開幕作品はアルゼンチンのコメディ*サンセバスチャン映画祭2018 ⑩ ― 2018年08月14日 16:16
リカルド・ダリンとメルセデス・モランが夫婦になります
★サンセバスチャン映画祭は9月21日開幕、まだひと月以上ありますが、オープニング作品にアルゼンチンの新人監督フアン・ベラのロマンティックコメディ「El amor menos pensado」が選ばれました。結婚25年目、子供も巣立ちして鳥の巣が空っぽになった熟年夫婦の危機が語られる。夫マルコスにリカルド・ダリン、妻アナにメルセデス・モラン、脇をベテラン勢が固めています。フアン・ベラの監督デビュー作だが、既に製作者としては、ルクレシア・マルテルの『サマ』、パブロ・トラペロの『檻の中』(08)でアシスタント・プロデューサーとして初参加、続いて『ハゲ鷹と女医』(「カランチョ」10)、『ホワイト・エレファント』(12)などを手掛け、ディエゴ・カプランの『愛と情事の間』(「2+2」12)では、ダニエル・クパロと脚本も共同執筆している。クパロは本作の脚本の共同執筆者です。アルゼンチンでは既に劇場公開され(8月2日)、前夜祭にはスタッフ、出演者以外の大勢のセレブたちが毛皮や革のコートに身を包んで馳せつけました。
(フアン・ベラ監督、リカルド・ダリン、メルセデス・モラン、真冬の8月1日)
「El amor menos pensado」(「An Unexpected Love」)2018
製作:Patagonik Film Group / Kenya Films / Boneco Films / INCAA(協賛)
監督:フアン・ベラ
脚本(共):ダニエル・クパロ、フアン・ベラ
撮影:ロドリゴ・プルペイロ
編集:パブロ・バルビエリ
製作者:クリスティアン・ファイジャセ、フアン・パブロ・ガジィ、フェデリコ・パステルナク、チノ・ダリン、リカルド・ダリン、フアン・ベラ
(エグゼクティブ・プロデューサー)フアン・ロベセ
データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、2018年、ロマンティック・コメディ、136分、撮影地ブエノスアイレス、配給元 Walt Disney Studios Motion Pictures(アルゼンチン)、公開アルゼンチン8月2日
映画祭:サンセバスチャン映画祭2018オープニング作品(9月21日上映)。カンヌ映画祭2018フィルム・マーケットに出品、Film Sharksにより欧米アジア各国(スペイン、フランス、ギリシャ、台湾、ブラジル他)での配給が契約された。
キャスト:リカルド・ダリン(マルコス)、メルセデス・モラン(アナ)、クラウディア・フォンタン、ルイス・ルビオ、アンドレア・ピエトラ、ジャン・ピエール・ノエル、クラウディア・ラパコ、チノ・ノバロ、アンドレア・ポリティ、ガブリエル・コラード、アンドレス・ジル(ルチアーノ)、マリウ・フェルナンデス、ノルマン・ブリスキ、フアン・ミヌヒン他
物語:結婚25年目、アナとマルコス夫婦の一人息子が外国で大学課程を始めるため出立した。空っぽになった鳥の巣に危機が訪れる。互いが邪魔になったわけではないが、深く考えることもなく別の人生を歩むことに決心する。独身生活は興味深く魅惑的にうつる。最初は刺激的で興奮したが、順調に思えた別居生活もたちまち彼女にはモノトーンに、彼には受難の連続となる。二人は愛について、本当の望みについて、貞節について、互いに疑問を投げかけあうことに。それぞれの人生は永遠に変わることになるだろう。熟年夫婦の危機がコミカルに語られる。
(一人息子を見送るアナとマルコス夫婦)
★熟年夫婦の危機をテーマにしたアルゼンチン・コメディで、直ぐに思いつくのがダニエル・ブルマンの「El nido vacío」(08)、『笑う故郷』のオスカル・マルティネスと『オール・アバウト・マイ・マザー』のセシリア・ロスが夫婦役を演じ好評だった。本作の評価は、136分というコメディとしては破格の長さにもかかわらず、各紙誌とも概ねポジティブなのは、主演のリカルド・ダリンとメルセデス・モランの好感度もさりながら、コメディで一番重要だと言われる脇役に演技派を揃えたことによるのではないか。公開第1週目にトップテンの第1位、22万人が映画館に足を運んだ。トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を抜いたということです。ストーリーは特別際立っているわけではないから、「もう全然面白くない」とオカンムリの観客もいるでしょうが、何事によらず好みは十人十色です。
(アナとマルコス、映画から)
★フアン・ベラ監督は上述したようにプロデューサー歴が長く、TVシリーズを手掛けた後、フアン・ホセ・カンパネラの成功作「El hijo de la novia」(01)のエグゼクティブプロデューサー、本作にはリカルド・ダリンも出演している。ルクレシア・マルテルの『サマ』、パブロ・トラペロの『ハゲ鷹と女医』や『ホワイト・エレファント』などを手掛けている。他にサンダンス映画祭2018でワールドプレミアされ、マラガ映画祭に正式出品されたヴァレリア・ベルトゥッチェリ&ファビアナ・ティスコルニアの「La reina del miedo」がある。製作と同時に初めて脚本を手掛けたのが、ディエゴ・カプランの「Igualita a mi」(10)、同「2+2」(『愛と情事の間』未公開、DVD)、アリエル・Winogradの「Mamá se fue de viaje」(17)と本作の4本、すべてコメディで共同執筆です。
*『サマ』の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月13日
*「La reina del miedo」の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月10日
★サンセバスチャン映画祭のオープニング作品に選ばれて、にわかに身辺が慌ただしくなった監督、以前から「たとえオーストラリアの熊の物語でも、すべての映画は自伝的な要素を含んでいます」と語っていましたが、当たり前の話です。
(「すべての映画は自伝的な要素を含んでいます」と語るフアン・ベラ監督)
★リカルド・ダリン(ブエノスアイレス、1957)は、2015年、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』で共演のハビエル・カマラと男優賞、昨年はラテンアメリカ初のドノスティア賞受賞、今年もオープニング作品の主役ですから現地入りとなるでしょう。キャリアは割愛するとして、もう一人のメルセデス・モラン(サン・ルイス、1955)は、アルゼンチンのルクレシア・マルテル、フアン・ホセ・カンパネラ、アナ・カッツにとどまらず、ブラジルのウォルター・サレス、チリのパブロ・ララインなどに起用されているベテランです。
(ドノスティア賞のトロフィーを手にしたリカルド・ダリン、SSIFF2017授賞式)
★メルセデス・モランは、マルテルの出身地サルタを舞台にした「サルタ三部作」の第1部『沼地という名の町』(01)と第2部『ラ・サンタ・ニーニャ』(04)に出演、前者でクラリン女優賞を受賞しています。カンパネラの「Luna de Avellaneda」(04)ではダリンと共演、サレスの『モーターサイクル・ダイヤリーズ』(04)ではチェ・ゲバラの母親役、アナ・カッツの「Los Marziano」は、本映画祭SSIFF2011に正式出品されています。ララインの『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(16)では、詩人の妻に扮しました。
*『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ⇒2016年05月16日/2017年11月22日
(本作撮影中のメルセデス・モラン)
★更にアナ・カッツの最新コメディ「Sueño Florianópolis」が、7月開催のカルロヴィ・ヴァリ映画祭2018に正式出品され、モランがベスト女優賞、監督がFIPRESCIと審査員特別賞と3賞を受賞した。SSIFFのパールズ部門で「El Angel」がエントリーされたことは既に紹介しておりますが、今作ではリカルドの息子チノ・ダリン扮する暗殺仲間ラモンの母親役で登場しています。チノ・ダリンは本作「El amor menos pensado」には出演しませんが、父親とともに製作者デビューを果たしました。
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