ゴヤ賞2023栄誉賞はカルロス・サウラ*ゴヤ賞2023 ⑨2023年01月07日 20:34

            現役最年長監督カルロス・サウラにゴヤ賞2023栄誉賞

 

      

 

★昨年の〈スペイン映画の日〉である106日、スペイン映画アカデミー新会長フェルナンド・メンデス=レイテが「1950年代後半から今日に至るまで、スペイン映画の歴史に対する彼の広範かつ個人的な創造的貢献にたいして、第37回ゴヤ賞2023の栄誉賞はカルロス・サウラ」と発表した。映画監督、作家、脚本家、写真家、デザイナー、舞台演出家、ミュージカル愛好家、危険を恐れず冒険を愛し、常に前進し続けるカルロス・サウラに遅ればせながらゴヤ栄誉賞を授与することにしたようです。

   

    

        (栄誉賞の発表をするメンデス・レイテ会長、2022106日)

   

★スペインを代表する製作者エリアス・ケレヘタ、エミリアノ・ピエドラ、アンドレス・ビセンテ・ゴメスとタッグを組み、一時期チャールズ・チャップリンの義理の息子だったサウラ、ルイス・ブニュエルの友人で共同製作者、映画界だけでなくオペラでもダニエル・バレンボイムやズービン・メータと協同したほか、フラメンコのパコ・デ・ルシアやカマロン、撮影監督のヴィットリオ・ストラーロとも仕事をした国際人でもあった。スペイン民主主義移行期の1977年、ブニュエルの遺作となった『欲望のあいまいな対象』がサンセバスチャン映画祭に正式出品された折り、二人の監督は現地入りして握手を交わしている。

  

        

    

    (ルイス・ブニュエルとカルロス・サウラ、サンセバスチャン映画祭1977

 

1950年代後半から現在まで途切れることなく作品を発表、短編、TVシリーズを含めると51作という驚異的な本数になりますが、ゴヤ胸像は『歌姫カルメーラ』(90)での監督賞、ラファエル・アスコナと共同執筆した脚色賞の2賞だけでした。サウラの代表作は、1965年の長編デビュー作『狩り』以下、『ペパーミント・フラッペ』、「悦楽の園」、成熟期に入ったと称された『従姉アンヘリカ』、自身の人生観を語り始めたという『カラスの飼育』、自分の道を選ぶという可能性を問うた『愛しのエリサ』、オスカー賞ノミネートの『ママは百歳』、1981年の金熊賞受賞の『急げ、急げ』まで、そのほとんどがゴヤ賞創設以前の製作でした。今年のガラ開催は211日、会場はセビーリャFIBESです。

 

★「私を虜にしているものに携わりながら人生を送れるのは幸運です。映画を撮り、舞台やオペラを演出し、絵を描いたり、写真を撮ったりしてきましたが、これからも同じようにしたいと思っています。アカデミーから受賞の報せをいただき、大きな喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。私たちの映画と文化を守ることは最も重要なことの一つです」というメッセージを、末娘の女優アンナ・サウラ(1994生)が代読した。かたわらにはプロデューサーのアントニオ・サウラ(1980生)が同席していた。スペイン映画の日のTV番組のようですね。

 

     

       (代読するアンナ・サウラ、アントニオ・サウラ、2022106日)

 

〈スペイン映画の日〉というのは、2021年、スペイン文化・スポーツ大臣ロドリゲス・ウリベの肝煎りで新設されたもので、スペイン映画産業の促進を目的とし、その影響力と重要性を認識するために設けられた。106日が選ばれたのは、20世紀のスペインを代表する二人のシネアスト、ルイス・ガルシア・ベルランガフアン・アントニオ・バルデムが共同監督したシリアスコメディ「Esa pareja feliz」(「あの幸せなカップル」)の撮影が1951106日に終了したからだそうです。主役を名優フェルナンド・フェルナン・ゴメスが演じたこともあるようです。2021年はベルランガ生誕100周年、2022年はバルデム生誕100周年でした。

    

193214日ウエスカ生れ、御年91歳の現役監督がまだ受賞していなかったとは驚きです。第70回サンセバスチャン映画祭2022にも芸術の起源についてのドキュメンタリー「Las paredes hablan」(75分)がエントリーされており、愛用のカメラを携えて現地入りするはずでしたが、犬の散歩中に転んで骨折したとかで見送られました。同年の第25回マラガ映画祭でビスナガ栄誉賞を受賞しており、世代的には孫娘にあたるカルラ・シモンからトロフィーを受け取り、「朝目が覚めると、なんてこった、まだ生きてるぞ」と、ユーモアたっぷりの受賞スピーチをしたのでした。

    

   

       (カルラ・シモンからトロフィーを受け取る巨匠、マラガFF2022)

 

★オーディオビジュアル著作権管理協会(EGEDA)が選考母体のホセ・マリア・フォルケ賞は、縁の下の力持ちである製作者を讃える賞として始まったこともあり監督賞はありません。代わりにEGEDA金のメダルが栄誉賞に当たり、サウラは2018年に受賞しています。他に2015年の第2フェロス栄誉賞、スペイン文化省が与える国民賞のうち映画部門は1980年から始まったのですが、その最初の映画国民賞を受賞したのがサウラでした。

         

      

       (EGEDA金のメダルを受賞したサウラ、フォルケ賞2018

 

★子供時代にスペイン内戦を体験したサウラは、「スペイン内戦は映画ではまだ充分に扱われていない。私が今怖れているのは、再びあの対立が起きることです。それが私を怖がらせます。その可能性は遠くない、なぜなら私たちは何も学んでいないからです」と。彼の映画では死が常に語られており、表層的には内戦がテーマでなくても内戦と深く結びついています。サウラは「家でも映画を見ており、良いものも悪いものも見ます。嫌いなものを見るのは、それが私の学ぶ方法だからです。50本の映画を撮れたのは奇跡でした」と語っている。211にはカメラを首から下げて元気な姿を見せてくれるでしょう。

 

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