監督週間にチロ・ゲーラの「Pájaros de verano」*カンヌ映画祭2018 ⑥ ― 2018年05月18日 20:20
婦唱夫随で撮った新作「Pájaros de verano」も「監督週間」でした!
★コロンビアのクリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラの新作「Pájaros de veranao」が、「監督週間」のオープニングの光栄に浴しました。最初カンヌ本体のコンペティション入りが噂されていたので、どこかに落ち着くとは予想していました。結局、新作も2015年の話題作『彷徨える河』と同じ「監督週間」でした。オープニング作品に選ばれたのは、前作の成功があったからに違いない。最近の「監督週間」は、作家性のある新人登竜門という枠組を超えてベテラン勢が目につきます。確かにクリスティナ・ガジェゴのデビュー作ではありますが新人とは言えない。カンヌには両監督の他、<ゴッドマザー>的存在の主役を演じたカルミニャ・マルティネス、その娘に扮するナタリア・レイェス、ホセ・アコスタ、ホセ・ビセンテなどがカンヌ入りしました。
*『彷徨える河』の内容&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2016年12月01日
(赤絨毯に勢揃いした、チロ・ゲーラ、ホセ・ビセンテ、カルミニャ・マルティネス、
クリスティナ・ガジェゴ、ナタリア・レイェス、ホセ・アコスタ、2018年5月9日)
「Pájaros de verano」(「Birds of Passage」)2018
製作:Ciudad Lunar roducciones / Blond Indian Films(以上コロンビア)/ Snowglobe(デンマーク)/ Labodigital / Pimienta Films(以上メキシコ)/ Films Boutique(フランス)、
協力カラコルTV(コロンビア)
監督:クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラ
脚本:マリア・カミラ・アリアス、ジャック・トゥールモンド(『彷徨える河』)
(原案)クリスティナ・ガジェゴ
音楽:レオナルド・Heiblum(メキシコ1970)
撮影:ダビ・ガジェゴ(『彷徨える河』)
編集:ミゲル・シュアードフィンガー(『サマ』『頭のない女』)
美術:アンヘリカ・ぺレア(『彷徨える河』)
衣装デザイン:キャサリン・ロドリゲス(『彷徨える河』『チリ33人 希望の軌跡』)
製作者:カトリン・ポルス(デンマーク)、クリスティナ・ガジェゴ、他共同製作者多数
データ:製作国コロンビア=デンマーク、協力フランス=メキシコ、言語スペイン語とWayuuワユー語、2018年、ドラマ、125分、撮影地ラ・グアヒラ県の砂漠地帯、マグダレナ県、シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マリア、撮影9週間、2017年5月3日クランクアップ。配給Films Boutique(フランス9月19日公開)、The Orchard(米国公開決定、公開日未定)
映画祭:カンヌ映画祭併催の「監督週間」オープニング作品、5月9日上映
キャスト:カルミニャ・マルティネス(ウルスラ・プシャイナ)、ナタリア・レイェス(ウルスラの娘サイダ)、ホセ・アコスタ(サイダの夫ラパイエット、ラファ)、ジョン・ナルバエス(ラファの親友モイセス)、ホセ・ビセンテ・コテス(ラファの叔父ペレグリノ)、フアン・バウティスタ(アニバル)、グレイデル・メサ(ウルスラの長男レオニーダス)、他エキストラ約2000人
物語・解説:コロンビアの「マリファナ密売者の繁栄」時代と称される70年代を時代背景に、ラ・グアヒラの砂漠地帯でマリファナ密売を牛耳るワユー族一家の物語。当主ラパイエット・アブチャイベと姑ウルスラ・プシャイナによって統率された一家は、麻薬密売による繁栄を守るために闘う。金力と権力に対する野心と女性たちの地位についての物語。夢と寓話、残酷な現実を絡ませて物語は時系列に進行するが、共同体同士の権力闘争、家族間の争いはワユーの文化、伝統、人生そのものさえ危うくしていくだろう。未だに終りの見えないコロンビアの混乱の始まり、復讐はワユー共同体の原動力として登場する『ゴッドファーザー』イベロアメリカ版。コロンビアの崩壊したアイデンティティを魅力的に語る詩編。 (文責:管理人)
アマゾンの大河からラ・グアヒラの砂漠に移動して
★ある没落したワユー族の若者が繁栄を誇る一族の娘に結婚を申し込む。しかし要求された持参金はとうてい若者が準備できる額ではなかった。そこでマリファナを探していた米国のグループの仲介者になろうと決心する。容易にお金を工面するために始めたはずが、次第に麻薬ビジネスにのめりこんでいく。それは大地に深く根を下ろしたワユーの文化や伝統から遠く外れていくものだった。発端は求婚に過ぎなかった。ヨーロッパの批評家は「コロンビアの麻薬密売の起源のシェイクスピア風悲劇」と評している。この求婚者に扮するのがホセ・アコスタです。
★コロンビア北端のラ・グアヒラの砂漠地帯に約1000年前から住んでいるワユー族は、もともとマリファナを栽培していたという。ガジェゴ監督によると、ワユー族の女性たちは人前では口を閉ざしているが、一歩家に入れば政治経済に強い発言力を持っており、背後で男を操っている存在だという。いわば財布の紐を握っていたわけです。そういう女性を中心に据えてコロンビアの「bonanza marimbera マリファナ密売者の繁栄」と言われた1976~85年の麻薬密売取引を絡ませた映画を、ワユー族の視点で描きたいと長年考えていた。1960年代70年代のラ・グアヒラ地方はまだ資本主義の揺籃期で、米国のマフィアによって近代化された麻薬密売組織によって、たちまち危機に晒されるようになった。時代的にはパブロ・エスコバルのコカインによるメデジン・カルテルが組織される以前の話です。
★映画祭での評価は概ねポジティブですが、前作に比べると先が読めてしまう展開のようで、前作のような驚きは期待できないか。前作『彷徨える河』は、アカデミー外国語映画賞にノミネートされたこともあって米国では予想外のロングランだった。というわけで今回The Orchard により早々と米国公開が決定したことはビッグニュースとして報じられている。プロの俳優、カルミニャ・マルティネス、ナタリア・レイェス、今回が映画デビューのホセ・アコスタ、ワユーのネイティブのホセ・ビセンテ・コテス、などアマ・プロ混成団は、エキストラ2000人、スタッフ75名の大所帯だった。
(ナタリア・レイェス、映画から)
★主役のウルスラ・プシャイナを演じるカルミニャ・マルティネスは舞台女優、映画によってカルミニャ、カルミニアと異なるが、IMDbではカルミナでクレジットされている。1996年TVシリーズ「Guajira」でデビュー、カルロス・パウラの「Hábitos sucios」(03)、ダゴ・ガルシア&フアン・カルロス・バスケスの「La captura」(12)に出演している。「ウルスラは厳しい女性であるが、情熱的で複雑な顔をもっている」と分析している。ホセ・アコスタは「母語でない他の言語で演じるのは難しいと思われているが、そんなことはない。心を開き人物になりきれば、そんなに難しいことではない」とインタビューに答えている。ナタリア・レイェスは、2015年のTVシリーズ「Cumbia Ninja」全45話に出演、一番知名度がある。「自分が知らなかったワユー族の素晴らしい文化を知ることができた。またラ・グアヒラの名誉を回復する物語に出られた貴重な時間だった」と語っている。
(中央がウルスラを演じたカルミニャ・マルティネス、映画から)
★ゲーラ監督は、砂漠での撮影は「何にもまして辛かった」と顎を出したそうだが、ガジェゴ監督は「ぜーんぜん」とすまし顔、非常にバイタリティに富んだ女性である。これは前作の『彷徨える河』で証明済みでした。ラ・グアヒラは厳しい乾燥地帯で、歴史的に海賊もスペイン人もイギリス人も寄り付かなかった地帯です。
★クリスティナ・ガジェゴ Cristina Gallego は、1978年ボゴタ生れの製作者、監督。夫チロ(シーロ)・ゲーラとはコロンビア国立大学の同窓生、共に映画テレビを専攻した。1998年、二人で制作会社「Ciudad Lunar roducciones」を設立して、ゲーラ作品の製作を手掛けている。2008~11年、マグダレナ大学で「製作と市場」についてのプログラムのもと後進の指導に当たる。今回「Pájaros de verano」で監督デビューした。ゲーラとの間に2児。
(第50回「監督週間」のポスターをバックにゲーラ監督とガジェゴ監督、カンヌにて)
★チロ・ゲーラ Ciro Guerraは、1981年セサル州リオ・デ・オロ生れ、監督・脚本家。長編デビュー作“La sombra del caminante”(04)は、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭2005で観客賞を受賞。第2作“Los viajes del viento”(09)はカンヌ映画祭「ある視点」に正式出品、ローマ市賞を受賞後、多くの国際映画祭で上映された。ボゴタ映画祭2009で監督賞、カルタヘナ映画祭2010作品賞・監督賞、サンセバスチャン映画祭2010スペイン語映画賞、サンタバルバラ映画祭「新しいビジョン」賞などを受賞。
★第3作目となる『彷徨える河』(15)は、カンヌ映画祭2015併催の「監督週間」に正式出品、アートシネマ賞受賞、第88回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、以下オデッサ、ミュンヘン、リマ、マル・デル・プラタ、インドほか各映画祭で受賞、他にフェニックス賞、アリエル賞(イベロアメリカ部門)、イベロアメリカ・プラチナ賞など映画賞を受賞。2016年にはサンダンス(アルフレッド・P・スローン賞)、ロッテルダム(観客賞)などを受賞。4作目が本作「Pájaros de verano」となる。
(本作撮影中のゲーラ&ガジェゴと撮影監督のダビ・ガジェゴ)
★ゲーラ=ガジェゴの次回作は、2003年のノーベル文学賞受賞者にして2度も英国ブッカー賞を受賞した、南ア出身の小説家ジョン・マックスウェル・クッツェーJ. M. Coetzee の小説「Waiting for the Barbarians」(「Esperando a los Bárbaros」)の映画化(現在の国籍はオーストラリア)。多くの小説が翻訳され、本書も『夷狄を待ちながら』という難読邦題で刊行されている。年末にモロッコでクランクインの予定。英語で撮るのは初めて、海外での撮影も初めてになります。
*追加:第15回ラテンビート2018上映が決定、邦題は『夏の鳥』
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