clan「ザ・クラン」が審査員特別メンションを受賞、いわゆる佳作です。この映画についてはベネチア映画祭で記事にしています。


「ザ・クラン」の記事は、コチラ⇒201587921


『ヴォイス・オーヴァー』*東京国際映画祭 ②2014年11月13日 21:35

★サンセバスチャン映画祭SIFF 2014「オフィシャル・セレクション」ノミネート作品、クリスチャン・ヒメネス監督は3度目の来日、今回は女性プロデューサー、ナディア・テュランセブとジュリー・ガイエのお二人と一緒でした。SIFFにはスタッフとキャストが揃って参加、話題のジュリー・ガイエさんはパパラッチに追いかけられたようです。TIFFでは2回上映されたうち1025日のQ&Aを織り混ぜて少しお喋りします。 

                      (SIFFでの監督、ガイエ、テュランセブ

 

  * 『ヴォイス・オーヴァー』La voz en OffVoice Over

製作Rouge International / Jirafa Films / 1975 Productions

監督・脚本・撮影・製作者:クリスチャン・ヒメネス 

共同脚本:ダニエル・カストロ

共同撮影:インティ・ブリオネス

製作者:総指揮アウグスト・マッテ/ブルーノ・ベタティ/ナディア・テュランセブ/

ジュリー・ガイエ/ニコラ・コモー他

編集:ソレダド・サルファテ

音楽:アダム・バイト他

 


データ:チリ≂フランス≂カナダ合作、スペイン語、2014年、コメディ、96分 チリ公開2015

出演:イングリッド・イセンセ(妹ソフィア)、マリア・シーバルド(姉アナ)、パウリナ・ガルシア(母マティルデ)、クリスチャン・カンポス(父マヌエル)、マイテ・ネイラ(ソフィア娘アリシア)、ルーカス・ミランダ(ソフィアの息子ロマン)、ニールス・シュナイダー(アナの夫アントワン)クリストバル・パルマ(ソフィアの元夫カリシム)、センダ・ロマン(姉妹の祖母マミ)、バネッサ・ラモス(父の恋人)他 

 

プロット:最近離婚したばかりの美人のソフィアは35歳、2人の子どもを引き取って育てている。最近、彼女の人生は何もかも悪いほうへと転がっていく。父が母を残して出て行ってしまうかと思うと、姉が家族を連れてチリに戻ってきた。彼女流儀の論理でかき回すからイライラは募るばかりだ。ソフィアのベジタリアンは親戚から顰蹙を買っている。成長期の子どもたちに肉を食べさせないのは栄養学的にも間違っていると。更にはふとしたことから父親の不愉快な秘密が次々と明るみに出て、父娘関係もギクシャクしてくる。

 

     「フレームの外」で語られていることが現実

 

: サンセバスチャン映画祭では主役のイングリッド・イセンセより、製作者の一人ジュリー・ガイエが注目を集めてしまいました。

: 新年早々フランス大統領フランソワ・オランドとの不倫疑惑報道があり、「大統領のチャーミングな恋人来る」で、餌食にしようとパパラッチが待ちかまえていた。

: プライバシー侵害として記事を載せた芸能誌を告訴している。プロデューサーの仕事は『盆栽』から参加、監督との出会いはここ東京国際映画祭2009です。監督はデビュー作『見まちがう人たち』、ジュリー・ガイエはシャビ・モリアのデビュー作『エイト・タイムズ・アップ』で来日して知りあった。

 

: 脆弱さとタフさを兼ね備えたヒロインの演技が評価されて最優秀女優賞を受賞したんでした。さて、そろそろ肝心の本題に。冒頭から登場人物がどっと押し寄せて、それもショッキングな出産シーンを家族で見ているところから始まる。

: 最初はアナの出産シーンを家族みんなで見ているのかと錯覚してビックリする。アナの夫アントワンの母親が撮ったビデオと分かるのだが、この「枠・フレーム」に入った映像を見るというのが一つのテーマだった。映画のナレーションのように「枠」に映っていない「枠外」で起きていることに耳を澄ますと言い直してもいいようです。「語られないヴォイス=セリフが重要」だからタイトルは<ヴォイス・オーヴァー>なんですね。

 

            (TIFFでのテュランセブ、監督、ガイエ

 

: Q&Aでは、「見えているもののフレームの外で語られていることが現実」で重要であると話していた。アントワンの母親は「枠外」に、つまり姿を現さないのだが、家族も観客も彼女の視点で撮られたビデオを見ていることになる。

: テレビとかパソコンの映像を見るシーンが繰り返し出てくるが、テレビもパソコンも一種のフレームですね。そしてソフィアに、大分前から映画もテレビもインターネットも読書も遠ざけて暮らすという、相当ラディカルでストイックな選択をさせている。この人格と「枠外」は興味深い。監督のアタマの中は複雑だから、説明してもらわないと分かりにくいね。

 

幼児化してチリで暮らすプチブル階級

 

:「家族の映画を撮ろうとしたとき、場所はバルディビアでなくてもいいと考えた。ただ大都市でないこと、小さい都市でも大学があって知的階層の人が住んでいること、世界と繋がっていることが必要だった」と述べていた。

: チリの都市ならどこでもということなのか、世界のどこの都市でもなのか分からなかったが、要するに生れ故郷バルディビアはぴったりだったというわけです。生活臭の希薄なインテリのプチブル階級が住んでる場所が条件ね。

 

: 「ソフィアとアナの造形には、私の二人の妹たちの人格が流れ込んでいる」と明かしていました。

: サンセバスチャンのプレス・インタビューでも、「ウチの家族はお喋りの才能があって、話をしながら食事をする。そのとき聞いたエピソードを思い出しながら、素材に手を加えたり削ったり、ときには強調もいれてミニ・プロットを作っていく」と語っていました。個人的な家族の経験が流れ込んでいるようです。

: 友人知人から聞いた話をメモして膨らませて行くらしいから、プライバシーを保ちたいなら監督との雑談は要注意です()

 

: 登場人物が多すぎて1回見ただけだと家系図があやふやです。この家族は両親も娘も離婚しているのだが、その理由は「枠外」で分からない。母親は夫が自分を捨てて出て行ってしまったことが信じられない。父親は性懲りもなく、もう一度の青春を夢見ているモラトリアム人間。

: 突然帰国した姉一家は、家探しをするがケチをつけてずっと実家に居座っている。年下らしい夫アントワンもアナのいいなりでお気楽に見える。誰も彼も自分勝手でジコチュウすぎて素直に笑えない。

: 大人は幼児化して観客はなかなか自分を重ねられない。まともなのは両親の離婚のせいであっちこっちと行ったり来たりを強いられる二人の子供だ。子供の視点を入れたことで、前作より視点が複眼的になったかな。

: 子供が釘を踏むシーンは、実は「私自身に起きたこと」と会場を笑わせていた。「私自身」が踏んだ後、痩せ我慢して「痛くない」と言ったので妹さんが踏んだ()。本当は痛い。

 

     苦しみや痛みを語ること・語らないこと

 

: このシーンのメタファーは何かしらね。観客を笑わせるために入れたとは思えない。大体さらっと表層だけ見たら何も残らないコメディだ。色眼鏡をかけなくてもいいが、なにしろチリという国は、独裁者ピノチェトが16年間も君臨した国、彼が没してからでも10年にならない。これを除外してチリの映画を見るのは難しい。

: 現在でも親ピノチェト反ピノチェトが30%ずつ、残りはどちらでもない人です。死者・行方不明者は公式には3196人と少ないが、実際に人権侵害を受けた人は10万人とも、亡命者は当時の人口の10%に当たる100万とも言われている。無視はできない。

 

: 秘密を抱えていない家族は少ないし、口に出しては生き残れなかった人も多かった。メタファー探しなど無意味という意見があってもいいけど、作品が作り手から離れたら判断や解釈は観客に委ねられる。これは映画に限らない、作品は一人歩きを始めるからね。

: この映画はチリで起きている苦しみや痛みのメタファーとして目に見えるようには語られていないが、「語られていないのは事実だけれど、完璧に見えてきてしまう」し、「物事を隠したままにしておかないことが必要です、結局記憶は取り戻されるから」と、サンセバスチャンでイングリッド・イセンセ(ソフィア役)も語っていた。

 

: Q&A最後のほうで監督は、ナチの強制収容所の生存者のドキュメンタリーに触れて「親世代が苦しみを語らなかった家族の子供は、収容所に入ったことがないのにストレスをより多く感じていた」が、「反対に親世代が語った家族の子供は、それほどトラウマを抱えていなかったことが、この映画のアイディアの一つだった」と語っていた。

: 語られていないことが親から子へ伝達され受け継がれていってしまう、語らないことでより強くストレスを感じてしまうと。

: 痛みや苦しみが存在しても、言葉のレベルでそれを伝達せず断絶してしまうと、そこに混乱や苦悩、喧騒や汚染が世代から世代へと受け継がれていくということですかね。しかし伝達は複雑で、糸電話遊びのようにとんでもない方向に行ってしまうから難しい。

 

     チリ映画にはカスティーリャ語字幕が必要―-コミュニケーションの困難さ

 

: 物語はソフィアを中軸に進行する。妹は前進しつづけるには互いに理解しあい、人の話に耳を傾け、きちんと整頓していきたいタイプ。対照的に姉は頭もよく博士号をもっている自立したしっかり者、テキパキと仕事をこなすが強引なタイプ。

: 水と油です。ソフィアは子供がいるから親であり、両親にとっては子供、祖母マミに対しては孫である。そして姉アナの妹です。別れた夫に対しては元妻だ。人間はたいてい何役も兼ねる存在です。この元夫はターバンをしていたから、もしかしたらシーク教徒なのかしら。

: バルディビアでは珍しくないのか、これは意外な設定でした。アナの夫アントワンも外国人で慣れないスペイン語に苦労していた。このコミュニケーションの困難さもテーマの一つですか。


               (水と油の姉アナと妹ソフィア)

: 実際アントワンを演じたニールス・シュナイダーはカナダ人で、少しはスペイン語が喋れたようですが訛りの強い「チリ弁」には四苦八苦したらしい。SIFFではチリ弁も一応スペイン語だから西語字幕は付かなかった()。それでネイティブ観客から苦情が出た。

: 「カスティーリャ語の字幕をつけろ」ですね。映画祭での評価がイマイチだったのには、この苛々も原因だったかもしれない。

: 私たちは英語字幕の翻訳で見たわけで、チリ弁だろうがカスティーリャ語だろうが関係ないと思うでしょうが、重訳で見るわけですから、こんなこと書籍だったら絶対に許されない

 

: 姉妹同士の軋轢というのは、兄弟同士ほどそんなに描かれていないのでしょうか。

: どうでしょうか。アン・リーやエドワード・ヤンの家族をテーマにした映画は見ていたようですが、敢えて参考にしなかったようです。もっと違った切り口にしたかったらしい。

: つまり、アン・リーの『いつか晴れた日に』とは違うものという意味ですか。

: エドワード・ヤンでは『ヤンヤン夏の思い出』などを想像しますが、個人的な自分の家族が関わった映画を作りたかったのではないですか。

 

        チリの若手監督グループ<ジェネレーションHD>の躍進

 

: ラテンビートで上映された、アンドレス・ウッドの『マチュカ』や『サンティアゴの光』、パブロ・ララインの『トニー・マネロ』やNO』、セバスティアン・シルバの『家政婦ラケルの反乱』『マジック・マジック』『クリスタル・フェアリー』など、今年はフェルナンデス・アルメンドラスの『殺せ』がエントリーされ、ジャンルもテーマも多彩になってきた。

: 昨年はセバスティアン・レリオの『グロリアの青春』が話題をさらった。<ジェネレーションHD>と言われる「クール世代」に属しているようです。『殺せ』と本作は方向が違うように見えますが、チリの社会構造、過去の歴史に拘っている点では同じともいえます。本作は配給元もCinema Chileに決まって2015年の公開が決定しました。チリの観客がどんな反応をするのか気にかかります。
関連ブログ:
NO』 ⇒2013・9・21
『家政婦ラケルの反乱』 ⇒2013・9・27
『マジック・マジック』 ⇒2013・9・26/10・26
『クリスタル・フェアリー』 ⇒2013・9・25/10・29
『殺せ』 ⇒2014・10・8/10・30
『グロリアの青春』 ⇒2013・9・12

スタッフ

*クリスチャン・ヒメネスCristián Jiménez 1975年チリのバルディビア生れ。デビュー作『見まちがう人たち』と第2作『Bonsai~盆栽』が東京国際映画祭20092011で上映され、2回ともゲスト出演のため来日した。チリ「クール世代」の代表的な若手監督。

監督フィルモグラフィー

2009『見まちがう人たち』サンセバスチャン映画祭2009、ブラチスラヴァ(スロバキア)映画祭2009でエキュメニカル審査員スペシャル・メンション賞、ケーララ(インド)映画祭2010出品。

2011Bonsai~盆栽』カンヌ映画祭2011「ある視点」出品、ハバナ映画祭2011国際批評家連盟賞受賞、マイアミ映画祭2012グランド審査員賞受賞他。

2014『フラワーズ』トロント映画祭、サンセバスチャン映画祭「オフィシャル・セレクション」、リオデジャネイロ映画祭、チューリッヒ映画祭、ハンブルク映画祭、ストックホルム映画祭、各2014年。 


ジュリー・ガイエ Julie Gayet 1972年フランスのシュレンヌ生れ、女優、脚本家、製作者。公開作品では、エリ・シュラキのコメディ『君が、嘘をついた。』(95)、アルノー・ヴィアールの『メトロに恋して』(04)、パトリス・ルコントのコメディ『ぼくの大切なともだち』(06)などに出演。前述のTIFF2009コンペティション、『エイト・タイムズ・アップ』で最優秀女優賞を受賞した。ヒメネス監督とは『盆栽』に続いてのコラボである。話題提供に貢献したので特別に紹介。 

    (左から、ナディア・テュランセブ、ジュリー・ガイエ SIFF上映後の記者会見

 

キャスト

イングリッド・イセンセ Ingrid Isensee : 1974年チリのサンチャゴ生れ、『Bonsai~盆栽』に脇役で出演、今回主役ソフィアを射止めた。他にマリアリー・リバスの“Joven y alocada”(2012)に出演、本映画祭2012の「ホライズンズ・ラティーノ」部門の上映作品。今年短編“El Puente”で監督デビューした。

マリア・シーバルド María José Siebald : 本作の他、エリサ・エリアシュのコメディ“Aqui Estoy, Aqui No”2011)、ロドリーゴ・セプルベダの“Aurora”2014)など。

パウリナ・ガルシアPaulina García1960年チリの首都サンティアゴ生れ。女優、監督、劇作家。チリ・カトリック教皇大学の演劇学校で演技を学び、のち同校の演劇監督、劇作家の資格を得た。現在は母校で後進の指導にもあたっている。映画デビューが2002年と比較的遅いのは、このような経歴から舞台女優として出発(1983)、合わせてテレドラ出演の成功でお茶の間の人気を博したせい。チリではPaly Garcíaのニックネームで知られている。社会学者の夫とのあいだに3人の子供がいる。セバスチャン・レリオの『グロリアの青春』(2013)国際的な賞を独り占めの圧倒的な演技が記憶に新しい。この凄いバイタリティーは人生を諦めてリングにタオルを投げさせなかったグロリアにも通じている。≪ラテンアメリカのメルリ・ストリープ≫とか。サンセバスチャン映画祭2013の審査員の一人に選ばれた。

 出演フィルモグラフィー

2002Tres noches de un sábadoホアキンEyzaguirre監督Altazor賞ノミネート

2004Cachimbaシルビオ・カイオツィ監督

2007Casa de remoliendaホアキンEyzaguirre監督

2012Gloria”『グロリアの青春』セバスティアン・レリオ監督、リオデジャネイロ映画祭2014、トロント映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」出品、チューリッヒ映画祭2014、他

2013Las analfabetas”モイセス・セプルベダ監督デビュー作

2013I am from Chile”ゴンサロ・ディアス監督デビュー作

 

モントリオール2014*受賞結果⑦2014年09月06日 11:20

モントリオール映画祭2014*受賞結果

★今年は日本映画も審査員特別グランプリに『ふしぎな岬の物語』、監督賞に呉美保(『そこのみにて光輝く』)が受賞するなどダブル・オメデタなモントリオールでした。

 

           (左から、呉監督、吉永小百合、ウルキサ監督)

 

★さてスペイン語映画では、メキシコが賞を独り占めした感のあるモントリオールでしたが、現地はガエル・ガルシア・ベルナル離婚報道のほうが大きかったでしょうか。昨今では結婚も容易ではなくなりましたが、もっと大変なのは長続きさせることですね。

 

★ワールド・コンペティション部門

Obediencia perfecta ルイス・ウルキサがグランプリグラウベル・ローシャ賞のダブル受賞。監督自身も驚いたろうと思いますが、まさか、まさかの受賞でした。最優秀ラテンアメリカ映画に特化したグラウベル・ローシャ賞には一番近いかな、と予想していましたがグランプリとはね。審査委員長セルジョ・カステリット以下の審査員一同に感謝()。作品紹介は最近アップしたばかりです。

⇒コチラ、モントリオール映画祭⑤ 

                       (受賞を喜ぶルイス・ウルキサ監督)

 

ファースト・フィルム部門

Gonzálezクリスティアン・ディアス・パルドが金賞を受賞。

 

Los bañistas”マックス・スニノが国際批評家連盟賞FIPRESCI)を受賞。

 

(一番右側がマックス・スニノ監督)

 

両作品とも⇒コチラ、モントリオール映画祭③にアップ。

 

★今回ご紹介できなかったのがフォーカス・オン・ワールド・シネマ部門、観客賞受賞のマリア・リポルのRastres de sándal(西≂インド)やダニエル・アギーレのInvestigación policialなど、スペイン語映画は10本ほどノミネートされていました。

 

            (マリア・リポル監督)

 

Rastres de sándalの言語はカタルーニャ語と英語です。マリア・リポルは、Utopíaが『ユートピア/未来を変えろ。』(2003)の邦題で公開、DVDも発売されています。当時人気絶頂だった『炎のレクイエム』のレオナルド・スバラグリアと『アナとオットー』のナイワ・ニムリが出演した映画です。受賞作はAsha MiróAnna Soler Pontが共同執筆したカタルーニャ語の同名小説(2007年刊)の映画化のようです。子供のときインドで生き別れになってしまった姉妹、インドで有名になった女優の姉と養女となってバルセロナに住んでる妹の物語。ボンベイとバルセロナが舞台になり、姉にNandita Das1969デリー生れ)、妹にElisa K2010)で主役のエリサを演じたアイナ・クロテットが扮しています。 

                                (映画のワンシーンから)

 

モントリオール映画祭2014*ノミネーション⑥2014年09月04日 12:00

★最後がペルー映画、サイコ・スリラーの要素をもつ政治サスペンス、ジャーナリストのリカルド・ウセダのMuerte en el Pentagonitoに着想を得て製作された。共同監督の二人はともに本作がデビュー作。話題の焦点は、新人監督より主役を演じたベテラン俳優‘Cachin’ことカルロス・アルカンタラにあるようです。ショーマンとしてテレビ界で活躍しています。

 

   ワールド・コンペティション部門(続き)

Perro GuardiánGuard Dogペルー Bacha Caravedo & Chinón Higashionna 監督

製作Señor Z

製作者マピ・ヒメネスロレナ・ウガルテチェ

監督:バチャ・カラベド/チノン・ヒガシオンナ

脚本:バチャ・カラベド

撮影:フェルガン・チャベス・フェレール

音楽:パウチ・ササキ

データ:ペルー、スペイン語、2014、ジャンル(スリラー、陰謀、犯罪)、ペルー内戦、パラミリタール(私設軍隊)、2012年ペルー文化省から企画賞として18万ドルが贈られた。モントリオール映画祭2014ワールド・コンペ正式出品(823日上映)、88分、ペルー公開201494

 


キャストカルロス・アルカンタラ(シカリオのペロ)、レイナルド・アレナス(アポストル)、マイラ・ゴニィ(ミラグロス)、ラモン・ガルシア(パドリーノ)、ミゲル・イサ(メンディエタ)、フアン・マヌエル・オチョア(オルメーニョ)、ナンシー・カバグナリ、フリア・ルイス、サンドロ・カルデロン、オズワルド・ブラボ、ホセ・メディナ他

 

ストーリー2001年リマ、反テロの闘争時代に人権侵害の廉で服役していた軍人と市民が、「軍人恩赦法」により釈放された。パラミリタール(私設軍隊)の元メンバーだったペロもその恩恵を受けた。今はある民兵軍組織のシカリオとして暗殺を請け負っている。部屋に閉じこもり上層部からの指令を実行するだけの日々を送っている。ある指令が「キリストの戦士」という教会に彼を導いていく。祈りと叫びのなかでカルトの指導者アポストルに出会うが、彼はペロの何かを嗅ぎつけているようだ。ペロはそこで出会ったミラグロスという娘に惹きつけられていく。任務をキャンセルしたペロは、教会に足しげく通い静かにミラグロスを見守っている。それまで冷酷なシカリオに徹していたペロも次第に任務を苦痛に思うようになっていった。暗殺には正当な根拠が必要ではないのか、彼の武器は神の剣に変わろうとしていた。

 

 
 (ペロに扮したカルロス・アルカンタラ)

★ペルー内戦後のリマが舞台、ファースト・フィルム部門のLa hora azul(アロンソ・クエトの同名小説の映画化)で触れましたように(⇒コチラ モントリオール映画祭④)、ペルーも長期間内戦に苦しみました。主人公ペロはパラミリタールという政府軍並みの軍事力を備えた私設軍隊のもとメンバー、恩赦で娑婆に戻っても結局彼にできるのはシカリオしかない。リマの工業地区のアパートの一室に閉じこもり機密の指令を待つ。「俺は背中にも目がある」と武器を通してしか自分を語れない男に扮するのがカルロス・アルカンタラ、ショーマンとしても人気があり、テレビ・インタビューでも若い二人の監督より彼に質問が集中しています。「前から映画化されたら演ってみたい役だった。願いが叶って嬉しい」と語るアルカンタラ、更に「主人公役でモントリオールに行けるのは、それだけで賞を貰ったようなもの。仕事に対する批評や意見が私の進むべき正しい道を教えてくれるから、それも受賞と同じです。ノミネーションされている作品が他に20作ほどあるけれど、男優賞を受賞することを夢見ている。もし叶ったら飛行機に乗ってすっ飛んで帰ってくるよ」とインタビューに語っています

既に発表になっており、中国のヤオ・アンリェンの手に渡ってしまいました)

 

            (ピエロに扮したショーマンのアルカンタラ)

 

★「キリストの戦士」と呼ばれる教会の指導者アポストルは、<キリスト再来>のメッセージをもたらすために神から選ばれた一種の救世主と感じている。冷静沈着、堂々としてエネルギッシュに響く声は伝道者として申し分がない。あたかも忠実な戦士のごとく士気を鼓舞する。「暗殺者は疑問を持たずに発砲する。しかし正義の人はまず何故かと理由を知りたく思う」ものだ。もう一人の重要登場人物に扮するのがレイナルド・アレナス(レイナルドのスペルが1字違うが、訳すと『夜になるまえに』のキューバ作家と同名になってしまう)。1944年生れ、1984年、フェデリコ・ガルシア・ウルタドのTupac Amaruで映画デビュー、ルイス・リョサのSniper1993、米国合作)のカシケ役で出演。リョサ監督はノーベル賞作家バルガス=リョサの従兄弟、彼の『ヤギの祝宴』を映画化した(2006、ラテンビート2006で上映)。

 

            

 

ミラグロス、一人前の女性に近づきつつある16歳。「時々体のなかにサタンがいるようで怖くなる。しかし聖霊がいるように感じるときは素晴らしい」と語るミラグロス。泣いたと思えば直ぐ笑い、優しさも簡単に残酷さに豹変する。心の中に矛盾を抱えて生きている。彼女が本当に望むことをやり続けるには、過失、宗教的罪、狂信的行為に包まれたキリスト教の現世で生きていかねばならない。マイラ・ゴニィは、2007TVドラ・シリーズに出演後、サンドロ・ベントゥラのEl Buen Pedro2012)で映画デビュー、本作が2本目の新人。

 


パドリーノ、リマの中心街で小さなペルー料理店を経営し、ミラグロスを育てている。「キリストの戦士」のナンバー2、この組織を動かしている。必要あれば、しばしばアポストルの代理人を務めている。ラモン・ガルシアは、フランシスコ・ロンバルディのLa ciudad y los perros1985)、ルイス・リョサFire on the Amazon1993、ペルー≂米国)、アルベルト・ドゥランAlias ’La Gringo’1991、ペルー≂スペイン他)などに出演。

 


メンディエタ、敵を圧倒する仕事のため今もペロと接触している。彼は武器を使わない書斎派の軍人、「恩赦は継続するだろうが、これはショーみたいなものだからほうっておくさ」。ミゲル・イサは、リマ出身、La ciudad y los perrosがデビュー作、ミゲル・バレダ≂デルガドの Y si te vi, no me acuerdoYVムービー1999、ペルー≂独)、ダニエル・ロドリゲスEl acuarelista2008)とファブリツィオ・アギーレTarata2009)の2作では主役を演じている。タラタは中流階級以上が住んでいる通りの名前、内戦でテロリストの攻撃を受け崩壊していく家族の肖像が描かる。 


★監督紹介:これがまだ詳細が分からない。バチャ・カラベドBacha Caravedoは、監督・脚本家、短編Papapa2000)とLos herederos2005)を撮っている。チノン・ヒガシオンナChinón Higashionnaは正真正銘のデビュー作、名前と風貌から類推して沖縄の東恩納出身の日系ペルー人のようです。

 

    (左がヒガシオンナ監督、カラベド監督)

★音楽担当のパウチ・ササキPauchi Sasakiも日系ペルー人、28歳と若いヴァイオリニスト、ニューヨーク他海外で学んでいる。東京にも来日しているようです。予告編からですが、これがなかなかいい。 


既に授賞式(91日)があり、本ブログにアップした作品がグランプリを含めて3作も受賞しました。次回は少しお祝いをして、モントリオールは閉幕します。

モントリオール映画祭2014*ノミネーション⑤2014年09月01日 15:22

★順序が逆になりましたが、ワールド・コンペティションには長編2本(メキシコ、ペルー)、短編3本(メキシコ)と、メキシコが目立つのが、今年のモントリオールです。審査員長セルジョ・カステリット、審査員の一人にアナ・トレント(スペイン)が参加しています。

 

  ワールド・コンペティション部門

Obediencia perfectaPerfect Obedienceメキシコ、ルイス・ウルキサ監督

製作:AstilleroFilmsEquipmente & Film Design

プロデューサー:ダニエル・ビルマン・リプステイン(代表作にカルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』2002)、ルルデス・ガルシア、ヘオルヒナ・テラン他

監督・脚本:ルイス・ウルキサ(エルネスト・アルコセール著Perversidadからの着想)

撮影:セルゲイ ・サルディバル・タナカ(ロドリーゴ・プラのDesierto adentro2008

音楽:アレハンドロ・Giacoman(カルロス・カレーラのLa mujer de Benjamin1991

編集:ホルヘ・マカヤ

 

キャスト:フアン・マヌエル・ベルナル(アンヘル・デ・ラ・クルス神父)、セバスチャン・アギーレ(少年期のフリアン/サクラメント・サントス)、アルフォンソ・エレーラ(成人サクラメント・サントス)、フアン・イグナシオ・アランダ(ガラビス神父)、ルイス・エルネスト・フランコ(ロブレス神父)、フアン・カルロス・コロモ、アレハンドロ・デ・オジャス、ダゴベルト・ガマ、クラウデッテ・マイジェ他

  


データ:メキシコ、スペイン語、201499分、撮影地:ベラクルスとメヒコ州(メキシコシティの北側にある州)、映倫区分:メキシコD-1515歳以上)、メキシコ映画協会IMCINEInstituto Mexicano de Cinematografia)の支援を受けた。メキシコ公開201451日(約800のコピーが製作された)

 

ストーリー:カトリックの神学生サクラメント・サントス(フリアン) は、新しく設立された修道会Los Cruzados de Cristo(キリストの十字軍)で教育をうけることになる。そこでは神学生に<完全なる服従>Obediencia perfecta)が求められる。フリアンは設立者のアンヘル・デ・ラ・クルス神父を信頼し、アンヘル神父も彼を愛するようになる。教会内部で秘かに行われていた聖職者によるスキャンダラスな少年愛、長年にわたって事実を隠蔽しつづけたバチカン、人間が犯す暗部についてのフィルム。

 

「私も8年間神学生だった」

*ルイス・ウルキサ・モンドラゴン Luiz Urquiza Mondrasonは、メキシコの監督、本作が長編デビュー作ですが、プロデューサーやプロダクション・マネジャーのキャリアは長い。最新作としては、本作のプロデューサーの一人ルルデス・ガルシアと携わったアントニオ・セラーノ監督のMorelos2012)、同監督のHidalgo-La historia jamás contada2010)などがある。本作を撮った理由として、「17年前にマルシアル・マシエルの未成年者性的虐待のニュースを知った。自分もかつて17歳までの8年間神学校で暮らした経験があり、知らないわけではなかったが、アルコセールのPerversidadを読んで映画化の準備を始めた」と動機の一つに挙げています。「以前からこのテーマで撮るアイデアは潜在的にあって、宗教者のおぞましい少年愛に警鐘を鳴らしたい」意図で製作した。

 

21世紀に入ってから顕在化した聖職者による少年愛をバチカンも認めざるを得なくなった。本作はメキシコのプラネタ社から刊行されたエルネスト・アルコセールのPerversidad2007、邪悪という意味)に着想を得て製作されたフィクション。タイトルは同書の Obediencia perfecta 章から採用された。アンヘル神父のモデルとなったマルシアル・マシエルMarcial MacielMM、ミチョアカン1920~フロリダ2008、)は、1951年にカトリック信徒団Legión de Cristo/Legionarios de Cristo(映画ではLos Cruzados de Cristo)を設立した聖職者。

 (監督、アルコセール、ベルナル)

 

★教会内部で行われていた少年愛による性的虐待の告発状が、1990年代に既にバチカンに届けられていた。しかしMMの庇護者であった当時の教皇ヨハネ・パウロ二世(19782005)は事実を黙認した。かつてヨハネ・パウロ二世はMMの要請で3回(197919901993)メキシコを訪問している(メキシコが最初の訪問国)。しかしベネディクト十六世に変わった20065月、バチカンはMMの神学生の性的虐待と複数の子供の父子関係を認めて、「祈りと苦行」を公に行うことを禁じた(つまり退任)。国連の児童権利委員会もバチカンが黙認していたことを非難した。2008130日、フロリダで失意と非難の嵐のなかで87歳の生涯を閉じた。死後の2009年、あるスペイン女性が父親はMMと明らかにし、翌年Legión de Cristoも未成年者性的虐待を認め、設立者MMとの関係を断ち切った。

 

                   (ヨハネ・パウロ二世の祝福を受けるMM2004

 

マシエルの伝記映画ではない

★作家エルネスト・アルコセールは裏の取れた事実のみを執筆したと言明していますが、映画はあくまでフィクションです。素材はMMから採られていても、彼の伝記映画ではありません。教会内部で行われていた聖職者の少年愛は、教区民の信頼を裏切る行為のため論争を引き起こすテーマと言えます。カルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』は、本国では上映中止になったことは記憶に新しい。映画では少年愛に止まらず複数の女性との関係、富と権力に執着した人間として描かれている。ウルキサ監督も「この映画は子供たちを性的に誘惑し、権力をほしいままにして財産を築いた司祭の物語、象徴的なケースがMMだった」と語っています。「センセーショナルなスキャンダルとして描きたくなかった。シネアストとしての興味は、少年たちの信頼につけ込んで、どのようにして彼らの愛を勝ち取ったのか」その過程にあると語っています。

 

沈黙の時ではない

★主人公のアンヘル・デ・ラ・クルス神父を演じたフアン・マヌエル・ベルナルは、「この物語はきちんと語る必要がある。やっと俎上にのせる時がやっと来た、黙っていられないことだよ」と語っています。「撮影に入る前に、少年愛をテーマにした映画は見たくなかった。代わりにフェリーニ、ロッセリーニ、パゾリーニなど、イタリアのクラシック映画をたくさん見て、それがとても参考になった」とも。更にMMの餌食になった犠牲者たちとも実際に会って話を聞いた。彼によれば、「時代背景は196070年代に設定されている。当時、神の国へ導く人として神父の占める位置は、家族の中でかなり大きかったと思う。そういう信頼を裏切って、複数の女性との間に子供までもうけており、権力と富に執着した、いわば二重生活を送っていた人物」。主人公アンヘル神父の「やったことはまったくひどい話だが、映画の中では複雑な主人公を裁くことはしていない」

 

★名誉枢機卿フアン・サンドバル・イニィゲスによると、「マシエルの行為についてはバチカン内にも強い非難の声があった。MMは精神病質者で統合失調症を患っている二重人格だった」と、2010年のインタビューに答えています。ちょっとやり切れない話です。

 

「とても怖かった」

★サクラメント・サントス役でデビューしたセバスチャン・アギーレ(14歳)は、「とても怖かった」と一言。監督によると、「テーマが分かると両親が出演を渋って難航した。結果約2000人の子供たちをオーデションで見た。美少年というだけではダメ、内面的なテーマを理解できる子供、更に両親も理解できることが必要だった」。撮影はボイコットを懸念して秘密裏に行われ、常にセバスチャンの両親を立ち合わせた。中には両親の立会いなしのシーンもあって、そのときは精神科医の応援を受けたということです。

 

(サクラメント・サントスとアンヘル神父)

 

★最初自分のできる限界を超えていると思ったが、「シナリオを読んで・・・そんなにどぎついとは思えなかった。自分を試してみたくなって・・・今では映画に出演した経験はとてもよかった」とセバスチャン。短編映画出演の経験はあるが、主役の長編は初めて、舞台出演もあるというから全くのズブの素人ではない。しかし既に20世紀中ごろのような神学校は珍しくなっているし、教会が家庭に占める位置も小さくなっているから、セバスチャンには全てが新しい体験、たくさんの出演者に囲まれて大型カメラの前に立つのは恐怖心を感じても当然です。

 

真実に近づく第一歩になるか?

MMの告発状をバチカンに送ったLegionarios de Cristo8人の元神父の一人ホセ・バルバのように今でもバチカンの責任を求め続けている人もいる反面、教会はかなりのダメージをうけるし、この映画に疑問を呈する人もいる。どの世界にも善と悪は存在する、この映画が真実に迫るとしても、すべての独身者が男色ではない。聖職者の妻帯を認めることが解決法になるのかどうかも含めて、今後論争は避けられない。


モントリオール映画祭2014*ノミネーション④2014年08月23日 17:34

★最後にペルー映画のご紹介、2005年に刊行されたアロンソ・クエトの同名小説La hora azulの映画化、同年エラルデ賞を受賞した作家自身もカメオ出演したという熱の入れようです。テロ・グループのセンデロ・ルミノソとペルー政府の対立をめぐる骨太な小説です。切り口は異なりますが、198090年代に吹き荒れたペルー内戦の傷跡をテーマにしたクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(2009)を思い出させます。

アナグラマ社(バルセロナ)の創業者エラルデの名を冠した文学賞。原作は、「青い時」とか「青い時間」というタイトルで紹介されていますが未訳です。ロベルト・ボラーニョも1998年に『野生の探偵たち』で受賞しており⇒コチラで紹介

 

ファースト・フィルム部門(続き)

La hora azulThe Blue Hour)ペルー、Evelyne Pégot-Ogier 監督・脚本、201490

助監督:ホルヘ・プラド(“Koko”)、スクリプト:Nury Isasi 製作:Panda Films(ペル   ー)、プロデューサー:グスタボ・サンチェス、フランク・ペレス・ガルランド他、撮影:ロベルト・マセダ、照明:フリオ・ペレス、美術:セシリア・エレーラ、衣装:エリザベス・ベルナル

 

キャスト:ジョヴァンニ・チッチャCiccia(アドリアン・オルマチェ)、ジャクリン・バスケス(ミリアム)、ロザンナ・フェルナンデス≂マルドナド(アドリアン妻クラウディア)、アウロラ・アランダ(アドリアン秘書ジェニー)、ルーチョ・カセレス(ルベーン)、ハイディ・カセレス(ビルマ・アグルト)他 

                 (ロザンナ・フェルナンデス≂マルドナドとジョヴァンニ・チッチャ)

 

ストーリー:アドリアンは体面を重んじる成功した中年の弁護士、理想的な家族と暮らしている。それも過去の暗い秘密が明るみに出るまでのこと、というのはセンデロ・ルミノソが猛威を振るった内戦時代に政府軍の指揮官であった父親オルマチェの残虐行為を知ってしまったからだ。テロリストだけでなく彼らの支持者を含めて拷問、特に女性はレイプされ消されていった。ある日のこと、部下たちがしょびいてきた美しい娘ミリアムに一目惚れした指揮官は、娘を保護し捕虜として兵舎に留めておくが、このアヤクーチョの生き残りのミリアムは逃亡してしまう。このミステリアスな女性の存在がアドリアンの人生を脅かすようになる。彼女こそ父親が犯した残虐行為の唯一の目撃者であるからだ。やっと彼女を見つけ出したアドリアンに口を閉ざし続けるミリアムだが・・・

 

(ミリアムとアドリアン、映画のシーンから)

 

★テーマはクエトによれば「探求」、父と息子の関係、父は国家の代表として、息子は成功したリッチな弁護士としてミリアムに会い共に魅了される。母と息子の関係、息子は母と一体化している。魅力的な妻はどうなる? センデロ・ルミノソのテロリスト、バイオレンス、神への信仰、マイナイの聖女信仰、そして死などが語られる。

 

監督紹介Evelyne Pégot-Ogier(エブリン・ペゴト・オジェ?)はペルーの監督、脚本家。目下詳細が入手できませんが、スタッフにペルー・カトリカ大学PUCP**の卒業生が多いことから、本校のオーディオビジュアル情報科で学んだのかもしれない。「この映画は1990年代末のリマに設定した物語で、私にとってはテロリズムの映画ではありません。背景は内戦時代にアヤクーチョで生き抜いたミリアムとアドリアンの父親の過去を辿りますが、それは画布にしかすぎません」と語っています。「小説がとても気に入り、クエトにコンタクトをとると、映画化を承知してもらえた。個人的には最近父親を亡くしており、これも重要な動機の一つです」とインタビューに答えています。この物語が「探求と和解」を描いたという点で作家と監督は一致しており、これが二人を結びつけたようです。El vestido17分)がカンヌ映画祭2008の短編部門で上映され、これはYouTube で見ることができます。

**PUCPPontificia Universidad Católica del Perú):1917年設立のペルー初の私立大学、首都リマにあり、私立名門校の一つ。撮影監督のロベルト・マセダ、照明のフリオ・ペレスなどが学んでおり、彼らの参加がクエトの小説の映画化を可能にしたと言われている。

  

                       (撮影中の監督)

100%ドラマに違いありませんが、残虐行為はテロリストだけでなく、政府軍も無辜の民を殺戮したということです。20135月上旬から6週間かけてリマとアヤクーチョでPUCPも協力して撮影された。ロベルト・マセダは「主人公の瞑想的な気質をカメラに収めることが技術的に最も難しかった」と述べている。また監督以下、このプロジェクトは協力的でよく纏まっていて仕事は上手く運んだとも。撮影は一日で12時間に及んだから照明係のフリオ・ペレスは大変だったらしい。

 

★アロンソ・クエトAlonso Cueto1954年リマ生れ)は、弁護士アドリアンの依頼人としてカメオ出演、「少し恥ずかしかったよ」と。かなりの映画ファンで「映画を見るのは人生の一部、セットの中にいるときはとても興味深かった。もっとも以前、フランシスコ・ロンバルディが私のGrandes miradas2003)をMariposa Negra2006)のタイトルで映画化したときセットを訪れたことがあった。監督については「出来栄えに満足している。彼女は感受性がつよくインテリジェンスに優れている。脚本を読ませてもらって、小説をよく理解していることが分かった」とベタ褒め。リマを訪れた人がよく口にするように、「リマは金持ちと貧しい人が交錯しながら暮らしている都会」とも語っておりました。

 

(自作の映画化について語るアロンソ・クエト)

モントリオール映画祭2014*ノミネーション③2014年08月21日 17:13

★今年はメキシコが元気で2本ノミネート、「ワールド・コンペティション部門」にもルイス・ウルキサ・モンドラゴン、短編部門には3本もノミネートされています。

 

   ファースト・フィルム部門(続)

Los bañistasOpen Cageメキシコ、マックス・スニノ監督・脚本・製作)
  2014コメディ

共同脚本:ソフィア・エスピノサ、撮影:ダリエラ・ルドロウ、音楽:セバスチャン・スニノ 

音響:アシエル・ゴンサレス、編集:ヨアメ・エスカミラ、製作:Casas Productoras他 

プロデューサー:グロリア・カラスコ他

キャスト:フアン・カルロス・コロンボ(マルティン)、ソフィア・エスピノサ(フラビア)、ハロルド・トーレス(セバスチャン)、スサナ・サラサール(エルバ)、アルマンド・エスピティア(ペドロ)他 


ストーリー:経済が麻痺状態に陥り、そのせいで周囲の状況は道徳的貧困さえきたしている。甘やかされて育ったティーンエイジャーのフラビアは、アーティスト希望だが大学受験に失敗、挫折感を味わっている。そんなとき彼女は、自分とは正反対の堅物、大人の隣人マルティンと知り合いになる。初めはぶつかり合って上手くいきそうには思われなかったが・・・

 

(フラビア役のソフィア・エスピノサ、映画のシーン)

 

監督紹介マックス・スニノ Max Zuninoはウルグアイ生れ、子供のときにメキシコに移住してきた。監督、脚本家、プロデューサー。情報科学技術科を卒業後、キューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの映画&テレビのコースで学ぶ。短編Recuerdo del mar2005)、本作が第29グアダラハラ国際映画祭FICG29)「イベロアメリカ・コンペティション部門」に正式出品、長編フィクションGuerrero de la PrensaPress Warrior 賞を受賞する。

 

        (左から、カラスコ、コロンボ、監督、ソフィア、FICG29にて)

 

ソフィア・エスピノサはマリサ・SistachLa niña en la piedra2006)で翌年のアリエル賞女優賞にノミネートされている。フアン・カルロス・コロンボは、ギジェルモ・デル・トロの『クロノス』(1993)やルイス・エストラーダのLa ley de Herodes1999)に出演、多くの国際映画祭で数々の賞に輝いた作品、本作でアリエル賞にもノミネートされたベテラン俳優。ペドロ役のアルマンド・エスピティアはアマ・エスカランテの『エリ』で主役エリを演じた俳優です。

 

 

Gonálezメキシコ、クリスチャン・ディアス・パルド(監督・脚本)
   2013、スリラー、102分、
メキシコ公開6

共同脚本:フェルナンド・デル・ラソ、撮影:フアン・パブロ・ラミレス、
 音楽:ガロ・ドゥラン、
編集:レオン・フェリペ・ゴンサレス、
 プロデューサー:ラウラ・ピノ、ハロルド・トーレス、
製作:FOPROCINEChacal Filmes

 

キャスト:ハロルド・トーレス(ゴンサレス)、カルロス・バルデム(エリアス牧師)、オルガ・セグラ(ベトサベ)、ガストン・ピーターソン(パブロ)他

 


ストーリー:平凡な若者ゴンサレスは長らく失業中であり、借金に苦しんでいる。大都会の片隅にある賃貸アパートに住んでおり、母親を養わねばならないが、心配をかけたくないので失業を隠している。ゴンサレス同様ここで暮らす多くの人が借金を抱えており、解雇されれば返済は滞り借金は増え続けるだけである。ゴンサレスはある教会付属のコール・センターで交換手の職を得る。仕事は主イエス・キリストの名において、彼より貧しい<隣人>からカネを毟るとることであった。このインチキ宗教のトップはブラジル人のエリアス牧師でかき集めたお布施を洗浄している。現代のペテン師は本当の<神性>とは程遠い典型的な社会の害虫だった。お金を生みだす簡単な方法を発見した無神論者のゴンサレスは、この汚いシステムに急降下していく。

 

*監督紹介クリスティアン・ディアス・パルドChristian Diaz Pardoは、監督・脚本家・製作者。11モレリア国際映画祭FICM201310月下旬開催)正式出品、第6回メキシコ映画祭FCM2013)で批評家賞を受賞した。短編Los esquimales y el cometa2005、モノクロ、
8分)、Antes del desierto2010、カラー、16分)。

 

クリスチャン・ディアス・パルド、メキシコ映画祭にて

 

★貧者の信仰を利用して大金を溜めこみ権力をほしいままにしている宗教活動家の問題についての映画である。ディアス・パルド監督によると、最初は同僚の女性から、ある宗派の教会をテーマにしたドキュメンタリーが提案された。調査を始めてみると、どうもドキュメンタリーは制約が多く難しいことが分かり、つまり撮影を断られたのでフィクションに変更したようです。暗部を描くわけだから当たり前ですよね。トーレスによって演じられたゴンサレスの人物造形はとても複雑で難しかった。孤立無援の社会に幻滅したただのワルにはしたくなかった。同時に大衆を魅了し、彼と接することで人々が一体感を持てるような人格にしたかった。またカフカの『変身』を自由に翻案して、心理的な色調の強いスリラーになっているということです。キャスティングはトーレスと一緒に選んだ。 


ハロルド・トーレスは、Los bañistasにも出演していますが、カルロス・キュアロン(クアロン)の『ルドとクルシ』(2008)、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』(09)に脇役で出演、リゴベルト・ペレスカノの話題作Norteado2009)で主役アンドレスを射止めた。翌年のアリエル賞主演男優賞にノミネートされている。豊かな北を目指すという『闇の列車、光の旅』と同じテーマながら、より現実に近い印象を受ける。かねてから知り合いであったバルデムにエリアス牧師役を打診したのがトーレスだった。

 

カルロス・バルデムは、メキシコ映画出演は3本目だそうで、トーレスからのオファーを即座にOKした由。ブラジルに4年間過ごした経験のあるバルデムはポルトガル語に堪能、ポルトニョル(ポルトガル風スペイン語)で教区民にミサを説教する。バルデムは「メキシコは良きにつけ悪しきにつけダイナミックな社会、伝統をもち端正な美しさも凄まじさも兼ね揃えている。自分にとっては魅力的、撮影中はごきげんだった。この手の教会の裏側を炙りだす物語は、資金の集め方、マネーロンダリングの枠組みなど興味は尽きない。メキシコだけでなくスペインもその他のヨーロッパ諸国もやってること」と語っています。

 

オルガ・セグラは製作者・女優とやり手の才媛、メキシコ・シティ生れだがパナマで育った。Jesse BagetCellmatesで映画デビュー、Omar YnigoのコメディMalcelo2012)など。ガストン・ピーターソンは、メキシコ版“Marcelino Pan y Vino”(2010)のパピージャ神父役で出演している。

モントリオール映画祭2014*ノミネーション②2014年08月18日 16:23

  ファースト・フィルム部門(続)

Schimbare(西)2014 アレックス・サンパジョAlex Sampayo Parra 監督・脚本

製作:Ficcion Producciones 共同脚本:ボルハ・カーマニョ、言語:スペイン語、スリラー 

 


監督紹介:1978年ガリシアのポンテベドラ生れ、監督・脚本家・プロデューサー他。14歳のときから短編を撮り始めたという経歴の持ち主。2000年に短編“Alzheimer”で監督デビュー、ガリシアTVドラマ“Terra de Miranda”(200714話、ガリシア語)、同“Padre Casares”(20084話、ガリシア語)他、多数の短編のあと、本作で長編デビューを果たした。

キャスト:カンデラ・ペーニャ(エルビラ)、ルイス・カストロ・サエラ(ルイス)、サンドラ・Mokrycka(少女)他

 

ストーリー:ルイスとエルビラは、東欧の犯罪組織と接触してルーマニアに行くことになる。二人は目的地近くでルート変更の連絡を受け取る。ブダペストに止まってあるものを収集しなければならなくなる。最初は簡単に思えたが、「ある収集物」とは8歳の少女であった。この瞬間から彼らは人生の岐路に立たされる。計画続行か、または少女解放かの決断を迫られる。彼らの決断次第で誰かが命を落とすことになるだろう。

 

まずタイトルの“Schimbare”は、「交換」を意味するルーマニア語から取られており、ゾッとするような違法臓器密売の事実が背景にあるようです。前半が社会派ドラマ、後半はスリラー仕立てになっている。監督によると、ベルギーのダルデンヌ兄弟の影響を受けているとインタビューで語っていますが、多分、前半と後半のトーンが分かれる『ロルナの祈り』あたりを念頭においているのかもしれない。ショッキングなテーマであるが、脚本執筆には世界保健機構WHOのデータを使用したと語っており、絵空事ではないようです。世界で行われている臓器移植の10%は違法臓器で、ヨーロッパでは組織されたグループによって主に東欧諸国が提供している。

 

     (撮影中の左から、監督、ルイス・サエラ、カンデラ・ペーニャ、サンドラ)

 

撮影は201311月にルゴ近郊のコルゴO Corgoでクランクイン、ルーマニアの部分はハンガリーで4週間かけて撮影された。キャスト陣は、カンデラ・ペーニャ、ルイス・サエラとベテランが演じているので自分は安心していられたとも。子役のサンドラは、ポーランド人で初出演、勘がよく、想像力豊かな少女で、実年齢は9歳だった由。カンデラ・ペーニャは、デビュー作『時間切れの愛』(1994)でゴヤ賞助演・新人女優賞を異例のダブルノミネート、『テイク・マイ・アイズ』(2003)他で助演女優賞を受賞した実力派、ゴヤ賞2013予想と結果②⇒コチラでご紹介済みです。ルイス・サエラは1966年サンチャゴ・デ・コンポステラ生れのベテラン、すでに『月曜日にひなたぼっこ』(2002)、『アラトリステ』(2006)、『第211号監房』(2009)などに出演しております。

  

モントリオール映画祭2014*ノミネーション①2014年08月17日 18:48

★秋の第一陣として8月下旬から9月にかけて、ヴェネチア映画祭(827日~96日)より一足先にモントリオールで開催される国際映画祭、正式名称は「Festival des Films du Monde--Montréal」、今年は821日から91日まで。モントリオールはカナダでもフランス語圏なので英語よりフランス語映画が多く、受賞作もそのような傾向がある。スペイン語映画はフランシスコ・ロンバルディの『豚と天国』(1990ペルー≂西合作)から絶えて受賞がない。

 

★順当にご紹介するなら、ワールド・コンペティション部門から始めるべきですが、今年のマラガ映画祭の目玉の一つTodos están muertos ノミネートされていましたので、まずそこから入ります。

 

★ファースト・フィルム部門(First Films World Competition)

Todos están muertos They Are All Deadベアトリス・サンチス 2014西 メキシコ

17回マラガ映画祭2014審査員特別賞・最優秀女優賞(エレナ・アナヤ)・青年審査員特別賞(マラガ大学が選考)・オリジナル・サウンドトラック賞(Akrobats)を受賞した。最優秀作品賞の次に大きい賞が審査員特別賞、デビュー作ながら閉幕後の330日にスペイン公開を果たしている。(マラガ映画祭2014で既にご紹介している作品⇒コチラ411

 

キャスト:エレナ・アナヤ(ルぺ)、アンヘリカ・アラゴン(母パキータ)、ナウエル・ペレス・ビスカヤルト(兄ディエゴ)、クリスティアン・ベルナル(息子パンチョ)、マカレナ・ガルシア(ナディア)、パトリック・クリアド(ビクトル)他

 

ストーリー1980年代には兄ディエゴとロックバンド「グリーンランド」を結成、ポップ・ロック歌手のスターとして輝かしい成功をおさめたルぺの15年後が語られる。時は流れ、当時のルぺたちの活躍が話題になることはない。引退した彼女の人生に過去のある幻影が忍び寄ってくる。兄の死後、メキシコ出身の迷信深い母親パキータとちょうど思春期を迎えたテーンエイジャーの息子パンチョと暮らしているが、広場恐怖症のうえパニックに陥りやすいルぺは愛情こまやかな母親なしでは生きていけない。息子はエゴイストの母を嫌っており、二人の関係はぎくしゃくしている。折りも折りパキータは自分に残された時間が少ないことを知り、<死者の日>に戻ってくる亡き息子のディエゴに相談しようと決心する。 


★エル・パイスのコラムニスト、ジョルディ・コスタによると、「完璧に仕上がった映画ではないが、デビュー作としては大胆なアイデンティティに溢れた」作品と評価は高い。既に忘れられた1980年代のノスタルジーやあの世とこの世の境界線のないファンタジックなストーリーを嫌う人は辛口批評になっている。悲劇、コメディ、ドラマ、ファンタジーなどの要素が作用しあった不思議なカクテルとなっているようです。フランコ体制後のスペインは、民主主義移行期を過ぎて1980年代に入ると、アルモドバルを筆頭に新しい才能がスペイン映画界に輩出された。彼のデビュー作『ペピ、ルシ、ボム、その他大勢の娘たち』や、イバン・スルエタの第2Arrebato(エウセビオ・ポンセラ/セシリア・ロス主演)など、1980年の製作である。両作とも公開もDVDも発売されなかったが、『ハモン、ハモン』(1992)でブレイクする以前のビガス・ルナも含めて再評価されるべきと思います。観念的とか美学とは無縁ながら社会を解体するエネルギーがほとばしっている。個人的には20世紀では1980年代の映画が一番面白いと思います(アルモドバル以外の二人は鬼籍入りしています)。

 

ベアトリス・サンチスは、1976年バレンシア生れ、監督、脚本家、アート・ディレクター。2008年のLa claseがゴヤ賞2009短編ドキュメンタリー賞にノミネート、2010年の短編Mi otra mitadがワルシャワ映画祭にノミネートされている。エレナ・アナヤとの5年間(200813)にわたるパートナー関係を昨年の夏解消した。 

 

       (マラガ映画祭授賞式でのベアトリスとエレナのツーショット)

 

エレナ・アナヤは、1975年パレンシア生れ、アルフォンソ・ウングリアのAfrica1996)でデビュー、フェルナンド・レオンの『ファミリア』(1996)、これは「スペイン映画祭1998」で上映されたので、比較的早く日本に紹介された。その後も次々に話題作に引っ張りだこ、最近ではフリオ・メデム『ローマ、愛の部屋』(2010)、アルモドバル『私が、生きる肌』(2011)などで認知度バツグン、マラガ映画祭2012の大賞「マラガ賞」受賞者でもある。

 

(ルぺに扮したエレナ・アナヤ)

 

アンヘリカ・アラゴンは、1953年メキシコ・シティ生れ。カルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』(2002)でヒロインのアメリア(アナ・クラウディア・タランコン)の母親を演じ、アリエル賞の助演女優賞を受賞したベテラン。昨年のラテンビート2013で上映されたラファ・ララの『55日の戦い』(2013)では、ドーニャ・ソレダー役を演じた。

 

         (アンヘリカ・アラゴン『55日の戦い』のプレス会見で)

 

★他にパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』(2012)の白雪姫役でデビュー、翌年ゴヤ賞新人女優賞をいきなり受賞したシンデレラ女優マカレナ・ガルシアが出演している。