マティアス・ピニェイロの「Isabella」*ベルリン映画祭20202020年03月11日 21:00

  マティアス・ピニェイロのIsabella」はシェイクスピア・シリーズ第5作目

   

      

マティアス・ピニェイロIsabellaは、今年新設された「エンカウンター部門」で上映された作品の一つ、スペシャル・メンションを受賞した。前回紹介したカミロ・レストレポ監督とマティアス・ピニェイロの二人は、ノミネーション段階からラテンアメリカの有望な監督として紹介されており、受賞は意外でなかったかもしれない。特にピニェイロ監督は、アテネ・フランセとアップリンク渋谷が共催したミニ映画祭が20149月と20176月に開催されており、監督来日もあった。「イザベラ」は彼のシェイクスピア・シリーズの第5作目に当たります。四大悲劇の一つ『オセロー』と同じ1604年に発表された『尺には尺を』(「Measure for Measure」)がベースになっている。監督は現在ニューヨーク在住のため、撮影は飛び飛び、20181月にクランクインしたものの最終は20198月だったそうです。

「マティアス・ピニェイロ映画祭2017」の記事は、コチラ20200302

 

     

  (製作者メラニー・シャピロとマティアス・ピニェイロ、ベルリン2020226日)

 

マティアス・ピニェイロ1982年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、アルゼンチン・ニューシネマの一人。国立映画大学で学び、後に同校で映画史、映画製作について教鞭をとる。2011年ハーバード大学のラドクリフ奨学金を得て渡米、現在は新たにニューヨーク大学の奨学金を受けてニューヨークに軸足をおいている。従ってコペンハーゲン・ドキュメンタリー・ラボでのスペインのロイス・パティーニョとの共同プロジェクトは断念している。

 

        

          (マティアス・ピニェイロ、226日)

 

2003年短編デビュー、数年助監督を務めたあと、2007年のEl hombre robadoで長編デビュー、チョンジュ映画祭でグランプリを受賞、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 BAFICI ではスペシャル・メンションを受賞した。本作は2014年のミニ映画祭で『盗まれた男』の邦題で上映された。主なフィルモグラフィーは以下の通り。

   

     

              (デビュー作のポスター)

 

  フィルモグラフィー&主な受賞歴(邦題は映画祭2017を使用)

2007El hombre robado」チョンジュ映画祭グランプリ受賞、ラス・パルマスFF1回作品賞

2009『みんな嘘つき』BAFICIスペシャル・メンション

2010『ロサリンダ』中編43分、シェイクスピア・シリーズ第1作、『お気に召すまま』

2012『ビオラ』シェイクスピア・シリーズ第2作、『十二夜』

   BAFICI の国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、バルディビアFF特別審査員賞

2014『フランスの王女』シェイクスピア・シリーズ第3作、『恋の骨折り損』

   BAFICIアルゼンチン映画賞、カトリックメディア賞SIGNISなど受賞

2016『エルミア&エレナ』シェイクスピア・シリーズ第4作、『夏の夜の夢』

2020Isabella」シェイクスピア・シリーズ第5作、『尺には尺を』

   ベルリン映画祭2020エンカウンター部門スペシャル・メンション

(以上、他にロカルノやトロント映画祭などのノミネーションは割愛)

 

 

Isabella2020

製作:Trapecio Cine

監督・脚本:マティアス・ピニェイロ

撮影:フェルナンド・ロケット

編集:セバスティアン・Schjaer

音楽:ガブリエラ・サイドン、サンティ・グランドネ(ン)Grandone

録音:メルセデス・テンニナTennina

プロダクション・デザイン&衣装デザイン:アナ・カンブレ

製作者:メラニー・シャピロ

 

データ:製作国アルゼンチン、フランス、スペイン語、2020年、ドラマ、80分、撮影地ブエノスアイレス、コルドバ、クランクインは20181月、20198月にクランクアップ。

映画祭・受賞歴:第70回ベルリン映画祭2020エンカウンター部門(226日)スペシャル・メンションを受賞。

キャスト:マリア・ビジャール(マリエル)、アグスティナ・ムニョス(ルシアナ)、パブロ・シガル(ミゲル)、ガブリエラ・サイドン(ソル)他

 

ストーリー:ブエノスアイレス生れの女優マリエルは、シェイクスピアのコメディ劇『尺には尺を』のヒロイン、イザベラ役の獲得に挑戦している。マリエルはオーディションで何度も、避けられない運命のように、ルシアナを見かけます。ルシアナは影のように振舞うが、同時に彼女を照らし魅了する。シェイクスピア喜劇における女性の役割について、現代の欲望の定義の難しさについて、ピニェイロ映画常連のマリア・ビジャールとアグスティナ・ムニョスが火花を散らす。 

                                           

    

      (マリア・ビジャールとアグスティ・ムニョス、映画から)

 

★新作「Isabella」の情報は少なく、シェイクスピア劇『尺には尺を』の知識が若干あったほうが楽しめそうです。マリエル役のマリア・ビジャール1980)は、ピニェイロ映画には長編デビュー作以来、シェイクスピア・シリーズ全5作は勿論のこと、ほぼ全作に出演している。国立芸術大学演技科卒、同窓にマリア・オネットやリカルド・バルティスがいる。カルメン・バリエロがコーディネートする音楽グループのメンバー、他監督作品ではアレホ・モギジャンスキーの話題作「La vendedora de fosforos」やハビエル・パジェイロの「Respirar」に出演しているほか、舞台女優としても活躍している。同じくピニェイロ映画出演の多いロミナ・パウラとは親しく、最近彼女は監督デビューも果たした。

ロミナ・パウラの紹介記事は、コチラ20190910

 

(マリア・ビジャール)

    

★もう一人の主演者、ルシアナ役のアグスティナ・ムニョスは、女優、舞台演出家、劇作家と才色兼備。女優としては、2005年イネス・デ・オリベイラ・セサルのCómo pasan las horasで映画デビュー、「Extranjera」ほか同監督の作品に出演、マティアス・ピニェイロとのコラボはシェイクスピア・シーリーズ第1作からすべてに出演している。第2作目『ビオラ』ではマリア・ビジャールやロミナ・パウラとBAFICIの最優秀女優賞を一緒に受賞している。他監督作品では、サンティアゴ・パラベシノのAlgunas chicasが第70回ベネチア映画祭で上映され、監督と共演者たちと現地入りした。

 

    

          (アグスティナ・ムニョス『フランスの王女』から)

  

    

(共演者アゴスティナ・ロペス、パラベシノ監督、ムニョス、ベネチアFFフォトコール)

 

★他にペパ・サン・マルティンのRaraに主演、本作は第66回ベルリン映画祭2016のゼネレーションKplus部門にエントリーされ審査員賞、ハバナFF特別審査員賞、バルデビアFF観客賞、サンセバスチャンFFホライズンズ・ラティノ部門グランプリを受賞した。ストーリーは2人の娘がいる女性とパートナーの4人家族、普通に見えながらフツーでないのはパートナーも女性であるから。主役が子供たち、特に長女の視点で語られる。

  

     

(サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」グランプリ受賞作「Rara」から)

    

★ピニェイロ監督によると、第5作目に『尺には尺を』を選んだのは「女性を主役にして映画を撮る場合、シェイクスピアの喜劇はテーマが豊富だからだが、原作はコメディの要素が少なく問題劇の要素を持っているので、トーンを変えるのに適切だった」と語っている。さらに「一般的に悲劇は男性の権力を取り扱っているが、コメディは女性たちの英知が物を言うからです」とも語っている。イザベラは修道院で修練者として暮らしている。ところが兄が婚前交渉で恋人を妊娠させてしまい裁判官から死刑の宣告を受けてしまう。正義、慈悲、真実、プライドと屈辱が語られる。罠がかけられて、結局兄は助かるが大団円とは違うようです。

 

     

      (自作を紹介するマティアス・ピニェイロ監督、226日)

 

2013年、シェイクスピア・シリーズの第2作目『ビオラ』でベルリン映画祭のフォーラム部門に参加している。「今回はカルロ・チャトリアンやマーク・ペランソンの手に委ねられたエンカウンター部門にノミネートされた。とても興味をそそられる部門で興奮している。受賞というのは少し審査員の独断もはいるから、3人とか5人とかの人が決める一種の福引のようなものです」と受賞前に語っていましたが、運よく当たりました。またアルゼンチンでは独立系の映画が映画館に届くことは難しく、1週間とか10日間とか日数を限ってラテンアメリカ・アート美術館や国立映画協会の映写室で限定上映をしてもらっているということでした。

 

          

       

             (元ロカルノ映画祭ディレクターのカルロ・チャトリアンと監督、226日)

   

     

(プログラミング主任のマーク・ペランソンと監督)

  

 

  (スペシャル・メンションの受賞スピーチをするメラニー・シャピロ、229日)