ホセ・ルイス・クエルダ監督逝く*『にぎやかな森』&『蝶の舌』 ― 2020年02月11日 15:11
シュールなコメディの旗手、ホセ・ルイス・クエルダ
★シュールレアリスムを突き抜けたシュールレアリスムの映画の旗手、不条理コメディのプロモーター、ホセ・ルイス・クエルダが旅立ちました。寡作な映画作家でしたが、ファンを大いに楽しませてくれた監督でした。シネアストは塞栓症治療のため入院していたマドリードのプリンセサ病院で2月4日に亡くなったことが、二人の娘イレネとエレナによって公にされました、享年72歳、こんなに急いでいくことはなかったにと残念でたまりません。
★1947年2月18日アルバセテ生れ、監督、脚本家、製作者。本邦では『にぎやかな森』(第2回ゴヤ賞1988作品・脚本賞、ただし彼は監督のみ)と『蝶の舌』(同2000脚色賞)が公開されています。フェロス賞2019栄誉賞、マラガ映画祭2019「金の映画賞」(1989「Amanece, que no es poco」)を受賞した折りに、キャリア&フィルモグラフィー紹介をしたばかりですが、ゴヤではとうとう監督賞はノミネーションだけで受賞しないまま逝ってしまいました。
*フェロス賞2019栄誉賞の記事は、コチラ⇒2019年01月23日
★「Amanece, que no es poco」は、彼の不条理コメディの代表作、公開当時はパッとしなかった。何しろ出演者が自分のセリフの意味が何だか分からず戸惑っていたから、ましてや観客が簡単に理解できるはずなどなかったわけです。しかし後にビデオ、DVDを繰り返し見た若者が気に入り、フェイスブックを通じて拡散、ファンクラブができるほどでした。まあ、スペイン人の一押しは内戦物の『蝶の舌』ではなく本作、意味など分からなくても可笑しければ笑えばいいのだ、というわけです。本作については「金の映画賞」でご紹介しています。主人公はいると言えばいるが、いないと言えばいないアンサンブル劇ですが、その一人、アントニオ・レシネスは訃報に接して「当時本作を批判した者がいたとしても、今日では悪口言う人は誰もおりません。クエルダはチャンピオンリーグの映画人、脚本家としての巨人、どうか忘れないで」と語りました。
*マラガ映画祭2019「金の映画賞」の記事は、コチラ⇒2019年04月03日
(親子を演じたアントニオ・レシネスとルイス・シヘス、「Amanece, que no es poco」)
(金の映画賞のトロフィーを手にした、今は亡きホセ・ルイス・クエルダ)
★『にぎやかな森』は、ウェンセスラオ・フェルナンデス・フロレスの小説の映画化なので、現在なら脚色賞に当たるのですが、当時はまだ始まったばかりで区別されておりませんでした。カテゴリーも15部門、現在の28部門になったのは2003年からでした。『蝶の舌』の原作はマヌエル・リバスの小説、このときは既にオリジナル脚本と脚色に分かれており、共同執筆者のラファエル・アスコナと原作者と3人で脚色賞を受賞しました。このゴヤ賞2000は粒ぞろい、アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』(作品・監督賞)やベニト・サンブラノの『ローサのぬくもり』(脚本賞)など、マイナーだったスペイン映画が公開されるようになった年でもありました。
★クエルダはほとんど無名だったアメナバルの才能に着目したプロデューサーとしても知られています。『テシス 次に私が殺される』(96)と『アザーズ』(01)で作品賞を受賞している。自作を自ら設立した制作会社で撮る監督は昨今では珍しくありませんが、クエルダはそういうタイプではなかったようです。
★クエルダの作品はざっくり分けると、不条理コメディと内戦物になります。後者の一つ、2008年の「Los girasoles ciegos」では、共同執筆者ラファエル・アスコナとゴヤ賞2009脚色賞を受賞しました。トポという内戦の敗者がフランコ軍の追跡を逃れて自宅に隠れる話、トポ役にハビエル・カマラ、その妻にマリベル・ベルドゥ、妻を秘かに愛する青年司祭にラウル・アレバロなどを配している。作品・監督賞はノミネートに終わったが、米アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表作品に選ばれている。
★不条理コメディの一つ、1983年のTVムービー「Total」、スペイン人の少し好ましくない特徴に根差した作品、2598年という26世紀末の小さな村ロンドンが舞台だが、どう見てもロンドンには見えない。ガリシア風なのですが、クエルダは上記したようにアルバセテ生れですが、ガリシアに手ごろな家を見つけて、そこにブドウ園をもっている。語り部は羊飼いで、世界の終末が語られる。後の「Amanece, que no es poco」の源流なのかもしれません。1982年、フェリックス・トゥセル・ゴメスがプロデュースしたデビュー作「Pares y nones」に始り、その息子フェリックス・トゥセル・サンチェスが35年後に手掛けた、9177年のスペインを描いたSFコメディ「Tiempo después」(18)を完成させて逝ってしまいました。盟友アスコナと「最近のスペインは悪くなるばかりだな、心配だよ」と雑談してることでしょう。観る人によってベストだったりワーストだったり、映画の評価も十人十色ですけど。
(アントニオ・レシネスとシルビア・ムント)
(中央がクエルダ監督、「Tiempo después」撮影中のクルー)
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