セクション・オフィシアル最終回*サンセバスチャン映画祭2022 ⑥2022年08月14日 11:28

          70回セクション・オフィシアル追加作品

 

★セクション・オフィシアル追加作品の最終回はベテラン監督編、国際映画祭では度々目にする顔ぶれが選ばれています。デンマークからは東京国際映画祭2019の東京さくらグランプリ受賞作品『わたしの叔父さん』のフラレ・ピーダセンの「Resten af livet / Forever」、本祭以外にもカンヌやベルリンなどの受賞歴を誇る韓国のホン・サンスの「Top / Walk Up」、ベルリンFF2022コンペティション部門で上映された「Limini」と、もともとは一つの映画だったというオーストリアのウルリヒ・ザイドルの「Sparta」、チェコのペトル・ヴァーツラフの「Il Boemo」は、18世紀後半チェコ出身でローマで活躍、チェコで初めて国際的な作曲家になったヨゼフ・ミスリヴェチェクの伝記映画、あの天才モーツアルトが賛辞を贈っていたという、管理人も初めて目にする作曲家の名前、だから映画は楽しい。各国とも金貝賞受賞と期待が高まっているようです。今回をもってセクション・オフィシアルは終りです。

 

 

13)「Resten af livet / Forever」 デンマーク 

監督フラレ・ピーダセンFrelle Petersen(オベンロー1980)は、「Onkel / Uncle」が『わたしの叔父さん』の邦題で東京国際映画祭2019で上映され、東京さくらグランプリを受賞、劇場公開になった。ほか「アート・オブ・クライング」(06)など。新作は南ユトランド半島を舞台に家族の喪失と再生が語られる。本国では既に公開され、「人生を肯定的に描いて勇気を与えてくれる、今年最高のデンマーク映画」と絶賛されている。『わたしの叔父さん』で好評だったイェデ・スナゴーが主演している。

データ:製作国デンマーク、デンマーク語、2022年、ドラマ、110分、公開デンマーク202277日。

   

    

 

キャスト:イェデ・スナゴー(リリー)、オレ・ソレンセン(エゴン)、メッテ・ムンク・プラム(マレン)

ストーリー:厳しい自然の力が猛威をふるう沼地と北海に近い南ユトランド半島でくり広げられる、人生を肯定する家族の物語。エゴンとマレンの老夫婦は、成人した二人の子供と石造りの戸建ての家で静かに暮らしていた。しかし息子を失うという耐えがたい悲劇が家族を襲ったとき、突然敷物の下に隠れていたものが顔を出します。残された家族の喪失と再生が語られる。監督が構想した三部作(第1部「Onkel」)の2作目ということです。

  

     

             (リリー役のイェデ・スナゴーとマレン役のムンク・プラム)

 

 

14)「Top / Walk Up」 韓国

監督ホン・サンスHong Sangsoo(ソウル1960)は、監督、脚本家、製作者。本祭との関りでは、2016年コンペティション部門の『あなた自身とあなたのこと』が銀貝(監督)賞、2017年サバルテギ-タバカレラ部門ノミネートの『それから』(17)、続く2020年には『逃げた女』でスペシャル・メンションを受賞している。前者はカンヌFF、後者はベルリンFFで銀熊(監督)賞受賞作品。最近では『夜の浜辺でひとり』(17)、『あなたの顔の前に』(21)など多数劇場公開されている。今回の新作で2回目の金貝賞を競うことになる。キャスティングはサンス映画の常連さんで固めており、主役にクォン・ヘヒョを据えている。

データ:製作国韓国、韓国語、2022年、ドラマ、97分、トロント映画祭2022上映後、サンセバスチャン映画祭、10月にはニューヨーク映画祭に選出されている。配給The Cinema GuildUSA

   

    

 

キャスト:クォン・ヘヒョ(ビョンス)、イ・ヘヨン、パク・ミソ(ジョンス)、ソン・ソンミ、チョ・ユンヒー、ほか

ストーリー:中年の映画監督ビョンスは、インテリアデザイナー志望の娘ジョンスと一緒に、何年ぶりかで、既にデザイン界では実績のある旧友の所有するビルを訪ねていく。デザイナーは二人に改装された各階を案内する。2階にはレストランと調理スタジオ、地下には彼女のオフィス、3階は住まい、3人は各階の部屋をちらっと覗いていく。映画はこんな雰囲気で始り、その後再び階下から上階に上がっていく。

 

    

                           (クォン・ヘヒョ、フレームから)

 

 

 

15)「Sparta」 オーストリア 

監督ウルリヒ・ザイドル(ウィーン1952)は、監督、脚本家、製作者。本祭との関りは、レトロスペクティブ部門やサバルテギ-タバカレラ部門で上映されているが、コンペティション部門は今回の「Sparta」が初めて。代表作は『ドッグ・デイズ』がベネチアFF2001審査員特別賞、ヒホンFFアストゥリアス・グランプリを受賞している。「パラダイス」(201213)で愛、神、希望を語った三部作は、世界三大映画祭に出品されそれぞれ高い評価を受けた。新作「Sparta」と姉妹映画の関係にある「Rimini」(22)は、ベルリナーレでプレミアされ、ディアゴナーレで最優秀長編映画賞に選ばれたほか、パリックFFFIPRESCI 賞を受賞している。これら2作は元々一つの作品として出発したが、コロナ感染の影響の遅れもあって2作に分割された姉妹映画です。

 

        

                        (ウルリヒ・ザイドル、第72回ベルリナーレ2022215

 

データ:製作国オーストリア=フランス=ドイツ、2022年、ドラマ、101分。製作Coproduction Office / Arte France Cinéma / Société Parisienne de Production / Seidi Film / Bayerischer Rundfunk TV、他、脚本は監督自身と監督夫人ヴェロニカ・フランツ、撮影ヴォルフガング・セイラー、美術アンドレアス・ドンハウザーとレナーテ・マルティン、衣装ターニャ・ハウスナー、製作者フィリップ・ボベール&監督、(エグゼクティブ)アンドレアス・ロアルドほか、撮影地オーストリア、イタリア、ルーマニア、ドイツ、期間2017年春から2018年までの85日間、公開オーストリアは2023年が予定されている。撮影中の201711月にハンス・ミヒャエル・レーベルクが鬼籍入りしている。主役は前作にも出演しているゲオルク・フリードリヒ

 

キャスト:ゲオルク・フリードリヒ(エヴァルト)、ハンス・ミヒャエル・レーベルク(父)、フロンティナ・エレナ・ポップ、マリウス・イグナット、オクタヴィアン・ニコラエ・コーシス

ストーリー:エヴァルトは数年前にルーマニアに引っ越してきた。40代を迎え新たなスタートを切りたいと、ガールフレンドとも別れて、より奥地に移動することにした。地元の少年たちと一緒に朽ち果てた校舎を要塞に変えていく。子供たちはこの新しい生活を大いに楽しんでいますが、村人のあいだで不信感が高まっていきます。それは彼が長いあいだ封印してきた真実に立ち向かわざることになるだろう。前作「Rimini」の姉妹作品であり、過去からの遁走の不可能性についての、自分自身を襲った痛みについての、ザイドル自身の結論が語られるのだろうか。

 

     

                                   (フレームから)

 

 

16)Il Boemo」 チェコ 

監督ペトル・ヴァーツラフPetr Václav(プラハ1967)は、監督・脚本家、2003年からパリ在住、二重国籍を持っている。本祭との関りは、第2作「Parallel Worlds」(01)がニュー・ディレクターズ部門に出品されている。新作「Il Boemo」は、チェコ生れだがイタリアに渡って1770年代のイタリアオペラで活躍した作曲家ヨゼフ・ミスリヴェチェク(173787ローマで死去)の伝記映画。

データ:製作国チェコ=イタリア=スロバキア、2022年、イタリア語、伝記映画、141分、脚本ペトル・ヴァーツラフ、撮影ディエゴ・ロメロ、編集パオロ・コッティニョーラほか、メイク部門テレサ・バシリほか、製作Mimesis Film / Dugong Films / Sentimentalfilm / Czech Film Fund、チェコTVほか。公開チェコ1020

   

     

 

キャスト:ヴォイチェフ・ダイク(ヨゼフ・ミスリヴェチェク)、エレナ・ラドニッチ、バルバラ・ロンキ(カテリナ)、ラナ・ブラディ、カレル・ローデン、フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)、シモーナ・シャトゥロヴァー(ソプラノ)、リノ・ムゼッラ、フィリップ・アマデウス・ハーン(青年モーツアルト)

 

      

   

 

ストーリー1764年、ヨゼフは1年以上もベネチアで不安定な生活を送っていた。オペラの作曲家を目指していたが、才能のある作家たちで町は溢れており、彼を受け入れる門は閉ざされているようだった。しかし彼がバイオリニストの仕事を探しているとき、ある裕福な若い女性との出会いで軌道に乗ります。彼女のお蔭でサロンで演奏するチャンスを得ることができます。しかし彼の本当の幸運は、彼がある放縦な侯爵夫人の愛人になったときに訪れます。彼女は洗練されたマナーを教え、彼に宗教的不寛容から解放された快楽主義的な生活を紹介します。ヨゼフはヨーロッパ最大の劇場であるサン・カルロのためにオペラを書くという信じられない依頼を受けます。

    

       

         (左から、ヴォイチェフ・ダイク、ヤン・マコラ、監督)

 

 トレビア記事

ヴァーツラフ監督談「ヨゼフは優れた作曲家というだけでなく、何よりも優れた心理学者、ドラマトゥルギーであった。登場人物の葛藤を強調し、感性やジレンマを伝える術を知っていた。若いモーツアルトが魅了されたのは、まさにこの劇的な才能への称賛でした」と主人公の魅力を語っている。

また製作者のヤン・マコラは「前例のない準備期間、撮影から完成まで10年がかりでした。歴史的推敲、独自性の強調、全員が取り組んだ現代性への努力が実った」と語っている。

主役を演じたヴォイチェフ・ダイクは歌手でもあり、母語のほかドイツ語、イタリア語が堪能で、全編イタリア語で撮ったが支障がなかった。プロフェッショナルなオペラ歌手、フランスのカウンターテナーのフィリップ・ジャルスキー、ソプラノのシモーナ・シャトゥロヴァーも出演、オーケストラはプラハ・バロック交響楽団、指揮者はヴァーツラフ・ルクスでした。

 

 

   

(左から、フラレ・ピーダセン、ホン・サンス、ウルリヒ・ザイドル、ペトル・ヴァーツラフ)

 

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