フアン・ホセ・カンパネラ*メネンデス・ペラーヨ国際大学で講演 ― 2014年08月02日 15:04
★フアン・ホセ・カンパネラが、メネンデス・ペラーヨ国際大学UIMPの招きでサンタンデール(カンタブリア自治州)に滞在、映画についての講演が目的、午後には彼の映画が連続上映されたようです。例年多くの大学が夏期限定の特別講座を一般公開する。なかでもUIMPは夏のリゾート地マグダレナ半島の先っぽに建てられたマグダレナ宮殿に本部がある。この宮殿は1908年アルフォンソ13世の夏の離宮として建造されたが1931年に閉じられていた。UIMPの沿革は、1932年に「サンタンデール夏季国際大学」として創立されたこともあって、避暑地での夏季講座は講師陣にも参加者にも人気です。
(サンタンデール、マグダレナ半島に建つUIMP本部)
★カンパネラといえば『瞳の奥の秘密』です。2010年アカデミー賞外国語映画賞をアルゼンチンにもたらした映画、日本でも劇場公開されました。2009年暮に開催された「スペイン映画祭2009」でアジアン・プレミアされました。スペイン文化省と在日スペイン大使館が主催した映画祭で、スペインはまだEU のお荷物ではなかった頃でした。個人的には「来年のゴヤ賞はコレで決まりだね」と確信した映画祭、コレとは『瞳の奥の秘密』でなく、ダニエル・モンソンの『第211号監房』のことで、主役の「マラ・マードレ」のルイス・トサルにしびれた映画祭でもありました。
★映画にテレビに舞台にと、二足どころか三足の草鞋を履いて大忙しのカンパネラ監督、アニメーション“Metegol”(2013、スペイン題“Futbolín”)が今年のゴヤ賞最優秀アニメーション賞を受賞した。とにかく新しい技術ズキ、「いの一番」ズキ、政治的な目配りも怠りなく、それでいてユーモアに富んだエンターテインメントの急所を押さえている。その代表作が『瞳の奥の秘密』でした。
(オスカー監督アルモドバルから祝福を受けるカンパネラ 2010年)
★ひどい風邪を引いていたらしく咳で中断しながらも、「見渡したところ私が一番の年寄りかな」と冗談を飛ばすことは忘れない監督。1959年ブエノスアイレス生れの55歳、まだ老人の仲間には入れてやらない。アメリカのTVドラマ・シリーズで出発、アメリカでキャリアを積んだ。そういう経験もオスカーに繋がったかもしれない。“Strangers with Candey”(2000、6話)、“Law & Order”(2006、17話)、“Dr. House”(2007~10米、5回)などが代表作。『瞳の奥の秘密』以下4作でタッグを組んだ盟友リカルド・ダリンについては、いずれUPしたい映画なのでそちらに回します。2006年に外国人に与えられるスペインの市民権を貰っている。
★舞台監督としては、アメリカのハーブ・ガードナーの作品を自身で翻案した“Parque Lezama”を演出している。ガードナー作品は日本の演劇界でも公演されてますね。ブエノスアイレスのレサマ公園で知り合った仲の良い二人の老人に暗雲が垂れ込めるシリアス・コメディ。二人にはカンパネラ映画でもお馴染みのエドゥアルド・ブランコと一時期下院議員(1993~2001)でもあったルイス・ブランドニが扮した。ブランドニはカンパネラ映画には出演していないと思う。
★カンパネラによれば、テレビの仕事が続いていたのでそちらは暫くお休みして、今後は舞台と映画に交互に取り組みたいと語っておりました。「映画の場合では1ヵ月とか2ヵ月、編集室に籠ってやる作業が一番好き」とニヤリ、「自分が気に入ってみんなも見たい映画にコントロールしていき、ただし撮影したものがもっていた要素を残して再創造していく」。ただちに大笑いする個所と静寂の個所の違いをセリフではっきりさせる。多分職人仕事が好きなんだろう。「演劇は映画のように多くの観客をカバーできない。自分のやるべき仕事は映画かな」と考えているようです。演劇の演技はそのとき限りだが、フィルムは残っていく。しかし200年経てばネガだってすべて消滅してしまう。まあ、200年先を心配しても仕方がない。
★アルゼンチンのアカデミー賞と言われる「スール賞」(Premios Sur)は、12月上旬に授賞式が行われる。2013年はルシア・プエンソの『ワコルダ』が独り勝ちしたような印象だったが、カンパネラのアニメ“Metegol”も脚色・撮影・録音・作曲の4賞受賞と奮闘した。現会長でもあるカンパネラにとって、「スール賞」の授賞式はフィエスタ、「クリスマス・イブのようなものだと理解している。会員すべてに意思表示の権利があるが、公的な声明を発表するというより気晴らしなんだよ」とコメント。
★アルゼンチン映画アカデミー
AACCA は2004年に設立された比較的新しい組織である。前身は1941年に設立されたが1955年のクーデターで崩壊した。現アカデミー会員は約290人ほど、プロデューサー、監督、脚本家、音楽家、撮影監督、等などで構成されている。スール賞、オスカー賞、ゴヤ賞、アリエル賞などの選出を行っている。
★『瞳の奥の秘密』と“Metegol”の共同執筆者エドゥアルド・サチェリは、1967年ブエノスアイレス生れの作家、脚本家。大学では歴史学を専攻し、実際に大学や高校で歴史を教えている。第1作は“Esperandolo a Tito y otros cuentos de futbol”(2000刊)というサッカーをめぐる物語のようです。ディエゴ・マラドーナに捧げられた短編(‘Me van a tener que disculpar’)が含まれているようです。大のサッカー好きとして有名、最もアルゼンチン男性でサッカー嫌いを探すのは大変だ。
(エドゥアルド・サチェリ)
★もうひとり“Metegol”で撮影監督賞を受賞したフェリックス・モンティは、フェルナンド・E・ソラナスの『タンゴ ガルデルの亡命』(1985)や『スール、その先は愛』(88)、ブラジルのブルーノ・バレットのリオで起きたアメリカ大使誘拐事件をテーマにした『クアトロ・ディアス』(97)、『瞳の奥の秘密』も撮っているベテランです。
(フィギュアに囲まれたカンパネラ監督)
★サッカー・ファンではありませんが、“Metegol”の公開を待ちわびております。
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