『ノー・エスケープ 自由への国境』*ホナス:キュアロン ― 2017年04月23日 14:46
トランプのお蔭で公開されることになりました?
★トロント映画祭2015の折に原題「Desierto」としてご紹介していた少し古い映画ですが、トランプの壁のお蔭か公開がアナウンスされました。ホナス・キュアロンの長編第2作『ノー・エスケープ自由への国境』、キュアロン一家が総出で製作しました。トロント映画祭「スペシャル・プレゼンテーション」部門で国際批評家連盟賞を受賞したこともあって話題になっていた作品。これから公開されること、スリラーであることなどから、比較的詳しい公式サイトから外れないように注意してアップしたいと思います。なかでもキャスト紹介は主役の二人、ガエル・ガルシア・ベルナルとジェフリー・ディーン・モーガンしか紹介されておりませんので若干フォローしておきます。

(オリジナル・ポスター)
『ノー・エスケープ 自由への国境』(原題「Desierto」英題「Border Sniper」)2015
製作:Esperanto Kino / Itaca Films / CG Cinema
監督・脚本・編集・製作者:ホナス・キュアロン
脚本(共):マテオ・ガルシア
音楽:Woodkid、ヨアン・ルモワンヌ
撮影:ダミアン・ガルシア(『グエロス』)
プロダクション・デザイン:アレハンドロ・ガルシア
衣装デザイン:アンドレア・マヌエル
キャスティング:ベヌス・カナニ、他
メイクアップ・ヘアー:ヒメナ・キュアロン(メイク)、エマ・アンヘリカ・カンチョラ(ヘアー)他
製作者:ニコラス・セリス、サンティアゴ・ガルシア・ガルバン、ダビ・リンデ、ガエル・ガルシア・ベルナル(以上エグゼクティブ)、アルフォンソ・キュアロン、カルロス・キュアロン、アレックス・ガルシア、エイリアン・ハーパー、他多数
データ:製作国メキシコ=フランス、言語スペイン語・英語、2015年、スリラー・ドラマ、94分(日本88分)、撮影地バハ・カリフォルニア、映倫G12、IMDb5.9点
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2015国際批評家連盟賞受賞(スペシャル・プレゼンテーション部門)、ロンドン映画祭2015(10月)正式出品、(仏)ヴィルールバンヌ・イベロアメリカ映画祭2016(3月)正式出品、イベロアメリカ・フェニックス賞2016録音賞ノミネーション、以下2016年、ロスアンジェルス(6月)、シッチェス(10月)、オースティン(10月)、ダブリン、リマ(8月)、ハバナ(12月)他、各映画祭正式出品、第89回アカデミー賞メキシコ代表作品(落選)
公開:メキシコ2016年4月、フランス同4月、米国限定同10月、スペイン限定2017年1月、香港同1月、ハンガリー同4月、日本同5月、他多数
キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル(モイセス)、ジェフリー・ディーン・モーガン(サム)、アロンドラ・イダルゴ(アデラ)、ディエゴ・カタニョ(メチャス)、マルコ・ぺレス(ロボ)、ダビ・ペラルタ・アレオラ(ウリセス)、オスカル・フロレス・ゲレーロ(ラミロ)、エリク・バスケス(コヨーテ)、リュー・テンプル(国境パトロール)、他多数
プロット:正規の身分証明書を持たない、武器を持たない、ただリュック一つを携えたモイセスを含む15人のグループが、メキシコとアメリカを隔てる砂漠の国境を徒歩で越えようとしていた。それぞれ愛する家族との再会と新しいチャンスを求めていた。しかし、不運なことに越境者を消すことに生きがいを感じている錯乱した人種差別主義の<監視員>サムに発見されてしまった。不毛の砂漠の中で残忍な狩人の餌食となるのか。星条旗をはためかせたトラックに凶暴な犬トラッカーを乗せたサムは、祖国への侵略者モイセスたちを執拗に追い詰めていく。砂漠は武器を持つ者と持たざる者の戦場と化す。生への執着、生き残るための知恵、意志の強さ、人間としての誇りが、ダミアン・ガルシアの映像美、ヨアン・ルモワンヌの音楽をバックに語られる。 (文責:管理人)
監督は何を語りたかったのか?
A: 監督が何を語りたかったのかは、観ていただくしかないが、まず製作のきっかけは10年ほど前に異母弟と一緒にアリゾナを旅行したことだったという。アリゾナ州Tucsonツーソン(トゥーソン)にあるメキシコ領事館に招待され、移民たちに起きている悲劇を生の声で聞いたことが契機だったという。
B: アリゾナ州の人口の37パーセントがヒスパニック系、もともと米墨戦争に負けるまでメキシコ領だった。そのアリゾナ体験から脚本が生まれたわけですね。
A: しかし、どう物語っていけばいいのか、なかなか構想がまとまらなかった。既に同じテーマでたくさんの映画が撮られていた。例えばキャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』(09「Sin nombre」)、ディエゴ・ケマダ=ディエスの『金の鳥籠』(13「La jaula de oro」)など、それぞれ評価が高かった。しかし、それらとは違った切り口で、もっと根深い何かを描きたかった。
B: 辿りついたのが子供の頃から大好きだった1970年代のハリウッド映画のホラーやスリラーだった。セリフを抑えたカー・アクションの不条理な追跡劇、スピルバーグの『激突!』(71)や、リチャード・C・サラフィアンの『バニシング・ポイント』(71)を帰国するなり見直した。
A: それにアンドレイ・コンチャロフスキーの『暴走機関車』(85)も挙げていた。人間狩りというショッピングなテーマを描いた、アーヴィング・ピチェルの『猟奇島』(32)、コーネル・ワイルドの『裸のジャングル』(66)も無視できなかったと語っている。ダイヤローグを抑えるということでは、ロベール・ブレッソンの『抵抗(レジスタンス)~死刑囚の手記より』(56)も参考にしたという。
B: 死刑囚の強い意志は、モイセスの強さに重なります。
ネットにあふれた人種差別主義者のコメントに恐怖する!
A: 構想から10年、間には父親の『ゼロ・グラビティ』の脚本を共同執筆、撮影でも一緒だったからいろいろ相談に乗ってもらった。同業の有名人を父に持つのは大変です。「父の存在は重く、時には鬱陶しいこともある」と笑っています。
B: しかし「すごく力になってくれるし、叔父のカルロスも同じだが、私にとって大きなマエストロです」とも。アカデミー賞メキシコ代表作品に選ばれると、500以上のコピーを作りアメリカでの上映を可能にした。最初の16作に残れたのも、このコピーの多さのお蔭です。

(父アルフォンソ・キュアロンと、『ゼロ・グラビティ』が上映されたサンセバスチャン映画祭)
A: それでも「この映画の扉を開けてくれたのはガエル、彼が脚本を気に入ってくれたことだ」ときっぱり語っている。彼への信頼は揺るがない。ワールド・プレミアしたトロント映画祭にも駆けつけてくれ、素晴らしいスピーチをしてくれた。

(スピーチをする監督とガエル・ガルシア・ベルナル、第40回トロント映画祭にて)
B: トロントでの批評家の反応は正直言ってさまざまだったが、それぞれ主観的なものが多かった。しかし、観客の反応は違った。
A: 苦しそうに椅子にしがみついて一心にスクリーンを観ていた。他人事ではないからね。これはリマでもハバナでも同じだった。しかしYouTubeで予告編が見られるようになると、メキシコから押し寄せる移民に反対する人種差別主義者のコメントで飽和状態になった。「何が言いたいんだよ」など大人しいほうで、なかには「みんな殺っちまえ!」とかあり、「楽天家の私でも、父親になっているのでビビりました」と監督はインタビューで語っていた。
B: トランプにとっては、本作は悪夢なんでしょうか。
A: しかし数日経つと、そんな雰囲気は下火になり、自然と収束していったという、当然ですよね。アメリカ公開の2016年10月14日は、大統領選挙3週間前で両陣営とも一触即発だったから、何か起こってもおかしくない状況だった。
B: 星条旗、トラック、ライフル銃、獰猛に訓練された犬、国境沿いで起こる祖国を守るための人間狩り、お膳立てはできていた。

(星条旗をはためかせて疾走するトラック、御主人に服従するトラッカー)
A: 狙撃者サム役にジェフリー・ディーン・モーガンを選んだ理由は、「彼がもっている強力な外観がパーフェクトだったから。映画の中ではサムの動機の多くを語らせなかったが、彼を念頭に置いて脚本を書いた。あのような人格にしたのが適切かどうかは別にしてね。あとはジェフリーがそれを組み立ててくれたんだ」と監督。
B: 完璧に具現化してくれたわけですね。

(サバイバル・ゲームでモイセスを見失うサム)
A: 公開前なので後は映画館に足を運んでください。付録としてスタッフ&キャスト紹介を付しておきます。
◎スタッフ紹介
★ホナス・キュアロンJonás Cuarónは、1981年11月28日メキシコシティ生れ、監督、脚本家、編集者・製作者。父親アルフォンソは『ゼロ・グラビティ』(13)のオスカー監督、叔父カルロスも監督、脚本家(『ルドandクルシ』)、製作者エイリアン・ハーパーは監督夫人。家族は神が授けるものだから選べません、というわけで「親の七光り」組です。友人は自分で選ぶ、それで主役にガエル・ガルシア・ベルナルを選びました。長編監督デビュー作「Año uña」(「Year of the Nail」メキシコ=英=西79分、スペイン語・英語)は、グアダラハラ映画祭2007で上映され高評価だった。父親と脚本を共同執筆した『ゼロ・グラビティ』のスピンオフムービー「Aningaaq」(13、米、7分、グリーンランド語、英語)、アニンガーはイヌイットの漁師の名前、サンドラ・ブロックが同じライアン・ストーン博士役でボイス出演している。他短編ドキュメンタリーがある。次回作「Z」(「El Zorro」)が進行中、ガエル・ガルシア・ベルナルが怪傑ゼロに扮します。

(本作撮影中のキュアロン監督とガエル・ガルシア・ベルナル)

(次回作「Z」のポスターと主役のガエル・ガルシア・ベルナル)
*ダミアン・ガルシアは、1979年メキシコシティ生れ、撮影監督。メキシコシティの映画研修センターとバルセロナのESCAC*で撮影を学ぶ。2003年広告や多数の短編を手掛け、長編デビューは2006年、アンドレス・レオン・ベッカー&ハビエル・ソラルの「Más que a nada en el mundo」、アリエル賞の撮影賞にノミネートされた。アルフォンソ・ピネダ・ウジョアの「Violanchelo」(08)、フェリペ・カサレスの「Chicogrande」(10)では、再びアリエル賞ノミネート、ハバナやリマでは撮影賞を受賞した。アリエル賞を独り占めした感のあったルイス・エストラーダの『メキシコ地獄の抗争』(10、「El infierno」未公開、DVD)ではノミネートに終わった。ルイス・マンドキの「La vida precoz y breve de Sabina Rivas」(12)もアリエル賞を逃した。モノクロで撮影したアロンソ・ルイスパラシオスのコメディ『グエロス』(14、「Güeros」ラテンビート上映)でアリエル賞の他、トライベッカ映画祭の審査員賞を受賞している。最新作にディエゴ・ルナの「Sr. Pig」(16)がある。本作上記。オスカー賞を3個も持っているエマニュエル・ルベツキ、ギジェルモ・ナバロ(『パンズ・ラビリンス』)、ロドリゴ・プリエト(『バベル』)の次の世代を代表する撮影監督である。現在はメキシコシティとバルセロナの両市に本拠地をおき、大西洋を行き来して仕事をしている。
*バルセロナ大学に1994年付設されたカタルーニャ上級映画学校Escola Superior de Cinema i Audiovisuals de Catalunya の頭文字、バルセロナ派の若手シネアストを輩出している。

(『グエロス』でアリエル賞撮影監督賞(銀賞)のトロフィーを手にしたダミアン・ガルシア)

(撮影中のダミアン・ガルシア)
◎キャスト紹介
★出演者のうち、公式サイトに詳しいキャリア紹介のある、ガエル・ガルシア・ベルナル、アメリカ側のスナイパー役ジェフリー・ディーン・モーガンは割愛しますが、悪役サムがしっかり機能していたことが本作の成功の一因だったといえそうです。またスクリーンに少しだけ現れた国境パトロール隊員のリュー・テンプルは、1967年ルイジアナ州生れの俳優。犬のトラッカーは俳優犬ではなく警備の訓練を受けた犬だった由、トラッカーが出てくるとアドレナリンがドクドクの名演技でした。もう一つが2年間にわたって探し回ったという乾いた砂漠の過酷さと美しさだった。主な不法移民役のメキシコ人俳優をご紹介すると、

(サムにショットガンを構えるモイセス)
*ディエゴ・カタニョは、1990年クエルナバカ生れ、フェルナンド・エインビッケのデビュー作『ダック・シーズン』(04)や『レイク・タホ』(08、東京国際映画祭2008)に出演、ホナス・キュアロンの長編デビュー作「Año uña」(07「Year of the Nail」)では、アメリカから休暇でやってきた年上の女性モリーに淡い恋心を抱くティーンエイジャーを演じた。モリーを演じたのがエイリアン・ハーパー、2007年、監督と結婚して1児の母。第2作ではプロデューサーとして参加している。他にロドリゴ・プラの話題作「Desierto adentro」(08)にも出演している。

(ディエゴ・カタニョ、『レイク・タホ』から)

(エイリアン・ハーパー、「Año uña」から)
*マルコ・ぺレスは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』(99)、マルコ・クロイツパイントナーの「Trade」(07)、クリスチャン・ケラーのグローリア・トレビのビオピック「Gloria」(14)では、グロリアのマネジャーに扮した。最後までモイセスと運命を共にするアデラ役のアロンドラ・イダルゴは、本作が長編映画デビュー、テレビドラマに出演している。

(ケラー監督とマルコ・ぺレス、「Gloria」から)

(モイセスに助けられながら追跡を逃れるアデラ)
関連記事・管理人覚え
*トロント映画祭2015の本作の紹介記事は、コチラ⇒2015年9月25日
*アロンソ・ルイスパラシオス『グエロス』の紹介記事は、コチラ⇒2014年10月3日
*ディエゴ・ケマダ=ディエス『金の鳥籠』の紹介記事は、コチラ⇒2014年6月5日
*キャリー・フクナガ『闇の列車、光の旅』の紹介記事は、コチラ⇒2013年11月10日
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