シモン・メサ・ソトの「Un poeta」審査員賞*カンヌ映画祭2025「ある視点」 ― 2025年06月06日 11:04
シモン・メサ・ソトの第2作「Un poeta」が審査員賞

(左から、編集者リカルド・サライヴァ、製作者マヌエル・ルイス、シモン・メサ監督、
ウベイマル・リオス、撮影監督フアン・サルミエント、製作者カタリナ・ベルクフェルト、
5月20日、フォトコール)
★ラテンアメリカに「ある視点」の大賞審査員賞をもたらしたのが、コロンビアの監督シモン・メサ・ソトの「Un poeta」(ドイツ、スウェーデン合作)です。作品紹介で述べたようにホセ・ルイス・ルヘレスの「Alías María」以来、10年ぶりのことになります。詩人としては大成できなかったが、若い才能を育てることに生きがいを感じている中年教師オスカル・レストレポのメタ・サティラ。キャリア紹介はカンヌ映画祭2016短編部門に「Madre」がノミネートされた折りアップしていますが、1986年メデジン生れ、アンティオキア大学マルチメディア&視聴覚コミュニケーション卒、奨学金を得てロンドン・フィルム・スクール映画監督博士課程で学んでいる。
*「Un poeta」の紹介記事は、コチラ⇒2025年05月14日
*「Madre」作品 & キャリア紹介記事は、コチラ⇒2016年05月12日
* 長編デビュー作「Amparo」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日

(スタッフ&キャスト、レッドカーペットにて)
★前回の作品紹介の段階ではキャストについて情報が入手できませんでしたが、主役二人は本作で俳優デビューしたようです。監督曰く、オスカル・レストレポのキャラクターを作るために、自分の家族や教授仲間たちからインスピレーションを得た。内気で高尚だがアルコールとノスタルジーに浸っている人々です。プロの俳優の必要性を確信していましたが、そうすると映画が重たくなるだろうと考えていました。そんなとき偶然にも、友人が彼の叔父さんがドンピシャリだと推薦してくれたのが、カメラの前に立ったことなど全くないアマチュア、教員生活30年、54歳の教授ウベイマル・リオスだった。第一印象は主人公とはイメージと違っていたが、結果的には彼と一緒に仕事をすることになった。

(メサ監督と監督の分身でもあるオスカルを体現したウベイマル・リオス)
★上映される日まで「カンヌ、カンヌと騒がれても」リオスは少しも実感が湧かなかった。しかし上映後その「素晴らしさ」を実感することになった。登場人物は「とても気高く、ノーブルな人物、とても気に入ってしまった。私自身も詩が大好きなんです」とリオスはカンヌで語っている。オスカル役は人選に難航したが、女学生ユレディ(ユルレディ)は簡単に決まった。キャスティングに学校回りをしていたときにレベッカ・アンドラーデに出会った。こちらも演技の経験はなかったが、「演技に対する勘の鋭さが可能性を感じさせたので即決した」と監督。カンヌには参加しなかったようです。

(レベッカ・アンドラーデ、フレームから)
★「これは私の個人的な映画です。詩人は私自身なのです。長年コロンビアで映画を作りたいという映像作家としてのフラストレーションを描いています。勿論、映画を撮りたいと夢想するだけでできないでいる他の教師のようにはなりたくなかった」と製作の意図を語っている。「コロンビア人独特のユーモアやエモーションを取り入れ、どこかパンク的な、へんてこだが同時に美しくもあるもの、この映画は私たちコロンビア人についての物語、私たちの矛盾を心を込めて、批判も込めて語りました」とも。Cineuropaは、「メサ・ソトの才能を示した力ある模範例、慎み深い視点と独特のユーモアを込めて、主人公のフラストレーションや抵抗をとらえることができた」と評している。
★製作者については前回簡単に紹介していますが、興奮も冷めやらぬガラの翌日、シモン・メサ監督と撮影監督のフアン・サルミエント・G .(1984)が、「CAMBIO」のインタビューを受けた記事から、二人が映画について同じビジョンを共有していることが見てとれる。サルミエントはメサのデビュー作「Leidi」(14)からコラボしている。「フアンはほとんど家族同然、多くの場合ごちゃごちゃ言う必要がないんだ」と、以心伝心の間柄であることを強調する監督は、それは二人が「映画に対して同じビジョンを持っているからだと思う」と述べている。今回スタイルを変えるにあたっても、「プロセスは流動的だったが、彼が要求したことを話し合いながら私たちは決めました」と応えている。

(製作者マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、監督、フアン・サルミエント、ガラにて)
★インタビュアーの「主役が女性から男性に変わったことが関連しているか」という質問には、「それはあまり関係ない。変化は私の関心が男性のジレンマを掘り下げることに関係している。私たちは芸術の重要性と衝撃について個人的に多くの問題に直面している。特に芸術的なビジョンを実現する上での経済的な圧力を前にしている」と監督。この映画は「シモン個人の危機を反映しているか」という質問には「イエス」と即答している。「年齢の危機、芸術的ビジョン、経済の安定、映画を作り続けるために欠くことのできない頑固さをどうやって維持していくのか」と吐露している。

(主人公オスカルは監督のアルターエゴ、5月20日)
★コロンビア人特有の文化的なユーモアがふんだんに盛り込まれているようだが、ローカルだけでなくインターナショナルにも理解できるようにした。観客がアクセス可能なしっかりした価値をもった映画を作ることを目標にしたとコメントしている。過去のコロンビア映画から影響を受けたものはないが、「ズームのカメラを使用したアメリカのジェリー・シャッツバーグが撮った70年代の映画に影響を受けた」と。具体的に作品名は挙げなかったが、第26回カンヌ映画祭1973のパルムドールを受賞した『スケアクロウ』などを指しているのだろうか。1970年、フェイ・ダナウェイとタッグを組んだ『ルーという女』でデビューした監督、検索したら97歳でご健在でした。フランスのピエール・フィルモンのドキュメンタリー『ヴィルモス・ジグモンドとの緊密な出会い』(16)に出演している。
★2021年の長編デビュー作「Amparo」から撮影監督だけでなく製作も手掛けるようになったフアン・サルミエントは、監督から渡された脚本に目を通して直ぐ「変化を感じた」と語っている。「最初に何を求めているかがはっきりすると、自然に問題が浮きあがってくる。視点は既に充分だった。仕事のやり方は、調和が取れてくるとだんだん落ち着いてくる」と語った。また撮影には本物らしさのタッチとパンクを醸すよう80年代のドキュメンタリーに影響を及ぼした70年代の美学を選択した。「本物らしさとどぎつい美しさをわざと無頓着に反映させた美学に焦点を合わせたことで作品に魂を入れることができた」と語っている。16ミリを採用したのは、「過去のプロジェクトでは恒常的に資金不足で使いたくても使えなかったが、今回は経済的な問題がなかったので採用することができた」と応じていた。秋の映画祭上映を期待したい。
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