第3回イベロアメリカ・フェニックス賞*結果発表 ― 2016年12月15日 15:58
こんな作品が受賞しましたが・・・

★去る12月7日の夜(現地時間20:30)、メキシコシティの「Ciudad Esperanza Iris劇場」で授賞式が開催されました。ガラはアルゼンチンのフィト・パエス、メキシコの「Zoé」のボーカリストで作曲家のレオン・ラレギ、今回栄誉賞受賞のアレハンドロ・ホドロフスキーの4男アダノフスキーのような豪華なミュージシャンが出演、かなり賑やかだったようです。カテゴリーは13個(その他として栄誉賞、プロダクションと批評家に与えられるフェニックス賞が追加されている)。「Nerudaネルーダ」が最多4賞、メキシコのドキュメンタリー「Tempestad」が3賞を制して閉幕いたしました。ノミネーション発表記事で「ブラジルの健闘が目につく2016年」と書きましたが、予想通りの結果になりました(ブラジルからの出席も多かったようです)。結果は以下の通り:

(音楽を担当したフィト・パエス)
作品賞(作品賞のみ7作品)
◎「Nerudaネルーダ」チリ、アルゼンチン、スペイン、フランス合作、パブロ・ラライン監督
製作:Fabula / AZ Films / Funny Balloons / setembre Cine(9個ノミネーション、4賞)
『エル・クラン』アルゼンチン他、監督パブロ・トラペロ(9個ノミネーション、2賞)
『彼方から』ベネズエラ他、同ロレンソ・ビガス(4個ノミネーション)
「Aquariusアクエリアス」ブラジル他、クレベル・メンドンサ・フィリオ
(4個ノミネーション、2賞)
「Boi Neon」ブラジル他、ガブリエル・マスカロ(8個ノミネーション、2賞)
「La muerte de Luis XIVルイ14世の死」スペイン他、アルベルト・セラ(4個ノミネーション)
「Te prometo anarquia」メキシコ他、同フリオ・エルナンデス・コルドン(1個ノミネーション)

(製作者フアン・デ・ディオス・ラライン監督弟、G・G・ベルナル、ルイス・ニェッコ)
監督賞
◎クレベル・メンドンサ・フィリオ「Aquariusアクエリアス」
パブロ・トラペロ『エル・クラン』
パブロ・ラライン「Nerudaネルーダ」
ガブリエル・マスカロ「Boi Neon」
アルベルト・セラ「La muerte de Luis XIVルイ14世の死」

脚本賞
◎ガブリエル・マスカロ「Boi Neon」(ポルトガル語)

男優賞
◎ギジェルモ・フランセージャ『エル・クラン』

(『エル・クラン』から)
女優賞
◎ソニア・ブラガ「Aquariusアクエリアス」

(トロフィーを手にしたソニア・ブラガ)
撮影賞
◎ディエゴ・ガルシア「Boi Neon」
録音賞
◎レアンドロ・デ・ロレド&ビセンテ・デリア『エル・クラン』
衣装賞
◎ムリエル・パラ「Nerudaネルーダ」
編集賞
◎Hervé Schneid「Nerudaネルーダ」
美術賞
◎エステファニア・ラライン「Nerudaネルーダ」
長編ドキュメンタリー賞
◎「Tempestad」(メキシコ)Pimienta Films / Cactus Films / Terminal
監督タティアナ・ウエソ

オリジナル音楽賞
◎レオ・エイブルム、ハコボ・リエベルマン「Tempestad」
ドキュメンタリー撮影賞
◎エルネスト・パルド「Tempestad」

◎栄誉賞 アレハンドロ・ホドロフスキー

(父親の代理でトロフィーを受け取ったミュージシャンのアダン・ホドロフスキー)
◎プロダクション・フェニックス賞 パトリシア・リヘン監督の「Los 33」のプロダクション
◎批評家フェニックス賞 スペインのミゲル・マリアス
★どの映画賞にも言えることですが、結果に対する不満不平はつきものです。特に「イベロアメリカ」と称しながら、新大陸メキシコ開催ということで旧大陸スペインとポルトガルの影が薄い印象は否めません。今年はゼロだったこともあり、この映画の集いに各地から馳せつけた700人近い出席者の中には、この結果では「誰をも満足させられない」という愚痴がつぶやかれたようです。もともとメキシコのモレリア映画祭2013に集ったシネアストたちのお喋りから始まった映画賞。ラテンアメリカ諸国、スペイン、ポルトガルの合計23カ国を網羅して「Cinema 23」を起ち上げた。ディレクターは設立者の一人リカルド・ヒラルド。全地域から集められた映画に携わるプロフェッショナル約550人が選考に当たった。

(今年のノミネーション作品を紹介するリカルド・ヒラルド)
フェニックス賞受賞は配給元にインパクトを与えられるか?
★イベロアメリカ諸国のアーチストの才能発掘、23カ国全地域の庶民がイベロアメリカ諸国製作の映画を観られる環境を作ること、という大きな2本の柱を掲げて始まった映画賞だが、当初から雑音入りだった。例えば13個のカテゴリー、撮影賞がフィクションとドキュメンタリーの両方にありながら特殊効果、アニメーション、短編が除外され、才能発掘を目指しながら新人枠の監督、俳優、助演者などのカテゴリーを設けなかったことなどが挙げられる。
★一口にイベロアメリカといっても公開時期がまちまちだから(未公開も多い)、ノミネートされていても観ていないケースが出てくる。というわけで、「本当にちゃんと観ていて選んだのですか?」という不満がくすぶることになる。これは映画賞全般に言えることでフェニックスに限りません。しかし「シネマ23」の権力が幅を利かすようでは困るということが背景にあるのかもしれません。会場ではアメリカ次期大統領ドナルド・トランプが、ラテンアメリカ諸国に対してどのような政策を打ち出してくるか、その危険性を警戒する声も聞かれたという。映画産業も政治と無縁では成り立たないですから、当然でしょう。
★賞には全く絡みませんでしたが、スペインからはセスク・ゲイの「トルーマン」(リカルド・ダリンの男優賞)、ホセ・ルイス・ゲリンの『ミューズ・アカデミー』(編集・脚本)、アルベルト・セラの「ルイ14世の死」(作品・監督・美術・衣装)がノミネートされたことが話題になったようです。3監督とも世界的な評価の高さに比してスペインでは傍流に属しているからでしょうか。フェニックス賞が配給元にインパクトを与えられるかどうかが今後の課題です。
★昨年の作品賞を受賞したチロ・ゲーラの『彷徨える河』はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、それなりの成果を出しました。今年のガラで特に脚光を浴びたのがG・G・ガエルと「ネルーダ」関係者だったようですが、果たして期待通りに行くでしょうか。アメリカ映画アカデミーも今までノミネートしたことのない国から選ぶ傾向にあるようで、チリは既に第85回アカデミー賞2012にララインの『No』がノミネートされています。
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