『エリ』”Heli”アマ・エスカランテ*第10回LBFF⑥2013年10月08日 16:08

    

           アマ・エスカランテの『エリ』“Heli”

★東京国際映画祭TIFFと共催上映になった『エリ』の紹介は難しい。「2013カンヌ映画祭最優秀監督賞受賞」や「カルロス・レイガーダスが製作参加」でホッとする。今回のLBFF作品紹介ではストーリーを割愛しておりますが、因みにご紹介すると:

LBFF作品紹介

「舞台はメキシコ・グアナフアト州にある小さな田舎町。住民の多くは貧しく、自動車組み立て工場の仕事か、麻薬密売組織の手先になるしか、生きる道がないような厳しい状況にある。そんな中、17歳の青年エリとその家族は、ある組織的な麻薬トラブルに巻き込まれていく…。麻薬密売組織と警察の癒着、貧困、暴力、経済格差といったメキシコ社会の暗部に鋭くメスを入れた衝撃の社会派サスペンス」

TIFF作品紹介
「メキシコの荒廃した地域で、17歳の青年エリは妻子と父、そして妹と淡々とした暮らしを送っていた。平凡な日々であったが、軍人生活に嫌気がさした妹の恋人が、押収品であるコカインを盗んだことで事態は急変する」

 

★カンヌ監督賞受賞の折の海外メディアの報道を総合すると、「単に社会暴力を弾劾しているだけの映画ではなく、心の琴線に触れる愛、性、青春そして希望について語られた家族の物語」、「ゆっくり流れる美しい映像と観客を不安にさせるロングショット」、「誰にもお薦めできる映画ではないが、もしソダーバーグの『トラフィック』やハネケの『愛、アムール』のような作品がお好きならお薦めです」などでした。目をそむけたい拷問シーン。警察汚職、に心を奪われていると、エスカランテの真のテーマを見落とすかもしれない。

 

 


           監督紹介

★監督、脚本家、製作者。1979年バルセロナ生れ、父はメキシコ人、母はアメリカ人、バルセロナで生れたのは偶然とか。メキシコのグアナフアトで過ごし、2001年カタルーニャ映画スタジオ・センターで学ぶため渡西、後ハバナのサン・アントニオ・デ・ロス・バーニョス映画学校でも学んだあと帰国。短編“Amarrados”2002)が翌年のベルリン国際映画祭に出品された。カルロス・レイガーダスの『バトル・イン・ヘブン』(2005)の助監督をしながら、ロッテルダム国際映画祭、サンセバスチャン国際映画祭の資金援助合計$60,000を受け、2005年長編『サングレ』でデビューする。以下作品紹介で。

 

   長編映画紹介

2005『サングレ』“Sangre” 監督・脚本・製作、メキシコ=仏、TIFFコンペティション出品。

受賞歴:ブラチスラバ国際映画祭・監督賞。カンヌ映画祭・FIPRESCI国際映画批評家連盟賞。メキシコ市国際現代映画祭・作品賞。テサロニケ映画祭・シルバー・アレキサンダー賞など。

2008『よそ者』“Los bastardos” 同上、メキシコ=仏=米、カンヌ映画祭正式出品作品、

    LBFF2009上映。

受賞歴ブラチスラバ映画祭・最優秀監督賞、学生審査員最優秀映画賞。シッチェス映画祭「新しい視点」最優秀映画賞。モレリア映画祭・最優秀映画賞。マル・デル・プラタ映画祭・最優秀ラテンアメリカ映画賞。リマ映画祭・国際審査員賞など。

2013『エリ』“Hali” 同上、メキシコ=独=仏=オランダ、2013LBFFTIFF共催にて上映。

 受賞歴:カンヌ映画祭・監督賞受賞。


   

  (写真:ベルガラ、監督、エスピティア カンヌにて)

  
  キャスト紹介

アルマンド・エスピティア(エリ)/アンドレア・ベルガラ(エステラ、エリの妹)/リンダ・ゴンサレス(サブリナ、エリの妻)/フアン・エドゥアルド・パラシオス(アルベルト、エステラのボーイフレンド)/ケニー・ジョンストン(アメリカ人指揮官)

ケニー・ジョンストン以外は初出演です。彼はエスカランテの短編Amarrados他、長編3作に出演しており、助監督や撮影も兼ねている。

 

   トレビア

★カンヌ映画祭での成功後、ミュンヘン国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリー映画祭、リオデジャネイロ国際映画祭、シカゴ映画祭などに出品されている。

★メキシコでは89日に公開された。公開に先立つ記者会見で「メキシコのイメージダウンになると思いませんか」という質問には、「いい質問だが、この国の現実だからね。イメージダウンにならないよう検閲してもらうべきでしたか」と答えています。「メキシコの若者には心が痛む。勝ち目のない戦いなのに希望を託して挑む姿を表現したかった」とも。巨人ゴリアテに小石で挑むダビデです。

★メキシコ時代にブニュエルが撮った『忘れられた人々』(1950)やハネケの影響を受けているとも。『よそ者』は確実に『ファニーゲーム』(1997)の影響があります。

2014年米国アカデミー賞外国映画部門のメキシコ代表作品に選ばれました。