イサベル・コイシェのドキュメンタリー*サンセバスチャン映画祭2022 ③ ― 2022年08月03日 14:44
イサベル・コイシェの「El techo amarillo」は特別上映
★セクション・オフィシアルの特別上映となったイサベル・コイシェ(バルセロナ1960)の新作「El sostre groc / El techo amarillo」は、2001年から2008年のあいだにリェイダの演劇学校で行われていた青少年への性的虐待のドキュメンタリーです。Aula de Teatro de Lleidaリェイダ演劇講堂で犯されていた性的暴力に現在でも苦しんでいる9人の元生徒たちの証言と裁判にいたるまでのプロセスが語られる。#Me Too運動を反映させたドキュメンタリー。コイシェの本祭との関りはメイド・イン・スペイン部門での上映を除くと、デビュー作「Demasiado viejo para morir joven」(88、108分、カタルーニャ語)が、ニューディレクターズ部門に出品されただけである。その際、批評家から酷評されたショックで立ち直るのに時間がかかったという。しかし翌春マドリードとバルセロナで公開され1990年から始まったゴヤ賞新人監督賞にノミネートされた。スペイン文化省が授与する映画国民賞の授賞式はサンセバスチャン映画祭で行われることになっており、彼女は2020年の受賞者としてホセ・マヌエル・ロドリゲス・ウリベス大臣の手から証書を受け取った。
(映画国民賞を手にしたイサベル・コイシェ、2020年9月20日、SSIFF2020にて)
「El sostre groc / El techo amarillo / The Yellow Ceiling」スペイン
監督:イサベル・コイシェ、視覚効果はララ・ビラノバ。キャリア&フィルモグラフィーについては以下に紹介しています。
データ:製作国スペイン、2022年、ドキュメンタリー、94分、製作Miss Wasabi、撮影地バルセロナとリェイダ。撮影に1年半、40時間に及ぶフィルム編集が終わったのが2022年1月、最初は4月公開がアナウンスされていたが、本祭の特別上映枠でプレミアされることになった。
出演者:アイダ・フリックス、ヌリア・フアニコ(報告書の執筆者)、マルタ・パチョン、ミリアム・フエンテス、ゴレッティ・ナルシス、アルベルト・リィモス(報告書の執筆者)、ヴァネッサ・スプリンゴラ(フランの作家・編集者・映画監督)、ビオレタ・ポルタ、他
解説:2018年、カタルーニャ州リェイダ(スペイン語レリダ)県の演劇学校の教師アントニオ・ゴメスを性的虐待で告発した女性たちのドキュメンタリー。2020年5月23日、ARA(カタルーニャの日刊紙)が、リェイダ演劇学校で学ぶ未成年者を含む何十人にも及ぶ生徒が、2人の教師から受けていた性的虐待の報告書を公けにした。映画は9人の元生徒の証言を元に、センターの指導官、教員、告発者の家族、現生徒、元生徒、ARA紙の記者、アルベルト・リィモスやヌリア・フアニコのような報告書の執筆者などで構成されている。作家ガブリエル・マツネフに14歳から性的虐待を受けていたというフランスの作家、出版編集者ヴァネッサ・スプリンゴラの名前もクレジットされている。2020年に刊行した回想録「Le Consentement」(「同意」)はベストセラーとなり、フランス社会のエリート著名人、政財界に激震を引き起こした。ここでは深入りしないが、彼女が何を語るかも興味のあるところです。
★ARA紙の記事から1年後、コイシェは「虐待に苦しんだ瞬間から、それを司法に報告する決心をするまでのプロセスを反映するために、証言に声を与えるドキュメンタリーの準備をはじめた」と製作の動機を語っている。「あの記事を読んだとき、私はある特別な感動を覚えました。彼女たちの話をもっと聞かねばならない、ドキュメンタリーを通じてより多くのことを語ってもらい、そうすることで別の側面をもたらすことができると考えたのです」と付け加えた。
★監督は、被害者意識を遠ざけたいと思った。「みんな自分が悲劇の女王だと思っているが、涙を流すだけでは何の解決にもならない、涙にはある種の限界があるのです。虐待についてのドキュメンタリーには、常に不満をもっていたので、涙を排除した視点から撮りたいと思った。泣いてる女性を見るのは好きではない」とコイシェはインタビューに応えている。男尊女卑が幅を利かす映画界で奮闘してきた監督らしい。泣き寝入りをしない女性たちの応援歌になっているのかもしれない。
★キャリア&フィルモグラフィーについては、以下の作品紹介でアップしています。特に『マイ・ブックショップ』(17)、Netflixストリーミング配信の『エリサ&マルセラ』(19)で紹介しています。海外に軸足をおいて英語で製作しているせいか、長編、短編、ドキュメンタリー、オムニバス映画などを含めると優に30作を超えます。2022年のドノスティア栄誉賞を受賞するジュリエット・ビノシュを主役にして撮った「Nobody Wants the Night」(15)は、後に「Endress Night」と改題している。またイギリスのキャスト陣を主軸にしたスリラー「Nieva en Benidorm」(20)は、ゴヤ賞2021の監督賞・プロダクション賞(トニ・ノベリャ)にノミネートされている。
◎コイシェ監督関連記事◎
*「Nieva en Benidorm」の紹介記事は、コチラ⇒2021年02月11日
*『エリサ&マルセラ』の紹介記事は、コチラ⇒2019年02月11日/同年06月12日
*『マイ・ブックショップ』の紹介記事は、コチラ⇒2018年01月07日
*『しあわせへのまわり道』(14)の紹介記事は、コチラ⇒2015年08月29日
*「Nobody Wants the Night」(「エンドレス・ナイト」)の記事は、コチラ⇒2015年03月01日
*「Another Me」(13)の紹介記事は、コチラ⇒2014年07月27日
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