異色のSF映画 『神の愛』*ラテンビート2019 ⑪2019年11月16日 11:35

             未来のブラジル国民は本当に救世主を待っているのか?

   

   

★第2部ブラジル映画の第1作目、ガブリエル・マスカロ『神の愛』は、なかなか示唆に富んだ映画でした。多分、3作のうちでもっとも地味な作品だと思われますが、フィナーレまで引きずり込まれたのは撮影監督ディエゴ・ガルシアの映像の力だったか。監督以下主演のジョアナ役ジラ・パエスとダニロ役ジュリオ・マシャードを含めて、キャリア紹介はアップしております。

『神の愛』作品&監督フィルモグラフィーは、コチラ20191108 

 

      

       (ガブリエル・マスカロ監督、ベルリン映画祭2019プレス会見にて)

 

A: 舞台がブラジルでなくても、キリスト教福音派が社会や政治を左右している国なら、どこでも起こりうる物語です。しかし「聖書の権威を第一とする」以外に福音派の定義は複雑で、国により学者により異なっています。

B: 世界を掻きまわすアメリカでは、大統領選挙が近づくと「○○政権を支える福音派」というような大見出しが目に付きだし、昨今では侮れない存在となっています。

 

A: 何よりもブラジルがカトリック教国だということ、統計では減少したとはいえ今でも70%前後が信者だということです。しかし有権者の27%が福音派だとなると様相は大分違ってきます。映画にあるように白人中間層が支えているからです。また日本では福音派が政治を牛耳っているという実態がないので、退屈だった観客もいたのではないかと思います。

B: ブラジルと言えばリオのカーニバルにサンバ、男性優位の暴力にスラム街、日本に届いてくるのは極右政党の党首ミニ・トランプが政権を掌握したなどのニュースだったり、アマゾンの森林を焼き払って地球温暖化を推進しているとかです。

 

A: ジャンル分けとしては近未来のSF映画と銘打っていますが、設定を2026年でも28年でもなく2027年にしたのには、何か深い意味があるのか知りたいところです。 

B: 2027年にブラジル国民の多くが救世主の再来を待っているという状態が呑み込めない。

A: 再来したときの心の準備ができているのかどうかが、大きなテーマです。

 

     

           (究極の愛は存在するのか、ジョアナとダニロ)

 

B: パンフレットでの紹介では、ブラジル人の性に切り込んだ作品という触れ込みでしたが、アクロバットのようなセックスシーンの繰り返しが気にかかった。

A: 繰り返しの必要性は最後に分かる仕掛けがしてあった。精子の濃度を高める装置は現在でも笑い事ではないかもしれない。妊婦だけが座れる椅子、またスーパーの出入り口に設置された、万引き探知機のような妊娠探知機など空恐ろしく、買い物できなくなる人も出てきそうです。

B: 医学の進歩は目覚ましいから、必要性はともかく可能性はあります。 

 

A: 誰にもお薦めできる映画でないのは確かですが、前作のBio Neon15)をスクリーンで見たいと思った観客もいたはずです。一歩前を歩いているような印象がありましたが、半歩前ぐらいがいいのではないか。大きな可能性を秘めた若手監督であることには違いない。

B: ディエゴ・ガルシアのカメラも凝りすぎと感じたかもしれませんが、観客の好みも十人十色、すべての人を満足させることはできません。しかしスクリーンで見たほうがいい映画でした。 

A: ナレーターが何者かは途中から察しがつくのですが、明かされるのは最後です。

 

     

      (撮影監督ディエゴ・ガルシア、ベルリン映画祭2019プレス会見にて)