ダビ・トゥルエバの新作「Saben aquell」*ゴヤ賞2024 ③2023年12月30日 19:43

    ダビ・ベルダゲルがカタルーニャのコメディアン、エウジェニオに変身

   

      

 

★第38回ゴヤ賞2024210日バジャドリード開催)の未紹介作品をアップしていく予定です。今回は作品賞にノミネートされながら後回しになっていたダビ・トゥルエバの「Saben aquell」のご紹介。主役のコメディアンを演じたダビ・ベルダゲルフォルケ賞男優賞を受賞したばかりです。受賞は「Upon EntryLa llegada」のアルベルト・アンマンを予想しておりましたので少し慌てました。今年のサンセバスチャン映画祭に監督と共演者のカロリナ・ジュステ3人で参加していたおりに簡単にアップする予定でしたが、時間切れでパスした経緯がありましたので、第1弾として選びました。

   

   

(フォルケ賞男優賞の初受賞のダビ・ベルダゲル、フォルケ賞ガラ、2023年12月16日

   

   

(トゥルエバ監督、ダビ・ベルダゲル、カロリナ・ジュステ、SSIFF 2023年9月26日

 

★ゴヤ賞のほかにフェロス賞、ガウディ賞に多数ノミネートされている本作は、トゥルエバ監督の第11作目になります。ドキュメンタリー、TVシリーズ、ミュージックビデオを含めると倍以上の作品を撮っています。難民問題をテーマにした「A este lado del mundo」(20)以来の長編映画は、死後20年以上も経つが今もって語り継がれる伝説的なカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラのビオピック、コメディアンにダビ・ベルダゲル、運命の出遭いをした最初の妻、歌手のコンチータ・アルカイデにカロリナ・ジュステが起用された。

      

       

   (エウジェニオ役のダビ・ベルダゲル、コンチータ役のカロリナ・ジュステ)

    

       

          (監督とダビ・ベルダゲル、撮影中のセット)

 

★二人は1967年に結婚、2人の子供を授かる。その長男ジェラルド・ジョフラが本作の原作者です。実際に当時のライブを見ていたトゥルエバ監督は、「一般の人には知られていない感情に満ちた愛の物語を調べてきましたが、私たち皆が知っていると思っていた、非常に個人的なユーモアを生み出すエウジェニオの手法を賞賛する人にとっては、予想もできないほど彼の人生は複雑でした」とコメントしている。タイトルのSaben aquell」(皆がそのことは知っている)は、エウジェニオがジョークを始めるときのお決まりのフレーズ「もうご存じでしょうね・・・」から採られている。

    

      

           (在りし日のエウジェニオとコンチータ)

 

 

  Saben aquell」(「Jokes & Cigarettes」)

製作:Atresmedia Cine / Ikiru Films / La Terraza Films / Atresmedia / HBO Max /

   Movistar Plus/ TV3   協賛:ICEC(カタルーニャ文化事業協会)/ CCMA

監督:ダビ・トゥルエバ

脚本:ダビ・トゥルエバ、アルベルト・エスピノサ

原作:ジェラルド・ジョフラの Eugenio i Saben el que diu2018年刊

撮影:セルジ・ビラノバ・クラウディン

編集:マルタ・ベラスコ

音楽:アンドレア・モティス

サウンドトラック:作詞ホセ・ルイス・アルメンテロス&パブロ・エレーロ、演奏ニーノ・ブラボー

キャスティング:ペプ・アルメンゴル

プロダクション・デザイン:マルク・ポウ

製作者:エドモン・ロックRoch、ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、クリストバル・ガルシア、ハビエル・ウガルテ、ほか

 

データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語・カタルーニャ語、コメディ・ドラマ、伝記、117分、撮影地バルセロナ。配給:ワーナー・ブラザース・スペイン、公開:バルセロナ1023日、スペイン111

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2024、第29フォルケ賞男優賞受賞(ダビ・ベルダゲル)、ゴヤ賞2024作品・監督・脚色・主演男優(ダビ・ベルダゲル)・主演女優(カロリナ・ジュステ)ほか11部門ノミネート、ガウディ賞同12部門ノミネート、フェロス賞主演男優・女優、予告編3部門ノミネートなど。

 

キャスト:ダビ・ベルダゲル(エウジェニオ・ジョフラ)、カロリナ・ジュステ(コンチータ・アルカイデ)、マリナ・サラス(マリ・カルメン)、ペドロ・カサブランク(ビセンテ)、ラモン・フォンセレ(アマデウ)、ペドロ・ルイス(自身)、モニカ・ランダル(自身)、パコ・プラサ(チチョ・イバニェス・セラドール)、クリスティナ・オジョス(コンチータの母)、マティルデ・ムニィス(エウジェニオの母)、キメト・プラ(エウジェニオの父)、シグフリド・モンレオン(神父)、ニーノ・ブラボー(自身)、他多数

 

ストーリー60年代後半のバルセロナ、若い宝石商エウジェニ・ジョフラは、運命の人コンチータと出逢う。二人はたちまち恋に落ち、ラブストーリーが始まります。彼は彼女の歌の伴奏のためギターを弾くことを学ぶことになります。同時に舞台恐怖症を克服しなければなりません。こうして〈エルス・ドス〉を結成してキャリアを歩み始めます。黒シャツ黒ズボン、スモークグレーの独特のメガネ、背もたれのない椅子スツール、オレンジ入りのウオツカが入ったコリンズグラス、ドゥカド・タバコ、灰皿、これらは彼が〈エウジェニオ〉になりきるための小道具であり舞台装置でした。フランコ独裁制を埋葬したばかりのスペインで、不況にあえいでいた人々は彼と一緒に笑いたいと思っていました。自身は決して笑わず皆を笑わせる人は、皆さんはもう「ご存じでしょう・・・」と前置きしてジョークを始めます。

   

     

 (エウジェニオに変身するための小道具、コリンズグラス、ドゥカドタバコ、灰皿)

 

     「ユーモアは悲しみや不幸から生まれる」―品格のあるジョーク

 

エウジェニオ・ジョフラ(バルセロナ1941~2001311日)は、民主主義移行期から80年代に掛けてテレビ出演を機に有名になったコメディアン、宝石商、画家、俳優、アマチュアの催眠術師。生れはバルセロナだがアラゴン州ウエスカ県ベナバレで育った。バルセロナの美術とデザインのマッサナ学校で学び、宝石のデザイナーとして働いていた。親類にコメディアンやミュージシャンはいなかったが歌うことは好きだった。

 

★どうしてコメディアンになったかというと、素晴らしい声の持ち主だった歌手コンチータ・アルカイデ1939~1980)と運命的な出会いをしたからです。彼女の歌の伴奏をするためギターを習ったのは、彼女への愛のためでした。デュエット〈エルス・ドス〉を結成、結婚(1967年)する。そして妻コンチータの早すぎる死(乳癌)が、彼の人生を特徴づけるターニングポイントになった。突然幼い息子2人と取り残されたエウジェニオは、ソロでのコメディアンにならざるをえませんでした。上述したように、この長男が本作の原作者でショーマンのジェラルド・ジョフラ1969~)です。

   

       

          (原作者と著書 Eugenio i Saben el que diu

 

★ジェラルドによると、父親について書かれた本やドキュメンタリー「Eugenio」(18)が「本当の父ではなく、別人のように思えたからです」と、その執筆動機を語っている。またアンダルシアのウエルバ生れの母親コンチータは、17歳のときバルセロナにやってきた。彼女を演じたジュステと同じようにカタルーニャ語を学んだ。彼女のカタルーニャ語はとても上手で、カタルーニャ語の歌も素晴らしかった。実際、彼女なしでエウジェニオの成功はなかったといわれています。また非常に献身的な女性で、ジェラルドによると「私は3人の子持ち、エウジェニオ、ジェラルド、それに弟」と語っていたそうです。彼女がこの映画の核心のようです。コンチータ亡き後一人でTVやライブのステージに立ち、90年代初めに引退した。しかし死ぬ数年前に舞台復帰を希望して、その舞台で心臓発作を起こして倒れ、医者から警告を受けることになった。長年鬱病に苦しみ人生から逃避していたが、初孫が誕生した日に「もう耐えられない、終りにしたい」とジェラルドに語り、その言葉通り数日後に旅立った。享年59歳でした。

   

      

           (ジェラルド、初孫を抱くエウジェニオ)

 

★テレビだけでなくライブを聴いたトゥルエバ監督は、ライブでの強烈な印象についても語っている。「スペイン人のすべてがエウジェニオを知ってるわけではなく、若い人は勿論だが35歳以上でないと知らないと思う」と述べている。本作を製作する前に彼について書かれたさまざまな本、ドキュメンタリーを見ていた。しかし「彼が内向的な人物で、彼の内面の苦悩について語ったものはなかった」と、その製作動機を語っている。これは原作者の意見と同じようです。「ユーモアは悲しみや不幸から生まれる。エウジェニオ自身は決して笑わず、皆を笑わせる人」だが、ユーモアの背後には愛の悲しい物語があった。エウジェニオは突然大切なものを失う恐怖を知っている人でした。バルセロナ・ドキュメンタリー映画祭でプレミアされたハビエル・ベイグジョルディ・ロビラのドキュメンタリー「Eugenio」(18)は、エウジェニオのアーカイブ映像を使用、遺族や友人を多数出演させている。

       

    

          (ドキュメンタリー「Eugenio」のポスター)

 

★監督はエウジェニオを演じたベルダゲルについて「ベルダゲルのように飛びぬけた演技者なしに映画の成功はなかった。〈ダビはぶっとんだやつ〉です」と絶賛した。「スタンドアップ・コメディの世界を見事にさばき限界がない。エウジェニオを真似るのではなく、エウジェニオのまがい物でもない。強いて言えばメイクで付け鼻をしてもらっただけ」と監督。本作には他にベテランのコメディアンで俳優のペドロ・ルイス、女優でテレビ司会者のモニカ・ランダル、さらにパコ・プラサ監督がチチョ・イバニェス・セラドール役で出演している。マラガ映画祭2018の「ビスナガ・シウダ・デル・パライソ」賞受賞者モニカ・ランダルは、エウジェニオがテレビに初めて登場したときのプレゼンターだそうです。

  

★トゥルエバ監督とキャスト紹介は、当ブログにはお馴染みさんばかりですが、以下に紹介記事をアップしています。主役のベルダゲル(ジローナ1983)はカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』の少女の叔父役でゴヤ賞2018助演男優賞を受賞している。今回は主演男優賞にノミネートされ、異才カルロス・マルケス=マルセ映画の常連です。カロリナ・ジュステ(バダホス1991)は、テレビ出演でスタートを切り、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞、「El cover」でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞、本作でゴヤ賞、ガウディ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。

 

ダビ・トゥルエバの主な紹介記事は、コチラ20141121

 『「ぼくの戦争」を探して』

ダビ・ベルダゲルの最近の紹介記事は、コチラ2019年04月11日

 「Els dies que vindran

カロリナ・ジュステの主な紹介記事は、コチラ2018年05月13日『カルメン&ロラ』

 2021年05月18日El cover


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