”Magical Girl” 7個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑤ ― 2015年01月21日 14:25
サンセバスチャンの「金貝賞」受賞作品
★作品賞ノミネーション第4作目は、カルロス・ベルムトの第2作“Magical Girl”、ジャンルはミステリーです。サンセバスチャン映画祭のオフィシャル・セレクションに正式出品され、なんと最優秀作品賞(金貝賞)と最優秀監督賞(銀貝賞)両方を受賞してしまった。元来、本映画祭はカンヌ同様、作品賞とその他の銀貝賞をダブらせないのが基本方針と聞いている。とにかく、1997年のクロード・シャブロルの『最後の賭け』以来のことだそうですから17年ぶりです。当然、この奇妙なダダイズム映画のダブル受賞を非難する観客の声も出たようです。当ブログではサンセバスチャン映画祭で紹介しています。
(サンセバスチャンの「金貝賞」は作品賞のみで以下は全て銀貝賞です)
*カテゴリー7部門ノミネーションは以下の通り:
* Magical Girl *
Films Distribution / Canal+España 1 / TVE 他
監督・脚本:カルロス・ベルムト
主演男優賞:ルイス・ベルメホ
主演女優賞:バルバラ・レニー
助演男優賞:ホセ・サクリスタン
新人男優賞:イスラエル・エレハルデ
*以下は最終ノミネーションに残れなかったカテゴリー
撮影賞:サンティアゴ・ラカRacaj、
編集賞:エンマ・トゥセル
プロダクション賞:モンセ・ラクルス
メイク・ヘアメイク賞:イニャーキ・マエストレ
特殊効果賞:ゴンサロ・コルト
助演女優賞:エリザベト・ヘラベルト
データ:スペイン=フランス、スペイン語、2014、スリラー、撮影地:マドリード、セゴビア、
製作費:約50万ユーロ
映画祭上映:2014年(サンセバスチャン、トロント、チューリッヒ、シッチェス、釜山プサン、テッサロニキ)、2015年(パーム・スプリングス、ロッテルダム)他
受賞歴:サンセバスチャン映画祭金貝賞、監督(銀貝)賞、アルカラ・デ・エナレス映画祭観客賞
スペイン公開10月17日、テッサロニキ映画祭上映後ギリシャで公開11月18日
キャスト:ルイス・ベルメホ(ルイス)、ホセ・サクリスタン(ダミアン)、バルバラ・レニー(バルバラ)、イスラエル・エレハルデ(アルフレド)、エリザベト・ヘラベルト(アダ)、ルシア・ポリャン(アリシア)他
プロット:文学教師のルイスは失業中、彼の12歳になる娘アリシアは末期ガンで余命いくばくもない。アリシアの最後の願いは日本のアニメTVシリーズ『マジカル・ガールYukiko』の衣装を着ること、なんとか叶えてやりたい。その高価な衣装のためルイスは恐ろしいネットに深く入り込むことになる。ダミアンとバルバラを巻き添えに、彼らの運命も永遠に変えてしまうだろう。
(『マジカル・ガールYukiko』 映画から)
★作品賞:ペドロ・エルナンデス・サントスは、2010年設立の製作会社Aquí
y Allí Filmsの代表者。若い才能を発掘して社会変革をモットーにしている。第1作は、アントニオ・メンデス・エスパルサの“Aquí y allá”(2012、西=米=メキシコ)、サンセバスチャンで上映された後、東京国際映画祭2012「ワールド・シネマ」部門でも『ヒア・アンド・ゼア』の邦題で上映され、本作が第2作目になります。
*評価の高い割には興行成績は伸びず17万ユーロ、製作費を回収できていません。スリラー好きの国民ですが、2014年ランキング150位にも入っていないという厳しさです(この数字は外国映画も含んでいると思います)。サンセバスチャン映画祭の快挙を裏切る数字ですが、ゴヤ賞如何では伸びるかもしれません。“Ocho apellidos vascos”、セグラの「トレンテ5」、『エル・ニーニョ』、“La lsla
minima”などに流れてしまったのでしょう。
(金貝賞、監督賞ダブル受賞を喜ぶ二人、サンセバスチャン映画祭授賞式にて)
マンガ愛好家、出発はイラストレーター
★監督賞・脚本賞:カルロス・ベルムトCarlos Vermutは、1980年マドリード生れ、監督、脚本家、漫画家、プロデューサー。美術学校でイラストを学び、「エル・ムンド」紙のイラストレーターとして働く。2006年、最初のコミック“El banyan rojo”がバルセロナのコミック国際フェアで評価された。彼の漫画家としての才能と経験は本作にも活かされている。デビュー作はミステリー・コメディ“Diamond flash”(2011)。他に短編映画3作、コミック3作、2012年刊行の“Cosmic Dragon”は、鳥山明の『ドラゴンボール』のオマージュとして描かれたようです。
「スター誕生」となるか
★主演女優賞:バルバラ・レニー Barbara Lennie Holguín は、1984年マドリード生れ、女優、舞台俳優。生れはスペインだが家族はアルゼンチン人、誕生後一家でブエノスアイレスに帰国、6歳のとき再びスペインに戻っている。王立演劇学校で演技を学び、16歳でビクトル・ガルシア・レオンの“Más pena que gloria”(2001)で映画デビュー。フェルナンド・トゥルエバの長男ホナス・トゥルエバが脚本デビュー、監督と共同執筆している。ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』で助演女優賞にもノミネートされていますが、本命は当然こちらです。フォルケ賞最優秀女優賞を受賞したばかりで、流れとしては受賞の可能性が高く、各紙「スター誕生」を予想しており、2014年最も輝いた女優の一人。過去にダブル受賞は1回だけあり、1987年ベロニカ・フォルケが“La vida alegre”で主演、“Moros y Cristianos”で助演を受賞しています。
代表的な出演作は以下の通り:
2005年“Obaba”モンチョ・アルメンダリス、ルルデス役でゴヤ賞2006新人女優賞ノミネート。
2007年“Las 13 rosas”エミリオ・マルティネス≂ラサロ (スペイン内戦物)
2008年“Todos los días son tuyos”ホセ・ルイス・グティエレス・アリアス
2009年“Los condenados”イサキ・ラクエスタ(サン・ジョルディ映画賞で女優賞)
2010年“Todas las canciones hablan de mí”ホナス・トゥルエバ(コメディ)
2011年“La piel que habito”ペドロ・アルモドバル(『私が、生きる肌』の邦題で2012公開)
2012年“Dictado”アントニオ・チャバリアス(『フリア、よみがえりの少女』邦題で2012公開)
同 “Miel de naranjas”イマノル・ウリベ
2014年“Stella cadente” リュイス・ミニャロ(サンセバスチャン「メイド・イン・スペイン」)
同 “El Niño”ダニエル・モンソン(『エル・ニーニョ』の邦題でラテンビート2014上映)
同 “Magical Girl”省略
同 “Murieron por
encima de sus posibilidades” イサキ・ラクエスタ(コメディ)
(最近のバルバラ・レニー)
★以上でも分かるように、脇役が多いが傾向の異なる監督からオファーを受けている。歴史物からシリアス・ドラマ、コメディまでこなせるマルチ俳優。アルモドバルの『私が、生きる肌』のチョイ役で合格点を貰ったようで、次回作“Silencio”がアナウンスされたばかりですが、噂ではオファーがあるのではないかということです。新作は「ウーマンもの」に回帰するとか。ホナス・トゥルエバ(1981マドリード)とは一時恋人同士だったが、現在は本作にも共演して新人賞ノミネートのイスラエル・エレハルデが恋人、舞台でも共演している。ガラのレッド・カーペットは彼のエスコートが期待されている(笑)。
(舞台“Misántropo”でのイスラエル・エレハルデとバルバラ・レニー)
*2007年より間断なくシリーズTVドラにも出演、歴史物“Isabel”(2012~13)で人気を博す。今年から始まった“El incidente”にも出演している。2008年からは舞台でも活躍しており、特に“Misántropo”は、2013年以来のロングランを続けている。バルバラにとって2014年は素晴らしい年になったが、「自分が演じたいと思うような役柄に出会うことは、そんなに簡単なことではない」、本作については「スペインの危機的な現実をダイレクトにテーマにした作品ではないが、どの時代にもある表面には現れてこない危機が、気分的にも経済的にも落ち込んでいるマドリードが描かれている」と語っている。
*今年公開される予定の映画は、ウルグアイの監督フェデリコ・ベイロフの“El apóstata”、『アクネACNE』(2008)がカンヌやトロントなど有名映画祭に招待された。4年後短期間だが劇場公開されている。
★本ブログお馴染みの助演男優賞のホセ・サクリスタン、今回受賞は難しい主演男優賞のルイス・ベルメホ、ヘスス・カストロ受賞確実の新人男優賞のイスラエル・エレハルデは割愛。
(ホセ・サクリスタン、映画から)
(ルイス・ベルメホ、映画から)
サンセバスチャン映画祭2014⇒9月16日
本命か”La isla minima”17個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑥ ― 2015年01月24日 21:22
銀貝賞、フォルケ賞作品賞、アルベルト・ロドリゲス
★作品賞最後の紹介はアルベルト・ロドリゲスの第6作“La isla mínima”です。ノミネーション17個とやたら数が多いが、何個くらい受賞できるのだろうか(カテゴリー的には主演男優賞に2人ノミネーションだから16です)。おおよそ『エル・ニーニョ』と競合しているから仲良く半分こするのか(笑)。監督賞、撮影賞、脚本賞は狙っているでしょうね。まだキャストが決まらない2013年夏から記事にしているので、個人的思い入れも大きくて冷静な判断できない。
★『7人のバージン』(2005)を「ラテンビート2006」で見て以来、第4作“After”(2009)、第5作“Grupo 7”(2012)と、ずっと気になっていた監督です。特に“Grupo 7”は実話に着想を得たフィクション、ゴヤ賞2013の話題作でしたが、不運にも対抗馬が『インポッシブル』と『ブランカニエベス』という大作に対抗できませんでした。しかし興行成績は『インポッシブル』には遠く及びませんでしたが、『ブランカニエベス』を倍以上引き離して映画界に貢献しました。今回ノミネーション17個は以下の通り:
*“La isla mínima”*
作品賞:Antena 3 Films(ミケル・レハルサ他)/Atipica Films(ホセ・アントニオ・フェレス)/
Sacromonte Films(ヘルバシオ・イグレシアス)
監督賞:アルベルト・ロドリゲス
脚本賞:ラファエル・コボス/アルベルト・ロドリゲス
編集賞:ホセ・M・G・モヤノ
撮影賞:アレックス・カタラン
オリジナル作曲賞:フリオ・デ・ラ・ロサ
プロダクション賞:マヌエラ・オコン
衣装デザイン賞:フェルナンド・ガルシア
メイク・ヘアメイク賞:ヨランダ・ピーニャ
美術賞:ペペ・ドミンゲス・デル・オルモ
特殊効果賞:ペドロ・モレノ/フアン・ベントゥラ
録音賞:ダニエル・デ・サヤス/ナチョ・ロヨ≂ビリャノバ/ペラヨ・グティエレス
主演男優賞:ラウル・アレバロ/ハビエル・グティエレス
助演男優賞:アントニオ・デ・ラ・トーレ
助演女優賞:メルセデス・レオン
新人女優賞:ネレア・バロス
データ:スペイン、スペイン語、2014、スリラー、105分 撮影地セビーリャ他、配給:ワーナー・ブラザーズ・ピクチャー、2015年興行成績600万ユーロ(約100万人)、スペイン公開9月26日、DVD発売2015年1月23日
受賞歴:サンセバスチャン映画祭2014、審査員最優秀撮影賞(銀貝賞)アレックス・カタラン/最優秀男優賞(銀貝賞)ハビエル・グティエレス/Feroz
Zinemaldia 賞アルベルト・ロドリゲス
フォルケ賞2015、最優秀作品賞、最優秀男優賞(ハビエル・グティエレス)
キャスト:ラウル・アレバロ(刑事ペドロ)、ハビエル・グティエレス(刑事フアン)、アントニオ・デ・ラ・トーレ(ロドリゴ)、ネレア・バロス(ロシオ)、メルセデス・レオン、ヘスス・カストロ(キニ)、ヘスス・カロッサ、サルバドル・レイナ、マノロ・ソロ(新聞記者)、セシリア・ビジャヌエバ(マリア)、フアン・カルロス・ビジャヌエバ(アンドラーデ判事)、アナ・トメノ、他
プロット:1980年、アンダルシア、グアダルキビール河沿いの低湿地帯。時が止まったような打ち捨てられた小村のお祭りの最中、二人の少女が行方不明になる。しかし誰も気に留めなかった、若者たちはみんなこの重苦しい村から出たがっていたからである。少女たちの母親ロシオは、地方判事アンドラーデが失踪事件に関心を示していることを知る。やがてマドリードの殺人課の刑事ペドロとフアンが派遣されてくる。性格も捜査方法も非常に異なっていたが、二人とも警察主要部との関係が上手くいっていなかった。この地域の主産業であるコメの刈入れ時で、農民たちのストが起こり不穏な空気につつまれていた。捜査は「沈黙の壁」と嘘の情報に困難を極めたが、次第に以前から若者の多くが行方不明になっていることが分かってくる。更に主産業がコメ以外に麻薬密売であることも明らかになってくる。ペドロとフアンは死の恐怖に直面しながらも、重要なことは犯人を上げることであった。
★以上のプロットから推察できるように、性格の異なる二人の刑事が事件の裏側から真相を突き止めていくアメリカの人気TVドラマ『トゥルー・ディテクティブ』“True Detective” シリーズを思い浮かべる人が多いかもしれない。マシュー・マコノヒーとウディ・ハレルソンのダブル主演、事件解決だけではなく、地方の町に潜んでいる日常的な深い闇を暴きだして、政治のみならず貧困、差別、汚職、麻薬取引などを描いて全米の話題作となっている。骨格が相似していますね。
★しかし、ロドリゲス監督によると、「2009年の数ヵ月、(共同執筆の)ラファエル・コボスとロベルト・ボラーニョの小説『2666』やジョン・スタージェスの『日本人の勲章』(1955米国)、ラディスラオ・バフダの“El cebo”(1958西独)などから着想を得て、フィルム・ノワールの共同執筆を考えていた」と語っています。ボラーニョの小説はメキシコのシウダー・フアレスの女性連続殺人事件をめぐる第4部「犯罪の部」、『日本人の勲章』は真珠湾攻撃を理由に日本人移民が人種差別で殺害される事件、スペンサー・トレイシーがアカデミー男優賞を受賞、吹替え版でテレビ放映もされた映画です。またバフタはハンガリー生れの監督ですが各国で映画を撮っており、これは西ドイツ映画、スイスの片田舎で少女が殺害される。(1942年にスペインに帰化、日本では『汚れなき悪戯』が公開されている。)いずれも孤立した地方の共同体で起きた陰惨な殺人事件の裏側を主人公が解明していくストーリー。
★「私とコボスはフィルム・ノワールと探偵小説の大ファンなんだ。1930~40年代を舞台にした映画ピラール・ミロとか“El cebo”のラディスラオ・バフタ、『日本人の勲章』などを見ていった。共に背景に社会政治的な内容の濃いスリラーで、これらは本作に大きな影響を与えています」と、サンセバスチャン映画祭のインタビューで語っています。ミロの作品は多分『クエンカ事件』などを指していると思う。外部からやってきたスペンサー・トレイシーが本作の二人の刑事に重なるわけです。監督はレイモンド・チャンドラーやマヌエル・バスケス・モンタルバンの推理小説の熱狂的なファンで、その影響が随所に現れているとも語っています。
★この映画には大きく分けて二つの視点がある、デモクラシーを支持する側の視点、フランコの旧体制を守ろうとする側の視点。スペインの1980年代というのは、いわゆる「民主主義移行期」にあたるが、都会と違ってアンダルシアのような地方のコミュニティは、40年代とあまり変わっていなかった、とセビーリャを舞台に映画を撮りつづけている監督は指摘している。また、セビーリャの写真家アティン・アヤAtin Aya*の展覧会で見たグアダルキビールの湿地帯で暮らす人々の素晴らしい写真に打たれたという。これも映画製作の大きな理由であった。
*1955年セビーリャ生れ(2007年没)、写真家。グラナダ大学で心理学、ナバラ大学で社会科学を専攻、1981年、マドリードのフォト・センターで写真を学んだ。1992年セビーリャ万博の正式に選ばれた写真家のメンバーだった。
監督賞:アルベルト・ロドリゲス Alberto Rodriguez Librero、1971年セビーリャ生れ、監督、脚本家。セビーリャ大学の情報科学部で映像と音響学を専攻、アマチュア・レベルのビデオを撮り始める。1997年、サンティアゴ・アモデオと3万ペセタで短編“Banco”を撮り、1999年に400万ペセタをかけ別バージョンで撮ったものが評価され15個の賞を受賞する。長編は以下の通り:
2000年“El factor Pilgrim” サンセバスチャン映画祭2000新人監督に与えられる審査員スペシャル・メンションを受賞
2002年“El traje”
2005年 “7 Virgenes” サンセバスチャン映画祭2005に正式出品、主演のフアン・ホセ・バジェスタが最優秀男優賞(銀貝賞)を受賞。(『七人のバージン』の邦題でラテンビート上映)
2009年“After” ローマ映画祭、トゥルーズ映画祭に出品
2012年“Grupo 7” フィルム・ノワール、 サンセバスチャン映画祭2012「メイド・イン・スペイン」上映、ゴヤ賞2013ノミネーション16個(受賞は2個)。
2014年 本作
★撮影賞:アレックス・カタラン、サンセバスチャン映画祭「審査員最優秀撮影賞」(銀貝賞)を受賞している。ロドリゲス監督のデビュー作を除いて5作品を専属的に手掛けている。最近の代表作は。イシアル・ボリャイン(『雨さえも~』)、フリオ・メデム(『ローマ、愛の部屋』)、ハビエル・フェセル(『カミーノ』)など。
*撮影は、2013年10月から11月にかけて行われた。この湿地帯には三つの島があり、その中で一番小さい島‘la isla mínima’が舞台となっている。クランクインの10月の昼間の気温は42度、11月下旬の夜間には零下4度にまで下がり、高温、乾燥、寒さ、おまけに都会にはいない虫の存在もスタッフ、キャスト両方を苦しめ、かなり過酷なものだったという。稲刈りなんかもしたらしい。セビーリャの中心地から30キロ南方の湿地帯で主に撮影された。水田地帯というのは春から夏にかけて緑一面に被われ、収穫時の秋には黄金色に染まる。このさびれた湿地帯、ジメジメした水田、河も登場人物の一つであるようだ。ドキュメンタリーの手法で撮られているが全くのフィクション、監督はサンセバスチャンでアレックスが評価されたことが「特に嬉しかった」と述べていた。
(登場人物の一つ、グアダルキビール河の低湿地帯)
主演男優賞:ハビエル・グティエレスJavier Gutiérrez :1971年、ガリシアのア・コルーニャ生れ、俳優、サウンドトラック、監督。2000年テレドラに出演、映画デビューはエミリオ・マルティネス≂ラサロの“El otro lado de la cama”(2002)。受賞歴は、2012年シリーズTVドラ“Aguila Roja”(2009~14)でスペイン俳優組合賞男優賞を受賞。本作によりサンセバスチャン映画祭2014最優秀男優賞、フォルケ賞2015最優秀男優賞を貰っているほか、フェロス賞及びシネマ・ライターズ・サークル賞にもノミネートされており、一番受賞に近い。俳優たちのセリフ、表情、視線、間の取り方に釘付けになった批評家も多く、中でもグティエレスの演技は飛びぬけていた由。酷暑の撮影中、疲れと脱水症状で倒れた甲斐がありました。その他代表作は以下の通り:
2004年“Crimen ferpecto”監督アレックス・デ・ラ・イグレシア
2005年“Torrente 3”同サンチャゴ・セグラ
2006年『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト:ベビー・ルーム』同デ・ラ・イグレシア
2011年“Torrente 4”同サンチャゴ・セグラ
*ラウル・アレバロRaúl Arévalo は、1979年マドリード生れ、俳優。ダニエル・サンチェス・アレバロの『漆黒のような深い青』『デブたち』『マルティナの住む街』、イシアル・ボリャイン『雨さえも~』、アルモドバル『アイム・ソー・エキサイテッド』などでお馴染みの俳優、ゴヤ賞2010『デブたち』で助演男優賞を受賞している。本作でフェロス賞にもノミネートされており、コメディでの演技を嫌う向きも、今回は合格点をつけている。
(主役二人がノミネーション、グティエレスとアレバロ)
助演男優賞・同女優賞・新人女優賞:出番の少ない脇役連の演技が光っていると評判の3人、アントニオ・デ・ラ・トーレ、メルセデス・レオン、ネレア・バロスの評価が高く、揃ってノミネーションを受けた。
*アントニオ・デ・ラ・トーレは、マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』(2013)ほか何回か紹介しているし、今回は受賞はないと思います。“Ocho apellidos vascos”のカラ・エレハルデの手に渡ると予想。
*メルセデス・レオンMercedes Leónは、コルド・イサギーレの“Amor en off”(1992)でデビュー、主にシリーズのTVドラに出演している。ゴヤ賞ノミネーションは初。
*ネレア・バロスNerea Barrosは、1981年、サンチャゴ・デ・コンポステラ生れ、女優。代表作としてハビエル・ベルムデスの“León y Olvido”(2004)、TVドラ“Matalobos”(2009~10)や“Volver
a casa”(2010)に出演、今回は失踪した少女の母親役です。1月25日発表の第2回フェロス賞助演女優賞にもノミネートされている。ゴヤ賞は初。このカテゴリーは予測が難しい、誰が取ってもおかしくないし、4人全員に挙げたいくらいです。
(夫婦役アントニオ・デ・ラ・トーレとネレア・バロス、映画から)
(メルセデス・レオン、映画から)
*脚本賞:共同脚本執筆のラファエル・コボスは“7 Virgenes”“Grupo 7”でも監督とタッグを組んでいる脚本家。今回は期待しているでしょう。
*関連記事・管理人覚え
“Grupo 7”紹介⇒2013年8月18日
“La isla mínima”予告記事 ⇒2013年8月20日
サンセバスチャン映画祭2014 ⇒2014年9月16日/9月30日
フォルケ賞2014 ⇒2015年1月14日
『カニバル』トロント映画祭⇒2013年9月8日
フェロス賞2015授賞式*ゴヤ賞前哨戦 ― 2015年01月27日 13:22
予想通り作品賞は“La isla minima”が受賞
★1月25日、寒さの戻ってきたマドリードで授賞式が開催されました。結果は以下の通り:
カテゴリー(栄誉賞と特別賞を含む)13部門
1 作品賞(ドラマ) “La isla mínima” 監督:アルベルト・ロドリゲス
2 作品賞(コメディ) “Carnina
y amén” 監督:パコ・レオン
3 監督賞 アルベルト・ロドリゲス “La isla mínima”
4 脚本賞 カルロス・ベルムト “Magical Girl”
5 主演男優賞 ハビエル・グティエレス “La isla mínima”
6 主演女優賞 バルバラ・レニー “Magical Girl”
7 助演男優賞 ホセ・サクリスタン “Magical Girl”
8 助演女優賞 イジアル・アイツプル 『フラワーズ』
9 オリジナル音楽賞 フリオ・デ・ロサ “La isla mínima”
10 トレーラー賞 該当作なし
11 映画ポスター賞 “Magical Girl”
栄誉賞 カルロス・サウラ監督
特別賞(ドキュメンタリー)“Costa da morte”(英題“Coast of Death”)
(アルベルト・ロドリゲス監督)
★今年は123作品中13作品に絞られており、1作品が複数のカテゴリーにノミネートされていました。受賞はアルベルト・ロドリゲスの“La
isla minima”とカルロス・ベルムトの“Magical Girl”に割れましたが、ほぼ2作品につきました。サンセバスチャンもフォルケ賞も似たようなもので、ゴヤ賞もこんな具合かなとちょっと興味がそがれています。
(“La isla minima”出演のラウル・アレバロ左とハビエル・グティエレス右)
(フォルケ賞には欠席でしたが、今回は自分の手でトロフィーを受け取ったバルバラ・レニー)
★興行的には殆ど貢献していないが映画記者や批評家に好かれたのが、カルロス・ベルムトの“Magical Girl”、サンセバスチャン映画祭で異例の金貝賞と監督銀貝賞のダブル受賞をした作品ですが、観客との乖離が顕著ですね。逆に興行成績も200万ユーロと貢献度が高かったパコ・レオンのカルミナ第2弾、個人的に応援している“Carmina y amén” が受賞したのは嬉しい。
(“Carmina y amén”のパコ・レオン監督)
★ラテンビートと東京国際映画祭で共催上映されたジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガの『フラワーズ』でイジアル・アイツプルが助演女優賞、ゴヤ賞も狙えるか。助演男優賞のホセ・サクリスタンは予想していませんでした。2013年からフォルケ賞、ゴヤ賞と受賞ラッシュが続いています。
(『フラワーズ』のテレ役イジアル・アイツプル)
★特別賞を受賞した“Costa da Morte”は、2013年製作の84分のドキュメンタリー、批評家の評価も高く、多くの観客の支持も得たようです。ロカルノ映画祭2013受賞を皮きりに国際映画祭での受賞歴多数。監督ロイス・パティニョの長編デビュー作、今注目のシネアストのようです。他に短編2作品。後でご紹介する必要がありそうです。フェロス賞で一番興味が湧いたのがこのドキュメンタリーでした。
(ガリシアの海、映画から)
★若者の半数が職につけず全体の失業率23%と高止まり、また消費税増税にもかかわらず、昨年のスペイン映画界は「黄金の年」であった。例えば、エミリオ・マルティネス≂ラサロの大ヒット“Ocho apellidos vascos”(5600万ユーロ)、ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』(1620万)、サンチャゴ・セグラのトレンテ・シリーズ第5弾“Torrente V :Operacion Eurovegas”(1070万)、“La isla minima”(600万)などが挙げらます。しかるにギョウカイに一番貢献した“Ocho apellidos vascos”は無冠、次の『エル・ニーニョ』も素通り、サンチャゴ・セグラの“Torrente V :Operacion Eurovegas”もフェロス賞には嫌われました。
★ハイメ・ロサーレスの“Hermoso
juventud”、ホルヘ・トレグロッサの“La vida inesperada”、ハビエル・フェセルの“Mortadelo
y Filemon contra Jimmy el cachondo”など、2014年前半は記憶の薄れ、または公開されたばかりは未見と分が悪いというのが印象です。
★今年は昨年のような黄金の年になることはないという悲観論が大勢を占めていますが、栄誉賞受賞のカルロス・サウラは「スペイン映画の未来は明るい。若い世代がどんどん育ってきているから」と挨拶しました。そうであって欲しいです。
*関連記事:管理人覚え*
*フェロス賞ノミネーションの記事は、コチラ⇒2014年12月23日
バスク版コメディ”8 apellidos vascos”5個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑦ ― 2015年01月28日 11:50
興行成績ナンバー・ワン5600万ユーロ!
★リピーターの存在が大きかったのではないかと思いますが、観客1000万人という驚異的な数字が本当かどうか、俄かには信じられません。スペインに垂れ込めていた暗雲を吹き飛ばしてくれたかどうかはさておき、庶民は笑いを求めていたということです。本作については既に詳細をアップしておりますが、作品賞、監督賞が済みましたので、これからは受賞に絡むと予想される作品をおさらいしていきます。5600万ユーロに敬意を表してバスク版コメディから。
*スタッフ、キャスト、プロットのご紹介は、コチラ⇒2014年3月27日/同年6月13日
*“Ocho
apellidos vascos”*
オリジナル歌曲賞:“No te marches jamas” 作曲:フェルナンド・ベラスケス
撮影賞:カロ・ベリーディ
助演男優賞:カラ・エレハルデ
助演女優賞:カルメン・マチ
新人男優賞・ダニ・ロビラ
*以上5カテゴリーにノミネーションされています。
★撮影賞は『エル・ニーニョ』か“La isla mínima”を予想しています。オリジナル歌曲賞は皆目分かりません。新人男優賞は『エル・ニーニョ』のヘスス・カストロが一番近い。ダニ・ロビラは、今年の授賞式の総合司会者に抜擢され、本人も周囲もびっくりしています。そちらの準備で消耗しているのではないかな(笑)。というわけで、残れそうなのがカラ・エレハルデとカルメン・マチです。
(カラ・エレハルデとカルメン・マチ)
★助演男優賞:カラ・エレハルデ Karra Elejarde、1960年バスク州ビトリア生れ、俳優、脚本家、監督。職業訓練Formación Profesionalの時期に演劇学科のコースを選んで学ぶ。バスクのインディペンデントの演劇グループに参加、独り芝居で芸を磨く。映画デビューは1987年、ホセ・アントニオ・ソリージャの“A los cuatro vientos”。脇役が多く、公開、映画祭上映、テレビ放映、ビデオ・DVD発売を含めるとかなりの数になって驚く。モレがあるかもしれない。
1992年『バカス』フリオ・メデム(東京国際映画祭上映)
1992年『ハイル・ミュタンテ!電撃XX作戦』アレックス・デ・ラ・イグレシア(ビデオ)
1993年『赤いリス』フリオ・メデム(シネフィル・イマジカ、テレビ放映)
1993年『キカ』ペドロ・アルモドバル(劇場公開)
1994年『時間切れの愛』イマノル・ウリベ(劇場公開)
1996年『ティエラ―地―』フリオ・メデム(スペイン映画祭‘98上映)
1999年『ネイムレス―無名恐怖』ジャウマ・バラゲロ(劇場公開)
2007年『タイム・クライムス』ナチョ・ビガロンド(LBラテンビート2008上映)
2010年『ビューティフル』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(劇場公開)
2010年『雨さえも―ボリビアの熱い一日』イシアル・ボリャイン(LB2011上映)
★しかし、実はエレハルデが評価された作品は未紹介のものに多い。フアンマ・バホ・ウジョアの“Alas de mariposa”(1991)や“La madre muerta”(1993)、“Airbag”(1997)など、“La madre muerta”はポルトガルのファンタスポート映画祭で最優秀男優賞を受賞、自らが監督もした“Año mariano”(1999)では、2001年バスク俳優組合賞を受賞している。勿論、『雨さえも―ボリビアの熱い一日』の劇中劇でコロンブスを演じたアルコール中毒のアントン役で、ゴヤ賞2011助演男優賞を受賞しました。今回は2匹目を狙っています。本作では、既にトゥリア賞2014で特別賞を受賞しています。若いころからどんどん額が広くなり実年より老けてみえますが、まだ54歳、活躍はこれからです。話題作“Airbag”では、監督と脚本を共同執筆しています。フェロス賞で“Magical Girl”のホセ・サクリスタンが受賞していますから油断できない。
★助演女優賞:カルメン・マチ María del Carmen
Machi Arroyó、1963年マドリード生れ、女優。ファミリーはイタリア系で父親はジェノバ出身、イタリア風に発音すると「マキ」になる。芸名よりTVドラマ・シリーズ“7 Vidas”から独立した長寿ドラマ“Aida”のヒロイン名アイーダ・ガルシアのほうが有名。マドリード自治州ヘタフェで育ち、地元のサン・ホセ学校に通う。舞台女優としてシェイクスピア『ベニスの商人』、バリェ≂インクラン『貪欲、欲望と死の祭壇画』などの舞台に立つ。テレシンコの「アイーダ」がお茶の間で大ブレーク、数々の受賞を手にした。1998年“Lisa”で映画デビュー、アルモドバル映画にも出演、エミリオ・アラゴンの『ペーパーバード 幸せは翼にのって』がラテンビート2010で上映された折り、監督と一緒に来日、最優秀女優賞を受賞した。以下主なる出演映画は以下の通り:
2002年『トーク・トゥ・ハー』ペドロ・アルモドバル
2003年『チル・アウト!』フェリックス・サブロソ&ドーニャ・アジャソ(未公開DVD)
2003年『トレモリーノス73』パブロ・ベルヘル(ゆうばり国際ファンタ映画祭上映)
2005年『色彩の中の人生』サンティアゴ・タベルネロ
2009年『抱擁のかけら』ペドロ・アルモドバル
2009年“La mujer sin piano” ハビエル・レボージョ
2010年『ペーパーバード 幸せは翼にのって』エミリオ・アラゴン
2013年『アイム・ソーエキサイテッド』ペドロ・アルモドバル
2014年本作(省略)
*“La mujer sin piano”は未公開だが、本作はサンセバスチャン映画祭2009正式出品、評価が高く、彼女が主役ロサを演じた。カセレスの「スペイン映画祭」で2009年活躍した女優に贈られる最優秀女優賞を受賞、アルバニアの「ティラナ映画祭」で審査員賞を受賞した。
*2015年は現在4作品が公開予定と目白押しである。
(新人男優賞ノミネートのダニ・ロビラとカルメン、映画から)
★どのカテゴリーにも言えることだが、特に助演賞は予想が難しい。『エル・ニーニョ』のバルバラ・レニーは主演が確実だから落ちるとして、“La isla minima”のメルセデス・レオンもないと思う。残るライバルは“Marsella”のゴヤ・トレドだろうか。ゴヤ賞ノミネーションは初登場。
(時計回りに、メルセデス・レオン、カルメン・マチ、ゴヤ・トレド、バルバラ・レニー)
新人監督賞『トガリネズミの巣穴』3個*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑧ ― 2015年01月30日 17:47
新世代の監督たちが輩出した年でした!
★カルロス・サウラがフェロス賞栄誉賞受賞の折りに「新しい世代が育って、スペイン映画の未来は明るい」と述べたように、昨年は新人監督の活躍が際立った年でした。マラガ映画祭2014の大賞受賞者は全て新人監督がゲットしました。その折りサウラも旧作『従姉アンヘリカ』が「金の映画賞」を受賞するので来マラガしていたから新世代にエールを送ったのかもしれない。サウラにとって彼らは孫世代ですからね。新人監督賞ノミネーション4作品は以下の通り、(3)以外は当ブログに登場しています。
1)カルロス・マルケス≂マルセCarlos Marqués-Marce “10.000 km”
(マラガ映画祭2014⇒4月4日&4月11日)
2) フアンフェル・アンドレス&エステバン・ロエル Juanfer Andrés y Esteban Roel
“Musarañas”『トガリネズミの巣穴』(トロントFF2014⇒8月13日、LB 2014⇒10月22日)
3)クーロ・サンチェス・バレラCurro Sánchez Varela “Paco de Lucía: La búsqueda”
4)ベアトリス・サンチス Beatriz Sanchís “Todos están muertos”
(マラガ映画祭2014⇒4月11日、トロントFF2014⇒8月13日)
◎フアンフェル・アンドレス&エステバン・ロエル
★ラテンビート2014のスクリーンで見た作品ということで贔屓目もありますが、『トガリネズミの巣穴』がトップを走っているのではないでしょうか。
“Musarañas”(Shrew’s Nest)2014 スリラー・ホラー 95分
*ノミネーション3個は、新人監督賞、主演女優賞(マカレナ・ゴメス)とメイク・ヘアメイク賞(ペドロ・ロドリゲス、カルメン・ベイナト、他)です。エグゼクティブ・プロデューサーにアレックス・デ・ラ・イグレシア、カロリーナ・バングという有力布陣でニュース・バリューもあり、各紙のコラムニストも好意的。トロント映画祭2014「バンガードVanguard」 部門でワールド・プレミア、続いてスペインのシッチェス・ファンタジック映画祭正式出品、ラテンビートがアジアン・プレミアでした。
★新人監督賞:二人とも本作が長編デビュー作、二人は共にマドリードの映画研究所の受講生。彼らの短編“036”(2011)は、Youtube で200万回のアクセスがあり数々の賞を受賞した。本作は上述したようにデ・ラ・イグレシアがファンタジー、スリラー、ホラーと才能豊かな若い二人に資金援助をして製作された。カロリーナ・バングはデ・ラ・イグレシアの異色ラブストーリー『気狂いピエロの決闘』(2010)に曲芸師として出演、本作にも脇役で登場。短編“036”出演が機縁でプロデューサー・デビューした。
(左から、エステバン・ロエル、フアンフェル・アンドレス)
★主演女優賞:マカレナ・ゴメスMacarena Gomez:1978年コルドバ生れ、女優。デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』に出演、狂気の「マドリードの魔女」を演じた。スパニッシュ・ホラーには欠かせない存在になっている。未公開だが、ミゲル・マルティのコメディ・ホラー“SexyKiller, morirás por
ella”(2008)が『セクシー・キラー』の邦題でDVD化された。本作は「ブリュッセル・ファンタジー映画祭」ペガサス観客賞を受賞、マカレナ自身もスペイン俳優組合賞にノミネートされた。その他、アントニア・サン・フアンの監督第2作コメディ“Del lado del verano”(2012)では主役タナに起用された。「14歳のとき女優になろうと決心した。先輩女優の演技から学ぶことが多く、特にベロニカ・フォルケから影響を受けている」と語っている。私生活ではミュージシャンのアルド・コマスと結婚、今夏ママになる予定。
(マカレナ・ゴメス、映画から)
プロット:広場恐怖症のモンセ(マカレナ・ゴメス)の物語。1950年代のマドリード、母親が出産したばかりの赤ん坊を残して死んでしまうと、臆病な父親(ルイス・トサール)は耐えきれなくなって蒸発してしまう。モンセは不吉なアパートから一歩も出られず、父と母と姉の3役を背負って青春を奪われたまま、義務感から洋服の仕立てをしながら赤ん坊を育てていた。苦しみから主の祈りとアベマリアの世界に逃げ込んで、今では一人の女性に成長した妹(ナディア・デ・サンティアゴ)を通して現実と繋がっている。ある日のこと、この平穏の鎖が断ち切られる。上階の隣人カルロス(ウーゴ・シルバ)が不運にも階段から落ち、唯一這いずってこられるモンセの家の戸口で助けを求めていた。誰か特に若い男がトガリネズミの巣に入ってしまうと、たいてい二度とは出て行かれない。
★多くの批評家が、1960年代のマリオ・バーヴォ『血ぬられた墓標』(1960)との類似性を指摘している。イギリス女優バーバラ・スティールがヒロインを演じた伝説的なイタリアン・ゴシック・ホラー映画。また、ナルシソ・イバニェス・セラドールの第1作“La residencia”(1969)、ドン・シーゲルの『白い肌の異常な夜』(1971)を思い起こさせるという人も。さしずめイーストウッドがカルロス役のウーゴ・シルバというわけです。マカレナは、ホセ・ルイス・ボラウがマヌエル・グティエレス・アラゴンと撮ったスパニッシュ・ホラー“Furtivos”(1975)の主演女優ローラ・ガオスが演じた恐ろしい母親とも比較されてもいる。本作はサンセバスチャン映画祭の「金貝賞」受賞作品。しかし、なんといっても似ているのは、ロブ・ライナーの『ミザリー』(1990)です。モンセの複雑な動きをする心理は、キャシー・ベイツ扮するアニーにそっくり。彼女は本作でアカデミー主演女優賞に輝いたが、それに倣ってマカレナも狙えるか、やはり“Magical Girl”のバルバラ・レニーでしょう。
◎カルロス・マルケス≂マルセ
★春4月に開催されるマラガ映画祭の大賞を独占した作品ですが、ゴヤ賞は、どうしてもアカデミー会員の記憶が薄れてしまいますから、苦戦すると思います。それでゴヤ賞狙いは秋開催のサンセバスチャンに焦点を合わせるわけです。
*“10.000 KM”のノミネーション3個は、新人監督賞、新人女優賞、新人男優賞。
マラガ映画祭2014の作品賞「金のジャスミン賞」受賞作品。カルロス・マルケス=マルセが最優秀作品賞(金賞)、最優秀監督賞、最優秀新人脚本賞(共同執筆者クララ・ロケ)、ナタリア・テナが最優秀女優賞、他にFNACから批評家特別賞(マラガは作品賞以外はすべて銀賞です)を受賞。他にガウディ賞2015のカタルーニャ語以外の部門に作品賞、監督賞、男優賞、女優賞などがノミネーションされている。発表は間もなくの2月1日です。
プロット:アレックスとセルジの二人はバルセロナで恋に落ち一緒に暮らしていたが、今は別々のアパートで孤独な一人暮らしだ。写真家のアレックスはロスアンゼルス、セルジはバルセロナ。アレックスがロスの奨学資金を貰って1年間の予定でアメリカに発ってしまったからだ。親になることも凍結した二人の会話はすべてインターネット越し、果たして10,000キロ離れた愛の行方は?
★カルロス・マルケス=マルセ Carlos Marqués-Marce は、バルセロナ生れの30歳、監督、脚本家、製作他。本作が長編第1作。短編多数、IMDb では2010年の“I’ll Be Alone”から掲載されておりますが、それ以前から撮っている。アッバス・キアロスタミとビクトル・エリセがコラボで指導しているバルセロナの映画学校に参加。スペイン最大手の貯蓄銀行ラ・カイシャLa Caixa 財団の奨学資金を得て、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAの映画&テレビ学部、監督学科のマスター・コースに留学、この時の体験が長編デビュー作に織り込まれている。ここで製作した前述の“I’ll Be Alone” がロスのラテンアメリカ映画祭、その他で上映されました。他に“Caraquemada”(2010)、“I Felt Like Love”(2013)、2012年の“The Yellow Ribbon” は各地の映画祭で受賞した。
(マルケス=マルセ監督、マラガ映画祭授賞式にて)
* La Panda のメンバー(動物のパンダではなくグループの意味)。ロスに在住しているスペイン人11名(監督、製作者、脚本家、撮影監督、編集者など)が参加している。このグループとの出会いが刺激となって本作は誕生した由。EU加盟後のスペインは、英語を学ぶのが主流、若い世代は英米を目指すようになりましたが、長編デビュー作は「絶対スペイン語で撮りたかった」と監督。
★新人女優賞:ナタリア・テナは、1984年ロンドン生れのイギリス人、イギリス育ちの女優、歌手だが、両親がスペイン系でスペイン語が堪能。クリス&ポール(兄)・ワイツ兄弟の『アバウト・ア・ボーイ』(2002)で映画デビュー、もう「ハリーポッター」のニンファドーラ・トンクス役でお馴染み。またジョージ・R・R・マーティンのファンタジー小説『氷と炎の歌』をテレビドラマ化したシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』にオシャOcha役で出演。オースティンのSXSW映画祭2014で女優賞受賞。
★新人男優賞:ダビ・ベルダゲルは、1980年、バルセロナ生れ、俳優、脚本家。2001年よりシリーズTVドラマでデビュー、マル・コルの『家族との3日間』(2009、東京国際女性映画祭タイトル)に脇役で映画出演、本作が2作目となり、オースティンのSXSW映画祭2014で男優賞受賞。カルメ・プチェの短編コメディ“Etiquetats”(2012)に脚本を共同執筆、出演もした。
(ナタリア・テナとダビ・ベルダゲル、映画から)
◎ベアトリス・サンチス
* “Todos están muertos” (ドイツ≂メキシコ≂スペイン)のノミネーション2個は、新人監督賞と主演女優賞。マラガ映画祭2014の審査員特別賞受賞作品、他に最優秀女優賞にエレナ・アナヤ、オリジナル・サウンドトラック賞にAkrobats が受賞、マラガ大学が選ぶ青年審査員特別賞も受賞。
プロット:若いころポップ・ロック歌手として輝かしい成功をおさめていたルぺの15年後が語られる。彼女の人生に過去のある幻影が忍び寄ってくる。一方、ちょうど思春期を迎えたテーンエイジャーの息子パンチョとの関係がぎくしゃくしてイライラが募ってくる。
★新人監督賞:ベアトリス・サンチスBeatriz Sanchís、監督、脚本家、アート・ディレクター。エレナ・アナヤとの5年間(2008~13)にわたるパートナー関係を解消して本作を撮った。2010年の短編“ Mi otra mitad”がワルシャワ映画祭にノミネート。
(ベアトリス・サンチェスとエレナ・アナヤ、マラガ映画祭授賞式にて)
★主演女優賞:エレナ・アナヤの紹介は省略、ペドロ・アルモドバル『私が、生きる肌』(2011)やフリオ・メデム『ローマ、愛の部屋』(2010)などで認知度バツグンだから。2012年「マラガ賞受賞者」でもある。
(エレナ・アナヤ、映画から)
パコ・デ・ルシアのドキュメンタリー*ゴヤ賞2015ノミネーション ⑨ ― 2015年01月31日 19:23
息子が語る天才ギタリストの人生と音楽
★新人監督賞に唯一ドキュメンタリーから選ばれたのが本作のクーロ・サンチェス・バレラ。天才ギタリストの息子と2人の娘が製作したドキュメンタリー。2014年2月25日、メキシコのリゾート地カンクンで心臓発作のため急死したニュースは世界を駆け巡りました。まだ66歳でしたから、この早すぎる死は家族も驚かせたことだった。ノミネーション3個は以下の通り:
“Paco de Lucía : la búsqueda”
長編ドキュメンタリー賞:Ziggurat
Films(アンホ・ロドリゲス、ルシア・サンチェス・バレラ)
新人監督賞:クーロ・サンチェス・バレラ
編集賞:ホセ・M・G・モヤノ、ダリオ・ガルシア
データ:スペイン、スペイン語、2014年、ドキュメンタリー、95分、スペイン公開9月20日
解説:主に2010年から死去の2014年までのインタビューで構成されており、7歳でギターを手にしてから最後のディスクとなった“Canción Andaluza”まで、60年間の軌跡を辿るドキュメンタリー。出演者はパコの兄でギタリストのペペ・デ・ルシアの他、チック・コリア、ジョン・マクラフリン、ルベン・ブラデス、ピラニャ、アントニオ・セラーノなどのミュージシャンが多数スクリーンに現れる。
★プロデューサーのルシア・サンチェス・バレラとノミネートされなかったが脚本の共同執筆者カシルダ・サンチェスは監督の姉妹。3年前からの企画、急逝したから製作したというわけではないそうで、半分ほど進捗していた最中に訃報に接した。「悲しみが大きくて再開できそうにもなかったが、自分を鼓舞してフィルム編集に没頭した。そうやって僕は父を取り戻したんです」とサンチェス・バレラ監督。デビュー作がいきなりゴヤ賞にノミネーション、評価も高く、受賞も夢ではないか。
★クーロ・サンチェス・バレラFrancisco Curro Sanchez Varela:30歳、オーディオビジュアル・コミュニケーションと映画を専攻。ドキュメンタリーを撮りたいと考えているが、「次回作はミュージカルではない。そういう提案を受けたが断った。勿論、再び父の映画を撮ることはないと思う。彼はカタルシスをおこさせる」と。賢明ですね。
★日本でも多くのファンをもつパコ・デ・ルシア、「ラテンビート2015」上映なら映画ファンのみならず、フラメンコ・ギターやカンタオールの音楽ファンも喜ぶのではないか。日本はアンダルシアについでフラメンコ・ファンが多い国とか。
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