コスタリカから女性監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2017 ⑪2017年09月22日 16:08

       「ホライズンズ・ラティノ」にコスタリカの新人アレクサンドラ・ラティシェフ

 

「ホライズンズ・ラティノ」の出品作品は、例年8月前半に開催されるリマ映画祭と同じ顔触れになります。コスタリカの新人アレクサンドラ・ラティシェフの長編第1Medea は、リマ映画祭2017の審査員特別メンション受賞作品です。今年はラテンアメリカ10ヵ国17作品が上映され、作品賞にグスタボ・ロンドン・コルドバ La familia(ベネズエラ他)、審査員特別賞にセバスティアン・レリオ La mujer fantástica(チリ他)と、ホライズンズ・ラティノの出品作が選ばれています。 Medea からは主演女優のリリアナ・ビアモンテが審査員特別メンション女優賞を受賞していました。ペルーはコスタリカ同様映画産業は盛んとは言えませんが、本映画祭も今年21回目を迎えています。

 

  

 

   Medea  2016 

製作;La Linterna Films / Temporal Film / Grita Medios / CyanProds

監督・脚本:アレクサンドラ・ラティシェフ

撮影:オスカル・メディナ、アルバロ・トーレス

音楽:スーザン・カンポス

編集:ソレダ・サルファテ

プロダクションデザイン・美術:カロリナ・レテ

製作者:パス・ファブレガ、ルイス・スモク、アレクサンドラ・ラティシェフ、(エグゼクティブ)シンシア・ガルシア・カルボ、(アシスタント)バレンティナ・マウレル

 

データ:コスタリカ=アルゼンチン=チリ、スペイン語、2016年、70分。2016Cine en Construcción 30」、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭2017正式出品、第21回リマ映画祭2017正式出品(リリアナ・ビアモンテ審査員特別メンション女優賞)、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」正式出品。

 

キャスト:リリアナ・ビアモンテ(マリア・ホセ)、エリック・カルデロン(カルロス)、ハビエル・モンテネグロ(ハビエル)、マリアネイジャ・プロッティ、アーノルド・ラモス、他

 

プロット:マリア・ホセの人生は、単調な大学生活、日頃疎遠な両親、ラグビーのトレーニング、そしてゲイの友人カルロスとの間を動きまわっている。しかしハビエルと知り合い彼と交際しはじめたことで、周囲との連絡を絶つ。<普通の>人生を送るための努力をなにもせずに受け入れるが、誰も考えもしなかった秘密を抱えこンでしまう、彼女は数か月の身重になっていた。

 

★これだけの情報では、タイトルから想像するギリシャ神話のメデイア、またはエウリピデスのギリシャ悲劇「女王メディア」に辿りつけない。夫イアソンの裏切りに怒り、復讐を果たす強い女性像とヒロインのマリア・ホセ像とが結びつかない。マリア・ホセは25歳になるのに未だ大学生、内面的には何かが起こるのを待っているモラトリアム人間にも見える。表面的にはラクビー選手という設定だが、メディアのように本当に強い女性なのか。エウリピデスのメディアは二人の息子も殺害するが、ヒロインが妊娠数か月というのが暗示的だ。女性の<女らしさ>を嫌悪するミソジニーと関係があるのかないのか。ギリシャ悲劇の規範でいえば、英雄は最後には降格する宿命にある。マリア・ホセの最後がどうなるのか全く予想がつかない。

 

   

          (マリア・ホセ役のリリアナ・ビアモンテ、映画から)

 

アレクサンドラ・ラティシェフAlexandra Latishev は、コスタリカのベリタス大学で映画とTV学校で学ぶ。監督、脚本家、編集者、製作者、女優。2011年、短編 LEnfante Fatale を撮る。短編 Irene14)は、トゥールーズ映画祭、アルカラ・デ・エナレス映画祭(作品賞)、フランドル・ラテンアメリカ映画祭(審査員メンション)、ハバナ映画祭(審査員メンション)など多数受賞する。 Medea は長編第1作である。

 

     

 

   

                   (リリアナ・ビアモンテ出演の Irene のポスター

 

★監督によれば、「自分自身とは感じられない体で生きているせいで、自分の所属場所がないという人物を登場させたかった。不可能なリミットまで描きたかった。世間は矛盾で溢れているが、他人と調和して生きたいと考えています。しかし私たちにはそれとは対立した<その他>も居座っています。この映画の中心課題は、社会的に積み上げられてきた<女らしさ>の概念についてのマリア・ホセの闘いです」ということです。これで少しテーマが見えてきました。

 

    

  (製作者シンシア・ガルシア・カルボと監督右、2016Cine en Construcción 30」にて) 

 

リリアナ・ビアモンテLiliana Biamonteは、アレクサンドラ・ラティシェフの短編 Irene に主人公のイレネ役で出演、他にユルゲン・ウレニャの Muñecas rusas14)、アレホ・クリソストモの Nina y Laura15)、アリエル・エスカランテの El Sonido de las Cosas16)などコスタリカ映画に主役級で出演している。本作 Medea でリマ映画祭2017審査員特別メンション女優賞を受賞している。

 

   

     (看護師役のリリアナ・ビアモンテ、El Sonido de las Cosas から)

 

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://aribaba39.asablo.jp/blog/2017/09/22/8681582/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。