「スター誕生」バルバラ・レニーの魅力 ― 2015年03月27日 21:32
最も輝いている女優バルバラ・レニー
*まだ邦題、劇場は分かりませんが、カルロス・ベルムトの“Magical Girl” が年内に劇場公開されることになりました(配給元ビターズ・エンド。かつてウルグアイの二人の監督が撮った『ウィスキー』を配給してくれた会社)。主演のバルバラ・レニーについてはゴヤ賞主演女優賞の項で予想した通り「スター誕生」となりました。最近では『エル・パイス・セマナル』の表紙を飾り「時の人」にもなりましたので改めてその魅力をお伝えいたします。
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2015/03/27/386796.jpg)
★ゴヤ賞主演女優賞のバルバラ・レニー Barbara Lennie Holguín は、1984年マドリード生れ、女優、舞台俳優。祖先は第1期のイギリスからのアルゼンチン移民で、苗字の「レニー」はスコットランド系。生れはスペインですが両親が左翼系の活動家で当時アルゼンチンから政治亡命していた。70年代80年代は軍事独裁政を逃れてラテンアメリカからの亡命者は珍しくなかった時代です。父は医者、母は心理学者、しかし当時父はマルベーリャ(コスタ・デル・ソルの観光地)でオレンジ・ジュースを売っており、母はテレビ局の秘書をしていたそうです。曲がりなりにも民主化なった故郷ブエノスアイレスへ一家は帰国、バルバラは誕生後6カ月でしたので記憶は全くゼロということです。
★ブエノスアイレスでは、19世紀末に鉄道の仕事で移民してきたイギリス人たちが住んでいた大きな家が立ち並ぶ地区で育った。大木に囲まれていたので空気が澄み切って美しい記憶として今でも残っているようです。週末にはピクニックやラプラタのシティ・ベルに住んでいた祖父母たちの家を訪問した。メネム政権時代の1990年に再びスペインに舞い戻ってきた。もう6歳になっていましたから一緒に遊びまわった従兄妹たちや友達との別れは悲しかったそうです。「私にとってマドリードは別の惑星だった」と後に語ることになった。学校では意地悪な少女たちから<ポルテーニョ訛り>をからかわれ辛かったし、楽しい幼年時代との訣別だったから、ノスタルジーもあってアルゼンチンは意図せず美化されているのかもしれません。
★彼女を救い出してくれたのはコレヒオ・ラス・ナシオネス Colegio Las Naciones という学校だった。そこで演劇コースが気に入り、アルゼンチン人の女性教師について学んだ。これにはベイビーと呼ばれていた祖母ベルタ・スカリノの影響があった。女優志願であったが若くして結婚したため断念、結婚と女優は両立しない時代だった。「私が昨年の夏“La función por hacer”の舞台に立つためブエノスアイレスに到着した同じ日に亡くなった」という、こういう偶然はありますね。
★王立演劇学校で本格的に演技を学び始める。16歳でビクトル・ガルシア・レオンの“Más pena que gloria”(2001)で映画デビュー。新人女優を探していたガルシア・レオンに推薦してくれたのが、フェルナンド・トゥルエバの長男ホナス・トゥルエバ(1981マドリード)でした。本人もこれが脚本デビュー、監督との共同執筆ですが。「まだ基礎演技もできなかった頃で、まったくクレージーな話でした。最初の撮影日には恐ろしくて死ぬ思いでした。ビクトルが女優として私を世に出してくれた」と語っている。ホナス・トゥルエバが最初の恋人です。彼の新作“Los exiliados románticos”が今年のマラガ映画祭コンペに選ばれています。これはマラガ映画祭でいずれ。トゥルエバ一家との繋がりができたことも幸いでした(笑)。
★2007年より間断なくシリーズTVドラにも出演、歴史物“Isabel”(2012~13)で人気を博した。今年から始まった“El incidente”にも出演しております。2008年からは本格的に舞台でも活躍しており、とくに“Misántropo”は、2013年以来のロングランを続けています。バルバラにとって2014年は素晴らしい年になったが、「自分が演じたいと思うような役柄に出会うことは、そんなに簡単なことではない」、“Magical Girl”については「スペインの危機的な現実をダイレクトにテーマにした作品ではないが、どの時代にもある表面には現れてこない危機が、精神的にも経済的にも落ち込んでいるマドリードが描かれている」と語っています。
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2015/03/27/386797.jpg)
(シャネルの黒のドレスにゴールドのジャケットを着た最近のバルバラ)
★今年スペインで公開される予定の映画は、ウルグアイの監督フェデリコ・ベイロフの“El apóstata”、ベイロフの代表作“Acne”(2008)はカンヌ映画祭やトロント映画祭で上映され、2012年『アクネACNE』の邦題で短期間だが劇場公開された。
*代表的なフィルモグラフィー*
2001“Más pena que gloria” ビクトル・ガルシア・レオン
2005“Obaba”モンチョ・アルメンダリス、ルルデス役でゴヤ賞2006新人女優賞ノミネーション。
2007“Las 13 rosas”エミリオ・マルティネス≂ラサロ (スペイン内戦物)
2008“Todos los días son tuyos”ホセ・ルイス・グティエレス・アリアス
2009“Los condenados”イサキ・ラクエスタ(サン・ジョルディ映画賞で女優賞)
2010“Todas las canciones hablan de mí”ホナス・トゥルエバ(コメディ)
2011“La piel que habito”ペドロ・アルモドバル(『私が、生きる肌』の邦題で2012公開)
2012“Dictado”アントニオ・チャバリアス(『フリア、よみがえりの少女』邦題で2012公開)
同 “Miel de
naranjas”イマノル・ウリベ
2014“Stella
cadente” リュイス・ミニャロ(サンセバスチャン「メイド・イン・スペイン」)
同 “El Niño”ダニエル・モンソン(『エル・ニーニョ』の邦題でラテンビート2014上映)
ゴヤ賞助演女優賞ノミネーション
同 “Magical
Girl”カルロス・ベルムト、ゴヤ賞主演女優賞、フォルケ賞女優賞、シネマ・ライターズ・サークル賞主演女優賞など受賞
同 “Murieron
por encima de sus posibilidades” イサキ・ラクエスタ(コメディ)
★脇役が多いが傾向の異なる監督からのオファーを受けている。歴史物からシリアス・ドラマ、コメディまでこなせるマルチ俳優。アルモドバルの『私が、生きる肌』のチョイ役で合格点を貰ったようで、女性路線に回帰するという次回作“Silencio”にオファーがあるのではないかと期待していましたが、どうやらアドリアナ・ウガルテに決まったようです。現在は“Magical Girl”にも共演してゴヤ新人賞にノミネートされたイスラエル・エレハルデが恋人、舞台“Misántropo”でも共演しています。
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2015/01/21/371177.png)
(“Misántropo”でのイスラエル・エレハルデとバルバラ・レニー)
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