『エンプティ・アワーズ』アーロン・フェルナンデス*TIFF20132013年11月07日 09:25

★今年の東京国際映画祭TIFFのスペイン語映画はコンペティション上映の本作と、アマ・エスカランテの『エリ』(ワールド・フォーカス部門)だけでした。ラテンビート共催上映の『エリ』は、2014年アカデミー・メキシコ代表作品に選ばれましたが、最終候補に残れるでしょうか。(以下の記事には1017日上映後のQ&Aの内容が含まれています。)

 


★アーロン・フェルナンデスの長編第2Las horas muertas2013The Empty Hours)が、今年の最優秀芸術貢献賞に選ばれました。最終日26日に発表になるや朗報はあっという間にメキシコに届きました(まだメキシコは25日でしたけど)。副賞5000$が多いか少ないか分かりませんが、資金難に苦しむ若い監督には励みにはなります。デビュー作Partes usadas2007)から数えると約6年かかったのも資金難が大きな原因だったそうです。カンヌ映画財団のレジデンスに3カ月滞在して脚本を執筆後、2012年サンセバスチャン映画祭SIFFの「Cine en Construcciónに参加できたり、カナナ・プロの援助で完成したということです。何はともあれフェルナンデス監督は主演のクリスティアン・フェレールと来日した甲斐がありました(モレリア国際映画祭**出席のため帰国、授賞式には欠席)。

 

(写真:舞台となった実在のモーテル)

プロット:荒れ果てたベラクルスの海岸、17歳のセバスティアンは、叔父が所有する小さな時間貸しモーテルの管理を任され、そこでミランダに出会う。恋人と会うためにモーテルを訪れるが、いつも待たされてばかりのミランダ。彼女が待つ間にふたりは知り合い、束の間の誘惑ゲームが始まる。

TIFF公式サイトより内容の良かった「公式プログラム」からの引用)

 

★ストーリーはいたってシンプル、劇的な展開を期待する観客向きではない。何が起ころうが動じない雄大な自然、これに人間の感情など対抗できない。ゆったり流れる時間、長回しのカメラワークから時が止まり映像はまるで写真のような錯覚を起こさせます。二人とも愛の終りを最初から意識している。「束の間の誘惑ゲームが始まる」かどうかは、見る人によって意見が異なるだろう。

 

   キャスト紹介

クリスティアン・フェレールKristyan Ferrer(セバスティアン)

アドリアナ・パスAdriana Paz(ミランダ)

セルヒオ・ラスゴンSergio Lasgón (マリオ、ミランダの恋人)

フェルミン・マルティネスFermin Martinez(セバスティアンの叔父)


 

(写真:『闇の列車、光の旅』のクリスティアン・フェレール)

クリスティアン・フェレールKristyan Ferrer1995年メキシコ・シティ生れ。2001年テレビの子役として出発。しかし俳優として彼の名を世間に認知させたのは、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』2009、原題Sin nombre)でしょう。撮影当時は13歳、役柄的にはもう少し下でしたか。主人公のウィリーこと“エル・カスぺル”を撃ち殺してしまう少年“エル・スマイリー”役、≪マラ・サルバトゥルチャ≫の有力メンバーになりたくて、かつての兄貴分のウィリーをアメリカ国境まで追いつめて射殺する。この成功は良くも悪くも彼について回ることになり、TIFFQ&Aでも語っていたように「俳優としての転機を求めてオーデションを受けた」という発言に繋がるようです。上映作品では17歳の役でしたが、小柄なせいか少々子供ぽかった印象、これ以上身長は期待できそうにないから今後の役選びは難しいかもしれない。他にルイス・エストラダのEl infierno2010、カルロス・キュアロンのBesos de azúcar2013)など。

 
(写真:アドリアナ・パス、後方はマリオ役のセルヒオ・ラスゴン)

アドリアナ・パスAdriana Paz1980年メキシコ・シティ生れ。16歳で舞台デビュー、メキシコ自治大学文学哲学部で劇作法と演劇を学ぶ。映画修業のため一時期スペイン、ポルトガルに滞

在、メキシコに帰国後、キューバのロス・バニョス映画学校で脚本を学んでいる。女優ではなく監督、脚本家志望だったらしい。在学中よりセミプロとして舞台に立つ。映画デビューはセサル・アリオシャのTodos los besos2007)、これはメキシコ・シティ国際現代映画祭、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭にも出品された。カルロス・キュアロンの『ルドとクルシ』(2009)にトーニャ役(ディエゴ・ルナの妻役)で出演、翌年のアリエル賞共演女優賞にノミネートされた。そのほか代表作に2010年のアリエル賞を総なめにしたカルロス・カレラのコメディEl traspatio2009)、アントニオ・セラーノのMorelos2012)、アンドレス・クラリオンドのデビュー作Hilda2012)など。役柄によって≪美しさ≫が変化する女優として定評があり、理論派、演技派の女優であることは、上映作を見ただけでも分かる。

 

   監督紹介

1972年チワワ(メキシコ北部のチワワ州都)生れ。パリ=ソルボンヌ大学で映画撮影技法学を専攻、マスター号取得後、脚本家、監督、プロデューサー、エディターとして映画、テレビ界で活躍。プロダクション「サンタ・ルシア・シネ」を設立、現在は主にブラジルとメキシコで仕事をしている。

 

(写真:アーロン・フェルナンデス監督)

   長編フィルモグラフィーと受賞歴

2007Partes usadas監督・脚本・製作。メキシコ、フランス。長編デビュー作、2007年モントリオール映画祭のラテンアメリカ映画に贈られる最高賞「グラウベル・ローシャ賞」、同年ハバナ映画祭のデビュー作に贈られる「グランド珊瑚賞」、同年グアダラハラ映画祭第1作に贈られる国民賞など受賞した。2008年のアリエル賞はノミネートに終わった。40を超える映画祭に招待され、第1作で国際舞台で評価された作品。

2013Las horas muertas『エンプティ・アワーズ』監督・脚本・製作。メキシコ、フランス、スペイン。アジアン・プレミアム。上記以外に9月下旬に開催されるロカルノ国際映画祭のベスト・ヒューチャー・フィルム賞にノミネートされた。モレリア映画祭でアドリアナ・パスが主演城優勝受賞。評価はこれからです。

 

Cine en Construcción」というのは、SIFF2002年にラテンアメリカ諸国の映画振興と若い監督の資金援助を目的に設立されました。フランスのRencontres Cinémas d’Amérique Latine de Toulouse「トゥールーズ・ラテンアメリカ映画フォーラム」(例年SIFFより少し後の9月下旬開催)とのタイアップです。これに参加できた作品は、翌年か翌々年のSIFF公式コンペティションかホライズンズ・ラティーノスに選ばれることが多い。この中にはLBFFで上映され好評だったトリスタン・バウエルの『火に照らされて』(2006、アルゼンチン)やセバスティアン・シルバの『家政婦ラケルの反乱』、フランシスコ・バルガスの『バイオリン』(2006、メキシコ)、エンリケ・フェルナンデスの『法王のトイレ』(2007、ウルグアイ)などSIFFに止まらずカンヌでの受賞作品もあります。TIFFではアマ・エスカランテの『サングレ』(2005、メキシコ)、劇場公開作品にはナタリア・スミノフの『幸せパズル』(2010、アルゼンチン)やフェデリコ・ベイロフの『にきび』(2007、チリ)、セバスティアン・レリオの『グロリア』も来年公開されます

 

**正式にはモレリア国際映画祭Festival Internacional de Cine de Morelia (FICM1018日~27日開催、モレリアはミチョアカン州の州都)。『エンプティ・アワーズ』は25日に上映、首都の隣州ということもあってスタッフ、キャスト総出でプレス会見に臨んだ。息子を出産したばかりの主役ミランダ役アドリアナ・パスはメッセージだけの参加でした。

  

 トレビア

FICMのプレス会見の模様は、TIFFQ&Aにおける監督談話とだいたい同じです。映画のアイディアは「ベラクルスのエメラルド海岸を車で走っていると、たくさんのモーテルが点在していることに気がついた。絵のように美しい詩情的な風景の場所にまるで打ち捨てられたようなモーテル、その中で繰り広げられるパッションと情欲を組み合わせたらどうなるかに興味が湧いた」ということです。「いつも遅れてくる愛人のせいで無駄な時間(horas muertasでなくtiempos muertosを使っていた)を過ごさねばならない女と17歳の若者が惹かれあう」というように膨らませていったようです。カンヌ映画財団の援助で3カ月間レジデンスに宿泊して脚本を書いたこと、少年と年上の女性とのキャスティングが重要なうえ難しかったこと、キャスティングがまずいと何事も上手く運ばないことなどもTIFFで語っていましたね。

 

TIFFでキャスティングはどうやって決めたかという質問に、監督は「セバスティアン役はオーデションで決めた。カメラテスト、スクリーンテストと長いプロセスがあった」と答えていましたが、クリスティアン・フェレールによると「ミランダ役の女優を選ぶときには何人もの女性とリハーサルを繰り返した。その中にアドリアナ・パスがいた。二人のセックスシーンでは何回も疑問をぶつけた。最終的には監督が信頼できる雰囲気をつくってくれた」と。いわゆる婚期を逸したかなり年上の女性と17歳の少年という設定ですから、監督も気を使ったことでしょう()

 

FICMにはエグゼクティブ・プロデューサーのエルサ・レジェスも出席していたせいか、「あのモーテルを見つけてきてくれたのはエルサ、何度も何度も足を運んだからモーテルの人たちとも知り合いになってしまった。撮影は2012年で4週間で撮った」ということです。このモーテルは実在しています。

 

★監督談FICM:自分は病的なほど陳腐で暴力的なメキシコを描きたいとは思わない。そういう映画でなく逆のリリシズムのほうを選んでしまった。この映画は私の視点から、私のフィルターを通してみたフィクションです。日常的な事を描く映画が好きなんです。映画の中に現実に起こっているプロセスを入れて描くのが好きなんです。映画のテーマは、退屈とは違う≪時間の経過≫です。他にはミランダによるセバスティアンの≪感情教育≫もその一つ、ロマンスをどう組み立てるかの物語です。

 

 (写真:『孤独のかけら』のワンシーン)

TIFFQ&Aでも、スクリーン・フレームの使い方や小道具の位置、音や音楽に苦心したこと、そういうことに気づいてくれた観客には気に入ってもらえたと思う、みたいな発言がありました。実際構図の切り方は独特で(写真参照)、例えばハイメ・ロサーレスの『孤独のかけら』20072008年ゴヤ作品賞・監督賞受賞他La soledad)とか、ロベール・ブレッソン映画を想起させました。壁に掛った時計、途中で壊れてしまった扇風機の向き、主人公二人の立ち位置、雨の音など、「ああ、なるほど計算しているね」という印象を受けました。ゆったりと流れる時間のなかで、表面的には何も起こらないが実は内面では変化が起こっている。観客それぞれが二人の心の動きを想像しながら楽しめる≪時間≫が用意されていました。

 

★来年の3月頃には公開できるそうで、一番観て欲しかったというメキシコの観客にも届けられます。「映画祭だけの映画」でなかったようで嬉しいニュースです。