セシリア・ロス、レトロスペクティブ賞授与式*マラガ映画祭2019 ⑨2019年03月28日 16:16

         「アルモドバルとスルエタは自由で斬新な人、それが私を魅了した」

 

    

★322日、スペイン映画で最も有名な女優の一人、アルゼンチン出身のセシリア・ロスレトロスペクティブ賞―マラガ・オイ」のトロフィーがギター奏者の弟アリエル・ロスRotロット、1960)から手渡されました。授賞式に先だって「AC マラガ」ホテルのフォーラムで開催された、マラガ映画祭総ディレクターフアン・アントニオ・ビガルのインタビューでは、アルモドバルとスルエタは自由で斬新な人、それが私を魅了した」と語った。特に自由のコンセプトについて「芸術は自由な創造から生まれる。限界を設けたり自己検閲していては、核心に迫れない」と強調した。

     

            

                (ビガルのインタビューを受ける受賞者セシリア・ロス)

 

★セシリア・ロスの「キャリア&フィルモグラフィー」については、ビルバオで初冬に開催される第56回「ビルバオ記録映画&短編映画祭ZINEBI 2014」で栄誉賞を受賞した折に紹介しております。イバン・スルエタ監督についても言及しております。

セシリア・ロスの「キャリア&フィルモグラフィー」の紹介は、

  コチラ20141207

 

★インタビュアーのビガルからアドルフォ・アリスタラインとの接点を訊かれたセシリアは、彼は1975年当時「私のデビュー作であるフアン・ホセ・フシド監督のNo toquen a la nenaの助監督だった。彼とはキャスティングのときに知り合い、私は未だ16歳、それ以来だから40年以上になります」と応えている。「私たちは長きにわたる友情と経験、映画への冒険を共に歩んできました。アドルフォは本当に不思議な監督なの。みんながそう認めている」と。

 

★デビュー作はスペイン亡命前の映画、アルゼンチンでは他にセルヒオ・レナンCrecer de golpe77)に出演している。1976年に軍事独裁政権の手で行方不明者になった作家ハロルド・コンティの小説の映画化でした。家族で亡命を決意したには、自分たちも突然行方不明者になるかもしれないという恐怖が背景にあった。当時のアルゼンチンを支配したのは「恐怖の文化」だった。スペインでは比較的早くホセ・ルイス・ガルシLas verdes praderas77)に起用され幸運な滑り出しであった。

 

★女性記者からの「男社会の中で働く女性たちの立ち位置について」の質問には、「女性たちはカメラの前でも後でも変革を起こそうとして団結して闘っています。しかし賃金の点からも登場人物の重要性の点からも平等とは言えません。女性の役柄は男性を支えるような物語が多いのです」と映画界の男性優位を否定しませんでした。「自分は少女のときからの夢が叶えられ、とても幸運だったが、<キャリア>という言葉は好きではありません。好きなのは人生に必要な仕事の熟練度と結果と考えています」と、ただ長ければいいというわけではないということでしょうか。

 

  「感謝と名誉なことだと・・仕事と人生は常に繋がっています」とセシリア

 

★授賞式の進行役は、受賞者と34年前から親友だというアルゼンチン人のパストラ・ベガだった。この受賞が質量ともにプロフェッショナルな仕事をし、常に未来を見据えていた女優セシリア・ロスに与えられたこと、故国を捨てずに大西洋を挟んだ二つの国の橋渡しをしたことに触れた。「スペインに来てからも故国を捨てなかった。彼女は決して二つの国の分断を望まなかったからだ」とパストラ・ベガ。スペインとラテンアメリカ諸国を映画で結びつけようとする「本映画祭の精神にぴったりな代表的な女優の一人です。私たちは離れ離れではありません」とも。

 

          

   (レトロスペクティブ賞のトロフィーを高く掲げたセシリア・ロス、322日)

 

★続いてアルモドバル映画で共演したロレス・レオン「私たちは知り合って何年も経ちますが、重要なのは最初からの友情が変わらずにずっと続いているということです。女性としても母親としても波長が合って、今日まで全てのことに協力し合っています」と。同じくアルモドバル映画の常連カルロス・アレセスは「彼女はとびぬけた才能の持ち主、彼女の物腰、声、目、あなたは嘘を真のように演じることができる。わざとらしくなくできるのです。映画で楽しんで今では友人としても楽しんでいる」とスピーチ。「アルモドバルの娘たち」の一人であるセシリアのお祝いには、本来ならアルモドバル自身が来マラガしたかったはずですが、この日は新作Dolor y gloria」の封切り日でした。

 

★トロフィーのプレゼンターは上述したように、ミュージシャンの弟アリエル・ロットだった。「子供のときから女優になるのが夢だった姉の最初の観客は私でした。彼女のリハーサルに魅惑されていたのでした。今では私一人のためではなく多くのファンのために演技しています。ロス家の家族を代表して感謝を捧げます」と挨拶しました。

 

       

 (受賞スピーチをするセシリア、後ろは弟アリエル・ロットとロレス・レオン)

 

★受賞者自身は「ただただ感謝と名誉なことだと感じております。このレトロスペクティブ賞を戴けるのは極めて重要な一つの道程と考えています。キャリアも人生も常に繋がっており、それは同じことなのです」と、受賞が一つの区切りではあっても終りでないことを語ったようでした。

   

       

              (セシリアとアリエルの姉弟)

  

セシリア・ロス Cecilia Roth195688日ブエノスアイレス生れ。ユダヤ系ウクライナ人の父は1930年代にアルゼンチンに移民してきた作家、ジャーナリスト、母はメンドーサ生れのセファルディの歌手。19753月に起きた軍事クーデタに危険を感じた一家は、翌年家族でスペインに亡命した。軍事独裁政権崩壊後、大西洋を往復しながら映画、TVシリーズなどで活躍している。1997年、アドルフォ・アリスタラインMartín Hacheで、スペイン生れでない女優が初めてゴヤ賞1998主演女優賞を手にしたことで話題になりました。更にアルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』がアカデミー賞2000外国語映画賞を受賞、セシリアも2個目のゴヤ賞主演女優賞、ヨーロッパ映画賞1999女優賞、フォトグラマス・デ・プラタ2000女優賞、他数々の国際映画祭で受した。

        

  

   (息子役のエロイ・アソリンと、『オール・アバウト・マイ・マザー』から

 

★アルモドバルの『アイム・ソー・エキサイテッド』13)の後アルゼンチンに戻り、パブロ・トラペロの『エル・クラン』のTVシリーズ版、2018年ルイス・オルテガのEl Ángelでは、「死の天使」と言われた実在した殺人犯のビオピック映画に母親役で出演した。つい最近322日公開されたアルモドバルの新作Dolor y gloria出演のためスペインに戻った。アルモドバル自身のビオピック映画と言われているが、プラス・フィクションのようです。監督の分身サルバドール・マジョに扮するのがアントニオ・バンデラス、他にペネロペ・クルスが子供時代のサルバドールの母親役で出演している。2019年公開予定のエステバン・クレスポのBlack Beachの公開が待たれる。

 

 

 主なフィルモグラフィー(短編、TVシリーズは除く)

1976  No toquen a la nena  アルゼンチン、監督フアン・ホセ・フシド

1977  Crecer de golpe (仮題「拡がる衝突」)、アルゼンチン、セルヒオ・レナン

1979 La familia, bien, gracias  ペドロ・マソー

1979 Las verdes praderas 緑の大草原ホセ・ルイス・ガルシ

1980   Arrebato 激情イバン・スルエタ

1981 Pepi, Luci, Bom y otras chicas del montón 『ペピ、ルシ、ボン、その他の娘たち』

ペドロ・アルモドバル

1982  Laberinto de pasiones 『セクシリア』P. アルモドバル

1983  Entre tinieblas 『バチ当り修道院の最期』同上

1984  ¿ Qué he hecho yo para merecer esto ? 『グロリアの憂鬱』同上

1988  Las amores de Kafka 『カフカの恋』アルゼンチン=チェコスロバキア 

ベダ・ドカンポ・フェイホー

1992  Un lugar en el mundo (世界のある所)アルゼンチン

   アドルフォ・アリスタライン

1997  Martín (Hache) マルティンアチェ)アルゼンチン=西 同上

1999 Todo sobre mi madre 『オール・アバウト・マイ・マザー』P. アルモドバル

2000 Segunda piel  『第二の皮膚』ヘラルド・ベラ(東京国際レズ&ゲイ映画祭上映邦題)

2001 Vidas privadas 『ブエノスアイレスの夜』アルゼンチン=西 フィト・パエス

2002 Hable con ella 『トーク・トゥ・ハー』P. アルモドバル

2002 Deseo スペイン=アルゼンチン、ヘラルド・ベラ

2002 Kamchatka カムチャツカ)アルゼンチン=西=伊 マルセロ・ピニェイロ

2003 La hija del caníbal 『カマキリな女』メキシコ=西 アントニオ・セラノ

2005   Padre Nuestro 我らが父)チリ ロドリーゴ・セプルベダ

2008 El nido vacío 空っぽの巣)アルゼンチン=西=仏=伊 ダニエル・ブルマン

2013 Los amantes pasajeros 『アイム・ソー・エキサイテッド』P. アルモドバル

2013 Matrimonio  アルゼンチン、カルロス・ハウレギアルソ

2016 Migas de pan スペイン=ウルグアイ、マナネ・ロドリゲス

2018 El Ángel アルゼンチン=ウルグアイ、ルイス・オルテガ

2019 Dolor y gloria スペイン=アルゼンチン、P. アルモドバル

2019 Black Beach スペイン、エステバン・クレスポ