『マジック・マジック』Q&A*第10回LBFF20132013年10月26日 09:07

1012日上映後のQ&A

出席:セバスティアン・シルバ監督、カタリーナ・サンディノさん
(司会:アルベルト・カレロ氏)

司会者よりごく簡単な監督のキャリア紹介があり、次いでカタリーナ起用の経緯から始まった。

シルバ:カタリーナとは前から知り合いだったし、読書好きのバルバラのイメージにぴったりだったのでオファーをかけた。

カタリーナ:監督から「8キロほど太ってくれ」と言われたのでちょっと躊躇したが、バルバラの孤独は理解できた。初めてのチリだったこともあり本当に孤独だった。というのも撮影が他の4人とは別行動のことが多かったからです。撮影が終わったときには実際に8キロ太ってしまって()

(管理人:現在は元のようにほっそりしていて、さすがプロと感心しました。シルバ監督のキャリアについては、『クリスタル・フェアリー』で詳述した以外のニュースはありませんでした。)

 

司会者明日上映される『クリスタル・フェアリー』もチリが舞台、どちらを先に撮り始めたのでしょうか。

シルバ:先に『マジック・マジック』を撮り始めたが、資金繰りが上手くいかなくなって中断せざるをえなかった。マイケル(・セラ)のチリ滞在中に「クリスタル」も撮りたかったので、そちらの撮影に切り替えた。

(管理人:本ブログの作品紹介では「クリスタル」が先に完成していたので、「クリスタル」→「マジック」の順に紹介しましたが反対でした。しかし作品完成は「クリスタル」→「マジック」でした。)

 

シルバ監督より「日本の皆さんはどういうところが面白かったか」と逆質問。

観客1:音楽が効果的に挿入されていたのが面白かった。特に車中でキャブ・キャロウェイの「ミニー・ザ・ムーチャ」の曲を使用したのは意図的でしょうか。

シルバ:勿論そうです。「ミニー・ザ・ムーチャ」はブードー的な雰囲気もあったので。チリでは観客がユーモアを求める、特に罪の意識をもつ観客はユーモアを求めるんです。例えばロマン・ポランスキーの映画にもそれがあるでしょ。『マジック』では、マイケルにコメディ要素を入れ、ユーモアを残してみました。

(管理人:「ミニー・ザ・ムーチャ」(1931)はキャブの代表作、「ハイデホー」の繰り返しからついた渾名がハイデホー・マン。マイケルのユーモアはキモイだけという評も散見しますが、映画のどこを見てたんでしょう。ジュノー・テンプルのオッパイやお尻に気を取られていると表層的な見方しか出来ません。ポランスキーの映画とは『ローズマリーの赤ちゃん』のこと。)

 

司会者チリ映画を5本もやるのは異例です。チリ映画界に変化が起きているということですか。

シルバ:技術の進歩で誰でも撮れるような時代になった。ここ56年のあいだにカンヌのような大きな映画祭で評価されるようになって、若い監督のモチベーションが高くなってきています。

(管理人:チリではピノチェト失脚後、言論の自由が保障されるようになり、「クール世代」と称される新しい波が生れています。今回上映される『No』のパブロ・ララインが仕掛け人の一人、『トニー・マネロ』が中止になったのはホントに残念。他にLBFF2009で『サンティアゴの光』が紹介されたアンドレス・ウッド、より若手のアリシア・シェルソン、クリスチャン・ヒメネスなども東京国際映画祭に登場、とにかく元気です。ただしシルバ作品の言語は主に英語、スペイン語、マプチェ語でチリ映画というよりアメリカ映画でしょうか)

 

司会者二人とも現在はアメリカで活躍しているが。

カタリナ:コロンビア映画の『暗殺者と呼ばれた男』にも出演しましたが、気に入ったプロジェクトがあれば国籍は問わない方針です。

シルバ:新作もアメリカで撮り始めている。チリでは競争が少ない。勿論チリでもそれなりの評価を貰っているので撮りたいと思っているが、もう一つのプロジェクトもアメリカで撮ります。

(管理人:アメリカで撮り始めている新作は、監督も出演するNasty Baby(「ナスティー・ベイビー」)のことでしょう。ギョッとするタイトルですが。もう一つのプロジェクトとは、第3Old Catsのあと、「次回作はSecond Child」とアナウンスしていた作品のことでしょうか。ブルックリンに本拠地を置いて仕事しているのは、チリよりアメリカのほうが呼吸しやすいということもあるのではないか。)

 


司会者キャスト選びはどうでしたか。

シルバ:セラとは前に知り合っていたが、ジュノー・テンプルはオーデションで。英国人なのにアメリカ英語だったので選びました、偶然です。

 

  鑑賞して感じたこと

★『マジック・マジック』のテーマの一つに、A地点(アメリカ)からB地点(チリ)へ移動するということが挙げられる。さらに本作ではC地点(嵐のような湖といわれるランコ湖の小島)に移動する。ここはチリの先住民マプチェ族の文化が支配する異境の地、欧米の物差しは通用しない。「あちら」と「こちら」を繋ぐのがモーターボート、「あちら」に渡った人間は二度と戻ってこられないかもしれない。シルバはホラーにしたかったとインタビューに答えています。

 

★ラテンアメリカの文学や映画に特徴的なテーマに「未開と文明」がある。ここではアリシアの病いや怪我を治癒できるのは、現代医学か呪術を含めた先住民に伝わる薬草かが問われる。未開とは何か、文明とは何かと言い換えてもよい。

 

方向性の欠如もテーマ、もはや大人も含めて現代病の一つですが、出口がないことなど考えてもいなかった若者が、アリシアの混乱に遭遇することで八方ふさがりになり出口を見つけなければならなくなる。アリシアの従姉妹サラが突然サンチャゴに戻るのは追試が理由ではなかった。性の解放で心と体が傷つくのは女性、心に蠢く怒りを断崖からのジャンプで清算する。サラはもう昔のサラではない。無意識状態のアリシアから性的帰り討ちをうけたブリンクも昔のブリンクに戻れない。興味本位でアリシアに催眠術をかけたサラの恋人アグスティンは、アリシアの異常とサラの変化に驚き戸惑う。漂流している若者たちが辿りつく行き先はどこか。最後まで観客を飽きさせずに引っ張っていく力量、予想を覆す結末は衝撃的で、監督の並々ならぬ才能を感じました。

 

★『No』や『トニー・マネロ』の主役を怪演したアルフレッド・カストロも「クール世代」の一人です。監督のパブロ・ラライン・マッテは、1976年首都サンチャゴ生れ。両親は共に政治家、父エルナンは独立民主連合の党首経験者、母マグダレナも閣僚経験者という政治家一家。この経歴は彼の映画に大いに影響しています。製作者の弟フアン・デ・ディオス・ララインと「Fabura」を設立、シルバ映画にも出資しています。