エミリオ・マルティネス=ラサロのコメディが大ヒット2014年03月27日 15:26

★ルイス・マリアスの新作FuegoのクランクインをUPしましたが、スペインではエミリオ・マルティネス=ラサロの新作Ocho apellidos vascos2014)が314日に320館で封切りされるや長蛇の列、第1週で観客動員数40万人を超え、興行成績も272万ユーロ、10日間統計では890万ユーロと破竹の勢いです。これを凌駕するのはバヨナの『インポッシブル』だけという快挙。こちらを追い抜くのは至難の業、なにしろ第1週目135万人、第11週目580万人、消費税増税前の計算でも売上高4050万ユーロでしたから。ハリウッド映画を含めても『アバター』が超えるだけです。

 


Fuegoと違って、同じバスコ物でもこちらはロマンチックなコメディ。長引く不況と失業に国民はウンザリ、「政治的メッセージが強いテーマに飽きてしまった」とマルティネス=ラサロ監督。そんな社会現象にぴったり合ったのかもしれない。コメディ監督と言われておりますが、“La voz de su amo”(2001)のテーマはETAを扱っており、2007年のLas 13 rosasはスペイン内戦後にフランコ政権によって銃殺された13人の若い女性の物語です。前にスペイン・イタリア映画300本をハイビジョン化して販売するニュースをUP致しましたが、これは3月発売の中に含まれています。

 

エミリオ・マルティネス=ラサロは、1945年マドリード生れ、監督・脚本家・俳優・製作者。第28回ベルリン映画祭1978Las palabras de Max(同年)が金熊賞を受賞しています。この年のベルリン映画祭はスペイン特集、本映画祭に貢献したスペイン映画3本に与えられました。長編第2作目で国際デビューという幸運を手にしました。

 


★日本では、彼の作品は多分未公開だと思いますが、日本スペイン協会創立
40周年記念「スペイン映画祭1997」で、コメディLos peores años de nuestra vida1994)が『わが生涯最悪の年』の邦題で上映された他、10年後の同50周年記念でLos 2 lados de la cama2005)が『ベッドサイド物語』として上映されました。これは大当たりをとったEl otro lado de la cama2002)の続編みたいな映画です。この作品の成功でコメディ作家として位置づけられたんだと思います。(写真はマルティネス=ラサロ監督)

 

どんなお話かというと、セビリャっ子のラファ(ダニ・ロビラ)は、生れてこのかたアンダルシアを出たことがない。しかしセビリャで出会ったバスク娘アマイア(クララ・ラゴ)にぞっこん、周囲の反対を押し切ってバスク愛国主義者の中心地に向けて出発する。ラファにはカセレス出身の中年女性メルチェ(カルメン・マチ)という知人がいた。かつてメルチェはバスク男に惚れこんで後を追いアチラで暮らしている。今は連れ合いを亡くして一人身、ラファの頼りになるだろう。漁師をしているアマイアの父親コルド(カラ・エレハルデ)は人間嫌いで、この土地のすべてが気に入らない。果たしてコルドはアンダルシアからやって来た娘のボーイフレンドを受け入れられるだろうか。

   

 

          

         (アマイア役のクララ・ラゴと父親役のカラ・エレハルデ)

    

★それぞれ独特の文化をもつアンダルシアとバスク、そのあまりにも大きな相違、いわゆるカルチャー・ショックを描いている。南スペインの視点で北スペインを眺めるとどう映るか、またその逆もあり。異なる文化を互いに理解することの困難さ、例えば「バスク祖国と自由ETA」のテロの正当さ、シエスタなんぞして働かないアンダルシア人(北が南を食べさせている)、歴然とある北と南の経済格差はスペイン国内の南北問題でもある。描き方がいささかステレオタイプ的であっても、観客は自分にも当てはまるから切ないですね。こういう誤解は何もスペインに限ったことではなく万国共通の問題でしょう。

 

ダニ・ロビラは、1980年マラガ生れ。コメディアン・俳優。グラナダ大学の身体スポーツ科学卒業、2008年デビュー、独り芝居の役者としてテレビで活躍、本作で映画デビューした。クララ・ラゴは第1回ラテンビート2004で上映されたイマノル・ウリベの『キャロルの初恋』で来日している。他にオスカル・サントス『命の相続人』、ダニエル・サンチェス・アレバロ『マルティナの住む街』、アンドレス・バイス『ヒドゥン・フェイス』、ホルヘ・トレグロッサのサスペンス『ザ・エンド』、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの『その愛を走れ』(DVD)など、結構字幕入りで紹介されている。

   

カルメン・マチも第7回ラテンビート上映の『ペーパー・バード』でエミリオ・アラゴンと来日している。ゴヤ賞授賞式の総合司会をするほどの実力者、人気TVドラマシリーズAidaのヒロインとしてスペインでは知らない人がいないくらい有名。最後がカラ・エレハルデ、フリオ・メデムの『赤いリス』、デ・ラ・イグレシア『ハイルミュタンテ!電撃XX作戦』、ウリベ『時間切れの愛』、ジャウマ・バラゲロ『ネイムレス』、イシアル・ボジャイン『雨さえも~ボリビアの熱い一日』の劇中劇でコロンブスを演じ、ゴヤ賞2011助演男優賞を受賞した。(写真下はラファ役のダニ・ロビラ)

 


★キャスト陣は申し分ありません。公開を期待したいところですが映画祭上映でもいい。そんなに面白い映画なら公開できるかと言えばそう簡単にはいかない。IMDbの言語はスペイン語だけになっていますが、バスク語も混じっているのではないかと思う。まだスペインで封切られたばかりで英題もアップされておりません。

 


★脚本を執筆したのが写真のお二人、ボルハ・コベアガ(右)とディエゴ・サン・ホセです(スペイン封切り2日前、312日マドリードにて)。コベアガは1977年サンセバスチャン生れ、監督・脚本家、2009年のPagafantasでゴヤ新人監督賞とオリジナル脚本賞にノミネートされた。この脚本の共同執筆者がサン・ホセ、二人はマラガ映画祭で銀のジャスミン賞を揃って受賞した。サン・ホセは1978年ギプスコア県イルン生れ、脚本家・俳優。