『彷徨える河』の監督、8人の女性からセクシャルハラスメントで訴えられる2020年06月30日 14:42

          チロ・ゲーラ「悪意のこもった嘘八百」と法廷対決を辞さない構え

  

    

       (『彷徨える河』のポスターをバックにしたチロ・ゲーラ監督)

 

625日、エル・パイス紙以下の各新聞が一斉にコロンビアの監督チロ・ゲーラのセクシャルハラスメントと性的虐待の記事を報道しました。真偽のほどが分からない段階で、つまり性暴力の被害者側の話だけを信じてのブログアップは少々躊躇されますが、話半分としても事実なら残念の一言です。現在監督は、アマゾンプライムビデオのシリーズ「エルナン・コルテスとモクテスマ」撮影のためメキシコ入りしています。以前記事にしたようにハビエル・バルデムがコルテスに扮します。どうもケチがついて嫌な予感がします。

 

★各紙ともほぼ内容は似たり寄ったりです。発端はデジタルのフェミニスト雑誌Volcánicasに、コロンビアのジャーナリストであり作家でもあるマティルデ・デ・ロス・ミラグロス・ロンドニョと作家のカタリナ・ルイス・ナバロによって執筆されたレポートが掲載されたからです。マティルデによると、今年の初め、男性の友人から「チロ・ゲーラからセクシャルハラスメントを受けた事実を伝えたいという女性の連絡を受けた」という。すると次々に同じ経験をしたという声が入り合計8人に上った。それぞれお互いを知らない8人はチャットで出会い、その苦しみを語りあっていた。

 

8人のケースは似通っていて、すべて国際映画祭、カンヌ、ベルリン、コロンビア、カルタヘナのイベント中であることが分かった。女性たちは告発すると仕事を失う恐怖があると推察します。7人がセクシャルハラスメント、残る1人が性的虐待です。2013年から19年、特に『彷徨える河』(15)がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた以降に集中していたことが分かり、ノミネートの名声を嵩にかけて強要したことがはっきりしたという。ある女性は監督から「私がカンヌ映画祭の批評家週間の審査員になったのを知ってるでしょ」と言って、強引にキスをされたという。被害者の調査に数ヵ月を費やし、データの事実確認をして公にしたという。勿論監督は告発を全面否定、自分を守るために法廷に行くと語っている。

 

★被害者の名前は、すべてテレサだのカロリナだの仮名で現れ、刑法上の裁判を望むものではないという。なぜなら被害者は過去に受けた自身の苦しみを法廷で公にすることの恐怖、大衆の嘲笑を望まないからである。ジェンダーの専門家であるビビアナ・ボールケス弁護士は「ここコロンビアの裁判官は少なく見積もっても70パーセントが男性だから、脚に触ったの、キスを無理強いされたの、虐待されたのと訴えても、誇張しているだけと考えます」。今年同じような事案6例を検察に提出しましたが、加害者をのさばらせる結果に終わりました。コロンビアの裁判制度に問題があるのですと弁護士は語っています。

 

★生々しいレイプ体験を語ったアドリアナ(仮名)は「彼の体重の重さに抵抗できず、頭を押し付けられたりしたことが蘇えり、頭で追体験したり、法廷で質問に答えたりしたくない」と加わるのを躊躇したという。昨年11月に開催されたボゴタ映画祭のときに起きたという。アドリアナのケースでは傷口がまだ開いたままだから尻込みするのは当然でしょう。

  

          チロ・ゲーラの事案は氷山の一角、映画界に蔓延するセクシャルハラスメント

 

★コロンビアのオーディオビジュアルの組合員にセクシャルハラスメントについてのアンケートを実施したところ、イエスが81%、そのうち報告しないで泣き寝入りをした人が84%という結果になった。うち一人は「プロデューサーはその事実を把握しているが、慣れろと言われただけ」という。非難した人は逆に嘲笑され、問題があるのはアナタとして村八分に会い、あげく解雇されることもある。失業したくなかったら黙るしかない。「一人では無力でも連帯すれば勝てるのだが、今不足しているのがその連帯」と、ボールケス弁護士。8人は告訴を望んでいないが、コロンビアのMe Too 運動の今後が試されます。

 

★メキシコに滞在している監督は「自身の名誉にかけて法廷闘争も辞さない」と決意のほどを語っていますが、潔白なら無実を証明していただきたい。『彷徨える河』の製作者、『夏の鳥』(18)を共同監督したクリスティナ・ガジェゴとのあいだに二人の子供がいるが、『夏の鳥』完成前に離婚していた。女性の権利拡大の推進者、イベロアメリカ・フェニックス賞2018で作品賞を受賞した折には、緑のハンカチを手に巻いて登壇していた。彼のセクシャルハラスメント問題が一因だったのだろうか。

 

   

  (緑のハンカチを手に巻いてイベロアメリカ・フェニックス賞2018授賞式に臨む

        クリスティナ・ガジェゴ監督、中央のグリーンのドレス)

 

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『彷徨える河』の作品紹介記事は、コチラ2015052420161201

『夏の鳥』の作品紹介記事は、コチラ201805181117