「あなたが選ぶゴヤの中のゴヤは?」アンケート2014年02月09日 17:47

★「エル・パイス」紙が過去のゴヤ賞作品賞受賞の中から「あなたが選ぶゴヤの中のゴヤ」というアンケートをおこなった(251500開始~71200終了)。前もってエル・パイスの3人の映画評論家が「我がベストワン」を公表、その理由を掲載した。

1)第17回『月曜日にひなたぼっこ』(2002フェルナンド・レオン)グレゴリオ・ベリンチョン

2)第11回『テシス 次に私が殺される』(1996アメナバル)ボルハ・エルモソ

3)第14回『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999アルモドバル)ジョルディ・コスタ

 

  アンケート結果

1『オール・アバウト・マイ・マザー』 36.97

2位『テシス 次に私が殺される』    34.98

3位『月曜日にひなたぼっこ』      28.06

  


★個人的には『テシス』でしたが、やはり総合的に考えると『マイ・マザー』だろうと思っていました。アルモドバル嫌い、ホモ嫌いには残念な結果になりましたが()。スペイン映画に果たしている彼のバツグンの貢献度(ブニュエルとかエリセとかサウラでは? まさか!)、やはり映画が大衆のものだと再認識させた興行成績、スペイン語の多様性を示したセリフ、決して自分を卑下しない女たちの存在(男から女に性転換したラ・アグラードも含む)、完璧な≪メロドラマ≫でしたね。勿論、プロットは荒唐無稽ですよ、でも問題だったでしょうか。

 

★ゴヤ賞7部門、オスカー賞、ゴールデン・グローブ賞、セザール賞(フランスのアカデミー賞)、カンヌ映画祭でも監督賞を受賞した映画でした。これに先立つ3作『キカ』(1993)『私の秘密の花』(1995)『ライブ・フレッシュ』(1997)の集大成のような印象を受けたファンも多かったのではないか。

 

★こんなストーリーで泣くもんかと思っていたのに、アントニア・サン・フアン扮するラ・アグラードの告白には泣いてしまった。このフィルム構成のなかの隠れた中心人物こそラ・アグラードでした。アルモドバルが一番訴えたかったことを言葉にした。監督によれば、これにはモデルがいるそうですが、カリスマ的で活力にあふれたアントニアの演技には脱帽です。ドラッグ中毒の新進女優ニナ役のカンデラ・ペーニャでなく彼女が助演女優賞にノミネートされていたら受賞したのに、と思ったのでした。

 

★アルモドバル映画については既に多くの方が語っているので、今のところ当ブログでは予定していません。以下は評判のイマイチだった(確かによくない)『抱擁のかけら』(邦題もよくない)の楽しみ方についてCabinaさんブログに書いたダイエット版です。(劇場公開前の2010119にコメント)

  


フィルム・ノワール風のメロドラマ+ブラック・コメディは、ハリウッド向きではない。もともとアルモドバルはプロットで観客を魅了するタイプの監督ではありません。手法は新しくても本質はメロドラマ、ブラック・コメディ作家です。巨匠ガルシア・ベルランガの優等生です。アルモドバルのファンには二つの流れがあって、『グロリアの憂鬱』(1984)または『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1988)あたりまでが好きな人と、『オール・アバウト・マイ・マザー』でオスカー監督になってからの作品を好む人に分かれる、大勢は後者です。前者のファンの中には最近の作品を全然評価しないアルモドバル・ファンも結構います。個人的には前者に属しますが両方楽しみます。

 

お薦めの鑑賞法は、プロットを追っていると少し退屈すると思うから、本作では過去の作品や先輩監督へのオマージュが殊のほか満載されているので、そこらへんを楽しんでみるのもお薦めです。ロッセリーニの『イタリア旅行』とか、ビリー・ワイルダーの『七年目の浮気』のマリリン、『ティファニーで朝食を』のオードリーなど、既にあちこちで指摘されていますけど。

 

ハリウッドを代表するメロドラマ監督ダグラス・サーク、『死刑台のエレベーター』のルイ・マル、『血を吸うカメラ』の鬼才マイケル・パウエル、ベルイマン、フェリーニ、なにがしかプロットに絡んでいて、ただのオマージュではないようで、例えば失明とか交通事故とかね。交友関係にあったランサロテ出身の芸術家セサル・マンリケは、199273歳で交通事故で亡くなった。その悲劇の場所が映画と重なる。映画の中にはマンリケの美しいオブジェが見事映像化されて繰り返し挿入されます。撮影監督にメキシコのロドリゴ・プリエトを招んだ甲斐があったということです。

 

オビエド出身の芸術家パトリシア・ウルキオラの作品も登場します。日本でも人気のモローゾ・ブランドの椅子がヒント、オンラインで購入できるので日本でもファンが多い。そちらに興味のある人にはすぐ分かりますが、本来そのシーンにあるはずのない椅子が置いてある。監督の遊び心というかイタズラ心ですね。

 

『海を飛ぶ夢』でバルデムの甥になったタマル・ノバスが、盲目になった主人公のラサリーリョ兼秘書役になるのも、『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』へのオマージュでしょう。バイセクシュアルな難しい役を演じわけたルベーン・オチャンディアーノ、権力的な父親への復讐、これこそアルモドバル映画の重要テーマです。アルモドバルの主人公たちは、巷で言われているような女性たちではなく男性なんですね。『ボルベール』のように父親はいっさいスクリーンに出てこなくてもです。監督が描きたいのは古いスペインの「負の父親像」だと思います。いささか時代遅れのプロットでもベッドシーンが泥臭くても、アルモドバル映画の楽しみ方は沢山あるということです。 

 

★いよいよガラ本番が近づいてきました。アカデミー会員1300名(年々増加の傾向、半分は俳優)は、どれに、誰に投票したのでしょうか。現地時間29日の午後9時開幕です。